※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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神州混沌行脚 Ⅵ

 三次会の場所は居酒屋《あぽかりぷす》という場所でやる事になった。経営者は終末が過ぎ去ってしまった為に無職へとジョブチェンジしてしまったトランぺッター、従業員は黙示録の四騎士。それぞれ違うタイプのイケメンに姿を変えているので女性客への人気も高い、という無駄に気合の入った居酒屋だった。ただ、それでも客が少ないのはレベルとか関係なく、魔人として死の気配をどうしようもなく纏っているという事に理由があるらしい。その為、レベルの高い客か社会に紛れて生活している高位悪魔しかやってこなく、経営は中々難しいという世知辛い話を酒の席で聞かされてしまった。

 

 経営者のトランぺッター曰く、

 

「いやぁ、魔人としてのアイデンティティとして死のオーラは外せませんからね……。私たち、アポカリプスを終えてしまうともう仕事がなくなってしまうので、何とか就職しないとこの先の生活が存在意義的にやばいんですよね。ははは、だからなるべく来てくれる人にはサービスしようと決めてまして。あ、時間になったのでサックス演奏しますね」

 

 どうやら、自分のアイデンティティクライシスと真正面から向き合っている良い魔人……良い魔人? らしかった。相変わらず崩壊世界は色んな意味でぶっ壊れてるぜ、と納得させられる光景だった。それでも普通に出される料理とか酒とか、美味しいので悔しい。

 

 明るく熱血なレッドライダー君。

 

 クールで眼鏡なペイルライダー君。

 

 ショタで笑顔の眩しいホワイトライダー君。

 

 ダウナーでどこか影のあるブラックライダー君。

 

 厨房でキッチンを任されているアンチクライスト君。

 

 皆イケメン。

 

 皆、死のオーラを纏っている。正気なら近づくだけで失禁して、更に近づけばそのまま心臓麻痺するような連中である。そう、終末を通り過ぎて役割が終わって無職になった結果、レベルが一桁になろうが、それでも彼らは魔人だった。そんな連中が居る店の客が来る筈がないのである。

 

 だが馬鹿共は違っていた……!

 

 ノリと勢いで突撃し、その上で常連を増やしてしまった。狂気レベルでは某バーとどっこいレベルの場所だった。とはいえ、男子会の三次会、そういう細かい事は耐えられるレベルなら気にしなくていいのだ。場合によっては死のオーラで変な雑魚が寄り付かないと考えればいいのだし。安全に死のオーラに晒されながら食事ができる所だと思えばいいのだ。

 

 やや錯乱しているかもしれないが、それでも少しだけ、自分に素直になろうと連中のおかげで思えたのだから、まぁ、こんな感じで適当にいいのだ。肩から力を抜いて、酒の飲み方というのを教わりながら、どういうおつまみが好きなのかというのをちょっと、色々と食べ比べながら調べて、ひたすら餌付けばかりされた記憶が残った。

 

 そんな訳で飲んで、騒いで、武勇伝を聞かされて、あーだこーだアドバイスをされたり、馬鹿話を語ったりする場になった。インフラが、というよりは日本国内ではヤタガラスの尽力の結果、ある程度電波が復旧してきたこともあり、つぶやいったー等のSNSも復活しつつあった。そこに死のオーラを振り向くイケメンたちの写真をアップしてアピールしたり、SNSに魔人テロを行ったりして爆笑した。

 

 リピーター増えねぇかなぁ、とか笑ってたら襲撃されたので更に笑った。

 

 笑った。

 

 腹抱えて笑った。

 

 馬鹿じゃねぇの、何やってんだお前って。そうやって盛大に笑った。そりゃあ、もう、涙が出る程に。笑って、笑って、ちょっと息苦しくなって落ち着いて、また馬鹿やってる姿を見て爆笑して、蹴りを入れたり入れられたり、そうやって一晩中笑って騒いで遊んで、

 

 

♦

 

 

「あぁ、楽しい時間だったなぁ」

 

『我も食事が出来て満足であった』

 

 夜が終わって朝になってしまった。トランぺッターに従業員用のシャワールームを貸して貰ってさっぱりしてから、馬鹿の集まりは解散した。そのまま大半は悪魔協会へと戻って行ったり、異界探索の成果を整理したりと、それぞれの日常へと帰還した。そんな中、朝日が差し込むシンジュクの道路で手を大きく空へと向かって伸ばし、体をほぐしていた。

 

 清々しい気分だった。こうやって、何もかも忘れて馬鹿し続ける様な、笑い続ける時間は何時ぶりだろうか? 自分の手の中にあるカードを、

 

 無名の魔術師たちが肩を組んで開いた手で中指を突き立てているタロットカード、《The Magician》、即ち《魔術師》のカードを見ていた。これを見るだけで昨晩の乱痴気騒ぎが思い出せる。

 

「俺が」

 

『……』

 

「まだ、学生だった頃の話だ」

 

 俺は学生だった。数か月前までは。今でもそれを思い出せる。思い出さない様にしていたけど、こうなっては思い出せる。

 

「明日はなんの宿題を提出するんだっけ。そんな事を考えながらサボってネトゲ遊んだり、カラオケに行ってストレス解消したり、誰が一番上手く死体のフリを出来るか勝負しようぜ! ってやって先生に救急車呼ばれて怒られたっけ……ははは」

 

 少し前までは凄い馬鹿をやってたよなぁ、俺。それを今更思い出した。ずっと、忘れてた事。ツッコミ入れたり茶番に付き合ったり、呆れたりする事はあった。だけど学生時代だった時の様に、心の底から笑ってふざける様な事は、

 

「本当に、本当に久しぶりだったよコウリュウ」

 

 空が眩しい。前は良く遊びで徹夜していたのに、そしてその度に空が明らむのを見てあっ、宿題やってねぇ、と呟くものだった。だけど今では空の明るさを見て異界の脱出とかを考える様になっていた。

 

 世界が変わったから当然だと思っていた。だけど違うのだ。

 

「変わったのは―――俺だ」

 

 とてもシンプルで、とても簡単な話。俺が変わっただけだった。どんなに世界が変わっても。世界が終わったとしても。それでも、変わらない、自分のままでいられる。そういう人たちを見て漸く解ったのだ。俺は今まで、逃げてただけだった。

 

 罪悪感。俺だけが生き残った。俺が他人を見捨てた。今の俺は恵まれている。俺の様な男を好いてくれる女がいる。俺はどうしようもなく屑で、そしてどうしようもなく、救いがないのに。それでも好きと言ってくれる子がいる。だからこそ罪悪感が胸を燻り、直視する事を拒んだ。

 

 つまりは、

 

 俺がアンからずっと逃げていたのは、罪悪感から目を反らす行いだったのだ。

 

 皆(・)が(・)死(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)彼(・)女(・)と(・)出(・)会(・)え(・)た(・)のだ。

 

 だから、彼女にストレートに向き合えなかった。

 

 それが、如月竜二という男にある、根底であり、彼女を自分から抱きしめられない理由だった。笑って、全部吐き出して、それで昔、自分がどういう学生だったのかを思い出した。そのおかげで良く解った、自分が何故自信を持てないのか。自分が何故アンを今すぐにでも押し倒そうとしないのかが。

 

 全部、俺が悪い。

 

「罰……とは一種の救いだって解ったよ、コウリュウ」

 

『……』

 

「誰かが罰する事で、許されるんだ。だけど俺を罰せる人はもう、誰も居ないんだ。誰も俺を罰してくれない。誰も俺を叱ってくれない。誰も、俺の罪を知らない」

 

 だから誰も罰(許)してくれない。

 

 それが如月竜二の背負った罪である。

 

「―――故に私はこう答えよう、汝を許そうと」

 

 聞き覚えのある声に、肘を曲げて腕を前に出す。白い羽を散らしながらゆっくりと、空から降りて来た小さなシルエットが腕に止まった。鳩だった。何時も通り、うっすらと後光の見える鳩の姿をしている。

 

「大いなる父の名において汝を許そう、我が子よ。汝は罪に苦しんだ。そして今、それを見つめた。故に父として汝の罪を許そう」

 

 だが、と鳩は翼を此方の胸へと向けた。

 

「汝が汝を許せていない」

 

 鳩の言葉に頷く。

 

「罪には罰を。汝はそう言った。罪を知る者のみが罪を罰せる。故にリュージよ、我が子よ。罪は知る者に裁かれる。故に、答えは簡単だ」

 

 鳩がそこで一旦言葉を止め、小さくうなずきながら啓示を出す。それは四文字でありながら、そうではない。彼は既に去(・)っ(・)た(・)後(・)なのである。もはや人の生活から彼は去った。残されたのは彼の教えと彼の物語だけ。もはや彼は天使たちに声を送る事もなくなった。彼は決して人を見捨てたのではない。もう、自分の存在は必要ないと、去っただけだったのだ。

 

 故にこうやって、今は、愛と平和の良き隣人として来た。

 

「汝(・)が(・)汝(・)を(・)裁(・)く(・)のだ」

 

「―――」

 

 鳩の言葉に、呼吸を止めた―――そう、誰も俺を裁けないのなら、俺が自分を裁くしかない。俺だけが知っている罪。俺がずっと目を反らしてきた、行わなければならない清算。今まではそれを認識し、この旅を罪を贖う為の旅だと思って来た。だけど違う、それは言い訳を付けて目を反らしているだけの行いだ。

 

 そう思えるのは、やはり、

 

「良き出会いをしたようだな、サマナー」

 

『良き出会いだった、四文字よ。見よ、サマナーの目を』

 

 タロットを見て、昨晩を思い出し、小さく笑い声を零し、鳩を肩の上へと移動させてからカードホルダーにタロットを格納した。朝日を浴びて、あぁ、そうだなぁ、と鳩の言葉に漸く、声を零せた。

 

「そうだなぁ……あぁ、そうだよな……ちゃんと、向き合わないとだめだよな」

 

 罪には罰を。とてもシンプルな言葉に思える。だけどその意味は、深い。特に世界が崩壊し、法律なんてものがほとんど機能しなくなった今の時代では。誰よりも、何よりも個人のモラルが影響して来る。

 

 だから、個人個人で判断しなければならないのだ。

 

 犯した罪を清算する方法を。

 

 鳩が導いてくれたおかげで、余計なノイズが脳内から消え去った気がする。

 

「そう、俺は凄いんだ」

 

 だから……勇気を振り絞る事だって出来る。怖くて、恐ろしくて、吐きそうだ。だけどそう、俺は凄いのだ。だからきっと、ちゃんと向き合って、そして笑ってアンに答えを出せる筈なのだ。いや、出したいのだ。俺が、答えを。本当に彼女の事が好きで好きでしょうがないから。心の底から好きだって伝えて、抱き締めたいから。

 

 その為にこの心に突き刺さる罪悪感の杭を引き抜きたいから。

 

 このまま、これが残ったまま彼女と付き合っても、たぶん。幸せにはなれない。

 

 だから、

 

「そう、過去なんだ、もう」

 

 学校が楽しかったことも、カラオケに行ったことも。ネトゲをしていたのも、SNSで面白いつぶやきを探していたのも。もう、それは終わったのだ。帰ってこないのだ。馬鹿達との乱痴気騒ぎは、何よりもそれを理解させられてしまった。過ぎ去ってしまった時間。終わってしまった時間。もう戻らない過去。

 

 時は過ぎ去って行く。そして過ぎ去った出来事をどうにかする方法はない。

 

 さて、と呟きながらメールをスティーヴンへと送る為にCOMPを取り出してメールを入力して行く。それが終わったらCOMPを再びポケットの中に叩き込んでブルームを今度は取り出す。それに軽いホップで飛び乗って飛翔する。

 

「男子会四次会、飛び込みゲスト一羽追加……って感じかな」

 

 アン達には悪いが、ちょっとバーでお留守番してて貰う。流石に男の格好悪いかもしれない姿をこのまま見せるのは恥ずかしい。だから帰ってくる頃にはもうちょい、まともに向き合えるようになっている筈だから。せめて、手を繋いでキスぐらいは。それぐらいは出来る様になるから。

 

 だから向き合いに行こう。

 

「ナカノに行こう」

 

 ブルームが高度を上げて空へと舞い上がった。そのまま、Magを吸収してエンジンを稼働させ、砲塔を正面へと向けたまま一気にナカノへと向かって加速する。サーフィンをする様に足を軽く広げた状態でブルームに乗ったまま、

 

 一直線にナカノへ。

 

 自分の罪が今でも眠っている場所へと向かう。

 

 悔しいけど、馬鹿どものおかげで自分の足りないものは見えた。終わってしまったものが見えた。鳩のおかげでどうすればいいのか、解ってしまった。

 

 少し、急かもしれない。

 

 だけど答えを待っている子がいるのだ。だとしたらここで止まれない。

 

 朝の空を蒼い一条の線となって駆け抜けて行く。

 

 

♦

 

 

 ナカノ高校。

 

 自分の通っていた高校である。そう言えば少し前までは高校生だったんだよなぁ、俺は。それを思い出しながら校庭に着陸した。当然と言えば当然だが、校舎もグラウンドも荒れ果てていた。周辺には悪魔の反応もある。もう好き好んでナカノに残っている人間もいないし、悪魔の巣と化している。《エネミーソナー》からは懐かしい、ガキやインプの気配を感じる。

 

 十束剣を抜いて肩に背負えば、その神聖な退魔の力があらゆる不浄なる魔を、雑魚を近づけずに消滅させる。これを持ち歩けば少なくともこの低レベル共を一々相手する必要もなくなるだろう。

 

 そこまで考えた所で十束剣をしまって、代わりに習熟の意味を合わせて黄龍刀を取り出した。

 

 ……十束剣が怨念まで消しちまったら意味ないからな。

 

 もし、残っていたらの話になってしまうが。それでも残っている可能性がある。それを多少は期待している―――酷い奴だ。そう思いながらも、校庭を越えて、そのまま校舎の中へと進んで行く。

 

 いたるところに血の跡と破壊の痕跡が残されている。

 

 目をつぶればここを必死に駆け抜けた記憶が脳裏に甦る……。悲鳴が、助けてという声が。お前だけ助かるなんてずるいという声が。それが鮮明に思い出せる。逃がそうとしてくれた先生は一瞬も持たずに死んだ。クラスメイトは天井から落ちてきたスライムに溶かされた。気が付けばガキと隣のクラスの子が融合して異形化していた。

 

 吐き気を覚えるも、それを飲み込んで、無言のまま、昇降口を抜けてから上へと、階段を上って行く。

 

 そこから三階へ―――三年生の教室のある廊下へと出る。

 

 ここも、所々赤く染まっている。今もガキが徘徊しているのを黄龍刀で素早く刃を形成して斬り捨てる。音もなく消滅したガキが死んだと理解する前に消え去った。逃げ出した時と比べて、本当に強くなった。だが心の方はどうだろうか?

 

 俺は、自分の罪に向き合える程、強くなれただろうか?

 

「……」

 

 ガキを殺し、インプを殲滅し、彷徨う学生服やスーツ姿のゾンビを滅する。ゾンビたちに理性はなかった。話しかけようにも、もはや生前の人としての全てを失っていた。時折、混沌とした肉体が蠢いているのが見えた。悪魔と融合した成れの果て。急激なMagの増加に耐え切れなくてミュータントになってしまった人間。言葉も意思もなく、生きているだけの肉塊も処理する。

 

 そうやって悪魔を処理して進み。

 

 かつて、自分が授業を受けていたクラスルームに到着する。扉は壊れていて、壁にも穴が開いている。どうやら悪魔がぶち抜いたらしく、そのまま中に入れる様になっていた。

 

 そしてクラスルームもクラスルームで、もはやかつて授業を受けていた場所の様な整いはなかった。机は薙ぎ倒され粉砕され、怨嗟がこびりつく様に爪痕が壁や床に残り、血の跡が残されている。

 

 それでも、誰かの霊が残っているという事はなかった。

 

 異界化している訳でもなかった。

 

 このクラスルームを見て、理解する。

 

 ここに特別なものはなにもない。ここで発生した悲劇は既に、過去のものなのだと。終わってしまった事件であり、それによって何かが変わったという訳でもないのだ。自分が固執し、そしてずっと見つめる事を避けていた出来事は、

 

 今の崩壊世界からすれば、

 

「ありふれた悲劇だったんだな……」

 

 それだけだった。

 

 教室の中に進み、まだ無事な椅子を取り、かつては自分が座っていた場所にそれを置き、そこに座った。背を椅子に預けながら足を組み、ストレージからとあるものを取り出した。

 

 鳴海から借りた煙草だ。まだ、返していなかった。だからそこから一本拝借し、それを口に咥えて、指のスナップで火花を起こし、火をつけた。煙草の吸い方は馬鹿から習ったばかりだ。だけどこのけむっぽさは正直、慣れないものがあった。それでもちょっとだけ、この口の中に広がる苦さを味わいたかった。

 

 この感触が、苦しい。

 

「もし……スケジュール通りに進んでれば」

 

 もはや季節とかそういう概念は消え去ってしまったのだが。それでも、経過した月日を考えると、

 

「卒業式を少し前に終えたぐらいになったかな……」

 

 そうすれば俺も、ちゃんとした社会人になっていた筈だ。今とは、全く違う。普通の世界で、普通に学生としての時間を終えて社会人……或いは大学生になっていただろう。あぁ、でも俺は勉強好きじゃないし、たぶん大学は辞めて働いてただろうなぁ、とは思う。

 

「卒業、したかったな……」

 

 ちゃんと皆にさようならを言いたかった。だけどその機会はもう、永遠に来ない。過ぎ去ってしまった時の中で終わってしまったのだから。だからこの学校での出来事は全て終わり、それを知る人間もいない。自分一人を除いて。

 

「ここに来れば、何かが変わる―――とは、別に都合よく思った訳でもない」

 

 覚醒とか、覚悟とか、そういうのとは縁遠い人間だと思っている。そういうのはアレ、湊とかライドウとかダンテとか、ああいう連中に相応しい言葉だ。ちょっと特別な才能があるだけで、自分は何かの主役という訳じゃない。

 

 あぁ、そう考えればスティーヴンとは同類なのかもしれない。

 

 彼自身は特別ではない。ただし、特別な才能を持って、それを完全に活かしているだけだ。彼は主役でも主人公でもない。それでも恐ろしく、強い。だけど普通に強いだけなのだ。きっと自分はああいうタイプなのだろう、と思う。

 

「きっと、罪に向き合うというのは、刻む事なんだろう」

 

 その言葉に黄龍も鳩も言葉を挟まない。それでいいと思う。特別に何か、言葉を求めている訳でもない。そして何か、大きく変化したわけでもない。流石に、意識してから一気に改善しようとするのは、虫のいい話だったのかもしれない。それでもしっかりと、この惨劇の現場は胸に刻んだ。

 

 もう二度と、この景色を忘れる事はないだろう。

 

 そしてこれが既に終わってしまった事件である事も、忘れはしないだろうう。

 

 何をどう足掻いても、時は前へと進んで行く。そして生きて行くのなら―――進み続けるしかないのだ。

 

 本当に、本当にごめんなさい。

 

「だけど―――お前らとの過去の時間よりも、彼女と一緒に居る未来の時間の方が、今の俺にとっては大事みたいなんだ」

 

 だから忘れないし、胸に刻んで行く。何時か、この出来事も完全な過去として忘れるかもしれないだろう。だけどそれはまだ遠い、未来の話だ。

 

 今はただ、俺は凄い奴なんだ。自分にそう言って、選択する事に胸を張る事しか出来ない。だけど、まぁ、それでいいと思う。必要以上にここに引っ張られる様な事はたぶん―――もうないだろう。

 

 苦しみが終わった訳ではないし、まだ罪に対して罰は執行されていない。

 

 だけどそれを忘れる事もないだろう。

 

 この口に残る、煙草の苦い不味さの様に、口の中に何時までも残るだろう。

 

 だからアン達と会うまで、この煙草を吸い終わるまでここに残る事にした。苦さが口から消える所まで時間を過ごし、

 

 そうしたら何時もの様に―――いや、何時もよりも少しだけ前を向いて帰ろう。

 

 まだ、やる事はたくさんあるのだから。




 悪魔は所詮悪魔、正しい言葉を贈ったとしても、それは悪魔の言葉。本当の意味で人間の心に触れる事がないのは、根本的な部分で正論を吐いても、それが違う生物であるという事に起因している。

 だから一番必要だったのは人間の言葉。クリティカルな野郎共は今日も無駄にナイスバルクしながら新しいバスターやサマナーを助けている。という訳で劇的ではないが、メンタル改善。次の扉の前までにはたぶん……?

 今日もシンジュクはあぽかりぷす(過去形)。
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