※この作品はR-18です。

女神転生Genesis   作:てんぞー

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神州混沌行脚 ⅩⅨ

「坊主よ、これを持って行くが良いぞ」

 

 翌日、バーを出る前に太公望から何かを投げ渡された。中国語で書かれている書物だった。漢字を読めるからある程度なら問題ないのだが……それでも全て読み込むには正直、一定のレベルの中国語を学ぶ必要があるだろう。ちょっとしためんどくささを感じた。太公望から受け取ったこれを眺めてから視線を太公望へと戻した。

 

「これは……」

 

「うむ、サクッと儂が書いた兵法書よ。お主専用のな」

 

 腕を組みつつ頷いた太公望が人差し指を持ち上げた。

 

「良いか、お主の周りに居る英霊や魔王はどうやら知識を与える事は出来ても、その使い方を直感的に理解するタイプばかりじゃ。技術や知識を与えた所でそ(・)れ(・)を(・)ど(・)う(・)使(・)う(・)か(・)というのが欠けておる。教えて、後はそれを自分の発想の中で育てていくという考えを持っている馬鹿ばかりじゃ」

 

『あ?』

 

『あ゛?』

 

『沸点低いなぁ! ストレスはゴミ箱へ!』

 

『おおい、我をパスするのは止めろ。鳩は! サンドバッグではぬわぁ―――』

 

 仲魔たちがまた楽しい事をしている……。正直、連中がそうやって仲良くしているのを見るのは割と羨ましい。俺もそれぐらいはっちゃけられたらなぁ、と思ってしまう。全ては俺のノリの匙加減という事は解っているのだが。まぁ、それはともあれ、太公望から受け取った本をストレージに入れる。

 

「暇なときは読むと良いぞ。それは儂が考えたお主の力の使い方、動かし方、そして応用可能な範囲での戦術を記載しておる―――無論、ちゃんと大陸の言葉を勉強せねばまるで読めない様にしてあるがの!」

 

 太公望、地味に良い性格しているよこいつ。その態度に呆れつつも感謝する。後ついでに今度はホッカイドウでの戦いだ。そのままホッカイドウで大暴れするだろうし、その後はホッカイドウに残るかもしれない。食事の事を支配人に頼んだら、お弁当を用意してくれた。アン用に重箱でセットされたお弁当を受け取り、それをストレージへと仕舞ってしまう。それで半分ピクニック扱いになっているかもしれない、ホッカイドウへの出立の準備が完了した。

 

 バーを出た所で繋がる場所は聖堂内。そこから事前に打ち合わせて決めていた合流場所へと行けば、聖女クラリッサの姿が見える。此方を見ると手を振って来て挨拶してきてくれるので、此方も手を振り返して挨拶を忘れない。社会人の基本である。聖堂内でクラリッサと合流するも、周囲からは視線を感じる。

 

 それらを全て無視する。

 

「おはようございます、サマナー・リュージ。その様子だと良く眠れたようですね」

 

「あぁ、ちょっと深酒しちゃったけどな」

 

 普通にそうクラリッサへと返すと、

 

「あの異端者、聖女様に馴れ馴れしく……」

 

「実力があるとかなんだか知らんが、外様の分際で……」

 

 嫉妬交じりの視線を感じる。昨日よりも殺意が濃いのは、或いはウリエルとクラリッサが防波堤として守ってくれているからかもしれない。正直、そこに関しては申し訳なく思う。だがそれはそれとして、守ってくれるのは此方のパフォーマンスを維持する為でもある。有難く守って貰おう。流石に今、メシアンを殺すのは躊躇する。この先の関係を今はまだ悪くしたくはない。

 

『しかしのぉ、サマナー。連中、聖女聖女と呼んでいる癖に明らかに色欲を孕んでおるぞ。妾の欲望センサーに犯したいという意思がビンビン伝わってきて呆れ果ててしまうわ』

 

 姦淫は禁止していなかったっけ? ……まぁ、悪魔の絡んでいる世界なのだから、何かしらの抜け道が存在するのだろう。自分の中ではメシアンが関わりたくない連中トップクラスに入っている。アンが魔人のオーラで視線の類を全て追い出している間に、クラリッサと共に聖堂を出て、そのままアオモリを出る事にする。

 

 もう、アオモリに残る必要はない。アオモリを出た所で、クラリッサがさて、と呟く。

 

「もはや貴方の戦いに私は不要でしょう。私では足度纏いになる領域……ですが境目までは案内させて貰います」

 

「よろしく頼む」

 

「たのむー」

 

「ふふ、任されました」

 

 笑みを浮かべると、クラリッサが軽く胸を叩きながら任せろ、とちょっと、聖女らしからぬ動きを取った。でもなんというか、それがとても彼女らしいものに見えた。そして唱えられる魔法は《トラポート》、習得できる異能者も悪魔もそれなりにレアとなる移動魔法。それを利用してクラリッサが一瞬で場所をアオモリから本州と北海道の境目、

 

 その端の大地へと転移させた。

 

 そうやって到着した現場は異様だった。

 

 本州とホッカイドウの間には海が存在しない為、未定義の無の空間が広がっていた。だが宙は無事の様で、飛行すればその向こう側に行く事が出来る。だがその先にある景色は―――狂っていた。

 

 メシアが張ったとされる大結界、その障壁の向こう側は目(・)玉(・)が(・)張(・)り(・)付(・)い(・)て(・)い(・)た(・)。見える範囲、目玉が数千という規模を超えて張り付いており、そしてそれが一つずつ、この結界を維持するメシアンやテンプルナイトを監視していた。だがそれだけではなく、その向こう側の空間は狂い、螺子曲がり、そして風が吹いては血が結界に叩きつけられ、それが一瞬で渇いては新しい血液が結界に叩きつけられた。

 

 本能、そして生理的嫌悪感がひたすら脳の中枢を刺激し続ける光景だった。

 

 思わず足を止め、その景色を見てしまった。

 

「……うへぇ」

 

 そうとしか言葉を零す事が出来なかった。そして同じように景色を眺めていたクラリッサが声を張った。

 

「状況報告」

 

「はっ! 十数分ほど前に狂気結界に対するハスター陣営からの侵食が開始されました! 現在テンプルナイトとメシアン異能者の六芒浄化結界と聖遺物による増幅で何とか拮抗を保っていますが、限界が数時間以内に訪れるものと思います!」

 

「報告! 目玉を直視し続けたものが吐き気、嘔吐、PANICの症状を起こしています!」

 

「続報! PANICしたものが目玉を見るとどうやらPANICが深化し、精神そのものが崩壊するようです!」

 

「被害者多数! しかし心霊治療による回復を確認しました!」

 

「浄化装備による一定の効果を見せています。どうやら奴らには破魔がある程度通じるようです」

 

 見つめるだけで発狂死する恐怖の神話生物群、クトゥルフ神話。神話生物。真なる狂気。深淵にて覗き込む者を待ち続ける恐怖すら恐怖する宇宙の怪物。或いは、クラリオンと同種である事を考えてしまえば納得する事の出来る存在なのかもしれない。しかし、自分の《ハニー・ビー》を見て確認する限り、

 

 ホッカイドウの入り口が真っ赤に染まっている。

 

 《エネミーソナー》が雑魚ではあるが、数えきれないほどの敵の存在を伝えている。その姿を確認し、頭の後ろを掻く。参ったな、こりゃ、と声を呟かせる。そしてその言葉の続きを仲魔が引き継いだ。

 

『これは―――全滅したな』

 

 ホッカイドウが。間違いなく、この環境の中で生きていけるとは欠片も思いもしなかった。それを確認し、素早く装備を召喚する。浄化能力が桁違いの十束剣を取り出し、背負いながら黄龍刀を左手に、そしてブルームを右手で肩に背負う様に入り、それを大地に突き刺す様にセットする。そしてそこに、脳漿と石灰を固める事で作る事の出来る弾丸を装填した。即ち《魔弾タスラム》。最近スティーヴンがちょくちょく量産していたアイテムである。撃てば万能属性の弾丸となる。《塔》のカードにも持続時間がある。《アナライズ》は恐らく確(・)実(・)に(・)や(・)っ(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)行動だろう。たぶんそれをトリガーに破滅するだろうと、クトゥルフ系統の特性から判断する。

 

 だから弱点を気にしないで撃てる《魔弾タスラム》を装填する。これで万能属性で雑にゴリラアタックできる。カートリッジは全部で3個、一つのカートリッジに15発装填されている。全てセットして万能属性射撃は合計45発まで撃てる。これだけありゃ十分だろうとは思う。

 

「ラーマ、黄龍、ベル、ミコト」

 

『恐らくこういう類には妾の精神神経効果は一切意味がないじゃろうな』

 

『我も流石に力を使えば怪しまれるだろう。アクセサリとしてであれば問題ないぞ!』

 

 駄目です。スダマ先輩? 最近ちょっと眠りが浅いみたいなので少しお留守番である。まぁ、それでも十分に戦力は整っている。ウリエルからの情報で相手が超高レベル悪魔になっている事が唯一の懸念だが、それでもこの面子であれば最終的にはどうにかなると思っている。

 

「コウリュウ! 浄化波動を全力で放って狂気を中和できるか?」

 

「やってみよう」

 

「ミコト、アン、ラーマ、ベルは全力戦闘準備! 発狂しない自信のない奴は引っ込んでろ!」

 

 黄龍刀の柄を噛んで保持しつつ、両手でブルームを抱えて構える様にセットする。ラーマが《突撃の狼煙》で事前に能力を極限まで上昇させてくれる。ベルの《魔王の号令》で致命撃を極限まで強化される。事前に多重にバフを構築し、それでホッカイドウに乗り込む前に極限まで準備を重ねる。だが反発する奴がいた。

 

「貴様が誰かは知らぬが、我らに命令をするな!」

 

「クラリッサ様、何故このような無法者を!?」

 

「彼には力があるからです。サマナー・リュージ、ホッカイドウは……?」

 

 言葉にラーマが答えた。

 

「もう手遅れだよ、アレは。感染浸食の最終フェイズに突入しているよ。土地そのものを諦めるしかない―――あれはもはや汚物(カリ)としか表現できないものさ」

 

「そうですか……」

 

 クラリッサは悔しそうに言葉を呟いた。俺も、正直ホッカイドウそのものがアウトになるとは、思いもしなかっただけに少しだけショックを受けている。とはいえ、ショックを受けている暇があったら準備をするのが先決だ。黄龍が浄化の風と波動を放って、それで感染狂気を駆逐し始めている。これで眼球からの狂気感染は防げるが、それは所詮対処療法でしかない。

 

 ハスターを殺し、このホッカイドウの地を丸ごと浄化しなければそもそもの問題は解決しない。

 

 つまりホッカイドウを埋め尽くす狂気を滅ぼす必要があるのだ。

 

「忠告はしたからな……!」

 

 ブルームを構えて、クラリッサへと視線を向けた。それを受けてクラリッサが頷いた。

 

「対狂気個人クラス防御展開! 全魔力を防御に回して対ショック準備! 結界を一時的にだけ解除してから再構築します! その間、大結界なしで耐えますよ!」

 

「はっ! 了解しました!」

 

 クラリッサの指示に統率されたメシアンの返答が返って来た。それに合わせ、忙しくメシアンが動き出す。その動きを視界から外し、ひたすら、眼球の動きを見ていた。此方を見て、そして何も訴えない様な無機質な瞳を。何かを求めているが、訴えてはいない。不思議な目玉共だった。覗き込めば覗き込むほど、正気を失って行くのだろうが、

 

 日常的にSANITYを消費する仲魔がいるのだ、このレベル程度今更でしかない。

 

「結界解除します! 5秒前! 4! 3!」

 

 結界解除のカウントが始まる。それに合わせ一気に魔力を周辺から感じ、それが防御に入り、カウントがゼロになるのと共に結界が解除された。

 

 それと同時に、その向こう側に押し込められていた、ホッカイドウという蟲毒の大地で育て上げられた深淵の狂気が溢れ出す。空気、視線、音、気配、その全てを媒体に狂気感染するそれは一瞬で本州を染め上げようと大河となって未定義の狭間に堕ちながらも届こうとする。それを見て、笑みを浮かべる。

 

「それでも馬鹿は言うのさ―――馬鹿が何時狂気に負けるってな。《The Magician》」

 

 狂気が接触する瞬間、馬鹿どものカードを使用する。一瞬で精神に対する絶対的な無敵性を獲得し、それをサービスで軽く、広げてみた。範囲は広くはない。だが自分の近くに居る人間ぐらいであれば、その範囲に巻き込める。それで狂気を完全遮断、弾きながら、正面へと向けたブルームのトリガーを引いた。

 

 一発の《至高の魔弾》が放たれた。

 

 無限に加速し続ける弾丸は失速せず、距離を稼げば稼ぐ程速度を増加させ、そして一秒以下の時間で本州へと、溢れ出す狂気へと突き刺さって貫通し、その背後へと抜ける。

 

 本(・)番(・)は(・)そ(・)の(・)直(・)後(・)に(・)発(・)生(・)す(・)る(・)。

 

 《至高の魔弾》が放たれた後の空間を追従する様に、空(・)間(・)が(・)粉(・)砕(・)さ(・)れ(・)た(・)。追いかける様に弾丸が通った周りの空間が粉砕されながら歪み、砕かれ、微塵に粉砕されながらホッカイドウへと着弾する。距離を稼げば稼ぐ程破壊の範囲が広がる魔弾は着弾時には周辺半径500メートル範囲を巻き込んで粉砕するまでに加速していた。

 

 それによってホッカイドウの上陸ラインに集まっていた目玉と狂気の塊を吹っ飛ばした。

 

「ヒュー、派手にやれるもんだ」

 

 《魔弾タスラム》、銃に装填できる弾丸の中では威力、範囲、貫通力、連射性、その全てにおいて最高基準の弾丸。それゆえに作れる人物も、その数も限られている上に発射できる装備でさえも限られるというまさに魔弾の名に相応しいだけのモンスターバレットだった。なにせ、ルーチェ&オンブラでは射撃できず、ブルームでないと発射できないという問題児なのだから。

 

 それでもこれだけの効果があるのは知れて良かった。スダマ先輩なしでも距離さえあればこれは破壊力を稼げそうだ。そう思いながら迷う事無く前へと一気に加速し、

 

 アオモリ最後の大地を踏んで一気に跳躍した。

 

 本州とホッカイドウの間にある距離を、全力の超人の身体能力で無理やり飛び越えて突破してしまう。ホッカイドウの狂気汚染された大地にそうやって自分の足で踏みしめて、着地した。後方にメシアンたちを置いて。

 

 そして地獄を見た。

 

 土地は全て腐った色に変貌した、と思ったら爽やかなホッカイドウの景色が見え、次の瞬間には大地が全て内臓によって構築されているのが見えた。耳にはまるで誰かがすぐ側で呟いている様な雑音が響き続ける。常にどこからか視線を感じる。人間だった肉塊が死ぬ事も出来ずに死ぬ事を求めてホッカイドウの大地を徘徊し、喰らい合ってる姿が見える。

 

 空を見上げれば月に目玉が生えていた。

 

 空は触手で覆われ、呪われた演奏がどこからともなく聞こえてくる。空に舞い上げられた人間は高き空の中で降りる事も出来ず、永遠に終わらない絶叫と恐怖を吐き出し続けており、それが終わったら氷結して大地に叩きつけられて砕け散る。

 

 狂気、圧倒的冒涜と狂気。

 

 このホッカイドウという大地は全滅していたのがもはや確信できた。

 

 感じる範囲全てに狂気が蔓延している。触れてはならない、知ってはならない水底で眠る邪知が地上に溢れ出している。それを楽しみながら興味もなく空を触手を生やした肉塊の様な、不定形の様な、或いは形が存在しない翼の怪物が風を纏いながら飛んでいるその呼び声に誘われて眠っていた眷属たちが再び世界に姿を見せ始める。イタクァ、ビヤーキー、ミ=ゴ、そしてそれらの犠牲によって生み出された人だった異形の存在達。それだけがこのホッカイドウに残されている全ての生物だった。

 

 ある人間は肉塊だった。

 

 ある人間は脳味噌だけを生きたまま摘出させられ、それをデコレーションとして木に飾られている。だが狂気に汚染された木は肉塊となって脳を食った。そしてそれで融合して木はそいつとなった―――肉塊の木のまま。そしてそれを大地が食った。

 

「やれやれ」

 

 ブルームの先端を大地に突き刺し、そのまま引き金を引いた。放たれたタスラムが大地に突き刺さり、そのままそれが大地に亀裂を生み出しながら広範囲に広がって万能属性の爆裂を周囲へと広げながら大地から狂気の命を奪う。

 

 この大地に存在する生物、無機物、大地、それそのものがハスターに汚染されている。ブルームを引き抜き、引っかかる肉塊を振り下ろしながら、ハスターを見上げ、到着した仲魔たちに指示する。

 

「―――どれだけ土地を削ってでもいい」

 

 空に浮かぶハスターが敵を認識する。存在しない目で此方を捉え、そして歓喜と畏怖と恐怖と悲しみと人には理解できない感情で見つめてきた。もしかして眠っている子の事を感知したのだろうか? まぁ、しょっちゅうバカスカ打ち出しているから残り香があるのかもしれない。まぁ、それを察知されたところで、どうしようもない。

 

 ブルームを肩に乗せ、左手でカードを引き抜く。

 

 《The Temperance》、《The Strength》、《The Hierophant》のタロットを抜いた。間違いなく舐めて、或いは余裕をかまして戦える相手ではないと、空に浮かぶハスターを見て判断する。

 

「全部始末するぞ」

 

 これは残しておくだけ駄目だ。根本から切除しなければならない。ハスターを殺した上で狂気を破壊しなくてはならない。即ちホッカイドウそのものを破壊する必要がある。そうじゃなければ残って本州を汚染するだろう。

 

 故に、

 

 持てる力の全てで―――このホッカイドウを滅ぼす事を決めた。




 ホッカイドウ、ここに死す。道民はすまんな、肉塊か不定形になって大人しく滅ぼされててね……。

 完全な手遅れ。どう足掻いても救えない。何をどうしても助けられう生命はない。救いも再生もない。かかわった時点でハッピーエンドがない種族、それがクトゥルフ。そういう事もまた経験しなくちゃならない。

 まぁ、次回vsわくわくクトゥルフランドホッカイドウ。
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