「待たせたのぉ、サマナー。これで妾も《八尾》チェフェイじゃ。妾の最後の姿は《九尾》になる。そうなれば妾のレベル限界は豊穣神となった蝿王に近いものがあるじゃろう―――だがそれまでは傾国という概念の本当の意味、見せてしんぜよう」
「《理想王》ラーマ、ここに第七の化身として顕現! あらゆる魔を屠る理想にして至高の王の力。これは大切な人を取り戻す為に化身である運命に抗い続けた王の力でもある。その理想に燃えた力、僕は君の為に振るおう」
会議から二日後、《八尾》チェフェイと《理想王》ラーマの合体が完了した。大幅なレベルアップである為、かなり悩んだが、それでも悪魔絵師と支配人がソーマを一気飲みする事でオーバードーズしつつ頑張った結果、合体が完了した。これにより上位と呼べるレベルの悪魔へと二体が変異した。もはや最初の頃のネタの様な所はなく、強者という言葉に相応しいだけの能力を兼ね備えた悪魔へとパワーアップしていた。
「くっふっふっふ、これで妾も八尾。今までは振るう事が出来なかった貪欲の権能も漸く稼働が可能となったわ。もはや妾に傷をつける事が出来るのは主神格や無我に精神性を昇華できる相手だけじゃ」
ロリボディを解除しているチェフェイの姿は大きく変貌していた。文様の刻まれた蒼着物がはだけた狐の耳と尻尾を生やした獣人女性の姿をしていた。乳が零れそうな恰好は艶やかで、見るものを意識しなくても勝手に魅了するだろう。それだけではなく怪しげな雰囲気は強制的に彼女へと視線を集める。その背部から生える八つの尻尾は彼女の力の象徴でもあり、格の高さを象徴している。もはや彼女が歩くだけで国は亡びるであろうレベルまで成長していた。彼女が歩けば男女関係なく全ての知性ある生物が彼女にその欲望を刺激され、貪欲にあらゆるものを求めて暴走する。
そして、そのまま国と共に亡びる。
そしてそれを戦闘能力にもしっかりと今のチェフェイはちゃんと反映できている。専業デバッファーであったチェフェイの能力は更に強化され、戦闘に出現するだけでCHARM、STUNされ、彼女と同じ空間で時間を過ごすだけで更にそれは悪化していく。その上で《ランダマイザ》を継承、《ナーバスクラック》を習得して遠距離からの神経破壊魔法を習得したので戦闘能力を獲得し、このレベルの悪魔の標準とも言える万能魔法、その最高位の《メギドラオン》をも習得した。
ネタでも何でもなく、傲慢に振る舞う事が許されるだけの実力と能力を兼ね備えた悪魔となっていた。その耐性も上位の悪魔に相応しいものとして四属性耐性、精神神経吸収に加えて破魔と呪殺、その両方を反射する事が可能となった。つまり状態異常と即死系統に関しては《貫通》スキルを持ち込んでもチェフェイの耐性を突破できなくなったのだ。
だが凶悪な能力をしているのは決して、チェフェイだけではない。ラーマもラーマであらゆる能力が凶悪だった。
まずはラーマの合体はストレートに合体した訳ではなく、化身を経由する必要があったためにヴァーマナ、そしてパラシュラーマを経由してのラーマへの合体だった。これはそれぞれの化身の能力を回収する為だ。そうやって経由し、継承したラーマのスキルははっきり言えば化け物と表現できるレベルの領域に到達していた―――超純アタッカーと呼べる役割に相応しい戦闘力がDDSで確認するだけで解る。
まずは広範囲を殲滅できる《マハグライダイン》と《マハフレイダイン》、これに《突撃の狼煙》を習得した事で素早く戦闘に登場しながら各種能力を強化できる。これだけを見れば殲滅戦が得意な能力の様に思えるが、それに加え様々な物理系統スキルをパラシュラーマ経由で変異させている。《デスバウンド》、《刹那五月雨撃ち》、《奥義一閃》等を融合変異させる事でそれを特有の
習得したのは《ブラフマーストラ》に《神器招来》。あらゆる耐性を無視した絶対貫通能力の一撃を放つことが出来る様になったり、また化身が人の姿へと突入した事もあり、それぞれの現役時代に振るっていたメインウェポンである神器を召喚し、使う事が出来る様にもなった。これによるパラシュラーマの《パラシュ・ルドラ》やラーマの武器である《サルンガ》を使うことが出来、相手に合わせて武器属性を切り替えて戦う器用さが生まれた。
同レベル帯の中でも数歩抜きん出た、戦闘力に全てを捧げたような能力をしている。ヴァーマナの権能で見える範囲であればどこでも移動可能となり、パラシュラーマの権能で数多くの術を習得、そしてラーマの権能で魔の存在に対して極限の強さを見せる様になった。
間違いなくトップクラスの悪魔。格上相手だろうと相性次第では問答無用でぶち殺せるだけの力を秘めた化身の名に相応しい怪物的強さを見せる悪魔へとランクアップしていた。
ただ、一つ、問題は、
「お前その恰好どうした」
「ん? 似合ってないかな?」
「似合ってるから困惑してんだよおめー」
当然の様にナラシンハからラーマになった所でその姿は変わっていた。まず最初に、獣人ではなく完全な人間の姿を取る様に変化している。その上で髪の毛は燃え上がる様な炎にメッシュで軽く金の線が混じった物をローのツインテールでまとめ、
なにせこいつ、今では立派な女の体をしているからだ。体のライン、控えめな胸のふくらみ、そして股間部の何もなさ、それは間違いなく女性体である事を証明する姿だった。いや、見た目は褐色が非常に薄い美少女の姿をしているが、
「どうした、王様。歴史の教科書が間違ってたか」
「いや、あってるけど最終的に此方の方が都合良さそうだからね。早めに整えておいただけだよ」
その言葉の意味はまるで理解出来なかった。ただ理解できたのはパーティーの男子枠がこれでついに黄龍だけになってしまった、という事実だった。いや、見た目美少女は嬉しいんだが、それはそれとして男子が増えてくれないとちょっと居づらいというか……別に、ハーレムパーティーは求めている訳でもないのだから。
黄龍ともっと仲良くしよう。そうしようと心に硬く決意を固めた。まぁ、性別が変わったから対応を変えるって訳じゃないし。そこまで大きな問題じゃない。
「なんじゃろう。この貧乳に負けたって感じの妾の敗北感」
「後出しの方がインパクトが強い影響だな」
「つまり僕が正義という事さ!」
「輝くな鬱陶しい」
ぴかー、っと輝いて自己主張する馬鹿とインパクトで敗北した為にロリ化した敗北狐をDDS内へと叩き込んだ。他の仲魔に関しては既にDDSに格納しているので問題はない。後はアンもアンで視線を向ければサムズアップを向けて来る。どうやら出かける準備は万端だったようだ。だから装備を固めていく。
インナーはテトラジャマー。防具は月光館学園制服・改。コンバットブーツを装着する。COMPと繋がっている投影ディスプレイつきの片眼鏡。武器が滑らない様にする為の薄革の手袋。それに加え上から全身を隠す様にライドウの外套・スペア。
これが今の自分の防具の全てだ。武器の類は全部COMPの電子ストレージに保管してある為、携帯する必要がない。その事を考えると他よりは楽かなぁ、と思える。現在の保有武装は《ルーチェ&オンブラ》、《ガンナーズブルーム》、そして《十束剣》になる。メインウェポンをL&Oが担当している。ブルームは局地的な最大火力を出す時にスダマを装填したり、狙撃に使用する。十束剣は実はまだ、使うチャンスが来てないので使えてはいない。だが強い退魔性能を保有した神剣である為、これを使えば魔の属性を保有する存在に大きなダメージを与えられるだろう。
大半の悪魔に対する特攻を保有する神武器ではないだろうか……? あまりに特攻範囲されるとバランス崩れている扱いされているが、そもそも現実がクソゲー化しているので、これぐらいのバランスブレイク性能なのが丁度良い。まぁ、性能に関してはこの中で一番バグっていると思える。実地で使用してみるしかないだろう。
「さて、仲魔も揃ったし、そろそろ―――」
「おぉっと、待ち給え。忘れものだよ」
そう言うとスティーヴンが工房に繋がる扉から出て来た。徹夜したのか目の下には隈が浮かんでいるものの、非常に満足げな表情を浮かべている。工房から出て来たスティーヴンは柄しか存在しない……おそらくは刀? をこちらへと投げ渡してきた。それを受け取り、軽く見る。どうやらMagを注ぎ込めばギミックが稼働しそうだ。
「これは―――」
「うむ、黄龍を封じていた封魔管を素材に使った光刀だよ。概念的に一番相性の良い武器が刀だったからね。ただ、普通に刀として加工するなら刀鍛冶や二流にも出来る。だから注いだMagで再生可能な光刀にしたよ。出力次第では伸ばす事や強度を増す事も出来る」
だがそれだけではないぞ、とスティーヴンが解説する。そしてダンテがカウンターから此方へと妖しい視線を向けている。あ、駄目だぞ。これ最初に遊ぶの俺だぞ。俺のだからな! 素早く隠そうとするが、カウンターから立ち上がったダンテが強奪しに来る。駄目だぞ、俺の玩具だぞ!
「黄龍といえば龍脈、即ち日本という国を流れる大地の流れの化身でもある。即ち地震の化身という側面を持っている。黄金、光、風、雷―――それだけではありきたりだろう? だから私は思ったのだよ。振るう度に空間を砕き、地震を空に生み出す刀なんて面白くないか!? とね……」
あこら、やめろ、それ十束剣なのぉ! 僕のぉ! と抵抗してもダンテに両方共奪われてしまった。というかどうやってストレージから十束剣強奪したこのイケオジ。イケオジだからと言ってなんでも許されると思うなよ! と思ったが、あっさりと鎮圧されてしまう。
そのままダンテが十束剣と黄龍刀で変則二刀流で遊び始めてしまった。それを体育座りしながら眺める。
「Whirl Wind!」
「そう、この刀は斬るのではない、粉砕するのだよ! 地震の力を取り出してそれを付与したこの刀は振るった箇所に地震を発生、耐性を破壊しながら光と雷を流し込めるのだ! 君の悪魔のベルゼブブは雷のスペシャリストだ、連携すれば間違いなく―――」
「ふんっ! はっ! There!」
体育座りしながらスティーヴンがゴキゲンそうに解説する中でダンテが玩具で一番乗りする様子を眺めている。流石超越者だけあって、武器を使うのが巧みだ。見ているだけで勉強になる。黄龍刀の居合なんて鞘からほとんど抜いたのが見えないのに空間にひび割れだけを残している。
そしてそのまま、それが店内で爆発を起こして色々と吹っ飛ばした。
「ダァンテェ―――!」
「はっはっは、坊主、これは返すよ。それじゃ、俺は逃げるぜ」
十束剣と黄龍刀を返して貰う。投げ渡されたそれを体育座りしたまま受け取りつつ、キレた支配人と創造神が店の外へと飛び出したダンテをフライパン片手に追いかける姿をしばらく、無言で眺める。スティーヴンはそれに一切頓着する事もなく、楽しそうに解説を続けている。頭、大丈夫だろうかこのお爺ちゃん。ストレージの中に十束剣と黄龍刀を格納する。
また、近接武器が増えてしまった……才能に《サクセサー》と《ガンスリンガー》しかないから、完全に武器で戦えるという訳じゃないから辛い。
『まぁ、任せてよサマナー。僕が君を最低で一流程度の剣士には育てるから、今の僕はパラシュラーマを経由したし、問題なく君の才能以上の実力を引き出す鍛錬を行えるさ』
『最低ラインが一流とかいうインフレ感覚』
『やっぱり神話のスケールが違うのって概念存在としては卑怯よねぇ』
「せやな」
仲魔たちの何時も通りの会話に答えながら横に同じように座り込んでいるアンを見た。彼女も此方を見返し、首を傾げた。
「でかけ……る?」
「ここに居ても邪魔になりそうだし、行こうか」
準備は整った―――おでかけの時間だ。
相変わらず賑やかなバーから出たところでシブヤに出て来た。そこから移動して向かう場所はシンジュクだ。少なくともこの世界を出る前に悪魔協会が存在していた場所はそこだったからだ。前は安全なルートを通って移動していたが、もはやその心配をする必要はない。ブルームを取り出して二人乗り、そこで空を飛んで一直線にシブヤからシンジュクへと飛行した。
途中、出て来るケライノーやハーピーなどの悪魔は攻撃しなくても、そのまま突進すれば簡単に轢き殺せる。これがレベルによって増えた能力、その絶対差と言える結果だった。前は支援しか出来なかったのに……と、Magの霧になって吹っ飛ばされた悪魔どもに視線を向けるまでもなくシブヤからシンジュクへの飛翔を終えて、空からシンジュクを見下ろした。
世界再生と復興の影響か、電気がシンジュクには通っていた。
シンジュク駅だけではなく、大規模に結界を張りなおした影響かルミネやキノクニヤと言った大型店舗にも電気が通っており、その中を漁っている人の姿が窓越しに見えた。どうやら結界によって悪魔を追い出す事が出来たので、一般人の生存圏が広がっている様だった。
軽くアナライズしてみればレベルは1、2程度。少しだけレベルが上がっている様に見える―――過酷な環境で生活している為に、悪魔死亡時のMagを受けて多少は強くなっているのだろうか?
そんな事を考えながら着地する。ブルームをストレージの中へと放り込めば、
「そこ! 待て!」
と、シンジュクに着地した時点で声をかけられた。振り返れば自衛隊の隊員が銃を装備した状態で走り寄って来た。
「駄目じゃないか、君。なるべく入り口から侵入してくれなきゃ」
「あ、そういうルールが出来てたのか」
俺が居ない間に色々とルールも追加されていたらしい。まぁ、社会が少しずつ回復してきている影響でもあるのだろう。そう思いながら困ったな、と軽く頭を掻く。だがそれを見て自衛隊の男は少し待て、と言葉を置き、
「もしかして離れていたのかい?」
「ちょいと高位悪魔との戦闘の為に遠征を」
「成程……アナライズさせて貰うけどいいかな?」
「俺だけなら」
アプリの《アナライズジャマー》を自分の分だけ解除し、それから自衛隊の隊員にアナライズを許した。直後、化け物を見る様な視線を向けられ、それを確認しながらジャマーを再起動する。あぁ、まぁ、確かに70代ともなれば人類の中でも最上位に位置するだけの実力の持ち主だから、そういう視線にもなるか、と納得する。
ただ、ちょっとだけ、悲しかった。
「え、えーと……シンジュクにはどのようなご用件で?」
「高位悪魔の情報を求めて悪魔協会にちょっとね……場所、変わった?」
「あ、はい。現在は場所を変えて旧タカシマヤの一階を完全改装して悪魔協会シンジュク支部にしてあります」
「そうか、どうも」
「い、いえ、どうぞ、お進みください」
恐縮されている、というかどこか怖がられている。レベルがバレるとこんなもんか、と思い歩き出すと、アンに軽く背中を叩かれ、腕を組んできた。
「い、こ?」
「……おう」
まぁ、俺だっていきなり高レベルを前にしたら心が折れるし、当然と言えば当然の対応だった。それを気にしないダンテやライドウがやっぱり、凄いのだろうと思う。そして黄龍が言っていた様に、俺もいい加減強く、そして凄いんだという自覚を持たなきゃいけないのだろうと思う。
少なくとも、そこら辺に居る屑でも雑魚でもないのだ。
自分で出来る事をちゃんと、自覚しなければならない。
まぁ、それはそれとして、アンと腕を組んで上機嫌なままタカシマヤへと向かう。途中、通り過ぎる人々が視線を向けてきて恥ずかしくなるから引っ込めたくなるも、アンがしっかりと腕を絡めてロックしている為、どう足掻いても逃げられない。力づくでそれを解除するのも紳士的ではないし、腕に感じるアンの体の柔らかさに少しだけ悩まされつつ、
シンジュクの道路を歩いてタカシマヤへと到着した。大半の建造物は低位悪魔の出現とその略奪や被害によって壊れていたり崩壊している所が多い。だがこのタカシマヤビルはどうやら修復されているようで、所々修復の跡などが確認できる。ほぉ、と呟きながら眺めれば、それなりの人数が出入りしているのが見えた。
デビルバスター、増えているのだろうか? そんな事を考えながら協会内部へと進んだ。
内装も大幅に塗り替えられている。黒をベースに、赤いカーペットが敷き詰められたシックな雰囲気が協会内には出来上がっており、壁の方には仕事が張り出されている他、サマナー用のターミナル等も設置されてあるのが見える。
前見た時よりも人が増えており、職員も増えているのが見える。レベルは―――全体的に低い。レベル8前後のデビルバスターが見える範囲に居るほとんどの様に思える。ただ野良で存在している悪魔のほとんどがガキやゾンビである事を考えれば、戦力としては十分な範囲だ。
……
さっさと中の方へと進んでしまおうとすれば、
「お、しばらく顔を出してないから死んだと思ったじゃねぇか」
声をかけて来る姿があった。その姿には見覚えがあった。
「おっさん、最初に説明してくれた……」
「おう、覚えてたか。しかもかなり強くなってるなお前……驚いたぜ。どっかで修行でもしてきたのか?」
「まぁ、ちょっと世界を救ってた」
その言葉に初めてシンジュクを訪れた時、説明してくれたサマナーが爆笑した。この人はアナライズなしでもレベルが上がったって解ったし、それに怪物を見る様な目は向けなかった。それが少し、嬉しい。
「はは、世界を救ってたか。楽しそうにしてるなら良かった。それで……説明はいるか?」
「しばらく離れてて勝手がわからないから説明してくれると助かる」
「よっし、来た」
なんか、このサマナー……人に説明する事を生きがいとしているのだろうか? でもネトゲとかで妙に親切に教えてくれる人とかいるよなぁ、と思う。
「ここはシンジュク駅に展開していた悪魔協会を地上の安全が確保できたから移設した所だ。現在じゃトウキョウ最大の悪魔協会施設だ。一応《邪教の館》も併設されているからサマナーはマッカを払えば悪魔合体する事も出来るぜ」
「意外と発展してるな……」
「まぁ、生き残ったサマナーやバスターで資金提供したからな。組織として色々と管理してる所のあるなしで俺達の生存率は大きく変わるからな。親切な技術者がターミナルを寄付してくれたおかげで悪魔協会に来れば悪魔のデータを確認する事が出来るしな。これ《DDS》って言うんだが、知ってるか? 俺達が出会った悪魔のデータとかのデータをマメに入力しておけばいつでもここから皆が入力したデータを確認できるぞ。《アナライズ》を使っていれば更に詳細なデータが入力できる」
しかも、報酬も出る、とサマナーは円を指で作った。これ、絶対にスティーヴンがデータ収集用に設置した奴だな……と理解してしまった。まぁ、この崩壊世界、悪魔相手にマッカ交渉する必要もあるだろうから、報酬が出るのは純粋にイイ話……の筈だ。
たぶん。
「ここじゃトウキョウを中心とした関東の情報が集まってくるようになってる。あっちは個人依頼。んであっちが組織絡みの依頼だ。あそこに行けばデビルソースとかを持っている場合、換金したり加工を依頼できる」
思っていたよりもかなり本格的に組織として稼働しているな、と思えた。まぁ、生き残る為に頑張ったと思えばある意味順当なのかもしれないが。タカシマヤも、こんな崩壊世界では店舗だけ残っていても意味はないし、有効活用と言える。
「ちなみに昨日入って来たホットニュースによると関西はキョウト、ガイア本部はシコクでキュウシュウが勢力圏、トウホクはメシア勢力圏、ホッカイドウは試される地になったとか」
「試される地」
「なんかロシア系の悪魔が乗り込んで来たって話で本州と断絶しちまったらしくてな……」
「成程」
滅殺リスト最上位に叩き込んでおく。よっしゃ、見つけ次第ぶっ殺してやろ。
しかし日本再生からたった二日でこれほどまでに素早く情報が回ってくるとは流石人類の生き残り、生き足掻く事に関しては本当に優秀だと思う。もう既に地方と連絡を取って情報収集してるのか、と思う。
「と、そうそう。あそこにいる連中は情報屋だ。マッカを出せば調べてきたりするから、詳しい話を調べたい場合は連中にマッカを出しておけ。今のお前のレベルなら舐められる事もないだろう……まぁ、それぐらいか?」
「久しぶりのトウキョウで色々と勝手が違って困ってたから助かる」
「気にするな、この業界は基本的に助け合わないと死ぬからな」
それは死ぬほど痛感してる。帝都、アレマジで死ぬかと思った。ライドウの協力がなかったら、今頃ここに居ないだろうと確信している。ライドウ、マジでライドウ。この日本にも来てくれないかなぁ、と切実に願っている。無敵の前転で危機を乗り越えて欲しい。
「で、なんか探しもんか? 今は悪魔業界最高の好景気だぞ」
「世界が滅んだら好景気になる業界とかもう色んな意味で終わってるだろ……」
「まぁ、存在しない方が間違いなく世界の為になるからな……」
クラリオンの笑顔が空に浮かぶ。星を吸い尽くし食物連鎖の最上位に立とうとした絶対捕食者。その姿を思い出し、サムズアップを触手で作っている姿を想像し、間違いなく悪魔はこの世から消えた方が綺麗になるよな、と、
納得しようとして、
「あぁ、いや」
頭を横に振る。
「悪魔の世界が無ければ彼女に会えなかったしな。無かったらよかった、っては言えないわ」
「は、ははは……成程、確かにそれは否定出来ねぇな」
アンが腕をぎゅっと絡めて来る。幸せだけど、滅茶苦茶にやにやされているから、止めて欲しい。人前では出来るだけ止めて欲しい。ほら、人の居ない所なら問題ないから。心の中でそう叫んでも口にしなければ止められない。そしてそれを口に出す勇気が俺にはなかった。
なのでガン無視して話を進める。
「取り合えず、一部の仲魔のレベルが低いから高レベル悪魔の相手を探してるんだ。無駄になるかもしれないし聞きたいんだが……高レベル異界って出現してる?出来たら70代がいいんだけど」
「あったら日本からシンジュク消えてる」
「ですよねー」
だけどそうか、とサマナーが呟いた。
「そういうレベルか……確かにそれだけレベルが上がるとレベルの低い仲魔をレベリングするのも大変になるな……今発見されている異界の中でも最高レベルのは50代の奴だしな……」
求めていた物ではないが、それでも結構高レベルの異界が出現していたらしい。シンジュクの安全を確保するついでにサクッと滅ぼしてきた方がいいだろうか? あぁ、でもこの世界でもそう言えばヤタガラスが普通に活動していた筈だ。それに、日本全域が復活したのだ、おそらくはライドウも復活している筈だ、この世界のライドウが。
同じシステムがあれば、という話前提になるが。
それでもライドウの存在は頼りになるから居てくれないかな、と願っている。
「ん?」
と、そこでサマナーが首を傾げた。
「……アレ、お前の仲魔って横の嬢ちゃんでいいんだよな?」
「あぁ、後一人居るけど」
「人型で、お前の方がレベルが高いんだろう?」
「結構」
ベルはほぼ10レベル差、アンは20近い。結構レベルの差が出来てしまっている。だがサマナーの話を聞く感じ、
「高位悪魔を倒す以外にもなんか、方法あるのか?」
「あー……どうすっかなぁ……」
此方の問いに物凄く悩むような表情を浮かべ、此方とアンを見てから、うわぁ、と声を零しながら顔を抑え込み、そして物凄い苦悩するような表情を浮かべている。その余りの苦しそうな様子に思わず引く。
そのまま数秒間、固まる姿を見て、やや引きつつ、
「いや、その、そんなに悩むなら別に……」
「いや、いいや、別に危険って訳でもないんだ……」
だけどな、とサマナーが腕を組む。
「この明らかに青春の気配がする推しの組み合わせに効率という概念で今の形を壊していいのかという内なる欲望とオタクとしての理性がしのぎを削っていてな……!」
「何言ってんだこいつ」
理解不能っぷりに困惑していると、ちょいちょい、とサマナーが手招きして来る。こっちに来い、と自分を示している。なのでアンを見て、解放して貰ってからサマナーの方へと近づくと、肩に腕を組まれ、体を引き寄せられ、そして声を小さく、スクラムを組む様に、アンに聞こえない様に喋り出す。
「いいか、俺がこれをお前に教えるのは苦悩の決断だ。考えたがレベル70代の悪魔なんて見つけられそうにないし、見つけた時点で俺が蒸発しそうだからな」
「お、おう」
「レベルアップのプロセス、知ってるか?」
「そりゃあ……」
レベルアップは体内にMagを取り込み、それを肉体に馴染ませる事で肉体が一つの上限を超える。それがレベルアップ現象であり、肉体がより高次の存在へと近づくのだ。純粋で不思議なエネルギーであるMagにはこれを可能とする力がある。その為、より多くのMagを取り込み、それを馴染ませる事がレベルアップでは重要だ。
だけど超大量のMagを一気に取り込むことで急速にレベルアップする事も出来る。それがクラリオンの時の出来事だ。
「だからレベルアップするには厳密に言えば悪魔と戦う以外の方法もある。Magを供給してやればいいんだ、人間から悪魔へとな。だからメシアは信仰という形を利用する。人間は感情や信仰とかからMagを生み出せる生物だからな。それを奉納させる事で自身を維持したり、強化したりできるんだよ」
その話を聞いて、思い出してしまった。
「……あっ、あっ、あっ」
両手で顔を覆いながら
「あぁ……気付いちまったぁ……」
うん、そうだ。そう言えばナカノのガイア寺院でやってたじゃん、連中……と、思い出してしまった。
「性交渉を通してMagって供給できるから、レベル差が大きければそれで十分、レベル上げる事が出来るんだよ……」
サマナーの決定的な言葉に返答が出来ない。無理、無理無理無理。絶対に無理。セックスでMag供給してレベルアップとか絶対無理。
赤くなっているであろう顔を自覚し、両手で顔を覆いつつ、
「マジ無理……ヘルプ……!」
「野郎共、青春相談室始めるぞ……!」
助けを求めた。
そしてそれに応じてやってくる。
「なんだって、いい感じの雰囲気を出しているのに踏み出せないヘタレ系男子だと? 俺がアドバイスしてやろう……!」
「いいや、ここはサキュバスを相手に百戦錬磨の俺が真のアドバイスをしてやろう」
「死兆石踏んでマザハにターゲットされてしまった俺がお前の運命を救おう」
「面白そうだから混ぜて」
馬鹿どもが助けにやってくる―――!
崩壊世界に居る間はホーム補正が聞くので、一番フリーダム活茶番ばかりの連中が増えてしまう―――何故だ……?
とはいえ、崩壊世界の連中、失敗すりゃあ死ぬどころか世界滅ぶかもしれないから気負っても無駄だし。だとしたら人生、楽しめる所まで楽しんだ方がこれ、建設的じゃね? 全力で人生楽しむわ俺! って突き抜けてしまった連中が増えてしまった事にも原因が。
次回、悪魔協会青春会議。その為に業務、一時停止……!