アジトに着くとそこにいたのはオッガイたちとムツキだった。
「あ、お待ちしてましたよぉせんせ」
「ムツキくん……」
「あんまり遅いんで退屈してたんです」
蓮示さんや月山にはナイフが刺さっており、辛そうにしている。ナイフは1、2本しか刺さっていないにも関わらずそんな状態になっているということは、ケンの時みたいに抑制剤仕込みやがったのか。
でも奥に行くことなく中腹のここにとどまっていた理由が分からない。
「私、待ってたんですよお二人のこと。どうすればより無残に壊れてくれるかなあって考えながら。それでね、思ったんです。アジトを襲撃して壊滅させてから、戻ってきて絶望しているあなたたちのどちらかを虫の息にして残った方をそいつの目の前で犯しながら殺していくって……だから待ってました。まあ余計な邪魔が入って殺せませんでしたけど・・・仲間の目の前でっていうのも中々のものでしょう?」
「ムツキくん、もう旧多は捕まった。だから君も―――」
「「戦う理由はない」ですか?ありますよ、隻眼の王を殺すまで私は止まりません、よ!」
そう言いながら私に放たれるナイフ。思いっきり私情で動いてるじゃねえか。
でもそのナイフが当たることはなかった。
「ふー、間に合いましたぁ」
私の目の前に大鎌を持った鈴屋什造がいた。奴がムツキのナイフを弾いたのだ。
「「鈴屋/くん!!」」
「……どうしてここにいるんですか?鈴屋さん」
「彼女には返しきれないくらいのおっきな借りがありまして、死んでもらっては困るんですよ……黒ラビットさん」
「な、何?」
すると鈴屋はこちらを振り返り、満面の、穏やかな笑顔を見せた。
「血、ありがとうございました。あの後すぐ薄めて篠原さんに使ったら、意識が戻ったんです。今は昏睡状態だった影響でちょっと動けないですけど、リハビリすれば大丈夫だって」
「……そっか、よかった」
篠原は私のお父さんを捕らえた奴だ。でもそいつが救われたことで救われる奴がいるのなら、いいのかもしれない。
「鈴屋さん!戦うならこの人たち連れていきますね!」
「はーい、よろしくですクラモト」
蓮示さんたちを抱える伊東に視線が集まる。
「クラモッさん……」
「はは、なつかしいなその呼び方……生き残れよハイセ!全部終わったら全部話してもらうからな」
「!うん」
「ち……どいつもこいつも!来い!!」
ムツキの指示で集まってくる大勢のオッガイたちに囲まれた。
「お母さん」
「お母さん」
「お母さん」
「お母さん」
「!オッガイ」
「目標は「お母さん」。王の急所だ、やれ!!」
ケンや鈴屋は身構え私を守るように立つ。が、オッガイたちは動かない。
「?やれって言ってるだろ!やれ」
「ヤダ」
「は?」
「お母さん殺したくない」
「うーうー、ああいいああーー!!」
「おか、おと、行かないで」
「なんでしんだの」
「しにたいしにたいしにたいしにたい」
「殺す殺す殺せ殺さないと殺して」
「!こいつらっ」
オッガイたちが自傷しはじめ周りを見ていない。情緒不安定になっている。
「もういい役立たず!!」
「!」
そう言って尾赫を展開しこちらに迫るムツキの後ろ、いや周りから
『おかあさんを ころすの?』
オッガイたちの、声と迫りくる姿があった。
「な、!!!!」
オッガイたちが全員でムツキを抑え込んだ。
「おかあさんおかあさんおかあさんおかあさん」
「おかあさん 取らないで」
「とるやつ 敵」
フレーム アウト
「ぎゃあああぁああぁぁぁぁっぁぁあああああああ!!」
全員がムツキに寄って集り人ではない姿に変わって蹂躙していく。足をもぎ腕をもぎ骨を砕かれ目を抉られ耳と鼻を削がれ舌を千切られ再生したそばからそれを繰り返される。そして全てが終わったその時、首と胴体だけになった女がそこに転がっていた。頭の部分はすべて再生しているもののどこを見ているのか分からない虚ろな目をしていて、さっきもがれた手足を再生する余力はもうないようだった。
「おかあさん」
「ほめて」
「おかあさん」
もう、人の姿をしていないオッガイたちが私を呼ぶ。こういう時、なんて言ってやればいいんだろう。
「―――うん、ありがとう。あなたたちのおかげで、助かった」
『よかった、おかあさん』
そのまま私は、オッガイたちを光で燃やした。
そこに悲鳴はなく、ただ動かずに燃えていく。
―――ありがとう、大好きおかあさん。
最後、消える間際に言われた言葉。
ケンや私たち喰種を追い詰めた天敵だった子供たち。
でも本当は普通の子供たちだったのだ。親が恋しくて、私を誤認するくらいの、そんな小さい時から両親を失って生きてきただけの、子供。
やっと、終わったというのにやるせない。切ない気持ちになってしまう。
「アヤセちゃん」
「うん……やっと、終わって、始まるね」
「うん」
「これで、やっと……」
そこで私の意識は途切れた。
*****
それから私が目を覚ましたのは三日後。姉さんに怒られ蓮示さんに無言で怒られニシキに呆れられそしてケンに泣きながら怒られた。
CCGや大環アクトの人と協力しながら事態の収束に尽力しているらしい。ちなみに嘉納はケンと丸手たちによって馬車馬のようにこき使われているのだとか。
旧多とムツキは辛うじて生き残ったものの今は医療設備の整ったコクリアのような施設に収容されている。
今回のことが私のジャックによる暴露で露見して以降CCGの離職者やマスコミ関連も増えているとのことから結構丸手たちも苦労しているらしいがケンと相談しつつなんとか回して行っているのだとか。
あと黒磐夫妻は喰種と人間の架け橋として姉さんと一緒に「共存」に向けて活動している。この三日間でそんなにあったの?
ちなみに私の方はなんともない。お腹の子も無事である。
そしてそれから約一週間後――――――
私は鈴屋に連れられてある病室を訪れていた。
「篠原さーん、来ましたよー」
「ああ、什造……!」
鈴屋と一緒に入ってきた私に驚く患者――――――篠原幸紀。
「はじめまして、霧島絢世といいます」
「霧島……」
「篠原さん、彼女が篠原さんを起こしてくれたんです」
「彼女が……」
気まずそうにしているところを見ると、きっと覚えているのだろう。……それもそうか、「アラタ」使って戦ってたもんな。
私はそんな篠原に手を差し伸べた。
「握手、しないんですか?篠原さん」
「いやしかし……」
「?」
気にしなくていいのだ。もう私は十分泣いて十分駄々をこねた。だからもういい。
私は篠原の握っている拳をもう片方の手の指でつついた。そして篠原の目線が上を向くとそれに合わせてまた手を差し伸べた。
「!」
「…………」
ゆっくりとお互いの手を握り数秒ほどで離した。お互いの存在が、手を通して伝わってきた。
―――ああ、あったかい。生きている。そう思った。
「じゃあ顔も見たし、そろそろ私行くから。また今度」
「はい、今度はハイセも一緒に来てくださいね~」
そして私は病室の扉を閉めた。
「あれー、篠原さん泣いてるです?」
「ああ、何でもないよ。什造……」
――――――あんな綺麗に笑うなんて。
「かなわないね……まったく」
むっちゃんぼろぼろにしてすみません。ただここまでしないと止まらなさそうだと思って書きました。
篠原さんとの和解はヒナミちゃんとアキラさんの和解の仕方に近いです。抱きしめるか手を繋ぐかの違い。