仕事が終わればまた仕事。休まる暇もなく次の仕事がやってくる。
どうやら、最近は《秘密結社コドクノマレビト》等という輩が暴れているらしく、その影響で帝都の治安が乱れているらしい。前に下水道の異界で研究を行っていた研究者もその一員らしく、人間を悪魔に変える研究をしていた。まぁ、つまりはそんな事をテロ的に行っている連中が多く、今の帝都は当然安全から程遠い環境になってしまっている。ちなみに浄水施設に流れ込んだ水はサービスで鳩をダンクして浄化しておいた。これで帝都の水は浄化されただろう。ついでに鳩に対する信仰心も目覚めてしまうかもしれないが、コラテラルダメージだ。
そうやって、ヤタガラスから有能だと評価されたので、再び仕事を押し付けられた。完璧にスニーキングしてピンポイントで相手を生かして捕らえてこれたんだから、異界爆破だけが特技じゃないと解ってしまったのだろう。それが発覚したからか、仕事が終わってから仕事を叩き込まれた。もしや使いやすい人材だと思われてしまったのかもしれない。
とはいえ、レベルアップするのは当然ながら好ましい事だ。ここ、帝都ではどうやらハメ対策のされていない高レベル悪魔が出現する傾向にある。正直、ただのカモに等しい部分が連中にはある。その為、レベリング対象としては最適な相手ばかりであるのもまた事実だ。その事を考えると、ヤタガラスの持ち込んでくる依頼の誘惑は抗いがたかった。平和な時間は徐々に終わりつつあることを感じさせつつ。
ともあれ、仕事なのだ。断る事は出来ない。
素直に受けた。服装は何時も通り改造された月光館学園の制服姿で今回は襲撃が予想されるという情報から大量のアイテムをヤタガラスの方からマッカで購入し、それをベルベットルームでラヴェンツァに頼んで加工して貰った。これによって少ない数ではあるものの、チャクラポットなどを作成する事が出来た。
割と真面目に助かる。金の節約になるし、MPコストの激しいパーティーでもあるので、その消費をカバーできるのは助かる。特に帝都での戦いはタルタロスよりも消費が多い事が解ってきた。帝都に感情が渦巻いている分、それに影響された上位悪魔が出現しやすいのが問題だ。
しかし下水道である程度のレベルアップも果たし、今ではレベル38だ。かなりレベルが上がったので、この仕事が終わればそろそろ、ベルベットルームで仲間たちをワンランク上の姿へと合体させる頃合いかもしれない。というか合体しなければこの先、ライドウクラスの敵が出現するインフレについて行けそうにない気がする。
そう、何よりこの物語の主人公はライドウなのだ。という事は物語的に絶対に彼が追いつめられる筈だ。だったらそのレベルの敵が出てくる。そう言う奴が出現する前に、最低限自衛出来るレベルの能力を備えておかないとならない。
故に仕事は受ける。レベルアップの為に必要だからだ。
そうやってやって来たのは刑務所だった―――このまえ、要人を運び込んだあの場所だった。そこの警備レベルも引き上げられており、ヤタガラスの者と思わしき異能者の姿が大量に配置されているのが見える。
「警戒……厳重?」
「まぁ、ライドウが仕事で一時的に帝都から離れるらしいからね」
その隙を狙って襲撃して来る可能性を考慮して、実力のある人間をそこそこ配置している様子だった。刑務所の前に到着すると、自分も軽くヤタガラスからチェックを受けて中に入る事が出来た。既に中には異能者が大量に配備され、警戒している様子が見える。そのレベルの大半はアナライズする限り、20代や30代のものが多い様に見える。相手が召喚していたアンズーやら量産していたヴェータラを見る限り、不安になるレベルではある。
とはいえ、それでもどうにかするのが仕事だ。
「ピリピリ、して……る……」
「帝都からライドウが離れるって話だからな。帝都最強戦力が一時的に離れるって状況でここには要人を収容してるって把握されてるんだ……そりゃあこうもなるか」
『あら、段々と解る様になってきた様ね? その調子よサマナー』
家に居る間は暇さえあれば指導を受けているのだ、多少は物事が解る様にならないと恥ずかしくて顔も見せられない。とはいえ、流石にこれだけ露骨だと自分の様な馬鹿でも解りやすいとは思う。明らかに刑務所の状況が襲撃に備えた状態にシフトしている。何らかの襲撃を予想した布陣とも言える。やはり、相手が解ったからそれを誘い込むつもり……なのだろうか?
ライドウが居ないという状況が余りにも不穏すぎる。まるで悲劇の下準備をしているかのような、そんな感じだった。とはいえ、自分たちももうレベル38、40が目前に迫るラインだ。ここまで来て、怖いからと日和る事も出来る様なレベルじゃない。やるったらやるしかないのだ。
「貴様が流れのサマナーか……中は此方で守る。貴様は外を頼むぞ」
「了解」
山伏の様な恰好をしたいかつい異能者にそう言われ、刑務所の前のグラウンドで待機する事となった。刑務所の入り口横の壁に寄り掛かる様に背を預けながらルーチェ&オンブラを抜きつつ、動かしやすい鳩を先に召喚しておく。本当なら事前に悪魔も召喚させておきたい所だったが、悪魔を出しておくのはどうやら、余りメジャーではないらしく、睨まれそうな気配があった。
地元ルールという奴だろう。
実にめんどくさい。
仲魔は事前に召喚しておくのがベストなのだが、環境と時代を考えるとまぁ、しょうがない事なのかもしれない。鳩を召喚しているだけでも変な視線を向けられるのだから。面倒な時代だと思う。
早く、崩壊世界に帰りたい。
此方の世界は確かに崩壊してないし、インフラも整備されていて整っている。だけどそれ以上に社会のルールやらなにやらでがんじがらめになっていて、非常に面倒な事になっている。もうちょっと頭を空っぽにして無双できる世界に行きたかった。単騎で街を吹っ飛ばせるレベルの強さはもうある筈なのに、それでも全然足りない世界とかちょっと、インフレがおかしいだろうと思う。
まぁ、今はどうでもいい話かもしれない。
「サマナー。サマナー」
「ん? どうした?」
服の裾を掴んだアンがそれをちょくちょく引っ張り、此方の視線を寄せると、
「お腹……すいた」
「仕方がないなぁ……」
ストレージの中に保存しておいた干し芋を取り出して、それをアンへと向ければ、端の方から軽く噛みついてもきゅもきゅとアンが食べ始める。釣り針に釣られる魚の様な感じがするが、可愛いのでなんでもオッケーだと思う。美味しそうに食べる君の姿がやっぱり好き。幸せそうな表情を見ているだけで割と癒される。ただし、周りから向けられる視線は考慮しない。
「いいなぁ……あれ……」
「微笑ましいな……」
「俺も早く仕事終わらせて娘に会いに行きてぇよなぁ」
とはいえ、やっかみの様なものは飛んでこない。こっちの世界は崩壊していないから、もっとクソみたいな連中が多いかと思ったが、そうでもなかったらしい。やっぱりテンプレは所詮、創作のテンプレートであって現実ではないんだなぁ、と次の干し芋をアンの口の中に少しずつ食わせながら思う。
「もきゅ……もきゅ……ぶぉー。もきゅもきゅ」
「そうだよなぁ、干し芋って焼いた方が美味しいもんな」
一度噛み千切ってから弱めのファイアブレスで軽く干し芋を炙ってからアンが再び、食べるのを続ける。ずっと警戒していてもどうせ、疲れるだけだし、それまではアンでも餌付けして待つ事にする。
まぁ、襲撃されるとは決まった訳じゃないし。
このまま何事もなく、平和に時間が過ぎる事を祈るばかりであった。
「やっぱ平和に終わらないかぁ……」
刑務所が騒がしくなり始めていた。どうやら内部で何らかの問題が発生したらしく、騒ぎに発展している。だがそれは自分の担当ではないので、無視しておく。それよりも問題なのは《ハニー・ビー》を起動し、《エネミーソナー》で刑務付近をサーチすれば、刑務所の正面から大量の悪魔が此方へと向かって接近してきているのが解ることだ。既に登録されているそのパターンは、相手がアンズーである事を示している他、見知らぬ敵が一体、そこに混ざっているのを示す。
「ヴァラーハ、チェフェイ、ベル。激戦の予感がするから皆、頼むぞ」
残りの悪魔全てを召喚する。アンズー相手にはベルは比較的に無能化してしまうが、それを反省してベルにはベルベットルーム経由でスキルカードを使って《メギド》を習得して貰った。他の悪魔と違ってレベル限界が遥かに高いベルは合体させずに強力な魔法を覚えさせる事が出来るのが利点だ。万能属性はコストが重いが、魔王としてのパッシブスキルでコストは大幅にカット出来ている。なんだかんだでレベルがほぼ40なのだから、ベルも魔王として少しずつ格を取り戻している。メギドぐらいはそこまで問題のある魔法ではない。
L&Oを両手で握りつつ、仲魔たちを配置につかせる。此方の動きを見なくても、刑務所の外から来る異様な気配に既に他の異能者やサマナーたちも迎撃態勢に入っている。マジでこれ、囮にされたなぁ、と《ハニー・ビー》に表示されている敵の数を見て理解する。やっぱりこの業界ブラックだわ、と。
「ベルはメギドだけ、チェフェイはンダ系を優先してデバフ。ヴァラーハはMagくれてやるから変身して戦ってくれ。アンは頭上を越えて行こうとするアンズーを竜巻で落として。鳩は《ラスタキャンディ》連射して終わったらテトマカ維持で。生き残ったら赤字分全部ヤタガラスに請求だ……!」
「だいぶ図太くなってきたのぅ」
「そうじゃなきゃやってられない」
死体とか見慣れてしまったし。もう、動揺した所でもどうしようもない。殺さなきゃ殺されるのだったら、此方から動かなきゃならないのだ。Magをヴァラーハに供給し、ヴァラーハが褐色のイケメンへと変態するのを見て、鳩が更にMagを消費してラスタキャンディを発動させた。自分だけではなく一緒に戦闘に参加する異能者たちも魔法の効果に巻き込んで、全体の能力を強化する。なんか、ちょっと驚くような声が聞こえる。
カジャ系、やっぱりこの時代だとマイナーなのだろうか。ライドウも使っていなかったが。
ともあれ、そうやって迎撃の準備を整え、唾を飲み込みながら視線を刑務所のグラウンドの向こう側、入り口へと向ければ、目玉模様のマスクを被った男が刑務所の入り口の前に立つのが見えた。ヤタガラスの術者によって結界が張られており、許可のないものは通れない様になっているらしい。
らしいが、
「ベル!」
「メギドッ!」
当然の様に先頭に立っていた男がサーベルを抜き、その抜刀で結界を両断していた。それを直感的に出来る、と判断したために先行してベルに指示を飛ばす。万能属性の光が爆裂となって門に居た男と突っ込んできたアンズーを巻き込まんと破裂するも、男が素早く回避しながら敷地内に入り込む、それにアンズーが続くのが見えた。
「行け、媛を引っ張り出せ」
「ヴァラーハ、チェフェイ!」
「了解ッ!」
「今回の妾に過労死の気配がするぞぉ!」
アンズーが飛び出してくるのと同時に重力障壁とスク・ンダがアンズーに衝突し、その動きを一瞬で鈍らせ、封じ込める。レベルが40近くなってヴァラーハもチェフェイもレベル限界に到達しそうでも、まだ、並の悪魔を超えるだけのスペックが上位悪魔の基本的なスペックとして備わっている。その為、アンズーよりも早く、そして強力に攻撃を突き刺す事が可能となる。
アンズーの動きが一気に緩くなり、そこを他の異能者やアンとベルが狙い撃ちする様に地面に叩き落して行く。竜巻とメギドの光がアンズーの集団を薙ぎ払う。
その間に、《アナライズ》しつつ引き金を連続で引く。弾丸の軌道を読んだマスクの男がそれを斬り払い、踏み込もうとするがその時には設置された次の弾丸によって足を止められる。相手のレベルが上の様に感じられるが、ラスタキャンディの影響で銃撃だけなら張り合える程度の速度は出せている。
「悪魔人、オウハン……?」
呟く様に引き金を引き、オウハンを牽制する。踏み出す方向へと向かって弾丸を叩き込みながら次の動きを連動的に止める様に射撃し、弾丸の弾幕でオウハンが動けない様に封じ込めながらチェフェイの放つデバフの連打を持続させ、抑え込むたびに能力を削減して行く。それをサーベルで斬り払いつつも、ほう、とオウハンが声を零すのを聞いた。
「話に聞いた異国のサマナーか。面倒なのはライドウだけかと思ったが違ったようだな」
そう言うとオウハンが指をスナップした。それに反応し、飛び込んでこなかったアンズーがオウハンの背後で魔法を発動させていた。
「デクンダ」
「げっ」
「妾、見事に過労死決定」
「文句を言う暇あるならさっさと眼光系統でも習得しなさいよ」
「ご、五尾でなら……」
「使えねぇ駄狐だなぁ!」
どうやら前回のアンズー大虐殺でデクンダの重要性を理解したらしい。これでバフデバフのいたちごっこが始まると思いつつ、チェフェイをデバフし続ける機械として放置する。現状、敵の数が圧倒的なのでスク・ンダでひたすら速度デバフをかけ続けてくれないと相手に突破されてしまう。
「アン! ヴァラーハ! 足止めだけに集中しろ! 絶対に通すな!」
「了解だサマナー!」
「まか……せて……!」
干し芋を噛みながらアンがサムズアップを向け、竜巻と共に重力の障壁を超えてきたアンズーを蹴り飛ばし、刻みながら別のアンズーへと蹴りつける事で効率的にアンズーを処理する。此方は放置していても問題はないだろう。
問題はオウハンの方だ。
ひたすら先手を取る様に距離を開けて射撃し、踏み込もうとする瞬間に連続で引き金を引いて牽制、縫いつけながらベルがジオンガを流してくれる為、それでオウハンの前進を停止させ、追撃の射撃でそのまま後ろへと押し戻す。全神経を其方へと傾け、ラスタキャンディによって上限強化された状態でなんとか、オウハンの動きを抑え込む。
接近させたら殺されるという事ぐらい、自分でもよく理解している。流石にこれだけレベルが違うとどうにもならない。いや、隙があれば殺せるだろう。
「ふむ……」
だが相手も此方を観察する様に、無理をせずに様子を伺いながら戦い、アンズーをまだ投入している。正面は自分たちで抑えているものの、側面や裏手は他のサマナーや異能者任せだ。オニが大量召喚されるのを《ハニー・ビー》で目撃したが、それがアンズーの群れの中に飲み込まれるのが見えた。レベル差で負けている。
と、オウハンがアンズーを掴んだ。
それを盾に弾丸を受け止め、そのままアンズーを壁に使う様に前へと飛び込んできた。アンズー自体が電撃に対して強い為、ベルがメギドで諸共吹き飛ばそうとする。だがそれをオウハンがぼろぼろになりながら素耐えして突破してくる。
「ヴァラーハ!」
「任されたッ!」
神経弾とメギド、ジオンガの牽制を一瞬で乗り越えたオウハンに対して唯一抵抗できるのは、前衛としての恵まれたステータスを保有するヴァラーハだけだった。故にアンズーに対する防壁をベルと切り替えさせて、消費が重くなるのを解っていても、メギドを連打させてアンズーを撃退させ、ヴァラーハには重力刀二刀でオウハンを相手にして貰わなくてはならない。
そしてオウハンとヴァラーハが切り結んだ。レベルで勝るオウハンの斬撃がヴァラーハへと抜けようとするが、それを複数の権能と技巧でヴァラーハが受け流しつつオウハンとのレベル差を技量で埋めた。その間にL&Oをストレージに戻し、武器をブルームへと入れ替える。《ハニー・ビー》を確認すれば刑務所内部へとアンズーに侵入されているのが目撃出来る。自分の居る正面以外が突破されたようだった。
ここで何とかオウハンを一回殺して勢いを削ぎたい。或いはここのアンズーを吹っ飛ばして、戦っているサマナーたちを応援に行かせたい。自分がオウハンを抑えているからいいが、全体的に敵の数が多すぎて押され気味の状態だ。
―――なら、仕方がない。
そして、
「コール、
『来やがったぜ』
スティーブンが搭載してしまった禁断の機能を解放する事にした。DDSから召喚されたスダマ先輩を掴み、
「セット……!」
言葉を口にし、ブルームの先端をヴァラーハと戦うオウハンへと向ける。それに反応してオウハンが離脱しようとするが、ヴァラーハが足を踏み、切り付けられながらその動きを一瞬だけ遅らせた。それだけで十分だった。
引き金を引けば、弾丸とは当たるものなのだから。
「必殺のスダマドラオン発射……!」
両腕で抱える様に握るブルームの引き金を引き、戦艦の主砲を放つような轟音と共に5メートル後ろへと体が押し込まれ、大地を引きずりながらスダマを弾丸として放った。閃光となって放たれたスダマは歓喜の色を爆発で表現しながら射線全てを飲み込み、極太の爆裂レーザーとなって射線上のオウハン、アンズー、刑務所のゲート、グラウンド、その背後からやってきていたアンズーの大群の全てを、
あとついでにヴァラーハを飲み込んで全てを消し飛ばしていた。
連続で爆発し続ける弾丸の粉砕が射線上に爆発を起こしながら十数メートルを超える爆裂の列となって外へと向かって突き進んで行き、触れたアンズーや、掠るアンズーを飲み込んで殺して行く。大量のMagがそれによって巻き上げられ、戦場から一時的に音が消える。
だがそれで相手が死ぬとは思えなかった。
当然の様に爆裂の中からオウハンが服装をぼろぼろにしながらも、登場してきた。その瞬間にはサバトマでアンがヴァラーハとスダマの姿を呼び戻している。それを鳩がサマリカームで蘇生させている間に、オウハンが肉薄し、
ベルが邪魔に入った。サーベルがベルを切り裂き、刃が貫通する。だがそれでも即座に死亡する事はないのは、魔王としてのスペックのごり押しと、彼女が食いしばりを習得しているからにすぎない。
刃が貫通する前にテトラカーンで刃がベルの内部から弾き出され、
スダマを再び装填する事に完了した。その銃口をオウハンへと向けて。
気のせいか、ひきつった笑みを浮かべている様な気がする。
「さぁ! 二発目逝こうか!」
『おめでとうございます、元気なテロリズムですよ!』
引き金を引く瞬間、ベルがオウハンの腕を掴んだ。そして次の瞬間にはベルとオウハンがスダマ弾の爆裂に飲み込まれ、刑務所のグラウンドが跡形もなく消し飛びながら壁を粉砕し、遥か遠くへと向かって大地を消し飛ばし、連続爆破を生み出しながら射線上の全ての物質を消し飛ばしている。今度こそオウハンをまともに捉えたか、ベルがヴァラーハ同様DYING状態に直行するも、20メートル程吹き飛ばされ、マスクが半分千切れているのを片手で止めようとしているオウハンの姿が見える。
「わんもあ」
「サマリカーム」
「本日は何時もよりも爆発しています……!」
「……っ」
ヤタガラスに絶対に怒られるからやりたくなかった。だけどこうでもしなければ絶対に死ぬと直感的に理解してしまった為、しょうがない。サバトマとサマリカームによって蘇ったスダマを再びブルームに装填しながら、それをオウハンへと向ければ、オウハンが下がるのが見えた。
「逃げるか!」
「では撃つのやめるのかの?」
「ううん、やっぱ撃つ!」
「そうこなくてはの!」
オウハンへと向けて引き金を引いた。スダマ先輩、本日3度目の命の輝きを見せる。普通の悪魔にこんな事をすれば即座に契約破棄を言い渡されるレベルの暴挙だが、逆にスダマ先輩は輝いていた。これ以上なく輝いていた。楽しそうに。
そして再び、刑務所正面の空間が地形を変えた。空間を消し飛ばしながら刑務所の正面から襲い掛かっていたアンズーの群れを最後の一匹まで食らいつくして消し飛ばし、Magの欠片に分解して殺し尽くす。
だがそこにはまだ、ぼろぼろになる程度で済んでいるオウハンの姿が見えた。徐々に回復している辺り、何らかの自動回復スキルを積んでいるのかもしれない。どちらにしろ、スダマ弾でも殺しきれないとなると手持ちの火力で殺し切るのは少々難しい話になる。神経ハメをしようにも、弾丸を回避、斬り払えるレベルの敵だ。少々ハメに持ち込むには難しいレベル差だと表現できる。
サマリカームでベルとヴァラーハを復活させつつ、テトラカーンとマカラカーンを張り直させる。アンズーは綺麗に消し飛んだが、肝心のオウハンがそのままだった。アレが本気を出して襲い掛かってくるようものなら全力で逃げ出す事を考えなくてはならないが、
「……ふっ、どうやら求めていた媛ではなかったようだし……ここで引かせて貰おう」
そう言ってオウハンが刑務所から逃亡する様に姿を刑務所脇の森林の中へと飛び込んで消した。《ハニー・ビー》でその存在をしばらくマップ上で追い続けるも、しばらくすると完全に範囲から離脱し、消える。刑務所内部も大分静かになってきた。此方も確認すれば、どうやらアンズーは全て討ち取られたらしい。
はぁ、と息を吐きながらブルームを抱え、地面に座り込む。
「なんとか生き残れた……」
レベル60を超える相手を前に、なんとか生き残れた。相手が手加減していたのと、本気を出さなかった事が最大の幸運だっただろうか。あのレベルになるとデバフを重ねて漸く反応出来るレベルになる、というのを今の戦いでしっかりと頭に叩き込んでおく。根本的なレベル差はレベルをあげなきゃどうにもならない、と。
現状、スダマ先輩で殺し切れなかった場合は完全に詰むという状況を改善しなくてはならない。
そう思いながら座り込み、溜息を吐いて空を見た。
「ヤタガラスにどう言い訳しよう」
変わり果てた刑務所の地形は、どう足掻いても言い訳が出来ない状態だった。
スダマドラオン(弾丸
ついに投擲道具から砲弾にランクアップしてしまったスダマ先輩。通常の悪魔ならキレるところ、風を感じる事から更に喜ぶという事に。スティーブンもスティーブンで何故貴様こんな機能を追加したんだろうか……?
帝都の事件の全貌が見えてくれば、段々と事件の終わりも近づく。