ハイセの所有物になり、コクリアへ送られてから初めての面会である。と言ってもRc抑制剤の効いているこの空間では傷が治りにくいので視力は戻ったものの両目と首をそれぞれ包帯で覆った姿なので歪である。ちなみに声も出ないのでスケッチブックとペンは必須アイテムである。
さて、どうするか。この目の前の男―――佐々木琲世を。
特殊強化アクリル板越しに久々に見たその男は少し困ったように笑った。
「え、えーっと。久しぶり」
『お久しぶりです。と言ってもオークションの時以来ですからそこまででもありませんが……それで、今日はどういった用件で?』
「あ、あはははは……取り付く島もない……じゃ、じゃあ聴取を始めてもいいかな?」
『はい。アオギリの樹の事ですか?』
「そうなんだけど、大丈夫?仲間のことや組織の構成なんかを教えてもらうことになっちゃうんだけど……」
『構いませんよ。私の知る範囲のことでいいのであればお教えします。』
「そっか、じゃあお願いします」
*****
「今日はありがとう、おかげで大体アオギリの樹の仕組みは把握したよ」
『いいえ、私も部屋に戻っても何もすることありませんから。息抜きさせていただいてありがとうございました』
そう言って席を立つと私は頭を下げて戻ろうとした。
「あ、待って」
?
「何かほしいものとかある?多くは持ってこれないし、規制も結構あるけど……」
ああそういうことか。
私は再びスケッチブックに文字を書いて見せた。
『じゃあ高槻泉とか白秋とかの本と、スケッチブックとペンですね。次の聴取の時になくなったら困りますから。お願いしてもいいですか?』
「本とスケッチブックとペンね、分かった。じゃあ次の時に持ってくるから待ってて」
『はい。ありがとうございます』
そして今度こそ私はその場を後にした。
自分に割り当てられた部屋で考える。今のアイツと前のアイツ。全くちがうはずなんだけど……似てんだよな他人に気を遣って背負いこみそうなとことか。時々甘いと思えるほどやさしかったりとか。そういう一部が……そうか、一部か。ハイセはカネキの一部なんだ。
ひょっとしたら前みたいに自己犠牲に走らない、真っ白で明るくて、全うに負い目なく生きてた場合の、「普通」を経た場合のアイツにとっての理想形。なのかもしれないな、ハイセは。
でもそう思うと途端に切なくなった。
―――やっぱり、アイツはそういうのを望んでたのかな。
―――普通に生きて、普通の仕事に就いて、普通に誰かと一緒になって、普通の家庭を持って、普通に死んでいく。そんな理想を。
―――私、待つって。いつか絶対一緒に帰るって信じてきたけど……ほんとにそれでいいのだろうか。
―――アイツがこの環境で、人間側で満足しているなら私の望みは迷惑にしかならないだろうし。
「……」
―――アイツの幸せを第一に考えたら、私はアイツと一緒にいるべきじゃないのかもしれない。
そんな出したくなかった結論から逃げたくて、そのまま無機質な部屋の簡素なベットで目を閉じた。
ハイセは公園で会ってた人と同一人物であることはまだ把握していません。でも助けてもらった恩と感じたことのある雰囲気に惹かれています。これはある意味、「たとえアヤセちゃんがどんな姿・状態になろうとも愛している」という真実の愛ともヤンデレともとれる怖い伏線です。