説明会そのいち、になります。
≪こちら黒ラビット。目標の建物に着いた。そっちは?≫
≪こちらヨツメ。こっちは黒磐さんが着いて他のQsと……ええと、伊東さんと鈴屋特等と一緒に待機してもらってる。≫
≪一人にしてごめんね。終わったらすぐそっちに戻るから≫
≪ううん、一人じゃないよ。サイコさんがいるから≫
≪!そっか、そうだね。サイコ、よろしく!≫
≪まっかせんしゃーい!!≫
「さて、と」
無線を一回切って指定された建物の指定された部屋の辺りの壁に着く。一回軽く叩いてみる。……なるほど、確かに硬いな。でもいつまでもここにいるわけにはいかないし、やってみるか。
「うまく滲み込めよ」
自分の赫子で作り出した結晶に自分の血液を付けて壁に突き刺した。それから数秒後、結晶が気化したのを確認し、再び壁を軽く叩くと壁は脆く崩れ去った。よかった効いて。中には少しやつれた感じの女がいた。間違いない、依子だ。姉さんと暮らしてた時に鉢合わせして以来なのでうろ覚えだがあのムツキとかいう捜査官の持ってきた写真を思い浮かべ確信する。
「黒磐依子か?」
「あ、あなたは?」
「……今は話している余裕がない。詳しいことは後ほど、ただあなたをここから解放するために来た。それだけ分かっていればいい」
「え?ひゃ!?」
「舌を咬まないように口を閉じてて」
そしてそのまま私は依子を抱き上げるとその場を去り、シャトーへと急いだ。
*****
シャトーへと戻るとその場で依子を降ろし、黒磐武臣のもとへ連れて行く。彼もまた自分の妻が囚われていた心労からか精神的に沈んでやつれていた。
「武臣くんっ」
「依子……無事でよかった!」
二人の感動の再会に思わず頬が緩むけど、今ここにいるのは私とヒナミと依子以外全員が捜査官なので気を抜くことはできない。サイコは味方になってくれるかもしれないけど、瓜江がどういうかだな……あいつまだここの班長やってるみたいだし。と、周りを見渡すと奴と例のムツキって奴と安浦って奴がいなかった。サイコに聞いてみると瓜江は行方不明の上司の資料まとめなどで忙しく今も帰って来ていない、ムツキって奴はオッガイの教習役に抜擢されてからというものの、それ以降は音沙汰無しで部屋に帰って来ているかどうかも怪しいらしい。安浦は喰種との戦闘でQsのインプラントを抉り出され、傷は完治しているものの、どういうわけか前に施術された赫包に執着しているらしく、新しく埋め込まれた赫包を拒絶して自分で抉り出そうとするので、今はここではなくCCGの隔離病棟に拘束されているのだとか。ひょっとしてあの時のケンと戦った奴なのだろうか。
にしてもあのイカれた奴がオッガイの教習役か……じゃあひょっとすると奴が私に書類を送り付けた犯人なのか。ケンに近付けないほうがいいので色々思うところがあったけど、思った以上に面倒な奴なのかもしれない。
「あの……」
「?」
私が考え込む中、話しかけて来たのは依子だった。
「あなたは、誰ですか?どうして私を助けてくれたんですか?」
「…………」
「……言っても、いいと思うよ。言い分を聞いてくれるかどうかはともかく、トーカお姉ちゃんの友達でいてくれた依子さんと依子さんの信用してる人たちになら、きっと……大丈夫だから」
ヒナミに促され私も溜め息を吐いてマスクを外した。
「!」
「私は隻眼の王が率いる「黒山羊」所属の喰種、霧嶋絢世。知っての通り、コードネームは「黒ラビット」……レートはSSS」
「私も「黒山羊」所属の喰種、笛口雛実。コードネームは「ヨツメ」もしくは「フエグチ」、です」
その場にいる面々がそれぞれの反応をする中で私は説明を続ける。
「ついこの間、私の仲間がオッガイと遭遇した時に私宛に手紙を渡してきたらしいけど……その封筒を開けてみたら中身は手紙じゃなくて黒磐依子の死刑宣告の書類だったの。おそらくオッガイと関係のある誰かが私が姉さん……霧嶋董香と縁の深い関係だって知ってて送りつけてきたんだと思う。「黒山羊」は基本的には「喰種と人間の共存」を目指す組織だから見過ごしておくわけがない、見殺しにしたりしたら姉さんが使い物にならなくなって戦力を削げると思ったんでしょうね。ちょうどオッガイたちに追い詰められているところにそれが届いたとなれば意見が分かれて内部分裂、なんてこともあり得るし。彼女が処刑されることで厳罰化された喰種法を通例化できるから、喰種と関係のある人間も沈めることができる。まさに一石三鳥みたいなものでしょう」
「なら依子の処刑はただの見せしめだと……?」
「武臣くん……」
「……話、続けてもらっていいですかぁ?」
黒磐は力強く拳を握りしめ、依子はそれを心配し寄り添う。そんななかで鈴屋が続きを促した。
「そうね、だから私はここに来たの。依子さんを救出するために。そこからはあなたたちも知っての通り、シャトーに来てサイコに協力してもらってなんとか依子さんを連れてきたってところかな」
「……ふーん、そうですか。ところで聞きたいんですけど、あなたたちのお仲間で顔を自在に変えられる人っていたりします?」
「いないよそんな奴。少なくとも私たち「黒山羊」にはいない」
「……そうですか」
「じゃあ一体局長は誰を処刑したんだ?まさか人間を整形させて?それとも本当にハイセ……?」
「彼は生きてるよ。ただ仲間の言葉を借りるわけじゃないけど「死人に口なし喰種に口なし」で公衆の面前に出てこないだけで」
「……そっか、でも、なら局長は誰と繋がってるんだ?和修家皆殺しの件と言い、オッガイたちの事と言い臭い謎が多すぎて俺もうパンクしそうだよ」
「和修が皆殺し……そうか、だから旧多がトップになったのか……ちょっと私もアテが外れたかも」
「どゆこと?」
「聞いて後悔しないなら、教える」
「そんなの今更ですしどーぞ?」
鈴屋や伊東、黒磐などの捜査官たちの視線が私に集まる。みんな逃げ出さないってことは聞く覚悟があるってことでいいんだな。
「和修家は元々喰種の一族だ。旧多とかの分家が複数あるのは人間の血が混ざった家系だからさ、本家は純粋な喰種だって聞いてる。だからそいつらの中に旧多を擁護する協力者のような存在がいるんじゃないのかと思ってたんだけど……そうか、皆殺しになったか」
「和修が、喰種の一族?」
「なんだよそれ……」
「じゃあCCGはいい隠れ蓑にされてたってこと?」
「和修の隠れ蓑っていうより、「V」と呼ばれる組織の、かな。この世界を「鳥籠」にたとえてその中の人間と喰種の均衡を保つ。そんな組織」
「それは、本当なのか」
「喰種の私から言われても納得できないと思うけど、でもその証拠に近いものなら証言できる。単純に考えて、喰種は「人肉しか食べられない」から捜査官に駆逐されているわけだろ。人の脅威になるから。でもその問題って誰かがちゃんと研究すればなんとかできなくもないんだよ。ほら、あるだろ、「クローン技術」とか、「献血」とか」
「そうか、ちゃんと食料の供給さえできていれば襲われる確率はうんと低くなる!」
「そ、でもそれを提唱した人物も、成果を上げた人物もいない。もうわかるだろ、そういうのを研究してた奴らは「V」に消されるのさ、世界の均衡を保つために」
「そんな……」
「大抵CCGにいるのは復讐心か、義務感、使命感……そういう理由で捜査官になった奴が結構いる。ていうかほとんどだったりする。喰種も一緒さ、そもそも食事を安全に取るんならクインケ持ってる捜査官じゃなくて自殺者とか殺された奴の遺体を齧ればいい。それでもあんたらに突っかかっていくのは余程自分の力に自信のある馬鹿か、親とか兄妹とか友達とか恋人とか……そういうやつの仇討がほとんどだったりする。「捜査官が喰種を殺し、喰種が捜査官を殺す」、そういう順繰りを回してるんだよ、奴らは」
「…………じゃあ、俺たちのやってきたことは、間違い……だった?」
伊東が暗い顔をして呟いた一言に私は溜息を吐くと奴のもとへ行き、額を思いっ切り弾いた。
「い゛、っ~~~~~!!」
「馬鹿じゃないの、あんた。寸でのとこで喰種から助けた人の「ありがとう」って言葉とか涙とか見たことないの?」
「!……あ」
「そ。あんたらは少なくともその分だけ人間を守ってんだよ。だから、「間違い」とか言うな」
その言葉でほんの少しだけ伊東の力が抜けたようだった。周りの空気も幾分か緩んだ。
「まさか喰種に諭される日が来るとはな……」
「まだまだですねぇ、クラモトは」
「本当に……そうですよね……俺、自分で思ってた以上に余裕なかったみたいだ……ありがとう、ええと、黒ラビット?」
「アヤセでいい。私はここに戦いに来たわけじゃないし」
「そっか、じゃあアヤセちゃん?」
「……好きに呼びなよ。それで黒磐夫婦のことだけど、どうする?はっきり言ってここにいるのは得策じゃない。私たちのところだったらここよりちょっと環境が悪いかもしれないけど安全は保証してやれる。心配なら姉さんと零番隊がいるから頼ればいいけど……」
「だがいいのか?依子はともかく俺は捜査官だ。他の喰種たちに不安を与え兼ねない」
「その辺は大丈夫。事情は説明するし、人間の協力者もいるから。それで行く?行かない?」
依子は決意を固めたようにしっかりと私たちを見た。
「行きます!」
「依子……」
「私はまだ、生きて武臣くんと一緒にいたいし、もう一度トーカちゃんに会いたいから。お願いです、私と武臣くんを匿ってください!」
「……今まで敵対しておいて虫が良すぎるかもしれないが、俺からも頼む。おそらく依子が拘束される原因になったのは俺がムツキに依子の親友を探してもらうように頼んだことからだろう。ここに居れば遅かれ早かれ依子が殺されてしまう。どうか、頼む」
二人に頭を下げられ、私とヒナミは顔を見合せ微笑んだ。
「なら決まりね、じゃあ今すぐ出発するから……ヒナ」
「うん、周りにオッガイがいるかどうか探りながら、だね」
「そ、じゃあ私たちは長居するわけにもいかないのでこれで」
「もう行っちゃうんか?……また、会える?」
心配そうに、寂しそうに言うサイコに笑顔で応えた。
「大丈夫。会えるよ」
「!うん」
そして伊東と鈴屋を見た。
「ありがとう、アヤセちゃん。喰種そのものについてはまだなんとも言えないし、色々整理し切れてないこともあるけど……おかげでちょっと心が軽くなった。そのうち、もしハイセと会う機会があれば、話してみることにするよ。だから……次会う時まで、生きててって伝えてくれる?」
「うん、伝えとく。ああそうだ、鈴屋特等」
「?なんですか」
「これ、気休め程度だけど」
試験管に入った私の血液を手渡した。
「血、ですか?」
「私の血液。私の血液はRc細胞の濃度が濃くて原液で使うと最悪死ぬけど、それを薄めれば投与することで治療に使えるらしいからあんたに。賭けの要素も高いけど、調べてもらったらRc細胞も人間の細胞も活性化する可能性が高いらしいし。まあ、あんまり怪我しなさそうだし使うか使わないかの選択はあんたに任せるよ」
「…………受け取っておきます」
鈴屋が受け取ったのを確認して私も背を向けてヒナミたちのもとに戻る
「じゃ、そういうことだから……さよなら」
そう言ってヒナミと頷き合い、黒磐夫婦を誘導しながらその場を後にした。
「大きな借り、出来ちゃいましたねえ」
「鈴屋さん……」
「……一生のうちに返し切れるでしょうか……」
依子ちゃん救出成功。伊東さんや什造とも良い意味でのフラグが立ちました!
次は帰還するだけのはずが・・・?
たぶんアヤセちゃん視点なので余裕がないかシリアスっぽくなるんじゃないかな・・・?