※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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死神と塔 Ⅷ

 私立月光館学園。

 

 それは桐条が出資し、生み出したポートアイランドの上に立つ桐条が経営している学園の名称だ。小中高一貫校である月光館学園にS.E.E.Sの面々である湊達は通っている。寮が存在する巌戸台から駅でモノレールに乗って向かう形になる。S.E.E.Sの連中は毎日こんな贅沢をしているのか、とモノレールの窓の外の光景を眺めながら見ていた。そこからはポートアイランドが、港区が非常に良く見えていた。モノレールのガラスの向こう側で、流れゆく海の上の景色を眺めていた。

 

「そういやぁ、まともにこの景色を眺めるのは初めてだったな」

 

 月光館学園の学生用制服に袖を通した状態で、そんな事を呟いた。巌戸台駅からポートアイランド駅まではモノレールが走っており、それでポートアイランド全体を見たりする事が出来る。実はこれ、ポロニアンモールへと向かうのであれば橋を渡ればいいので、乗る必要がない。何よりも日中、暇な時間が多く、急ぐ理由もないので歩いて移動しているのが基本だ。桐条を通したバイクの購入も行ったが、これは崩壊世界へと戻ってからの移動手段だ。

 

 まぁ、そんな訳でモノレールにはあまり乗っていない。というかほぼ乗っていない。こうやってモノレールの上からポートアイランドをゆっくり眺めるのは初めてだ。それも学生に混じって、制服なんかで。基本的にタルタロスへと向かう時に乗って、戦闘前の予習と復習で大体時間を潰している。

 

 そんな事を考えずに窓の外から、ポートアイランドを眺めるのは割と初めてかもしれない。呆然と、景色を眺めていると、そこに反射して、後ろに立つ人修羅の姿が見えた。振り返りながら扉に寄り掛かれば、そこに月光館学園の女子制服に身を包んだアンの姿が見えた。普段はあのオープンスカートとスパッツ丸出しな恰好のアンだが、着替える事は普通に可能らしい。というか風呂場で脱いでたし。単純に服装は体の一部ではあるが、テクスチャーの一種らしくもある。

 

 概念として構成される悪魔は、その気になればある程度は姿を変えられる。完全にMagで構築された悪魔ではない為、不自由はあるが、アンの場合は服装ぐらいはある程度自由らしい。そういう訳で、此方が順平の予備の制服を借りる中、デザインをコピーして自分用の服を一着、アンは用意していた。

 

 月光館学園の制服のデザインは基本的に黒をベースとしている。男はブレザーにジッパーが付いており、かなりファッショナブルだと言える。正直、ここまでファッショナブルな制服も珍しい物だろうと思う。基本的にどの学校も制服って同じような物な中、ここまで個性的なのも珍しい。ぶっちゃけ、俺もこんなかっこいい制服は欲しかった。学生時代に。

 

「サマナー」

 

「ん? あぁ、そうだな。ちょっとした学生気分だよ。前は電車通学だったし、割と思い出すもんもあるさ」

 

 頭を掻きつつ、アンを見て苦笑する。ラッシュアワーは少し外れ、学生たちは既に学園の方へと進んでいる。今はたぶん、ホームルーム中だろうか。見た目がアレなので、遅刻している様にさえ見えるが、無論、恰好だけである。即ちコスプレ。

 

 そこには特に深い訳はなく、順平のバカみたいな一言が始まりになる。

 

『センセーってアレ、学生時代が中途半端に終わったんすよね? だったら一日だけ月光でぶらぶらしてみません? ほら、悪い想い出を良い想い出で上書きする的なアレで! 広いし見る所たくさんあるし、退屈しないと思いますよ。ほら、先輩って権力者がこっちにはいますし』

 

 素っ頓狂な事を言った順平だったが、興が乗る部分があったのか、美鶴は二つ返事で許可を出してしまい、こうなるに至ってしまった。順平の何を馬鹿言ってるんだこいつ、とその発言を思わなくもないが、アレはアレで一種の才能かもしれない。空気の読めなさというか、行動力というか。たぶん、湊に欠けている人間らしさをあの青年は持ち合わせている気がする。

 

 まぁ、それはともかく、特に断る理由も見つからなかったため、半ば押しきられるような形で月光館学園の制服を渡され、こうやって着替えてモノレールに乗っている。いや、正直制服姿のアンを見れるのは眼福だが、学生のバイタリティとは侮れないものだな、と戦慄している。とはいえ、

 

 少しだけ、自分が楽しみにしているのも事実だった。

 

 そこは素直に順平に感謝したいし……そのバイタリティを見習いたい。なんというか、デビルサマナーになって以来自分の行動が無難、安全確認、確殺をメインに行動している気がする。いやそれが悪い訳ではないのだ。デビルサマナーとして命を懸けるのであれば、寧ろこれで良い。だけどこの安全志向が原因か、こういう学生のフリをして忍び込む、何て事をまるで考えつかなくなった。ぶっ壊して、殺して、奪ってどうにかする。だまして、穢して、欲しいものは手段を択ばずに手に入れる。

 

 そういうカオス思想に若干染まっていた気がする。いやある意味仕方がない。そういう時代で、そういう場所だったからだ。寧ろメシアンは尊敬さえできる。あの絶望の中でモラルを保っているのだから。いや、ガイアもセックスという手段で現実逃避する事でモラルを維持している。どちらも凄い事だ。

 

 中途半端なのは俺だけ。どちらにも振り抜けないのに、やっている事は蝙蝠で、そして今も一人だけ安全地帯で楽しんでいる。この間にも崩壊世界は少しずつ、少しずつ消滅へと進んでいるのに、だ。

 

「サマナー……は……悪くない……よ」

 

「時代と場所が悪いって言いたいんだろ? 解ってるさ、それぐらい。そうしなきゃ生きていけないってのは。そうする事でしか生きていけないのは。それでも……やっぱ辛いもんさ」

 

 思い出すのは。いっそ、思い出さえも消滅してくれれば楽だったのに。そう思わなくもない。だけどそれは、過去の出来事に対して不誠実だ。自分は一人、もう逃げられる場所にはいないのだ。

 

「サマナー。暗いの……めっ」

 

 指先を突きつけられ、怒られてしまった。その姿に苦笑を零すと、モノレール内を車掌のアナウンスが響く。どうやら、終点であるポートアイランド駅へと到着しつつあるらしい。背の側の扉が開く事から背中を退けつつアンの頬を指先で軽く突いた。無表情の頬がぷにぷにと形を変えるのを眺めつつ、どれだけ彼女の存在に心を救われているのかを感謝する。

 

 そしてやはり、この子が好きなんだと、そう認識する。

 

 だからこそ彼女に手を出す事は出来ないと思った。彼女の大食は慢性的なMag不足から来ている。魔人という強力な種族、人修羅という存在。それをまかなう為に必要とするMagが、シャドウ相手からでは足りなさすぎるのだ。崩壊世界に居た頃はまだレベルが低かった、だからこそどうにかなった。だけど此方に来て、レベルは15のラインを超えて、日常的なタルタロス探索で更にレベルは上がっている。今ではアンが18レベル、自分が17レベルになっている。

 

 もう、業界で見習いを卒業して、自分ひとりで事務所を構えて良いレベルになる。地方の都市で、専任サマナーとして契約しても良いレベルだ。そしてそこまでくると悪魔のコストや維持にも気を使い始める。

 

 まだ崩壊前であれば、生体Mag協会等というマグネタイトの販売組織があったらしい。それを使えば今の様な悩みも解消されただろう。だが生憎と解消されない。あるもので生きて行けなければいけない。俺の様な男で彼女を穢したくはない。何より食費さえ覚悟すれば、彼女の場合は何とかなる。

 

「ん? 到着したか……じゃ、見学させて貰おうか」

 

「ん。学校……初めて」

 

「そうか」

 

 呟きを返しながらまぁ、楽しむか、と笑い声を零しながら開くモノレールの扉を出る。

 

 

♦

 

 

 月光館学園は小中高が一貫した、いわゆるマンモス校になる。桐条が作っただけあって非常に整っており、個性的な教師を揃えており、それでいて最新鋭の設備を導入している。これがタルタロスと同じ位置にある、という事を考えると何やら、邪推したくなる事実が浮き彫りになってくるが、そんな事情には欠片も興味ない。実は桐条が黒幕だとか言われてもえぇ、ふーん、そーなのか、で済ませる自信がある。

 

 何度も言うが、自分はこの物語の外様。5月中には崩壊世界に帰るのだ。そうすればここに来ることもないだろう。だから事情とかを考えるだけ無駄になる。考える必要もない。そこらへんはきっと、湊が良い感じに決めてくれるだろう。アレは別格の気配がするし、自然とそうなると思う。

 

 物語の主人公が一体誰なのか。会えば解ると支配人は言っていたが、まさにその通りだ。これは間違えようがない。まぁ、そんな事で月光館学園とか、桐条とか、シャドウの関係とか、そういう事を詮索するつもりは一切ない。そんな事よりも制服を着て、既に授業が始まってであろう時間にこのマンモス校の敷地内を歩き回るという背徳的な行いが楽しかった。

 

 気分は悪さをしている学生気分だった。

 

 少しだけ、若返った気分だった。

 

 しかし、バカみたいに広い。そりゃあ小中高と全て合体させているから仕方がないかもしれないが、タルタロスの探索の時だけでは気付けない、恐ろしいほどの設備の充実がここには見れる。何せ、基本的にメジャーなサッカーやバスケを始めとしたスポーツに剣道があれば、マイナーと呼べるようなスポーツや文芸の部活動があり、それの為の設備や施設まで置いてあるのだ。

 

 充実……というには少々、行き過ぎた設備だった。それでいて月光館学園の入学金はとんでもない額! ……という訳でもないのだ。ぶっちゃけ、良心的な部類らしい。少なくとも順平の様にそこまで賢くない学生が入学できるレベルの学園だし、その上でエスカレーター式で学年を上がって行く為、小学校から高校の卒業までずっとお世話になる事が出来るらしい。

 

 まぁ、十中八九ここまで充実しているのは学生を集める為、そしてその中からペルソナ適性者を探し出す為なのだろうと思っている。寧ろ、タルタロスのある場所に学園が立っていて、影時間になった巨大な塔にトランスフォームするのに桐条が何も関わっていなかったら寧ろ謝る。まぁ、金になる組織なのでどうぞどうぞ、という感じでもある。その契約も終わりが見えてきているが。

 

 既に授業が始まっているのか、学園の外側は静かだった。どこを見ても学生の姿がないが、校舎に踏み込めば勉強をしている学生たちの姿が見える。《ハニー・ビー》にも大量の学生の姿がマップに確認出来、サボっている様な不良の姿は確認できない。結構、真面目な所だなぁ、と思いながら歩く。

 

「新鮮」

 

「……そうか」

 

 一緒に歩くアンはどこか、楽しそうに校舎内を歩いている。学生服姿で校舎内を歩く彼女は確かにその状況を楽しんでいた。まるで学生になったような気分なのだろう。そして俺も、その気持ちが解る。別に授業に参加している訳でもないが、こうやって一緒に制服を着て、校内を歩き回っているだけでも十分だった。

 

 ……記念にこの制服、貰えないだろうか。一応桐条製であるらしく、防刃防弾式の制服らしいのは、タルタロス探索でも使える様に、と配慮されているものだからだ。これ、概念加工さえ施せば斬撃と射撃耐性が付けられそうだと思う。少なくともスティーブンならそこら辺の作業が出来るだろうし、戻った時にお願いしたい。まぁ、美鶴に頼めば二つ返事で貰えるだろうなぁ、とは思う。

 

 ふと、少しだけ気になった。

 

「アン」

 

「ん?」

 

「お前……俺と逢う前はどうしてたんだ?」

 

 学園のどこか、おそらくは中庭に出る。綺麗に整えられた中庭に設置されているベンチを見つけ、そこに腰を下ろす。気が付けばそんな事をアンに尋ねていた。ぶっちゃけ、気になってはいたが、怖くて聞けなかった事の一つでもあった。ベンチに座った状態で聞けば、アンが中庭の中央でくるり、とターンしながら此方へと振り返った。ふわりと広がるスカートの様子に少しだけ目を奪われつつも、

 

「知らない」

 

 と、ストレートな言葉がアンから返って来た。だがその言葉に首を傾げる。

 

「知らない?」

 

「うん」

 

 頷きを返してくるアンはんと、と声を零しながら此方へと近づき、ストン、と横に座った。そして横に座ったアンはんー、と声を零した。

 

「気づいたら……ルイ……いた。私に……大事な……モノを、くれる、って……言った。私は……なにも、知らない。なにも、覚えていない。断る理由も……ない……で、サマナーと……逢った」

 

「お前、記憶喪失だったのか」

 

「記憶喪失? んー……ちょっと、違う……? 始まった? 生まれた?」

 

 アンは首を傾げながら考える様な表情を浮かべていると、しかしこてん、と此方へと腕を組んだまま、倒れ込んできた。それを肩で受け止めつつ、うーん、と唸るアンを支えた。なんというか、

 

「記憶がない?」

 

「うん」

 

『造魔に近いのかもしれないね』

 

 造魔、という言葉に少しだけ目を瞑り、思い出そうとする。そう言えばどっかで聞いた気がする。確か人造的に生み出された、ホムンクルスの様な存在……だったはずだ。ガイアーズの一人があの崩壊世界で造魔を連れていたのをそうやって、思い出す。確かMagを消費しなくて済む便利な人間に近い悪魔だと言っていたような。

 

 そう言えばアンも肉体を持っている。そういう意味では造魔に近いのだろうか? とはいえ、確かにアンの正体は気になる。しかし、記憶がないとは実に予想外だった。なんというか、

 

 この為だけに用意したというか、そういう感じがある。それはともかく、先ほどまで此方の為か、黙っていたマツヤとチェフェイに声をかける。

 

「あるのか? 記憶の無い悪魔って」

 

『ありえなくはないのぉ』

 

『まぁ、僕や駄狐は元々魔界にある大本から来ている分霊的な扱いだからね。駄狐の方はそこらへん、やや曖昧だけど。だけどほら、僕らは元となる存在があるから、保有する知識とかはそこらへんから来ているしね。だけど造魔はそこらへん、ベースとなる悪魔が存在しないのが基本だ。だから知識や記憶、経験の引継ぎが存在しない』

 

 成程、そういえば悪魔は魔界に本体がある、という話だった。

 

『ちなみに造魔はドリー・カドモンをベースに作成されるからね……人修羅も同じような手順で作成されたのかもしれないね。人を核に―――』

 

「そこまででいい」

 

 流石にその先を聞くのは気分が悪い、とマツヤの言葉を止める。それを察してマツヤは言葉を止めてくれる。イケメンだし、頼りになるし、そしておそらくこの中で一(・)番(・)正(・)し(・)い(・)悪魔はマツヤだ。何よりも神話で名が語られる、その本来の霊格ともなれば、実際に正しさや正義、そして救世を象徴していてもおかしくはない。だがこのイケメン魚類は根本的に神話の存在。

 

 正しいし、頼りになるが、苛烈なのだ。根本的に抑えるという事をしない。己の行動に迷いを持たない。躊躇しない。そういう特性を持っている。確かにイケメンだが、それは絶対的な正しさから発生するものだ。自(・)分(・)が(・)正(・)し(・)い(・)と信じ貫く事から来ている自信と結果だ。そして判断基準が人間のそれではない。

 

 だからどっかでツッコミを入れないと、割とそのまま心を抉る言葉を時々、叩き込んでくる。というか容赦がない。ある意味チェフェイ以上に。

 

 まぁ、マツヤがC-Lな時点で察するべき。なおチェフェイのアライメントは当たり前の様にC-Dである。

 

「……大丈夫だよ、サマナー」

 

 アンの出自に対してコメントに困っていると、そんな声をアンが零していた。

 

「私は、今、幸せ……だから。なにを……しても、楽しい……よ」

 

「それぐらい知ってるよ、毎日楽しそうにしてるのを見てるんだから」

 

「ん」

 

 そう言うとアンは寄り掛かったまま、言葉を止めた。気分は学生のまま、デートしている気分で、少しだけ、懐かしさを覚える。無論、こんな良い思いをしたことなんてなかったし、本当に、普通に遊んで勉強するだけの学生生活だった。それでも、どこか懐かしさを、そして胸に郷愁を感じていた。

 

 もうすぐ一か月になる。この世界に来てから。アプリを確認し、《ワールド・レコーダー》を確認すれば、その進捗状況も95%へと到達している。そうすれば、あの腐った、崩壊した世界へと俺は帰還する。希望も未来も、明日さえもちゃんと存在するのか解っていない世界なのに。

 

 なのに……なぜか、今、狂おしい程の郷愁を感じていた。

 

 あのどうしようもなく救いのない世界。滅びを待っている、辛い事しかない世界なのに、こうやってアンと一緒にベンチに座り、学生服姿で座って、思い出しているだけなのに―――妙に、帰りたくなっていた。

 

 結局のところ、俺はあの世界を自分の居場所と決めているのだろう。だからこそこうやって、郷愁を感じているのだろうか。それとも……あそこで死ぬのが、俺という男には相応しいという考えなのだろうか。どちらにしろ、不思議と、俺は帰りたい気持ちになっていた。

 

 あの何もない、廃墟だらけの世界に。

 

 俺の居場所なんて存在しない世界に。きっと、支配人にも、スティーブンにも、便利に利用されているだけだと解っている……あの世界に。スティーブンも、支配人も、どちらも最終的には自分の思惑で動いているのだろうと思う。それでも協力しているのは、そうせざるを得ないから。だけどそれが終わったらどうなるのだろうか?

 

 やはり、俺は消されるのだろうか……?

 

 答えは出ない。だけど、ただ、

 

 こうやって、学生の真似事をしてみて悪くはない、と思えた。順平が言い出した時は狂ったか、とは思った。だけど結果として、色々と考え、楽しめている自分がいる。そう、なんだかんだでこれが終わって帰る事を楽しみにしているのだ、自分は。間違いなく崩壊し、未来も存在していない筈なのに……その世界への帰りを心待ちにしているのだ。こっちのが全部あって、そして生きようとすれば楽に生きられるはずなのに。

 

 度し難い。実に度し難い。

 

「でもサマナー……笑ってる」

 

「なんでだろうな……うん。まぁ、お前がいてくれるなら、それでいいんだろうな、俺は」

 

「んー?」

 

「……いや、なんでもないさ」

 

 流石に、好きだなんてはっきりと口にするだけの勇気はない。せめて、何時かは……アンよりもレベルが上になったら、そういう事を言える様になりたい。だけど今は勇気が足りない。こういう風に、近く居られる距離を壊したくはなかった。我ながら、人や悪魔を殺す事に躊躇しないくせに何ともみみっちぃ話だった。世界を再生しようとする男とはまるで思えない。

 

 そんな自分を変えたい。

 

 だけど人生、そう簡単ではない。どうすれば変われるのだろうか。今でも割とキャラを作って他人に喋っている。能力はないが、仮面(ペルソナ)を被っているのだ。だが結局はそれも作ったキャラクターだ。本当に自分が変われている訳ではない。根っこの部分は一切変わっていないのだから。

 

「あ」

 

 と、座っている間にベルが鳴り響く。どうやら最初の休み時間にはいったらしい。はぁ、と溜息を吐きながら空を見上げる。肩の上にはこてん、とアンの頭を乗せたまま。果たして彼女はいったいどれだけ俺が彼女に救われているのかを理解しているのだろうか。いや、理解していないからこそこんなに無防備なのだろう。

 

「お、センセーじゃん! おーい! センセー!」

 

「あ、じゅんぺー! 馬鹿! 本当に馬鹿!!」

 

 聞き覚えのある声に視線を向ければ、中庭に通じる扉から順平が手を振り、走り寄っている。それをゆかりが呆れた表情で叱り、その後ろから出て来た湊がはぁ、と溜息を吐き、此方の姿を見て、もう一度溜息を吐いた。

 

「お、センセー、もしかしてデートっすか! いやぁ、それにしても制服にあってるっすね! やっぱ似合うと思ったんすよねー。いや、イケメンってのは大体何を着ても似合うけど」

 

「じゅんぺー……逆に遠慮もなくそこまで言えると尊敬するわ……」

 

「さようなら順平。死は恐れる物じゃないよ……」

 

「アレ? なんか二人とも俺から距離取ってない……? なんか距離遠くない……?」

 

 どうぞどうぞ、とゆかりと湊が示すので、迷うことなくベレッタに電磁スタン弾を装填し、順平の背中に打ち込む。対人訓練用の、STUNするがダメージ自体はほぼない、そういう弾丸だ。それが突き刺さった順平が奇声を上げながら痺れてその場に倒れる。良し、と撃破を確認しつつ、横からディアの声を聞いた。

 

 それはそれとして、

 

「なにやってんだお前ら」

 

 ゆかりと湊を見ると、

 

「いや、月光広いから案内必要かな、って」

 

「お前……俺に怯えてる子を良く連れてこれるなー……」

 

 その言葉に湊が首を傾げ、ゆかりが気まずそうに視線を反らす。おぉ、もう……そう思いながらも苦笑が漏れる。アレだ、おそらく発端は順平だろうが、湊が考えた親切という物だろう。全く、仕方がない。

 

 俺も頼りになるお兄さん傭兵の仮面(ペルソナ)を最後まで被り続けよう。

 

 うっし、と声を出し、順平の足を掴む。

 

「案内は頼んだ」

 

「任せて。僕も日は浅いけど、コミュを求めて結構回ったから」

 

「あの、じゅんぺーが」

 

「コミュ?」

 

「他者との繋がりの証みたいなもの。君との間にもあるよ」

 

「へー。もしかしてお前、意外と社交的な方なのかもしれない」

 

「あの、顔を引きずって―――いや、じゅんぺーだしいいや。あ、学食が結構美味しいんですけど見てみます? 購買部もありますけど」

 

「学食……!」

 

「お、腹ペコ娘もやる気出したな」

 

 Mag関係なく普通に食べるのが好きになってんじゃないかこいつ? そんな事を考えながら順平を引きずりつつ、校舎の中へと案内の為に連れて行かれる。その前に一度だけ、空を見上げ、思い出す。

 

 そういえば、もうすぐ満月の夜だっけ―――。




 もうすぐそこまで満月は来ていた。次回、満月襲撃。

 とはいえプリーステスって10レベルなだけだし、安定した戦いになりそう。最後の戦いでもあるが。終わったら再び崩壊世界ですなー。

 ひとしゅらちゃんの正体が不明だけど可愛いからもうなんでもいいです。
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