モヤシがここに来てそろそろ一週間になりそうな頃。ここに連れてきた時からずっと思っていたことをモヤシに直接聞いてみた。
「おまえ、ここから逃げないの?」
「え」
呆けた顔になっているモヤシにムカついて、モヤシの耳を引っ張った。
「だから、逃げたくないのかって聞いてんだよ!」
「いててて……な、なんで?」
「なんでっておまえ、万丈たちとよく一緒にいるだろうが。あいつら全員、アオギリに反感抱いてる奴らだからな。そのうえ、おまえは私たちに拉致されて来たんだし……で、帰りたいか?」
「そりゃあ確かに、帰りたいけど……」
言葉を濁すモヤシ。この様子から察するに、もう既に万丈たちに引き込まれてんのか?……なら話は早い。
私はクローゼットからアオギリの赤い服を出し、モヤシに向かって放り投げた。
「これは?」
「アオギリの奴らならだれでも持ってる制服みたいなの。私は別の奴から借りるから、出てく時はそいつ着てけ。私の匂いが付いてるから、ある程度は誤魔化せるはずだ」
「ええ!?でもこれ着てったら君まで疑われるんじゃ……」
「そんときはあんたたちの誰かに盗まれたことにでもしとくさ。私があんたらにしてやれるのはこのくらいだし」
「ありがとう、でもなんで?」
聞くのかよ、よりによって一番言いたくないことを。こういう時に限って、こいつはいつもみたいに怯まねえし……まあ、何も言わずに納得しろってほうがおかしいか。
「似合わないからだよ、あんたら。アオギリにいたって、きっとボロ雑巾みたいにこき使われて捨てられるだけだ。そういうとこだからな、ここは。それに……誰よりバカなくせに思想は一丁前で世界一の寂しがりが、あんたの帰りを待ってる。だからもう帰れ。」
「アヤセちゃんは?」
「あ?」
「アヤセちゃんは帰らないの?」
「私はいいんだよ。アイツと違って一人でも生活していけるから……わかったらもう出てけ……二度とここに戻って来んじゃねえぞ。クソモヤシ」
「……」
今度はなんか言いたげな顔だ。あーくそ、めんどくさい奴だな本当に。ウジウジウジウジって。……こうなったら話逸らすか。
「そういやおまえ、名前は?」
「金木研」
「ふーん、まあ餞別代わりに覚えといてやるよ」
「……」
「なんだよ、さっきから。言いたいこと有るんならはっきり言え」
「また、会える?」
「は?」
「ここを抜けた後も、また君とこうして会える?」
なんだこいつ。さっきから不安そうな顔してると思ったら、そんなことかよ。
「……お互いが死ななければそのうち会えんだろ。ただでさえ、今まで呪われてるみたいに鉢合わせして来たんだし。ほら!わかったならとっとと出てけっつの!!」
「う、うん!ありがとう……またね、アヤセちゃん」
途端に少し笑顔になってそのまま去っていくモヤシ、もといカネキ。
……嬉しそうにしやがって。
「なんなんだよ、クソが」
私はそれに背を向けて振り返ることはなかった。
自分でカネキたちの脱出計画に協力しておきながらアオギリから離れるカネキくんを複雑な心境で見ているアヤセちゃん。ここから出ていけ→でも本当はカネキくんとの時間が癒しでほんの少しでもいいから一緒にいたい。みたいな矛盾が同居しているアヤセちゃんだったりします。本人に自覚ないけど、しっかりカップリング成立してます。