「大将が面会の準備を整えたぜ―――ってなにやってんだ?」
ネズとテンドウとアンの四人で待っている間、ひまなのでしりとりで遊んでいた。うどんさえ抜けば普通なのだ、うどんさえ。何故そこでうどん縛りをした理由が一切解らなかった。だから黄龍を空に浮かべたまま、その下で暇潰しにしりとりで遊んで待っていた。喉渇いたら飲み物持ってくる、と言われてもストレージに色々と食料とかぶち込んであるし、ぶっちゃけ何かを頼まなくても特に問題が無かったりする。
超人になってから食べたものは完全に消化されてエネルギーに、というかMagに変換されるのでトイレに行く必要すらなくなった。これ、超人としては割と普通のことらしいのだが。
まぁ、そういう訳で頭を悩ませる問題はMagや経験値の事ばかりだった。なので普通にしりとりで遊んで待っていたら破戒僧が戻って来たという次第だった。というわけでしりとりを切り上げ、破戒僧へと視線を合わせた。
「とりあえず、アンだけ先にうどん食べさせられない?」
「あぁ、おう。ネズ、テンドウ。嬢ちゃんを食堂に連れてってやれ」
「了解っす」
「お任せください旦那!」
「うー、どん」
『ちょっと見てて不安になるわね……サマナー、私もついて行っていいかしら』
まぁ、一人ぐらい付けた方が安全だろうし。ベルを召喚して、アンの護衛につける。護衛が必要なレベルでもないが、アンの口数が非常にアレなので、翻訳にベルを付けておいた方が何かと、誤解を生まずに済むだろう。ベルとアンが食堂へと案内される姿を見送りながら、今度は破戒僧について行き、高松ガイア城の奥へと向かう。近代化改修によって城という名前ではあるものの、実質的には要塞に近いものを感じた。
霊的防御、物理的防御、二種類の要素がこの城には用意されている。何をどう足掻いても絶対に死守してやるという意思を感じる。
それはそれとして、破戒僧に案内されて奥へと進んで行く中、ガイア僧やガイアーズの姿を目撃する。流石重要拠点を防衛する為の人員だけあって見えるレベルが高くなってきている。大半が30代はレベルを保有している。だがその中に時折、40代にまでレベルを伸ばす者も見える。
今の崩壊世界、一般的なサマナーやバスターの上位組平均は大体40前後という所だろうか? これまでは倒せる悪魔の関係でそこら辺が上限だったが、今では壊れたようにレベルの高い悪魔が出現してきていた。出現する悪魔の都合でレベルが上がれなかった連中も段々力を付けて来る頃合いなのだろうか……? まぁ、どちらにせよ、自分もひたすら悪魔を殴り倒して強くなるだけだ。
強くならなければ、出来る事も出来ない。
強ければそれだけいいのだ。
だから破戒僧について行き、城の中へと進み、近代風に内装を施されている場内を進んで、その中の一室へと案内された。先に入った破戒僧が頭を軽く下げる姿が見えた。この男でも頭を下げる事があるんだな、と思いながら反射的に《アナライズ》を行い、そのレベルの高さに驚いた。
現在日本に存在している悪魔としては最大級、最上級のレベルを保有している存在だった。ただダンテのレベル100超えを見ると驚きはない。そもそも全盛期のダンテはその更に上のレベルを保有していた疑いさえある。今でさえリハビリ中なのだからまだまだ上がるだろうなぁ、とは既に諦めている。だから自分より高い悪魔が出現した所であぁ、またか……以上の感想が出てくるような事はなかった。
まぁ、というかクラリオンとかいう化け物を見ちゃった以上、100レベルでも超えてくれなきゃインパクトが薄い。
「大将、連れて来たぜ」
「おう」
ドスの効いた声で奥に居た姿が振り返って来た。それで見えるのは黒髪をオールバックに流した、サングラスを装着した黒いスーツの巨漢だった。上位者特有の凄まじいまでの気配を纏った男は威圧しているのだろう。此方へと視線を向けながら、値踏みしているのが見える為、
「おいおい、折角援軍に来たのにそれはないんじゃないか」
軽口を零す。それに魔王が唇を歪めた。
「アナライズした上でそれだけの軽口が零せるか。合格だな。ダン、お前は下がってろ」
「了解、っと。じゃあな坊主。暇なときに酒でも飲もうや」
破戒僧が退室し、山本はデスクの向こう側の椅子に座り、足を組んだ。軽く顎で勝手に座れ、とジェスチャーしつつ葉巻を取り出し、それを咥える準備を進めていた。遠慮する理由もないので、適当に来客用のソファに座った。
……なんというか、やや落ち着かない。
『ガイア日本トップの山本五郎左衛門、アクの強いガイアを日本で見事にまとめ上げてる魔王だな』
ミコトが知っている事を説明してくれる。そういえば元はクズノハ所属だ。そう考えると情報を持っているのだろう。だから素直に耳を傾ける事にした。
『なんつっても土着の魔王だ。ずっと昔から顕現しているタイプで平和を乱そうとはしないタイプだ。純粋に自分との同類とかを守る為に受け入れる土壌としてガイアに下った……って話だったか? まぁ、魔王ではあるけど悪い奴じゃねぇよ。面倒な奴だったらライドウが暗殺してるしな』
『生きている事が全ての答えだね!』
『面倒な連中は特攻兵器RAIDOUの出番じゃな!』
『いや、まぁ、確かにそうなんだが……なんか、釈然としない……』
言いたい事は解る。だがそいつらに言うだけ無駄である。だけど馬鹿な会話を聞いていれば自然と、肩から力が抜ける。体に力を入れているのも馬鹿々々しくなってくる、というのが本音だが。
『……まぁ、ガイアってのはメシアに排斥された連中を受け入れる為の土台でもあるからな。サンモトはそこら辺上手くやってるよ。妖怪大将って言われるだけはあるな』
ミコトの話を聞く限り、悪い人物ではないのは解る。ただし、それが俺の味方であるかどうかとは、また別の話だ。
「で、悪魔協会から依頼を請け負って援軍として来たんだが……?」
「あぁ……儂はここで戦えない連中の面倒を見る必要があるからな。動けん。とはいえ、部下の中で頼りになる連中もヘル一人だけならどうにかなるが……英霊を含めた連中相手だと少々厳しくてな」
ふぅ、と山本が煙を吐き出した。ゲストの前でありながら堂々としたその吸いっぷりには惚れ惚れとするものまであった。まぁ、あくまでも憧れだ。鳴海に借りた煙草を吸ってみたが、クッソ不味いので根本的に肌に合わないという事を理解してしまったから、自分が喫煙者になる様な未来はないだろう。なんというか、あの匂いが嫌いなのだ。そう言えばダンテも同じことを言っていた気がする。
「相手はヘルだけじゃない、と?」
ふぅ、とその言葉に山本が煙を吐き出した。そしてその煙が形を変え、絵を空中に描く。それによって表現されるのは狼と蛇の姿だった。
「冥界の女王ヘルの兄弟、フェンリルとミドガルズオルムも同時に出現している。ミドガルズオルムが今の四国を囲ってる」
「なんだって? 気配がなかったぞ」
「運が良かったな。おそらくは休眠状態だったんだろうな。だがおかげで儂がここから動けない。奴が体を動かすだけで四国が崩壊しかねないからな。それに英霊兵団とフェンリル。手が足りぬわ」
ふぅ、と再び山本が息を吐いた。少し部屋が煙たくなってきた。
「で、俺がヘルをぶっ飛ばせばいい、と」
「あぁ。ワシはミドガルズオルムの抑えに回る。今、四国の生きている人間は全員高松に集めたしな。他を防衛する必要もない」
「そんなに死んでるのか……」
「末世を迎えたのだ。それぐらいは死ぬだろう」
人がたくさん死ぬ案件だとは思っていたが、それでも四国は一都市を残して壊滅するなんて思いもしなかった。だけど成程、上位悪魔が動き出せばそういう規模で死者が出る、というのは良く理解した。そして同時に、ヘルに対する殺意も湧き上がってくる。こいつぁぶち殺さないと採算が取れないよなぁ、と。まぁ、元から殺す予定ではあったのだが。
「で、戦えるのか?」
「ここに来る前に八岐大蛇を始末してきたけど?」
「ふむ……それならヘルの相手も出来そうだな」
ふぅ、と山本が煙を吐いた。そろそろ煙が鬱陶しくなってきた頃合いだった。山本はしばらく、考える様に椅子に座りながら足を組み、無言を貫いていた。此方からかける言葉は今はない。クライアントは向こう側なのだから、言葉をしばし、待つ。煙の中、ある種の居心地の悪さを感じていた。だがその沈黙を山本は破った。
「……ヘルの出現までにはまだ時間がある。奴は儂を警戒して姿を現そうとはしないからな」
「殴り飛ばした?」
「一回だけな。残念ながら仕留めきれんかったがな。そこで奴を仕留めきれなかったのは儂の不手際よ。まぁ、嘆いていた所でしょうがない。奴は今は使い捨ての出来る戦力を地上に送り込むことで此方を疲弊させる事に動きを切り替えている。しばらくは姿を隠し続けるだろうな」
あの英霊兵団の事だろう。無理矢理目覚めさせられたかつての日本人たちの英霊。それをヘルは戦力として利用している。あんまり、許せるような内容ではない。英霊自身、物凄い苦しんでいるという話でもあったし。
「だが貴様が黄龍なんぞ連れて来たおかげで話が楽になる。黄龍の浄化の波動でこの四国を一度一掃する。それでヘルが張った冥界の衣を四国から剥がそうとすれば、それに対応できるのはフェンリルと奴自身のみよ」
「そこを狙って潰す、か」
その言葉に山本が頷いた。
「浄化の力そのものでは足りん。それに指向性を与える為の道具は明日までにこっちで用意する。持て成すから今夜は泊まっていけ」
鍵を使えばいつでもバーに行けるからぶっちゃけ、ここで泊まる必要はない。というか黄龍に乗ればどこへでも移動できるし。だけどそこには山本五郎左衛門としての筋があるのだろうと思う。故にその歓待を受け入れる事にした。
『それで正解だよサマナー。相応の格を持った人物が来た場合、それを持て成すのも支配者としての矜持だ。それを拒否するのは友好の否定につながるからね』
『まぁ、面子を潰す行為じゃからな。日本人は謙遜しやすい性格をしておるから、ここは注意するんじゃぞ』
色々と覚える事も増えてきたが、帝都に居る間にみっちりとベルから色々と悪魔や昔の時代の作法とかは教えて貰っている。その成果が漸く見えてきたという感じだろう。山本との話し合いは悪くなかった。山本もどうやら、ジャミングはしているもののMagの質から大体の力量を割り出せているようだし。お互い、損をする話でもない。
「ではまた明日会おう、悪魔協会のサマナー」
「あぁ、明日は四国に青空を取り戻そうとしようか」
この赤い月はあまり見ていて気持ちよくはないから。そう思いながら山本との話し合いは終わった。部屋をでれば破戒僧が待ち構えているのが見えた。片手を上げてよっす、と挨拶をしながら、
「で、どうだったよ。大将は」
「とりあえず契約成立。明日、合同でヘルを釣り出して始末する事になったよ」
「こりゃ頼もしいな。って事は大将の事だし今夜は宴になりそうだな。とりあえず嬢ちゃんの居る食堂へと案内してやるよ」
「正直大人しくうどん食ってるか心配だったから頼むわ……」
「はははは、まぁ、波乱の似合いそうな子だったしな……」
「やめて、ほんとやめて」
ただでさえ可愛くて強くて可愛い上に賢くて可愛いのだから狙われてもしょうがない理由しか存在しないのだから。物凄く心配になってしまう―――相手の事が。握り潰していないだろうか? 軽く振り払った勢いで人間ピンボールに発展してないだろうか? アンはああ見えてどこか抜けている所があるので非常に心配だ。
「はぁ……まぁ、俺もうどんでランチにすっか」
「なーぜか残ったのが香川だからな。うどんは美味いぜ。しっかり食べていけよ。何せ世界が崩壊してもクオリティが落ちる処か《終末香川うどん》とか《アポカリプスうどん》とか発明しているからな」
「もしかして高松市の人々正気やられてない?」
「まぁ……多少は」
瘴気、やや漂っているししょうがない部分もあるか。それでもまだ、全滅していないだけ凄いのだろう、と破戒僧の横を歩きながら考える。山本五郎左衛門は即座にこの状況を突破する為に必要な道具や、どう行動すればいいのかが分かった。
だけど俺にはそれが解らない。とりあえず原因をぶち殺すという知識しかない。それにしたって特別な手順が解らない。場合によっちゃ適当に地上を薙ぎ払って呼び出す必要すらあるかもしれなかった。そこに直ぐに答えを出せて、判断できるだけあの魔王は凄いと思えた。
「大将……どう思った?」
「凄い迫力のある組長っぽい人。……いや、まぁ、底の読めない人かな」
その言葉に破戒僧が笑った。
「はっはっはっは。大将はなぁ、元々は日本全域の社会に紛れて暮らす悪魔の面倒を見てたんだよ」
その言葉に首を傾げる。結構、初めて聞いた概念だった。
「可能なのか?」
「おう、意外とこれがあるんだわ。人型に擬態して、悪魔としての力を極限まで抑え込んで隠して。後は日常的に消費するMagの量を節約すれば、笑ったりしている人間が放つMagだけでも存在し続ける事が出来るんだよ」
そういう悪魔連中の面倒を見ていたのがあの魔王だという話だった。
「近代化すりゃあする程自然が減ってくからな。山の中に暮らしていた悪魔とかは自然と居場所を失って、技術の向上によってヤタガラスとかの監視網も厳しくなって、捕まる悪魔も増えた。そういう連中の為に立ち上がったのが大将よ。ガイア教団に幹部として所属して、日本を任せられたんだわ。んで海外からガイアの協力者を呼び込んでそういう悪魔や社会に馴染めねぇ俺の様な馬鹿を集めたって訳よ」
『たまげたのぉ、凄いまともじゃ』
『何時ものガイアはどこへ消えた……?』
割と失礼だぞお前ら。
だけど聞いていたガイアのイメージからは離れて行くのは確かだ。もっとヒャッハーしている様な連中ばかりだと思っていた。だけどここで聞いている分は、かなり真面目というか……弱者の保護と団結を目的とした集団に思える。
「まぁ、日本だけが特殊だと思った方がいいぜ?」
「そうなのか?」
「現代日本は宗教という概念に関しては恐らく一番寛容で広い視野を持っている国だからな。元々異なる思想を受け入れて調和する性質を持っている―――つまり潜在的にNeutralの性質を持ってるんだよ、この国は」
城の外へと出た。相変わらず空は赤い。この空もヘルを始末すれば元の青空に戻るだろう。本当に、しょうもない世界だと思う。
こんな空を見る為に世界を再生した訳じゃないのにな……。
「……お前が海外に出る時は気を付けろよ」
「……?」
破戒僧が足を止め、此方へと振り返りながら言った。
「日本のガイアとメシアは世界全体で見ればかなりマシな方だ。トップがまともなのとヤタガラスとクズノハの質が高いってのがあるからな。どう足掻いても日本という国の内部で戦争すりゃあ最終的にヤタガラスとクズノハが勝っちまうから、ガイアもメシアも過激な連中を送り込めねぇ。だからまともなのが比較的に多い。全部まともって訳じゃねぇからな」
『まぁ、先代の仕事だったな。第二次世界大戦に乗じて欧州からメシアン、アジアからガイアーズを大量に乗り込んできたのをライドウと俺で片っ端から皆殺しにしてやったぜ。問題を起こそうって考えさえなければ死なずに済んだんだろうけどなぁ』
そこで容赦なく殺すって選択肢を取れる辺り、自分が知っている14代目帝都ライドウよりも非情なライドウだったのかもしれない。自分の知っているライドウはアレなんだかんだで甘さを残している男だった。少なくとも最後はそう見えた。そしてそれがあの男の魅力だと思う。まぁ、それはともあれ、
「……海外、そんな酷いのか?」
「アジアのガイア勢力圏は無法地帯。アメリカや欧州を始めとしたメシア勢力は表向きはなんでもねぇが、政治の裏にはメシアが関わってねぇところがない程だぞ」
「うわぁ」
こんなん世界再生止めたくなりますわ。いや、止めないのだが。というか止められない。それでも世界再生を進めれば、メシアとガイアのやべーところが復活するのだと思うとげんなりする。
「ま、心配すんな。大将もメシアん所の代表……あぁ、日本のな? は少なくともお前の事情を知ってるからな。過度に干渉するような事はしねぇよ」
「そりゃあ良かった」
「ちょっとした勧誘合戦はありそうだけどな」
その言葉に再び歩き出しながら呆れの溜息を吐き出せば、がっはっはっは、と笑う声が聞こえた。まぁ、そりゃあ、世界を唯一修復できる存在なのだから当然どの組織だって欲しいなぁ、とは思う。まぁ、最終的には強くなれば全部解決する。勧誘しようと思わなくなるほど強くなればそれで問題解決だ。強ければ強引に引き入れる事も出来ない筈……だ。
まぁ、まだ先は長い。考えてもしょうがない。
『そうそう、未来が見れる訳でもないんだから、サマナーは困った時に考えればいいさ』
『手遅れにならなきゃいいけどな』
まぁ、そんなガイアの内情の話をされながら、食堂へ、うどんの主戦場へと向かった。平和にやっていて欲しいなぁ、と思いながら食堂へと案内され、そしてそこでうどん、おそらくは4杯目のアンとベルの姿を目撃した。
そして近くの壁にケツ丸出しで突き刺さって若干焦げている人間たちの姿を見た。それを目撃しただけで大体何があったのかを察した。だからとりあえず、それを全部無視して、アンに近づき、
「美味しい?」
「うん!」
気持ちの良い元気な返事を貰った事で全部良しとした。
これでまた戦える……!
『コスパの良いサマナーじゃなぁ』
『俺はこいつが美人局に遭わねぇか心配だよ』
勝手な事を言う仲魔を無視して、自分もうどんランチタイムに突入する事にした。
地味に長くなって来たなぁ……。
恐らくは唯一の物凄くまともなガイア。日本は葛野がとヤタガラスという組織が監視を行っているのでまだ比較的まとも。だけど海外から来た連中の影響で少しアレな部分もある。まぁ、そこはしょうがない。
アレさの原因は大体海外勢。日本人単体ではそこまでヒャッハーできないのだ……。