軍事基地から帝都内、別の場所へと向けて要人を護衛移送している。
それに用意された護衛の数は両手の指では足りず、凄まじい数の軍人が車に乗りながら列を作って進んでいる。正直、一種のパレードではないかと思う程に派手だ。護衛するのはいいとして、少々派手過ぎではないだろうか? とは思わなくもない。これでは誰かを守っているぞ! と宣伝している様なものだ。
『実際、私はこれを囮だと思うわよ』
「マジで」
スマートフォン内部からベルの声がした。
『ライドウを呼び寄せたのもおそらくは護衛という行動に対して真実味を出させる為でしょうね。私だったら本当に大事な物をこんな風に露出させるわけがないもの。おそらくはこれがフェイクで、そして本命は別ルートを使って移動中……という所でしょうね。実際、あの護衛されていた女はレベルは5程度しかなかったし、他に特別なナニカを持ち合わせていた訳でもないし……。まぁ、解りやすいわよこれは』
ベルの分析に流石魔王、という素直に称賛を送る。だけどその場合、此方の護衛行動そのものが無意味なのでは? と思えてしまう。ベルがそう簡単に解る事であると言うのであれば、それは敵にも理解される事なのではないだろうか?
『
ヴァラーハが言葉を引き継いだ。
『いいかい、サマナー。フェイクや囮というのは相手からすればどれが本命か解らないという所に厄介さがあるんだ。特にこの時代にはどうやら、アナライズ系統の魔法も存在していない。つまり囮に見せかけた本命、という手段を取ったとしても見抜けないんだよ。つまり最低限それが本当に囮であるかどうかを把握しなくてはならないのさ!』
「つまり」
『アナライズ出来ないなら殴って調べるしかないね!』
「お、原始的ー」
約束された襲撃。
たぶん無駄だが。
だがとりあえず、仲魔たちはまず間違いなく襲撃されると確信している。故にまずは出来る事を先にやっておく。DDSから鳩を召喚し、それを肩の上に乗せておきながら更に装備を召喚する。ルーチェ&オンブラを取り出し、それで両手を占領しながら、鳩にDDS経由でMagを供給する。契約というパスを通じて此方のMagを消費し、鳩が魔法を使えるようになる。
「えーと、弾丸は神経弾でいいよな、大体の相手に突き刺さるし」
「ラスタキャンディ! 今の我はラスタキャンディの化身! ラスタキャンディ! 再びラスタキャンディ! 輝ける信仰のラスタキャンディ! 溢れる信仰のラスタキャンディ!」
『ラスタキャンディに清き一票』
スダマ先輩がついに選挙に乗り出したらしい。突撃の狼煙には遅れるが、それでも全種強化魔法を統合させたラスタキャンディの効力は絶大だ。使用する度に力が漲ってくるのを感じる。ただ、高位魔法なのでMagがガンガン消費される軽い倦怠感を感じる。カロリーバーを口の中に放り込んでもぐもぐしながら消費されたMagを何とか補充しつつ鳩にラスタキャンディを使い終わらせ、アンも指の骨をぽきぽきと鳴らす。
そんなアンが此方を見た。
「準備……完了?」
「完了」
「ぐっど、たいみん」
どこか砕けた英語の発音でアンがそう言った直後、背後から加速して飛び込んでくる姿が車の両脇へと上がって来た。それはバイクであり、それを運転するのは白い装束に身を包んだ、いかにも妖しい姿の連中であり、
その手には銃が握られていた。
挟み込む様に、発砲音が響く。
「おそ……い、よ」
『レッツパーリィ! なのじゃ』
チェフェイの言葉が終わる頃には連続の爆発音が響き、車が炎上しながら吹き飛び、破壊されて行く光景が窓の外に移る。ドライバーは必死にそれらを回避しながら、護衛対象のいる車へと向かって運転して行く。
「運転手さんは離脱して貰っても結構です。一応ラスタキャンディの範囲内に居たから銃弾の数発ぐらいは無事だろうし」
「いいんですか?」
運転手がミラー越しに此方を見るのを確認し、コクリと頷いた。
「受領する車が廃車になっても困るので―――ヴァラーハ!」
言葉と共にDDSから車外にヴァラーハが召喚された。巨大な猪の姿が道路に出現し、バイカーをそのまま踏みつぶして粉砕し、目の前のバイクを牙で振り上げて投げ飛ばした。アンが走行中の車の扉を蹴り飛ばして破壊し、そのまま飛び降りて道路を蹴り、ヴァラーハの背に飛び移る。
「まぁ、こういう事なので」
「成程、それではご武運を!」
車から飛び降りて同じように大地を蹴れば、車が素早く護衛団から外れる様にハンドルを切って逃亡した。それを追いかけようとする姿に向けて引き金を素早き引き、牽制しつつも二発目の弾丸で撃ち殺す。
……これで人殺し、か。
射殺しておきながら、不思議と気持ち悪さも何も感じなかった。俺もいよいよ此方側の世界に慣れて来たのかもしれない。そう思いながらヴァラーハの背の上からヴァラーハに指示を出す。
「ライドウと合流しよう。たぶん俺が居なくてもどうにでもなるだろうけど」
「了解だよサマナー。逆に考えればいいんだ―――出番を奪ってもいいのだ、ってね!」
ヴァラーハの言葉に笑い声を零しながらライドウの車両へと向かって走らせる。爆破炎上する車両が多い中で、ライドウの車両はその天井を破壊されながらも、ライドウもドライバーをしていた鳴海も無事な姿を見せていた。まぁ、ライドウがいるなら無傷なのも当然の話だろう。
「鳩」
「ラスタキャンディ!」
ごりっとMagが減って行くが、気にする事無くライドウに強化魔法を重ねて行く。ライドウが驚きながらも普段よりも調子が良さそうのを見て、
その姿が霞んできた。
音だけが動きに遅れて残響として発生し、ライドウの乗っていた車に接近していたバイクが全て、バラバラに解体されながらライドウの姿が車の中へと戻って来た。何時の間にか抜かれていた刀は鞘の中へと戻っており、笑みさえ浮かべる事はなく、敵の接近を警戒していた。
末恐ろしい。これでいてまだ仲魔を召喚していないのだから本当に怖い。敵対だけは絶対にしない様に気を付けようと心の中で誓いつつ、
バイクから転がり落ちたライダーが体を突き破る様に悪魔へと変貌する姿を見た。
「デビルシフターだったかぁ……」
体を突き破る様に変身した悪魔変身者たちは全員相談したかのように同じ色、姿の悪魔へと変貌した。見覚えのない悪魔に即座に《アナライズ》プログラムが稼働し、その正体を看破する。
「アンズー……レベルは38の電撃吸収、疾風弱点! げぇ、格上」
しかも出現するアンズーの数は軽く10を超え、その上で更に数を増やしている。空一面がアンズーの群れによって埋まって行く。レベルと数を揃えた暴力で殴りかかってくるのは確かに戦術としては何も間違ってはいない。
リアル無双しそうなライドウさえいなければ。
「鳩は戻して……チェフェイ! ヴァラーハも重力の壁を張れ!」
「妾にお任せじゃ、そぉーれ」
チェフェイと鳩を入れ替え、チェフェイがスク・ンダを放つ。回避不能な魔法にアンズー達の動きが鈍り、突撃して来ようとする姿をヴァラーハの重力魔法で壁を作り、牽制する。アンズーの姿が近寄れない様にしつつ、フルバフライドウが動けるように時間を与え、
元から超人的身体能力を有していたライドウが、強化魔法を受けて極限まで強化された状態、音さえ置いて再び加速した。
一瞬のうちにアンズーに接近すれば刀を抜刀して殺し、それを足場に次のアンズーへと向かって連続で移動する。一瞬で五体のアンズーを斬り殺しながら悪魔を召喚し、そのまま鳴海の運転する車に戻ってくる。だがライドウが着地するのと同時に不調を訴え始めた車が止まり出す。
そこから飛び降りたライドウがオルトロスを召喚し、ゴウトと共にオルトロスの背へと飛び移った。
鳴海しか乗っていない車にはどうやらアンズー達は一切の興味はないらしく、その殺意と自分とライドウへと向けてきているのが解る。
「おぉ、怖い怖い」
ヴァラーハの背の上、弾幕を張る様にトリガーを連射しながら神経弾をばら撒いていく。レベルではアンズーの方が圧倒的に上であるも、それでもデバフにデバフを重ねれば足は出てくる。攻撃する必要が無ければ此方も安心して妨害作業に集中が出来る。多重にスク・ンダを受けたアンズー達の動きはもはや最初の軽快さは存在せず、のろのろと飛行し、車よりも遅くなり始めていた。
「思ったよりはまともにやるではないか。貴様の事だから市街爆撃でもするかと思ったが」
「流石に場所を選ぶ」
オルトロスに乗ったライドウたちが近くまで寄ってきた時に、ゴウトが声をかけて来た。ライドウもオルトロスの背に乗ったまま、サムズアップを向けて来る。それに応え、アンの方がサムズアップを返してくれた。
視線をアンズーから剥がして先頭集団へと向ければ、段々とその姿が目的地へと近づきつつあるのが見えた。車はトップスピードまで加速しており、もはや法定速度を守ろうとせずに目的地へと一直線に向かっていた。あの様子であればアンズー達が追いつく事はないだろう。
だがアンズーの方へと視線を向ければ、まだまだ元気なアンズー達が口を開き、ブレスの様な攻撃を吐き出そうとしているのが見える他、追加でバイカー達が道路を走ってくるのが見える。
「アンズーの方は此方で引き受けるので護衛をお願いします」
いいのか? という視線をライドウが向けて来る。なのでそれに頷く。
「デクンダストーンを持ち込んでない時点でハメ殺し確定なんで……」
「うむ……何故最初の時にそういう手段を取らなかった?」
うるせぇぞにゃんこ。三味線にすっぞ。早くどうぞ、と視線で促せば、ライドウが感謝する様に頷き、アンズーの下を抜けて護衛対象へと接近しようとする集団を追いかけて行った。ラスタキャンディがかかったままだし、デ・カジャかデカジャストーンでも使われない限りはライドウ無双で終わるだろうと予測する。
まぁ、確実に勝利してしまうであろう主人公は放っておいて、
問題は此方の方だ。
空に浮かんでいるアンズーの数は既に30に届く。電撃吸収を保有するからガードキルでは意味がないため、ベルが現在無能化している。空に飛んでいても、十分に市街地を吹っ飛ばす範囲内だからスダマは使用禁止。
となるとそれ以外の手段でこの集団を殲滅する必要がある。
とはいえ、既に速度はこれ以上下がらない程スク・ンダが多重にかけられている。その後に暇をしているチェフェイがついでにラク・ンダもかけていて。アンズーがもはや虫の息と呼べる状態になっている。衝撃ならアンの竜巻が通じるのだが、疾風じゃないので弱点は突けない。
となるとごり押しするしかないだろう。
「まぁ、この状況に突入した時点で勝ちの目は出させないけどな」
「鳩はひたすらテトマカが切れ次第補充で。チェフェイはタル・ンダとマカ・ンダはいいから神経精神系でひたすら妨害し続けろ。ヴァラーハはマハグライバでアンズーを薙ぎ払え! 落ちて来たのを潰していいぞアン!」
ヴァラーハが戦いやすい様にその背から飛び降りつつ指示を出した。現状、油断も慢心もせずにきっちり確殺を狙うのであればこれが一番良い筈だ、と判断しつつ仲魔に命令した。それに従い、動きの遅くなって、脆くなったアンズーへと向かって、一切逆転を許す事もない仲魔たちによる集中砲火と連続攻撃が叩き込まれて行く。
SLEEP、CHARM、STUN等で動きを停止したアンズーがマハグライバによって空から地上へと一気に叩き落され、道路へと陥没する様に姿が潰されて行く。それに追撃する様に飛び込んだアンがアンズーを上から蹴り潰して殺して行く。
デビルシフターたちの姿が潰れて死んで行く。
人を今、虐殺している。初めての事態、経験だったが不思議と、それに思う様な事はなかった。先ほど人を殺した時と同じで、悪魔を始末する時と同じように簡単に引き金を引き、アンズーを打ち落として処理していく。
空を飛んでいたアンズーはレベルが上で、間違いなく格上だった。だが本能のままに吠えて、攻撃しようとする姿は自分が崩壊世界で学んだ、対悪魔やサマナーに関する基本戦術が欠片も存在しておらず、
言い換えればレベルが高いだけのカモだった。デ・カジャもなければデ・クンダもない。神経や精神魔法に対する耐性もつけてこない。
こいつら、もしかして死にに来ているのではないだろうか……?
そう思ってしまう程に、強さの差はレベルだけだった。その他の要素は全て仲魔による多重のデバフによって一気に押し込んで封殺できる範囲だった。
数分もすればアンズーが抵抗しようとするのを纏めて殺し終わる。残されたアンズー達の死体は完全死亡が完了するとMagとなって消滅して行く。その後に残されるものは―――なにもない。
経験値となって、吸収されるだけだ。自分よりもレベルが結構高いアンズーの集団を討伐した事で、自分も仲魔もレベルがそこそこ上がったのを確認しつつ、スマートフォンをポケットの中に押し戻す。スダマ先輩さえぶっ放せればもっと楽に終わったのだろうが、先にそんな破壊を巻き起こすと処刑不可避だから残念に思いつつ、後続の悪魔が来ないのを見る。
どうやら本当にこれだけで終わったらしい。
「俺抜きでもこの程度ならライドウが負けるわけないよなぁ……?」
『或いはライドウの偵察が目的だったのかもしれないわね』
DDS内部から声をかけて来るベルに成程、と呟く。そういえばアナライズが存在しないから一回ぶつからないと実力を調べる事も出来ない筈だ。だったら適当な悪魔をぶつけてライドウの実力を調べるのもありと言えばありなのかもしれない。
それに巻き込まれる身としてはたまったもんじゃないけど。
「ふぅー……良し、後続が居ないのならこのままライドウに合流だな」
その必要は恐らくはないけど、仕事をするなら最後までスマートに、というのがプロフェッショナルだ。過信しない、慢心しない、悪魔の存在する業界での基本的な心構えだ。これを守れないサマナーもバスターも、近いうちに死ぬ。
故にヴァラーハ以外の仲魔をDDSへと戻した所で、合流すべくヴァラーハに騎乗し直し、護衛団が向かった方へと進んで行く。
そしてその先で当然の様に、少しぼろぼろになっているが無事なライドウと、そして車のハンドルだけを握っている鳴海の姿があった。当然の様に勝利しているライドウの姿はともかく、どこか心が通じ合ったような姿を見せる鳴海とライドウの姿はまるでスポットライトを浴びている様な景色をしており、
少しだけ、その景色に嫉妬した。
根本的にメンタルが一般人だと生きて行くのが辛すぎるのがメガテン世界。
バフデバフに加えて相性次第だけど、ンダ系で下げられるまで下げていると状態だと割と+10レベルまでは殺せる範囲だよなぁ、と思えたり。まぁ、これが50レベを超えるとそういう範囲を飛び越えて来るからデバフハメ戦術が通じなくなる訳だけど。
リュージ君最大の救いは本当に辛いのならこの国から逃げてしまえばいいという選択肢がある事。
最大の不幸は好きな子の前ではそんな事が出来ないという事実。