「えー、あのー、あー、はい! そのー、ですねぇー、私はー、そのぉ……はい! 西田、と申しまして……」
「お、おぉう……」
場所は変わり、ヤタガラスのスカウトマンと名乗る男が連れて来た別の喫茶店へと変わっていた。アンの服を買うだけの時間が有ったので軽く買い物を済ませてからではあったが、服屋を出て喫茶店に入り、テーブルを挟んでスカウトマンの西田と相対していた。未だに《エネミーソナー》には外部から此方を追跡する赤点の存在を示しているし、マークは外されている訳ではなかった。ただなんというか、スカウトマンの滅茶苦茶腰の低い態度には驚かされている。喫茶店に入って新しく珈琲を注文しつつ、どうしたもんかこれ、と西田を眺めつつ考えていると、
『あまり油断しない方が良いよサマナー』
と、ヴァラーハがDDSから警告してきた。
『うむ、この者はどうやら完全に演技をしている様子じゃからの。道化を演じる事である程度喋りやすくしている様じゃからな』
うわぁ、怖い。心の中でガードを開けつつ、うだつの上がらないサラリーマンの様な喋り方をする西田の言葉に耳を傾けつつ、
「それで、えーと……スカウトマン、だっけ?」
「えぇ、そうです。実は唐突に帝都に超人と中々力のある魔人の気配が増えたもので。しかもそれも隠さずに歩き、買い物を楽しんでいるとなると、こう、目的が解らない、と言いますかぁ……その、判断に困りましたが、どうやら悪性ではなく善性の存在に見えますし、帝都に害にはならなそうだなぁ、という判断から接触してみた次第でしてぇ」
「あぁ、成程。それなら心配はない。此方はなんというか、観光半分でちょっと遠くから帝都に遊びに来ているだけだから。一ヵ月か二ヵ月もすれば帝都を出て、元の場所に戻るよ。まぁ、それまでは観光したり、遊んだり、こっちで仕事を探して住める場所を探さなきゃいけないんだけど。帝都やヤタガラスに対する害意はないよ」
「ほうほう、成程、そーでしたか。いやぁ、そう言って貰えると安心ですねぇ」
『真偽の呪符辺りでも使っているのかのぉ? 言質を取れたから露骨に安心しておるわ。まぁ、いきなり超人が暴れ出せばクズノハがおるとはいえ、到着までに街の一つや二つは消し飛ばせるだけの力はあろうから当然と言えば当然であるか』
『まぁ、サマナーにそんな事は絶対に出来ないでしょうけど』
そこ、煩い。DDS内部の悪魔どもを一喝しつつ、それで、と西田へと向き直る。隠す必要のない事を口に出して、安心させてしまおう。
「ぶっちゃけ、しばらく帝都に滞在させてくれればそれで他に求めるものはなにもないんで。いや、まぁ、お仕事の仲介か紹介でもしてくれたら嬉しいんだけど。どこへ行けばいいとか解らないから」
それを聞いた西田が成程成程、と呟きながら頷き、そしてそうですね、と口を開く。
「なら此方で仕事を斡旋しましょう。ついでに住む場所も」
それに即座に返答してきた西田の言葉にふむ、と考える様なふりをする。いや、割と真面目に直ぐに食いつきたいのだが、そうやって食いつくと安く見られるものだ、と教わっているので直ぐに食いつくようなことはしない。その間にDDSからアドバイスしてくる仲魔達の声に耳を傾ける。
『まぁ、十中八九超人級の実力者に首輪をかけておきたいのでしょうね。貴方と人修羅だけでも十分に破壊を巻き起こせるし、発生してから対処するよりは事前に対処方法を用意しておく方が楽だし。何よりも満足できるものを用意して満足させられるのなら、それで十分よ』
『下手な敵対よりも飼い殺し。基本じゃな』
「無論、ヤタガラスの紐付きになれと言っている訳じゃありません。どうやら転移で日本国内へと飛んでこれる技術のサマナー、我々としても下手な敵対はしたくない所でして……」
「いや、此方も長く滞在するつもりはないからな。家賃代わりに依頼を2、3程回してくれればそれで文句はない」
「おぉ、そうですか! では細かい話に移りたいと思いますが―――」
「あー……そういう話は仲魔の方が得意だから」
「……って、ちょっと、サマナー!」
面倒だから後は任せた、とベルを召喚する事にした。一瞬、身構えられるも、スーツにサングラスの姐御ルックのベルが出現し、入れ替わる様に座りながら足を組むと、一瞬で西田の気配が変化し、戦闘態勢とも言える交渉モードに突入するのが見えた。なんとなくだがこのまま俺が喋っていると徹底的に毟られそうな気配がしていたしバトンタッチさせたが、これで正解だった。
「俺とアンの平和な帝都生活の為に頑張れ、頑張れ」
「後でジオハメするわよ、サマナー」
「やめろ、俺に電撃耐性はないから、マジでやめろ」
「だ……め」
「……仕方がないわねぇ」
アンの言葉が決定打になり、制裁を諦めたベルは魔界での手腕を発揮する様に―――或いは日々、悪魔王に投げつけられている案件を処理するかのように、一気に仕事に乗り出した。或いはアンという存在の為であるからこそやる気を出しているのかもしれない。そんな事を考えながら、交渉人西田がベルと戦う為に、
横にスライドしてお互いに土下座とその妨害合戦を繰り広げ始める非現実的な姿を見た。
そして、ベルのおかげで何とか交渉が纏まった。ヤタガラスの目的は国家の守護であり、見慣れないサマナーが歩き回っているのが非常に不安であるから接触したというとても良く解る話だっただけだった。ベルが言うにはフリーのサマナーであればそのままヤタガラスに取り込む事も考えていたが、そもそも帝都を出て行くつもりであるならば其方方面で交渉するのも難しいので、帝都での一時的な滞在場所と、そして給料を提供する代わりに、帝都で発生する幾つかの悪魔関連の仕事をこなしてくれれば良いという運びになった。
ちなみにこの話、最初は穴だらけであり、キチンと話を詰めない限りは無限に仕事をやらされたり、ヤタガラスの監視員と生活させられたりで、ベルに話を任せていなければ面倒な事になっていたという話なので、判断は間違っていなかった。細かい話は頭の隅の方に押し込んでおくとして、
ベルと西田の交渉の果てに、念願のマイホームを手に入れる事が出来た。
しかもなんと帝都の一等地、という事で手に入れた家は昔ながらの武家屋敷風の建造物で、トイレや風呂とかは現代風にカスタムされているタイプの家だった。ヤタガラスが保有しているセーフハウスとか、要人を囲ったりするための場所だろう、とベルは言っていた。
全体的に広く、自分の実家や住んでいたアパートとはまるで違う上に、あのスティーブンの酒場の様に狭さもない。いよいよ、自分だけの城を手に入れたような気分になって、非常に気分が良かった。そしてマイホーム獲得記念という事もあり、所持している悪魔を全員、一時的に開放する事にした。というのも敷地内であれば、悪魔を自由に召喚していても問題なし、というのをヤタガラスから教えられた為、今までの様にDDS内に押し込みっぱなしにする必要もなくなったのだ。
そういう訳で庭付きの武家屋敷の縁側でヴァラーハ、チェフェイ、ベル、鳩、そしてスダマを召喚する。縁側から座った状態で召喚しつつ、
「それじゃあ敷地内で暴れない限りは自由行動。午後からはなんでもここ、冷蔵庫が置いてあるらしいのでその中に食べ物をぶち込む為に買い物って事で。それまでは解散! 俺はここをちょっと探検する!」
『悪魔王シェフ』
「人の王をシェフ扱いしてるんじゃないわよ邪神。いや、呼べたら料理させればいいし便利だってのは解るけど」
そう言うとベルはスダマでリフティングし始めていた。蹴り上げる度にスダマが爆発しないか滅茶苦茶不安になるのだが、どうやらベルはスダマとパーフェクトなコミュニケーションが取れているらしい。スダマが両手を広げながらわぁぁい、と楽しそうに蹴り上げられ、それにベルがしばし付き合っていると、アンに呼ばれて奥の方へと去っていった。スダマも蹴り飛ばされて庭の池の中に突入、そのまま池の中でぷかぷかと浮かんでいる。
「じゃ、妾はここで日に当たっていよう」
「僕もしばらくはここでのんびりさせて貰うよ。中々DDSの外でゆっくりする機会はないしね、今のうちに
「くるっぽー」
そう言うとチェフェイは四尾の狐の姿になって縁側でまるまって日向ぼっこを始め、そしてヴァラーハもイケメンの姿に変態し、そのまま庭の中央で半裸になって太陽の光を浴びる様に目を閉じた。どうやら陽の光で沐浴しているらしい、ヴァラーハは。なんというか、実にインドチックな物を感じる。鳩? 奴は池でばしゃばしゃし始めている。完全に鳥類だった。
「って、俺一人かよ……」
自由時間を与えた俺が言うべきではないかもしれないが、それはそれとしてお前ら自由過ぎない? ベルはアンの事好きすぎない? いや、アレはなんというかお姉ちゃん的構いっぷりだよなぁ、と思い出しつつ呟く。とりあえずウチの仲間たちはまるで探検に楽しさを見いだせないらしい。悲しく思いつつも、基本的に戦う時以外は連中はDDS内で待機状態なのだから、こんな時ぐらいは自由に出してやるか、と納得しておく。
ともあれ、探検タイム。現代式のトイレがあるとは聞いているが、まずは本当かチェックせねばならない。靴を脱いで中に入りながら、まずは畳張りの居間を見つけた。畳―――そう、畳だ。実家でさえ見なかった畳がなんと、あるのだ。靴下を脱いでちょっと素足になって、そのままそれでちょっと畳の感触を足の裏で感じる。
ちょっとだけつるっとした、言葉にも出来ないこの感触、実に畳である。
無駄にテンションが上がる。ひょっほい、と声を出しながら廊下に出て、歩き回ってみる。適当に入ってみる部屋はどうやら台所だった。サイズはかなり大きく、自分が知っているのとは違う形状をしているが、冷蔵庫が置いてあるが……キッチンが当然ながら自分の知っているシステムキッチンとはまるで違う環境なのは困った。洗い場は解るが、他の火の事とか、米とかどうすりゃあいいんだ、と軽く思えた。
「あぁ、飯炊きなら妾に任せると良い。現代の物よりは此方の方が妾には馴染み深い」
「ん? あ、駄狐」
「駄狐ではないわ!」
振り返れば先ほどゴロゴロしていた筈のチェフェイがそこに居た……と思ったが、何か妙に小さいし、気配が弱い。サイズも掌に乗るレベルのサイズであり、妖精さんとでも言いたくなるサイズなので、それを片手で掴んで、掌の上に乗せる。ピクシーが確かこんなサイズだったよなぁ、と崩壊世界で見た姿を思い出す。
「どうしたお前」
「式じゃよ、式。四尾ともなればある程度の呪術も使える様になるしの。寂しそうにしているサマナーを放置するのもあれじゃし。妾の分身を連れて行けば少しはリアクションも楽しめるじゃろ」
「お前、なんだかんだで面倒見が良いよな」
「そうかや?」
そうだよ、と答えながら頭の上に投げて置いておき、そのままキッチンを確かめる。どうやらここに滞在している間はチェフェイが料理を担当してくれるらしい。そのクオリティに関しては既に巌戸台分寮で保証されているので、何も心配する必要はない。となるとちゃんと材料とかの諸々を買い込んでおく必要があるな、と脳内でチェックリストを入れておく。それはそれとして、次だ。
台所を出て再び廊下を経由する。どうやら廊下で離れへと移動する事が出来る他、其方にも寝室があるらしい。とはいえ、寝室も離れを入れて全部六つぐらい存在するみたいで、スダマを含めて全員別々の部屋で寝るぐらいの事は出来そうな程には広かった。
更にちゃんと風呂場もあった。とはいえ、ここに置いてある風呂は何と薪を入れて温めるタイプらしく、事前に薪を用意しておかないと風呂に入れないという事実が発揮する。まぁ、今更薪割りで疲れる様な存在ではないのだから、パパっと用意して割っちまえば問題もないだろう。
そしてそこからついにトイレを発見する。驚く事にあの駅とかで見かける和式の現代に近いタイプのトイレが設置してあった。かなり清潔であるし、正直、これなら普通に使えるので安心した。
この屋敷全体が何時でも使える様に手入れをされているらしく、清潔なのと使いやすい状態でキープされていたのが悪くない。所々監視用の道具が仕込まれているのは巌戸台の時と変わらないが、どうやらチェフェイはそこら辺の呪術にもある程度詳しいらしく、歩きながら指摘するのでサクサクとプライバシーの為にもそれを回収して潰して行く事にした。そうやって歩き回っている間にも他にも地下室があるのと、裏には蔵があるのも確認できた。
どうやら予想していたよりもベルがぶん捕って来たこの場所は本格的な物件だったようだ。
「蔵の中に掘り出し物とかサービスでないかな?」
「流石にそこまではないじゃろ……とはいえ、気にはなるの」
ノリの良い駄狐め、と笑いながら蔵の方へと向かった。まぁ、中身が空っぽだったとしてもぶっちゃけ、探索する事そのものが楽しいので一切問題はない。と、縁側で靴下と靴を履きなおしながら、こっちでの生活用にサンダルでも買った方が良いなぁ、と思いつつ蔵の方を確かめる為に扉へと近づき、
―――。
「ん?」
「サマナー?」
ぴたり、と蔵の前で動きを止めた。
……歌声が聞こえる。
聞いた事のある、静かな歌声だった。軽く首を傾げながら蔵の扉を確認すれば、鍵なんてものはかかっておらず、押せばそのまま普通に扉が開いた。その向こう側に広がっていたのは広い、蔵の内部だった。当然の様にそこには何も置かれていなかった。
一つの青い扉を除いて。
まるでこの世の物ではない青い輝きを放つ扉は一つ、完全に別世界へと繋がる物であるのを、即座に察知した。そういう感知系のセンスに関しては天賦さえも超えるものがあると評価されるだけはあった。だからそれを以て、即座にその先がなんであるのかを理解する事が出来る。その向こう側には見知った人物が三人ほど居て、安心感を覚えた。
「サマナー? 妙な扉があるんじゃが……ふむ、気配はあの酒場に似ておるのう」
「うん。向こう側から酒場に居た人たちの気配を感じる」
「ふむ……そう言えば世界を渡った先で力になる方法を用意していた、と言っておった気がするの? となるとこれがそうやもしれぬぞ、サマナー」
「なら躊躇する必要はないな」
言葉を零しながら青い扉を開く様にノブを握り、一気に開けた。まばゆい光が一瞬だけ視界を包み込み、そして足は前へと進んだ。それと共に感じたのは吹き抜ける様な風と、さわやかな花の匂いだった。意識を覚醒させるような香りの中、光が消えて目をゆっくりと開く。
その先に広がっていたのは空だった。
足元には鮮やかな青色の花が咲いており、それが見える範囲に咲き誇っている。吹き抜ける風は花弁を舞い上げ、そして世界の端からそれが散って落ちて行く。見えるのは一面の雲海。ただただ果てしない雲の海が見えている。そう、ここは大地。雲の上に揺蕩う空中の大地。或いは空中庭園。そう呼べる空間だった。
その中央にはお茶会を開けそうな瀟洒なテーブルが存在し、その横には大きなグランドピアノが、真っ白なキャンバスが、そして幾つかの人影が見える。目を封じたピアニスト、耳を封じた歌姫、そして名前の無い絵師があの酒場で見たように存在していた。だがそれに追加される様に、新たに二つの姿があった。
一人は青いドレスに身を包んだ金髪の少女。前髪を横分けにしつつ、片手には本を抱いている。此方に視線を受けると優雅に礼を取った。そしてもう一人は中央、テーブルの向こう側に座っている老人だった。鼻が異様に長く、多くの皺を刻まれている顔をしている老人は、気配のそれが人間ではなかった。
……だが不思議と、
ダンテおじさんはアレ、勝手に住み着いている様なもんだから除外。あのおっさん、ストロベリーサンデーさえ奢れば銃でのトリックとかほいほい教えてくれるのはありがたいんだけど、なんか善性も悪性もまるで感じさせないN-N的な恐怖があるのはどうしてだろう。
「―――ようこそお客人、我がベルベットルームへ」
老人が枯れた声で歓迎の言葉を送って来た。足を組む様に座り、両手を組んで合わせており、背中は丸まっている。此方を睨む様に視線を送っている様に見えるが―――そういう意図はない。それが解るのは自分もまた、成長したからだろうか?
「私の名はイゴールと申します。この部屋……夢と現実、或いは精神と物質の狭間の場所に存在するこのベルベットルームの主を致しております」
「初めましてリュージ様、我が名はラヴェンツァ。主共々宜しくお願い致します……」
「あぁ、どうも」
ラヴェンツァとイゴールの二人へと向けて軽く頭を下げると、イゴールが口を再び開いた。
「ベルベットルームは何らかの選択を行った者を助ける為に存在する為の場所……本来であればペルソナ使いを導く為の場所ですが……事情は我らの造物主より聞いております」
「世界を回り、欠片を拾い集める旅路。世界を創造、再生するという偉業に是非とも手伝いをさせていただきたいと思い、こうやって参りました」
「えーと……つまり、俺の旅について来れる……という事?」
もしこの人達がそうならば、俺がこうやって世界を回る必要は出なくなるんじゃないかな!? と、ちょっとした期待を込めた言葉ではあったが、いいえ、とラヴェンツァが否定した。
「我々はリュージ様より持ち込まれた記憶より引き継いで生み出された存在です。リュージ様のように、直接世界を渡るだけの力はありません」
「ですので、我々は直接その旅路について行くことは出来ないという事でして―――とはいえ、お客人が巡り合う次の我々が前の我々と同じ者であるのは確証致しましょう」
「……チェフェイ? 俺が馬鹿なのかどうかは解らないけど、ちょっと話が掴めない」
「良い、あまり気にするではない。見た感じ、心の深淵に近しい者たちじゃ。真剣に考える必要はないじゃろ。それがそうであるモノと受け入れよ。それがサマナーの為になるじゃろう」
「あー……解った」
理屈は解らないが、とりあえず異世界へと飛んだ時、このベルベットルームと住人たちが助けてくれるのだという事はとりあえず、理解しておいた。じゃあ、何が出来るんだ、という質問をこの部屋の主らしいイゴールへと向けると、
「ここでは悪魔の合体、スキルの付け替えなどを行えますな。それこそお客人が知るあの隠れ家と同じレベルでの合体が行えます」
「やべぇ、神施設来た」
「スキルカードの作成、悪魔の合体、武器と悪魔との融合、或いはスキルカードと装備品の融合なども行えますな」
スキルカードの話を始めた所で、絵師が白いキャンバスに色を素早く塗りつけて行き一瞬で絵を完成させた。そうするとキャンバスは光り輝き、それが一枚のカードへと変化した。再び白に戻ったキャンバスに張り付いたカードを剥がし、絵師が笑みを浮かべながらそれを投擲するのを、指で掴んだ。
それは《テトラジャ》のスキルカードだった。テトラジャと言えばムドやハマをお手軽に防ぐことが出来る魔法としてそれなりに有用だ。特にメシアやガイア辺りは呪殺破魔対策に必ずと言っていい程覚えさせている。成程、確かにこうやってスキルカードを作成して貰えるなら、装備と融合させた耐性装備を作成する事も出来るだろう。
「やはり神施設ではこれ?」
「それと、ここではリュージ様の力の手伝いをさせて頂きます」
「……力?」
ラヴェンツァが頭を下げ、言葉を続けた。
「貴方は超人へと足を踏み入れた事で、紡いだ絆を力として呼び出す事が出来る力に覚醒しました。ペルソナに近いようで違うそれは、時を超え、世界すらも超えて絆を引き寄せる力ですが……今はどうやら、まだその自覚に至っていない様子。その管理を是非ともお任せください」
そう言えば超人になれば、何らかの特殊な能力に覚醒する、と言われていた気がする。今の所、そういうのを一切感じたことがないので滅茶苦茶忘れていたが、それをラヴェンツァは管理してくれるらしい。
という所で、ラヴェンツァが握っている本から二枚のカードを抜き取った。
「では此方を。今、貴方が繋いだ絆とその形です」
そう言ってラヴェンツァが抜き取ったカードを此方へと渡してくる。受け取り、確認するのは死神の恰好をした湊が描かれたカードと、塔を踏み砕いているダンテの絵が描かれている、二枚のタロットカードだった。なんというか、実に
ダンテのカードに意識を集中させれば、銃技の冴えが磨かれる様な気がした。
「我ら一同、お客人を何時でもお待ちしております」
「貴方が自分の選択に責任を持ち前へと進み続ける限り、ベルベットルームは貴方の味方です」
「どうか、ご留意くだされ……世界は優しくはなく、そしてお客人には覚悟を求めるでしょう。ですが貴方は決して一人ではない、という事を」
「それではリュージ様、またお会いしましょう。貴方の次の来訪を心よりお待ちしております」
ラヴェンツァとイゴールの言葉が終わり、後ろから光が溢れ出す。あの青い扉から漏れ出す光に飲み込まれ、一瞬視界から全てが消え去り、眩しさに目を閉じ―――開けたその瞬間には再び蔵の中、ベルベットルームへと通じる扉の前に居た。その青い扉を見てから、背を向けた。
「なんか、不思議な場所だったな」
「とはいえ味方じゃ。力になってくれるというのじゃから、素直に感謝すれば良かろう」
「そうする」
結構いい感じに探検したし、そろそろ晩飯の材料を購入する時間かな? とスマートフォンを取り出して時間を確認し、再びポケットの中に突っ込む。蔵を出て軽く背中を伸ばすと、頭の上に居たチェフェイがぽん、と音を立てて消えた。まぁ探検も丁度終わりだしナイスタイミング、という所だろう。そう思いつつ再び縁側の方へと戻ると、池の中でクールマに戻った亀姿が池の中でぷかぷかと浮かんでおり、その背中で鳩が日光浴を続け、スダマがその周辺を漂っていた。うーむ、このアニマルズ。
「とりあえず、晩飯の買い物に出るけど誰か来るかー?」
『パス』
「くるっぽー』
「パスじゃ」
『戦国乱世のアトミックあんこ』
「解ったよ、俺一人行くからお前らの好きなものが出るとは思うなよ」
ったく、と声を零して財布を確かめようとしたところで、
「私……一緒……に、いく……よ」
と、アンの声が聞こえた。振り返り、縁側の向こう側、室内へと視線を向ければ、何時もとは違う姿のアンが出て来た。そう、先ほどの服屋で購入した濃紺の袴に上は柄のある桜に近い赤色の服装で、確か、女学生がこの時代、こんな服装をしていたような気がする。その後ろではベルが腕を組んでうんうんうん、と頷き、アンの姿を緩く一回転させた。
「サマ、ナー……どう……?」
「似合う。凄く似合うよ。うん、どういう風にか、ってのは語彙力が足りないから勘弁して欲しいけど、似合ってるよ」
「ん」
素直に言葉を返すと、無表情なまま、嬉しそうにしていた。少しだけ動きが早くなったアンが編み上げブーツを履いて、縁側から降りて来る間に、ベルとチェフェイへと視線を向ければ、サムズアップが返って来た。ありがとう、コミュ力筆頭悪魔。会話レッスン、本当にお世話になっています。
と、言う事で、
ブーツを履いたアンが横に並ぶので、二人だけで再び帝都へと買い物の為に繰り出す。ちょっとしたデート気分だった。
そうして、大正二十年での生活が始まる。
という訳でベルベットルームへご招待。こいつらだけは集合無意識経由で記憶の引継ぎが可能なのでどの世界へと移動してもバックアップからアップデートという方式で即座に対応できる積極のプロフェッショナルなのだ……。という訳でコミュとアルカナ解禁。ペルソナじゃないんじゃよ? というかラヴェンツァちゃんP5での出番少なすぎ……。
それはそれとして、ひとしゅらちゃんかわいい。