大神さんが部屋を出て行く姿は確認できなかった。だって、僕の顔には誰かの素晴らしいものがあったからだ。
好きにしていいのなら僕は全てに身を委ね、僕自身を解放しようと思う。むしろ我慢も限界だ。
昇っていく何か。白濁していく意識……。
もう邪魔者はいない。
今やらなくていつやるの? ――今でしょ!
アレコレされてとうとう何かが寸前まで昇り詰めた……その時だった。
「苗木っちぃ〜……」
妙に色っぽい男の声が僕の耳に入り込んできた。
その声に昇り詰めた熱は下がり、またしても邪魔が入った事に気付く。
もしかして大神さんがドアを開け放したまま出ていってしまったのかと思い見やると、そこに立っていたのは超高校級の占い師の……
「は、がくれくん……?」
そう葉隠康比呂クンだった。何故か水晶のドクロを腕に抱き、亀甲柄のビキニパンツ一丁姿だった。
彼はこの後とんでもない事を言ってのける。
「俺の愛を……受け取って欲しいんだべぇぇぇっ!」
――――は?
唖然とする僕をよそに、乱入者は続く。あれ、さっきもこんな展開だった?
どかっと鈍い音を立て葉隠クンを蹴り飛ばし中に入ってきたのは超高校級の暴走族・大和田紋土クンと、彼とは気が合わなそうな超高校級の風紀委員・石丸清多夏クンだった。
二人まで葉隠クンのようにパンツ一丁――虎柄のボクサーパンツと白いブリーフ――だった。
そして入ってくるなり口を揃えてこう言った。
「苗木! 俺と兄弟にならねぇか!?」
「苗木君! 僕と兄弟にならないかね!?」
――――お断りします。
「フン……愚民共が何を言っているんだ。苗木にはこの俺こそが相応しい」
胸中で即答すると、威圧的な声がする。
振り向けばいつの間に入って来たのやら、超高校級の御曹司である十神白夜クンがサイドテーブルに腰掛けていた。
裸の上にジャケットを羽織り下は高級感ある光沢を放つ黒のパンツ姿で。
――――こんな御曹司見たくなかった。
「なーに言ってんだっつーのっ! 苗木はこれから俺と裸の付き合いするんだよ、なぁ? 苗木!」
そして十神クンの傍らでスポーツマン向けの機能性パンツ姿――――超高校級の野球選手の桑田玲恩クンが風呂桶を抱えて立っていた。
――――いや、別に裸の付き合いとか予定はないんだけど。
「わ、わた……ボクも仲間に入れてもらえないかなぁ……?」
そこへ最後の乱入者と思われる、弱々しくも可愛らしい声が飛び込んできた。
見ると大和田クンと石丸クンの影に隠れて、超高校級のプログラマーの彼女……不二咲千尋さんが立っていた。
キャミソールに可愛らしい小花柄のかぼちゃパンツという姿で……。
――――あれ? 今ボクって言った? ていうかなんとなくもっこりして……?
ていうか何か、これこそおかしくないか?
なんなんだこの状況。どうしてこうなった。
あれ? ていうか女性陣の皆さんは!?
いつの間にか僕を包んでいた幸福なあれこれがなくなり、女性陣の姿が消えていた。
怪しくなってきた場の雰囲気に、僕は危機感を覚える。
「苗木っち」
「苗木!」
「苗木君!」
「苗木……」
「苗木っ」
「苗木君……」
ジリジリと迫りくる影。
これはやばい……。
このままでは、間違いなく――――ヤられるッッッ!!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
僕は脱兎の如くその場から逃げ出した。
薄暗い寄宿舎の廊下を夢中で走り抜ける。
無我夢中でどこへ向かおうとしているかも考えず、ただひたすらに走った。
――――ボヨン。
「わぶっ!」
目を瞑って逃げる事を考えて走っていたら何か弾力性のあるものにぶつかってしまい、僕はその場で尻もちをついた。
イタタ……と思いながらお尻を擦り、ぶつかった物を確認しようと目を開くとそこには。
たぷんと大きなおっ……お腹を揺らして立つ巨体。
更に視線を上げると、それはハァハァと息を荒げ眼鏡を妖しく光らせた……超高校級の同人作家・山田一二三クンだった。
そういえば、と僕はある事に気付く。
さっきのあの場に現れた人数が同級生の人数と一致していない……そう一人足らなかったんだ。なぜ気付かなかったのだろう。
そしてあの場から夢中で逃げ出した僕は、あろうことか……全裸のままだ。
まずい。非常にまずい。
僕はまずいことにまずいところをさらけ出したままだ。
よく見ると山田クンはロボット風なカラーリングのパンツ――サイズが合っていないのか妙にピッチリとしている――だけを身につけた姿だった。
僕は瞬間的にこの後自分に降りかかるかもしれない出来事を察し、じりじりと後退った。
月明かり――なんて射し込んでないのにそう見えた――に照らされ、逆光で山田クンの表情がよく見えない……。
山田クンの口元が大きく歪む。
「苗木誠殿ォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」