※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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死神と塔 Ⅱ

「どこの誰だよハメ殺せるつった馬鹿は!!」

 

「サマナーじゃろ!?」

 

 至近距離で顔面にショットガンを外さないようにぶち込み、腕を千切ろうと爪で引き裂き、タル・カジャを限界まで使った上で全力で通りの良い打撃攻撃を、マツヤカリバーを叩きつけて、このメンツで力最大のアンが全力でぶち込んでいる。実際、その衝撃でマジシャンの巨体がワンバウンドしたり、吹き飛んでビルに衝突したりしているのだが、

 

 死なない。

 

 全く死なないのだ、こいつ。

 

 もう既に10分間はノンストップで急所に攻撃を叩き込み続けているのに、まるで死ぬ気配を見せない。攻撃を叩き込んでも叩き込んでも、攻撃が通っている感触はあるし、《アナライズ》で弱点と耐性を見極めて攻撃しているのに、それでも全くダメージになっていない。そりゃそうだ。レベルが違い過ぎて、体力が違い過ぎるのだから。ちょっとやそっとの攻撃じゃ削れないのだ、命を。

 

 と、思っているうちにマジシャンが痺れから復帰しそうになる。迷う事無くショットガンをベレッタに持ち替えて顔面に神経弾を三発、確実に効果を発揮させるために撃ち込み、弾倉が空になるのを確認し、リロードする。

 

「やべぇ……もう神経弾30発しか残ってないんですけど……」

 

「そうか……再び死兆星が見えてきたようじゃな?」

 

「縁起でもないことほんと止めろ」

 

 まさか王道のハメ戦法が全く通じないとかそんな話聞いていない。いや、レベルが圧倒的に違うのでもしかして……と思うべきだった筈なのだが、

 

「お前らなんでそこは注意しないの!? ハメてる間に逃げる提案とかしない!?」

 

「いや、なんか妾もこの空気ならいけるかなぁ、って思うたし」

 

『英雄や勇者ならこのぐらいの試練突破できるさ!』

 

「俺、どっちのジャンルにも当てはまらないんだよ糞が……!」

 

 もしかして崩壊世界にいた頃よりも今、命かけていない? そう思いながら痺れたマジシャンの姿を道路の外へとアンが叩き出した。華奢な姿でマツヤを振るい、そしてマジシャンを蹴り飛ばす姿はまさに物理法則を無視しているが、それでもダメージが少ない辺り、やはり根本的に勝てる様な相手ではない気がする。ならば、これはもう、しょうがないだろう。ショットガンを仕舞い、ベレッタで新たに神経弾を撃ち込んで痺れさせるのを延長させつつ、断腸の思いでその言葉を口にする。

 

「……スダマ先輩を使うしかないのか……!」

 

「!?」

 

 あ、チェフェイが迷うことなく逃げた。だが逃がすか、とその背中に神経弾を撃ち込み、無理やり足を止めて倒す。

 

「しまった、肉壁が一人減ってしまった……!」

 

『サマナー、実は追いつめられると酷くなる癖持ってない? ぶっちゃけ始めるというか取り繕わなくなるというか』

 

 貴様らと違って凡人に余裕はないのだ、クソどもめ。それはそれとして、スダマ先輩を使うしかないな、と言うのは当然の判断かもしれない。スダマ先輩は超自爆特化型悪魔。何をしようとも絶対に自爆し、支配人の悪ふざけとしか思えない超凶悪スキル一切合切をスダマ諸共吹き飛ばすという極悪仕様になっている。文字通り、ICBMのような爆発を見せてくれるナイスガイなのだ。

 

 だが同時に、周辺への被害がでかすぎるのだ。

 

 こんな街中でぶっ放せば、棺桶の強度は解らないが、色々とぶっ飛んでしまう。流石に普通に平和に生きている人々を巻き込むような畜生にはなれない。となると……やはり、どこか、誰もいない場所、被害の出ない場所へと叩き出す必要がある。神経弾を撃ち込み、行動を阻止しながら指示を出す。幸い、ここは海が近い。

 

「アン!」

 

「ん」

 

 道路から外す様に全力でマジシャンを蹴り飛ばした。動けないマジシャンはその衝撃に従って轟音を靡かせながら一回大地でバウンドしつつマツヤストライクによって殴り飛ばされた。それで飛距離を稼いだところで、復帰したチェフェイからスク・カジャが飛んで来る。速力の強化によってマジシャンに追いつき、

 

 神経弾を撃ち込みながらもう一発。フェンスを越えながらマジシャンの運送を開始する。

 

「ここが海沿いで良かった……なっ!」

 

「ん」

 

「場所が無かったらもれなく市街地破壊じゃったの……」

 

 ナカノの一角はそうやって消し飛んだので笑えない。そんな事を考えながら壁にたびたび衝突させながらも、マジシャンを殴り、蹴り飛ばして運送する。その動きは澱みがなく、隙もない。レベルは低いが、アンは完全にその身体能力を制御し、少ない動きで怪物的な動きを完成させている。マジシャンを吹き飛ばし、周辺にある物を足場に再び跳躍、空中で更に動けないマジシャンを蹴り飛ばす。

 

 その時、スパッツが浮き彫りにするケツのラインが素晴らしい。出来るならもうちょっと眺めていたい光景だが、そうも行かない。悪魔の全力の身体能力で蹴り飛ばせば、やがてマジシャンの巨体が街を突き抜け、その外側、港へと到達し、そして港から弾き出されて海の上へと飛び出た。落ちる前にその姿にすかさず神経弾を4発撃ちこみ、最終兵器の解禁を行う。

 

「DDS起動、お願いしますスダマ先輩!」

 

Summon ICBMスダマ

 

『去年の誕生日にYHVHがラムネを仏陀に送ってた』

 

「メシアンに殺されそうな危険な発言は止めろください」

 

 召喚と共に、銃を握っていない左手の上に丸く、そして青い悪魔が召喚される。紋様が刻まれた、顔のない手足のある青い玉。それがスダマだ。棲み、潜む魂という意味をするこの悪魔は山中に存在する悪魔であるが、なぜかこのスダマは異常に自爆する事に対する執着心を抱いている。そしてそれを支配人がデビルソースを惜しげもなく使う事で、最強自爆兵器スダマ先輩へと昇華させてしまった。

 

 そのせいで種族表記までなぜかICBM化している。手で投げる事の出来るその姿を握り締めつつ、海上に弾き飛ばされたマジシャンを見た。神経弾で麻痺してはいるものの、Magを使っているのか、沈むことなく浮かんでいる。その姿を更にアンがマツヤを叩きつけて吹き飛ばしつつ、海上の上で痺れるマジシャンの姿へと向かって、

 

 スダマを放り上げ、オーバーヘッドキックを決めて一気に蹴り飛ばした。

 

「お願いシャッス、スダマ先輩!」

 

 凄まじい速度で海上を飛翔するスダマは何物にも遮られる事なく直進し、波を割りながらマジシャンへと到達した。コテン、と音を立てながらマジシャンの仮面の様な顔に衝突し、そしてスダマの片手がサムズアップを作った。

 

『来やがったぜ』

 

メギドラダイン

 

「たーまやー」

 

 凄まじい閃光と共に海が消し飛ぶ様に爆裂した。連続で発生する万能属性の光は連続で爆裂し続けながら海から水を蒸発させながら消し去って行き、先ほどまでマジシャンが存在した空間を連続爆破しながら今もなお破壊の光で半径30メートル以内を食い散らかしている。それによって響く轟音は耳が痛いと呼べるようなレベルであり、到底レベルが10以下の悪魔が出していいような破壊力ではなかった。

 

「うーん、ICBMの名に恥じないこの破壊力」

 

「綺麗」

 

「破壊の色は綺麗だと良く言ったもんじゃのう」

 

 あ、マツヤの状態がDyingになってる。きっちり巻き込まれてやがる。そう思いながら光に包まれる爆心地を眺める。大量のMagの気配が、悪魔の殺害成功を物語っており、それで一気に体に力が沸き上がってくるのを感じた。

 

 スダマのコンセプトは簡単だ。自爆してぶち殺す。それだけらしい。支配人が用意したこの悪魔は本当にどうしようもない格上と戦う時、周りや味方への被害を無視して使う為の最終抹殺兵器であり、どんなレベルの高い悪魔であろうが絶対にダメージを通すというコンセプトでスキルを構成した、と言われている。

 

 《自爆ハイブースタ》、《自爆の心得》、《超逆境》、《自爆貫通》、《ソウルサクリファイス》、《エボルヴⅣ》等々搭載されており、攻撃手段はメギドラダイン一つのみ、そのコストも自分の命。そして発動させれば自分を巻き込んで発動させる。まさに自爆野郎。うるせぇ、俺もお前も死ぬんだよ! という鋼の意思しか感じない特攻野郎である。いや、スダマは無性なのだが。こんなものを作った支配人も協力したスティーブンも頭おかしい。

 

 威力は確かだし、格上も食える。

 

 その代わりに根本的な秘匿という裏社会必須スキルを投げ捨てる上に、距離を空けないと自分も巻き込まれる。それでいてレベルが上がれば更に爆破範囲が広がるらしい。馬鹿じゃねーのお前。

 

「いやぁ、マジシャンは強敵だったなぁ……おっと、ウチはリカーム使えるのがいないし、今のうちにDDSにマツヤとスダマ先輩戻しておくか」

 

 軽く距離はあるが、契約した悪魔であればある程度の距離は無視して戻すことが出来るアプリはやっぱり便利だなぁ、と思いながら戻した所で、海上に浮かび上がる《エネミーソナー》の反応にうん? と首を傾げながら《アナライズ》を発動させた。

 

 光が消え去り、海に空いた穴から出現してくる、完全なマジシャンの姿。

 

「馬鹿な、お前は死んだはずじゃ―――」

 

 と、言葉を止めた所で、マジシャンが発動させていたスキルを見た。

 

▽《不屈の闘志》

 

 マジシャンが発動させたスキルを見て、海の上で復活したその姿を見て、無言で残った最後の数発の神経弾をベレッタに装填し、海を蹴り飛ばして跳躍したマジシャンに弾丸を撃ち込んだ。潰れる様に落下し、港に倒れるマジシャンの姿に神経弾を持ち込んできた全てを撃ち込み、そして背を向ける。

 

「逃げる。勝てるかこんなの!! あ、チェフェイは足止めをお願いしますね」

 

「サマナァ! えぇい! 本気か!? あ、妾契約だから逆らえない! 逆らえんぞ! うぉっ! もう逃げ出してる!? サマナー! サマナァァアア―――!」

 

 煩い。《食いしばり》ならまだしも、《不屈の闘志》とか聞いてない。スダマ先輩のコストは魔力ではなく命だ。つまり自爆行為だ。一発放てば完全回復させるまで再び放つことは出来ないし、リカーム1回で回復しきれる量でもない。反魂香は貴重品な上に使用するのにやや時間がかかる。それを考えるとこれ以上戦うのはどう足掻いても無理だ。Magを奪ってレベルを上げられただけ御の字と考えよう。

 

 ここからは迷う事無く逃亡する、犠牲にチェフェイを置いて。

 

 この影の様な時間帯を抜けきってあのマジシャンから逃げ切るまでの逃亡が始まった。

 

 

♦

 

 

「もうやだ……帰りたい……なんでナカノのがまだ安全なんだよこの世界……」

 

 朝、いつの間にか日が昇っている。モールの路地裏で死んだように壁に寄り掛かって座り込んでいた。あのマジシャンが《不屈の闘志》で復活してから、倒せる手段がないので迷うことなく逃亡したが、神経弾による拘束が外れたマジシャンはそれはもう暴れたらしく、港から街へと大ジャンプし、しばらく鬼ごっこをするハメになり、その後はどこか、別の興味が生まれたのか、其方へと向かった。

 

 それであの棺桶タイムは終了したのだが、それでもなんとなくだが安心できずに警戒し、隠れ回る様にここまで来てしまった。そのせいで嫌でもあたりの地形を覚えてしまった。というかいきなり30レベル近い悪魔が出現するとか話は聞いてない。

 

 レベル1でスポーツ選手で、レベル8で戦場で人を何人も殺した傭兵レベルだ。15を超えれば完全に一般的な認識で言えば超人と呼べるレベルで、20もあれば怪物的だ。そして30の領域はもはや英雄とかそういうレベルになってくる。

 

 なお、40レベルになれば最低限の神話クラスであり、50から上は少しずつ神話英雄、或いは主神クラスが見えて来るらしい。まぁ、つまり30近い数字とはそういうレベルの怪物だ。それがポン、といきなり出現してくるんだからほんと止めて欲しい。心臓に悪いというレベルじゃない。アレは単(・)独(・)で(・)街(・)を(・)落(・)と(・)せ(・)る(・)レベルなのだから。いや、それだけなら20レベルもあれば十分だ。そういう強さの相手が出てくる、という話だ。

 

 問題はそんなのが出てくるとか一切想定していなかった事だ。

 

 漸く落ち着いた事で地返しの玉をストレージから引き抜いて、死んでいるDDS内のマツヤとスダマとチェフェイに使う。やっぱりリカームが使える仲魔は欲しいよなぁ、とは思うものの、回復魔法はアンが覚えているし、回復用の悪魔を用意するとなるとアンと魔法枠が被りかねないから兼ね合いが難しいよなぁ、と言うのもある。

 

 チェフェイも魔法は使えるがやや物理偏重だし。マツヤに至っては鈍器だ。マジシャンを1回殺害したところである程度のMagを吸収し、それでレベルが上がったのは悪くはないが、根本的な悪魔のバランスを考えるべきかなぁ、とは思わなくもない。

 

 ともあれ、モールの外へと視線を向ければ太陽の日差しが見える。昨日とはまた別の意味で心が落ち着く。夜じゃなければ悪魔の気配はない。どうやらこの世界ではあの棺桶タイムでのみ、悪魔の様な存在が出現するらしい。それが解っているなら簡単だ。あの時間だけ、適当に安全な場所で隠れていれば良いのだ。

 

「とりあえず朝飯にすっか」

 

「ん……ぺこぺこ」

 

「そうだな……ふわふわのパンケーキとか超食べたい」

 

「ふわふわー……」

 

 あ、アンの目がちょっと期待している。やっぱり女の子って甘いものが好きだよな。となると朝ごはんはそういうもので。そう考えてモールの路地裏から出て、適当な喫茶店を探す。全体的にこのモール、外れがないように感じるのだ。というか幾つかの店舗からは魔力やMagの反応を感じる。時間があれば探ってみるか、そう考えながら珈琲の匂いのする店内に入った。

 

 最近嗅いだ臭いが精液やら火薬やら死臭ばかりなので、心が落ち着く匂いだった。夜だけ気を付ければ天国、夜だけ気を付ければ天国。そう思いながら店内に入り、窓際の席に座る。初老のウェイター……いや、おそらくは店主がメニューを運んできてくれる。珈琲とパンケーキを二人分頼み、椅子の背もたれに寄り掛かりながら息を吐く。

 

「サマナー……どう……する……?」

 

「まぁ、無駄に戦う必要はないからな。適当に夜は過ごして、昼間は遊んでればいいさ。態々他所の事情に首を突っ込む必要もないしなぁ」

 

 マジシャンと戦った感じ、《不屈の闘志》装備が基本の高位悪魔がうろうろしているのは世紀末過ぎて笑えない。崩壊世界よりよっぽど世紀末している性能は本当に止めて欲しい。だけど、昨日の夜、マジシャンの反応がソナーから途絶えた辺り、アレを始末出来るだけのデビルサマナーかデビルバスターが存在するというのも事実。この世界、予想よりもやばいのでは? と思わなくもない。

 

「じゃあ……遊ぼう」

 

「あぁ、昨日みたいに遊ぼうか」

 

 せっかく、崩壊世界から抜け出してまだ無事な世界にいるのだから、こんな状況で馬鹿正直に苦しむのは愚か者だよなぁ、とは思わなくもない。とりあえずは魔石をチェフェイとマツヤに使って、回復させておかなきゃな、とスマートフォンを取り出しつつアプリの操作を始める。アプリ内部に悪魔が存在し、道具が電子化状態であれば、そのままスマートフォンを操作して回復が行えるのは便利なシステムだよなぁ、とは思う。

 

 ただ、《ワールド・レコーダー》で確認する記憶状態はまだ5%にも届いていない。そう考えると非常に憂鬱だ。このペースからすると、この世界に1か月近くは滞在するハメになりそうだ。一応、数百万はお金がある。これは略奪してきた分だが、ホテルで滞在し続ける事を考えたら結構お金を浪費するだろうし、使い切った神経弾の補充とかを考えると更に金がかかるだろう。

 

「逃亡用の煙玉、神経弾、後はチャクラドロップとか欲しいんだよなぁ……あと反魂香。スダマ先輩投げる時に一緒に投げつければ時間差で二度爆破出来そうだし」

 

 デクンダストーン、メギドストーン、トラエストストーン……こんな魔境だって知っていたらもっともっとガイアやメシアから巻き上げていた。ぶっちゃけ、アレレベルが基本だったら数日中に死ぬ自信がある。そしてまだ死にたくはないのだから、当然準備はしなくてはならない。

 

 世界が変わってもやる事は一緒なんだなぁ、とは思わなくもない。

 

「お客様、此方当店オリジナルブレンド珈琲とパンケーキのセットに御座います」

 

「お、待ってました」

 

 テーブルに並べられるパンケーキは普通のパンケーキとはちょっと違う、まるで膨らんだパンのような外見をしている。だがそこから感じられる甘い匂いが食欲を誘ってくる。隣にハチミツとメープルシロップの入ったジャグも置いてくれるし、中々当たりのお店を引けたな、と評価する。珈琲の濃い香りも一気に意識を刺激させてくれる良さがある。

 

「お客様」

 

 どちらから手を付けたもんか、と思ったところで、初老の店主が失礼、と軽く言葉を挟んでくる。

 

「どうやら、お客様は何やら不思議な品物をお求めとの事―――ここ、ポロニアンモールにある古美術店の《眞宵堂》という所を訪ねるのが宜しいかと。お客様の様にどこか不思議な気配を感じさせる物品を売っているお店で御座います故」

 

「あ、これは丁寧にどうも」

 

「いえいえ、それではごゆるりと」

 

 このいかにも仕事ができるという感じの店主のスタイルは嫌いじゃない。年を取るならこういう、バリスタのあのエプロンが似合う、後ろで白髪を纏める様な老人になりたい。そこに到達する最大の問題はそこまで生き残れるか、と言う事にあるのだが。現状、強くならなきゃなれないのは確実だ。少なくとも今のままでは無理だ。

 

「と、今の戦力とかを確認しとくか……」

 

 パンケーキにハチミツをたっぷりかけながらそれをナイフで割れば、凄まじい柔らかさがナイフを伝わってくる。あ、これ、絶対やばい奴だ。昨夜のアレコレが一口で蕩ける様に癒されるのを感じながら、自分のスマートフォンのDDSアプリから、仲魔情報を閲覧する。

 

 昨日、マジシャンの《不屈の闘志》を1回発動させてMagを吐き出させたこともあって、レベルはかなり上がっている。

 

 人修羅・アンが16に、自分が15に、マツヤとチェフェイも同じく11、そしてスダマ先輩は14になっていた。

 

「アレ……俺とアンは良いとして、悪魔どものクソ雑魚っぷりが気になるなこれ」

 

『寝起きに雑魚扱いとは酷くないかや、サマナー』

 

『まぁ、僕らはレベルキャップがあるから正直仕方がないよ』

 

「その概念、ワシは初耳なんじゃが」

 

「もきゅもきゅ」

 

 アンは目を輝かせながらパンケーキを食べていて、まるで此方の話を聞いていない。まぁ、幸せそうならそれでいいんだが……と、思いながらDDS内部から語り掛けてくる悪魔の声に耳を傾ける。

 

『レベルとはつまり存在としての位階を示す数値だ。僕ら悪魔にはそれぞれ原典に通じる強さというものがあるんだ。魔界の本体であればそこら辺の制限は緩いんだけど……僕らみたいな分霊や劣化分霊の類はそこらへん、概念に強く縛られる』

 

『ピクシーがおるじゃろう? あんなに小さく、そして概念的に弱いと認識されている存在が20や30程の力を付けられると思うかの? かような小さな姿の悪魔が?』

 

 まぁ、無理だろうなぁ、とは思う。あのピクシーの小さな姿がデコピンでゾンビをミンチにする姿とか絶対に想像できない。というかしたくはない。そしてその考えにうん、と言葉が聞こえた。

 

『つまり積もりに積もったその概念と認識、情報が僕らの限界という訳さ。僕も第一の化身の姿だ。そしてこの駄狐も二尾、つまりは最弱の状態になる。それが僕らの限界点になる。これ以上僕らのレベルを上げるには一つ上の段階の姿へと変異させる必要がある』

 

「ほー……流石に初耳だったな、これは」

 

 同じ悪魔を鍛え続ければ強くして行けるのかなぁ? と思っていたが、そういやぁ同じ悪魔の間でレベル差が少ないのは、そういうレベルキャップ概念が原因だったのか、と認識する。

 

『ちなみにサマナーも人修羅もそこらへん、上限が撤廃されておるな。英雄や超人、勇者の類であらば元々外れているものではあるのじゃが……サマナーの場合は人修羅との契約でそこら辺の制限が撤廃されている様じゃの。常人、凡人が人と言う枠組みを超えずに到達できる限界は10前後だと言われておるぞ』

 

 となるとそこらへん、既に突破しているんだな、とチェフェイの言葉に理解させられる。しかし同時に、チェフェイとマツヤは貴重な保有戦力だ。ここでレベルキャップがかかってしまうのは非常に痛い。故に、パンケーキを口の中に運んで、珈琲の香りを楽しみつつ、

 

「突破方法は?」

 

『悪魔合体』

 

『まぁ、普通の悪魔合体ではなく、僕らの概念を進化させるやり方だけどね! 専門家じゃないとたぶん難しい……けどスティーブンがその準備をしていてくれたはずさ』

 

「悪魔合体はまだ準備中って言ってたなぁ……」

 

 という事は、チェフェイもマツヤも、しばらくはレベル11でストップ状態だ。となるとメインで使える戦力が自分、アン、そしてスダマだけに―――いや、待て、なにかが可笑しい。

 

「なんでスダマ先輩のレベル普通に上がってんだよ」

 

『ルイ・サイファー謹製だからね!』

 

『アレが変に弄ったんじゃろう? なら何があっても不思議ではないわ』

 

「支配人に対するこの妙な信頼。何なんだろう」

 

 まぁ、でも、あの支配人凄くイケメンだったし、何かやらかした前歴ありそうだなぁ、とか存在そのものが怪しいなぁ、とは思わなくもなかった。まぁ、疑い出したらキリがない。それにスダマ先輩はファイナルウェポンなのだ、問題なく強化されるのならそれでいい、とは思わなくもない。それに悪魔は契約が存在する以上はそれに逆らう事はできない。そこはきっちりスティーブンが手を加えている。

 

 あの老人は根本的に悪魔を信じていない様子だった。最終的に人間でどうにかしなくてはならない。そう思っている様な部分がある。まぁ、今はそういう主義や主張はどうでもいい。問題なのはそう思っている男が悪魔と協力している事態である、と言う事実だ。正直、思い出すと胃が荒れるので今は忘れてパンケーキを食べる。

 

 L-N-C問題。主張。考えるだけ無駄だ。どれだけ悩んだところで他の陣営を抹殺して皆殺しにしない限りは解決しないのだから。

 

 正直、お前ら勝手にやっていろ、としか此方は言葉がない。

 

 お前らのクソの様な主義主張よりも今はこのパンケーキが尊い。あぁ、ふわっふわで、口の中で広がってくる甘みとハチミツのこの感じ……美味、実に美味である。そう、この美味しさと感じる幸せに比べれば信じる、信じられないとか非常にどうでもいい。

 

 そういうのは勇者とかインテリとかキチガイの仕事だ。

 

 俺の仕事は勇者が活躍できるゲームを作る事。それが終わったら適当にバックれればいいのだ。知らぬ存ぜぬを通せば良い。それはそれとして、こんな美味しいパンケーキがあるんだなぁ、と軽く感動する。

 

 普段、と言うよりは学生時代は基本的に節約生活でパンケーキなんて自分で作るもんだと思っていたが、流石700円もするパンケーキとなるまるで格が違うな、と認めざるを得ない。間違いなくそれ専門の店のレベルの味だよなぁ、と思う。

 

「あー……幸せな朝ごはんだわー……」

 

「もきゅもきゅ」

 

 アンも無言で、ひたすらパンケーキを静かに食べ続けている。少しずつ、少しずつ切っては軽くハチミツかメープルを混ぜない様にかけて、それを口の中へと運んで食べている。本当に幸せそうに食べるもんだから、その姿を見て思わず小さく笑い声が漏れてしまう。

 

 だけど確かにそうだなぁ、と人修羅という特大に物騒な名前を持つアンの姿を見て、思う。

 

 戦闘しているよりも、こうやって甘いものを食べている姿の方が遥かに似合うよな、と。だけどそれを考えて同時に、この冒険が終わればアンはどうなるのだろうか? と言う疑問が思い浮かぶ。

 

 それを……アンは知っているのだろうか?

 

 流石に、それを彼女に聞くだけの勇気はなかった。まぁ、そのうち聞きだせば良いな、と自分に言い聞かせながらパンケーキをまた一切れ、口の中へと運び、

 

「―――失礼」

 

「あん?」

 

 そんな声に横へと視線を向ければ、黒服の男がそこに居た。また同時に店舗の入り口を守る様に数人の男の姿があり、何やら、カタギの雰囲気がしない。黒服の男の上着の下からは銃の気配もある。それを察知しつつ、次の言葉に耳を傾けた。

 

「昨晩の出来事に関して、主が是非とも話をしたいと。食事の後ご同行を願います」

 

 男の言葉に果てしない面倒臭さしか感じなかった。チェフェイのプリンパで惑わしてここから逃亡するという手段もあるのだが、

 

 どーしたもんか、これ。




 最終兵器スダマ先輩! HPをコストに自分諸共メギドラダインで全てを滅ぼす悪魔の兵器である! 好きな事は自爆! 嫌いな事は自爆できない死! スキな死に方は自爆! 嫌いな生物は不定形なの! そんんスダマ先輩は至近距離で使うとサマナーも殺しちゃうんだ☆

 金と権力のある奴にバレると面倒だよね、ってアレ。そして食べてるひとしゅらちゃん可愛いヤッター!
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