「臭う」
「え゛」
私がモヤシと数日ぶりに会って発した第一声に、モヤシは固まった。
「に、臭うってどこが?」
「臭うんだよ。おまえの体臭じゃなくて、胡散臭くてキザなナルシー変態野郎の臭いが」
「それって……月山さん?」
「やっぱり、あいつだったか」
あのナルシーキザ野郎の臭いがモヤシに纏わりついてる。なんでこうも面倒事を背負いこんでくるんだこのモヤシ……
「知り合いなの?」
「知り合い以下だな。関わり合いになりたくねーやつ筆頭……最近、アイツの噂聞かなくなってたのにまたかよ……」
「?」
「まあ、おまえのことだし私が口出すようなことでもないか。深入りしなきゃ害もないか……?」
「アヤセちゃん?」
「何でもない」
なんかこう、嫌なんだよな……不吉っていうか。このベッタリついた臭い……こいつ、ひょっとして月山に気に入られてたりしないよな?
「おまえ、あいつに何かされたか?」
「え?いや特には何も……匂い嗅がれたり、大学に来られたりはしたけど……」
「実害はない、か……」
「?」
よくわかっていなさそうなモヤシにややイラつくが、まあそれはいつものことなのでとりあえずいい。いやでも、一応忠告くらいしてやった方がいいだろうか。
「おいモヤシ、顔見知りのよしみで忠告しておいてやる。あいつ……月山には深入りすんなよ。痛い目見たくなきゃな。ほとんど訳アリの喰種のなかでもダントツで厄介な部類のやつだから。挙句、家が金持ちで財政界やいろんな業界にパイプを持ってるから、無駄に顔も広い。下手したら最悪、死ぬより面倒なことにもなりかねない……まあ、実害はないみたいだし、私の杞憂かもしれないけど」
「そ、そうなんだ……」
顔をやや蒼白にしながらも、半信半疑っぽい反応をするモヤシ。やっぱあんまり危険性が伝わってないように見える。
にしても、本当にこいつ今までどうやって生きてきたんだ?温室育ちかと思えば、そういう雰囲気とかもしないし、俗世的なとこもある。かといって、私ら喰種の当たり前みたいなことのほとんどが通じない。体臭も変わった匂いしてるから結構目立つと思うんだけど……私より年上なのにそんな噂は一度も聞いたことがない。どういうことだ?もしかして嘉納みたいなイカレた奴が絡んでたりするのだろうか?益々分からなくなっていく。こいつ……こいつは、一体何者なんだ?
こっちはリゼとイカレた医者探すのに手一杯で、余計な思考してる余裕はないっていうのに。こいつの意味不明な正体の考察してたら、頭が痛くなってきた。
もう今日は帰るか。言いたいこと言ったし。
「伝えたいこと伝えたから、もう私帰るな。それじゃ」
「あ、うん。またね」
「またね」、か。あの組織にいる以上、その「また」があるのかどうかなんて、わからないんだけどな。それでもなんとなく、手を振り返してその場を後にした。
ほんのちょっとだけアヤセちゃんとの距離が縮まった・・・かな?