幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
あの日、リュウゼツランと思い出に浸った日から一週間が過ぎ去ろうとしていた・・・・。
その間、アースは討伐任務や執務に追われ、時たまに朝にリュウゼツランとすれ違い挨拶する程度にしか会えずに日々を過ごしていた・・・・。
そんな日々のある日の週末。
散歩がてらに、ラフなワイシャツにジーパンといったいつもの軍服とは違いラフな格好で休日の騎士団屯所内をふらふらと特に目的もなく歩いていた・・・・。
「だいぶ、暖かくなってきたなぁ・・・・」
月はちょうど日本でいう所の、6月下旬に差し掛かり、春の季節を保つブロッサムヒルでも日の時間は随分と長くなり、ぽかぽかとした陽気が続いていた。
「部屋に中にいるんじゃぁ、ゴロゴロするだけだと思って、外に出たが、・・・・この陽気じゃぁ、眠気が増してくるだけだなぁ~、ふぁぁ~~・・・・」
欠伸を噛み殺しながら、徐々に歩先は自室へと戻ろうとしていた・・・・。
そんな、矢先。ちょうど訓練場の近くを通りかかると弓なりの音が耳に届く。なんとなしに足はそちらへと向かっていった。
そして、陰から訓練場に目を向けると、見知った女性が自主的な訓練を行っている最中だった・・・・・・。
「・・・・・・・・ッ、!!」
弦に矢をつっかえ、はち切れる一歩手前までギリギリと引き絞り、鏃の先を標的に見据えたと思った瞬間、すばやく解き放った。
解き放たれた矢は、ほぼ直線に近い曲線を描くと、訓練用の的へと小気味いい音を鳴らして、突き刺さった。
「・・・・ふーーっ」
それから残心をゆっくりと解きながら、力を抜いていった・・・・。
その姿を陰から見ていたアースは呆然と見とれてしまっていて声をかけるのを躊躇していたが、彼女を残心から覚めると同時に声をかけようと近づいた、その時・・・・。思いがけない事に阻まれてしまう。
「ぉ――」
「リュウゼツラン」
(え・・・・)
まるで、アースを遮るように柱の死角から出てきた男性によってアースの声はかき消されて、リュウゼツランに耳に届かなかった。
「(あ、アイツはたしか、ソドム・L・フェガロ…ッ、どうしてこんなとこに?!)」
自分のことを棚に上げたような思いに耽ながらも、彼の同行を目で追っていくと、案の定、リュウゼツランに近づいていく。
そして、訓練中だった彼女も彼の接近に気づいた様子で向き直り、いくつかの会話を重ねたあとに二人は連れ添うように歩き去っていく。その様は悔しくも美男美女の良カップルに見えて、声をかけるタイミングを完全に逃してただただ、見送るだけしかできずにいた・・・・。
「・・・・・・・・くそっ」
自分自身で、なにに対して悪態をついているかもわからず毒を吐き、アースはそのあと肩を落としながら自分の部屋へと戻っていった・・・・。
そして、翌日の昼。
物語は、着実に運命に弄ばれるように進んでいく・・・。
「なんだ、と…ッ!?」
「ど、どうしました?団長さん」
騎士団本部から届いた通達に驚きが隠せず、声を出してしまう。
急なことで補佐官として、共に執務を務めていたブルーロータスも驚き、心配そうな表情でコチラを伺っていた。
「あ、ぁあ。すまない。実は、本部からの通達で、最近害虫たちが近年より活性していることに対して危惧した案件で、どのようにするかが決まったらしいんだ」
「あ、そうなんですか。それは、どのような?」
先を促す彼女に言われ、再度書面に目を通すと彼女にも聞こえるように読み上げる。
「『近年、活性化していると思われる害虫たちの対応にあたり、今後我々フラワーナイト騎士団では、防衛という対応から討伐という対応に切り替えることとする。その為、今後、二部隊で行動し確実な討伐目的をこなしていくものとしていくことを各自の団長に認識を改めるようにすることを言及する。そして、貴殿、イリアフォス騎士団は今後、かのフェガロ騎士団と行動を共にし、任務に当っていくようにすることを、この書面をもって通達する。』とのことだ・・・・」
「ッ!!・・・・そ、そうですか」
どうやら、彼女も動揺するような内容だったらしく、目を泳がせながら力のない返答を返してきた。
「そりゃぁ、動揺するよな。唐突すぎたもんなぁ?」
「え、ぇえ。そ、そうですね・・・・」
歯切れの悪い様子で、言葉を返すブルーロータスに訝しむ。
「ん?…他になんかあったか?」
「いいえ、なんでもないですよ。…それより、これから合同で任務にあたっていくんですから、挨拶にいったほうがいいんじゃないんですか?」
「おっ、それもそうだな。思い立ったが吉日というし、さっそく行ってくるかな」
彼女に諭されたことで思い立つと、すぐさま席を立ち、執務室から出ていく。
それから、けして狭くない騎士団内部を5分ほど歩いていき、目的の団の執務室前にたどり着いた。
一息ついてから、軽く身繕いを整え、ノックしようと手をあげた途端、扉を隔てた先から微かに二人分の人の声がアースの耳に聞こえてくる。
「・・・・・・・・ッ!・・・・ッッ」
「・・・・・・・、・・・・・・・・」
「?」
いつもなら気にならない性なのに、なぜか微かに聞こえてくる声が気になって仕方がなくなってきてしまい、そっと聞き耳を立てようと、しようとした、その瞬間・・・。
「うちになにか、御用ですか?」
「うわぁっ!?」
不意打ちなような形で声をかけられた為、慌てて扉から数歩後ずさり、声をしたほうに向き直ると、訝しげな視線を送ってくるナズナの姿がそこにいた。
「ああっ、ごめんなさい。えっと、こんにちわ・・・・その、本部からの通達で、これからそちらの団と合同で組むことになった――」
不躾なことをしようとしていた、自覚からバツが悪そうに自己紹介すると、途中ですべて理解できた様子でナズナは手を合わせる。
「ああっ!存じ上げていますよ。ちょうど今、私の手元にその書類が届きまして、これからちょうど今、うちの団長様に届けるところだったんですよ。挨拶にきてくださったんですよね?」
「え、ええ・・・」
「それじゃぁ、少々ここでお待ちくださいね?今、団長様に話を通してきますから」
そう言うと、扉に手をかけて、一人分ぐらいの隙間をあける、すると・・・・。
「・・・・ん、・・・・ぁ♥」
「え、???」
アースにとって馴染みのある声が艶めかしい発音で聞こえる。咄嗟に正体を確かめようと、隙間に顔を近づけようとすると・・・・。
「それでは」
先ほどとは打って変わって、無機質な声でアースを入れまいと、すぐさま扉を締めきった。
反射的に顔を引き、扉の前で佇むと、物言わぬ扉をみていることしかできずに時間を過ごした。
それから、およそ10分もしないうちに、今度は内側からゆっくりと扉が開かれていった。
「どうぞ~」
「失礼します・・・・」
扉をあけてくる笑顔をむけてきたナズナに促され、入室する。途端に、部屋中に漂う香りに気付く。それは、まるで淫靡な香りで、鼻をつくような香りに顔をしかめそうになったが、それよりも驚愕な事実がそこには広がっていた。
「ッ!?」
「やあ、こないだぶりですね?えっと・・・・、イリアフォスさんでしたっけ?」
「ぁ、・・・・アース、君」
団長用の机に前で手を組むようにこちらを伺うフェガロと寄り添うように隣で立つリュウゼツランがみえていた。フェガロから挨拶にされたのにも関わらず、彼女が彼の隣にいる、まるで自分がいるべき場所を奪われたような錯覚に言葉がぼやけて耳に正確はいってこなかった・・・・。
「ん?・・・・どうしましたかな?」
「アース君?どうかしたの?」
「あ、ああ。すまない、えっと、その、・・・本部から通達があったようにこれから合同で任務にあたるだろうから、よろしく頼む」
かぶりを振って、冷静さを少し強引に取り戻すと、姿勢を直してから挨拶しなおす。
「ああ、そうだったのか。私、いや、よそう。これから共に戦っていくんだ、くだけた口調で構わないか?・・・・ぇっと、アース?」
「ああ、かまわないぞ。ソドム。」
フェガロはパっと明るい表情にかわると、机から離れ、アースにそう言いながら近づいてくる。そんな彼の明るい調子に感化されるように、アースもいつもの調子で受け答えるように気持ちを持ち替えた。
「それじゃぁ、彼女たちも紹介しておこう。まず、彼女がウチの団の補佐官である、ナズナだ。これから共に戦うなかでウチの団について、聴きたいことがあったら彼女に聞くといい。団のことは俺より把握しているだろうから、聞くといいぞ」
「よろしくおねがいしますね♪」
ソドムから紹介されると、恭しくスカートの両端を軽くつまむと丁寧にお辞儀されて、少し戸惑うことになった。
続けて次に、とソドムに言われて、反射的に心が跳ねるのを自分でも感じ取る。
「彼女が、うちの団で今現在、『副団長』を務めてもらっているリュウゼツランだ」
「よ、よろしく、おねがいします」
「あ、ぁあ、よろしく・・・・って、副団長だって?」
まるで、昔からの知り合いが営業先の相手だったような、気まずさに耐えかねながらも挨拶したところで、思いがけない言葉が気になってしまい、聞き返すことにするアース。
「ん?まだ入ったばかりの彼女が副団長になっているのが不思議に思ったか?」
「あ、・・・・あぁ」
まるで、アースの疑問を代弁するように返してくるソドムに頷き返すことしかできずに。つづけて、理由を彼は答える。
「なぁに簡単なことさ、うちでは新参、古参関係なく優秀な人材にはそれ相応の立場を用意するだけさ、騎士学校からも彼女はとても優秀だと聞いていたし、妥当な席だと思っているよ。かれこれ一週間以上立つが、副団長としても、花騎士としても活躍してくれてるしな」
自慢気に語るソドムを、微妙な表情で聞き入るしかできずにいた・・・・。
「と、とにかくっ!今後共よろしくね、アース君」
「ああっ、よろしく頼む!・・・・・・・ん?、肩紐が緩んでいるぞ?それに、変なところに虫さされがあるんだな?」
ちょうど、左の首筋と肩の中間あたりに小さな赤い斑点があったので、言及すると、なぜか慌てた様子で後退り肩紐をその場で結び直そうと。
「あぁっ!ご、ごめんなさい。さっき急いでむんだからかしら。・・・・よいしょ、・・・・あ、あれっ」
「(さっき、急いで?・・・・さっきまで彼女はここにいたんだよな?なのに、解けることがあるのか?)」
しかし、慌てたままで死角に近い部位の結び目はうまくいくはずもなく、失敗を繰り返していた。見るにに見かねたアースは手伝おうか、と声をかけようとした、が・・・・。
「リュウゼツラン、・・・・こい」
「ぁ、・・・・・・・・はい」
ソドムに乱雑に呼ばれると、結び目も途中のまま近づいていった、だが、その視線は迷いがあり、アースのことをチラチラと伺うようにみていた。それから、彼に近づき側に寄ると立ち止まり、解かれたままの結び目の先端を彼に預けた。
「・・・・よしっ、これでオッケーだ」
「ぁ、ありがとう、ございます」
そして、結び終わると、ぽんぽんと頭をなでまわしていた、それに恥ずかしげな顔を見せながらも受け入れているリュウゼツランを見せる。その姿はまるで、恋人同士のようで、・・・・・・・・その姿を目の前でみていたアースの胸の内には決して小さくない痛みを発生させていた。
「おっと、お客人の前だったな。まぁ、団長と副団長の他愛ないコミュニケーションさ、多めにみてくれよな、アース」
「あ、・・・あぁ」
「兎にも角にも、これからよろしく頼むぜ」
余裕を持ち合わせた表情で、握手を求めてきたので、拒むわけにもいかず受け入れて、握り返した。
「ああ、こちらこそヨロシク頼む。共にがんばろうっ」
その二人の固い握手を見つめる、二人の女性の表情は一方はにこやかで、一方は苦虫を噛み潰したような表情を押し殺していた・・・・。
次の話は陰sideの七日間です。
おもたせしました、NTRが進んでいきますw