世界の果て、と言う言葉を知っているだろうか。
無論、多くの物語や神話に出てくる言葉であり、世界一周が嵐の航海者によって為された時に、この星は丸いのだと証明されてしまい、世界の果てなんて存在しない事が証明された。或いは宇宙に終わりがあるのかもしれないが、その先に人類が到達する日はない。それは物理的に不可能な事なのだ。故に世界の果てなんて言葉は戯言だった。
今、この瞬間までは。
この崩壊世界には
その先に何も存在しないのが。
虚無。それを言葉で表現するのは難しい。この陸地の果てへと到達すると、その先にあるのは極彩色の様に見えて無彩色でありながら黒く塗り潰された白。本当に、そうとしか表現のしようがない色がその先には広がっており、その先には未定義空間とスティーブが呼んでいる空間が広がっている。言葉として説明するにはそこまで複雑なものである。だが同時にそれが最も相応しい表現方法である。
この先は情報が欠落している。構成する情報が存在しない。即ち、なんにでもなれるが何でもない状態である。即ち未定義の状態。情報を与えれば本来の形を取り戻すだろうが、今はまだそうではない。故に未定義空間。この未定義空間は、問答無用で物質等を解体し、侵食し、未定義状態にする。情報が足りないが故に、情報を取り込もうとして未定義の領域を増やしているのだ。故にナカノの端で昨日つけたマークを確認すれば、昨日よりもナカノに対する未定義空間の侵食が1cmだけ近づいているのが見える。
「やっぱり、また浸食されてるか……」
確認しつつ未定義空間の中に手を突っ込んだ。運が良ければ何か漂着してたり、拾えたりするのだが、流石にそう上手く行かなかった。成果はなく、手を未定義空間から引き抜く。無論、無事だ。普通の人間―――他のデビルサマナーであっても無事に済まないらしいが、
これが俺の才能らしい。
即ち未定義空間を生身で耐えられる事。異世界、或いは平行世界へと干渉する為にはある種の資質や才能が必要であり、未定義の領域に触れながら情報分解されないのがその才能の証でもあるらしい。そして現在、これが出来る人類は俺一人で、それに生身でついて来れるのは人修羅であるアンのみらしい。俺が保有するという形であれば道具や悪魔は持ち込める為、結局のところ、俺が重要になってくる。
アンも、サマナーがいないと力を発揮し切れない制約を抱いているらしい為、やはり俺が必要になるとのこと。気が極限にまで重い。俺みたいなやつが世界の未来を……なんて考えると眩暈がしてくる。
「だけど世界が未定義に飲み込まれる前に、食料が尽きる方が先だな」
「駄目?」
「駄目。残されたリソースはそんなに多くないからな。ナカノにいる人間自体は大きく減っただろうけど、それでも食えるもんは略奪された後だろうしな……やっぱり、浸食よりも先に飢えるよ。それで終わる」
怖いし、そんな風に死にたくはない。そうなると自分が動くしかないのだ。それがどうしようもなく、恐ろしい。だけどやらなきゃいけない。俺がやらなきゃ誰も出来ない。俺だけがこの状況を変えられる。俺だけがこの先に未来を見出せる。そう考えると心臓が再び締め付けられる。狭心症が再発する。片手で胸を抑えると、アンが軽く抱きしめてくれる。
「大、丈夫……サマナー……私が、いる……から」
「あぁ、本当に、本当に情けない男でごめんな、アン……本当にごめんな……」
「いい……大変……解る」
これに付き合うアンも大変だという事を忘れちゃならない。アンもまた、この責任を背負っているのだ、俺と一緒に戦う上では。なのに堂々としている彼女と比べ、自分と言う男のなんてちっぽけな事だ。本当に、消えちゃいたいぐらいに小さい男だと思う、俺は。そう思いながらも、足を止められない。
探さなくてはならない。手遅れになる前に。扉を。
別の世界へと通じる扉を。
今、未定義となって世界と世界の境界が緩くなっているこの世界であれば、扉という形で世界へと繋がる道が出来ていると言われている。それを見つけられるのは、未定義空間を進める者だけ。或いは悪魔。故に俺が自分の足で探して、見つけ出さなければならない。この世界を救うための扉を。
「コール、マツヤ、チェフェイ」
『あぁ、探索だね? 僕の光輝で君の道を照らそう! 少しでも、君の心を守る為にも!』
「魚の癖して発言が格好良すぎると妾思うんだコーン」
お、キャラ付けかなこいつ? マツヤに対抗し始めたなチェフェイめ。そう思いながら悪魔を増やし、アンにマツヤカリバーという鈍器を与えた状態でナカノを探索する事にする。公園方面や駅の中は既に探索してある。そうなると探索すべき場所は絞られてくる。
「……ナカノサンモールブロードウェイだな」
「む? サマナーよ、汝はそこは狭く、その上でソナー反応が多いので近づけない場所だと言ってはおらんかったかコーン」
『だけど逆に言えばそれだけ悪魔が集まるという事は引き付けるものがあるという事だね、サマナー! それはそれとしてチェフェイ君! その語尾はサマナーにトウモロコシが食べたいというアピールかな!?』
「こやつ……!」
チェフェイに強奪された聖剣マツヤカリバーが今、道路に叩きつけられてがりがり体力を削られ始めている。止めてくれ、そいつは対悪魔に対する万能兵器なんだから、リソースは残しておいてくれ。そう思いながらも、この愉快な仲魔二匹は、出て来るだけで空気が大分温まる。空気を盛り上げ、陰鬱な空気を塗り替えてくれる、と言う意味では非常に頼りになっている。
ぶっちゃけ、アンがいてもこいつらなしでは難しいだろう、明るい空気は。
元々は高位悪魔であったこの二体は、情報を大量にパージさせて超超劣化状態にする事で、大幅に弱体化して生き延びる事に成功した悪魔である。そして運よく、劣化した状態の情報が世界に残されていた存在でもある。この世界再生のために協力し、一言で契約してくれた仲魔でもある。
ぶっちゃけ、悪魔側からしてもかなり恐ろしい状況ではあるらしいのは伝わっている。
『ブラフマーストラは抜かないのかい?』
「スダマ先輩を神話兵器扱いするのは止めろ。……ほら、先輩は一発ぶちかますと周りの被害とか考えないから……」
「トレイン」
なんでアンちゃんはネトゲ用語なんて知ってるのかな? 人間の頃の君って実はゲーマー? なんてことを思いながら最後の仲魔を思い出す。片手で握れるサイズの悪魔、地霊スダマ。もっぱら、スティーブン等を含めた仲魔の間での奴の呼称は色々と変わってくる。
スダマ先輩。ICBMの悪魔。ケラウノス。ブラフマーストラ。スダマのやべーやつ。核兵器。全画面ボム。花火師。ファイナルウェポン。
大体これだけで伝わってくるだろう、最後の仲魔のヤバさが。行動の全てが自爆へと繋がり、それで爆発する事しか考えていない悪魔。それをDDSから召喚するというのはつまり、地形を消し飛ばす覚悟があるという事だ。支配人、消滅前の渾身の最終傑作であった。
時々、支配人のキャラが解らなくなる。
まぁ、その支配人も未定義に飲まれて消えてしまったのだが。
「えーと、《ハニー・ビー》起動して《エネミーソナー》で安全なルートを割り出して……裏手から行く方がまだ安全っぽいな。とりあえず、後に回せば回すほど手詰まりになるのはこっちなんだ。何時崩壊が加速するか解ったもんじゃないしな。今のメンバーなら奇襲でも喰らわなきゃ大きく崩れないだろうしな」
《アナライズ》して確認するレベルは人修羅・アンが9、マツヤが7、チェフェイが7、スダマ先輩が6、そして自分が6になる。ダントツでアンがレベルでは上であり、弱点手段としての火炎属性を保有している。チェフェイも耐性が優秀なので、肉壁として使うと結構耐えてくれるし、自分の記憶が確かならブロードウェイがそもそも、大人数が一斉に襲って来れる様な広さではない。
このレベルと面子であれば探索は無謀ではない筈だ、と認識する。そもそも情報欠落で出現レベルは8,9ラインで限界だ。それぐらいだったらもしも、本当にやばかった場合、
ナカノのオタク文化を犠牲にスダマ先輩を解放するだけだ。おそらく跡形もなくブロードウェイが消し飛んでしまうが、命には代えられない。なので準備は万全……とはいいがたいが、ここらで乗り込んでおかないとやはり、何時まで経っても乗り込めない気がする。そうと決まれば早く、
この決心が揺らぐ前に進む。
「なぁに、妾の経験値にしてくれようぞ。そして再び九尾に! 九尾に!」
特にチェフェイはレベルの下がっている状態が不本意らしく、結構戦う事には積極的でもある。マツヤ、そしてチェフェイを同時に出した状態はそれなりにMagを消耗するが、それでもこの二匹を出している間は必要以上にゾンビの類を避ける必要がないのが強い。まずそもそもチェフェイ自身が元高位悪魔だっただけに能力が同レベルの悪魔と比べて高くなっている。見た目は幼女の癖に、爪だけでゾンビを真っ二つに出来る。
だがそれ以上に、
『行くよ、人修羅! 僕らのコンビネーションを見せよう!』
「ん」
そう言うとアンはマツヤカリバーを構え、それを全力でスイングし、
『ハマ!』
マツヤが魔法を発動させた。ハマ、つまりは破魔属性の魔法。その名の通り、ダーク系やアンデッド系に恐ろしい効果を発揮できる魔法である。本来であれば範囲が狭い魔法ではあるが、人修羅の謎のスイング打法によって、マツヤボディから放たれるハマの光が全体へと降り注ぎ、マツヤカリバーによる破魔の光がゾンビたちを消し飛ばすのだ。これで消耗する魔力は破魔一回分なのだから、便利だ。
『流石人修羅、ナイススイング! これなら甲子園のホームラン王すら狙えるとも!』
「グッ」
マツヤとアンのやり取りを見ていると、アレが本当に悪魔なのかどうか、疑わしくなってくる。
「いや、アレが特殊だからコーン」
「いい加減その語尾似合ってないから外せ」
「えっ」
軽くショックを受けたようなチェフェイの姿を引きずりながらナカノの街を駆け抜けて行く。単純に街中を歩くだけであればこの数日間で既に慣れているし、レベルの上がっている恩恵で躓く事もない。
そのまま、ブロードウェイの中のアプリで確認しつつ、1階のゲームセンター部分から中に侵入する。
かつては煌びやかな光と音によって出迎えたゲームセンターも、今では稼働が停止し、入り口だったガラス扉は完全に砕け散っている。その代わりに死臭と、そして溜め込まれたMagの気配がする。何時もとは違う悪魔の気配に、自然とガイア寺院で調達したショットガンを両手で握り、構えていた。
「……やっぱ、外とは気配が違うよな」
『サマナー、気を付けるんだ……ここは死霊達とはまた違う種類の悪魔のテリトリーみたいだ!』
マツヤの警告を耳にしつつ、ゲームセンターに踏み込み、周囲を見渡し、
アプリから警報が入る。
「奇襲だッ!」
言葉を口にするのと同時に、ゲームセンターの躯体の影から飛び出してくる姿が見える。反応よりも早く照準を合わせ、引き金を引こうとするのを止め、
「チェフェイ!」
「妾の扱い雑じゃなかろうか!?」
チェフェイを呼び寄せて肉壁として、飛び出してきた姿を見た。チェフェイの姿が幼女である事を含めて中々に刺激的な光景だが、両手を交差させてガードに入ったチェフェイの腕は、長く伸びた爪を止めていた。
「インプじゃ、なっ!」
「ケケケケケ、人間ダ、人間ダ」
「家畜ガ増エタゾ」
「男ハ殺シテ女ハ上ノミタイニ飼ウゾ!」
『解りやすいセリフだね!』
煩いぞイケメン魚。そう言葉にする前に《アナライズ》と《ギボ・アイズ》が即座に解析情報を取得し、表示させる。
「斬・打・雷耐性! 射・衝・疾・重・破魔弱点!」
「マツヤビーム」
「ギョアアアアアアア」
「あ、妾知ってるこれ。即落ち2コマであるな」
「その知識はどこから来てるんだお前ら」
狭いゲームセンター内に回避する場所なんてなく、必殺マツヤカリバーが光って放たれる。ゲームセンターの通路内に順番待ちしていたインプ共がマツヤビームで蒸発して行く中、力で勝利したチェフェイがインプを掴んでは床へと叩きつけ、そうやって動きの停止したインプの頭をショットガンでぶち抜いて殺害し、襲い掛かって来たインプを虐殺した。
残留マグを吸収し、そしてそこから魔石を取得し、ストレージへと送りながらうーん、と軽く唸った。
「インプの巣か……」
ショットガンの弾丸を装填しつつ、チェフェイに周囲の警戒を任せ、軽く考える。結構派手に戦ったつもりだったが、《エネミーソナー》には近づいてくる悪魔の反応がない。いや、隠れている可能性も存在する。だがそれを加味しても、破魔が通る相手ならマツヤカリバーアタックでどうにかなる。だけど軽く疑問に思うが、それ、絶対にハマじゃねぇだろ。
「……よし、探索続行だ」
「お、今日のサマナーはイケイケじゃな」
「イケイケ」
『聞こえたかい、貪欲界の主。アレが本物だ』
「前々から思っていたんじゃが、お前もしかして妾を目の敵にしていない?」
そんな事ないよ、とかいうマツヤの怪しい発言を耳にしつつ、溜息をつく。だが今の戦闘で少しだけ判明したことがある。ここはインプ共の拠点になっている。そしてそれに囚われている人がいる。そしてインプのレベルは9だった。つまり、数字だけであれば、今のアンに匹敵するレベルを保有している。
……とはいえ、根本的なステータスの強さはまるで違うのだが。
ここら辺、数値化して見れるのはスティーブンのおかげだ。感謝しなくてはならないだろう。このアプリのおかげで即座に数値を確認し、相手の得意、不得意を理解して行動することが出来る。まぁ、レベル9だったら目くそ鼻くそレベルなのだが。それはそれとして、インプは単体ではそこまで恐ろしくはない。
ただ、保有魔法に
「そこは妾に任せると良いぞ、サマナー。なんといったって妾は精神攻撃に対しては耐性を保有しておるからな。他の者たちが睡眠に落ちても妾が即座に叩き起こしてやろう」
「睡眠対策の道具が欲しい所だな……いや、駄目だ。この勢いを挫くべきじゃないな。進もう。まずは1階の探索だ」
この狭さならショットガンで纏めて薙ぎ払えるから、俺でも戦える、と呟きながらゲームセンター内を探索する様に歩き出す。ここにはもう、インプの気配はない―――潜んでいなければ。一目で解ると言われる扉を探しながらも、心は少しだけ、怯えていた。
アンは、軽蔑しないのだろうか。
2階へ助けに行こうと言わなかった俺を。
自分でも少しだけ、その選択肢を迷う事無く選べた自分に驚き、失望している。でも、確かに合理的なのだ。上にはたぶん女がいる。インプたちの慰み者として。そしてそれを放置している間は、インプがそれに群がっている。となると此方はその分、被害に悩まされずに探索を行う事が出来るし、第一今助けに行ったところでどうせ手遅れなのだ。助かる訳がない。
だから……見捨てた方が良い。
そう考え、迷うことなく判断を下した自分が―――どうしようもなく、気持ち悪い。だけど同時に、アンに見捨てられるのがこれ以上なく心細く、彼女がどう思っているのか、何を考えているのかが全く知りたくなかった。
ただ、彼女の心を知るのが恐ろしかった。
だから頭から辛い事を追い出し、探索する為に必要な事だけで脳味噌を支配した。
もっと、割り切れる様にならなくてはならない。
「……まだ学生だった頃はちょくちょくこっちにも遊びに来てたんだがなぁ」
あの頃のナカノの面影しか残っていない。荒れ果てたゲームセンターはまさに世紀末と言う言葉に相応しい。ただやはり日にちがそこまで経過していないこともあって、埃の類は少ない。だがその代わりに残留Magが道具へと変化している所もあった。ゲームの筐体の横を見てみれば、魔石なんかが転がっているのが見える他、
「これは……ムドストーン、か。えーと……小範囲に呪殺属性、と。あー……成程、ゾンビやインプとかがいるからこんなもんが出来るのか……」
「まぁ、怨念見る限りここで200人は死んでるようじゃしの」
何気なくチェフェイが放った言葉に、握っていたムドストーンを落としそうになる。200人。それだけの怨念を詰め込んで、この道具がMagから構築された。その禍々しく黒く濁った石の輝きを見た。
「とはいえサマナーよ、ムドは呪殺属性では一番弱い魔法じゃからな?」
「200人死んで、これ1個なのか……」
「いや、そういう訳ではない。純粋に恐怖と怨念が弱かっただけじゃろう。魔石を使えば怨念と瘴気を吸って後10個ぐらい作れるじゃろうが……まぁ、呪殺弱点のLightやLaw系統悪魔は現在、出現しておらんようじゃしの……」
『まぁ、ほとんどメシア教会が独占している状態だよねっ!』
「輝くな、輝くな」
マツヤフラッシュ、と叫ぶとチェフェイが目を焼かれて転がる。ムスカ大佐じゃないんだから遊ぶのを止めろよ……とは思っても、なんだかんだ面白いし、警戒自体はしっかりやっているので注意が出来ない。そういえば元高位悪魔なのだから、そこらへんはお手の物なのかもしれないなぁ、と思いながらゲームセンターを探索する。
結局、見つけたのは魔石とムドストーン数個だけだった。
当然ながらデビルサマナーの道具は裏社会の物であり、通常の表のルートで販売されるものではない。その為、表の世界でそれを見つける様な事はほぼない。今、こうやって魔石やムドストーンを発見できたのは、環境の変化、そしてMagが思念の影響を受けて変質しているという所にある。
とはいえ、違和感はある。
孕めない、Magが生み出されない。そんな状況で何故、魔石やムドストーンの様な道具がアプリの力もなしに生み出されているのだろうか? 生殖概念が死んでいるこの崩壊世界では悪魔から道具情報の形成はまずないと思っていたのだが。
「……まぁ、探索を進めれば解るか」
『うん! 解らない事を悩んでいてもしょうがないからね! 進める時は前へと進むこともまた勇気さ!』
「相変わらずクッソ忌々しいほどに輝いておるの、こやつ」
『
「あああぁぁぁぁぁ―――!!」
こいつらまた身内で殺し合ってる……。溜息を吐くと肩にぽん、と労う様にアンが手を置いてくれる。味方は君だけだよ、と呟きながらショットガンを抱え直し、それを前方へと向けながら探索を再開する。ナカノブロードウェイにはオタクカルチャー向けの店舗だけではなく、不二家とかの店舗もあったはずだ。
上手く行けば貴重で、そして価値の高い甘味が手に入る。お菓子の類はメシアやガイアも喜んで受け取ってくれるし、是非とも入手しておきたい。サンモールの方は比較的に悪魔が少なくて略奪済みである為、ブロードウェイで調達しておきたいものの一つだった。そう思いながら《エネミーソナー》と《百太郎》による反応を注意しつつ、1階の探索を進める。
結局、1階のインプは殲滅するハメになった。
別に、ヘマをしたという訳でもないのだが、探索する上でこそこそと隠れながら探すというのが単純に重労働だった、というだけの話だった。隠れているのなら話は別だが、相手を特定する為の道具は既に存在しているのだ。だったらこっちから背後を取って奇襲すれば、それで一方的にインプぐらいであれば狩れる。問題はマツヤの魔力の減りぐらいだろうが、それも相手を倒してアイテムゲットする魔石があれば何とか収支を±0で抑えることが出来る。
そういう事で探索、奇襲、回復。受けたダメージはアンのディアで回復しつつ1階の探索を終えた。どうやら早期からインプたちの巣になっていたらしく、略奪の気配は薄かった。ガイアかメシアが此方に乗り込んで既に探索したのかもしれない、と思っていたが、そんな気配もなく、純粋に手つかずの状態で多くの物が残されていた。なぜだろうか、と思う反面、ラッキーだと思わなくもなかった。
何より保存の効く甘味の類を入手できるのが良かった。ケーキやプリンの類は全滅だったが、これが飴玉とかになると長期保存可能なので、ちゃんとパッケージのまま残っていた。そういう意味では収穫はあった。こういう趣好品の類はある意味、戦闘用の道具よりも価値があったりする。
どれだけ強く戦えても、心が死んでいては意味がない。
心に潤いがなければ人は生きていけないのだ。そういう意味で、こういう甘い物だったりする物の調達は重要だった。ただそういう成果が出た半面、1階での探索は別方面では失敗だった。
扉に関する手掛かりがなかった。
インプたちのレベルは9で、そして外と比べると明らかに多すぎる、と言う数のインプたちがここには溢れている。外の崩壊世界と比べれば明らかに異常な数、そして高いレベルを保っている。単純に人間牧場をやっているだけでは答えにならない。そういう、高いレベルを維持するだけのリソースがこの世界にはない筈なのだから。
……つまり、それを可能にさせる概念が、或いは何かがある筈なのだ。
そしてそれが1階にない以上、
2階に行くしかない。
「……仕方がない、上に行くしかないんだな」
電気の供給はとっくの前に停止している。故に動かなくなったエスカレーターの前で足を止めながら、見上げた。一番インプの気配が遠い場所を選んで上がれる場所だ。だが上階へと上がるという事は、先ほど見捨てると判断した人間の気配を探知できる範囲に入る、と言う事だ。
「……行こうか」
いや、悩む事じゃない。悩むような事じゃない。世界の為の方が遥かに重いのだから、くだらない主義主張は今は捨て去って生きなきゃならないのだ。だから迷うことなく、軋む心臓を無視しして判断をして、エスカレーターに乗った。とはいえ、電源は切れて久しい。動くわけもなく、歩いて登って行く。
そうやって上がって行くエスカレーター、上へと上がって行けば上がって行くほど強く感じ取れるのは
「どうやらインプ共め、中々にやんちゃをしておるようじゃの」
『サマナー、ここはMagの気配も濃いから気を付けるんだ』
「あぁ……いや、それはそうだが……何故?」
別に精液臭い事は辛いけどいい。だが何故こんなにもMagの気配が濃いのだろうか? これがインプたちのレベルが高い事の原因であるのはまず間違いがない。だがおかしい……今、この崩壊世界にこれだけMagを集められるだけの力はない筈だ。セックスだけでMagを集められるのなら、ガイア寺院は今頃Magパラダイスになっているだろう。だがそうなってはいない。
「アン、大丈夫か?」
「少し……臭い……」
僅かにだがアンが顔を顰めるのを見て、この子もそんな表情が出来たんだな、と笑ってしまいそうになった。だがそれを堪えて2階へと上がった。それで《ハニー・ビー》によるマップ表示をすると、そこに見慣れない青い点が表示されるのが見えた。
直後、スティーブンから通信が入った。
『良くやった、サマナー君。その青い点は君の感覚視野を借りて探知した、扉の場所だ。そこへと向かってくれ。そして悪魔がいるのであれば確保するんだ』
「了解……旧ブロードウェイのマップと合わせると反応は管理事務所か。って事は丁度反対側だな」
「臭いの元もそっちからじゃな」
『Magの密度もそっちが大本かな!』
「うわぁ……」
いや、まぁ、そうなるよね? そんな事を考えながら確実に発生する戦闘の気配に、ショットガンから武器をベレッタへと変更させ、弾丸の中身を通常弾から神経弾へと切り替える。無銘の刀を抜刀状態にし、左手で握り、サムライ&ガンマンスタイルに切り替える。
切り替えた所で強くなる訳じゃないのだが。
ゲームじゃあるまいし。
でもスティーブン、アナライズ結果をレベルやステータスで表記するしあの人、絶対に重度の廃ゲーマーだよね、とは思わなくもない。まぁ、元ゲーマーとしては実際に解りやすい表記なので非常に助かるのだが。それはともかく、仲魔達にも今のうちに魔石を使って魔力を回復して貰い、
「マツヤ、場合によってはイケメンモードになって貰うから」
『まぁ、感じる気配からするとそこまで心配は必要ないと思うけどね、僕の方は準備万端さ! さぁ、世界を取り戻す一歩を踏み出そう……マツヤフラッシュ!』
「ぐぁぁああああ―――!!」
またチェフェイが焼かれてる。回復し直す必要が出てくるからほんと止めろ。アンからマツヤを奪って壁に五回ぐらい叩きつけてからフラッシュを止めさせ、今度こそ回復などを終わらせてから事務所の方へと向かう。
銃を何時でも打てるようにした状態でゆっくり、ゆっくりと接近して行く中、段々とだが音が聞こえてくる。
最初に聞こえてくるのはパンパン、と肉を打つ音であり、そして同時に女が漏らす嬌声だが―――声が枯れている。もはや快楽なんて通り越して、痛みも通り越し、タダの穴として扱われている、半死人状態の肉穴とでも表現すべき声だった。そしてそれは見える範囲にまで近づけば見えてくる。
10数を超えるインプ達、《アナライズ》によって表示されるそれらのレベルは10や11、と他のよりもやや高くなっており、数匹が一人の女に群がる様に同時に犯しており、女は完全に虚ろな目を白く染め上げながら時折あ、あ、あ、と声を零すだけだった。もはやそこに一切の理性も正気も、人間らしさも見えない。
完全に、心が壊れた道具だった。
「……っ」
見たくなかった現実に、歯を食いしばりながら耐えろ、と自分に言い聞かせる。こんな光景、今の崩壊世界では見かけるものだし、これからも増える光景なのだから。こんなことで一々怒っていては駄目だ。
心臓を締め付ける痛みに、頭が冷静になって行く。
「―――遠慮せずに殺せ」
女を犯すのに夢中な悪魔の中に、連続で引き金を引きながら命令を下した。弾丸が一番近くのインプに刺さり、そして僅かに逸れた弾丸が犯される肉に当たった。だがそれでも引き金を引くのを止めずに、連続で引き金を引き、弾丸をばら撒きながら仲魔を突っ込ませた。
「任せて」
「良い、それで良い」
「ウケケ―――」
インプ達が反応するよりも早く奇襲が刺さった。入り口から部屋全体を満たす様にアンのファイアブレスが吐かれ、事務所全体を燃やし尽くしながらチェフェイがザンによるかまいたちを放った。インプたちは燃えながら切り刻まれ、そして床でびたんびたんと跳ねるマツヤがハマをその中へと投げ込んで行く。
沸き上がる悪魔の悲鳴を無視しながら弾丸を炎を突破してこようとする悪魔へと狙って打ち込み、神経弾の効果でスタンさせ、ザンで首を斬り飛ばして炎の中へと放り込んだ。
やがて、炎が消えるのと共に部屋の中を埋め尽くすインプ達の姿が消え去る。
残されたのは燃え尽きた事務所の姿、こびりついたような精液の匂いとMag、
そして黒焦げになった女の死体が幾つかだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……」
持ち上げる銃が、恐ろしいほどに重く感じる。震える腕を引き戻そうとするのに、手が動かない。息が苦しく、焦点が定まらない。ゆっくり、ゆっくりと息を吐き出し、銃を下ろす。
大丈夫だ。俺は、やれる。やらなくちゃいけない。やってのける。大丈夫。きっと何とかなる。世界が再生すれば、きっと他にも出来る奴が増える。そうしたら俺は解放されるはずだ。それまでの我慢だ。だから大丈夫。これぐらい問題ない。そう、死体ぐらい何度も見ている。生きながら食われている人間だって見ている。助けを求めているクラスメイトを見捨てたりもした。これが初めてじゃないんだ目の前で死を見るのは。落ち着け、他のインプが来る前に落ち着け。大丈夫、まだ、俺はやれる。落ち着いて、落ち着いて―――。
「りゅーじ」
唐突に、暖かさを感じた。気が付けばアンに抱き寄せられていた。頭を胸の中に抱かれる様に寄せられ、そして頭を撫でられていた。いきなりの事に何かを言おうとして……だけど、あまりの情けなさに言葉も出なかった。すこしだけ、アンに胸を借りて息を吐き、
「……ごめん」
「ん」
そのまま、少しだけアンの好意に甘える事にした。彼女の胸の中は……凄く、落ち着く。だけど同時に、守られているという感じが死ぬほど情けなかった。強く、もっと強くなりたかった。カオスもニュートラルもロウなんか気にしなくてもいいぐらい、自分の意思を貫いてブレない強さが欲しかった。
それで落ち着いて体を剥がした所で再び探索再開しようとしたところで、
チェフェイと床の上でびたんびたん跳ねるマツヤの姿が見えた。
「見た?」
『見たとも! 実に美しい愛だったね!』
「アレじゃな。妾知っとるぞ。これ、この後で睦み合うんじゃな。妾そういうのちょー詳しいから知ってる」
『本能だから仕方がないね!』
「ふんっ!」
「あぁ!? 魚がインプの精液たっぷりの床を滑って行く―――ざまぁ……!」
マツヤを部屋に残った精液の中へと蹴り飛ばした後で、ついでにチェフェイも精液の中へと蹴り飛ばしてやる。ぎゃああ、と叫んでマツヤのハマが乱射されてチェフェイが集中的にダメージを受けている光景を無視し、
今更ながら恥ずかしさが沸き上がってくる為、銃をベルトに戻しながらアンから視線を背けて室内の探索を行おうとするが、
「まぁ、アレか」
事務所奥へと視線を向ければ、そこには木製の美しい装飾が施された扉があった。明らかに一つだけ、まるで異質な気配を放っている扉はこの世界よりも存在感がはっきりとしている……ような気がする。刀を仕舞いながらスマートフォンを取り出し、写真を撮ってスティーブンのへと送信する。
「とりあえずこれで良いんだよな?」
近づきながら扉に軽く触れる。確かな感触が存在する扉は一見木で出来ている様に見えるが……その実、
「やーい、サマナーの童貞やーい」
「スダマ先輩投げつけるぞオメェ」
「ひぃっ」
オラ、とっととDDSに戻れこいつ、とマツヤとチェフェイを帰還させた。とりあえず《エネミーソナー》に悪魔の気配はないため、Magの節約の為にも戻しておく。何よりも、相手がインプオンリーだったおかげで割と戦闘は楽に終わった。
―――手をかけたものから目を反らしつつ。
あまり、深く考えない事にする。ともあれ、
「スティーブンからの返事を待つと―――」
「サマナー!」
アンがそう叫ぶと同時に素早く接近し、此方の腕を掴んだ。何事か、と思った瞬間には扉が光を放っていた。その一瞬で事務所の外へとアンが此方を掴んで飛び出したが、着地した足場は一瞬で未定義色に染まっており、場所も完全にナカノブロードウェイではなく、未定義空間へと変質して、
残されていたのは扉だけだった。
「どうなってんだ……!」
意味の解らない事態に、振り返りながら扉を見た。
そこには言葉が刻まれていた。
もっと意味の解る言葉を刻めよ、と毒づき、行動を映す前に扉は開かれ、
そこから溢れ出す光に飲まれて、全てが塗り潰された。
Q.リメイク前と今回での仲魔のフリーダムさの原因は?
A.サポート側が本気だから。
FGOっぽさあるけど、元というかイメージ先はイストワールのが近い。なので普段の黒幕サイド的連中が味方、そして勝ち残って再生するのに本気であるので、それに合わせスダマ先輩もマツヤカリバーもバージョンアップしている訳でして。
それはそれとしてひとしゅらちゃん尊い。