神州混沌行脚
未定義領域を超える。
扉が見えた。それを開き、そしてその向こう側に抜けた。影が目の前に差し込む。だがその先へと抜ければ―――太陽の光と共に、そこから広がるシブヤの景色が見えて来る。新鮮の様に見えてどこか、淀んだ空気。だがそれは活気によって満ち始めていた。スクランブル交差点は前よりも賑わって露天の類が並び、結界によって悪魔が入り込めない様に駅周辺と、そこから繋がる主要エリアは管理されていた。
シブヤは、再生されていた。
『これが未来の帝都か……まるで街並みが違うな』
『あー、高層ビルを見て懐かしく感じるとはねぇ』
『妾的にはあの屋敷の方が落ち着いたんじゃがなぁ』
『すやぁ……』
『さようなら大正時代、ただいま世紀末。ヒャッハーな時代が僕らを待っている!』
仲魔たちも仲魔たちでどうやら楽しんでいる様だった。まぁ、約一カ月ぶりのシブヤ、というか現代社会だ。帝都は確かに快適だったが、ホームではなかった。世界を超えて自分の世界へと戻って来た時、やはり……どこか、安心感を覚えるのだ。いや、安心感とは違う。なんというか、
まぁ、所詮は戯言だ。
崩壊したこの世界の排気汚染された空気を吸い込み、その帝都と比べた時のゲロまずさを味わい、あぁ、戻って来たのだ、という事実を実感した。
ただいま、崩壊世界。俺には逃げられなかった。
「んー……長、かった……」
「だなぁ。もう何年も過ごしたような気分だわ」
アンの言葉に同意しながら息を吐いた。なんだかんだで帝都での経験も凄い濃密だった。特にクラリオン戦辺りは、死神と塔の世界でも経験しなかったほどの苛烈で恐ろしい戦いだった。アレを経験した後では凄まじい時間を経験した様な気分になっていた。まぁ、レベル200Over相手となんて早々出会えるものではないし。クラリオンも世界中からMagを吸い上げてレベルを200にまで到達させたのだ。
ああいうクラスとは出来たらお会いになりたくない。二度と。
ただ、これが最後だとはどうしても思えない。この世界でもレベル100に近いデビルバスター……というかダンテが存在しているし。少なくとも世界を丸ごと、魔界諸共飲み込んで崩壊させたのだ。
それを一瞬で作業を終了させたというのであれば、おそらくは
あまり、考えたくはない事だ。だが常に忘れずに覚えておかなくてはならない。
と、そうやってシブヤに戻った所で軽く頭を悩ませていると、スマートフォン―――もはや完全に悪魔使役用の専用機器COMPと化したそれから映像通信が繋がる。装着している片眼鏡を通して空間に自分にのみ見えるスクリーンを通し、スティーヴンの姿が見えた。
『よく今回も戻って来た、サマナー。その様子を見ると中々得難い経験を積んできたようだ』
「あぁ、今回は前回と比べると大冒険だったよ……本当にね」
『ふむ……成程、かなりレベルが上がっているし何があったのかを知りたい所だが……その前に世界の欠損を埋めてしまおう。今回は直ぐ近くにあるシブヤ・イチマルキューの屋上から解放が行えるようになっている。そこへと向かうんだ』
「了解」
スティーヴンからの通信が切断される。体を軽く伸ばして、未定義空間を抜けた妙な感覚を振り払いながらうっし、と気合を入れてからアンへと視線を向ける。それを受けてアンは頷きを返してくれる。なら、さっさと世界を解放しちまうか、と判断する。
そこからスクランブル交差点に出て、イチマルキューのビルを発見する。昔までなら階段を上って行く必要があっただろうが―――もはや、そんな事を必要とする肉体ではない。
ビルの前に立った所で跳躍し、一回の跳躍で30メートル近く跳躍し、そのままビルの壁を蹴ってもう一度跳躍、ビルの端を掴んでその屋上へと外側からツーステップで到着する。その気になればたぶん、一回の跳躍で屋上まで飛び込む事が出来たな、と今の手ごたえを確認しながら確信する。
それだけに今の自分は―――クラリオンという災害を乗り越えた自分は、強くなっていた。それにアンがついてきてくれる。彼女は前半部分で死亡していた為に、クラリオンから得られるMagのレベルアップ恩恵をややミスってしまっていた為、レベルはついに、自分よりも低くなった。
それでも俺は、
彼女を他の悪魔の様に、契約で縛ろうとは思わなかった。
好きな子を契約で縛って言いなりにするのは……ちょっと、格好悪い。
「しかし、最初の糞雑魚っぷりと比べたら怖いぐらい強くなったもんだ……」
それでも慢心や油断をすれば、あのレベル200を超えていたクラリオンの様に、死ぬ可能性が見えて来る。あの戦いは《完全耐性》や《全門耐性》vs《真・貫通》や《貫通・極》とかいう耐性という概念ISなに……? と思わされるレベルの戦いだったが、俺にも普通に弱点などが存在している。油断や慢心をすれば、クラリオンの百倍簡単にぽっくり逝くだろう。慢心している暇なんて、今の自分にはない。強くなった所でまだまだ、上の連中が存在するのだから。
それはそれとして、イチマルキューの上に着地すれば、そこには魔法陣が既に設置されてあったのを見た。どうやら、此方が帰ってきたらすぐにでも世界再生を行えるように事前にバーの誰かが準備しておいたらしい。あのバーの連中を見る限り、たぶんダンテなのだろうが……アレがこんなものを用意するのだろうか? やっぱりあそこには自分の知らない住人が居そうな気がする。
それはともあれ、
「スティーヴン、聞こえるか? 到着したけど」
『此方でも確認している。君のスマートフォンを中継器と触媒として利用するからそれを中央に置くんだ。あぁ、君は出ずに中に入ったままでいい。それなりのMagを要求されるが……今のそのレベルであれば、君一人でも十分だろう』
「了解、了解」
その他にもスティーヴンから指示が出される。どうやら世界再生の儀式はそこまで難しくないものの、【魔】やMagをそれなりに要求されるらしい。前回、聖女と破戒僧の助力を求めたのはこれが、個人では足りなかったからだ。だがクラリオンを倒した恩恵を受けた今の自分であれば、この儀式を一人で完遂する事も出来る。
故に、魔法陣の中、完全にCOMPと化したスマートフォンを設置し、片膝をつく様に表示される手順に従い、儀式を遂行する。
やがて、Magと魔力を吸い上げられ、COMPから大正二十年で蓄積された世界情報が吐き出されて行く。それは魔法陣に従い、その中へと吸い込まれて行き―――やがて、魔法陣から世界へと向かって発されていく。
それは情報概念として世界へと浸透して行き、世界に馴染み、そして世界が失った情報を、欠損を埋めて行く。そうやって無を有へと変貌させ、世界に存在していた、という事実へと修復していく。
それが自分の目には見えた。
概念という情報が魔法陣を通して世界へと染み込んで行く光景が。錆び付き、崩れ、壊れ続けていた世界が少しずつその傷跡を癒し、そして本来の形を取り戻そうとする姿が目に映って見えた。少しずつ、少しずつ、未定義領域が、空間が定義されていく。
存在しなかった世界が存在する。失われていた世界が、その形を大正二十年の情報を通して取り戻されて行くのだ。
そしてそれはやがて、巨大な震えへと変わる。蛇が脱皮する様に。新たな鱗を生やす時の様に。今までの殻を脱ぎ捨てて新生する様に。世界がその身を震わせた。
そして止まる。
魔法陣は光を失うのと同時にその姿を消失させ、儀式が完了された。前の時よりも儀式が派手だったな、と思いながらCOMPを回収してポケットの中に戻す。儀式が終わるのと同時にスティーヴンからの回線がつながる。
『良くやった、これで世界再生が再び進んだ。では拠点でささやかながら祝宴を用意して待っているぞ』
スティーヴンとの通信が切れて、祝宴を用意している、という言葉に苦笑してしまう。スティーヴンもスティーヴンで、それなりの付き合いになって来た。いい感じに遠慮がなくなってきたよなぁ、と思いつつ、アンに背中を叩かれた。
「宴……たくさん……」
「うんうん、たくさん食べたいのね。解る解る」
アンの食欲に満たされた表情を見るとこの子、やっぱり普通に食事が大好きなだけなのでは? と思ってしまう。
だけど、まぁ、美味しく食べる君がやっぱり好き。
シブヤの頑丈そうな扉から鍵を使って、スティーヴンのバーへと戻ってきた。そこにはベルベットルームで聞き慣れたベラドンナの歌声と演奏が静かに、しかし落ち着く様に漂っていた。だがそれだけではなく、また店内が一段と広く拡張されていた。中央にはいくつかのテーブルが用意されており、立食式に食事が様々に用意されていた。何時ものカウンターの方を見れば、誇らしげな表情で包丁を片手に腕を組む支配人の姿が見えたので、やっぱり支配人が用意したらしい。
なお、テーブルに山盛りになっている料理を目撃した瞬間にはそれにアンが飛び出していた。完全に食欲の権化となっている。
「ただいまー。お土産は帝都饅頭とライドウお勧め大学芋スペシャルセットだけでいいかな?」
「Hmm……Let me just try……」
とりあえずストレージから色々と買って来た帝都土産を取り出してみると、コミカルにやって来たダンテがそれを早速強奪し、カウンターの方へと持って行った。果たしてストロベリーサンデーが大好物の甘党の口に和菓子は―――ダメだったらしい。一口食べてからがっかりとした表情を浮かべてストロベリーサンデーを頼んでいる。
ほんとあのイケオジはどうしようもねぇなぁ! と、心の中で罵っていると、知っている顔が出て来た。スティーヴンだ。奥の方にはイゴールとラヴェンツァの姿も見え、此方を見てから微笑むと、一礼してバーに内蔵されたベルベットコーナーへと戻っていった。帝都に居た時は世話になったし、挨拶しなきゃなぁ、とその姿を見て思う。
「良く帰って来た、サマナー君。それで、私へのお土産は?」
「お前……」
「ダンテ君だけにお土産を渡すというのは不公平ではないかな? ん? 何か素材に出来そうな面白アイテムとかはないのかね? 実は前回のブルーム作成以来、ちょっとしたレア素材で道具を作成するのにハマっていてね……」
「お爺ちゃん……」
本当に遠慮なくなったなこいつ! と思いながらも、何かないかなぁ……と思い、そういえば黄龍をしまっていた封魔管が今では空っぽになっていたな、と思いながらそれを取り出す。その説明をしながらスティーヴンへと渡せば、ほほう、と声を零しながらそれを掲げていた。
「四神の長であるコウリュウを長年封じていた封魔管か……ふむふむ、これならコウリュウの魔晶石の代わりだけじゃなく、高純度のデビルソースの代わりにもなるな。良し、面白いものを作ろう。期待して待っていると良い」
そう言うとスティーヴンは車椅子を作業室の方へと走らせた。本当にパワフルな老人だよなぁ、とその姿が去っていく様子を眺めていると、
『まぁ、ある種の永久戦犯なんだけどね』
『悪魔召喚プログラムの無差別配布は許しちゃならんじゃろうなぁ……』
『まぁ、それはそれとしてサマナー。僕らもパーティーを楽しみたいんだけど?』
『む、良いのか? ならば我も人の姿に転じよう』
黄龍がやや召喚の軽さにびっくりしているが、仲魔とは近い関係をキープするサマナーとして、しっかり仲魔をねぎらう事にしているのだ。だからDDSから仲魔たちを召喚する。そこには新人の黄龍も混じっている。黄龍もどうやら、省エネモードとも呼ぶべき人型への変身が行えるらしい。その姿は着物を右側だけはだけさせた、乱雑な黄金の髪を持つ筋肉質な肉体を持つ男の姿をしている。和風と中華風の装いが混じっている様な感じがする。
またイケメンが増えた。そう思いながら仲魔たちを解放する。ベルは既に食べ始めているアンのペースを落とさせようとしながら、鳩を捕獲して出汁用にそれを支配人に渡していた。ゴッドスープがその内出回りそうだなぁ、と思っていると、ナラシンハはカウンター席の方へと向かっていた。
よく見ればそこには、インド風の服装をした、褐色の老人が椅子に座っているのが見える。世界再生が進んだのに伴い、故郷の知り合いが顕現したのだろうか? また店の魔境度合いが上がっている。
いや、まぁ、別に良いのだが。助かるし。
それはそれとして、自分も立食テーブルへと向かい、そこに並べられている数々の料理を眺めていると、横から皿を差し出された。
それを差し出してくれたのはラヴェンツァだった。
「これをどうぞ、リュージ様」
「あ、これはどうも……って別にそんな事をしてくれなくてもいいのに」
「いえ、これぐらいは労わらせてください。肝心の戦いでは力にはなれませんので、これぐらいは手伝わせて貰わないと気が済まないので」
良いのか、とイゴールへと視線を向けて確認すれば、イゴールはにやり、と笑うだけで何も言い返さない。いや、何か言えよこのデカ鼻、と心の中で罵るが、ちやほやされるのは純粋に嬉しいので、ラヴェンツァからお皿を受け取りつつ、テーブルの上の料理を何個かササっと皿の上へと移し、バー内の適当な壁を背にする様に皿の上の物を食べていく。
なんというか……本当、国境を選ばない内容だった。ローストビーフに焼き豆腐、豆とご飯を混ぜた料理に見た事の無いドレッシングのサラダとか。それらを少しずつフォークで突き刺して食べて行くが、どれもかなり美味しいのが悔しい。
悪魔王止めて料理王にでもなればいいのに。
「此度の再生で―――」
ラヴェンツァが食べたり遊んだり料理されたりスダマに追いかけられる事で忙しい仲魔たちや好き勝手やっている悪魔連中に代わり、状況を説明してくれるらしい。食べながら、その言葉に耳を傾ける。
「どうやら、日本全域が再生されたようです」
「日本全域、か」
「はい。現在ベルベットルームに集まった集合無意識によりますと、日本全域、南はオキナワから北はホッカイドウまでが再生された模様です。ただし、あくまでも日本という国、大地のみでその周りの海はまだのようです」
「うーむ、この中途半端……」
となるとオキナワってアレ、海の存在しない未定義空間に浮かぶ島になってるのか? 島民が発狂しそうだなぁ、と思う。というか食料とか大丈夫なんだろうか、あちらへん? だが海が再生していない、というのはちょっと驚きだった。ただ日本という大規模な土地が再生したというのは朗報だった。
「日本が……日本が、かぁ」
「はい―――貴方の努力で日本が救われました」
ピンとこない言葉だった。何せ、出来る範囲で行動していただけで、そこまでスケールの大きな話をされても困る。いや、つい最近宇宙生物を蒸発させてやったが、それはそれとしてブチギレた結果であり、日本を救うとか考えた訳ではなかった……。
だが、まぁ、悪い気はしなかった。
「ですが大変なのは寧ろこれからかもしれません」
悪魔王の料理無駄に美味しい……チェフェイもそうだが、もしかして上位悪魔にとって料理とは必須スキルなのではないか? という疑問を抱きつつある中で、ラヴェンツァの言葉に首をかしげてしまった。彼女の言う意味はちょっと解らなかった。
「土地が復活したのならインフラ回復するんじゃないの?」
「当然、ある程度の施設は復旧するでしょう。風力発電と原子力発電辺りは問題なく稼働するかと思います。ですがそれ以上に
「あー……」
そう言えば土地が復活すれば、消えた時にその土地に居た人間も同時に復活する、という話だった筈だ。というかそうやってヤタガラスとかが復活していた筈だ。確かに、考えてみればすぐわかる話だ。日本には自国内で食料を完全供給する事が出来ない。だから日本のみが再生した状態で長期間放置された場合、食料を食い潰して日本が潰れるだろうと予測できる。
「無論、それだけではありません。土地の回復に従い霊地の復活、悪魔の出現、そしてこの未曽有の危機に国津神や天津神が復活し、神州として日本を守る為に動き出すでしょう。場合によっては神話の再現すら発生するかもしれません―――そう、帝都でのクラリオンの戦いの様な、そんな戦いが発生する可能性すらあります」
ベルベットルームは各世界に存在する為、どうやらクラリオンの事もちゃんと知っていたらしい。しかしアレと同じ規模の戦いが発生するかもしれないという考えには恐怖しか覚えない。とはいえ、ラヴェンツァは頭を横に振る。
「最大の問題はそこではありません」
「と、言うと?」
ラヴェンツァは言葉を答えた。
「カオス勢力とロウ勢力です。日本という土地が復活したのに従い、日本国内のロウ勢力とカオス勢力……つまりはメシア教とガイア寺院が国内という範囲に限り、復活します。リュージ様があった破戒僧と聖女は
「うわぁ……」
つまり、抗争や内ゲバがこの状況で発生しかねないという可能性だった。まだ世界は再生し終わっていないのに、それでも争う可能性を保有しているカオスとロウ勢力。なんで静かに滅んでいてくれないのだろうか。
あ、蘇らせたの俺だった。
「―――ですが、ご安心を」
ラヴェンツァが微笑み、そして此方の胸に手を当てた。それと共に一枚のカードを引き抜いた。それは運命を描いた車輪の内側に座り込む、ラヴェンツァが絵柄のカードだった。《The Wheel of Fortune》。《運命の輪》のカード。そのタロットカードを受け取った。
「人生という旅路を進む貴方よ。私は貴方の道を照らす為に存在します。貴方の混迷に満ちた道行きにささやかな光を与える為に存在します。ですから、どうか絶望しないでください。貴方は前と比べ、強くなりました。そしてこれからも強くなるでしょう」
ラヴェンツァが微笑んだ。
「私が全力で貴方が選ぶ道を照らすので―――どうか、折れないように」
ローストビーフを噛み千切って飲み込みながら、小さく笑った。
「レベルが上がって、ワンパンで車をぶっ飛ばせるようになっても俺は強くなったって自惚れやしないさ。だからこんな情けない俺でも手伝ってくれるなら大歓迎さ」
《アナライズ》によって表示される、自分のレベルをまた、確認した。
レベルを確認し、苦笑し、息を吐いた。ほんと、レベルばかり上がったけど―――それでも別に、たいしたもんじゃない。これだけ強くなっても、心が強くなる訳じゃない。迷わない、迷えず飛び出せるだけの度胸と根性が、そして自分自身を信じられるだけの強さが欲しかった。
だからほんと、こんなレベルに意味はないんだ。
それでも、
「貴方の
「あぁ、これからも宜しくな……ラヴェンツァ」
気を抜きながら答え、天井を見上げながら思う。少し前に悪魔合体で仲魔のレベルを上げたばかりなのに、また合体でレベルを上げる必要があるだろう。強くなって、強くなって、最終的にどこに行きつくのだろうか? もう既に大半の人間を超越するだけの、人類最上位の実力をこの時点で手に入れている。
だがそれでも、クラリオンやライドウ、ダンテ、その領域を見ればここはまだ、深淵の入り口にすら立っていないのだと解る。悪魔の世界、それこそ魔界すら含めた《本体》のレベルも込みとなれば、これでもまだまだの領域だ。
強さ―――果たして、その果てはどこにあるのだろうか?
解らなくとも、それでも強くなる必要がある。
もう二度と、アンをあんな風に死なせない為に。自分の臆病と雑魚さ加減が原因で彼女を二度と死なせない為に。俺が強くなる理由なんて、それだけで十分すぎた。そしてそれ以外の理由は大体どうでもいいかもしれない。だから、強くなろう。
いや、強くなる。
仲魔を合体変異させ、更に強くさせる。そして次の扉を見つける。
次の舞台は街とかという規模ではない。
この日本という国だ。
国という規模から、扉を見つけ出さなくてはならない。だがとりあえず今は、それを忘れておく。
「古代インド流一発芸! 創造神の毛根死滅波ぁ……!」
「あぁぁぁぁ、ワシの髪がぁ―――!」
「主、主よ! この青色の球体が追いかけて来るのを止めてくれないだろうか!?」
「こらこら、そんなに食べると太るわよ」
「運動……する……平気……!」
「語尾が強い、本気じゃぞ魔王!」
「反対側抑えて、無理やりでも止めるわよ」
「んー! んー! たべるー!」
「坊主のおごりでストロベリーサンデー追加で頼むぜ」
「ツケをいい加減払え。じゃないと煮込むぞ」
「ゴッド鳩煮込み雑炊……!」
「不味そう」
騒がしく、混沌としていて、だけどそれが共通の目的と意識で統一されており―――カオスとロウ、その双方が揃ってどんちゃん騒ぎの調和が発生している。きっと、真のニュートラルというのは中立を保つことではなく、ロウやカオス、
その双方がこんな風に、馬鹿をしながらも一緒に居られる場所こそが本物のニュートラルなのじゃないだろうか?
そんな居場所を彼女と過ごす為なら……頑張れる。そんな気がした。
クラリオンが後半、オハバリの能力でダイブMagをまき散らしていたので最終的な経験値量は低下していたという裁定で、最終的にレベルは53(四神連続殺害マラソン)から74へと上昇。
黄龍自体はクラリオン戦での過剰戦闘力発揮の影響でレベルが低下している。同じ現象がナラシンハにも発生中だけどアイツは合体でどうにもなるしな……。
という訳で次回は合体。
舞台は狭い県内から、日本国内へと拡大する。国内のどこかに存在する扉を見つけて、次の世界へと繋げるのだ。