真っすぐ正面に向かって明彦が踏み込んだ。両腕を前に出し、上半身を守る様にガードを固めつつ姿勢を低く、攻撃しづらいように踏み込む。対人経験から来る慣れは踏み込みとガードの動きを完全に融合させつつ、淀みのない動きで速度を乗せた。戦う事、そのものに慣れていない人間からすればおそらく視界から消えたと錯覚するだろう。だがそうではない。一瞬視線の下を掻い潜る事で消えたように錯覚させているだけだ。横からそれを見れば良く解る。
それに対する相対者が選んだ選択肢は実にシンプルだった。技巧の欠片もない。判断の余地もない。それを考慮する隙間さえもない。ただ前に出てくる姿に対して飛び込んで、蹴りを叩き込む。それだけだった。
なぜなら、人修羅・アンは悪魔だからだ。
「ぐっ―――」
アンの放ったストレートな蹴りを明彦は正面から歯を食いしばりながら受け止め、耐えた。受け流す事は彼のスタイルではない。力を力で制する中でも技巧を見せる、ボクサーとしてのストロングスタイル。それはアンのスタイルに似ている。天性の肉体を最大限にまで活用する、本能的な怪物の動きに。とはいえ、明彦もまた、鍛えられたボクサー。単純な一撃であれば受けて止める、という基本的な対応手段でダメージを軽減する。そのまま足をガードの上から押す様にアンへと接近しようとする。
片足の状態のバランスを崩してそのまま拳を振るおうという動き、
なんてことはない、ガードされた腕に重心を乗せて体を引っ張り上げただけの動きだ。理論を口にすれば頭がおかしいと表現するが、そういう理屈や技術は一切介在していない。
それを明彦は素早くダッキングとスウェイを組み合わせて回避する。既に慣れたもので、この程度でなら驚く事もなく、悪魔特有の超身体能力に対しても即座に対応した。ダッキングとスウェイは回避と同時に、自分に乗ったアンを落とす為の行動であり、素早い動きは蹴りを放たれるよりも早く、動き出していた。故にアンの蹴りは空振り、そしてそれを抜けた明彦が蹴り終わり、無防備になったアンの横へと素早くステップで接近した。
小さく構えられた拳は素早く入る様にアンへと目がけて放たれ―――アンの体が空中で回った。まるで空を蹴ったかのような理不尽な動きに拳を回避しながら回転し、そのまま上から足が落ちてくる。だが来るのが解っていた明彦が横へと体をズラし、それを回避し、着地しながら放たれる回転蹴りをダッキングで回避する。
そのまま、踏み込みながら連続で放たれる連脚を明彦は汗をかきながらも、冷静にダッキングとスウェイを駆使し、連続で回避し続ける。
「良くやるな、明彦も」
寮の裏庭のスペースで、明彦とアンが戦っている。無論、昼間はペルソナ使いのスペックを発揮する事が出来ない為、仲魔に頼んでスク・カジャを二回程、明彦にかけている状態だ。これで漸く対応できる、というレベルまで身体能力を発揮できる。ペルソナ能力がなくても、素の能力が高いのと、ある程度上昇した身体能力が残っているのが原因だ。
それはともかく、基本的に明彦のタルタロスに対するモチベーションは戦闘を行い、強くなる事にある。その為、最近はタルタロスに進展がなく、シャドウも格下ばかり、そして探索しているのも湊達三人組。そこそこフラストレーションが4月頃から溜まっていたらしい。
その対策に始まったのがアンとのタイマンだった。元々ボクシング部ではエースで敵なしの明彦であり、殴る相手にシャドウを見出して楽しんでいた。つまり、平均的な人間よりも遥かに強いのだ、こいつは。そうなってくると明彦の相手が出来る存在は限られてくる。
そこでアンが相手になった。最近は戦闘はゆかり・順平・湊の三人にレベル上げと経験の蓄積の為に任せていて出番がないため、食事の取りすぎにも感じるし、太らない為に適度な運動として明彦の相手をする許可を出したのだ。
そういう事で見られるようになったのが裏庭でのアンと明彦の蹴り、殴り合いだった。明彦も明彦、単純に殴り合うだけではどうしようもない化け物身体能力を持っている相手に拳を交えるのは良い経験になる為、楽しむ様にボクシングで挑んでいる。うーん、このベルセルクめ。そう思いながらもアンの運動にもなるので何も言えない。とはいえ、
「今夜はタルタロスなんだ、あんまし派手にやって怪我するなよ」
「解って! いる! さ!」
そう言って回避に汗を流す明彦は楽しそうだった。ペルソナ能力が使えない時間帯にそうやって楽しむ理由が自分には良く解らなかった。ペルソナ能力が使えて、その力を楽しむのならまだ解る。だけど、流石にそれもなしに体を動かす事の楽しさは解らない。まぁ、そういう性分なのだろう、と思っていると扉が開き、美鶴が出て来た。
「あぁ、やはりここにいたかサマナー。少しいいだろうか?」
「ん? あぁ、問題ない。なんだ」
腕を組みながらアンと明彦を眺めているだけだったので、割と暇をしていた。なので普通に美鶴の言葉に答え、其方と顔を合わせる。近づいてくる美鶴は腕を組んだ状態で此方の前で止まった。
「いや、話があってな……契約の更新に関してだ」
「あー……」
「貴方のおかげで此方は安全に、そして迅速にタルタロスの調査が進められている。今まで怪我らしい怪我がないのも貴方の様にシャドウに戦い慣れている人間がいるおかげだ。出来る事ならこのまま契約を更新してくれるか、或いはこのまま桐条専属のサマナーとして所属してくれると非常に嬉しいのだが」
そこに美鶴は無論、と言葉を付け加える。
「他に何か条件があるのであれば、聞き入れよう。父……桐条の総帥も貴方の活躍と働きは耳にしている。是非ともこれからも力を貸してほしいと言っている。何か要求するものがあるのなら、大体なんでも揃える準備も出来ている」
「偉く買ってくれるなぁ」
「その戦力にはそれだけの価値があると私達は見ている。実際、影時間に関係なく力を発揮できるその能力は私達からすれば恐れる物であり、同時に頼もしい力でもあるのだ。それが我々の味方となってくれるのなら非常に頼もしい。そして同時に、階層を隔てれば徐々に強くなって行くタルタロスのシャドウを見れば解る。我々には一人でも多くの強い仲間が必要だ」
だからこれからも助けてくれないか、と美鶴が契約更新の交渉を行ってくる。ぶっちゃけ、その条件は悪くない。寧ろ最高に良いと言ってもいいだろう。何せ、言い値で買うと向こうは条件を提示しているのだから。高校すら卒業出来ていない馬鹿な俺にとっては、これ以上もない条件だろう。というか就職できるチャンスだ。これで俺がこの世界出身であれば、一も二も無く飛びついていただろう。
故に俺が返せたのは苦笑だった。それで美鶴は交渉の失敗を悟ったのだろう。
「やはり、駄目だったみたいだな。どうやら貴方が本当に欲しいのは、桐条では提供できないもの……みたいだな」
「まぁな。ここに居る1か月ってのは元々制限みたいなもんさ。俺としてもこの快適な生活を手放すのは惜しいけど―――」
帰らなくてはならないのだ、あの崩壊した世界に。誰でもない、俺自身がそう決めている。アレを見て見ぬふりして逃げる事は……俺には出来ない。果たさなくてはならないのだ、世界の再生を。誰でもない、俺自身がそうしなくてはならない。そして俺にしか出来ない。世界を再生し、そして明日を取り戻さなくちゃならないのだ。だからここで立ち止まっていることは出来ない。
俺は帰らなきゃならない。
「あぁ、本当に惜しいわ。学生の面倒を見て昼間から酒飲んでいるだけでお金がもらえるのになぁ……」
「流石にそこにはそろそろ物申したかったが……まぁ、貴方も貴方で何かを背負っている様だ。だとしたら事情も知らぬ私では口は挟めない。だけど桐条はそれに手を貸す準備は出来ている、とだけは覚えていて欲しい」
「ただし、俺の労働を対価に」
「無償労働は嫌いだろう? 君も」
そらな、と苦笑する。まぁ、悪い関係じゃなかった。桐条との契約は。寧ろ良かった。こんな良い労働条件で働けるのもあと数日か……と、思うと中々に寂しいものがある。とはいえ、既に覚悟している事だ。少しずつだが給金を使って、保存の利くものをストレージに格納し、日持ちしなさそうな物は寮の冷蔵庫に叩き込んである。まぁ、全体的にかなりの量になっている。とはいえ、ストレージ内部は物質を電子化して保存している為、そこまで問題はない……腐ったりするかどうかはスティーブンに聞いてないから冷蔵庫に入れているのだが。
一応、崩壊世界に帰るだけの準備は完了しているのだ。弾薬、銃、物資、あの崩壊世界では貴重になりそうな砂糖とか、植物の種とか。そういうものも色々と積み込んだ。土地は一応あるのだから、食料を自給自足で供給する為の準備だ。畑なんて建物壊してそこを耕せばいいのだし。まぁ、崩壊世界に野菜が育つ、という概念が残っていればの話だが。
「ま、後数日だ。そこまではきっちり面倒を見るさ。お嬢の後輩も少しずつだけどレベルが追いついて来たみたいだしな」
「あぁ。これなら明彦と一緒にタルタロスを探索できる時も近いだろう……とはいえ、先に進めない事が気がかりだが……いや、それは今夜また調査すればいいか。それでは頼んだ、サマナー」
「あいよ。お給料分はきっちり働くさ」
その言葉に美鶴が溜息を吐き出すが、そこには少し、楽しそうな色が混じっていた。この一か月は色々と融通して貰って本当にお世話になったな、と思いながら頭を抱え、そして明彦とアンへと視線を向けた。どうやらやっと決着がついたようで、アンに蹴り飛ばされた明彦が3メートルぐらい高く吹っ飛び、そして落下しながら受け身を取って即座に立ち上がった。
「アイツ、地味にペルソナ関係なく人間からはみ出し始めている気がするが」
「……やはりそう思うか?」
スク・カジャがあるとはいえ、なんで悪魔を相手に肉弾戦が出来てるんだろうアイツ……。そんなことを考えつつ、昼間の時間は過ぎ去って行く。
そして昼が終われば月が色を変える夜―――否、影となる。影時間。それは存在しない、境目の時間。明日と昨日の間に存在する刹那であり、存在しないが存在するという矛盾を孕んだ時間帯。その時間は存在しない時間であるが故に、存在しないものが存在出来るという特性を保有していた。故にこそ、シャドウはこの時間帯にのみ出歩く事が出来ていた。
そんな影時間の夜空を寮の前から眺めていた。
綺麗な満月が浮かんでいる。そういえば、あの時マジシャンと戦ったのもこんな満月の夜だっけ、と思い出す。満月は不思議なもので、悪魔を活性化させる力がある。満月の夜ともなれば平時であれば悪魔が狂う程に暴れ出すものだ……と、言われていた。すぐ横で月光を浴びながら立ち尽くすアンを見た。
「どうした? お前も満月には感じるものがあるのか?」
「んー……調子……ちょっと良い?」
『まぁ、悪魔だからね。満月の魔力は僕らを元気づけるさ』
『妾、満月はちょっと発情気味じゃぞ。何時にも無くテンション高めじゃの』
ほー、と呟いていると、《エネミーソナー》に反応がある。それを《ハニー・ビー》と連携させて発動させ、周辺地図を確認する。巌戸台周辺が表示されるマップには巌戸台駅の方に集中する、シャドウの気配を表示させていた。ここ一か月、あのマジシャンの一件以外でシャドウがタルタロスの外にいるという事はなかった。
あのマジシャンの出現時は満月。今夜もまた憎々しい程の満月。満月は悪魔的に強い意味を持つ存在だ……となるとやはり、満月になるとタルタロスの外にもシャドウが出てくるのだろうか?
「サマナー!」
「ん? あぁ、シャドウの反応だったらこっちでも捉えている。巌戸台駅周辺……いや、場所的にはポートアイランド駅へと向かう海上モノレールの上って感じだな」
「やはりそうか……」
寮の扉を開けて美鶴、そして残りのS.E.E.Sが出てくる。制服姿に腕章を装備している状態で出てきたところで、美鶴が機材の乗ったバイクを引っ張ってくる。それで全員が寮から出た所で、
「サマナー、貴方の経験からして、どう思う?」
「十中八九大物だろうな。普段相手にしている雑魚よりも強い反応がソナーにあったし。アレだ、満月ってのは悪魔を強くしたり、活性化させる魔力ってもんがあるからな」
「シャドウと同じ様な存在である悪魔がそうならシャドウもそうである、とか……いや、タルタロスの調査が行き詰っている今、逃がす手もないだろう。我々は今夜、モノレールのシャドウの確認と排除へと向かう……いいな?」
他のS.E.E.Sに合わせて頷いて返答を返す。元々雇われている身分なのだから、仕事に関しては文句を言わない。行動が決まればサクサクと行動に移す。
影時間の中であれば、ペルソナを召喚できる学生たちは普段よりも遥かに高い身体能力を発揮できる為、普段以上の早さで現場へと向かう事が出来る。湊とかは非常に器用なもので、跳躍したらペルソナを召喚し、ペルソナに掴まって更に投げ飛ばされる様に大跳躍を決める。
それを真似て順平が自分のペルソナに衝突する姿は結構笑える。
そんな風に向かうのは巌戸台駅であり、普通であれば切符を購入しなくてはならない所、全ての人が象徴化しているので、そんな事に頭を悩ませる必要もなく、改札機を抜けて、そのままプラットホームに降りる。だがそこにはシャドウの姿も、モノレールの姿もない。
視線をプラットホームからポートアイランド側へと向ければ、レールの上で停止しているモノレール車両の姿が見える。《エネミーソナー》はシャドウの気配をその内側から訴えており、中ではシャドウが待ち構えているのを告げている。
ここでいったん足を止め、自分の持っているDDSスマートフォンを美鶴のバイク機材と連結させ、桐条の機械と連動させて、遠隔アナライズを発動させる。アプリと機材の力を、そして美鶴のペルソナ能力を使って車両の外側からシャドウの能力をアナライズしよう、という試みである。実際、若干精度が落ちるしラグもあるが、機材と美鶴のペルソナで解析は行えているのだ。
そこにオーパーツの塊であるスティーブン製のDDSを繋げて《アナライズ》を行えば、間違いなく成果は出ると踏んでいる。今までのタルタロスは敵のデータをコンプしていた為に必要はなかったが、侵入前に敵の情報を調べるのは重要な事である為、解析を行う。そしてそれが成功する事で額の汗をぬぐう。
「シャドウ反応感知……データ解析完了。相手は……見たことのあるシャドウばかりだな。だがその中にひときわ大きな未確認シャドウの気配がある。マジシャン程ではないがな。女教皇のアルカナを確認。対象をプリーステスを命名する。レベルは10、氷反射に光と闇を無効化する」
あと、と美鶴が此方を向きながら言葉を出す。
「どうやら神経耐性なる物を取得しているらしい」
「神経ハメ対策とは卑怯な」
答えながら手元にガトリングガンを電送する。それを片手で持ち上げながら、
「ならば電磁スタン弾を秒間数百ぶち込んでやるわ。一生痺れてろ」
「んー、このいつも通りまともに戦う気皆無のセンセー」
ガトリングをストレージの中に戻しつつ、まぁ、
「まともに戦おうとするする奴が馬鹿なんだよ。弱点と耐性が解るのならそれを遠慮なく狙ってボコればいい。特にお前らはプロでもなんでもないんだし、勇者でも英雄でもヒーローでもない。勝てればいいんだ、勝てれば。蛮勇よりも生きて明日、美味い飯を食える方が遥かにいろんな意味で美味しい」
「まぁ、サマナーの言葉は極論だがなるべくダメージを受けずにシャドウを倒すという考えとしては正しい。とはいえ、今回の予想される戦闘に明彦とサマナーには外れて貰おう」
「えっ」
明彦がこの世の終わりの様な表情を浮かべていた。ははーん、実はかなり大型シャドウとの戦闘を楽しみにしていたな? というのが一瞬で解る顔に浮かんだ絶望の表情。それを見て美鶴が少しだけ引いている。
「いや……相手はレベル10だぞ? お前やサマナーがいれば一瞬で終わるのは確かだ。だけどそれでは他の三人が成長しない。それにサマナーが我々と一緒に戦えるのもおそらく今夜が最後だ。となると、なるべく戦闘経験を積ませたい」
「いや……うん! 俺だって解っているぞ! 後輩の育成が大事だという事は! うむ!」
「真田先輩……」
「駅に来るまで半分スキップしてたのに……」
「あれはスキップではない。ただのロードワークだ」
中々お茶目な男である。湊が溜息を吐きながらどうでもいいとか言っているが、お前、レールの上から殴り落とされても知らねぇぞ、と言っている間に話が進む。
「作戦は簡単だ。伊織、岳羽、有里の三人を攻略チームとしてモノレールに乗り込ませ、その後に真田・サマナーチームを突入させる。攻略は三人に任せるとして、明彦とサマナーにはなるべく手出しをせず、三人が本当に困った時、或いは殲滅する時だけ手を出して貰うようにして欲しい。私はここからナビゲートを行う」
「タルタロスでやっている事とあまり変わりがないか」
「解った……聞こえたな? 困ったら頼っていいからな? 寧ろ今困ってないか? 代わるぞ?」
「先輩、どんだけ戦いたいんですか……」
「それじゃ、行こう」
召喚機を片手に湊がそう言って、迷う事無く線路に飛び降りた。それを追うように線路から飛び降り、明彦やアンがついてくる。
「なんか……こうやって線路に降りると悪い事をしているみたいでちょっと興奮しね?」
「変な事を言わないでよ! ……気持ちは解るけどさ」
順平とゆかりの声を背後に聞きつつ、線路を歩いて行く。駅を出て海上の線路を歩けば、海風が軽く髪を揺らす。支えの薄い線路の上は歩くにはあまり適した場所ではなく、落ちたら痛い事になりそうだと思わせる……レベル16もあるこの肉体ではおそらく、即死なんて出来ないだろうが。というか普通に耐えるだろう。
飛行できる騎乗悪魔、欲しいなぁ、とは思わなくもない。
いや、別にチェフェイを四つん這いにさせて走らせてもいいんだが。
『妾の人権は?』
悪魔にそんなものはない。
そんなクッソくだらない事を考えている間に、モノレールにまで到達する。最後部の扉が既に開いており、中に入る事が出来る様になっている。そこに湊、順平、ゆかり、と乗り込んで行く。
そして三人が乗り込んだところで、モノレールの扉が閉まった。それと同時に動き出すモノレールに対して、素早く、迷う事無く動いた。
「ポリデュークス!」
「アン!」
素早くペルソナを召喚し、ポリデュークスでモノレール後部のガラスを割って砕き、その中へと明彦と俺をアンが投げ入れた。若干服がガラスに引っかかったりもするが、それでも体のどこかが切れるという事はなく、モノレール後部から内部へと侵入する事に成功する。
アンを置いて。もう既にモノレールは速度を乗せて動き出していた。追いつこうと思えば追いつけるだろうが、この状況で美鶴が襲われても困る。素早くハンドサインで美鶴の所へと戻る様に指示を出せば、アンがコクリ、と頷いて駅の方へと戻って行く。その代わりにチェフェイを召喚する。仲魔を置いても即座に補充できる。これがサマナーの強みだ。
「いきなり最大戦力を失っちまったな」
「誘い込まれたか? まぁ、どちらにしろ俺とお前が揃っているなら多少の罠を張られたとしても問題はないだろう」
射撃援護用に少し取り回しづらいが射程のあるライフルを取り出し、そこに電磁スタン弾を装填する。その間に明彦がモノレールの扉に全力の蹴りを叩き込み、ぶち抜いた。その向こう側から跳びかかって来たシャドウ、偽りの聖典にチェフェイが爪で真っ二つに引き裂くように応戦した。
『明彦! 修理するのは桐条になるんだから少しは手心を加えてくれ! 攻略チーム! シャドウの反応4、影から来ているぞ! 援護チームは素早く攻略チームの後方安全を確保しつつ前進してくれ! 先頭車両からシャドウ反応増大! 援軍を生み出しているぞ! 攻略チームは全てのシャドウを相手せずに、プリーステスの討伐を優先しろ!』
「俺が撃って怯ませて」
「俺とチェフェイで殴り倒せばいいな。シンプルで悪くない」
「妾の活躍に刮目せよ!」
『できればいいね』
「なんか妾に恨みでもある?」
ダーク悪魔とライト悪魔の違いじゃないですかねぇ、と思いながら素早くライフルを連射する。桐条製の耐久力を上げたライフルは少しずつ損耗しながらも手ごたえを腕に返し、弾丸を連続で吐き出しながら前方、4体のシャドウに電磁スタン弾を叩き込み、前、順平に叩き込んだものとはまるで違う電撃を流し込んでその体を痺れさせる。神経弾が残っていればもっと楽なんだけどな、と結果、痺れたのが2体だけなのに舌打ちする。
「十分だ……ポリデュークス!」
痺れているシャドウをポリデュークスがその右腕で串刺しにし、そのまま狭い車内を鈍器代わりにシャドウを殴り飛ばし、巻き込みながら一気に殲滅する。先頭を行くシャドウが動きを止めれば、それだけ後続が詰まる。狭い車内だからこそ出来る戦い方だ。
「スク・カジャ、ラク・カジャ完了じゃのう。レベル差を考えてほぼダメージは通らんじゃろう」
「良しこのまま後輩達に良い所を奪われる前に進むぞ!」
「努力の方向性を直せよお前」
行き先を邪魔する様にシャドウが椅子などの影から湧いて出てくる。一つ一つは雑魚ではあるが、数がとにかく多い。まるで先に進むのを邪魔するかのような姿に、軽く苛立ちを覚える。どれだけ雑魚であろうが、倒すのには精神力と弾薬を消耗する。
「スダマヴィクトリーしてやろうか」
『殺害犯俺。被害者俺』
「サマナー! 妾まだ死にたくない! 既に何度か死んでるけどまたは嫌じゃ!」
うるせぇ、肉盾になれとチェフェイを敵の中へと蹴り込んだ。幼女が異形の群れの中に放り込まれるという放送事故必至の光景の中、明彦は一切気にする事無くポリデュークスでシャドウを薙ぎ払っていた。その合間にスタン弾を撃ち込んで動きを拘束しながら、車両を一つ、一つ進んで行く。
『急げ! モノレールが更に加速したぞ! 攻略チームは雑魚どもを無視するんだ! プリーステスだけを集中攻撃しろ! 明彦、サマナー! どうにかしてモノレールを止められないか!?』
「無茶を言ってくれるな美鶴……俺に物理的にモノレールを止めろというのか!」
「頭大丈夫か明彦」
「アレじゃろ、尽きぬシャドウを相手にしてテンション上がってるんじゃろうな。いとあわれ」
現状、お前の扱いの方が憐れなんだけど……とは口にしない。ともあれ、頼まれたのであればやってやろう。音声入力でDDSを即座に反応させる。
「イケメン! Magをくれてやるからしばらく支えろ!」
「その言葉を待っていたよ、サマナー! この僕の光で君の道を照らそう! マハグライッ!」
人の姿に変性したマツヤが一瞬で広範囲に重力魔法を放った。それによって車両内のシャドウが一気に押し潰される様に上から圧され、潰されて行く。レベルはもう5以上の開きが出来ているが、それでも人型変性した時の消費Magは重い。だが同時に、これなら戦線と掃討を任せられる。それを見届けずに、ライフルの底でモノレールの窓ガラスを叩き割って、そのまま窓から外へと体を縁を掴みながら一気に上へと投げ上げる。
速度の乗ったモノレールの強風を体で受け止めるも、人外とも表現できる身体能力に達している今、この程度で吹き飛ぶようなことはなく、ライフルを電送し、代わりにルーチェ&オンブラを抜いた。炎と氷のバランサー、笑うテーブルの姿が見えた。どちらもモノレールを止めようとする此方を止めに来たのだろうが、根本的に能力に差があり過ぎる。
「アディオス!」
前へと向かってダイブする様に転がりながら連射する。素早く吐き出された弾丸が2体のシャドウを蜂の巣にしながらその脇を抜けて、転がる様に立ち上がりながら次の車両へと乗り移った。その行動を阻止する様に、シャドウが天井をすり抜けて出現し始めるが、強風に動きが止められて、全く動けていない。
というか炎と氷のバランサーに関しては勝手にワンモア! と言いたくなりそうな状態になっている。
『……炎と氷のバランサーは疾風属性が弱点だからな……なんだ、その……強風で自滅、しているんじゃないか?』
「存在が悲しすぎるシャドウだったな」
動けない所を蹴り飛ばして、他のシャドウに衝突させたらL&Oの剛弾で諸共貫通して破壊しながら、再び次の車両へと飛び移って行く。ふと、前方へと視線を向ければ段々とだが見えてくるポートアイランド駅が目に飛び込んでくる。到着まであと3分弱、という所だろうか。結構やばい状況だな、と判断しながらも、足は一気に前へと向かって進んで行く。
そしてそのまま、先頭車両へと到達する。
「いやぁ、これを修復するのにどれだけ金がかかるのか考えたくないなぁ」
『なら手心を加えてもいいんだぞ?』
「仕事はきっちりやるタイプなんで」
『そうか……ならシステムを壊せ。コントロールを奪取された状態でも破壊を感知すれば即座にシステムとは切り離された緊急ブレーキが落とされる。それでモノレールが停止する筈だ』
「了解」
行き先に背を向けるように、先頭車両からモノレールのフロントへと向かって飛び降り、二挺自動拳銃を連射する。即座に飛び降りた動きに追いついてモノレールに弾丸が衝突し、ガラスを割りながら穴を開け、強風と共に穴の中に体を吸い込んだ。
そうやって一気に内部を無視して、先頭車両に到達したところで、L&Oを電送しながらライフルを抜きながらそれを迷う事無くモノレールのシステムへと打ち込んだ。背中を大きく見せるプリーステスは当然の如くこれに反応出来る訳もなく、ライフルから吐き出された電磁スタン弾がモノレールのシステムを一瞬でショートさせ、緊急機能として組まれたブレーキが自動的に起動する。
システムの死んだモノレールは自発的に動くのを停止させ、その慣性もブレーキに食われて停止し始める。それで仕事を完了させたのを確認し、プリーステスの隙間からサムズアップを戦っている三人へと向けた。
そこに湊がそっと、召喚機を握っていない手でサムズアップを返した。
「いや! お互いに仲良くしてないで助けてくださいよ!」
ゆかりの悲鳴の様な声が響く。それにプリーステスが反応し、此方へと視線を向ける瞬間、プリーステスの顔面を順平のヘルメスが放ったアギが捉え、湊が動いた。
「
湊のペルソナが変転した。骸骨の闘士へと入れ替えられた世界のアルカナのペルソナは此方に意識を割かれ、そして目を潰された瞬間に出現した伏兵の刃に、
一瞬で、その首を両断された。切り飛ばされたプリーステスの首を見て、《アナライズ》を行う必要なんてない。その状態は誰がどう見ても解る。
首を切り落とされたプリーステスはゆっくり、ゆっくりと砕け、溶け、そして散って行く。
『モノレールの停止とプリーステスの撃破を確認! 勝利だ! 良くやった……が、これにかかる隠蔽と修復の手間を考えると頭が痛くなるな……』
と、そこで先頭車両へと明彦と仲魔達が飛び込んできた。欠片も残っていないシャドウの気配に、明彦が露骨に残念そうな表情を浮かべ、溜息を吐いた。お前、そんなに戦いたかったのか、と軽く引いてる中、湊達は勝利の余韻に浸っていた。まぁ、中々派手なアトラクションだった。
結構、派手にモノレール破壊しちゃったなぁ、と思いつつも、
窓の外から満月を見上げた。この世界でこの満月を見るのもこれで最後―――そう思うと、中々寂しいものがあった。
『何をやっている! もうそろそろ影時間が終わるぞ! そのままでいたら見つかる、早く戻って来い!』
「こんな状況で見つかったら言い訳できないぞ!」
「え、やば、逃げなきゃ!」
「どうでも……良くない?」
「どうでもいい訳がないだろ! 急げ! ペルソナを使ってでも逃げろ!」
チェフェイとマツヤをDDSへと戻しながらペルソナを召喚し、それを使って素早く逃亡する学生たちの姿に苦笑を零しつつ、モノレールの扉を蹴破り、他のペルソナ使い達と一緒に脱出する。人外化されている身体能力で一気に線路の上を駆け抜けながら、小さく笑い声を零した。
こんな、ドタバタしたヒーローごっこも、もう終わりの時だった。
という訳で一時的なP3世界の最後。滞在理由がないので、帰還して崩壊世界編へと移動という事で。世界が再生すれば悪魔は強くなるけど味方も増えるよ、やったねひとしゅらちゃん! それにしても重力魔法って本当にみなくなったなー。グライとかグライバとか。ペルソナ2はそこらへん結構属性多くて困ったりもした想い出。
この物語の本題は世界の再生である事を忘れてはならないのだ。
……いつになったらR18の仕事してくれるんだ……? もっとぎりぎりの性癖とかアレコレ追及する予定がアレー……? 何時になったら使ってないタグが働くんだ。