※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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神州混沌行脚 ⅩⅣ

 スマッシュガイアーズが結構楽しいレクリエーションとなったもので、気付けば時間は過ぎ去って宴の頃となっていた。暴れて遊んでいる間に宴の準備は進められ、そして遊んでいる内になんとなくだが、ガイア連中との親近感というか、友情みたいなのを構築しつつある。

 

 ガイアというのは元はメシアに排斥された連中ばかりなので、社会的不適合者が多いが、そればかりではなく、なんとなく居づらかったり、事件に巻き込まれて社会に居られなくなったとか、そういう連中の受け皿でもある。最初は懐疑的だが実力を示してオープンになれば、結構簡単に仲良くなれる連中で、投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたりでかなり派手に遊ぶことになった。

 

 だがそれも終われば、高松城の宴会場に通された。そこに居るのは自分とアンだけではなく、明日の作戦に参戦する多くのガイアーズもそうだった。奥の舞台の上には山本五郎左衛門の姿が見えた。その姿を確認した途端、全てのガイアーズが無言を作り、黙る。集まった連中が飯の間で無言のまま、背筋を伸ばして魔王を見ていた。

 

 流石の統率っぷりだった。そうやって全員が集まった所で、漸く魔王が口を開いた。

 

「テメェら、笑えているか?」

 

 魔王が問うてくる。それに無言で言葉を誰もが受け止める。

 

「馬鹿な事に聞こえるかもしれねぇ。だが笑えない人生に生きている価値はねぇ。だから飲め、食え、そして女も用意したから抱け。そして笑え」

 

 魔王が笑みを浮かべ、もう一度言葉を口にする。

 

「笑え! 明日、ワシもテメェらも死ぬかもしれねぇ。だから笑え! 死ぬ、最後の瞬間まで! 今更テメェらに改めて告げる言葉もあるかよ。騒げ、全てを忘れて笑って、そして明日も笑って逝け! そしてあの小娘に本当の地獄ってもんを見せてみろ!」

 

 言葉にガイアーズの咆哮が高松城に響き、それを合図に宴が始まった。うどん―――だけではなく酒、肉、魚、野菜、大量の新鮮な料理が並べられていた。正直、備蓄とかが気になってくる量ではあった。だがそれを気にして食べないのは礼に欠ける。こうやって招かれた以上はしっかりと食べるのが礼儀であり、

 

 既にそんな事を知るか、というレベルでアンが食べ始めているので俺が考えるだけ無駄だった。自分も料理に手を出し―――そしてその美味しさに軽く痺れる。最近、美味しい料理ばかり食べているから舌がだいぶ肥えてきたなぁ、と思ってしまう。なんだかんだでチェフェイも料理上手なんだよなぁ。

 

「どうぞ、お酒をお注ぎしますね」

 

「あー、別にいいんだけど……」

 

「いえいえ、好きでやっている事ですので、どうぞ」

 

 こうやって歓待される事は初めての経験なので、中々に気分が良い。美人さんにお酒を注いでもらうというのも初めての経験だ。まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。少し前までは学生だったんだよなぁ、と懐かしみながら酒に口を付ける。超人になってしまった影響で、全く酔えない。酔おうと思えばまだ酔えるのだが、明日ヘルとの戦いがある事を考えると簡単に酔う事は出来なかった。

 

 と、そんな風に料理を食べていると、見慣れた破戒僧の姿が酒瓶を片手にやってきた。

 

「よう、坊主―――いや、リュージか。もうおまえを坊主っては呼べねぇな」

 

「別に坊主でもいいよ。若いのは事実だし」

 

「それを素直に認められるってのがもう坊主って呼べねぇ所さ。嬢ちゃんも楽しんでるか?」

 

「ん」

 

 口に肉の固まりをほお張らせつつ、アンがサムズアップを向けた。大いに楽しんでいるらしい。今度、暇なときには《あぽかりぷす》にでも連れて行くべきだろうか。あそこも終末系創作料理が結構美味しかった。マザーハーロット風スパゲティとか、赤騎士のトマトスープとか、黒騎士のイカ墨ペンネとか。割と好きだった。

 

「で、おっさんは何しに来たんだよ?」

 

「いや、飯食うだけじゃ暇だろう? 話相手にでもなってやろうかと思ってな」

 

「あ、旦那ずるいっすよ! 俺もサマナーの兄貴と話したいっすわ!」

 

「俺も俺も! どうやったらそんなに強くなったか話してくれよぉー!」

 

 破戒僧が話しかけてくるのを待っていたのか、周囲のガイアーズも食べながらも此方へと意識を向け、話しかけて来る。ここらへん、あんまり悪魔協会の馬鹿連中と主義主張以外は変わらねぇなぁ、と思える。いや、実際はそうなのだろう。主義主張が違うだけで、それでも楽しく生きていこうとしている連中なのは、トップの言葉を聞けば解る。

 

「笑え、か」

 

 魔王・山本五郎左衛門の言葉を思い出す。印象的な言葉だった。

 

「俺らのボスはなぁ、見た目はすっげぇ怖いけど、俺達の事を良く考えてくれるし、何時も助けてくれるんだぜ」

 

「そうそう。つまらない人生に意味はない。だから人生を笑えるほど楽しくしてやるからついてこい、ってな」

 

 その言葉を補足する様に破戒僧が苦笑しつつ瓶から直接酒を飲みながら教えてくれる。

 

「大将が時々自分の足でスカウトしてんだよ」

 

「マジか」

 

「あぁ。大将は割とフットワーク軽い方なんだよ。まぁ、あの人は強いから誰も心配しちゃあいねぇけどな。だけどあの人が誘ってくれたおかげで今楽しくやれてるって奴は多いぜ。大将も昔から化かし合いとかでわいわいやってるのが好きだからな。戦ったりする事よりもたくさん集めて宴会している方が性に合ってるんだわ」

 

 成程なぁ、と呟きながら酒が空になった、と思ったら注がれた。どうも、と巫女さんに軽く感謝すると、ついでに皿の上に色々と料理を乗せてくれていた。これは次に何を取るかとか心配せずに食べられそうだ。

 

「山本の事を気に入ってるんだな」

 

「少なくとも日本ガイアーズで嫌ってるようなやつはいないと思うぞ。あの人は個人の力よりも率いる事とその管理に特化してる魔王だからな。日本ガイアはメシアと比べると結構勢力圏が広いんだぜ? 東北の方はメシア勢力圏でもウチの連中とかいるしな。まぁ、メシア自体があまり日本じゃ勢力持てないってのもあるけどな。救済思想はこの国じゃウケが悪いんだわ」

 

「俺ら、将来の救済よりも今の充実感が欲しいっすわ」

 

「金! 飯! セックス!」

 

「だけどレイプはダメ、絶対」

 

『世紀末じゃない!! こんなの詐欺じゃない!』

 

『褒めろよそこは』

 

 しかし海外と比べ、日本のガイアはモラリティが非常に高い。それは話に聞いているガイアのイメージとは全く違うから驚く事でもあった。

 

「ん? あぁ、大将が基本的にそこはきっちりしてるからな。安易に犯罪に手を出さない様に見張らせてるし、女が欲しければある程度はガイア内でも都合出来る様になってるから。後は、まぁ力ってもんの考え方を教えられるからな」

 

「力の考え方?」

 

 オウム返しの様に言葉を繰り返せば、破戒僧が頷いた。おう、そうだ、と。

 

「力ってのはあれば振るいたくなるもんだ。ありゃあそれだけで意味がある。力に溺れる奴が出てくるのは当然だ。そして俺達ガイアーズは力の信奉者だ。だけど、だからこそ力の在処ってもんを良く理解しなきゃならねぇ。力に任せて刹那的な快楽を求める事を否定はしねぇ。だけどそれは結局のところ力で力をねじ伏せる行いだ」

 

 その言葉にガイアーズがサムズアップを向けた。

 

「囲みます」

 

「メタ装備用意します」

 

「油断している瞬間を狙います」

 

「そして囲んで殺す」

 

「ま、そういう訳だ。力で力を制した所で、より大きな力でぶっ潰されるだけだ。或いは数で、とかな。それが普通だ。だから強くなっただけで自惚れんな、って話を教えられたりするんだよなぁ」

 

 部下の教育が本当に良く行き届いているガイア教団連中だった。だけどそうか、と納得する。これ、根本にNeutral思想が混ざっているのだ。根本に調停と調和が混ざっているのだこのガイアは。だからこそ恐ろしく真っ当な部分があるのだ。たぶん、原因……というかここの担当が魔王山本であるから、なのだろう。

 

『日本の魔王は西洋とかの魔王とは違って人を殺す為に出現する生物ではないからね』

 

『寧ろ生活に紛れ込んでいたり生活していたりするパターンが多いのぉ』

 

『そして通りすがりの俺らに殺される』

 

『やっぱ日本人怖いわ』

 

 折角だしストレージに叩き込んでおいた酒、幾つか解禁していいよ、とDDS内の仲魔へと送れば、崇める声が聞こえて来る。お前らの信仰心安いなぁ……と呆れつつ、酒をもうちょっと飲み進め、思った。

 

 ガイアがこんなもんなら、メシアはどうなのだろうか……?

 

『我はもう鳩だから関係ないな!』

 

『事前に切り捨てに来やがったぞこの鳩』

 

「ま、お前も存分に楽しめ。相手は強敵だしな。楽しめる時に楽しめなきゃあ生きてる意味もねぇ人生だ。お前も最後は笑って逝けるように、今を楽しめ」

 

 そう言って背中をぽんぽん、と叩かれた。ここの魔王はどうやら、大変部下に慕われているらしい。言う事も大体は理解できるし、恐ろしく真っ当だ―――それがこれからも、世界が再生してからも続く事を祈る事しか自分には出来ない。

 

 料理を食べながら思う。

 

 世の中、そこまで捨てたもんじゃないのかもしれない、と。

 

 

♦

 

 

 宴が終わると大抵のガイアーズが床に倒れている。当然ながら酒も出ていたのだのだから、それに酔いつぶれている連中が出ていたのだ。アンも食事に満足した様でお腹いっぱいになるまで食べたので、その介護にベルを出して夜風に当たる為に宴会場の外へと出た。酔い潰れなかったガイアーズはどうやら用意された女を犯しに行ったようだ。まだ童貞の自分にはハードルが高い。

 

 だから改装された高松城の蔭へと、誰もいない場所へと移動し、ストレージから鳴海の煙草を取り出して口に咥えた。

 

『おや、サマナーが煙草を吸うとは珍しい。気に入ったのかい?』

 

『ふ……そういう訳ではない』

 

『何故コウリュウが自慢げなんじゃ』

 

 それが男の世界ってもんさ。口に出す事もなく誰もいない、気配もしない闇の中に体を沈め、一人ぼっちの空間で煙草に火をつける。その煙をたっぷりと吸い込みながら息を吐き出し、赤い夜空に紫煙を解放する。

 

「あー……不味い……」

 

 不味い。信じられない程不味い。やっぱり煙草は嫌いだわ、と吸いながら思う。

 

『だったらしなければいいんじゃないかのぉ……』

 

『ふ、男には時には浸りたくなる時があるのだ狐』

 

『だからなんでコウリュウが自慢げなんじゃ』

 

 煙草は不味い。たぶんその自分の意見はずっと変わらないだろうと思う。だけどこの不味さが丁度良かった。適度にストレスを感じる。体が少しだけ、重く感じられる。ただの煙草だ。普通の煙草だ。だけどこれが嫌いだった。この味が、苦さが嫌いだった。喉に絡みつくような不快感が気に入らない。

 

 だからこそ丁度良かったんだと思う。レベルが上がって、強くなって、超人になって、それでいて帝都を救ってしまった。多くの人間を助けてしまった。違う、そうじゃない。俺はそういう男の器ではないのだ。調子に乗りたくはない。俺はもっと小さくて、そして自分の周りの幸せだけを守れればそれでいいのだ。そりゃあ、まぁ、困った人を見かけたら助けることぐらいはするだろう。

 

 だけど世界を救おうなんて考えちゃいない。結果として助けているだけだ。だから感謝され、歓待され、それで浮ついた心を落とすには―――この、苦さが一番だ。この崩壊世界には一つも存在しない、帝都産の煙草。今あるパケットの中身が無くなれば、それで使い終わってしまう煙草を一本一本大事に吸っていかないと駄目だ。だから煙草を通して、不快感を自分の体に取り入れる。

 

 そして、自分という人間を自戒する。

 

 忘れるな、と。そりゃあ多少は浮かれてもいいし、楽しんでもいい。だけど調子に乗るな。それだけの話だった。自分の気持ちや感情が自分からコントロールの外れそうになったら、煙草を吸う。そうするとこの嫌悪感が体を満たして、自然と落ち着かせてくれる。内側から体を蝕もうとするニコチンの感覚が気持ち悪く、そして落ち着いた。

 

「ふぅー……慣れたくない味だなぁ」

 

 まぁ、おそらくは一生慣れない味だ。

 

「……アンを拾ってこなきゃな」

 

 煙草が半分灰になった所で、宴会場で放置している彼女を拾わなくては。そう思い、残された吸い殻を吐き捨てて踏み潰す。人を殺して、悪魔を殺して、酒を飲んで、煙草を吸って、それで金を貰えるようになった。生活出来る様になった。昔とは大違いになったもんだ。そう思いながら歩き出そうとしたところで、

 

「あぁ、リュージ様。やっと見つけました」

 

「ん? あぁ、巫女さん」

 

 山本に命じられて世話をしてくれている巫女だった。どうやらいなくなった所を探しに来てくれたらしい。

 

「探させちゃったかな」

 

「いえ、食後の一服が必要なのも解りますので」

 

「俺はいや、うーん……」

 

「……?」

 

 まぁ、ストレスを感じる為に煙草を吸っている、と言っても理解されないだろう。あの教室で覚えた煙草の苦さを忘れない為に吸っているなんて事、それを知るのは黄龍と鳩だけで十分だ。他の連中は知らなくていい、男と鳥類だけの秘密だ。ところであの鳩、なんだかんだで無性なのが驚きなんだよなぁ……。

 

「まぁ、宵の良い頃になってきました」

 

「あぁ」

 

 明日はヘル戦だ。黄龍を酷使する予定だし、相手がフェンリル・ミドガルズオルム、ヘルで集結して戦う場合、此方もフルメンバーで戦う必要がある。その場合、ミドガルズオルムには黄龍とチェフェイをぶつける必要があるし、フェンリルに対処できそうなのはラーマとミコト、となるとベル自分アンスダマと鳩でヘルに対応する必要がある。一番頼りになるアタッカーを他の所へと流す必要があるのだ、

 

 厳しい戦いになるだろう。早めに寝た方がいいだろう。そんじゃ泊まる場所に案内して貰うか、と思っていると、

 

 巫女服の上半身をはだけさせた。下着をつけていない巫女服の下に隠されていた乳房が露わになる。そのいきなりな行動に、外面は平静を装いつつ、内心では滅茶苦茶焦っていた。

 

 ……あー! なるほどー! なるほどなー! そういうのなー! そういう意味で世話してくれてたのなー! なるほどなー! お兄さんそういうの良くないと思うなぁ……!

 

『見えるかいミコっちゃん! アレがクソ雑魚ヘタレ童貞サマナーだよ!』

 

『成程、これは見てる分には面白れぇわ。だけどミコっちゃんは止めろ』

 

『ヘタレゲージ伸びてるぞー』

 

 そのゲージ初耳なんですけど。そう思いながら平静を取り繕い、あー、と近づいてくる巫女の姿を片手で制す。

 

「言われて来たんなら別に求めているって訳じゃないし、必要ないから」

 

 見ている分には目の保養にもなるが。だけど直接の相手となると、見知らぬ相手とは少々童貞としてはハードルが高いと思います。せめて、最初ぐらいは好きな子と経験したいという想いがある。だから物凄く勿体ないし、興味はあるのだが、遠慮しておく。だがそれをものともせずに巫女の方は近寄って来た。制するために出した片手を回避しつつ、するりと内側に入り込んできた。やべぇ、後ろ壁だ。

 

「それなら心配ありません。ガイアの巫女として、強い雄と交わるのはそれだけで栄誉ですので」

 

「そ、そうなのか。だけどほら、こんな時間におっぱじめて明日の朝に響いたら問題だしな?」

 

「性魔術を嗜んでいるので、起きる頃には寝る前よりも気分が良くなるぐらいですよ」

 

「おっふ」

 

『さぁ、盛り上がってまいりました! サマナー! 必死に抵抗! 日本人的お断りの仕方! だが通じない! なんて悲劇!』

 

『行け! そこじゃ! 食らいついて押し倒せ! 押し倒すんじゃ!』

 

『あ、主殿? ここはストレートに断った方が良いのでは?』

 

『黙ってろよコウリュウ。ここからが面白い所だぜ?』

 

『セーブ……セーブ……CG回収……』

 

『すまんが誰かドルミナーをかけてくれないか? 揺り篭の方が目覚めそうだ』

 

『あー、はいはい。任せるのじゃ。ほうれ、新鮮なドルミナーじゃぞー』

 

 こっちはこっちで激しく困るが、COMP内部もCOMP内部で地味に酷い事になってない? それはそれとしてお前ら、後で見てろよと心の中で叫んでおく。それにしても体が近い。胸に手が行きそう。チェフェイの体とはまた別種の淫靡さを感じさせるものがある。やばい、流されたくない。どうしよう。

 

 と、

 

「―――だめ」

 

 と、巫女が絡みつく前に横から体を引っ張られ、抜け出した。おわ? と間抜けな言葉を零しつつ引っ張られれば、知っている感触。良く知っている体の温かみに触れているのが解った。少し前までは満腹で完全にダウンしていた癖に、少しだけ頬を膨らませつつ、

 

「だめ。私……の、リュージ」

 

「あ、いや、アン?」

 

 と、相手の返答を許す前に此方を掴んだまま、跳躍した。そのまま高松城を飛び出し、周辺の雑木林の中へと飛び込んだ。巫女さん、此方が飛び出す寸前、薄く笑っていたような気がする。

 

 だがその事を深く考える暇もなく、雑木林に連れ込まれると、両手でアンに抱きしめられてしまった。その様子をどう表現したらいいのだろうか。いや、なんというか、これって自惚れていなければ、その、

 

「……嫉妬、してる?」

 

「……わか、らな……い」

 

 そう言うとアンは抱きしめたまま、体を此方に密着させ、呟く。

 

「チェフェイ……とか、皆……なら、いい。け……ど。知らない……女の、人、と……いると……胸が……苦しい」

 

 たぶん、とアンは言う。

 

「嫉妬」

 

「……」

 

 どうすりゃあいいんだろうか? だけどこういう時に限って仲魔連中は何も言わない。つまり自分で考えろ、という事なのだろう。まぁ、俺もちょっと可愛い巫女さんを相手にちょっといい気になっていた部分もあるだろう。そこは素直に悪いと思う。だから考えて、

 

「アン」

 

「ん」

 

 名前を呼んだ。その呼びかけにアンが顔を上げた。身長は俺の方が高い。こうやって密着していると彼女の体の小ささが解る。自分よりも小柄で、背の低い子なのだ。たとえ、彼女が自分よりもレベルが低く、そして既に俺よりも高いステータスを保有していたとしても―――それでも、彼女は、俺よりも小さい女の子だった。可愛らしい、そして嫉妬もする女の子だった。

 

 だから此方を見上げたアンに、見下ろす様に視線を合わせながら、唇を重ねた。

 

「ん……」

 

 短い、唇を重ねるだけのキス。それを数秒ほど続けてから此方からも抱きしめ返しつつ唇を放した。

 

「ごめんな、俺に根性がなくて」

 

「待ってる、って、答えたのは……私」

 

「うん、だけど―――嫉妬させた原因は俺にもあるからさ」

 

 だから、他に出来る事が解らないので、抱きしめて、好きだって伝える事しか俺には思いつかなかった。そう、明確に愛していると断言できる子はこの世で一人だけ。アン、ただ一人。

 

「君の事が、好きなんだ」

 

「ん……嬉、しい」

 

 そう言ってもう一度、唇を重ねた。今度はもうちょっとだけ、強くお互いを抱きしめながら。

 

「私も……リュージ、の、事……好き、だよ」

 

 そう言うアンの耳が、少し赤くなっていた。本当に、本当に彼女の事が好きだ。誰にも渡したくないぐらい。あらゆる障害から守ってあげたいぐらいに。俺達にロ(・)ク(・)な(・)結(・)末(・)が(・)待(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)事(・)な(・)ん(・)て(・)良(・)く(・)解(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。世界が滅んじまった。他の世界を巻き込んでまで世界を再生しているんだ。きっと、許される様な事じゃない。そんな事、大量の悪魔が協力している時点で解る。

 

 魔王も神も悪魔も破綻者も異端者も超越者も。

 

 全員が協力し合う事で漸く成し遂げられる何かが待っている。

 

 たぶん、というか確実に俺ではどうしようもない何かが。そして既にみんなが一度は敗北している存在がいる。それがきっと、この世界を滅ぼしたのだ。魔界と共に。そして今では地球が再生されている―――たぶん、魔界と共に。

 

 そんな中で、馬鹿みたいな青春を送っている自覚がある。普通じゃないけど好きになってしまった、それを確かめ合いながら少しずつステップを踏んで行く。こんな状況なのだ、もっと早く前に進めと言われるかもしれない。

 

 だけどこの、もどかしい時間が、どうしようもなく愛しいのだ。

 

 どうしようもなく大事に思えるのだ。

 

 きっと、後でまた振り返ってこの時間を笑い合えるように……そんな時間を過ごしてるのを、許して欲しい。この何もかも足りない世界で普通ではないけど青春を少しだけ……せめて、普通の男女みたいに過ごす事を次の扉が見つかるぐらいまでは許してほしい。それぐらいに彼女が好きで、大切にしたいのだ。

 

 だから今は精一杯抱きしめて、唇を交わす。それだけで胸の中は暖かった。それだけで、明日も明後日もその後も戦えるぐらいには胸が暖かった。心の内界に新たなカードが生まれるのを感じ取りながら、

 

 赤い夜空の下、抱きしめ合って唇を重ねるだけの短い逢瀬を楽しんだ。




 (無言で倒れるてんぞー

 とはいえ真っ当に恋愛していられる時間にも限りがある。端的に言ってしまえば次の発見扉までにレベリングで目標レベルが到達できなければ、レベル合わせの為にMag供給が必要になってくるので必然と体を重ねる必要が出て来る。

 だけどそれまでは、それまではふつーの人間みたいなもどかしくもくすぐったい時間を……。

 次回、死国冥界戦。
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