なんか褒められた。
ヤタガラスの人にじゃあスダマドラオン連射していいんですか!? と聞いたらドン引きされつつ怒られた。
真面目な話をするとコドクノマレビトという結社連中の表向きの職業などは発覚しておらず、オウハンという名前からヤタガラスは相手の所在地を特定する事に成功し、それを通してどうやら、表向きの活動をある程度抑え込む事が出来る様になったらしい。その為、現在ヤタガラスはコドクノマレビトの息のかかった企業や活動を何とか表の世界から排除する事に躍起になっている。ともあれ、今まで一切正体不明だったコドクノマレビトの幹部、或いはトップの名前が割れたのだ。
ヤタガラスから臨時ボーナスを貰えた。刑務所の事はそれで許して貰った。
それが結構な功績だったので、ヤタガラスが今度は休みをくれた―――というかやる事が調査ばっかりだったりするので、此方の様なジェノサイドウェポンを仕事に出すわけにもいかず、待機以外の選択肢がなかった。そういう訳で休みになった。そしてアンズーの大量討伐の結果、レベルがついに40の大台に乗る事を達成していた。
レベル40。それは悪魔業界でも大きな意味を持つレベルだ。
レベル40と言えば力のある神や、英雄と呼ばれる様なクラスの悪魔が出現し始めるレベルになってくる。単独で国家を滅ぼすだけの力があると言われ、国からマークされる様になるレベルになるらしい。それだけではなくレベル40ともなれば最上位の魔法を使えるようになる存在がちらほらと目撃出来る様になり、段々と悪魔という名前に相応しいだけの実力を発揮する姿が目撃出来る様になる。
レベル上限が存在しない自分とアンやベルはそのままレベルアップするだけなので合体の必要はないが、ヴァラーハとチェフェイは合体して上位の姿へと変えないとレベル上限に引っかかり、これ以上強くなる事が出来ない。
だとしたら、やる事は決まっている。
「―――ようこそ、ベルベットルームへ。そろそろご利用になるかと思い、お待ちしておりました」
ベルベットルームへと悪魔たちを引き連れてやって来れば、悪魔合体の準備を既にイゴールが整えて待っていてくれた。庭園にはベラドンナの歌声が響き、テーブルの横には悪魔全書を広げているラヴェンツァの姿が見える。レベル限界を迎えたヴァラーハとチェフェイは悪魔合体をしなければこれ以上強くなる事は出来ない。
その合体に関しては今まで、悪魔王ルシファーが担当していたが、
「ヴァラーハとチェフェイの合体をしたいんだけど」
「えぇ、そろそろかと思っておりました。素材、プラン共に既に悪魔王から提供されております」
「ですのでリュージ様に関しては、どうぞご心配なく。貴方が存在していた崩壊世界での合体と同じように悪魔合体を執行させて頂きます。問題なくヴァラーハは上の化身の姿へと進み、チェフェイは尾を増やすでしょう」
「あー、良かった。地味にあっちと同じように合体が出来るかどうか不安だったんだよね……」
そこはご心配なく、とイゴールが言葉を挟む。
「元々悪魔合体の秘儀は我々や邪教の館の者が得意とする技術です。悪魔王のそれは魔界の支配者としての知識から来るものであって、技術者としての能力ではありません。純粋な技術力で言えば我らの方が上でしょうな」
「我々であれば其方で発生した四文字の分霊の合体事故の様な事は発生しないでしょう。元々ペルソナ合体用の施設として運用していましたし」
「強い」
こうなれば安心して仲魔を合体させることが出来る。元々合体させるつもりではあったが。そういう事でDDSプログラムを起動させた状態でスマートフォンを渡せば、ラヴェンツァがそれをイゴールへと渡し、イゴールが悪魔合体の準備と合体プランに合わせて合体の準備と調整をし始めてくれる。その様子を眺める。
やはり、悪魔が合体する場面というのは自分の様な人間からすれば、不思議極まりない光景だった。
生物として融合する事で新しい形に変わる儀式……悪魔たちはこれを普通に受け入れるのだから、まるで別世界の存在の様に感じられる。とはいえ、ウチの悪魔は姿が変わるだけだからまだマシな方なのかもしれない。
「それでは合体を始めますが良いですかな?」
「お願いします」
イゴールの言葉に頷きと共にGOサインを出す。それを受け取ってイゴールがDDSからまずはヴァラーハを抜き取った。カードの形で抜き取られたヴァラーハはイゴールが浮かべた他のカード化された悪魔たちと共に浮かび上がり、それがヴァラーハに吸収されていくように合体していき、閃光と共に全てのカードがヴァラーハと融合した。
やがてそれはイゴールの座っているテーブルの前に浮かび上がり、光に包まれながら悪魔の形をとる。人の形をしているが、しかし獣人とでも表現すべき、獅子の頭を持った獣の男の姿だった。
「我は第四の化身! 死を極限まで遠ざけし魔人を打ち滅ぼす獣人ナラシンハ! サマナー、コンゴトモヨロシク!」
「姿変わったなぁー」
半分が獅子の獣人の姿は、今までは完全に獣の姿をしているヴァラーハまでの姿とは、大きな違いだった。ナラシンハもその手の中にはカティを握っており、どうやら剣術で戦う事もナラシンハの姿からは出来るらしい。そういえば全王神の化身は最初が動物、段々と化身が進むにつれて進化を表す様に人の姿へと変わっていくという事を思い出す。ともあれ、ナラシンハの姿をこれで獲得した。
「ナラシンハの権能は隠密の権能だよ、サマナー。物質の中に潜み隠れることが出来る上に気配も完全に空間と同化する事も出来るとも! 奇襲、暗殺、不意打ちとかはお任せな姿さ!」
「またなんか便利な力を身に着けてきたな……良し、これからも頼りにしているぞ」
「任せてくれ」
手が獣のそれと近いナラシンハとハイタッチを決めて、新しくなったナラシンハをパーティーに追加する。ナラシンハの強化が終われば、次はチェフェイになる。イゴールがGOサインを待ってくれているので、頷きで許可を出せば、ナラシンハの時の様に、チェフェイの合体が始まる。カードに対してカードが融合し、チェフェイの霊基情報が強化され、ワンランク上の存在へと進化する。
やがてナラシンハの時の様に、合体が完了してチェフェイの姿が出現する。何時も通りのちっこい少女姿だが、その背後に伸びる尻尾は全部で5本にまで増えている。
「うむ、妾は五尾チェフェイ! 良いぞ、漸く本来の力の一端を使えそうじゃな! コンゴトモヨロシク」
「お前の仕事はデバフし続ける事だけどな」
「知ってた」
合体が終わったのでスマートフォンを返してもらいつつ、DDSにアクセスして早速変化した二体の仲魔の様子を確認する。
まずはナラシンハ。レベルが上がった事でMPも上昇した為、マハグライダインやマハフレイダイン等の上位魔法を使った所で魔法のコストに心配がいらないレベルになって来た。その為、習得している魔法が上位魔法に置き換わってきた他、ついに物理系統の攻撃技も習得し、《デスバウンド》を習得する。圧倒的に恵まれた前衛としてのステータスに加え、四属性の耐性に物理系統は一部無効化や反射まで備えている。それと引き換えに呪殺弱点が増えてしまっているが、そこはマカラカーンで対処できるだろう。今まで以上に前衛でゴリゴリ殴りながら魔法と物理両方で戦えるアタッカーになった。
次にチェフェイ。相当早い段階ではあるものの、どうやらランダマイザを習得したらしい。ランダマイザ―――つまり敵にたいして全種ンダ系魔法を同時にかける事の出来る最上位デバフ魔法だ。そのまま覚えたのではなく、悪魔絵師がスキルカードとして作成したのを合体で使用する事で習得させたことになる。それ以外にも神経・精神高揚を獲得し、更に状態異常の発生率と持続率を強化し、ランダマイザと合わせて更に相手に対する拘束力が上昇した。
ナラシンハとチェフェイの運用に関して変化はない。そこはシンプルに何時も通り、役割別に特化した仲魔として運用すれば問題はない。ただし二体とも、上位悪魔に相応しいだけのステータスや能力を誇る様になってきた。
「クソ雑魚で鈍器扱いされていた時代が懐かしい……」
「あぁ、うん。そう言えば僕は初期は道具運用だったよね」
「妾も最初は狐だったから振り回されていたな……」
それが今では立派な悪魔に進化した。なんという感動的な話だろうか……いや、別に感動的でもなんでもないが。それでもここまでだいぶ強くなったのは個人的に驚く事でもあった。なにせ、これでレベルだけを見るならあの破戒僧や聖女と同格になったのだから。あの人外な領域まで届くのに何年もかかるものだと思っていたのに、
もう既にその領域に到達している。
しかもまだ、帝都の治安が悪化しそうな事を考えるとまだまだ、戦う悪魔と経験値の予定は尽きない。その事を考慮するとまだまだレベルは上がりそうだった。上手くいけばこの世界の間にレベル50に到達する事が出来るかもしれない。相手の主力がアンズーで、それが雑魚の最高レベルだったとしたらそろそろレベルが伸び悩むかもしれないが。それでも、崩壊世界でも一般サマナーとしては最高クラスのレベルに自分は到達しつつある。
……それでもまだまだ強さが足りないというのが恐ろしい話だ。
「うっし……これで戦力の増強完了だな」
DDSにナラシンハとチェフェイを戻し、二体のレベルを確認しておく。ジャスト40レベルだ。これで崩壊世界でも上位のサマナー扱いになるだろう。ダンテとかがアレ、超例外なだけだし。
「出来るなら40レベル以上の悪魔が出没する異界なんか探索出来ればいいんだけどなぁ……」
「そのレベルの悪魔が出没する異界となりますと、流石に国家に管理されて封印されるレベルの異界でしょうから、少々難しいと思います」
「やっぱそうかー……」
ラヴェンツァの話を聞き、肩をがくりと落とす。当然だがレベル40を超える異界なんてものは中々存在しない。大半は即座に破壊されるか、或いは国家か大きな組織で管理する事によって外に被害が出ない様にする為だ。そして管理されている場合はそれを使って戦力を増強する意味もある。レベル40以上の異界は実にレアなのだ。
あのヴェータラの居る下水道、今思えば丁度良い狩場だったんだなぁ、と思う。今もあそこを利用できればよかったのだが、あそこのボスは自分がハメて捕縛してしまった為、普通に解消してしまった。あそこで頑張ればレベル45までは目指せたんじゃないかなぁ、とは思わなくもない。
まぁ、悩んでもしょうがないところだ。
「どうせどれだけ悩んでても格上の悪魔が出るんだろうし、メタ手段を先読みして用意しておけばいいよな」
「すっかり荒んでしまわれましたね……」
帝都がこんな地獄だと知らなかったのだ。だってスダマドラオンだぞ、アレを三発も耐えられる存在が居るとは思いたくもなかった。アレが通じないとなると、根本的に戦力不足という事になる。どうにかして強くならないと駄目だ。
それを焦った所でいい結果が出る訳でもないし、とりあえずはベルベットルームの住人達に感謝を告げてから、ベルベットルームを出た。
本日も空は蒼く晴れている。しかしどことなく、不吉な気配を感じるのは超人としてレベルが上がって来た影響で、様々な事に対して敏感になって来たからだろうか? まぁ、帝都が不穏な事に関しては今更な話でもある。何せ、堂々とテロをぶちかます秘密結社なんてものが存在するのだ。さっさとライドウにはそれをぶっ飛ばして貰ってほしい所だ。
「あーあ、なんで平和な世界に繋がらないんだろうなぁ……」
『人徳かな!』
『運命じゃろ』
「私はそれが面白いからだと思うわよ」
「運……悪い?」
「祈り、祈っても救われない……!」
「俺、泣いてもいい?」
相変わらず仲魔どものサマナーに対する当りが強い。こいつら、もうちょっとサマナーを敬う様になってくれないかなぁ、と思いながら、溜息を吐いた。結局のところ、自分からどうにかしようとしない限りは、何も変わりはしないのだろうから。
だから何か、自分が少しでも楽になる為に、生きるために、変わる為に、
なにか、しなくてはならない。とはいえ、そう都合よく常に何かある訳でもない。家の庭に戻って来たので合体したばかりのナラシンハとチェフェイをDDSから召喚して解放しつつ、息を吐きながら縁側へと移動し、そこに座り込む。
ナラシンハは新しい体を習熟する為にトレーニングで、チェフェイは家の掃除へと戻っていった。ベルはどうやらアンと一緒に居間でカードゲームで遊んでいる様で、鳩はスダマを転がして遊んでいる。
この、高位悪魔が日常生活の中で普通に遊んだり暮らしている光景を見て、自分もかなり遠い世界へとやって来てしまったなぁ、と胸の中で溜息を吐く。
だけど嫌いじゃない。
怖いし、辛いし、苦しい事もある。
だけどこの日常を、嫌いになる事は出来なかった。困った事に、このどうしようもない馬鹿みたいにリアリティの足りない日常を、自分はそこそこ楽しく思っているのだ。どうしてだろうか、レベルが上がって人間卒業してしまった影響だろうか? これからもまだまだ人類を卒業して行くことを考えると、まだこの先も自分は変わって行くんだよなぁ、と思ってしまう。
その果てには、どこへと辿り着くのだろうか? 先行きの見えない未来は色々と恐ろしい。それでも、好き勝手生きている悪魔の姿を見ているとどことなく、ほっこりとしてしまう。
なんだかんだで、彼らと一緒の風景に既に日常を感じている辺り、自分はもう手遅れなのかもしれない。
「サマナー」
空を眺めながら黄昏ていると、横から重みと柔らかい感触が張り付いて来た。視線を横へと向ければ背中に乗りかかる様にアンの姿が見える。相変わらずスキンシップ過剰で股間への影響が悪いから止めて欲しいのになぁ……と思いながら、なるべく普通にアンの方へと視線を向けた。
「どうした」
「あーそーぼー……」
「カモってあげるからサマナーも参加しなさいよ」
「君たち俺の運ステ壊滅してるの知ってて言ってる? だが良いだろう! 男は挑まれた勝負から逃げない……!」
「わぁーい」
アンを背中に乗せたまま、引きずる様に立ち上がって居間へと向かい、遊んでいるベルとアンの輪に加えさせて貰う。悪魔が強くなったり、帝都では世界を揺るがす事件が始まりつつあるのは空気を通してなんとなく、感じられる。
だけどそれはそれ、これはこれ。
我が家と悪魔たちは平常運転だった。
レベル40の大台漸く到達。
今回は合体で悪魔の更新、そしてついに習得されるランダマイザ。まともにカードなしで習得しようとすると60レベル超えるんだよなぁ、アレって……。
軽くインフレさせてるように見えて、コドクノマレビトのラスボスであるクラリオンのレベル余裕で100超える予定だからなぁ……。この程度強化しても焼け石に水程度というか。
それぞれの世界のラスボスは大体全部100レベル超えてる。