「アギダイン、ガルダイン」
空に、50メートルぐらいにまで届く火柱が発生した。ゾンビ? そんなものMagさえ残らない。火柱はそのままガルダインと融合した火災竜巻となってナカノに出現するゾンビたちを吸い上げて飲み込んで行く。
「墳ッ!」
破戒僧がマッスルポーズを決めた。上腕二頭筋から放たれる波動がそのままガキとゾンビを飲み込んで浄化して殺した。そうか、本当に悪魔ってポーズを決めるだけで死ねるんだな、というどこともない、傍観と共にポーズを決めながら歩くガイアの現トップを見た。どうしよう、何か突っ込めばいいのか解らないけど、本人が凄く楽しそうだ。
ガイアとメシア、お前らこれでいいのか。とか思っている間に二人が合体技を見せていたガルダインと破魔ポーズが合体して、輝く台風が光の雨を生み出して無差別に悪魔を昇天させている。もう、なんでもいいや、という気持ちでレベル35を超えた正真正銘の超人たちの無双光景を見ていた。もはやその領域に入ると動きが違う。歩いたと思ったら瞬間移動している。攻撃したと思ったら既に攻撃が終わっている。何時からリアルでドラゴンボールは始まったんだっけ? そうか、ドラゴンボールって実話だったんだな……という諦めが心に芽生える。
超人凄い。ほんと凄い。振り返ってアピールするの止めろ。
「これは俺もスダマ先輩投げてアピールするしかねぇな」
『やめろー! やめるんじゃサマナー! 相手がロケットランチャーを取り出したからと核兵器を持ち出す必要はないんじゃ!』
『今日も駄狐は楽しそうだなぁ』
『CNLは殺せ』
『おーっと、極Nすら殺せという発言!』
『それただのカオスじゃろ』
本日も我が仲魔は愉快であり、天候はMag。空から死んだ悪魔のMagが降り注ぐ。人間、レベルアップして行けばここまで理不尽に成れるんだなぁ、というのを思わせる光景だった。もうここまで来るとエストマいるとか要らないとか、そういう領域を超えている。というか、
「さっきからアピール地味にうざいですよ騨さん」
「えっ、俺のキレてる筋肉を見てガイアに憧れない?」
「それで憧れるのはホモっすよ」
「流石にそれは俺もつれーわ」
流石のガイアトップでもホモはNGだったらしい。まぁ、昔の人間はそういうのも嗜みとか言っていたらしいが、正直考えたくもない話だよな。そんな事を考えている間にナカノ中の野良悪魔始末したのではないか? というジェノサイドフェスティバルでナカノサンプラザ前まで到着する。ナカノでもひときわ目立つこの建物はどうやら、世界がこうなる前は崩される予定だったらしいが……今では悪魔が巣くう施設の一つだ。色々と残されているものがあるが、狭い空間に詰まっている悪魔は奇襲や不意打ちを生む危険な場所だ。
「エストマ、と。これで襲われる心配もありませんね」
「というかめんどくせぇから1フロア丸ごと破魔系ぶっぱなさねぇ? その方が安全だろう?」
「あ、そうしちゃいますか。手加減したマハンマオンで良いですよね」
もうこのレベルになると嫉妬するとかそういう次元を超えてくる。サッカーで遊ぶ少年が空を飛ぶ戦闘機を見てすげぇ! 俺、将来戦闘機になるわ! と、思うだろうか? そんな事はない。すげぇ、とは思うがなんだこいつら、という理不尽すぎる強さにビビるばかりだ。たぶんこの人達ならワンパンでマジシャン始末したんじゃないだろうか。ついて行けねぇわ、と頭を抱えていると、アンが横から肩を叩いた。
サムズアップを向けてきた。いや、助けてくれよ。そう言いたいが、世界を再生するにはこれを乗り越えなくてはならないのだ、と自分に言い聞かせる。
「大僧正フラッシュ!」
ただあんな光景見てると世界とかどうでも良くなってくるのが非常に困る。もうこのまま世界とかどうでもいいから、ナカノの片隅でひっそりとアンと生きてちゃ駄目だろうか? いや、駄目なんだろうなぁ、と簡単な結論に行き着いたところでサンプラザ周辺から悪魔が蒸発し、ナカノ悪魔も蒸発し始めているので、中へと進んで行く超人の後を追って進んで行く。
……世が世なら、億単位に届く護衛だろう、これは。いや、そもそもガイアとメシアが並んで一緒に戦うなんて見る事さえできないのだ。この発狂しそうな光景、実にプライスレス。
そんなくだらない事を考えつつ、大型ホールへと向かって足を進めれば、スティーブンから連絡が入ってくる。通話モードに切り替えつつ、
「はい、此方リュージっす。とりあえずサンプラザ……と、今大型ホールに到着って所で」
「ほほう、中々広いな―――トゥ!」
大型ホールへと入った所でステージへと跳躍し、その上で年甲斐もなくはしゃいでいる初老のおっさんを冷めた視線で眺めながら、スティーブンの声に従って動く。
『到着したかね? ならステージの上へと移動するんだ。その中央に陣を描き、そして陣の中央にこのスマートフォンを設置すると良い。その後で出てくる視覚化された概念情報を君が掴んだ状態で、陣に魔力を注ぐと良い。そこに居る二人はその為の人材だ』
超人レベルの魔力でないと起動できない魔法陣となるとかなり高等なものだ。まぁ、それをどういうものか判断する前に、スティーブンに言われた通り、行動を開始する。スマートフォンを見ればメールと共に魔法陣のデータが送られてくるので、ステージの上へと移動してから突っ込んでいたマーカーを使ってステージに直接書き込んで行く。
「こういうの、血液とか使わなきゃ効果が出ないもんだと思ってたんですけど」
「基本的にはそうですね。血液とかが意味を持つ場合は、ですが。ですが、近年は電子プログラムで特別な触媒が働く効果や意味を代用したり、計算や現象のシミュレートを代理してくれます。ですので複雑な儀式を形だけ揃えたら、後はプログラムで代理させて……というのが現代では主流ですね」
「ま、その流れを作ったのがスティーブンだけどな」
「あ、そこちょっと線が歪んでますよ」
「え、マジ? あ、ほんとだ。ちょっと線濃くすればバレねぇバレねぇ」
それでいいのか……。もう何度目だろう、こう思うのは。そう思いながらもステージの少し埃を被っている床にマーカーで魔法陣を描いて行くが……どうにも、こういう作業は不器用だった。銃で精確に撃ち抜くのは問題ないのに、これで絵を描こうとすると全くダメだった。仕方がないのでアンへとバトンタッチすると、凄い滑らかさで線を描き始める。一瞬で心を敗北感が満たす。
俺、役立たず……そんなことを考えていると、何時の間にか騨がすぐ横に居て、肩を叩きながらサムズアップを向けてくる。
「邪魔だって言われたわ」
「それでいいんですか暫定トップ」
「まぁな!」
元気の良い返事だった。いよいよをもって、ツッコミ専用の仲魔を調達すべきだなこれ? と、頭を悩ませる。だがそこでそれはそれとして、と言葉を付け加えられた。
「お前、ガイアに興味ない? 今なら幹部待遇で迎えるぜ」
「遠慮しておきます。なんか、どこかにまともに所属するにはしがらみというかぶら下がってるもんが重すぎるんで……」
と、答えながらスマートフォンを覗き込んで魔法陣を修正するアンの姿を見た。アンとクラリッサ、女性二人を働かせながら男が二人、眺めているだけで手伝いもしていない。もしかしてこれ、屑案件なのでは? とは思わなくもない。いや、間違いなく外観が悪い。何かしらの作業をしたいが、おそらく手伝った方が逆に邪魔になる。
「ま、気が変わったらいつでも言えよ。組織に所属する事はしがらみが増えるっつーことでもあるが、逆に言えばそれで仲間や友達ってのも増やせるからな。寂しくなったらいつでも来ても良いんだぜ」
「まぁ、覚えておきます」
「おう……良し」
ばんばんばん、と音を立てて背中を叩かれつつ、しばらくアンとクラリッサの作業を眺めているとそれが程無く終了する。終わった所で指示された通りに魔法陣の中央にスマートフォンを設置すれば、それを監視しているスティーブンがスマートフォンを遠隔操作し始める。スティーブンと敵対したら悪魔を召喚する事が出来なくなると考えるとゾッとする。そう思いながら眺める魔法陣は、
どこか、太極図を思わせる形をしていた。
『あぁ、聞こえるかね? 大僧正は東側へ……あぁ、そこだよ。そして聖女は……そう、そこだ。ではサマナー君、これを受け取りたまえ。そして人修羅は陣の外側で待機しておくんだ』
サクサクと飛んで来る指示をこなし、スティーブンがスマートフォンの上に半電子化されたオブジェクトを生み出した。それを言われた通りに手にしてみれば、カードキーの様な形をしている様にも見える。持ち上げ、掲げながら確認するカードキーにはうっすらと何か、見た事のない紋様が見られた。それが何か具体的なイメージを作っている様な事はないが、
生と死。心。影。世界。宇宙。月。
見ているだけでそんなキーワードが脳裏に浮かんで来る。まるでWIKIを急いで見ている時の様な感覚だった。サー、と文字が流れて行く感じ。これが情報概念、という物なのだろうか?
「うっし、準備出来たぜ」
「それで、何をすればいいのでしょうか?」
左側から騨の声が、右側からクラリッサの声がした。そういえば並びが丁度C-N-Lという感じでアライメントに別れたな、と思った。そう考え、足元の魔法陣を見て、
『そうだ。そこは今、世界の縮図を現している。世界が完全であれば多くの問題があるだろうが、今の世界は本来の規模と比べれば爪の間に挟まった垢程度の規模でしかない。この程度の陣でも十分に表現できる。つまりはカオス、ニュートラル、ロウ、陰と陽。男と女。人と悪魔』
スティーブンが言葉を終えるのと同時に、スマートフォンのスクリーンを何かが走った。それに合わせマーカーで描かれた魔法陣はその塗装が剥がれ、代わりに虹色の光がマーカーによって描かれた線を上書きしていた。
『さ、両側から遠慮する事無く全力で魔力を注ぐんだ』
両側から唐突に感じ始める超莫大な魔力量に、一瞬、窒息するかと思った。だがその魔力を陣は一瞬で吸い上げた。まるで空っぽのバケツに水を注ぐように魔力を魔法陣は貪欲に吸収して行く。その勢いは凄まじく、次元違いという言葉を理解させられる。だがそれ以降のスティーブンの指示はない。
これからどうすればいいのだろうか? そう思った直後、なんとなく、視線を手元の物質化された情報の塊へと向けた。
手の中で軽く浮かぶそれを眺めてから―――軽く握り潰した。
直感的にこうするべきだ。そう感じた衝動のまま、行動した。
そうやって砕け散った情報は破片となって、魔力と混ざって魔法陣に飲み込まれ、魔法陣が消失する。それを見届けた両組織のトップが少しだけ汗を浮かべた表情で魔力の放出を止めた。数秒ほど、魔法陣が消えてから言葉を止め、全員が動きを停止させていた中、
「……失敗?」
首を傾げてアンがそんな事を呟いた。いや、流石にそれは―――と、言葉を続ける前に変化が来た。
一番最初に感じた事は揺れだった。地震の様な小さな揺れ。それが突如、世界そのものを揺るがすような巨大な衝撃となる。思わず倒れそうになるのを堪えようとした瞬間、
「外かっ!」
言葉が聞こえた瞬間には衝撃波だけが発生し、残像すら残さず二人の姿が消えた。これが超人の脚力か、とドン引きしながら陣の中央にあったスマートフォンを回収しながら外へと飛び出した二人を追って、サンプラザの外へと飛び出した。
そこでは世界に一つの変化が発生していた。
世界そのものを揺らすような大地震で建造物が幾つか破損して行く中で、
未定義を象徴する、言語化が不可能な無彩色、無が定義される未定義の領域が割れていた。無彩色は空の青みを取り戻し、そこに世界という形を取り戻していた。空を見上げればそこには世界の果てが存在していた。だがそれも徐々に、徐々に地平の向こう側へと空の色によって塗り潰され、世界の情報を獲得した事で崩壊していた世界が再生を始めていたのだ。
崩壊する前の状態へ、少しずつ。少しずつ、再生を行っていた。やがて地平の果てへと無彩色が消え去り、地震が収まった所で、僅かに崩壊したサンプラザの前で四人揃って立ち尽くした。
……本当に、世界が再生されてしまったのだ。
「マジかー……あ、坊主、本当にガイア来る気ない? 美味い飯食わせられるよ? 何? 女のが良い? じゃあ女出すよー、出すよー」
「いえいえ、世界を修正するその高潔さはメシア教でこそ輝けます。貴方という存在がいれば人々が心の拠り所を得ます……誰でもない、自分自身の為に他人を救ってみませんか?」
「ハイ、ズルいわー。メシアズルいわー」
「えぇ、善意の救済ですもの。えぇ」
「あの、胃が痛くなるんでほんとやめてください……どこに所属する予定もないんで……ほんと……」
げっそり、とした表情で二人の冗談めいた勧誘に答えると、笑いを返された。そしてそのまま、頭をぽんぽん、と破戒僧に撫でられた。
「んじゃ、俺は馬鹿共を率いて広がった部分の調査に乗り出すか。救助者はこっちで探すが―――」
「えぇ、受け入れは此方でやった方が良いでしょう。聞いた話では23区のみでしょうし、ガイアとメシアの休戦協定は継続という事で」
「おう、宜しく。そんじゃ坊主、何時でもウチに来ていいからな? しっかり生きろよ? じゃあな」
言葉と共に残像を残さず男が消えた。ガイア寺院の方へと視線を向ければ、陥没して破壊される屋根の姿が幾つか見えた。どうやら跳躍しながら来た道を戻っているらしいが、その力が強すぎて道を破壊しているらしい。やっぱり超人は怖い。そう思っていると、クラリッサからも声が来る。
「では私もこれから指揮しなくてはならないので帰りますが……無茶をしないでくださいね? えぇ、本当なら我々でも支援を出来るだけしたい所ですが立場や状況がありますから……それでは、お元気で」
言葉を残してクラリッサはトラポートで消えていった。その姿を見送り、再びアンと二人きりになってしまった。だけど何かを喋る気にもなれず、二人が去って行ったあと、無彩色が消えて、取り戻された青空を見上げた。
……あの空は、俺が取り戻したのだ。
その実感を受け入れようとして、しかし受け入れられずにいた。俺があの空を取り戻した筈なのに、本当にそれが出来たという感触がなかった。何故だろう。
いや、理由は解っている。
結局は全部、他人におんぶに抱っこされているからだ。最初はスティーブンやアンに。次はあの超人の二人に。俺がやった事と言えば、他人に頼って安全な場所から眺めているだけだ。言われた通りに守られながら動く。
結局のところ、その程度の事しかしていない。あの滅茶苦茶な超人の能力を見たからこそわかってしまう。自分の実力なんてまだまだ、クソの様なものだ。
何一つ、自分で出来ていない。
……素人の学生たちよりも強かったという事で、調子に乗っていたのかもしれない。改めてこの世界のトップの強さを感じ、自分の至らなさにイラつく。
「サマナーは……頑張ってる、よ」
「解ってるさ、頑張ってるのは」
ただ、
「……もっと強くならなきゃ駄目だな」
呟く。レベルアップしなくてはならない。そして自分もまた、超人の領域に入らなくてはならない。超人となれば破戒僧がそうであったように、悪魔が使う様な技術や特技を生身で繰り出す事が出来る。装備に頼らず、自分の力で道を切り開ける。何がなんであれ、力は必要なのだ。生きて行き、世界を直す為に。
だからどうするんだ、と思った。
『やぁ、ご苦労様。君はこれで世界の再生に一歩目を踏み出した』
頭がこんがらがってきたところで、スティーブンから通信が入って来た。とりあえず思考を中断し、注意を其方の方へと向けた。
「あ、はい。ガイアとメシアの二人と別れたっすけど」
『彼らの事は心配しなくて良い。そもそもあの二人は魔力バッテリー替わりだからね。それはそれとして、此方でも観測できる範囲で東京23区が復活しているのを確認した。戻ってくると良い、君に仕事と力を与えよう』
ぶつり、とそれで通信が切れる。考えている事が見透かされているのだろうか? それとも解りやすいのだろうか? 或いは……そういう人間だと理解されているのだろうか? どちらにしろ、
俺に選択肢はない。
ふぅ、と息を吐いて、蒼く染まった空を見上げた。溜息を吐き出しながらも、そこには取り戻された空の姿があり―――その向こう側には宇宙が広がっている。或いは宇宙はまだ再生していないのかもしれない。どちらにしろ、それは自分が行動したから生まれた成果だ。それだけは事実だ。
自分がそれをやったんだ、と思わないとやってられない。
どれだけ他人が優しくしても裏が見える。
どれだけ力を貸してくれても何が目的なのかが見えている。
結局、俺なんか……道具でしかないのだ。
「サマナー……」
心配そうにするアンの声が聞こえる。だけどそれに応えるだけの余裕も、言葉も自分にはなかった。だから少しの間、自分が取り戻した蒼穹を眺め続けた。それを欠片でも取り戻せたという事実だけが俺の虚栄心を支えていた。そう、
俺の全てが虚栄心で積み上げられていた。
「お帰りなさい。さ、余計な言葉も必要ないだろう。悪魔合体をデジタルに再現した私の《邪教の館》アプリと《悪魔全書》の力を君に授けよう。東京23区が復活した今、レベルが30までの悪魔であれば合体、召喚が行える。これは次の世界へと挑む君の力にもなる筈だ」
スティーブンのバーへと戻って来て、最初に感じたのは広さの違いだった。今まではこじんまりとした小さなバーだったが、今では更に広がっている。店内を流れるクラシックもまた変化しており、隅がやや影に覆われている様な気がする。間違いなく、悪魔の気配を店内に感じる。だがストレスを感じる様な気配ではない。店内が広くなった分、圧迫感も感じない。
その中でスティーブンの様子は変わらなかった。スマートフォンを求めて来るので、それを渡す。それを受け取ったスティーブンはデータを確認しながら、それをバーの隅にある大き目の端末に繋ぎ、ホロウィンドウを表示させた。
もう、この時点でオーバーテクノロジーだろう。
それはそれとして、
「駄狐とカリバーが成長限界にあるんで、ワンランク上へと変異合体させたいんすけど」
「それ自体は難しくはないぞ。足りない情報を別の悪魔をイケニエ合体させる事で補完させれば良い。どちらも上位の姿が存在する悪魔だ。欠損を補えば人格や記憶に影響なく次の姿になるだろう……とはいえ、継承させるスキルや魔法は決めているのかね?」
「あー……実はそこらへん、初めてで……」
「だろうね」
チェフェイもマツヤもゲットした悪魔であり、スダマはプレゼント品だ。ぶっちゃけた話、デビルサマナーが基本としている合体の知識やプランというのにはそこまで詳しくはないのだ。役割とかの分担とかならまだわかるのだが。
「流石に合体ルートとか、合体による種族の変化とかそういうのは……」
「まぁ、そうだろう。だからこそ悪魔に恐らくは最も詳しい者を用意してある」
スティーブンがそう言うと、暗がりの一角に居た悪魔の気配が出てくる。優雅な所作で進み出てくる金髪の男の姿は礼服姿で、見る者すべてを魅了するような美しさを持った存在であり、前に出てくるのと同時にアンに腹に蹴りを入れられてそのまま床に倒れた。
「流れる様な動きで始末されたんすけど」
「人修羅よ……私が、何を……した……」
腹を抑えて床に倒れる男に向けて《アナライズ》を行う。
「さ、最低限の情報だけで肉体を構成してきたらこの扱いとは……」
「えい」
アンが支配人をソフトに蹴ってる。いったいアンの何がそこまで支配人に対してセメントにさせるのだろうか。しかし出会った時は何というか、世界そのものを滅ぼしてしまいそうなプレッシャーや神々しさがあったのに、それが欠片も残っていないのだから本当に最低限の触覚しか生み出さなかったんだな、と床に転がる憐れな姿を見て泣きそうになる。
それはそれとして、
「アンー。その人は悪魔のプロフェッショナルだから、そこらへんにしてしまわないと仲魔の強化がね?」
「……ん」
少しだけ名残惜しむ様に支配人にキックを叩き込んでから満足そうにうなずき、アンは離れた。虐められ終わった床に転がる悪魔王はなんというか……憐れだった。大丈夫? と手を伸ばすと、少しだけぼろぼろになった姿で立ち上がった。髪の毛を手でかき分けると先ほどまでぼろぼろだった姿が一瞬で元に戻った。
「安心したまえ―――ダメージは残ってるからまたぼろぼろにしようとしないでくれたまえ」
『声が震えておる……これが悪魔王かぁ……』
これで大丈夫かよ、とは思ったが、即座に仲魔の合体の話に持ち込むと、ルイ・サイファーは成程、と頷く。
「私は魔界に存在する全ての悪魔を覚えている。私の権限で動かせる範囲で便利な技能を持っている者を継承と降格を繰り返してある程度そうさせよう。見た所マツヤを魔法メインの攻撃役に、チェフェイを妨害支援に……そして私の与えたスダマはそのままで良さそうだな。となると理想的なのはランダマイザ等の継承だが魔力やMagを考えると難しい話になるし―――」
こうか、と言いながらルイ・サイファーが合体プランを用意した。チェフェイの方はシンプルでカジャ系魔法に加えて《雄たけび》と呼ばれる攻撃能力を削ぐ特技、そしてシバブーとドルミナーを追加するプランだった。今まで使ってきた疾風系統の魔法が消えるが、その代わりに状態異常のコントロールに優れている。後デ・カジャを継承する事で相手の強化を打ち消す事も出来る。此方はパッシブ系統なし。
それに比べてマツヤの方は重力魔法を更に強化する為のブースターを搭載し、マハグライバとグラダイン、と強力な重力魔法を習得する方向性になっている。また破魔も広範囲に攻撃出来るマハンマとなって、ダーク悪魔相手に必殺を決められるようにするプランを提示してきた。
「というかこんな風に自由に付け加えられるんすな、魔法って」
「普通は出来ない。悪魔にも概念の相性があるし、全ての悪魔が望んだ能力を引っ張ってこれる訳ではない。だからこそ合体を行う時、どの悪魔がどういう概念を継承できるかを把握し、それでプランを形成する。悪魔王として私はその全てを把握している。強い悪魔を生み出す為の継承と習得ルート、そして最終的な合体までの道筋を提示できるという訳だ」
「流石悪魔王……」
「これぐらい当然うっ」
アンの蹴りが悪魔王の腹に叩き込まれてその姿が床に転がった。アンの方を見たら、アイツ調子に乗りそうだったから……とかいう感じの表情が返って来た。当初、プレゼントされた時と比べて物凄い感情的、というか表現方法が豊かになってきたな、お前は。そんな感想を抱きつつ、再び悪魔王の支配人を立ち上がらせた。
「解った、私根本的に人修羅と相性良くない」
「今更気づいたのか……それはそれとして、その構成なら1枠、回復特化の悪魔が欲しいな」
「となると優秀なのは女神か地母神辺りだな……まだ情報が万全ならイシュタルの分霊でも用意してやったのだが、流石にこの状況では無理だな。私のこの体も別の側面や分霊の情報をかき集めて作ったものだ。そこまでの余裕はない。……やはりアメノウズメか、キクリヒメ辺りが候補か?」
「ふむ……どちらもレベル範囲内ではあるね」
「成程。となるとディアラマとメ・ディア、ペンパトラに……トラポートとエストマは欲しいか。となると元となる弱小悪魔から継承を繰り返すのが良いな。長期戦になる事を考えて《魔脈》も欲しいか」
「やべぇ、何を言っているのかまるで解らない」
支配人がプランを提示するが、合体ルートとかまるで異次元の言語の様で、頭の中に入ってこない。今度、悪魔全書を見ながら勉強すべきだなぁ、と思いつつGOサインを出す。というかそれしかなかった。それに支配人の提示するプランは此方が求めている役割をこなしているし、必要な所をカバーしている。
「とりあえず、素体のエンジェルから作成してしまおう」
「そうだな、全書から素材となる悪魔を召喚し……」
アプリ内部に女神と地母神が《悪魔全書》を通して魔界より召喚される。なんでも悪魔のプロフェッショナル二人組によれば、女神x地母神で狙った回復魔法を作ったらウンディーネを使って作成した天使のレベルを下げるつもりらしい。その説明を聞いているだけで悪魔合体のめんどくささが理解できる。これ、理解するのに時間がかかるだろうなぁ、と思っていると、アプリから端末へと電子化された悪魔が送られ、そこで《邪教の館》アプリを通して悪魔合体が行われる。
そしてそこで思いっきり表示される【合体事故】の文字。
「はっはっはっは」
「しょっぱなから合体事故だよ」
「何笑ってんだこの糞爺共」
L&Oを引き抜いてぶち殺してやろうか、と思っていると合体事故による、合体後の悪魔が変質し、端末から吐き出される様にその悪魔が出現し始める。
それは美しい輝きをしていた。
後光を受け、白き雄大な翼をもっていた。
あらゆる悪魔を引き裂く鋭い爪を持ち。
その鋭い眼光は万物を見通す。
無限大の愛を秘める度量を持つ。
その悪魔は、
「我が名を称え―――うわなにをするこら」
端末から排出された、完成されたばかりの悪魔の足を掴んで、逆さまに持ち上げた。ふわふわ、ふかふかした感触の体を保有する悪魔は翼をバサバサとはばたかせて必死に逃れようとするが、レベル差もあって不可能だった。そうやって捕獲した神霊の姿は、
その姿を良く見てから、アンへと振り返った。
「……メシアンに見つかる前に今夜は鳩の丸焼きにして食っちまうか」
「ん」
「止めるのだ……止めるのです人の子よ……人修羅よ、貴女もサムズアップ等していないので止めるのです……止めてください……」
今夜は神聖四文字の丸焼きでフィーバーできそうな予感だった。現実逃避する為にも、とりあえず厨房へと鳩を連れて行く事で脳味噌を空っぽにした。
という訳でサポートチームのイカレたメンバーを紹介するぜ!
世界崩壊は察知したけど何もしなかった! スティーブン!
コスプレもTSもシチュエーションも完備! ルシファー!
愛すべき隣人たちがピンチだから助けに来たら丸焼きだよ! 四文字!
俺たちの地獄はここからだ!!! 次回、神聖四文字のスダマ火丸焼き。かつてなく雑に扱われる四文字の扱いを待て。