※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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再生し始める世界 Ⅴ

 かつては出勤姿を見送ったシンジュク駅のプラットホームも、今では完全に封鎖され、そしてサマナーやデビルバスター達の商売場所として完全に占拠されていた。ブルーシートやいろんな屋台が持ち込まれており、それによってマーケットが形成されていた。なんというか、東アジアで見かける様なあの雑なマーケット、ああいう感じの光景がプラットホームを舞台に広げられていた。そこらから感じる悪魔の気配はサマナーの召喚している仲魔の気配で、中には店番している悪魔さえ見かける。

 

「良いものがおいているホー!」

 

「こっちのが良いよー!」

 

「ドワーフ製の装備置いてあるよー!」

 

 ピクシーやジャックフロスト、或いはジャックランタン。ビジュアル的にコミカルで親しみやすい悪魔でレベルが低い者が店番をしているのが見える。そしてそれと一緒に様々な道具や武器、防具と呼べるものが並べられており、それで盛んにマッカを使った売買が行われているのが見える。正直、ここまでサマナー用市場が活性化しているとは思ってもいなかった。

 

『いや、崩壊して悪魔が出現しているからこその活性化だろうね。そもそもサマナー活動はアンダーグラウンドなもので、取引も隠れて行うものだ。それが人目を気にせずに長時間、そして大規模に集まれるようになったんだ……こんなに活性化するのも当然だろうね』

 

「あー……成程」

 

 細い供給の所が、一気に太くなってしまったのがこの活気の原因か、というのを理解した。大っぴらに動けるという事はそれだけ物資を動かしやすいという事だ。そしてそれだけ、ものを動かせば興味を持った人間が嗅ぎ付けてくる。税もクソもない、完全なフリーダム状態。そりゃあ人も集まるという訳だ。それにライジュウの魔晶とかを探すのは良いとして、正直並んでいる物は色々と気になる。

 

「ヒーホー! いらっしゃいホー! ここには消耗品を置いてるホー!」

 

「気に……なる……?」

 

「まぁ、結構」

 

 何せ、サマナーとして外のコミュニティにまともに触れるのは初めてだ。今の所、ナカノのガイアとメシアはお互いに生き残る為の協力だったのに、それがまともな立場での交流になっているのだ。やっぱり、普通の値段とか販売されているアイテムとか、そういうのは凄い気になる。なので近くにあるジャックフロストがやっている屋台を見た。その上には様々なアイテムが並んでいるが、

 

「なんだこのアメ?」

 

「ホー! それはチャクラドロップだホー! 魔石よりも遥かに効率よく魔力を回復させる為に作られている回復用のお菓子だホー。口の中に入れるとあら不思議、あっという間にほのかな甘さを残して消えるホー。魔石と比べて口の中に放り込むだけでお手軽回復だから愛好家は多いホー! 最近はアプリ型召喚システムでMP回復アイテムとか呼ばれているホー」

 

「へぇー」

 

 魔石はあれはあれで便利だが、面倒なのだ。魔石は使う時使用する対象へと向かって魔石を向けて、そしてその中にある魔力を与えなくてはならないのだ。少し、そこに手間がかかるのだ。だから口の中に入れて即座に回復出来るというのは嬉しい。

 

「無論、回復量も魔石の軽く2,3倍はあるホー。でもそれで満足できないサマナーにはチャクラポットを置いてあるホー。こっちは魔力を限界まで回復する道具ホー! ただしちょっと手間がかかるホー。回復の手間と時間を考えるのはサマナーの仕事だからこれ以上は何も言わないホー!」

 

「中々商売上手だなこいつ……チャクラドロップの値段は?」

 

「一袋20個入りで800マッカだホー」

 

 ジャックフロストの言葉に顔を顰めた。800マッカという事はつまり、40万という事だ。しかも20個入りで40万、とは1回フル戦闘の後の回復で使い切る可能性がある。そう考えるとかなり高い買い物になってくる。

 

「当然ながらチャクラポットは1回で使い切りホー。こっちは単品で1500マッカだホー!」

 

「高いなぁ……」

 

「使いやすい、優秀な消耗品だからこれぐらいの値段は当然だホー」

 

 ジャックフロストの当然の言葉だった。だけど食べて一瞬で回復出来るチャクラドロップの存在は割と真面目に恐ろしい、というか欲しい。これ、事前に仲魔に持たせておけば一々此方が仲間に魔石を使わずに回復させる事が出来るのだ。しかも新しく悪魔合体で進化させたチェフェイもクールマも、能力は上昇した代わりに魔法のコストとかが増えている。それを考えたら回復手段は欲しい。

 

 ぶっちゃけ、5袋ぐらいは買いたい。だがそうなるとチャクラドロップだけで200万にはなる。

 

「お客さんもしかして新人サマナーホー? すぐに使える消耗品を持っているのは生死を分けるホー。悪い事は言わないから1袋だけでも買っておくべきだホー。時間がある時は魔石で、ない時はドロップで回復するのがお勧めだホー」

 

「商売上手だなぁ、お前……良し、3袋くれ」

 

「毎度ありだホー」

 

 悔しいが、誘惑には勝てなかった。2400マッカを取り出してジャックフロストに支払い、チャクラドロップを買い取った。これが何時か、窮地を救うと信じてストレージの中へと送り込む。とはいえ、まともなサマナー業界でのお買い物を経て、少しだが満足していた。なんだかんだ言って、この未知を開拓するような楽しさは何時だって忘れられない。今まではスティーブンや支配人に支給される形で用意されていたものを使っていただけに、自分の目で見て探すのは格別の楽しさがあった。

 

「あ……サマナー……アレ……」

 

 アンに袖を引っ張られながら振り返れば、アクセサリーの屋台があった。ただし、ただのアクセサリーではないのは伝わってくる。振り返った先のアクセサリーを販売しているのは人間だった。

 

「お、俺の所に来るとは良い目をしているじゃねぇか。ここにあるのは全部、魔装済みのアクセサリーだぜ。どれも一級の職人によって作成された魔晶装備だ、損はさせねぇぜ」

 

 魔晶装備。悪魔は死亡時に時折、魔晶という結晶体へと姿を変える事がある。それをスティーブンは悪魔の結晶化された情報であると言っていた。一番簡単な状態の情報であり、だからこそ装備と融合させる事が出来る。この魔晶を融合させた装備を、魔晶装備と呼ぶ。

 

 それらの装備は様々な効力を発揮する。

 

 最も簡単なのが無銘の刀と融合させたものだ。

 

 この場合、刀に融合させた悪魔の特性が色濃く表れる。例えばエンジェルの魔晶石を無銘の刀と融合させれば、大体の場合で破魔属性の刀か、或いはChaos特攻の刀になる。こういう風に、魂合術とは魔晶石の情報を装備品に融合させる行いだ。

 

「ここにある奴は基本的にセットで効果を表す奴とかはないからな。その代わりに一律で一つ1000マッカだ。ゆっくりと見て行けよ」

 

 屋台にはそれぞれ何の魔晶を使用しており、どういう効果を発揮しているのかが書いてある。例えばここに置いてあるピクシーの魔晶を使用した指輪は装備者の体力を少しだけ強化してくれるものだ、とか、ケルピーのベルトバックルは凍結率を補佐する効果がある、とか。そういう風に短く説明が出ている。それを眺めていると、

 

「ん……これ」

 

 アンがその中の一つを指さした。それは見た目は普通のスカーフの様に思える。だがアンはこれが良い、と示していた。

 

「これ、違う」

 

 アンの指摘した言葉に、屋台の男が軽く口笛を吹いた。

 

「いやぁ、お目が高い。そいつは魔装品じゃなくて魂合品なんだよ。知ってるか? 魔装と魂合の違い? 同じ魔晶石を使っても魔装と魂合、技術が変わると装備に与えられる効果ってのもまるで変わるってもんさ」

 

 そう言うとフレイアのスカーフ、と書かれていた札の裏側を向ければ、説明が火炎と精神耐性の上昇から、封魔状態の無効化へと変わっていた。それを見せながらも、店主はニヤリ、と此方へと視線を向けてくる。

 

「カノジョに良い顔を見せるのも色男の仕事だと思うぜ。ちなみに一律1000マッカだ。そこは曲げるつもりはないぜ」

 

「お前ら良い商売してるよなぁ……」

 

 苦笑しながら1000マッカを取り出し、それを叩きつけてやった。受け取った店主は毎度、と笑みを浮かべてそれを回収した。そうやって購入したフレイアの赤いスカーフ、それを引っ張ってそのまま、アンの首に巻く。まぁ、女の子だもんな。おしゃれの一つぐらいして貰った方が良いに決まっている。

 

「んー……首じゃないな……」

 

「ん、こっち」

 

 スカーフを取ると、それを腕に巻いた、確かに、其方の方が見栄えは良いな、と思える。やっぱり、俺ではそういう根本的なセンスが欠落しているな、と思っていると、アンが両手を掴んで、握って来た。

 

「ありがとう、サマナー」

 

「おう……まぁ、ほら、封魔対策はしなきゃいけないからなぁ!」

 

「Sigh……」

 

 後ろからアクセリー屋の大きなため息が聞こえてくる。あぁ、どうせヘタレ童貞だよ! と心の中で叫びながら、俺にしか解らないアンの僅かな頬の動きから目を反らし、マーケット内の散策を再開する。本当に滅茶苦茶、無秩序に商品が並べられているようで、明らかに法律で許可が必要そうな銃器まで販売されていた。

 

 その一つを手に取って構えてみるが―――駄目だ。

 

「ルーチェ&オンブラを超える逸品には程遠いな」

 

 カスタムの入った自動拳銃やライフルを握ってみるが、どうにもL&Oでいいや、という感じがしてしまう。なんというか、L&O以外の銃は全て、消耗品という感じが強いのだ。使いこなす事を要求してくるL&Oの様な暴れ馬が中々ここには並んでいた。《死神コルト》と呼ばれる様な呪われた銃も一応握ってみたが、L&Oの方がまだ手に馴染む。迷う事無く捨てて、次の店へと移った。

 

 その間、上機嫌らしいアンはずっと腕を組んで一緒にいる。正直、周りから視線をたびたび向けられていて恥ずかしい。

 

 と、そんな風に店を巡っていると、ライジュウの魔晶を売っている店を見つけた。魔晶を色々と集めて販売している店だが、今の所魔装や魂合術に関してはそこまで興味がない―――というか、基本的にレベルが30とかに到達した連中向けの装備品なのだ、ああいうのは。そうじゃないとあまりにもバリエーションが少ない。

 

 まぁ、そもそも大きな装備を買う程の予算はない。一応宝石の類は桐条からドン引きするレベルで貰っている。それをマッカに換金する事が出来れば、即座に問題は解決できるのだが、今はまだ、そこまで焦る必要もない。

 

 この世界がそう簡単に再生しないのは誰よりも俺が解っているのだから。少しぐらい後回しにした程度で、何かが変わる訳じゃない。

 

 とりあえず、ライジュウの魔晶は2000マッカ程した。流石にアホみたいなレベルなので、迷う事無く値下げ交渉の為に話しかける。だが店番をしている悪魔・ジャックランタンは、

 

「駄目だなー! びた一文負けないぜ! ケケケケ」

 

「どうしてもダメか?」

 

「おいおいおい、俺はサマナーからこの値段で出せって言われているんだぜ? 交渉なんて無理無理!」

 

「仲魔のおっぱい揉ませたる」

 

「500マッカで売るわ」

 

 ジャックランタンのガチトーンが返ってくる。DDSへとアクセスし、そこからチェフェイを召喚する。そのロリボディで胸を張るが、ジャックランタンが露骨に溜息を吐く。そして視線をアンへと向けた。それから再びチェフェイの薄い胸を見て、そして普段は服によってある程度抑え込まれている、アンの胸を見た。

 

「あっちがいい!!」

 

 そうだよな、そう思うよな。俺だってそう思う。だけどダメなんだ。両手でバツ印を作って、ジャックランタンに返答する。

 

「あっちは駄目なんすよ……こっちで我慢して……1000マッカでいいからさ……」

 

 その言葉にジャックランタンが一瞬、怒る様な仕草を見せるが、その前にチェフェイの怒りの拳が屋台を叩いた。軽く屋台を震わせながら、チェフェイが心の底から叫んだ。

 

「なんで!? なんで妾こんな扱いなの!? 傾国じゃぞ!? 妾は傾国の悪魔じゃぞ!? この扱いおかしくない!? 妾四尾になればグラマーじゃから! トランジスタグラマーになるからぁ! 妾ぁ! 扱いに不満あるぞぉ!!」

 

 そのチェフェイの必死な叫びをジャックランタンと共に眺め、ジャックランタンの目から涙が流れる。

 

「ライジュウの魔晶持っていっていいぞ……なんというか……憐れな悪魔には施さなきゃな……」

 

「ありがとう、ジャック……」

 

「貴様ら死にたいのか」

 

「お疲れー」

 

 文句を言い続けるチェフェイをコンプの中に戻して、交渉成立に心でガッツポーズを決めながら魔晶石をストレージへと送った。これでガンナーズブルームの材料は揃った。なんかストレージを見ると、さっそく送ったアイテムの他に大量の銃とパーツと、そしてバイクまでが消えている。ストレージからスティーブンが必要な材料を引っこ抜いて、そのまま作業を開始したのだろう。まぁ、バイクはシンジュクに居る間は必要ないし、そこまで惜しくはない。

 

 それはそれとして、

 

「次は聖杯か」

 

 此方は流石にアプリ使って場所を特定しないと見つからないだろう。そういう事でマーケットの情報を調べ、どこに問題の場所があるのかを確かめ、それが4番線の一番奥にあるというのを把握する。それが終わった所でアンと腕を組んだ状態で向かい、そして到着した。そこまで広い場所ではないし、目立つ一角だったので見つけるのは難しくなかった。その4番線一番奥、その一角は異彩を放つ物がブルーシートの上に広げられる露店だったからだ。

 

 その前で足を止める。露店の主は、セミロングの銀髪を短いポニーテールで後ろに纏め上げた、アンダーフレームのサングラスを装着した女だった。黒いスラックスにへそと胸元が見える風に軽く開けてあるネクタイの無いスーツ姿に煙草を口に咥えている。

 

 とりあえず、露店に並んでいる物を適当に指さした。

 

「あの、これは」

 

「輝くトラペゾヘドロン」

 

「これ」

 

「如意金綱棒」

 

「……これ」

 

「黄泉帰りの箱。最初のはニャルラトホテプを召喚するのに必要な道具よ。次のがセイテンタイセイの召喚に必要なやつね。で、これがイシュタル召喚の触媒になるわ」

 

 無言で店員を眺めた。乱雑に置かれた超級と呼べるランクの品々の中に埋もれる様に聖杯が置いてあった。黄金に輝く美しい器は間違いなくイメージ通りの聖杯なのだが、雑に置かれている感じ、店主自身はかなりどうでも良さそうな感じに売りに出していた。これ、どう反応すればいいんだろうか……そんなことになやんでいると、

 

「ベル、ゼブブ……ちー……っす」

 

「久しぶりね、人修羅。或いは初めまして、かしら。ま、どちらにしろ元気そうな姿を見れて良かったわ。魔界、世界崩壊に合わせて喰われたから急いで宝物殿から持ち出せる物を持ち出してきたけど……貴女がいる所を見た感じ、閣下に後れを取ったみたいね」

 

「ん」

 

 コクコク、とアンが頷いている間に《アナライズ》を行う。確か、アンは彼女をベルゼブブと呼んでいた筈だ。

 

魔王 ベルゼブブ Level12

 

 本当に魔王級悪魔だった。ただ支配人と比べるとレベルが高く感じられる。というかあの支配人はどうも、レベルを一切上げるつもりがないように感じる。まぁ、合体で助けられたのだから別に良いのだが、えーと、と声を零す。

 

「それでー……ベルゼブブ様はこんな場所で何用で?」

 

「路銀と情報収集よ。ここ、おそらく現在の崩壊世界で最も情報と人が集まる場所だから。適当に餌をぶら下げていれば良い感じに見つけられるでしょう? 実際こうやって見つけられた訳だし」

 

 で、とベルゼブブがサングラスの隙間から赤い瞳を此方へと向けて来た。

 

「閣下、連絡取れるのよね」

 

 その言葉に答えて、スマートフォンを取り出し、バーへと繋げる。

 

『おかけになった電話番号は』

 

「あ、繋がりました」

 

「ありがとう、ちょっと借りるわね……」

 

 スマートフォンを受け取ったベルゼブブがそのまま、露店の向こう側でキレ始めていた。何か、話が長くなりそうなのでベルゼブブの方から視線を外し、アンの方へと視線を向けた。

 

「しかし、大物悪魔と顔見知りだったんだな、お前」

 

「知っている? ……すこ、し……違う? 顔見知り……うーん、友達? 仲魔……?」

 

「いや、言葉に出来ないなら別に良いんだよ。責めてる訳じゃないし」

 

 ただ純粋に、アンは何者なのだろう、というだけの話だ。そもそも人修羅なんて悪魔、聞いた事もないし、全書にも存在していなかった。そもそも人修羅とはどういう意味なのだろうか? 人であり修羅である? だがアンはただ強いだけで、血に酔う様な修羅でもない。明らかに人修羅、なんて言葉は似あわないビジュアルでもある。そう考えるとやっぱり、色々とこの子の背景が気になってくる。

 

「うーん、不思議ちゃんだなぁ、お前は」

 

「私、も……気に、なる」

 

 じゃあ、今度支配人をスダマで脅そう、と相談するとアンから頷きが返って来た。最近自分たちの中で、支配人のカーストがガンガン下がっているという事実があった。やはり原因はカオスとロウ因縁の対決Inバーとかいう見たくもない最終決戦が原因なのだろうと思う。そして現在進行形で威厳を失っている事もある。

 

 ちらり、とベルゼブブの方へと視線を向ければ、キレてるベルゼブブの姿が見える。

 

「少しぐらいこっちに連絡入れても良いでしょ!? えっ? なに? ロウと因縁の決着をつけてた? ぶち殺すぞ悪魔王。寝言は来世で言え」

 

 地味に今生で一度も寝るんじゃねぇぞテメェ、と臣下に宣告された悪魔王の明日はどっちだ。こうやって超高位悪魔連中の会話や話を聞いていると、実は君たち本当は愉快な生態をしているのではないか……? と思い始めちゃいそうなので困る。実際、そんな事は欠片もなくありえないのだが、なんでこいつら、こんなにも見えている範囲だと愉快なのだろうか。親近感が沸いてくるから本当に止めて欲しい。

 

 そんな風に悪魔の魔界事情を考えていると、電話が終わってスマートフォンを投げ返されてきた。それを受け取りつつ、ベルゼブブから言葉が来た。

 

「バ閣下に一発叩き込みに行くから連れて行きなさい」

 

 その顔にはこれから殴る、という一貫した覚悟しか感じさせない表情で満ちていた。余りにも悪魔にしては清々しい、迷いのない表情。ま(・)る(・)で(・)悪(・)と(・)し(・)て(・)の(・)側(・)面(・)そ(・)の(・)物(・)が(・)削(・)が(・)れ(・)た(・)様な清々しさを持つその姿は、

 

「了解しました姐御」

 

 なんか、もう、姐御と呼びたくなるような感じだった。アンも横でベルゼブブを姐御ー、と呼び始めるので、たぶんこれで定着する。店を畳み始めるベルゼブブの姿を見てあっ、と声を零す。

 

「聖杯が必要だったんだ」

 

「ん? あぁ、そんなものだったら閣下に会わせてくれればあげるわよ。そもそも世界の情報概念不足で高位触媒があった所で現状、召喚もデビルソースとしても使用できないから塵の山だし。今はもっと使いやすく、即座に戦力強化に使えるものが人気みたいなのよねー……おかげで全く売れなかったわ」

 

「はぁ……」

 

 需要に乗らなきゃ売れないというのは悲しい事実だった。

 

 

♦

 

 

「ベルゼブブ、漸く―――へぶっ」

 

 シンジュク、人気のない所からバーへとアクセスしてみれば、一番最初に見たのは飛び膝蹴りを支配人の顔面に叩き込むベルゼブブの姿だった。それを受けた支配人は一瞬でダウンし、マウントを奪ったベルゼブブがそのまま顔面にマウントパンチを繰り出している。それを見たアンが静かにガッツポーズを決めている。

 

「すげぇ、本日二度目の下克上だ」

 

『見たくもない下克上パート2』

 

『魔界の上司部下の関係も複雑じゃのぉ』

 

 というか、出会う高位悪魔連中が基本的に皆、フランクというか、ユニークというか……全員、世界が崩壊した原因で頭の螺子が一本外れていない? とは思わなくもない。まぁ、個人的にこっちのがやりやすいんだけどさ、と思いつつベルゼブブからもらった聖杯を、ちゃっかりロボットアームを伸ばしてお土産を求めているスティーブンへと渡す。それを受け取った本人は楽しそうに作業部屋へと戻って行く。

 

 間違いない。

 

 この末世、一番楽しんでいるのはスティーブンだ。

 

 肉を殴り続ける音が響く店内、バーカウンターの方へと向ければ前は影の様なシルエットが、前よりも少しだけ濃くなっているのが見える。既にその状態で自分を超えるだけの強さを感じられる。完全に復活した場合は、どれだけ強くなるのだろうか? そんな事を考えてると、白い姿が肩の上に乗った。

 

「良くぞ戻ったサマナーよ。外は寒かっただろう? さぁ、私の羽毛で温めてあげよう……!」

 

「なんで無駄に壮大なんだよてめぇー」

 

 くるっぽー、と鳴いた鳩がわしゃわしゃと羽を振りながら首元に身を寄せてくる。暖かいから困る。もう鳩はこれでいいや、と思っていると血祭りに上げられた支配人がポイ捨てされ、満足そうにベルゼブブが立ち上がり、頬に付いた血を拭った。

 

「ふぅ……とりあえず事情は解ったわ」

 

「今ので」

 

「ツーカー」

 

 アンよ、今のはツーカーとかそういうのじゃないと思う。一方的に殴ってただけだし。だけどなんか、アンの視線にはベルゼブブに対する気安さを感じる。なんというか……アンとベルゼブブの間には縁らしきものを感じる。

 

「まぁ、閣下と私は付き合いが長いしね、余り言葉は必要としないのよ。まぁ、個人的に人を蠅の王とかいう括りに堕としてくれた四文字には言いたい事ややりたい事が色々とあるけど、それとは別に魔界をあのままにしておく訳にもいかないしね。いいわ、私も手伝ってあげる」

 

「えっ、マジっすか」

 

 驚いているとDDSにベルゼブブが仲魔として登録されたのを確認した。レベルは大幅に弱体化しているが、それでも習得しているスキルや魔法に関しては魔王の名に相応しい数々だ。というかレベルに不釣り合いな、と表現できる強さをしている。普通にレベルだけで判断して勝負を挑んだらそのまま全滅できそうだ。

 

 こっちの懐疑的な視線を受け、ベルゼブブは口を開く。

 

「閣下が四文字の前で大人しく味方しているんだから、私が好き勝手やる訳にもいかないでしょ? 人修羅に良くしてくれているサマナーなら私自身文句はないわ。ただ、私を仲魔にしている上でちょっとしたお願いみたいなのはあるけど」

 

 契約が完了した以上、それを守る必要はない。だがそれはそれとして、悪魔と良好な関係を構築するのは大事な事だ。その為、迷う事無く頷きを返せば、

 

「出来るだけでいいから、私をバアルにして欲しいのよ。ま、レベルが80を超えた後での話だからだいぶ先の話になるけどね。頭の片隅で覚えていてね?」

 

「うっす」

 

「……あとそんなに畏まる必要はないわ。気軽にベルとでも呼んで。それじゃ、コンゴトモヨロシクね、サマナー」

 

 そう言うと色々とアイテムの入った風呂敷をソファの上へと捨ててベルがDDSに登録された。スマートフォンを取り出して確認するが、そこにはやはり、ベルゼブブという悪魔の名前が登録されている。

 

 氷結、電撃、衝撃、神経、精神に耐性があって破魔・呪殺を反射する上に弱点を持たない優秀な耐性、デフォルトで電撃ブースターを保有し、固有の呪殺ブースターを保有する。体力魔力の両方のコストをカットする事まで出来る為、レベルが下がっている状態でも高位魔法の燃費を改善できる。

 

 正直、今持っている仲魔で一番頼りになりそうだった。

 

『ここでは妾達が先輩じゃからな』

 

『あら、序列とか気にするタチだったのね』

 

『とある事情でね! とりあえずこのアプリ内のトップに挨拶をして貰おうか!』

 

『トップ……?』

 

『お前、ゴムタイヤにキャッチをかけるタイプだな……?』

 

『!?』

 

「早速DDS内が更に混沌としてる……」

 

「楽しそう……」

 

「サマナーよ、私はなるべく外に居たいのだが」

 

 迷う事無く鳩をDDSに戻した。DDS内部から更に悲鳴がホロウィンドウとして片眼鏡のディスプレイに表示されるが、正直煩いので一時的に表示をカットする。これで所持する仲魔はアンを抜けば全部で5体になった。

 

 Lawの四文字、Chaosのベル、Lightのクールマ、Darkのチェフェイ、そしてアライメントとか存在しないというかそういうカテゴリーに当てはまらないスダマ先輩。後はNeutralか、或いはExNな仲魔が増えれば、悪魔におけるアライメントの縮図が完成するなぁ、なんてことを考える。

 

 まぁ、仲魔が増えるのは良い事だ。

 

 俺の実力で指示を出せる悪魔は同時に2体が限度だ。それ以上は頭が回らない。サブで指示を出せるようなやつが必要になってくる。まぁ、その事は後回しにするとして、少しだけ、疲れた。

 

 扉探しをする前に、スティーブンがアプリを完成させるのを待とう、としばらく、バーで休んで行く事を決めた。




 リメイク前にもいた姐御、漸く合流。趣味で仲魔を構成しているけどLNCLDコンプが一つの目標だったり。ベルゼブブと人修羅は縁があるしねー。

 それはそれとして、崩壊した影響でサマナーとかのコミュニティが浮上しつつある現世、お仕事も増えるのだ。という訳でお仕事するよー。変なお買い物もするよー。
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