「ただいまー」
ホッカイドウを軽く滅ぼした所でバーに帰って来た。面倒なので黄龍の背に乗ってDYING状態のカルキを大結界にぶつけて物理的に破壊し突破。クトゥルフ・ファック・ユー、最強なのは精神破壊より物理的な破壊なんだよ屑が、とメシアンの前で滅んだホッカイドウを存分にアピールした所で、クラリッサに軽く説教を喰らってバーにやっと帰ってこれた。色々と情報があるから、とりあえず次の行動に移る前に、落ち着ける場所で情報整理したいのが事実だった。
「良くぞ帰って来た旅人よ」
「何か土産はあるかな?」
「お帰りなさいませ、貴方の旅路を記録しましょう」
「うーん、今日は賑やか」
スティーヴンが部屋から出てきてバーに居るのも珍しい。支配人もどこか機嫌が良さそうだ。やっほー、と戻ったアンが上機嫌にラヴェンツァと両手を叩き合わせて挨拶をしているのが見えた。あの二人、どことなく同じ気配がするというか―――仲良くなるの、早いよなぁ、と思う。まぁ、それはともあれ、帰って来れたので八岐大蛇のデビルソース、ヘルとその兄弟のデビルソース、後はハスターのデビルソースを入手した事を告げつつ、カウンター席に座った。後は勝手にストレージからスティーヴンが引っこ抜いてくれるだろう。
そんな事よりも、
「めっちゃくちゃ疲れた……まさかホッカイドウが丸々ダメになるなんて思わなかった……」
カウンター席に座った所で額をカウンターに叩きつけて、疲れましたのアピールをする。それを見て支配人が興味深げに見てから、しかし溜息を吐いた。
「外宇宙の邪神群か。アレは根本的に好き勝手やっているだけだからロウもカオスもニュートラルもない、アライメントや人類の生んだ概念の通じないものだ。そもそも敵対する事が間違っているし、相手をするなら極論、精神耐性を高めて物理的に消し飛ばす以外の選択肢がない」
「魔界でもそういう扱いなんだな……」
ゴキブリとか、そういう類の扱いを受けている事を理解する。だが逆に利用できればそれだけのコズミックホラーが手元で扱える道具として備わるという事でもある。支配人が最高傑作とスダマを呼んだのはそういう意味があるんじゃないだろうか? と今更ながら思う。まぁ、それはそれとして、
「次の扉、見つかっちまったからなぁ……」
「ほう、これは年貢の納め時、というものだな」
後ろの方から背中に突き刺さる視線を感じる。それをガン無視する。もう少しだけ、もう少しだけ覚悟を決める時間をください、と胸の中で言い訳している。はぁ、と溜息を吐きながら本当にどうしようか、と呟く。いや、やるべき事は解っている。タイムリミットが来ただけの話なのだ。だから常識的に考えて……いや、常識的ではないが、それでもアンを、そしてベルを抱く必要がある。
ラーマとミコトが反動でしばらくDYINGで状態が固定されるとなると戦力はチェフェイ、ベル、アンがメインとなってしまう。黄龍は広大な土地が無いと召喚出来ないし、スダマは環境破壊がセット、鳩はメシアンの前では絶対に召喚出来ない仲魔筆頭だ。その状況でまたハスタークラスの相手をするのは厳しい。
やっぱり、ベルとアンのレベルを少なくとも自分やチェフェイクラスまで上げておく必要がある。扉を抜けた先でまた強敵とエンカウント、というのも十分にあり得る可能性なのだから。少なくとも1回、いきなり大型シャドウとエンカウントという事故が発生している以上、笑える事じゃなかった。
「しっかし」
呟く。
「大破壊……あんま、まともそうじゃない世界に繋がりそうだなぁ……」
そう言葉を口にした瞬間、ガラスの割れる音と、誰かが倒れる様な音に顔を持ち上げた。視線の先には車椅子を倒してしまったスティーヴンと、そして動きを完全停止させた支配人の姿が見えた。二人の姿を交互に眺めていると、スティーヴンが浮遊して車椅子を元に戻し、座った。お前今何やった? と思いつつも、スティーヴンが物凄い違和感を欠片も感じさせない、芸術的なターンを決めながら作業室へと消えて行く。
「ほ、ほら、作業があるので……」
「し、新作の開発をする為に少々裏へと引っ込もう……!」
『滅茶苦茶心当たりあります、しかも悪い事やったので超話しづらいですアピールなのじゃ』
物凄く良く解る反応であり、あちらの世界にはスティーヴンと支配人が確定、しかもおそらくはまるでロクな事をしていないという事実が判明してしまった。あの二人のリアクションがアレなのだから、これ、相当アレな世界なのでは? と、密かに《節制》と《剛毅》のカードを使ってしまった事を後悔している。メイン火力不在の状態でこの反応は少々やばいかもしれない。
「大破壊とは」
ラヴェンツァの声に、振り返る。
「とある世界にて発生する、東京や文明、社会を崩壊する現象に対して与えられる出来事の名称です。原因はICBMだったり衛星砲でしたり、或いは何らかの術や儀式と様々な方法で異なりますが、それで東京を中心として文明社会が崩壊した時の事を《大破壊》と呼んでいますが……」
ラヴェンツァが逃亡した支配人とスティーヴンを少し、呆れる様な視線で追った。この子も大分、表現が豊かになったような気がする。
「……ルイ・サイファーとスティーヴンの反応を見るに、どうやら原初の大破壊の事を思い出されたようですね」
「原初……あぁ、ザ・ヒーローとかって奴が出てくる」
その言葉にラヴェンツァが頷く。そういえば帝都に居る時、ベルがぽろっとザ・ヒーローとの戦いの話をしてくれたのを思い出す。確か東京が崩壊して、その後で極N-Nアライメントの少年がロウもカオスも皆殺しにしたお話だった筈だ。
『ちなみにその戦い、私も閣下も100レベルを超えた状態だったわ。天使共もね』
「えぇー……ウソだろお前……」
それ、ほとんど帝都でのカルキ&黄龍タッグを相手にした時と同じような状況ではないか。ちょっと、というか余りにもアレ過ぎてちょっとびっくりするんだが。というか最終的にそういうレベルの悪魔が出没するんだぞ、とベルが教えてきてる。これ、間違いなくアンを押し倒せと暗に伝えてきているだろう。
「まぁ、それ以外にもメギドアークの発射や、東京受胎もありますから……」
「それ、スケール大きくなってないかな、ラヴェンツァちゃん」
「……おや?」
ラヴェンツァがてへり、とアピールしてくるが、可愛いので許す。そしてその許しの視線を感知したアンが近づいてきて此方の頬を掴んで引っ張ってくる。浮気をするつもりは一切ないから、許してほしい。だけど、そうか、と呟く。
「今度は崩壊した世界が舞台になるのか……予め物資をストレージに積み込んだ方が良さげだな」
帝都や巌戸台の時の様な、現地で大量の物資を調達するというスタイルは出来なさそうだ。一応、帝都や巌戸台から大量の食糧や生活必需品は持ち込んでいるのだ。少なくとも一財産になりそうなレベルで。これだけであれば此方の世界での生活も楽になるだろう、という為に。だからある意味、それだけならこれで突入できるが。
「何を持ち込むべきかなぁ……」
カウンター席、足を組み、腕を組み、考える為に思考を巡らせようとして、
『で、そうやって逃げるのサマナー?』
「……」
『私、二度目は言わないわよ』
それだけ告げて、DDSが黙り込んだ。何もわかってなさそうなラヴェンツァとアンだけが此方を見て、動きを停止させた姿に首を傾げている。バーのベルベットルームのあるコーナーへと視線を向ければ、ベラドンナが少しムーディーな曲を歌ってくれているし、ピアニストが演奏の合間、片手でサムズアップを向けて来る。
余計なお世話だよ畜生。
頭の後ろを軽く掻き、とりあえず、
「……シャワー浴びてくる。絶対入ってくんなよ?」
身を清めてくる事にした。困った。そして本当に困った。とりあえずこの頭を冷やす為にも、冷水のシャワーを浴びに行く事にした。
冷水のシャワーを浴びても、まるで頭の火照りが消えない。相当参っているらしい。上だけ裸の半裸の状態で、水滴を全て拭った後でバーから通じる今の自室へと向かい、ベッドの上に倒れ込んだ。そのまま、壁側を向く様に顔を隠し、溜息を吐く。
……うん、解ってるんだ。世の中そんなに甘くないって。
壁を向き、ベッドに倒れたまま思考する。冷静に。自分がここ数か月、サマナーとして積み上げた判断だ。ハスターを倒す為にカルキとミコトをDYINGさせたのは必要経費だ。アレは放置してればその内更に大きな災禍へと繋がるタイプだ。だから迷わず処理する事が重要だ。その後、戦力が一時的に低下するとしても。
その結果、戦力は限られてしまった。しかも相手にレベル100以上の悪魔が出現する可能性があるのであれば、事前準備にベルとアンのレベルをチェフェイと同じラインまで上げておく必要がある。レベル差が大きくなればなるほど、動きが乱れて仲魔で連携させ辛くなる。だからなるべく、仲魔内でのレベル差はフラットな状態が理想的になる。だからベルとアンも70代後半までレベルを上げるのが理想なのだ。
だが戦えるような高位悪魔はそうそう出現しない。居るとすれば山本五郎左衛門とウリエルぐらいだろうが、日本で活動している組織のトップを襲撃するとか、国そのものを敵に回しかねない行いだ。ガイア、メシア、そして日本を乱すものとしてヤタガラスとクズノハも制裁してくるだろう。流石にそれは本意ではない。ならどうするか? と言えば一つだ。
セックス、それが一番効率が良い。
古来から性交は儀式の一つとして見られており、互いを高め合う為の行いでもあった時代が存在した。だがそれだけではなく、Magを譲渡する上で一番これが効率の良い手段でもあるらしい。生活を通した感情などの高まりからMagは生まれる。故に性交中はMagが人間側から生み出され、ロスを少なくMagを譲渡し、それで仲魔を強化する事が出来る。まぁ、それでも仲魔にはレベルの上限が設定されている。これで強く出来る範囲にも限界はある。
それでも仲魔がレベル限界に到達していない場合、或いは自分のレベルに並べる場合に関しては、これが非常に有用な手段になってくる。それとなく飲み会の時に話を聞いてみたが、仲魔の性別を異性にして使役するのはこういう手段を必要な時に取れる為でもある、というのがある種、業界の常識でもあった。異形型悪魔用に擬人薬なんてものも存在していたりするらしい。逆に異形フェチを満足させる為だけに異形化薬もあるとか。
助けを求めようにも、DDSの連中はうんともすんとも言わない。自分で考えろ、と言いたいのだろう。お前ら、普段は茶々を入れるのに、こういう時だけは直ぐに無言になって黙っている。
本当に、優しい連中だ……。
壁を向いたまま、溜息を吐く。そして解ってる、と呟く。
抱かなきゃダメなのは解っている。そもそも俺が弱い。一種の一芸を持っているからこそ、どうにか戦闘に参加できているというだけだ。これで《ガンスリンガー》さえなければ魔弾も放てず、完全にお荷物だっただろう。だがそれでも、本当に高位悪魔相手となると、俺が参加できる隙は全く無い。事実、ハスターとの戦いでは俺が一つもハスターへと攻撃できていない。全部、戦闘力トップスリーの仲魔に任せている。
ミコトの言っている事は間違っていない……だからこそ仲魔をなるべく強化しておく必要があるのだ。理屈では解っている。それは、それに別に抱きたくないという訳ではない。寧ろ逆だ。同じ時間を過ごせば過ごすほど彼女が魅力的に思えてくる。そのまま押し倒して滅茶苦茶にしてやりたいと思える。
何時もは済ました表情しかしていない彼女のあの表情を、快楽でどろどろに蕩けさせてやりたいと思っている。犯して犯して犯して、組み敷いて泣いても犯して体に徹底的に自分という存在を刻み込んでやりたい。超人になったからか、或いはそういう素質があったのかは知らないが、それでも彼女を犯したいという気持ちがある。そういう考えをすれば普通に勃起もする。
……うん、健全な男子なのだ。そりゃあ、獣欲の一つや二つぐらい抱えている。
「だけど、そうじゃないだろ!? 大切にしたいだろ!? 一時の衝動で押し倒すのは良くないだろ!?」
言い訳染みた言葉を吐き出す様に口にし、しかし逃げているだけだと自分でも解っている。あの子はずっと、こっちを待っている。受け入れる準備が出来ている。だから問題があるのは俺の方で、単純にヘタレているだけだ。
自分とあの子の関係が壊れてしまうんじゃないかと、それを恐れているだけだ。
だけどそれがそう簡単に壊れるものではないと解っているのは、誰よりも俺だった。仲魔を含めたこの出会いの中で誰よりも弱く、そして助けられないとここまでやってくる事も出来なかった俺だからこそ、解るのだ。彼女は俺を見捨てるつもりも、変わるつもりもない。彼女は彼女だ。抱いた程度では、何も変わりはしないって。恐れているのは俺だけだ。
変わってしまう事を俺が恐れているのだ。
彼女はそうでも、果たして俺がそのままでいられるのか。
少しずつ、少しずつ、戦いを重ねるごとに変わっていく自分を自覚する。少しずつ、殺すのに慣れていく。誰かが死ぬ事にあぁ、また誰か死んだのか、と受け流す。《サマリカーム》すればいいだろう? と死ぬ事が、命の値段が軽くなって行く。俺が死んでも戦いに勝てるならそれでいいし、終わった後で蘇生して貰えばいいや、と思ってしまう所もある。
俺が、昔の頃から大きく変わってきている。それはもう自覚している事だった。そしてたぶん、その内ミコトと合体もするだろう。そうしなければこの先へと進む事も出来なさそうだからだ。全部、俺が未熟で、そして心が弱いからだ。だからもっと、強い心が欲しい。常にそう願っている。
だけど何時だってそうならない。まるで試すかのように毎回、世界が心を折りに来る。
一体何度、俺は苦しめばいいのだろうか。
辛い……そしてしんどい。
「ふぅー……どうすっかな……」
呟き、顔を枕に叩きつけてひと眠りしてから考えようとすると、扉の開く音がした。たぶん、アンが入って来たのだろうと思う。今はちょっと、顔を見るのが辛いのでそのまま、振り返らずにベッドに横倒しになった状態で倒れていると、
無言のまま、近づいてくる気配がした。振り返らずそのままでいると、近づいてくる気配がぎしり、と音を立てながらベッドの上に乗り、
―――そしてそのまま、ぴったりと後ろにくっついた。
背中に柔らかくもボリュームのある主張をそのまま、素肌で感じられる。少し、しっとりしているのはシャワーを浴びて来たからだろうか? なんて事を冷静に考えていた。背中にはアンの柔らかいふくらみ、それがダイレクトに押し付けられていた。
それが彼女がどういう姿をしているのか、想像するには難しくはない。
「……」
此方が無言を保っていると、更に後ろから密着する様にアンが体を密着させてきた。裸の背中と胸が密着し、押し付けられる様に触れたそれが、挟まれる様に形を変えるのを背中で感じられる。そして更に密着したアンが、腋の下を通す様に、腕を回した来た。そのままぎゅっと、後ろから抱きしめられる。
「……」
「……」
肌の感触を感じながらしばらく、互いに無言を貫き通した。眠気はない。このまま眠る事なんて不可能だった。そのまましばらく、互いの体温を感じとりながらこのままの姿勢を維持していた。だけど、沈黙を破る必要があった。だから、
「俺さ」
「うん」
「……実は、さ。怖いんだ」
「……うん」
言葉に詰まりながらも、それをなんとか、アンに伝える事にした。体を動かさず、少ししっとりとしたアンの肌の感触を背中に感じながら。言葉を続ける。
「君を……抱いたら、それで俺が変わってしまいそうで、今の関係が変わってしまいそうで……触れるのが、怖いんだ。ずっと君と一緒に居たいけど、触れた結果消えてしまいそうで、泡の様に溶けてしまいそうで、夢から覚めてしまいそうで……どうしようもなく、怖いんだ」
夢、そう、全ては夢。
深淵で夢を見続ける白痴の王の様に、夢を見続けているのかもしれない。壮大な冒険の夢を。だけどその中で、本当に幸せだと思ってしまったら、
その夢が、終わってしまいそうで、
全部消えて、普通の学生に戻って―――そんなの、今更耐えられない。
考え出せば頭の中がぐるぐると回り始める。好き。怖い。大事にしたい。夢から覚めたくない。旅をし続けたい。一緒に居たい。変わりたくない。だけど進みたい。複雑な感情が絡み合って、それを表現する事が出来ない。そのもどかしさを言葉にする事が出来ない。だから言葉に詰まってしまう。
「あの、ね」
それをほぐす様に、アンが言葉を口にする。顔を寄せ、それを肩の上に乗せ、首に自分を擦りつける様に、身を寄せて来る。
「最初、に……ね。リュージ、見た時……は、凄く、可哀想に……見えた」
酷かった。支配人に助けられた直後の時だった。これが力になると人修羅・アンを預けられた。その頃の俺は地獄から逃げ出したばかり、安全な場所を探そうにも見つからず、そして漸く見つけたのが支配人だった。そして助けられ、アンと出会った。
「辛……そう、で。泣、きそ、う、で……だ、けど。ちゃ……んと、見て……た」
アンは、それを嬉しそうに言う。
「ちゃんと、私を……見てた」
あの時の俺は、この少女の異様な恰好と、文様と、しかし触れられない、芸術の様な美しさに言葉を失っていたのだ。この美しい、穢れの無い少女を預けられた状況に呆然としつつ、しかし生き延びなくては、という感情で溢れていた。そしてこの子も、今度こそ、絶対に一緒に生き延びるのだ、と。自分にそう言い聞かせていた。誰も助けられなかった。全てから逃げた。だからこの子だけは絶対に死なせてはいけない。
……そんな彼女は自分よりも強く、そして悪魔を殺せる実力を持っていただけに全く意味のない覚悟だったが。
「でも、嬉しかった」
アンは言う。
「私、は、まだ、意識、が……薄……かった」
ぼんやりしていた、とアンは言う。
「中に……記憶、記録、なんか……いっぱい、あった。私じゃない、もの、たくさん、あった。だけど―――」
だけど、とアンが言葉を区切り、そして小さく笑った。
「リュージが、見てくれたおかげで、私は……《私》に……なれた」
そして、
「リュージを見た。頑張って。泣きそうで。でも頑張って、少し、空回ってる、マイ・サマナー」
アンは、嬉しそうに、幸せそうにそれを呟いた。胸にこみあげて来るものがある。そしてアンは言う。
「リュージ、の……背中、姿、情けない、って……人は、思う、かも、しれない、けど……」
言葉を強く、感情を込めて、何時もよりもちゃんと喋れるように、アンが想いを込めて言葉を放つ。その一言一言だけで泣きそうになってしまう。ほんと、別に涙脆い訳でもないのに。涙が流れそうだった。
「だから、私は、リュージの、ちょっと、情けないけど、ちょっと、無理な、頑張って、笑ってる……恰好付けてる、姿、が……」
アンが言葉を区切り、背中から感じるアンの鼓動が、何時もよりも早いのを感じとりながら、その言葉を聞いた。
「好きだよ」
その言葉を聞いて、我慢できなかった。
アンを押しのけて振り返り、そのまま此方から抱きしめて、体を引き寄せて唇を重ねた。一瞬だけアンが驚くも、直ぐに応える様に目を瞑って受け入れた。だがそれだけじゃ足りなかった。そのまま舌で唇を割り、口内に侵入し、舌先でアンの舌先に触れ、突き、そして反応する様に絡めて来る舌を受け入れながら唇を重ねた。
数秒間、たっぷりとディープキスを続けてから口を放し、押し倒すような姿勢でマウントを取った、アンの姿を見た。湯上りで髪が少しだけ濡れており、ベッドの上に広がっている。両腕は頭の横へと倒されており、頬は紅潮している。興奮しているのか胸が早めに上下しており―――服を纏っていない体が目前に晒されていた。
「そんな事を言われて、我慢できるほど俺だって自制できる訳じゃねぇんだよ……!」
「ん……恥ずかしい……けど、リュージ……なら、いいよ」
腕を広げ、求める様に差し出し、アンが表情を、明確に微笑ませた。
「いっぱい、愛を、ください」
ずっと、頑張って来た。そしてずっと横に居たからそれを見て来た。知っている。解っている。だから好き。
という訳で漸くR18が全うに仕事をする次回。