翌朝。
赤い空の朝が来た。代り映えのしない朝。しかし空気に漂う殺気と緊張感は今までとは別物だった。既に作戦に参加する為のガイアーズが防衛のために高松市に散らばり、警戒を開始している。鍛え上げられた肉体に備わった力、それが今四国最後の都市を防衛する為に散らばった。そして高松城で黄龍を召喚した、その下で山本を迎えた。
此方へと向かって投げて来たもの、それを受け取る。受け取ったのは何らかの宝玉だった。それを掲げて、赤い空に透ける姿を見た。
「こいつは?」
「龍玉だ。コウリュウの力を増幅するものだと思えば良い」
「あいよ」
まぁ、それ以上の説明も必要がないだろう。と、そこで山本は去らずに、此方を見た。
「……ガイアに来るつもりはねぇか?」
「誘いに乗るとは欠片も思ってないだろ」
「馬鹿が。それでも聞かなきゃ可能性はないだろう?」
成程、確かにそりゃあそうだ。ありえない。そう思っていても実はそうじゃないかもしれない。その可能性を魔王は知っている。そして確かめる事に躊躇を覚えない。その姿が自分には格好良く見えた。成程、確かにこれはついて行きたくなる。だけどダメだ。
俺には俺のやる事がある。ガイアでもメシアでも駄目だ。俺が俺として、俺らしくある為の道を進むのだ。無論、それはカオスでもロウでもなく―――それでいてニュートラルでもない。そんな枠組に囚われているのが馬鹿々々しい。
俺は俺の道を往く。
「じゃ、吉報を待ってな」
「ふん、終わらせてさっさと次の場所へ行け」
その言葉に笑わせてもらいながら黄龍の背へと飛び乗った。その上には既にアンが乗って待っていた。視線を合わせ、頷きを貰った所で黄龍の頭の上へと移動し、龍玉を片手に、黄龍へと語り掛ける。
「やる事は解っているな?」
「任せよ。クラリオンでもなければ我は止められぬ……!」
心強い言葉を受けながら黄龍が飛翔し始める。龍玉と感応する様に黄金の風を生み出し、それが四国の大地に流れ始める。そうやって流れ始める風はあらゆる不浄と穢れを浄化し、この大地に染みついた死の概念を浄化していく。黄龍の浄化の力が高松市から離れる様に飛翔していく中、拡散していく。
死とは究極の穢れである。誰かがそういう思想を生み出した。死とは汚く、淀みであり、静かであり、そして不浄でもある。抱えきれない不浄の先に死がある。故に死とは穢れそのものでもある。そして黄龍には浄化の力がある。それを龍玉で強化し、四国の大地に拡散させていく。元々国を一つ滅ぼす事が容易なレベルの悪魔なのだ、それが強化されたのであれば、その出力は凄まじいものを持つ。あらゆる穢れが黄金の風に乗って浄化され、ヘルがこの四国の大地に呼び出し、そして張り付けたニヴルヘイム、或いはヘルヘイム。それを浄化の黄金風が引っ掻き回し、引き剥がす様に亀裂を差し込んでいく。
そして空の一角が崩れた。
赤い空の一角が破損し、その向こう側に隠れていた青空が見えた。
瞬間、大地が裂けた。
大地を粉砕しながら泳ぐようにすさまじい巨体が四国を割って音速を超えて迫ってくる。その巨大さはそれこそ幅だけで都市一つに匹敵するだけの巨大さがある。即ち、見える範囲が全てその巨体だけで覆われているとも表現できる。ヘルが対応しに来るのは解っていたが、初手からミドガルズオルムをぶつけて来るとは思わなかった。
「予定通りやるぞコウリュウ」
「任せよ」
目元がきらり、と光ったような気がする。黄龍から飛び降りつつ、DDSへとアクセスし、そこから追加でもう一体、仲魔を召喚する。
「チェフェイ!」
召喚と同時に、地響きと共に巨体が出現した。ぼろぼろの毛皮、八つの尾、そして骨の体。内臓を全て引き抜かれた巨大な躯の八尾。美しさを欠片も感じさせない醜い躯の体を晒したチェフェイが巨大な狐の姿となって顕現した。
「妾は余りこの姿が好きではないが―――他ならぬサマナーの頼みだ、晒すとしよう!」
黄龍とチェフェイの巨大な姿がミドガルズオルムへと衝突し、それが四国を割りながら突撃してきたミドガルズオルムを逆に吹き飛ばした。チラッと盗み見たレベルはチェフェイと黄龍の方が上回っている。ミドガルズオルムの逸話的には特攻になる様な要素はない。チェフェイと黄龍のコンビで十分抑え込めるだろう。世界蛇の相手はあちらに任せるとして、そのまま黄龍から飛び降りた勢いで着地しつつ、
DDSから鳩を召喚し、他の仲魔を即時召喚待機状態とする。
「我、降臨……!」
「ヘッルちゃぁ―――ん!!ぼろぼろなこの世界に超神聖存在ぶつけたらどうなるかなぁ―――!」
「そして我ストライク……!」
鳩をトスしたのをアンがサマーソルトを放つように蹴り上げた。加速した鳩の姿が一瞬で音速を超えながら空へと消えようとして―――豪雪と共に飛び出した巨狼によって阻まれた。空へと打ち上げられた鳩がダンクスマッシュで大地へと叩きつけられるも、激しくバウンドしつつ無傷で戻ってくる。
「ラーマ、ミコト、魔物狩りは得意だろう?」
「では片付けてしまおうか!」
「やーっと天叢雲剣を存分に振り回せるな」
着地した魔狼、フェンリルを狙い討つように《ブラフマーストラ》と《天叢雲剣》が放たれた。絶対燃焼の太陽弓から放たれた究極の貫通攻撃、そして水害と災厄の龍神の尾から転生した神剣の水による絶対斬撃。二種類の貫通、切断能力が相殺する事無く、戦士として最上位の技量によって調和された。
放たれた空間が水蒸気爆発によって連続爆破されながら消滅していく。
「ベル」
「四国がどんどん削れてるわね、これ。全く手加減を知らない連中ばかりだわ」
そこは超高レベル悪魔による戦いだから必要経費とするしかない。まぁ、このクラスの悪魔となれば日本というレベルの島国程度であれば、割とあっさりと沈める事も出来るだろう。悪魔が戦う上でそういう事をしないのは人間がMagの最大供給源になっているから、そして悪魔も陸地を必要とするからだ。故に四国は沈まないと思うなぁ―――沈まなければいいなぁ、と思いながら、
「で、お前が出てこないなら兄弟ぶち殺してこの冥界を二度と展開できない様に潰すぜ」
虚空へと向けて挑発すれば、空間が歪み、赤い夜の赤みが増した。赤い川が四国の大地を流れ始め、そして死者の声が木霊する。その中で空間を超えて出現する気配が感じられる。
「―――忌々しい、本当に忌々しいニンゲンどもめ……!」
その言葉と共に女は顕現した。無数の躯を引き連れ、それによって塗装された道の上を歩く、まだどことなく若さを感じさせる女の姿。氷の様に凍り付いた髪色をした冥界の女主人、ヘル。少なくとも姿は人間に蒼海の色のドレスを着せたような姿をしている。だがこいつは北欧神話における
とはいえ、
……事前情報と合致はする。ただし耐性面はかなりガチガチだ。DDSを調べて確認したヘルの耐性は雷と炎が弱点だと表記されていたが、このヘルに弱点はなかった。弱点を突けない相手になる癖に、氷結、破魔、呪殺、精神、神経に無効化を保有している。流れからしてデバフ耐性持ち、という事だろうこれは。
「邪魔をするなニンゲン」
「邪魔をする? とんでもない」
ルーチェ&オンブラを引き抜いて、その片方を真っ直ぐヘルへと向ける。その銃口に捉えた瞬間、超直感的に絶対に弾丸を外さないというのを確信できた。何をどう避けようとしても絶対に命中する。銃とはそういうものだ。少なくとも自分にとっては。狙い、引き金を引く時点で
「10秒くれてやるぜ、ヘル。ゴミ箱か、カンオケか、選びな」
「10秒も必要はない! 死ぬのは貴様だ!」
返答の間に引き金を引いた。音速を超過する弾丸がヘルに衝突しそうになり―――その前に、ヘルを守護する躯に衝突し、相殺された。今のは当たるコースだったんだけどなぁ、と思いながら横へとアンと別れる様に飛ぶ。
「貴様は良い躯になりそうだな……!」
「悪いな、躯になる予定は当分ないんだ―――ベル!」
「はいはい、解ってるわよっ!」
躯の波がヘルより放たれた。それに合わせ《死蝿の葬列》が放たれる。地の底から沸き上がった死蝿が躯と衝突し、躯を啄ばみながら死すら死滅させていく。だがその躯の背後を抜けて飛び込んでくる影が複数見える。合計5体、
強いッ……!
耐性は物理耐性が多め、これで時間を稼ぎつつ裏からヘルが大魔法でカタを付けるという形か。横へと飛び退きつつ、アンも攻撃態勢に入る姿を見て、彼女の心配をしている場合じゃないな、と自分に言い聞かせる。
なにより、この中で一番能力が低いのは俺なのだから。
「まぁ、だからと言って負けないけどな」
こっちに飛び込んでくるのは3人。人間だから、サマナーだから集中的に狙われているという形だろう。当然の対応だと考えながら《トゥーサムタイム》で広域射撃しつつ、
そのまま―――相手へと突っ込む。射撃は英霊の体に到達し、しかし物理耐性に阻まれる。英霊が迫ってくるのが見える。一発でも喰らえばずんばらりと行きそうだなぁ、と手に持つ刀を見ながら考え、
「《The Tower》」
《塔》のタロットから射撃絶対貫通を引き出した。英霊が接近する瞬間、その動きを見切る。ラーマから学んだ体術を基礎に、銃を効率的に運用する様に、ルーチェ&オンブラの銃身で攻撃を受け流しながらそのままカウンターでヘッドショットを決める。そして射撃しながら相手を足場にし、頭上を取って逆立ちする様に弾丸を浴びせる。
そして着地。英霊を始末する。
「死ね! そして我が戦列に加われ!」
数百メートルを超える躯の壁がヘルと此方を遮った。そしてそれが津波として落ちてくる。雑魚の処理をしている間に準備を整えた必殺の超広範囲攻撃が視界の範囲全てを埋め尽くした。躯の全てが槍や剣などの武器で武装されている。見える範囲全てを埋め尽くすそれに対して、
自分で対処する。
「はい、どーん!」
ルーチェ&オンブラからブルームへと切り替えてスダマを発射する。発生する爆裂がその方向の全てを巻き込んで消し飛ばし、クレーターを生みながら四国を横断する。土地の再生ってどうやるのだろうか? そう思いながら躯の波を真っ二つに引き裂いた。だがその向こう側にヘルの姿はない。殺気が背後の空間から伸びて来る。
「メギ―――」
「ま、そんなところだと思ったわ」
背後からのメギドラオンにベルが《魔王の眼光》で割り込んだ。そのまま号令を発し、《コンセントレイト》で威力を底上げした。
「ドラオン」
「啄め死蝿」
《メギドラオン》と《死蝿の葬列》が衝突した。凄まじい破壊が相殺し合いながら横へとエネルギーが逃げ、大地を割りながら亀裂を刻む。くっ、と苦悶の声をヘルが零す。積んでいる分、ベルの方が威力で勝った。メギドラオンを僅かに抜けた死蝿がヘルの姿を蝕もうとして、ヘルの姿が消えた。
それと入れ替わる様に十数を超える英霊が取り囲んできた。素早く跳躍し、ベルとアンに合流する。鳩が肩の上に乗り、《ラスタキャンディ》で能力の底上げをしてくる。
「無駄だニンゲン……もはやこの地は我が国となった。他の場ではともかく、ニヴルヘイム内では負けぬ!」
国内自由ワープ、という感じか。八岐大蛇よりも遥かに厄介な性質だと思う。素早く盗み見ればミドガルズオルムと取っ組み合う黄龍と、その体を千切ろうとするチェフェイの姿が大地を粉砕しながら見える。連中が動くたびに四国の大地が揺れている。そして四国を揺らしているのは連中だけじゃない。一切遠慮なく《ブラフマーストラ》と《天叢雲剣》をラーマとミコトが乱射している、馬鹿みたいに乱射して大地を焦土に変えながらフェンリルを追い詰めている。フェンリルも対抗する手段がないのか、豪雪を呼び寄せながら対処しようとしているものの、凍る気配の無い天叢雲剣の生み出す水斬と太陽弓が生み出す破壊の奥義に翻弄され続けていた。あちらの勝負はどうにかなりそうだな、と理解できる。
まぁ、問題はこっちだ。
「ど……する?」
「流石に固有領域の特権を握り潰すような権能私にはないよ」
「こういう時は、素直に力を借りるのさ」
タロットカードを掌に浮かべる様に引き抜いた。描かれる絵柄は死神。死を背負った湊の絵柄が刻まれている。それにMagを注ぎ込み、助けを、力を求める。
その瞬間―――イメージが脳裏を走った。
花―――花が咲いている。
学園の屋上、終わりの季節にして始まりの季節。全てが終わった後、少年は車椅子に乗せられた状態で、機械の少女によってそれを操作されていた。そんな学園の屋上の上で、少年はそこから宙を見上げた。
欠けた月の浮かぶ宙を。
小さな微笑を浮かべ、そして懐から一つの武器を取り出した。それは銃にも見え、そして同時に、それによって引き起こされるイメージを増幅させる為の道具。もはや、それを少年は必要としなかった。それだけの領域に
だから銃をこめかみへと持って行った。
「しょうがないな……」
そう言って引き金を引く少年の表情は、
もはや―――空虚さは消えていた。
「クロニクル・タナトス」
極点からペルソナが一時的に世界を超えて顕現する。タナトス。死の形が出現する。それを湊が振るったのを見た事がない筈なのに、その名前は自然と口から出た。その力、能力、そして行える事が自分の中で自然と理解できた。そしてそれを通して、空虚さの消えた少年の存在を感じた。どこか、満たされたような、或いは存在してはならぬものが消えたような、本来の形へと戻った少年の存在感を世界と
或いはそう―――それがエンディング。未来からのサービスなのかもしれない。
「……まぁ、また顔を出すって約束したしな。折角だ、サクッと終わらせちまおうか。
言葉に応える様に
影時間と呼ばれる空間がニヴルヘイムを上書きした。同時に空間に隠れ潜んでいたヘルが空間を支配する権限を失って吐き出された。役割を果たしたタナトスはその姿を消失させつつあり、展開された影時間もそれだけで消え去ろうとしている。だがヘルが空間から吐き出された瞬間、
完全に無防備な姿をさらしている。
それを見過ごす程の無能はここにはいない。
「《真理の雷》よ? しっかり味わいなさい」
「がっ」
それをベルがSTUNさせた。《真理の雷》によって動きを封じられたヘルの前へと向かって歩いて進んで行く。影時間が剥がれ、壊れて行く中で、ルーチェ&オンブラを引き抜き、ルーチェをアンへと投げ渡した。それを受け取ったアンと共に、背中を合わせながら痺れて動けなくなっているヘルの前に銃口を同時に突きつけながら立った。
「ゆい……ごん、どーぞ」
「聞くだけは聞いてやる」
確殺できる距離。妨害も介入も絶対に間に合わない距離で銃口を突きつけた状態で、STUNしているヘルを見た。ヘルは追いつめられている事実に大きく眼を見開き、そして喉を震わせた。
「我は……私は、ただ、また家族と過ごせる場所が欲しかっただけなのに……」
それだけ。それがヘルが四国を乗っ取った理由だった。家族と過ごせる場所が欲しかった。だがそのフェンリルもミドガルズオルムも、たった今食いちぎられて消滅している。その気配がヘルにも伝わっているのか、涙が流れ始める。
とはいえ、答えは決まっている。
「お前、殺し過ぎ」
「ばい、ばい」
同時に引き金を引いてヘルの頭を破裂させた。そしてそのまま残された肉体を踏みつけて粉砕する。それですべてがMagになって消え去るのを確認しながらはぁ、と溜息を吐きながら頭を掻く。
「なんで、こう、悪魔ってのは極端から極端なんだろうなぁ……」
どうしようもない気持ちの悪さを端に感じつつも、これで四国の滅亡は回避された。空を見上げれば赤い空が終わり、本来の青空が戻って来た。それを見上げながら溜息を吐く。
「次は東北から北海道だな……」
ルート的にメシア教の日本本堂へと挨拶しなくては北海道に押し入る様な真似になってしまうだろう。
四国程面倒にならなければいいんだが……そう思いながらも絶対に面倒になる事を確信していた。
その内到達するかもしれない死神の少年の物語。繋がりは時に時をも超えるとか。
ヘルをサクッと死神パワーで始末したので次回、そのまま東北へ。
リュージ君は人間・モブである以上成長率が主人公:5に対してリュージ1~3程度なので、仲魔に頼ったり他人から力を引っ張ってきたりしないとどーしようもない。
レベルは70代でも、各世界の主人公格の50代程度のステだったり。才能って言葉は好きじゃないし嫌いけど、先天的に成長率と呼べる資質は才能と表現するのが一番解りやすい。
歴戦モブはここらへん、連携と経験と知識できっちり能力差を覆して殺しに来るので、目指す方角は大体見えているのよね。大体馬鹿どものおかげ。
まぁ、アレな連中の所へ。