「……それ、本当?」
「嘘言ってどうすんの……いるよちゃんと。この間検査してもらうついでにこの子のことも診てもらったんだ。そしたら、順調だって。……いつ生まれるのか分かんないし、自信なかったから言うかどうか迷ってたんだけどね、この間診てもらって確証が持てたから言わないとなって、思って。言うの遅くなってごめん」
ケンは私の手を握った。
「僕、凄く嬉しいよ……ありがとう、アヤセちゃん」
満面の笑みで答えてくれるケンに胸が締め付けられる。そこにあるのは純粋に受け入れてもらえたことへのうれしさと想い、だけではなく罪悪感。
「ほんと……?」
「うん。予定だと何月?」
「12月頃、かな」
「そっか……ね、アヤセちゃん」
「なに?」
「喰種の結婚式のやり方、僕に教えてくれる?」
「え、あ、でも。もうやって、もらった、し……」
「?どういうこと」
「うぅうう……もう!わかった、教える、教えるからっ!……そのかわり、後悔、すんなよ」
「しないよ」
―――私たちはお互いに噛み傷を残すの。できるだけ強く、それこそ一生消えないくらいのお互いの証を―――
ケンの首に思いっきり噛みついたあと口を離して噛み跡がしっかり残っていることを確認し、例の指輪をケンに渡した。
「姉さんが持ってるお父さんとお母さんの形見の指輪真似してみたの、ケンにあげる」
「いいの?」
「うん、元々ケンにあげようと思って用意してたのだったし、私は十分それに縋らせてもらったからもういいの。持ってて」
「……ありがとう、大切にするね」
「うん」
「それで、実は僕も渡そうと思ってたんだけど……先越されちゃった」
そう言ってケンが取り出したのは私と同じシンプルなシルバーのリングで、裏には私とケンの名前が彫られていた。
「これ……」
「えっと、准特等になって日が浅い時に指輪だけ買って、いつ渡そうか悩んでたんだけど……ここに来てから月山さんにお願いして伝手で彫ってもらったんだ」
「ありがとう……考えてること一緒ね、私たち」
「そうだね」
「……報告しないと、まずは姉さんと有馬……ケンのお父さんに」
「他の人は?」
「そのうち順に、ね」
「じゃあ最初に有馬さんかな、行けるうちに行っておかないと」
「二人で行こ、姉さんの方は後で私が行っておく」
*****
地上、ある廃墟の一室。そこに有馬貴将は匿われている。
「有馬さん、今日は報告があって来ました」
「報告?どんな……隣の彼女と関係があるのか?」
「はい、僕たち、結婚しました。今現在、彼女は子どもを妊娠しています」
「結婚、妊娠……」
「お義父さん……ケンを私にください!」
「あ、アヤセちゃん!?」
あたふたするケンに構わず頭を下げた。有馬は私のお母さんを殺した相手で、蓮示さんもいまだに納得できないようなところがある。でも、この人はハイセにとって―――ケンにとってのお父さんなのだから。通すことができるもの、通すべきものは通す。それに、この人だって好きでそうしたわけじゃない。だから、いいのだ。
「霧嶋絢世……ハイセ……いや、ケンを頼んでもいいか」
「!はい」
「俺のすべきこと、遺すものは既にケンに全て託した。もうこれで全て終わりだと思っていた。お前たちに生かされるまでは。こうして世界の行く末を見守る側になった俺だが……自分の遺そうとした存在から生かされこうも打診されるとは……生きてみるものだな」
「有馬さん……」
「ケン、全てを押し付けておきながら俺が言えたことではないかもしれないが……幸せになれ」
「はいっ」
*****
「有馬さんって結構しゃべるんだね。私の勝手なイメージだと口数が極端に少なくて無表情で不動みたいな感じだけど」
「そこまでではないと思うけど、あの人天然だし。でも今日はいつもより一段としゃべってたなあ」
「嬉しかったんじゃない?久し振りにケンに会えて」
「そうならいいな……」
そんなふうに会話しながらケンの部屋に辿り着き、名残惜しいけど手を離す。
「じゃあ私、姉さんのところに行くから……また今度ね、ケン」
「うん、またね。アヤセちゃん」
ケンと別れ、姉さんのもとへ。部屋には居なかったのでおそらく子供たちのところだろう。
探しに行ってみれば案の定子供たちと遊ぶ姉さんがいた。そこに近づくと子供たちが私に気付いた。
「あー!アヤセ姉ちゃんだー!」
「アヤセお姉さんこんにちはー!」
「こんにちは、悪いんだけどトーカお姉さん貸してくれる?」
「トーカお姉さんアヤセお姉さんが呼んでるよー!」
子供たちに引っ張られながら姉さんがやってきた。
「アヤセ」
「姉さん、ちょっと顔貸してくれる?」
「ここじゃ言いにくい話?」
「言ってもいいんだけど、ちょっと言いにくいかな」
「……そ。わかった。みんなごめんまた今度ね」
「えー」
「今度はこの前読まなかった方の本読んであげるから、ね?」
「約束だよー!」
「うん、約束。またねみんな」
「またねー」
「アヤセお姉ちゃんもまたねー!」
「またね」
「……じゃあ行くか」
「うん」
人通りの少ないところまでやってきて私は姉さんと向かい合った。
「それで、言いにくい話って?」
「うん―――私、ケンと結婚する。というかした」
「!」
「あと子ども出来た。」
「はあ?!子どもって、あいつとの!?」
「ふふ、他に誰がいるの?」
驚いて口をあんぐりと開けた姉さんにほんのちょっと笑った。
「……そっか、あんた結婚すんのか」
「うん。今はそんな状況じゃないから世間的な籍とかは入れられてないけど、喰種としての結婚はもうしたよ」
「結婚おめでとう、アヤセ。……あいつとうまくやるんだよ」
「何そんな神妙になってるの、今生の別れじゃあるまいし。名字が変わってアイツと一緒になるだけなんだから、これまでもこれからもよろしくね、姉さん」
「!……うん、そうだね」
「そうよ。まだまだこれからなんだから」
「確かに……ってちょっと待て、妊娠してる?アイツのプロポーズっていつの話だ?」
「えっと、今日、だね」
「……妊娠は?」
「……予定だと12月頃に生まれますね」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙の後に輝くような笑顔を貼り付けた姉さんがいた。
「とりあえず、今日はやめとくか。もう結構遅いしな」
「よ、よくわからないけどそうだね。帰ろうか」
帰りもずっと異様に笑顔な姉さんに恐怖しながら私は自分の部屋へと戻った。
*****
次の日。近頃の土地開発のせいで近場の「名所」には何もなくなり、食料調達が困難になってそろそろ私たちの備蓄分にも不安が漂い始めていることから恒例の会議である。集まっているのは私、姉さん、蓮示さん、月山で私はケンがくる前に足りない資料を取りに行ったので入れ違いになってしまい、私が資料を持って戻ると既にケンがいた。資料を渡すとじっと見られたのでちょっと恥ずかしくなって思わず赤くなって照れてしまう。
そのあとはすぐに話が進み、会議も一段落したところでもう一度目があった。その視線に照れて笑いながらほんの少し手を振った。あっちもそれに反応してか赤くなっていた。
―――ああ、好きだな。
そう思っているとケンが月山と蓮示さんと姉さんの方を振り返った。
「四方さん、月山さん、トーカちゃん。僕、アヤセちゃんと結婚しました」
「ちょ、っあんたそんないきなりっ~~~~!!」
満面の笑みで幸せそうにするケンに怒るに怒れなくなり結構不完全燃焼気味。すると姉さんが更に爆弾を落とした。
「だよなあ?私の妹に手ェ出しといて責任取らねえとかそんな最低野郎ここにはいないはずだもんなあ?」
姉さんのにっこりと、昨日と同じ貼り付けた笑顔とともに放たれた言葉にその場が凍り付く。
「ね、姉さん……?」
「アヤセ、悪いけどこいつ借りるから、大丈夫。責任も取らねえうちに死なせやしないし」
「え」
「ト、トーカちゃん?」
「おら、行くぞ」
「え、ええええぇえぇぇえ」
引きずられどこかに連れていかれるケンに付いて行こうとしたら蓮示さんに止められた。ごめんね、たしかに私には姉さんは止められないと思う……
*****
月山の提案により、より盛大な式を挙げることになった。姉さんやヒナミやミザ、入見さんに衣装の着付けやメイクを施してもらい、ケンとともにみんなに見送られて式を挙げた。隣にいる新郎が……ケンがカッコいい。メイクとか、髪型とか服装とかいつもと全然違うし、いつもは安心するのに今は隣にいるのが緊張する。と思いながらケンを盗み見ようと視線を向けるとケンもこっちを見てた。目が合う。
「ど、どうしたの?」
「えっと、ケンがカッコいいなって、思って……惚れ直したって言ってるの!察しろ!!」
「!ありがとう、その、アヤセちゃんも凄く綺麗だよ」
「……ありがと」
「にしてもみんなすごい盛り上がりだね」
「ね。私も蓮示さんがあそこまで出来上がってるの初めて見た」
「あ、ニシキ先輩がキレた」
「まあ、あれは擁護のしようがないというか……」
「あはは……ねえアヤセちゃん」
「なに?」
「いままでニシキ先輩がやってくれてたこと、今度は僕がするよ。リクエストとかある?」
「……じゃあハンバーグ」
「了解」
これで、よかったのかな――――――これでよかったんだ。
重ねた手、絡まる指からくる熱が嬉しくて愛しくて、同時に切なくて苦しくて。
こんなに幸せな夜が一分、一秒、一瞬でも長く続けばいいとそう願った。
書きたかったところ書けました!次回はシリアス。というか原作との大きなルート分岐になると思います。今までのオリジナル展開などはある意味フラグ的なものだったのに対し、ここら辺から加速させていけたらなと思います。