突然閉鎖的な空間で一生を過ごせと言われ、その上ここから出たくば人を殺せとも言われ。そんな状況下で冷静でいろというのは難しいかもしれない。
でもだからといってこれはどうなんだと苗木誠は思っていた。
個室のベッドの上で隅に追いやられている自分。
自分に迫るのは同級生の女の子。
潤んだ瞳で僕を見上げ、制服のリボンを解きファスナーを下ろした胸元からピンクの下着――彼女のイメージピッタリ――が見えていた。
「苗木君……」
熱を含んだ彼女の声。
頬を紅く染めた彼女がじりじりと僕へと迫る。
「私じゃ……ダメ、ですか?」
そんなことないと否定したいが身体が強張り、上手く言葉を出せない。
手が僕の顔に添えられそしてゆっくりと彼女の顔が……唇が近づく。
――――いいのか、本当にいいのだろうか。
僕は自問自答する。平凡とはいえ自分も年頃の男だ。可愛い女の子に迫られて悪い気はしない。
しかし、軟禁生活中という特殊な環境下でこんな事をしてもいいのかと僕は悩んでいた。
だが身体は本能に忠実だ。
彼女の唇と僕の唇が重なった。
柔らかい……僕は彼女の唇の感触を確かめるように優しく下唇を甘噛みする。
いい匂い……動く度に彼女の髪が僕の鼻を撫でふわっと甘い匂いが鼻腔を擽った。
――――こんな状況に至ったのは何でだっけ?
突然訪れた甘い時間に身を委ねながらも、そんな事をふと考える。
それは夜時間を目前にして軽いうたた寝から覚めた時の事だった。
時は遡ること一時間前。
ピンポーン……
来客を告げる合図に意識が浮上していく。
ゆっくり目を開けるとようやく見慣れてきた天井が目に入る。
僕は身体を起こすと壁に掛かった時計に目を向けた。時計の針はもうすぐ10時を示そうとしている。
「もうすぐ夜時間じゃないか……いつの間にか寝ちゃってたんだな」
僕は頭を掻いてしまったなぁと思いながらベッドを下りた。
ピンポーンとまたチャイムが鳴る。そうだった、誰かが来てるんだった。
「こんな時間に誰だろう……?」
そう口に出しつつも頭はある人を想像している。
中学三年間同じ学校だった憧れのあの女の子……。
こんな不運な状況にあるんだから、超高校級の幸運だとかいう能力今発動してくれてもいいんじゃないかな、なんてちょっぴり期待しながら僕はドアを開いた。
「苗木君……」
僕が想像した人が部屋の前に立っていた事に僕は喜んだ。でもそれも束の間……彼女の様子が少しおかしい事に気づいた。
顔は青ざめていて――気のせいかちょっぴり頬が紅いような気がするけど――、肩を抱いてブルブルと震えているのだ。
「舞園さん……!? 一体どうしたの!?」
「苗木君……ちょっと怖い事があって……」
そう言って声まで震わせている彼女――超高校級のアイドル――……舞園さやかさんの様子からもその怖い事が余程恐ろしかったのだろうと想像できた。
「ここじゃ何だから……舞園さん中に」
入室を促すと舞園さんがコクリと頷いたので、僕は身体を逸らし彼女が通る為のスペースを空けてあげた。
舞園さんが僕の横を通り部屋に入った後、僕は辺りを確認してからドアを閉めた。
◆◇◆
「……そっか。それは怖かったね舞園さん……」
僕はベッドに腰掛け背中越しに舞園さんの話を聞いていた。
舞園さんが自然にベッドに座ったから僕も隣に座ろうと思ったんだけど、場所が場所――ベッドの上――だし隣に座るのも馴れ馴れしいかと思って舞園さんの後ろに座っちゃった……という状況説明を一応しておく。
「凄く怖くて……一人で過ごすには不安で仕方なくて……それでつい苗木君の所に来ちゃいました……すいません」
「そんな気にしなくていいよ! 舞園さんが僕を頼ってくれて嬉しいよ!」
舞園さんに謝られて僕は身体を捻って振り返り慌てて否定した。
「……ふふ。苗木君は優しいですね」
僕の言葉を受け舞園さんも顔だけをこちらに向けてそう言った。
ピンク色の頬をして照れ笑いを浮かべている舞園さんは流石超高校級のアイドル……すごく可愛いと思った。
「あの……苗木君……」
舞園さんが恥ずかしそうにモジモジしながら僕を呼ぶ。そんな舞園さんにどうしたんだろうと思いつつも僕は『何?』と返した。見てるこっちまでモジモジしちゃいそうだ。
「……あの時言った言葉は本当ですか?」
「あの時?」
舞園さんが言う『あの時』がすぐに思い浮かばず聞き返す。
「ほら……その……」
――――どんな事をしてでも必ず君をここから出してみせる!
「あ……」
「それに……守ってくれるとも言ってくれましたよね」
言った。確かに言った。
後者は半分カッコつけのようなものだったけど、どちらの言葉に嘘偽りも無い。無いけど改めて言われると恥ずかしくなるや。
「うん……本当だよ」
僕は舞園さんから目を逸らして答えた。顔が熱くなっていく……なんだか告白をしているような気分だ。
「苗木君……やっぱり私怖いんです。不安なんです……」
ギッとベッドが軋む。舞園さんを見るとベッドに両手を付き身体を四つん這いになってこちらを向いていた。
舞園さんは僕を見上げ言葉を続ける。
「お願いがあるんです、苗木君……」
シュルっと制服のリボンを解く舞園さん……あれ? なんだかおかしいぞ……?
そして舞園さんはとんでもない事を言い放つ。
「苗木君……抱いてください」
――――そして話は冒頭へと繋がるんだ。