「あの……」
「?」
「ごめんね、トーカちゃんにお弁当とかおかずとかいっぱい食べさせて」
「!」
「喰種にとって、私たちの食べ物は毒で本当は凄く不味く感じるんだってムツキさんやCCGの人たちが言ってたから……やっぱりトーカちゃんに無理させてたんだって、思って……私、どうしてもトーカちゃんに会いたい。会って謝りたいの」
暗くなる依子の声は段々とか細くなっていく。見かねて、というか姉さんの本音を知ってほしくて私はそれに応えた。
「確かに人間の食べ物は私たちにとっては毒で体が受け付けない、無理に食べれば体が弱って満足に力を出せない。でもね、姉さんはあなたにもらったものを食べて後悔したことなんてなかった」
「それは、トーカちゃんが優しいから」
「そうね、でも姉さんは高校に行ってあなたに出会ってからのほうが、私と二人で歩き回ってた時よりずっと輝いてた、生き甲斐を見つけたみたいに。自分を見出だしたみたいにね。」
「!」
「あなたからの食べ物を食べて姉さんが思ってたのは「美味しい」ってしか感想が言えない自分の体質への怒りとそんな不甲斐ない自分でも一緒に居てくれるあなたへの感謝と申し訳なさ。あの人は元々人間に憧れてたけど、あなたと関わるようになってから特にそれが顕著になった。正直、嫉妬したよ。姉さんを変えたあなたに、自分の居場所を見つけて変わった姉さんにも。」
「アヤセちゃん……」
「あなたが姉さんに居場所をくれたの。あなたが姉さんと一緒にいてくれたから姉さんは救われたの。だから再会したら、謝るんじゃなくて笑顔で迎えてやって。その方が姉さんも喜ぶ」
「っ、うんっ、ありがとうアヤセちゃん、ありがと……っ」
本格的に涙声になっている依子をなだめつつ地下道へ着いた。
「ここを通れば後は私たちのアジトに通じてる。私が先導するから―――」
言いかけた瞬間、突如私の無線に通信が入った。念のためヒナミのをサイコに渡してきたのでおそらくサイコかQsの誰かだ。
≪つながった!ラビちゃん!!≫
「サイコ、どうしたの?」
≪シャトーでヤバイモン見つけた!面白いものじゃなくてキケンなのを!そんでウリのやつが帰って来んの!!≫
「危険?……瓜江が帰ってない?」
≪いつもは忙しくてもちゃんと帰って来るのに今日はそろそろ就寝時間なのに帰って来てない!!ウリは人に厳しいけど自分にはもっと厳しいから約束破るなんてありえん!!資料まとめるん忙しくても昨日まではちゃんと定時で帰って来とったし、きっと何かあったんや!!≫
「分かった、とりあえずシャトーに向かうから待ってて」
≪わかった!気を付けてな≫
そこで無線が切れた。
「シャトーの方で何かあったみたい。瓜江も仕事から帰ってきてないらしいからちょっと行ってくる」
「瓜江が……?」
「ま、待って。なら私も」
「駄目だよヒナ。ここは比較的安全な地下道だけど、横穴の連中が手を出さないとも限らないし、誰かが一緒に行かないとたどり着けない。それに機動力と燃費で言ったら私以上の適任はいないから、私が行く」
「でも……、わかった。でも、無理しないって約束」
「……約束する。じゃあ、行ってくる」
「気を付けてね」
二人の事をヒナミに任せてシャトーへ急いだ。
*****
シャトーに着くとシャオたちが待っていた。
「!アヤセさん、二階で才子さんが待っています!」
「ありがと!」
そうして二階に登るとある部屋の前でサイコが立っていた。
「サイコ」
「ラビちゃん、ほんとは言うかどうか、悩んどったけどそれどころじゃ、ないから……」
サイコが震えている。部屋の前に立ち竦むサイコと部屋の入口の間を縫って中に入って、入、って――――――
部屋に入ってまず目に入ったのは滅多刺しにされて更に誰かの顔を狙い撃ちするように壁や床一面にナイフで打ち付けられた写真の数々。依子と姉さんが映った写真一枚以外はほとんど同じようなもので、よくよく見るとそれは私がコクリアにいた時に取られた包帯姿のものと……盗撮だろうか、公園でハイセと一緒に笑い合っていた時のものがあった。しかし公園の写真は破かれており、おそらくハイセの映っていたであろう部分はなく私の部分のみが打ち付けられていた。
そして部屋に入る前から感じていた。夥しい血の臭い、腐った臭い、死臭。その強い臭いを辿った先には、様々な瓶の中に保存された、大量の舌。大きさや形が不揃いなことからおそらく動物喰種人間問わず入っているのだろう。
――――――なんだ、ここ。
シャトーの中で、この空間だけ異質だった。血の臭いや死臭なんて長年戦っている身としては嫌というほど嗅いだことがあるが、それでもここは異常だった。ここは、部屋でも戦場でもない。濃密な死と殺意が充満した空間だった。
「ここ、誰の部屋だ?」
「……むっちゃん。」
「六月透か」
オッガイの教習役で、あの日私とケンを襲撃してきた奴の片割れ。全身に様々な血の臭いを纏って依子のことを引き合いに出してきた捜査官。ケンに異様に執着していたイカレ女。
―――そういうことかよ。
「サイコ、ごめんね。これ見つけた時、怖かったでしょ」
「すまん、ラビちゃん。ほんとごめん、だけど、だけど居ても立っても居られなくなって……」
「とりあえず、落ち着いてお互いの情報整理するから、下行こう」
「う゛ん」
下に行きその場にいるQsメンバーと私で情報整理を行った。
まず、私たちが出て行って伊東と鈴屋もいなくなってから武臣の言葉に引っかかりを感じたサイコが今日も戻っていないムツキの部屋に行って発見したらしい。瓜江に言おうにも電話に出ず、もし私たちに何かあってはまずいと思って動転しながらも連絡してくれたらしかった。
そして私からはとある喫茶店にケンと身を隠していた時に襲撃されたこと、その時のムツキの様子がおかしく、そのうえ多種多様な濃い血の臭いをしていたこと、依子のことを引き合いに出されて脅されたことを話した。
どうやら血の臭い云々はサイコも気づいていたらしいが、問い詰めようとするとのらりくらりと躱されてしまい全く見当違いの答えしか返ってこなかったらしい。悔し気に拳を握るサイコは呟いた。
「もうこれ以上仲間とか、友達とか失くしたくない。もうあんな思い、サイコはしたくない」
「サイコ……」
「急に呼び戻してごめんな、ラビちゃん。サイコはウリを探しに行ってくる」
「……そっか、なら私も行く。今はほとんど戦えない役立たずかもしれないけど、瓜江の匂いは把握してるから探知役にならなれると思う」
「……いいの?」
「いいんだよ……私にとって、初めてできた「人間の友達」なんだ。できる限りの手助けするよ」
「!、あんがと、ラビちゃん」
そんな中、玄関のチャイムが鳴った。
「はい、どなたで―――」
『俺は永近ヒデヨシ 霧嶋アヤセに用がある。』
雲行きが怪しいように見えますが大丈夫です。作者はハッピーエンド以外書きたくない病なのでご都合主義と言われてでもハッピーエンドにします。