※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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大正二十年 ⅩⅥ

「なぁ―――アマラ宇宙ってなんだ?」

 

「ん? そうね……説明しておくのもいいかもしれないわね」

 

 それはある日の午後の話だった。夕食を食べてお腹いっぱい、幸せだった時の話になる。偶に出て来るキーワードは、自分が理解できないものが多かった。その大半は知らなくても生きて行けるし、必要ない、と教えてくれるものじゃなかった。だけどこの日のベルは気分が良かったのか、室内用タンクトップとホットパンツというラフな姿で横になりつつ、自分で団扇を扇ぎながらその疑問に答えてくれた。

 

「アマラ宇宙ってのは私達が知覚している並行世界の総称よ」

 

「並行世界」

 

「つまりは私達悪魔が何らかの形で存在するパラレルワールドの総称を《アマラ宇宙》と定義しているのよ。このアマラ宇宙の管理人はおそらく四文字だって認識しているわ。究極的にはこの管理人を打ち倒す事がウチのコスプレ王の目的よ。色々なアマラ宇宙に繋がる世界に出没する度にバリエーションを増やすんだからほんともう……」

 

 支配人は何時も通り、ベルからぼろくそ言われていた。四文字打倒という目標が無ければ派閥から抜けているとか豪語さえしている。ベルは呆れながらも、話を続ける。その横には崩壊世界で調達された缶ビールが置いてある。

 

「えーと……そうそう、アマラ宇宙の話ね。私達の目的はその管理人を殴り飛ばして嫌がらせする事なのよ」

 

「いやがらせ」

 

「いや、だって無限の並行世界の管理よ? 面倒なの嫌じゃない。ウチのも別に、宇宙が欲しいとかじゃなくて、四文字への愛を拗らせているだけだし……。まぁ、めんどくさい話一種の反抗期よね。それでもカリスマと能力が揃ってしまったからとんでもないんだけど。それに悪乗りするのが悪魔という存在よ」

 

 えーと、それで、とベルが呟く。

 

「そうそう、アマラ宇宙には正史と外伝が存在するのよ」

 

「……正史?」

 

「そう。で、基本的にこの正史にも外伝にも全て、常に《ヒーロー》が存在するのよ。この概念が生まれた原因は正史における東京に核ミサイルが落ちた事で大破壊が発生し、それを生き抜いて生まれてしまった《ザ・ヒーロー》が原因ね。他にも《ガイア・ヒーロー》と《ロウ・ヒーロー》も存在したけど、大元は彼ね」

 

 ぐびり、と彼女はビールを飲んだ。

 

「最終的に諸々の問題をヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)が(・)全(・)部(・)殴(・)っ(・)て(・)解(・)決(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)事が問題なのよ。それが正史の宇宙だからね。ヒーローが苦難を乗り越えて全て殴り倒すって流れが正しい歴史に記録されてしまったのよ」

 

 つまり最初の戦犯の話だった。

 

 《ザ・ヒーロー》という少年の話。苦難を全て乗り越え、虐殺し、その果てに全てを捨てて一人だけで最後の最後まで到達してしまった少年の話だった。ザ・ヒーローはそうやって正史と呼ばれる宇宙にその流れを刻んでしまった。つまりそ(・)れ(・)が(・)基(・)点(・)と(・)な(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)のだ。あらゆる悪魔の存在するアマラ宇宙の中で、ザ・ヒーローがそうした様に、

 

 人(・)間(・)の(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)が(・)困(・)難(・)を(・)乗(・)り(・)越(・)え(・)る(・)可(・)能(・)性(・)を(・)内(・)包(・)す(・)る(・)物語が出来上がったのだと、ベルが言う。

 

「まぁ、つまり戦犯ね。私達悪魔は圧倒的な力を持ちながら、人間に対して最終的に敗北するような可能性を獲得してしまった訳。だけどそれで話は終わらないわ。世界はそこからさらに分岐するわ」

 

 それをベルが説明して行く。

 

「例えば核ミサイルが落ちない、平和だけどニャルラトホテプが人間で遊ぶために目覚めた為発芽したペルソナの存在する世界。或いはガーディアンによって守護される人間の世界。東京の終焉と共に人修羅の生まれる世界。可能性は分岐して広がったわ」

 

 だけど、とベルは続ける。

 

「このアマラ宇宙にも主役って呼べる奴は常に存在しているのよ。ザ・ヒーローに負けず劣らず怪物的な才能と運気を兼ね備えた人間の中の怪物が。或いは人間の中の人間ね。そう言うのがこの宇宙で時折現れて―――そう、絶対に勝利するのよ。どんな苦難、挫折、絶望があっても最終的に絶対に勝利してしまう。そんなご都合主義の怪物の様な連中がこの宇宙に時々出現するのよ……」

 

 それが、

 

「主人公(ヒーロー)よ。とんでもない連中だわ。なんだかんだで最後は勝っちゃうんだから……」

 

 だけどそれをどこか、楽しそうにベルは言っていた。悪魔は概念的な存在。遠い宇宙で経験したことを彼女もまた、覚えているのかもしれない。

 

 

♦

 

 

 だからこそ、油断していたのかもしれない。何をどう見ても、あの実力と活躍具合。ライドウこそがこの世界の主人公(ヒーロー)だ。最終的には綺麗さっぱり、彼が問題を解決してくれるに違いない。そんな甘い考えが自分の中にあったのかもしれない。だとすれば、この惨状は間違いなく、自分が原因なのだろう。自分はヒーローという概念に甘えていたのだ。

 

 考えれば簡単にわかる事ではないか。

 

 俺(・)は(・)例(・)外(・)だ(・)、と。いや、俺(・)達(・)が例外なのだと。

 

 考えてみれば当然だろう。それに近い事は前々から言われていた。自由に動ける、舞台に存在しない演者。それが自分の立ち位置だとスティーヴンが丁寧に説明していたではないか。だからそう、俺はこの物語のプレイヤーではない。

 

 だとしたら、ヒーローの恩恵を受けないのも当然だろう。

 

 ただそれだけ、それだけの話だ。

 

 だけどそれを忘れていた。安心していた。油断していた。ただ圧倒的な力だけを見て、アイツさえいれば大丈夫だと思ってしまった俺が全て悪いのだ。

 

 だから目の前の景色は、自分の怠慢が生んだ。

 

 ―――アンの体が大地をワンバウンドし、転がった。

 

 それを見かけた瞬間には駆け出し、大地を転がるその姿を引き寄せ、抱きしめた。近くでクラリオンが放った破局を破壊した影響か、アンの全身がぼろぼろだった。血を流しながら片目はばっくりと割れており、片腕と片足が足りない。腹が大きく裂けており、内臓が今にも溢れ出しそうだった。きつく体を抱きしめ、歯を食いしばりながらアンの腹の傷が広がらない様に、自分の体を押し当てて、それ以上開かないようにする。

 

 焦らなければ、魔法を使って回復すればいいだろうと気づくだろう。

 

 だけど、仲魔の声が入ってこない。

 

 ここまでぼろぼろになったアンを見るのは初めてだった。

 

 これを見ただけで頭の中がごちゃごちゃになる。

 

 全てを投げ出してでも、抱きしめたくなった。内臓がこぼれださない様に、傷口が広がらない様に必死にそれを掴んで抑え込みながらアンを掴んだ。片目だけになった状態で、

 

 ―――アンは何時も通りの無表情ではなく、笑っていた。

 

 その笑顔が余りにも綺麗で、余りにも少女らしくて、人修羅ではない少女の様なものに見えてしまって―――涙を、流さずにはいられなかった。

 

「リュージ……馬鹿……私……サマリカームで、蘇られる……悪魔……」

 

「それは……」

 

 そうだ、それはそうなんだ。それは解っているんだ。だけど違う、違うんだ。そうじゃない。蘇ればいいという訳じゃない。ひたすら胸が苦しい。こうじゃないし、そうじゃない。

 

 あぁ、言葉に出来ない。

 

 言葉が、出てこない。言いたい事はあるのに、それが言葉にならない。所詮はハリボテの覚悟だった。何もかもメッキだった。それを理解させられた。自分は英雄なんかじゃないし、レベルが上がった程度でこれだ。本当のサマナーになんか、なれてはいない。俺は、

 

 どうしようもなく、弱い。

 

 弱すぎる。

 

「リュージ」

 

「っ、アン……?」

 

 名前を呼ばれた弱々しい手を伸ばし、それでアンが此方の頬を撫でた。そして、小さく笑みを向けてくれた。

 

「不安……心配、なる……で、しょ? だから……」

 

 続く言葉がアンの口から出る前に、言葉が止まり、血が流れ続け、アンに付属するDDSの表記がDYINGへと変貌した―――つまり、彼女はここで一度目の死を迎えた。サマリカームを使えば余りにも簡単に覆ってしまう死だ。この傷も、鳩を召喚すれば簡単に癒せるだろう。

 

 だが、その為に召喚しようとする指の動作が、余りにも重い。

 

 DDSから鳩を召喚するだけでも、物凄く苦しい。

 

 ただ命の気配が抜けてしまったアンの体を抱きしめ、そしてそこに残された体温を感じ取っていた。流れ出る血液と共に流れて行くその熱の温もり、それが消えていくたびに、胸の中に灯されていく物を感じる。

 

 恐怖? そんなもの、ずっとあった。

 

 絶望感? 旅を始める前からずっとあるに決まっている。

 

 悲しみ? どうしようもなさには常に悲観している。

 

 違うだろう、これは、

 

「―――」

 

 無言の言葉を吐き出しながら、アンの体をゆっくりと置いて、上着を脱いで被せた。歯を食いしばりながら立ち上がり歯がその強さに、少し砕けた。口内に満ちる血液を吐き出しながら、DDSから鳩を召喚した。召喚された鳩は此方の指示もなく、サマリカームを発動させ、欠損したアンの体と命を蘇生させた。だが極度にMagが低下した影響か、彼女は目覚めない。

 

 いい、見られなくても良い。

 

「俺が、馬鹿だった」

 

 勝手に恐怖して、絶望して、格好いい所を見せようとして覚悟を決めたように振る舞って。だけど結局は全部中途半端だ。やっている事も、覚悟している事も、態度もなにもかも。圧倒的に中途半端だった。実力だってそうだ。

 

 そう簡単に覚悟は決まらない。

 

 そう簡単に人は変われない。

 

 そう簡単に人は、強くなれない。

 

 だけど、

 

「だけど―――ブチギレたぜ」

 

 この際、小賢しい物は全部どうでもいい。ブチギレた。それだけでいい。もう、考えるのは止めだ。

 

 恐怖、絶望、悲嘆、全部どうでもいい。全部、今だけは忘れることにした。そんな事がどうでもいいぐらいにキレている。その事実だけが今、自分の胸の中で全部を燃やし尽くしながら煮えたぎっている。あぁ、そうだ。それだけだ。たったそれだけのシンプルな理由で、

 

 ―――俺は何もかも忘れて、本気の本気を引きずり出せる。

 

 恐怖も絶望も涙も全部怒りの燃料へと燃やし尽くす。この瞬間だけは全てを怒りにぶちまける。そうしなければ本気を出す事さえ怖い、小市民だ。理由がなければ自分の全力を引き出す事さえ出来ない。許して欲しい。情けない俺の様な男が君を好きになってしまった事を。

 

 君が傷つきでもしないと、本気を出せない俺の様な男の情けなさを、本当に許してほしい。

 

 だけど―――今はそのせいで、本気で人間性さえ捨て去って、戦えそうだ。

 

 

♦

 

 

 或いはその激怒のタイミングが、奇跡的にマッチングしたのかもしれない。

 

 だがシナリオはシンプルなものだった。

 

 簡単に言えば―――激怒したのは一人だけじゃなかった。

 

 串鉈は全部見ていた。ただ一人、膨大すぎるMagを保有するが故に、一人だけ正気を保って見続けていた。本来の流れよりもずっと近い場所でライドウと、そ(・)し(・)て(・)リ(・)ュ(・)ー(・)ジ(・)と(・)ア(・)ン(・)を目撃していた。それは竜二も知らない事だった。

 

 だが彼(・)女(・)は(・)リ(・)ュ(・)ー(・)ジ(・)に(・)感(・)謝(・)し(・)て(・)い(・)た(・)のだ。

 

 ライドウには密かな恋心を抱き、そして竜二には多大な感謝を。それはなんて事はない。リュージが参加した依頼の一つ―――つまりは刑務所での影武者の護衛依頼の話になる。

 

 串鉈はそれをライドウから聞いて知っていた。

 

 激戦の中で最後まで相手のボスに食らいつき、そして最終的に目標を守り切ったというサマナーの話を、竜二の話を串鉈はライドウから聞いていた。本来、それはライドウにとっては苦い経験になる話だった。ライドウは帝都の外へと依頼で動かされ、その間に刑務所では虐殺が発生する。

 

 そこに串鉈の影武者が―――大月が巻き込まれていた。無論、オウハンの手によって大月は死亡した。

 

 だがそれを竜二は阻止する事が出来た。それは全体からすれば、本当に小さな流れだっただろう。彼女が生きていた所で大局に影響はない。事実、死んでいる人物の中でも特に力がある存在だった訳でもない。彼女は犠牲者であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 だが彼女を生かした事はライドウの心に無用な闇を差さなかった。串鉈に安心感という物を与える事が出来た。ライドウ自身が証拠と自信をもってそれを伝える事が出来た。それは僅かな変化だ。

 

 だけど心に一筋の光を生み出すのは十分すぎる変化だった。

 

 串鉈は善人だ。

 

 彼女は盲目である。だからこそ他人の心に機敏である。彼女には人の善悪が判る。そして人の表層ではなく、その下に隠れているものが見える。それは彼女が盲目であることと、彼女がMagを溜め込むその体質に由来するものがある。

 

 だからこそ、彼女は感じる。悲哀、そして怒りを。

 

 元々、串鉈はその身に詰め込まれたMagを解放する流れにあった。それは彼女自身の手によって。

 

 本来の流れであれば彼女のそれは全てライドウへと向けられた。

 

 だが彼女の視線はちゃんと、本来は舞台に存在しない筈の者を、イレギュラーをちゃんと、捉えていた。

 

 ライドウと出会う事が無ければ、それが串鉈へと伝わる様な事はなかっただろう。彼と会話し、あの屋敷の庭で一緒に運動するような仲でもなければ、態々ライドウが串鉈に影武者の無事を竜二が守ったとは言わなかっただろう。串鉈もそれを知らなければ竜二にこっそりと感謝を感じる事もなかっただろう。

 

 結論から言えば、

 

 ―――無駄な事は何一つなかった、そう言えた。

 

 故に竜二が激怒に身を燃やし、立ち上がった所で、

 

 ソ(・)レ(・)は顕現した。

 

 

♦

 

 

 光を感じる、空間に渦巻くMagが圧縮されて行き、それが体内に満ちていく。傷が、疲れが、魔力が高速で回復して行くばかりではなく、限界を超えた力が体の中に注ぎ込まれていく。だがそれは肉体を破壊する事無く、優しく満ちていく。そしてその中で、自分の中でまだ、未覚醒だった領域の力が胎動するのを感じる。

 

「―――私の名はアメノオハバリ。あらゆる刀剣の神にして魔を駆逐する神々の剣」

 

 その神は串鉈と入れ替わる様に登場した。彼女が腕を振るえばそれに従い、Magが渦巻き、自分とライドウの体を満たす。彼女は串鉈が特別なMagに干渉する能力を持っていたように、それを引き継いでいた。眼前に、極光でクラリオンの干渉を遮断しながら自分とライドウを見据え、語り掛けて来る。

 

「今の私には少女の吸魔能力が備わっています。それを通し大気中のMagを貴方達に分け与えています。現状、あの外宇宙の悪魔に勝てるのは貴方達しかいません。依り代となり、眠っている少女の為にも力を貸しましょう」

 

 アメノオハバリの言葉にライドウが回復し、立ち上がった。そして此方へと視線を向けた。それに応える様に頷きを返した。ライドウもぼろぼろとなった外套を脱ぎ捨てて、拳を鳴らした。

 

「少女の心意気に敬意を表し、私も剣の姿となって力を貸しましょう―――」

 

 十束剣へと変化したアメノオハバリをライドウが掴む。それに合わせ、此方も悪魔を召喚する。前に出る様に踏み出しながらベルとチェフェイを召喚した。

 

「お姫様は私達で守るわ」

 

「うむ、サマナーよ。全力で怒りをぶつけるとよい」

 

 片手を二人へと振りながらライドウに並んだ。片手で十束剣を掴みながら、もう片手で古ぼけた封魔管をライドウは抜き放った。それが恐らく、ライドウの切り札なのだろう。故にそれに合わせ、自分も溢れ出すMagによって導かれた、自分の力を覚醒させる。

 

 恐怖と絶望で押し込み、ずっと蓋をしていた力に触れる。

 

 自分の心臓に胸を当て、そこから一枚のカードを引き出す。

 

『そう―――それでいいんだ、サマナー』

 

 描かれているカードは褐色、白髪の青年が描かれた絵だった。器を二つ手にした褐色の青年がその中身を移している、《節制》のアルカナカード。それは常に、自分の中にあった。ただ、引き出せなかったのは俺自身が原因でしかない。

 

 だが今、恐怖は欠片もない。

 

 故にこの一枚に、自分の力の全てを込める。

 

 瀕死の者すらMagの濃度だけで甦るこの空間、自分が受け取れる全ての力を、それをこの一枚のカードに注ぎ込む。生半可な切り札では勝てない、押し負ける。だとしたらオールベット以外の選択肢は残されていない。故に賭ける。自分が持つ最強の手札を呼び寄せて。

 

 そこに、魂を込める程に熱量を上げて、怒りの全てを吐き出させる。

 

『君はヒーローではない。君は英雄ではない。だから君が戦う理由はもっと陳腐で、くだらない物でいいんだ。誰かを守る為なんて大きな理由を持ち出す必要は欠片もない』

 

 ライドウが封魔管を構えた。それに合わせ、此方もカードを正面に浮かべた。アメノオハバリによって供給されるMagを二つが全て吸収していく。その動きをクラリオンは極光が消えてから知覚した。超越者らしい傲慢で遅い動き。それは自分の力であればどうにでもなると確信した、初動の遅さ。

 

 その家を超える太さを保有する触手を一気に伸ばし、剛撃を空から降り注がせる。

 

「―――気高き瑞獣よ、四神の長よ」

 

「―――星の終焉にて座す未来王よ」

 

 力が圧縮、凝縮され、そして極限まで高められ―――封魔管の解放を許す。本来のライドウのレベルでは召喚する事の許されない究極の召喚を許可する。それと同時に、タロットを通して未来王の覚醒が始まる。DDSから自動召喚される姿は進化の系譜を巡る。

 

 魚、亀、猪、獣人、矮人、聖仙、理想王、英雄、覚者。

 

 姿が巡り、そして最終―――褐色に白髪、白い腰布を巻いた青年の姿へと辿り着いた。その姿に追従する様にその背後に機構が出現する。両腕の横に巨大な白い爪を生やした腕の様な機構が出現し、それが背中へと伸び、背後で機構として繋がり、光の翼を生やしていた。

 

 究極と呼べる領域にある悪魔が召喚される。

 

 その召喚に呼応する様に大気が渦巻いた。触手を切り裂きながら黄金の風と雷鳴が鳴り響く。それに合わせ空間が歪む。極限まで圧縮された重力が光さえも飲み込み、世界を焼く炎が触手を蒸発させた。

 

「今こそ我に力を貸し与え給え―――!」

 

「この糞をぶち殺す為に力を吐き出せ―――!」

 

 クラリオンが放った破壊を逆に飲み込みながら姿が顕現する。黄金の鱗を持つ龍の頭にライドウが乗り、そして未来王が浮かべる片腕の上に着地し、空へと浮かび上がり、クラリオンが放った触手、30をも超える、レベルが100以下であれば一瞬で反応すら許さず消し飛ばすその全てを、

 

 二体だけで食い破った。

 

「召喚! コウリュウ!」

 

「顕現! カルキッ!」

 

 本来は召喚出来ない筈の格の悪魔が、アメノオハバリによるMag限界突破、覚醒補助によって限界を超えて顕現する。空間が超越級悪魔の登場に歪み、そして異界が悲鳴を上げる。だがそれを一切気にする事もなく二体の悪魔が吠えた。

 

「久方ぶりに本気を出せそうな相手が出たか……!」

 

 楽しそうにコウリュウが宙を舞い、吠える。黄金に輝く姿はあらゆる運命を捻じ曲げ、そして不吉を滅ぼす。クラリオンが呼び出した絶望による運命の袋小路を粉砕した。その存在によって光が生まれた。存在しなかった勝機がコウリュウに導かれて呼び出された。極限を超えた力がライドウの本能と才能を磨き上げる様に覚醒させた。超越級の悪魔としての力が、通常の戦闘領域ではありえない数々の奇跡を生み出す。

 

 だがそれが行えるのはコウリュウだけではない。

 

「接続―――全王権限。《十大化身》、全権能覚醒」

 

 未来王カルキの言葉と共に、完全に覚醒されたその権能が稼働する。そのデータがDDSを通して投影されて行く。

 

マツヤ《予言》絶対命中と絶対回避を自身に付与する

 

クールマ《創海》全門耐性・極に相性を変化する

 

ヴァラーハ《再誕》無限に蘇る

 

ナラシンハ《矛盾》自身に貫通・真を付与する

 

ヴァーマナ《踏破》境界超え・真を付与する

 

パラシュラーマ《聖仙》奥義を習得する

 

ラーマ《理想》魔との戦いで相手の蘇生回復を禁ずる

 

クリシュナ《英雄》悪との戦いに負けない

 

ブッダ《覚者》あらゆるデバフ効果を無視する

 

カルキ《粛清》星を滅ぼす者を滅ぼす

 

 規格外とも表現できる数々の権能がカルキの覚醒に従い、稼働する。それはカルキという英雄が本来保有するパ(・)ッ(・)シ(・)ブ(・)ス(・)キ(・)ル(・)で(・)し(・)か(・)な(・)い(・)ものであり、これでさえまだ、本来の力を完全に発揮できていない。だがそれでも空気中のMagを、クラリオンによって世界から吸い上げられ、そしてアメノオハバリによって分配されたそれはカルキとしての力を振るう事が出来る領域まで力を高めていた。

 

「空が淀んでいる。空気は腐っていく。人々の心は絶望の暗雲に覆われて、堕ちていく。動物たちは死に絶え、人は物語を刻む事もなく、地上の花は枯れていく」

 

 覚醒した未来王と四神の長は、そのスキルやレベルにおいて同格だった。帝都の空に浮かび上がり、対面する両陣営は漸くこれで対等に向き合う事が出来た。そう、これだけの規格外の悪魔を二体揃えてもま(・)だ(・)ク(・)ラ(・)リ(・)オ(・)ン(・)に(・)匹(・)敵(・)し(・)た(・)だ(・)け(・)だった。

 

 そしてクラリオンは今もMagを地球から吸い上げていた。

 

「星が死んでいく―――だがそれを滅ぼすのはお前の仕事じゃない」

 

 カルキが笑った。

 

「僕の仕事だ。さぁ、誰の星で暴れているのか、この馬鹿に教えてあげようじゃないか」

 

「行くぞ人の仔よ。振り落とされるな。我も久方ぶりの戦闘で鱗を震わせている。己を抑えきれないかもしれぬ」

 

「それで並んだつもりか、ライドウ、異邦のサマナー。だが所詮貴様らは不完全なる《個》……」

 

外宙神 クラリオン Level206

 

四聖の長 コウリュウ Level128

 

未来王 カルキ Level124

 

 レベル100を超える悪魔が二体揃って、漸く互角の魔王。外宇宙から迷い出て来た侵略者。地球を滅ぼす災厄。人類という種を喰らう為にやって来た絶対君臨者。

 

 それを滅ぼす為の戦いが―――始まる。

 

 誰かを守る為でもなく、

 

「俺の女を良くも傷つけてくれたな―――!」

 

 それだけ。とてもシンプルな理由。

 

 それで怒りを燃やしているから―――それだけで、戦える。




 クラリオンvsコウリュウ&カルキ。これがラスボス戦じゃよ(震え声

 下手すりゃあ星すら吹っ飛ばしそうなレベルの戦いになっているが、ライドウ君がきっと星へのダメージを回避してくれることを信じましょう。なおカルキは特殊な状況での召喚なのでこれでフルスペックではない疑い。星最終の王様の名は伊達じゃない。

 という訳で次話、女に手を出したからぶち殺すという一般人理論でハイパー帝都バイバイ大戦。
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