ガイア―――というか破戒僧とは連絡先を交換したので、戦闘が終わって青空が戻った所でメールを受けた。次に行く場所があるのでガイアで休む事をお断りしつつ、黄龍に乗って神格連続殺害ツアーの最後の土地へと向かって飛翔する。向かう場所は四国から更に北へ、東北のアオモリになる。本州と北海道の境目となるアオモリにはメシア教の日本における本部が存在している。
北海道はアイヌ信仰が根付いているから取り込めず、南部は仏教や神道のガイアが強い。そして中部に関してはそもそも、社会人に信仰とか気にしている時間がない。信仰の好き嫌いとか以前に、根本的にそういう事を気にしている余裕のない社会だった。物凄い悲しい事だが、そういう理由からメシアが日本に参入する事は非常に難しかった。
そこでメシアが流れ着いたのがアオモリだった。本州の最北部、しかし北海道には届かない。人が少なく、そして本州の果てであるここは社会の喧騒からも遠く、まだ信仰の付け入る隙間があった。そういう事情から日本メシア最大の聖堂はアオモリに存在している。というより街規模で存在しているという話だった。そもそも米国や英国がバックとして存在しているのがメシアの強みなのだから、札束で叩ける範囲であれば滅茶苦茶強いのだ。
流石資本の犬。
「しかしこっちに来るのも初めてだなぁ……」
『なんだ、旅をしたことないのかサマナーは。旅は楽しいぜ』
「今の世代は旅をする事自体が珍しいんじゃねぇかなぁ」
『まぁ、私らの時代とは違うからね』
黄龍の頭の上で苦笑いを零す。そうだなぁ、自由に旅というのも今更、悪くはなさそうだと思う。その時は黄龍ではなくバイクで移動する事になるが、全部終わって平和になったら世界横断の旅に出るというのも楽しそうだ。今では黄龍に乗ってパパッと移動するばかりだが、国内には色々と悪魔の伝承が残されている。それを改めてゆっくりと見て回るのも楽しそうだ。
「まぁ、今の時代、どれだけ勉強が出来て、成績が良くて、それでいい会社に入れるかが重要だからな」
『……それの何が楽しいんだ?』
「いや、まぁ、そうなんだけどさ。そればかりじゃ生活できないんだよ」
『だったらいっそ社会生活捨てろよ。半端にこだわるぐらいなら投げ出したほうが楽になるぜ』
「気楽に言うなぁ」
とはいえ、ミコトの言っている事も間違いではないのだ。いっその事、もう学歴とか全部投げ捨ててしまった方が楽かもしれない。今更、学生には戻れないし。心配した所で無駄だし、食事しなくても生きて行ける。気楽な生き方だ。
『ま、そこら辺の道楽は俺に任せなサマナー。きっちり悪い世界にお誘いするぜ』
「だ、め」
アンがぷくり、と少しだけ頬を膨らませる。
「リュージ……わるくなるの……めっ」
その言葉にミコトが笑った。
『将来は尻に敷かれそうだな、サマナー』
『ウチの子だから当然じゃない』
『ママ……ママ―――あ、こら! 妾が悪かったから直接放り込むのやめぃ!』
完全に罰ゲーム扱いされているスダマ先輩、どうやらDDS内部だと姿が違うらしい、というか不定形化しているっぽい。もはやスダマ先輩という姿はスダマ先輩のアバター的なアレなのではないのだろうか……? いや、ここは深く考えない方がいいだろう。考えたらあかんタイプだし。スダマ先輩はスダマ先輩。破壊力のユニバースレコードを目指す存在。良し。
「ま、悪い遊びは追々として―――アオモリのメシアンか。不安が残るな……鳩?」
『いや、我に話を振られてもマジで困る』
DDS内部から鳩の声がする。そもそもだ、と声を放つ。
『我は既に人の世を去ったのだ。そこに残したものがあるであろう。だが既に世は人に委ねられた。人の時代が始まったのだ。故に我が残る必要もない。我は去った後のメシア教とかちょっと我でも引く……』
『始まりは千年王国を建国しようとした天使共よね』
『我、そんな事、頼んで、ない』
鳩も鳩で大変そうだ。黄龍の頭の上に座り込むと、後ろから寄り掛かる様にアンが乗っかってくる。顎を肩の上に乗せてCOMPを同じように覗き込む。背中に胸の感触を感じつつ、もうそんな事で俺は慌てないぜ……! と少し進歩した自分の精神力を誉めつつ、悪魔協会に送って貰ったメシア教に関する情報を閲覧する。
ガイアが基本的に
なにせ、日本という国家は海外の他の国家と比べれば実に奇妙だ。
宗教は信仰ではなく感謝、そして生活。日常と宗教というモノが生活に混じり過ぎている影響で根本的な信仰心が現代ではなくなっている。その代わりにその行いが日常のルーティーンとして刻まれている。つまり宗教を意識しながらその意識が一般レベルでは非常に薄い国家である。
それでいてよく創作とかで神話や伝承、空想存在をネタにする。発達したネットワークと文化が元からの日本人の気質と合わさって化学反応を起こしている。受け入れ、それを自分の形として変化させる事に抵抗がないのが日本人という民族だ。だから考えを受け取りながらそれを受け流したり、独自の形へと変える力がある。その為、ガイア思想を受け入れても、それをもとから存在している中庸的な、調和する日本のニュートラル気質と合わせて、ガイア穏健派が誕生した。
だがこれは海外には通じない。日本の外の宗教観はどちらかという侵略という面が強い。そしてそれは当然、メシア教も同じだ。かつて英国が、スペインが、フランスが植民地を開拓しながら改宗を強制したように、メシアもまたそうやって勢力を広げる。とはいえ、その相性が日本人とは悪かった。自発性を促すならともかく、強制される事に酷い反発を覚える民族である為、メシア思想は受け入れられない。
『だから連中、一度大規模な移民を行ったんだよ』
ミコトがそこから経験を交えて繋げる。
『まぁ、第二次世界大戦の直後だな。日本が負けた後の話だよ。米兵が日本を歩き回っていた頃の話な? 兵士に紛れてメシアンの連中も大規模な人員投入を行ったんだよ。日本ってのは八百万の概念でどの神仏も平等に力を蓄える事が出来る珍しい土地だからな』
だけど、これが良くなかった。
人界の出来事は人界に任せる。サマナーやバスター、裏世界の人間は表の諍いに関わるべきではないというスタンスを愚直にも貫き通したのだ。それが国家の敗北へと繋がっても。恐らくは既に日本の敗北を予見していたのだろう。そしてその後に来る本当の文化、神話伝承の侵略に対応する。
そしてそれは成った。
『俺と先代でメシアンを殺して回ったんだよ』
金で土地を買い漁り、地上げ染みた真似をするメシアンを虐殺し、送り込まれた上位天使や大天使を皆殺しにした。ミコトがこの間捨てた《天軍の剣》もその時のミカエルを血祭に上げて取得したものらしい。そんな経緯で入手したら確かに雑に捨てられてもしょうがねぇな、って納得するしかなかった。
『まぁ、元々メシアンの方針と日本って国の気風が合わなかったんだよ。だからお得意の文化侵略を展開したけど戦争に出ずに丸々残されていたヤタガラスとクズノハに軽く虐殺されて強制的に縮小化、今じゃ東北の北部に勢力を持つ程度になったって話だ』
意外とやんちゃをしていたミコト、しかし考えればどうやらかなり昔から召喚されているらしいのだから、ある意味それぐらいの経験はしているのだ、という話でもあった。だが聞けば聞くほどメシアンという連中に関して不安になってくる。
でもあれだろ。
「実は割とまともでしたー! というパターン来るだろ?」
『……』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……』
「……」
「……」
「ごめん、誰でもいいから喋らない? スダマ先輩でさえノリでも黙るのちょっと怖いから……」
『一部ではそうでも全体は……』
急に黙りだす仲間の様子に冷や汗が背筋に走る。え? メシアだけはまともになる事はないの? なんでそんな勢力まだ国内に残してるんだろう? ヤタガラスとクズノハの仕事では? ……いや、まぁ、たぶん政治とかあるであろう事実は解る。それでも崩壊世界でもまだそのごたごたを巻き込まなければいいなぁ、と思いつつ、
アオモリ大聖堂への空路を往く。
アオモリ大聖堂のある場所は一言で説明すれば
メシア教の状況を考えて刺激したくもないので、ある程度近づいたら移動方法を黄龍からバイクへと切り替える。道路の上をアンとタンデムで進んで行けば、周辺地域に全く悪魔の反応がないのを感じ取れる。おそらくはメシアが周辺の安全を確保する為に浄化しているのだろう。シンジュクと同じように、結界も感知できる。そしてそれだけではない。
パワー等の低位天使が安全を確保する様に、サマナーの姿もなしに浮かんでいる姿が目撃出来た。どうやら、道と周辺の安全を確保する為に活動していたらしい。思わず、射撃してしまいそうだったが、敵意が存在しない事から誤射せずに済んだ。
四国やシンジュクとはまた違う独自の景色に、少し驚きつつも、道を道なりに進んで行けばアオモリの街並みが見えて来た。その前に立つテンプルナイトの様子も見えた。近づきながらその姿を《アナライズ》でスキャンしてしまう。
「普通に強いな」
『まぁ、門番ってのは強い奴がやってないと意味がないからね。雑魚に門番を任せて突破されたりでもしたら困るでしょう? こういう仕事は職務に忠実で一定以上の実力がある者に任せるのが一番よ。重要な施設や場所であればなおさらね』
『つまりそれだけこの土地の重要度が高いという話じゃよ』
解りやすい話だった。まぁ、メシア最大の拠点だと思えば確かに、これぐらいはいるものだろう。そう思いながらバイクの速度を落とし、ゆっくりとアオモリの前で停止させる。風に当たって軽くずれていた片眼鏡を修正しつつ、
「ヘイ、悪魔協会から北海道の悪魔討伐依頼を受けたキサラギ・リュージだ。依頼者に会いたいから中に通してくれ」
「遠路遥々ようこそ、サマナー。貴殿の到着を歓迎する」
態度も言動も予想外にまともだな、と白亜の鎧に身を包んだテンプルナイトが一礼しながらどこかへと連絡を取るのを見た。直ぐに連絡を終えて、此方へとテンプルナイトが兜に隠された視線を向けた。
「今案内の者が来ます。それまでどうかお待ちを」
「ういよ」
その言葉にここからは徒歩だな、とバイクから降りる。アンに片手を貸して降りるのを手伝いつつ、終わったらそれをストレージに戻す。それを少し驚いた様子でテンプルナイトが見ていたのが解る。
「これが最新式のサマナーの装備ですか……」
「いや、まぁ、俺が特殊ってのもあるけどな」
「リュージ……凄い……の……!」
拳を握ってアンが強くアピールするのを見て、テンプルナイトが苦笑を零した。
「現在の崩壊世界で配布されているデジタルデビルシステムでしたっけ? アレを拝見させて貰いましたが、欧州や米国で配布されている悪魔使役プログラムとはまるで利便性が違いますね。今の時代、レベルの高い技術が出回っているのは安心できますが、この騒乱が終わった後の事を考えると少し憂鬱ですね」
『そりゃそうよ。今出回っている5世代ぐらい先のを使ってるんだから、スペックが段違いなのは当然よ』
あぁ、やっぱりそれぐらい技術力がスティーヴンと他ではまるで違うのか。まぁ、自分はその中でも特に恩恵にあずかっているのだが。
『というか無ければ死んでるわよサマナー程度』
『僕ら! バックアップ! ハイスペックな道具! これがあって漸く余裕が生まれる程度かな!』
知ってた。だけど、まぁ、ないもの強請りをしていた所でしょうもない。自分の出来る事を出来る範囲でやって行くだけだ。だからテンプルナイトのどことなく、愚痴の様な呟きに耳を傾けていると、奥の方から歩いてくるシスター服姿の人物を見つけた。歩く度に揺れる長い金髪の持ち主は、ナカノで見た姿だった。
聖女クラリッサは柔らかな笑みを浮かべた。
「お久しぶりです、サマナー・キサラギ。少し見ない間にだいぶ逞しくなったようですね」
「そういうクラリッサさんも大分強くなってるけどな」
あの破戒僧もそうだったが、聖女もレベルがだいぶ上がっていた。二人共最初あった時は40前後だったが、今ではそれも大きく上がり、50を超えるレベルに入っていた。どうやら俺がいない間に高位悪魔を倒して強くなっていたらしい。まぁ、確かに40代50代の悪魔だったらまだ群れて見かける……その状況がおかしいのだが。
「私はまぁ、必要に駆られまして……」
「何が必要に駆られてですか! 率先して自分から飛び込んでいるじゃないですか!」
「大司教がもうちょっと大人しくしていて欲しいとお嘆きでしたぞ!」
「大丈夫です―――大司教の限界は見極めてます」
「そういう事ではありません……!」
「……」
テンプルナイトの言葉をあっさりと受け流すクラリッサの姿を見て、あぁ、うん。若干呆れながらその姿を見た。破戒僧・騨もそうだったが、
「まる、で、変わって……ない、ね」
「そうだな」
『これがメシア最後にして最大の良心であった』
『ありうる』
辛いからほんと脅すの止めて? まぁ、それでも事前に味方がいると解っただけでも少しだけ、助かった。流石に味方なしだった場合は困る。なんというか……安心できる要素がなかった感じで。でも、まぁ、クラリッサがいるなら少しは大丈夫だろうと思える。少なくとも、世界再生を最初に頼んだ彼女は、スティーヴンの知り合いだ。その点、安心できる要素がある。
「アンさんも元気でしたか?」
「ぐっ」
アンがクラリッサの言葉にサムズアップを返す。それを見たクラリッサが嬉しそうに頷く。
「調子は良さそうですね。四国の方から物凄いエネルギーを観測できたので、少々不安になりましたが、この様子だと無事に四国の方は終わらせたようですね。では聖堂の方で依頼主の大司教がお会いになりますから、案内しましょう」
と、歩き出す前にクラリッサが言葉を付け加える。
「あぁ、大司教は事情を理解しているのでご心配なく。あの方はメシア教でも恐ろしく真面目で公正な方ですから」
『大体誰か察した』
『おう、誰か吐けよ鳩』
『拷問タイムじゃ!』
鳩、自分の信仰地にて拷問に遭う。何時もの事だしそこまで気にしない。アンと共に並んで、クラリッサの後を追う。街の中も時折悪魔・エンジェルの姿を見かける。それがどうやら街中の警備を担当している様に見える。歩きながら辺りを見渡すとここだけまるでヨーロッパに紛れ込んだような感覚が強い。
「大、丈……夫?」
アンの疑問にクラリッサがえぇ、と答えた。
「今の所暴走するような兆候はありませんから」
『言外に問題はある、と教えてくれている様なものね』
外観はぶっちゃけ、シンジュクよりも綺麗で整っている。そういえばメシア思想はアポカリプスを乗り越える事にあった。つまり前々から世紀末や終末、その後を想定して街づくりを行っていたのかもしれない。
『終末が来ないなら自分で終末にするって連中よ?』
『力を得る為には手段を択ばないけど別に世界を滅ぼさないガイアと比べると……』
どうしてこんな組織が生まれてしまったんだ……! と内心思いつつも、クラリッサが通り過ぎる子供たちに軽く手を振っているのを見た。
「せーじょさま! またあそんでね!」
「えぇ、また今度遊びましょうね、ウィリアム」
「聖女様! 新鮮なアップルパイを焼いたのですが!」
「すみません、ベイリー。今は客人の相手をしなくてはいけないので。終わったら改めて伺いますね」
「聖女様! パンツ見せて!」
「《アギダイン》」
耐火装備で全身を包んでいた馬鹿が大炎上する。そして耐え抜いた馬鹿がサムズアップを向けながら倒れた姿を、近くにいた馬鹿が回収する。うーん、流石日本人。強い。だけどもうちょっと先ほどの英国人たちのまともさを参考にして? とは思わなくもなかった。
まぁ、表向きには平和に見える。
この裏に潜んでいるものはまだ見えないし、関わる予定もない。自分はさっさと北海道のクソ連中を殴り殺して経験値にする予定だけなのだから。
「アップルパイ……」
「あら、興味ありますか? それでは私の分を食べてみますか?」
「ん」
こくり、と頷くアンと微笑ましそうにそれを見るクラリッサのやり取りを見ると、なんだか力が抜ける。まぁ……必要以上に警戒する必要もない。ここらへん、力を抜きつつ警戒するというのはあの馬鹿連中がやっていた、なんだかんだで高等技術だ。羨ましく思いつつも、
段々と聖堂が見えて来る。
このアオモリで一番巨大な施設になる。その奥で大司教が待っている。
ついにやって来ました日本メシアの本山。
そもそも思想から終末を乗り越えメシアを迎えその後の世界に千年王国を築くとかいうイってしまっている連中が本気でやっている為に、残念ながら終末への備えを一番やっている所でもあるのよね……。
キチガイに刃物とはよく言ったもの。
……おや、ホッカイドウの様子が?