「所詮は不完全な個の存在……貴様らが勝てる道理もない」
「お前は今からその不完全な存在にぼこぼこにされるんだよ」
「宇宙生物クラリオン! 帝都を、人々を守る為にもお前はこれ以上、通さん!」
宣告に対してクラリオンの気配が膨れ上がり、常時世界からMagを吸い上げ続ける宇宙生物はもはや地上に顕現できる神としての領域に到達していた。だが元々本体を太陽の裏に隠せるほどの能力があるとすれば、ある意味順当な強さとも言えるかもしれない。既にクラリオンはここに顕現する前から惑星級の力を持っていたのだから。だから最初からこいつは、星を滅ぼすだけの力を持っていた。レベル100Over、それだけの究極の力を持っていた。ただそれでも慢心せず―――そしていま、漸く慢心を抱いた。
重ねて来た戦術戦力計画、それによって完全顕現したクラリオンのレベルは200を超え、そして今もなお星を枯らそうとMagを吸い上げ続け、レベルはゆっくりと上昇する。それがクラリオンに唯一の心の隙間を生み出している。究極の宇宙生物の心に、僅かな慢心を生み出している。
もし勝てるとすれば、この瞬間だけになる。
カルキの外骨格腕から背部ユニットへと居場所を移動させ、両腕が使える様にしながら、胸に手を当て、
だからここでぶち殺す。
アンを傷つけてくれた分を千倍にして―――いや、ぶち殺して責任を取らせる。
「行くぞ、未来王。準備は良いか」
「貴様こそ、僕に置いて行かれない準備は出来てるのか黄龍」
悪魔が視線を向け合ったように、ライドウと己も一瞬だけ視線を交差させ―――動き出した。反応する様にクラリオンが大地を砕いて持ち上げた。破壊された帝都の残骸が最初に放った絶望の天蓋よりも遥かに巨大で、そして数を揃えて浮かび上がる。流星となって降り注ぐそれは余波だけで帝都を滅ぼすだけに相応しい破壊力を兼ね備えている。人であれば超人であっても関係なく容赦なく滅する。人類抹殺の概念が込められたそれは見た目以上に強烈な猛毒を孕んでいる。
それをコウリュウから放たれた大雷撃が蒸発させて行く。黄金の雷はコウリュウが天を泳げば発生し、溢れ出すその輝きは一瞬で浮かび上がった残骸を塵へと変えて風に流す。それと共にコウリュウが黄金の風を呼び起こす。
封鎖された絶望の帝都に、黄金の風が吹く。
あらゆる不浄を浄化し、四神の加護をここに呼び起こす。《突撃の狼煙》となり、限界まで能力が一瞬で覚醒する。万物を遮断する障壁が出現し、それがあらゆる攻撃を防ぐ盾となる。コウリュウの咆哮に応じて四神が顕現する。セイリュウが宇宙の風を運び、スザクが超熱量の炎を風に乗せ、ビャッコが重力を捻じ曲げて束縛し、ゲンブがその全てを包み込んで圧縮した。
「小賢しい……」
だがレベルが足りない。
その一言で四神招来の一撃がクラリオンによって放たれる波動によって粉砕された。沸き上がる造物主の怒りに宇宙から破滅が召喚される。頭上を覆いつくす隕石の雨はもはや被害を帝都だけでは済まさない規模にまで膨れ上がっている。
「さぁ、行くぞ! 受けてみよ奥義! マハカーラ・パスパタ!」
カルキが天へと手をかざせば、大いなる破壊神の力を顕現させる。空から降り注ぐ光の柱が隕石諸共クラリオンを飲み込み、それでクラリオンを構成するMagを削りながら消滅させていく。音速を超えて飛翔する姿にしがみつきながら、Magを削ってもレベルが1程度しか下がっていないクラリオンの姿に軽い絶望感を覚える。それを理解しているのか、クラリオンは焦らない。
触手を伸ばし、それを大地に突き刺して星から直接命を吸い上げ始める。
「無駄だ……」
「無駄かどうかは我らで決める」
ライドウの言葉に従いコウリュウの大雷撃が再び放たれる。先ほどよりも強化された黄金の雷は音を超えて触手を切断しながら、空間そのものを帯電させる。雷が満ちる空間に封じられたクラリオンの全身に雷撃が駆け抜けて行くが、それを乗り越える様にクラリオンが動き出した。その横へとカルキが回り込んだ。
「はぁぁぁ―――!」
拳を作り―――光速を超えて殴り飛ばした。重力を捻じ曲げて時さえも超えて、命中してから拳が振るわれた。クラリオンのあらゆる防御を貫通して放たれた拳は空間を歪めながら核爆破を超える超熱量を連続発生させながら雷撃海を抜け出したクラリオンを一瞬で炎で包んだ。
空が雷炎で埋もれる。
終末に相応しい光景が広がる。
だがそれでも、クラリオンへのダメージは薄い。
「諦めろ。今のこの身には世界中のMagが集まっている」
クラリオンの言葉に眼光が光る。それと共にその眼から極大の閃光が放たれた。重力に縛られる事無く一直線に空を切り裂きながら、それは成層圏を突き抜けつつも横薙ぎに振るわれる。それをコウリュウとカルキが高速飛翔して回避する。それを超える速度でクラリオンが薙ぎ払った。コウリュウ、カルキがサマナーを守る為に互いに防御し、その一撃を受けた。
「ぐっ」
「ぐぉっ」
両者から苦痛の声が溢れ出す。限界を突破した強化を施し、アメノオハバリによってMag供給などを行っていても、地力でクラリオンが圧倒している。それだけで圧倒的に不利だった。此方から攻撃を仕掛け続けない限りは勝ち目が見えない。クラリオンの放った神罰光によって吹き飛ばされ、大ダメージを受けている。コウリュウ、カルキは共に限界突破の影響でその耐性もほぼ完全耐性と呼べる領域に突入している筈だった。
それでもこの始末。
次元の違う相手だ。だが、それでも、
「全力を叩き込む。行けるか?」
「聞こえたな、カルキ。あっちに負けたら説教だ」
ライドウと共同する。吹き飛ばされた先で並び、そして一瞬でコウリュウとカルキが加速する。
「諦めの悪い者だ……なぜ無駄だと理解しない?」
クラリオンの肉体が二倍に膨れ上がった。吸い込んだMagで一段と成長した巨体、肉塊の体で空の全てを薙ぎ払う様に体を動かして来た。それに合わせカルキがコウリュウを外骨格で掴み、
一歩を踏み出した。
そして到達したのは攻撃の向こう側。ヴァーマナの権能による完全自由移動を行使した結果だった。初めてみる物理法則を無視した動きに、クラリオンの攻撃が空振りし、その隙が見せられる。攻撃を乗り越えた向こう側で、コウリュウが口を開き、紫色の球体を圧縮してから飲み込み、それをブレスとして放った。
極限を迎えたレベル領域でのメギドラオンが放たれる。圧縮されてから放たれた破滅の閃光はあらゆる物質を触れる前に消滅させながら進む究極の一撃となってあらゆる耐性を無視して放たれる。完全なる破局。触れなくても消滅必須のそれがクラリオンを消滅させる為に一直線に攻撃を乗り越えた虚を突いて放たれる。
「その程度来る事は解っていた」
だがこの奇襲さえもクラリオンは読んでいた。完全なる破局が届く瞬間に、それは遮断された。まるで世界そのものを妨げるような障壁がクラリオンとの間に発生し、それがクラリオンへとメギドラオンのブレスが届くのを阻んだ。その障壁を貫通しようと黄龍が黄金の風を呼び、黄金の雷撃を交えながらメギドラオンを吐き出し続ける。だがそれは障壁に阻まれ―――貫通しない。
「あぁ、だがそれも僕には見えていたさ」
マツヤの権能で未来を見たカルキは、既にそれを破壊する為の手段を―――弓を手にしていた。カルキの背丈を超える、外骨格が握る為の三メートルを超える光の弓。そこには一本の古ぼけた矢が番えられていた。
それは、メギドラオンに混ざる様に放たれた。
古代インドの奥義が放たれた。あらゆる物理法則を無視し、
その細い穴をメギドラオンの咆哮が食い破った。
「なに―――」
慢心し、油断していたクラリオンの正面からメギドラオンが飲み込んだ。紫色の完全なる破局は閃光となって空を照らし、紫色に世界を染め上げながら彼方へと突き抜けながらクラリオンの全身を焼き滅ぼして行く。生み出された傷口から黄金の風と雷が侵入し、強制的にMagを焼き焦がし、消滅させて行く。
それがクラリオンを弱体化させていく。ライドウが振るう十束剣が黄金の風と混じり合い、アメノオハバリの権能が黄金の風と融合する。吸魔の力が風に宿り、クラリオンが星から吸い上げたMagが再び星に、そして人々に還元される。余りにも膨大するMagはそれだけであらゆる傷を癒し、そして奇跡を可能とする。
それによって死すらも覆る。
死んでいた帝都に、世界に、僅かな希望の花が咲き始める。
そして当然、見えた勝機に手を止める必要もない。ライドウが仲魔を更に召喚していく。それに合わせ、自分の意識を全て、カルキへと集中して行く。ここで他の仲魔へと気を回す様な器用さが自分にはない。だから一つ、究極の一つに全てを押し込む。そしてそれにオールベットする。
「その期待に応えようサマナー!」
音速を超えて飛翔する。カルキとコウリュウが、メギドラオンで吹き飛ばされたクラリオンに捕捉されない様に両側に散りながら、一つ一つが国を亡ぼすレベルの攻撃を連続で叩き込んで行く。余波でさえ街や村を容易に消し去るだけの破壊力を兼ね備えた奥義から奥義の連続。それを繋げながらクラリオンの体の横を通り抜けながら放って行く。
百を超える斬撃と雷撃と暴風と矢が極限を超越したレベルの宇宙生物を襲っていく。その体が傷つき、徐々に、徐々に削げていく。だがそれと共にクラリオンの気配が膨れ上がっていく。
「人如きが……!」
怒りの言葉と共にクラリオンの全身から怒りの波動が放たれた。それだけで周辺の空間が歪み、空間そのものが砕けて散っていく。巻き込まれれば防御もクソもない、一瞬で肉体がミンチとなる。即座に離脱する様に境界超えで距離を無視した連続移動でコウリュウを巻き込みながら離脱すれば、地球を覆わんとするクラリオンが空を封鎖し始め、正面に此方の姿を捉えた。
「良いだろう、貴様らを敵として認めよう……全力で滅ぼしてくれる……!」
「言葉遣いはどうした。余裕でも無くしたか?」
言葉ではなく行動でクラリオンは返答した。溢れ出すMagを利用して
その直後に来るものをカルキが予知した。
「インドラリムッ!」
回避する様に横へ、異界の壁をヴァーマナで突き抜けながらインドラの力を招来する。神々の王の雷が神話を超えて呼び出され―――それが全方位から分散への乱反射をして、異界の次元によって歪められて数千という閃光へと変貌した《大神罰光》によって満たされた。
逃げ場のないクラリオンの必殺を焼き払いながら無から有へ境界を乗り越えて回避する。それはカルキにしか出来ない、権能を利用した突破方法だった。
それと同じ手段をライドウとコウリュウは取れない。
だが、それで死ぬとは欠片も思っていなかった。
異界結界を踏破する。乗り越えた先で雲を突き抜けながら帝都上空でコウリュウと合流し、正面にはクラリオンの単眼が見えた。《大神罰光》を放っても、既にクラリオンはそれを帝都の空全域へと、逃げ場を無くすように連続で放つ準備を整え終わっていた。故にそれは雲海を突き抜けた直後の此方の姿を求め、
「滅びよ―――!」
放たれた。
「来たれガルーダ! ナーガ・ラージャ! 我が前に運命を超える導きをシュカ!」
「来たれ福音、災厄を祓い清めよ」
連続招来によって90を超えたレベルの悪魔が瞬間的に召喚され、それが純粋な力へと変換され、クラリオンの極光と衝突し、飲み込まれて消滅する。クラリオンの回復能力はカルキのラーマの権能によって阻害されていた。どれだけMagを集積しようとも、それでクラリオンが回復する事はない。故に地球から吸い上げるMagをそのまま破壊力へと転換して吐き出していた。
幻獣が滅び去り、威力は弱まるも、それでも帝都を、日本をこの地点から向けられた方角までを滅ぼすには十分すぎる程の破壊力を保有している。
『ケケケ、困ってるようじゃねぇかカルキ。だが安心しな。
カルキに呼び出された過去・現在・未来を見据えるインコ・シュカが運命を告知し、消えた。それに反応しカルキが此方をライドウの方へと投げ飛ばし、コウリュウの上に着地する。
そしてそのまま、カルキが神罰光へと突撃した。
飲み込まれ、その姿が消え―――消滅する。
そして《再誕》した。
「この程度で僕も星も消そうとは調子に乗ったものだなッ!」
そしてその勢いのまま、完全回復した状態で復活したエネルギーを注いで中央から神罰光を引き裂いた。両側に割けた光の中央を通り抜ける様にコウリュウが加速する。すれ違いざまに再びカルキへと飛び移りながら、黄龍が正面からクラリオンへと衝突した。ライドウの振るう十束剣が致命の一撃を振るおうとして、
それが万物の障壁に阻まれた。
つまり、十束剣―――それが致命傷になるのだ、とクラリオンは晒した。
「晒したな」
「お前の傷を」
それを見過ごす程馬鹿じゃない。そしてクラリオンも、自分の弱点を晒した事を理解した。吸収するMagを増大させ、更に肉体を巨大化させていく。もはや空が肉塊で覆われている様にさえ見える。或いは空そのものが肉塊なのかもしれない。その圧倒的不愉快さ、気持ち悪さ、吐き気の中、
それでも希望の花は咲いている。
怒りの炎は燃え上がっている。
こいつだけは絶対にぶち殺す。その殺意が目の後ろでちりちりと刺激している。
「ならば、最大の一撃で貴様らを葬ってくれよう―――!」
クラリオンのMagが胎動する。クラリオンを構成するMagそのもの、つまりはクラリオンが自らの命を燃焼する気配だった。素早くコウリュウとカルキで距離を開けながら、対応する為にお互いを見比べる。もはやどちらもぼろぼろだった。最初はレベルも120を超えていたのが、度重なる戦闘と消耗で100近くまでレベルは下がっていた。
これ以上戦闘が長引けば、クラリオンに飲まれるだろう。
次、クラリオンが本気の一撃を放ってくるだろう。
それを乗り越えながらカウンターで此方が必殺の一撃を叩き込む。
「これ以外に勝てる道はない」
そして、最後の一撃を作るのは、
「俺の役割か」
十束剣をライドウは掲げた。そしてそれを見て、頷く。だから此方で道を作ろうとライドウに告げ、前に出た。ライドウが後ろへと回り、仲魔を全て召喚する。背後でライドウが力を高めて行くのを感じとりながら、DDSから最後の仲魔を召喚する。
『スヤァ……』
目を開けて眠っているスダマを取り出した。片手でそれを握りながら、もう片手でタロットを指に挟んだ。
「カルキ、次で全部ぶつけるぞ」
「良いのかい、サマナー?」
「沸騰しそうだけど、このクソをぶちまけられるならそれでいい―――だから残った力、全部吐き出しちまえ」
その傲慢な言葉に、カルキは笑った。未来王、終焉世界最後の王は笑い、そして吠えた。
「良いだろう! その胸に刻むが良い! そして見よ! これが星を終わらせ、新生させる者の力だ! クラリオン―――
笑いながらカルキは構えた。最終最強の一撃を放つ為に。そしてそれに応え、クラリオンが肥大化した肉体を削って放つ最強の一撃を放つ。宇宙から熱量を集め、太陽から直接炎を抜き取り、それを神罰光を織り交ぜた宇宙の光。
それがあらゆる現象を貫通して放たれる。
これを消滅させ、その上でクラリオンに万物の障壁を使わせないと、勝ち目はない。故にカルキが全ての力を、権能を、そして《聖仙》の力を引き出して奥義を開帳する。手を前に突き出し、それで球体を抑え込む様に生み出す。あらゆるエネルギー、光、現象、音、時、空間、その全てが吸い込まれるブラックホールが生み出され、そこに創生の炎が飲み込まれた。そうやって生み出されるのは惑星の死と生誕を象徴する炎。
即ち
それを圧縮、圧縮、圧縮させていく。星を焼き尽くすエネルギーを更に圧縮させる。やがてそれはビー玉規模のサイズにまで圧縮され、完成される。だがそれではエネルギーが足りない。それでもクラリオンには届かない。
故に、
「
二つの分身を生み出し、本体を含めて合計、三体に姿を増やした。分身といえば能力が減る事を懸念するだろう。だがそんな事はない
究極の一撃が、三つ同時に放てるようになる。
そして、それを一切の躊躇もなく、三つ同時にクラリオンへと向かって放った。一つ一つが星を破壊する一撃。宇宙生物を燃焼させて放つ究極の破壊と破壊が正面から衝突する。
「クリタ・ユガ―――……!」
圧縮された超新星爆破が最後、カルキに貯蔵されたMagを全て吐き出し切った。タロットに込められた限定覚醒解除がそれによって終わりを告げる。アメノオハバリによるカルキの顕現が途切れ、カルキの姿からナラシンハまで姿を戻して、飛行能力を失って落下し始める。
だが最後の置き土産―――分身からの超新星爆破はその仕事を果たした。クラリオンが放った閃光を圧縮しながら飲み込み、星を生み出す炎と太陽を飲み、喰らい合いながら消滅していく。スキルや概念さえも飲み込む超重力が万物の障壁、その行動そのものを飲み込み、障壁を張る事を封じた。
「なん、だ―――」
クラリオンが言葉を続ける前に、ライドウが十束剣を構えた。全ての仲魔の力を束ね、それを乗せ、生み出された終焉の道に乗って突き進む。飛翔するコウリュウの姿も同様、最後までMagを吐き出し、弱り始めている。それでも加速された最後の一撃はもはや、止まらない。
宇宙炎の残滓に焼かれながらも、中央を突き抜けて行く。
ヒーローがその刃を大敵に届かせる為だ。
「まだだっ!」
だがその終焉にクラリオンが抗う。更にMagを吐き出し、万物の障壁を
それはクラリオンの姿を大きく弱体化させる無茶ではあるが―――十束剣を阻む絶対障壁だった。
故にライドウの行動はタッチの差で、
「起きろ―――朝だぞ」
届かせる。
「《The Judgment》」
最後のMagを《審判》のタロットカードに注ぎ、スダマの瞳をクラリオンへと向けた。《審判》にアメノオハバリから供給される最後のMagを注ぎ込んで、限定覚醒を解除する。それによって
狂気の存在しない瞳で、クラリオンとその障壁を見た。
『おはよう』
そして―――溶けた。虹色の泡となってクラリオンが張った障壁が、まるで夢や幻だったように。夢から覚めて、その残滓が消えて行く様に―――真夏に降った雪が当然の様に消える様に、障壁は夢から現実へと回帰し、消え去った。
届かせた。
ライドウの振るう十束剣が巨大化し、仲魔たちの力を束ねて、それがクラリオンの目に突き刺さる。帝都の空にクラリオンの悲鳴と絶叫が木霊する。だがもはや遅い。アメノオハバリ、その権能が振るわれる。極限まで溜め込まれたMag、その全てが十束剣に触れた個所から全て、吐き出される。
叫び声と魔力の発散によって抵抗するがもはや、全ては遅い。
吐き出され始めたMagはもはや、クラリオンの意思ではどうにもならない程に加速して吐き出され続ける。その姿は真っ二つに割られ、抵抗しようとしても蘇生も回復も許されず、そしてその為のMagも全てを失って行く。
「馬鹿な、このような、馬鹿―――な―――」
空にその声を響かせながら―――クラリオン、その姿が消滅する。
肉塊の空はそれによって打ち破られた。限界を超えたナラシンハとスダマがDYING状態となってDDSへと帰還される。極限状態での戦闘に付き合った肉体が、放出されるMagを受け取ってレベルアップする反動で全く動こうとしないまま、大地へと向かって落下して行く。
それでも、最高に気分は晴れやかだった。
「は―――はは、ははは―――!」
クラリオンが吹っ飛んだ場所から、帝都は青空を取り戻し始めていた。広がる蒼穹。その世界から落下しながらも、爆笑しながら落下し続ける。辛くて、
苦しくて、
絶望的で、
怖くて、
ブチギレて、
それでも―――あぁ、それでも、怒りのままに戦う事のなんて、楽しかった事か。俺の女の為だ、と叫んで暴力の振るう事のなんて楽しかった事だろうか。
ただ、ひたすら、思い返せば怖く―――そして楽しかった。
だから、疲れたなぁ、と爆笑しながら落下し、
優しい感触と共に、落下する姿を受け止められた。
蒼い髪が吹き抜ける黄金の風の中に揺れて、そしてその中から可愛らしい、しかし小さく笑みを浮かべている素顔を見た。
「お疲れ様、リュージ」
その声に、言葉に、安心感を覚えて、目を閉じながら呟いた。
「あぁ……お疲れ様、アン」
凄く、凄く……疲れる戦いだった。だがそれでも、胸の中には言葉に出来ないだけの達成感があった。それは彼女を、大声で好きだと叫べたからかもしれない。
だから、
最後の力を込めて腕を彼女の首に回し、
唇を引き寄せて重ねた―――そして、そのまま、笑いながら過労の中、意識を閉ざした。
未来王カルキ。全王神とその化身の聖仙から薫陶を受け、世界のあらゆる書物を読み知恵を蓄え、そして世界に残された王たち、即ちカリ・ユガに残されたカリの化身を滅ぼす為に遠征しこれに勝利した最後の化身にして最後の王。東の果てで妻を娶り、そして残された人類を率いてカリ・ユガを終わらせ、星の時代を終わらせ、新生させる。
そうする事で新生された星の時代、クリタ・ユガと呼ばれる黄金時代がやってくる。
彼は何にでも変形する白馬と、過去現在未来を見通すインコを僕として引き連れ、全てのカリに打ち勝った。遠い未来に顕現する最後の王、未来王カルキであった。
現在の手持ちにおける最強枠。たぶん仲魔が増えても一番強い。なおこれでフルスペックではないというあたり実にインド。
という訳で、大正二十年も次回で終わり。