※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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神州混沌行脚 ⅩⅧ

 結局、聖堂の一室をポート代わりに利用させて貰い、スティーヴンのバーへと戻って来た。なんだかんだで拠点として活用するのはここが一番長い。帰って来たという安心感がここには存在している。最近聞こえる様になってきたベラドンナの演奏を聞きながら入店すると、普段はカウンターでストロベリーサンデーかピザを食べているダンテの姿がいない……暇な間にトリックの一つでも教えて貰おうと思ったのに。カウンターの向こう側に居る支配人に視線を向けた。

 

「ダンテは?」

 

「オキナワに捨てて来た」

 

「ダンテェ……」

 

 いや、まぁ、ダンテの事だしその内勝手に戻ってきているだろう、というどことない確信があった。あの男に根本的に不可能の概念は存在していない気がするし。ともあれ、バーに戻ってくると安心できる。今夜はここで時間を過ごす事にするので、溜息を吐きながらカウンターの方へと向かうと、素早くアンが横を陣取ってきた。

 

「すとべりーさんでぇー」

 

「アレの真似はしない方がいいぞ。ともあれ、其方はどうするかな」

 

「あー、なんか頭の疲れが抜けそうなもので」

 

「ふむ、了解した。少し待っていると良い」

 

 そう言って支配人(ルシファー)が厨房の方へと消えて行く。果たしてメシアンがルシファーがバーのマスターをやっているという光景を見たらどう反応するのだろうか? それにしても《あぽかりぷす》もあるし。あそこ、メシアンに襲撃されてねぇかなぁ、と今更思うが、普通に客として招きそうな気しかしない。まぁ、その時はその時だ。

 

「はぁー……疲れた……」

 

「おつ……か……れ」

 

 カウンターに倒れ込むと、アンにぽんぽん、と頭を叩かれる。その様子を眺めている他の客人たちがその様子を眺めているのが解るので、顔を横にズラし、店内の方へと視線を向けた……また出入りしている悪魔が変わっている様な気がする。新しく見えるのは中華風の道士の服装の若い男だ。視線を受けた男は此方に気付き、

 

「なんじゃ」

 

「いや、ガイアはまだよかったんだけど、メシアが非常にアレだったんだよなぁ……って思ってただけなんだけど」

 

「カッカッカッカ。まだガイアがまともに見えるのはそれが日本国内じゃからよ。メシアもまだまだ、日本国内だけであれば世界的に見えてまともな方じゃぞ? アメリカでは聖都(アルカディア)建設計画やら救世主計画を実行しとるんじゃ。まだまだ楽な方じゃぞ」

 

 そう言いながら道士はカウンター席まで来ると桃を取り出してそれに齧りついた。流石にそこまでヒントを出されれば解る。

 

「太公望?」

 

「正解じゃ。ま、国もその後の国も仙郷も滅んでしまって文無し宿無しじゃがな!」

 

 カッカッカ、と再び太公望が笑った。そうか、中華はまだ再生前だったな、と思い出す。ただ世界再生のステップを考えると、次回辺りが中華再生になりそうな気がしなくもない……まぁ、となると中国遠征になるのだろうか? 魔王蚩尤とか出て来そうで非常に怖い。まぁ、出て来たらその時はその時で普通にぶっ殺すのだが。寧ろぶっ殺せるだけの力が必要なのだが。

 

 それはそれとして、

 

「太公望はここでどうしてんの?」

 

「儂か? なに、ここに居る連中は策謀には向いていても人間個人というものを良く知らぬ故に負けてる連中ばかりじゃからのう、いっちょ儂が知恵を貸してやろうかと思うてな!」

 

「本音で」

 

「いやぁ、あの悪魔王も良い桃を仕入れておるのぉ!」

 

「だと思ったわ」

 

 再び笑いながら桃を齧る太公望の姿を呆れながら見てると、太公望がまぁまぁまぁ、と手を前に出す。

 

「なに、儂も単純にただ飯食らいをしておるわけじゃないわ! この太公望! そこらのぽんこつ共よりは遥かに優秀な頭を持っておる! なぁに、一つ知恵を貸してやろう! ほれ、なんか儂に問題を提示してみろ」

 

「えー……」

 

 太公望の姿を疑わしげに見ながら、体を持ち上げ、腕を組む。その間に支配人がアンにサンデーを、そして自分に白玉あんみつを緑茶と一緒に持って来た。あぁ、確かにこれぐらいなら丁度いいかな、と思いながら茶を片手に持って、首を傾げる。

 

「……良く考えたら世界が崩壊しているだけで特に問題抱えてないんだよな」

 

『恋愛相談』

 

「そ、それはほら……解ってる事だから……ね?」

 

 ベルの鋭い指摘に冷や汗をかきつつ、軽くアンを見れば、サンデーを食べるのに忙しそうで全然聞こえていないようだった。いや、まぁ、うん。触れ合う事に対する恐れとか躊躇は大分なくなった。キスも……ちょっと頑張ればできる。だからその先は、俺が頑張るだけの話だし。今は、まだいい。まだこの距離感に浸りたいのだ。だから、まぁ、

 

「んー……仲魔を使った戦術とか?」

 

「なんじゃ、そんな簡単の事で良いのか? ちっと駒を見せろ見せろ」

 

 まぁ、バーに居る以上は味方なのだから、太公望に仲魔を隠している意味はない。自分の保有している仲魔を見せ、具体的に何が出来るのかを確認してみる。それを確認しながらふむふむ、と太公望が頷く。

 

「なんじゃ、駒だけなら割と良いのが揃うておるじゃないか。特に黄龍と理想王の組み合わせが良いのう。これなら天候ぐらい簡単に操れるじゃろう。それで雷雲を呼び寄せれば蝿王の雷撃と黄龍刀の力を更に引き出せるじゃろう」

 

「あー……天候かぁ……」

 

「あと陣地や結界の事は気にしておるか? 軽く環境を有利にするだけでも話が変わってくるぞ? 天候、地形、足場、空間。陣地といってもこれだけの種類がある。その一つ一つを自分の仲魔と繋げて考えてみよ。ほれ、利用できそうなイメージがあるじゃろう?」

 

「……」

 

 さっきの雷雲もそうだが、例えば霧を生み出してしまえば、辺り一面は水分だらけだ。それをそのまま天叢雲剣で干渉して全包囲斬撃とかミコトならやり遂げられそうだ。そういう環境を整える力が黄龍と、手札が豊富なラーマにもありそうだ。何気に第五の化身であるパラシュラーマが確か最高の聖仙で、その術技を引き継いでいるという話だった。

 

 此方が何か思い至る様子を見てから、うむ、と太公望は頷く。

 

「戦いはただ単純な力のぶつかり合いにあらず。寧ろ戦う前が重要じゃ。何をどうやって動かすか。何を準備してどういう効果を与えるか。結果を生み出す為にはどうする必要があるのか。使役する立場であればどういう風に最大限の力を発揮できるのか、それを考えるのが寧ろ戦える事よりも重要じゃ」

 

「……うっす、勉強になりました」

 

 素直にそう答えると、太公望が再び、笑った。

 

「なぁに、このぐらい気にせんとも。それと態度を改める必要もないぞ。儂も家賃替わりに手伝っているだけじゃしな。うほー! 桃うまー!」

 

 支配人へと視線を向ければ、イケメンスマイルとサムズアップが返ってきた。もしかして貴方、魔界での仲魔の勧誘方法こんな感じなんですか……? しかし、見事カオスもニュートラルもロウが滅茶苦茶なこの空間で良くやってられるなぁ、としか言えない。まぁ、そういう垣根を超えなきゃ成し遂げられないものがあるのだが。

 

 ふぅ、と息を吐いてあんみつを食べ終わった。口の中に残る甘さをお茶で洗い流せば、頭がすっきりとしてきた。やっぱり、ある程度糖分を摂取したほうが頭の中がすっきりするな、と思う。ベラドンナの歌声を聞きながらゆっくりとカウンターによりかかり、軽く体から力を抜く。

 

「ふぅー……明日まで暇だな。どうすっかな……」

 

 体を思いっきり動かす為に外に出かけるか、或いは勉強でもするか。スティーヴンがどうせ暇そうにしているだろうし、何か装備の改造を頼んでもいいかもしれない。地味に何時の間にか仕込まれていた防具の自動修復機能には感謝している。これが無かったら蘇生した時に破損したままだったし。

 

『お、暇かサマナー?』

 

 と、DDSからミコトが話しかけて来た。

 

『だったら俺とサシで飲まないか? 他の連中と比べて俺は日が浅いしな、ちょっとした相互理解の為に……どうよ?』

 

「あー……確かに悪くないかもしれない」

 

「今、酒と言わなかったか!? 酒と言ったな!?」

 

 酒の押し売りディオニュソス君が厨房の方からにゅるり、と出現してきた。見ての通り、酒の話になった瞬間全細胞が活性化してレベルが10ぐらい上がる馬鹿である。ただ発狂さえしていなければそれなりに有能な奴なので、チョイスからまともそうなのを貰う。自分の知らない、日本酒だった。それを受け取ったら、

 

 何時もの奥の部屋へと移動する。

 

 

♦

 

 

「ぷ―――っはぁ! さぁ、やっぱ現代の酒は美味いよな」

 

 胡坐をかく様に床に座り込んだミコトは日本酒をお猪口に注ぎ、それを飲む。その姿は女物の着物に袖を通している。戦闘時は少しだけはだけている時もあるが、今はちゃんと着ており、その男か女も解らない……いや、やや女っぽい中性的な容姿と合わせ、美人の様に思える。何より長い黒髪が実に女性らしさを表している。だがその言動や態度は完全に男のものだ。声もハスキーボイスで男とも女ともとれるから不思議なもんだ。こういうどっちでもある、という存在は初めて見た。

 

「酒はなぁ、昔のは昔でも美味しかったけどなぁ。やっぱ飯や酒ってのは時代が進めば美味しくなるもんだって解ったな。だけど今代はそういう娯楽が俺らにはいらねぇつってさぁ……」

 

「えっ、酷くね」

 

「そう思うよな?」

 

 ミコトはそう言って笑う。

 

「寧ろお前が俺らに自由を与え過ぎなんだよ」

 

「えー……」

 

 ミコトがゆっくりと猪口に酒を注ぎ、それを口元へと運ぶ。

 

「そもそも、悪魔を信用する人間がいねぇのさ」

 

「そりゃあ……まぁ、意味は解るけどさ。命を預ける以上はそういうもんじゃねぇの?」

 

 信用しなきゃ死ぬ。信頼出来なきゃ死ぬ。きっと彼らにも思惑、魂胆があるのだろう。だがそれはそれとして、信頼関係を築かなきゃならない。そうしなければ生きて行けない。デビルサマナーとはそういうもんじゃないのか? と俺は思っている。だけどミコトがそれが間違いだって言う。

 

「お前が考えている悪魔との関係ってのは先代ライドウや数十年業界で戦ってるようなベテランが漸く到達できる領域って奴だ」

 

 ミコトが酒を注ぐ。

 

「まぁ、お前はちょい特殊だって事を加味しても、悪魔と信頼関係を結ぶってのは中々簡単な事じゃねぇんだよ。基本的に人間は悪魔を恐れる。殺している奴を勧誘して仲魔にしたりするんだから、ま、当然だよな。殺されかけて交渉される事を恨む悪魔だっているしな」

 

 ……その事を考えれば、俺は幸運なのかもしれない。

 

 根本的に俺の仲魔は全員、自分の意思で手伝ってくれることを選んだ連中ばかりだ。だから恐怖を感じないのかもしれない。ビジネス的な契約関係を結んでいるとは思うが、

 

「まぁ、俺に取っちゃ仲魔との関係は……友達というか、そういう類のもんだと思ってるし」

 

「はは……そう来たか」

 

 なにか、おかしい所でもあっただろうか? そう思うが、いや、とミコトが頭を横に振る。

 

「寧ろお前の方が正しいのかもしれないよ。そういう意味じゃお前は才能があるよ、サマナーとしては。仲魔を手伝わせたくなるような弱さがお前にはある。それがお前の魅力だと思うぜ」

 

「クソ雑魚だって自覚はあるから止めて?」

 

「褒めてるんだけどなぁ」

 

 だけど弱い事が魅力だと言われても正直、滅茶苦茶困るのだ。もう既にレベルが高いというだけで、他の悪魔には能力的に敗北しているのだから。俺のレベルは今、高位悪魔を屠った影響で70代後半に差し掛かっている。だが、ステータスを見ればアンの50代だった頃のレベルしか存在していない。支配人の手によってレベルの上限を解除して貰ったものの、それで別段、才能が増えるという訳でもない。

 

 明確にスキルやらステータスとしてこの業界、才能が数値化される。

 

 《ガンスリンガー》があるから銃への適性があると解った。

 

 だがレベル以下の仲魔に負けるステータスを見て、フィジカル的な才能は一切ないという事も理解出来てしまった。

 

「まぁ、個人的にはそこが面白いと思うんだけどな。才能の無い奴が頑張ってる姿を見る程面白いものもないってもんだ」

 

「俺はお前の娯楽か」

 

「はは、あんまり間違ってないな。俺もサマナーの事はこの短時間だけどそれなりに気に入ったしな。そういう弱いけど頑張ってる姿はオレら的には結構高得点なんだよなぁ……」

 

 そういう所を褒められてもあんまり嬉しくはない。もっと、もっと強ければ―――そうすれば、たぶん、色々と変わるだろう。昔の結果を変える事が出来ない以上、これから自分が味わうかもしれない悲劇を乗り越える為にも、自分はもっと強さが欲しい。今はずっとそう願っているけど、現実は厳しい。

 

 ミコトが猪口を置いた。そして此方へと胡坐をかいたまま、視線を向けて来る。

 

「俺はまだ仲魔になってから日が浅い。だから辛辣な事も言える。だから言えるうちに言っておく……いいか?」

 

 ミコトの言葉に頷く。じゃ、遠慮なく。そう言ってミコトは猪口に酒を注ぎ、その中身を飲み込んだ。

 

「まず、戦う事そのものに才能がない」

 

「知ってた」

 

「いや、知ってたじゃねぇよ。もっと別の話だ」

 

 此方の反応をミコトがバッサリと切った。

 

「そもそもお前は銃ぐらいしか能のないサマナーなんだろう? それで超強力な仲魔を揃えているんだから、前を仲魔に任せてお前まで戦う必要はないんだよ。第一、銃よりも強い攻撃手段を持っている仲魔が居るんだ。自分で戦う事に思考を割くよりも、仲魔を効率的に動かす事に思考を割いた方がまだ楽だし成果が出るだろ」

 

「……」

 

「そういう所で才能がないって話をしてるんだよ。センスがないよ、お前って。まぁ、だけどここは言われて勉強すりゃあ誰にだってどうにかできる範囲だ。だけど感じてるんだろ? 根本的な実力不足を。強くなれば強くなるほど置いて行かれる感覚を」

 

 ミコトの言葉に頷いた。覚悟はしていたが、それでも自分は人間だ。超人、覚醒者と呼ばれるカテゴリーに入る。それでも人類だ。超越していてもベースとなった存在に変わりはない。転生者でもなんでもなく、元が普通の人間なのだ。だから特別強くなるという訳ではない。スタンダードな超人なのだ。

 

 悪魔やヒーローには勝てない。

 

「だけど経験や修練を積めば―――」

 

「そんなの、時間が必要な事だって解ってるだろう」

 

 ミコトがゆっくりと酒を注いだ。

 

「お前もそりゃあ強くなれるだろうさ。才能がないからって悲観する必要はない。その為に経験を重ねればいい。様々な事を学んで、経験して、ノウハウを吸収して学習し、それで能力には頼らない強さを手にすれば、能力がクソみたいでも格上を倒す事は出来る」

 

 そのイメージは見えている。あの馬鹿連中がやっていた事だ。だけど、そのイメージは遠い。

 

「時間が、いる……」

 

「あぁ、そうだな。まぁ、環境考えてお前が先代ライドウとかに勝てる様になるまで必要な時間は……ざっと20年ぐらいか」

 

 破格の短さだ。たった20年で世界トップクラスの力量に到達できるという事だ。だがそれは歴史、神話でも最強クラスの先生を召喚した教育環境での話だし、それだけではなくそんな環境が続いた場合の話。

 

 この世界が続いた場合の話だ。

 

 そんな時間はない。

 

 まぁ、なんとなく、解っていた事だった。はぁ、と溜息を吐きながらミコトが飲もうとしていた猪口を奪って、酒の中身を喉中へと流し込む。一瞬、喉を焼くような感触を覚えるが、酒精が喉を通して体の中に堕ちていくのを感じ取った。それを飲んだ所で、猪口をミコトへと返した。

 

「まぁ、なんとなく……分かってた事ではあるんだけどさ。俺、頑張ってるつもりなんだけどなぁ……」

 

 それでも、ミコトが突きつけたのは現実。今はまだいい。それでも最終的にはどう足掻いても足りない。仲魔にも、そして彼女にも追いつけないという現実だった。いずれはそうなるだろうと薄々感づいていた事だったが、それでもストレートに言われると結構ショックな事だった。

 

 だけど、同時に助かった。今のうちにそれを知れた。おかげでその時までに準備、覚悟が出来る。

 

「どうした、落ち込んだか」

 

「うん……割と。だけど、まぁ、解ってた事だしな」

 

 解り切った話だが、この程度の理由で足を止める事は出来ないのだ。どんなクソ雑魚であれ、凡人の烙印を押されても、

 

「足(・)を(・)止(・)め(・)る(・)理(・)由(・)に(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)からな。俺の理想は地球が完全再生したら難しい事を全部その後に現れるヒーローに全部投げつけて、どっかひっそりとした場所で静かにアンと一緒に暮らす事だぜ? 俺のハッピーエンドまでは止まれないよ」

 

 恥ずかしいから言いたくないけど。それでも、酒が入っているなら口から零してしまうかもしれない。それを聞いていたミコトは吹き出しそうになりながら、此方にもう一杯勧めて来る。それを受け取りつつ、飲み干す。強い。だが、それぐらいの強さが丁度良かった。

 

「サマナー、お前馬鹿だろう」

 

「知ってるわ」

 

「いいや、解ってねぇ。悪魔に恋愛する奴ってのは大体破滅するのが相場なんだよ。それを本気で突っ走ってるお前も、それを応援している馬鹿共も、本気になってる人修羅も馬鹿でしかねぇ」

 

 だけどな、とミコトは言葉を続ける。

 

「そういう馬鹿は嫌いじゃない」

 

 そう言って笑う姿は美人、とも表現できる。流石は神代の血を色濃く継いでいる古代人なだけはあった。ふぅ、と息を吐きながら進められた酒を飲み、交わす。こうやって一対一でコミュニケーションを取るのは、なんだかんだでミコトが初めてかもしれないな、と思いながら。

 

 と、そこで、ミコトが酒を飲む手を止める。

 

「サマナー。どうせお前の事だ、これからも恰好付けようとして無茶するんだろ」

 

「……うん、たぶんすると思う」

 

 せめて、あの子の前では格好良くいたい。格好良い自分の姿を見せたい。彼女の後ろに隠れて守られているだけの存在にはなりたくはない。男としてのプライドがあるのだから。だから彼女の前は無理でも、せめて横で立ち続ける事の出来る自分でいたいのだと思う。

 

「ほんと馬鹿だな。だけど。まぁ、それに当てられた俺も馬鹿って事だな……」

 

 ミコトがどこかに静かにそんな声を零し、

 

「聞け、マスター。これから先、絶対的に能力、経験が足りなくてどうにもならない状況が出て来るだろ。だから俺が事前にその攻略法を教えてやるよ」

 

「え、あるの」

 

「あるぞ。割と悩ましいけどな」

 

 ミコトが此方に酒を進ませてくる。それを受け取り、口につける。それなりに飲んでいるが酔えないのはやはり、超人らしい特徴だった。ミコトも同じような状態で、完全に素面を保っている。だからそんな状態の中で、ミコトは言って来た。

 

「簡単な話だ。特別な血筋でもなく、才能を吐き出し切って鍛え抜いた奴らが更に力を得る為には外側からそれを持ち込むしかないんだ」

 

 力が必要になった時、足りないと感じた時、明確に仲魔に対して遅れを感じた時、

 

「俺と合体しろ」

 

 そう、ミコトは告げて来た。

 

「俺をお(・)前(・)の(・)相(・)手(・)の(・)合(・)体(・)に(・)使(・)え(・)。そうすりゃあ俺の剣も才も経験も全部お前の一部となって力になれるだろ。ま、多少は特徴を引き継いじまうが……一番まともに強くなれる方法だろう」

 

 まるでなんてこともないかのように、ミコトは告げて酒を飲んだ。その宣言に一時停止しつつも、ミコトの目は一切笑っていなかった。本気で―――自分と合体しろと、それが最上の手段であると告げて来た。

 

 ミコトの目を見れば、それが本気の言葉であるのが、意思と胸に湧き上がる新たなタロットの存在と共に確信できた。だが、

 

「なんで……」

 

 そんな言葉が口から漏れた。まだ出会って数日程度の仲魔なのに。何故、全てを捧げられるのだろうか? 合体するという事は消える事だし、クズノハから出奔したばかりではないか、ミコトは。だからその疑問を口にしようとして、

 

 楽しそうに笑うミコトの姿を見て、言葉を止めてしまった。楽しそうに酒を飲みながら、どこか、遠くを思い浮かべる様に、しかし笑い、

 

「頑張れ、なんて無責任な言葉は俺には言えないよ。だからお前は、お前が歩ける分だけ歩け……応援してるぜ、サマナー。弱くてそれでも恰好付けようとするお前の様な馬鹿を、俺は愛しているからな」

 

 小さく笑う、その姿を見て―――どこか、伝承に描かれていない本物の神人・倭建命という人物を見た気がした。




 バーに居つく新しいお客さん。

 こいつらがどことなく見覚えのある姿や態度を取るのは、信仰や人間の認識による補完を目的としているもので、一般的に知っている属性や概念を取り込むことで自分の力を補填する意味や、回復を加速させる意味が存在している。完全となった場合はそう言う補填は必要がないが、弱っている現状は必要な処置の一つでもある。

 《The Wheel of Fortune》のカード、ラヴェンツァ。
 《The Devil》のカード、アン。
 《The Strength》のカード、倭建命。

 最近追加された三枚のアルカナ、タロット。効果はその内必要になったら公開されるでしょうーな。

 それはそれとして試され、そして……してしまった大地、ホッカイドウにご期待。
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