「もうやだ、死にたい」
カウンターに言葉と共に突っ伏すと、背中を軽く叩かれた。視線を持ち上げれば、ディオニュソスがサムズアップを向けている。
「で、どっちの膣のが気持ち良かった?」
ルーチェを引き抜いてそのまま頭を吹っ飛ばしてやった。
しばらくあの世で反省してろよお前、とディオニュソスが《不屈の闘志》で甦るのを眺めつつ、もう一度溜息を吐き、カウンターに突っ伏す。自己嫌悪で軽く自殺したい気分だった。まさか、まさかだ、
「まさか俺があんな人間だとは思いもしなかった……」
頭を抱えて蹲る。結局、ベルとアンを並べて、夜通し犯すのだけでは満足できず、そのままもう一晩ぶっ通しで二人を犯し続けた。覚えたての猿みたいにひたすらセックスしてはセックスをし、そのままセックスを続けて精液で腹が膨れるまで犯し続けた。そして自分のMagが減ってきたところで漸く正気に戻れた、という始末だった。その時にはアンもベルもベッドの上で精液濡れのまま倒れていた。あそこまで気持ちいいとは思わなかったし、
それに女を屈服させる事があそこまで楽しいとは、まるで思いもしなかった。
今でも二人の喘ぎ声を、悦ぶ表情が、そして逸物で膣を貫いて犯す時の声が、表情が、感触が思い出せる。それで興奮しそうなのを無理やり精神力で抑え込み、溜息を吐く。ブラフマーがディオニュソスを店の外へと捨てて来るのと入れ替わる様に、店の入り口からアロハシャツの男が帰ってきた。
「I’m Back! マスター、ストロベリーサンデーを頼むぜ」
アロハシャツ、サングラス、短パン、脇にシーサーを抱える上に麦わら帽子という恰好だが、どこか似合っている事を感じさせるのに激しく負けた感じがした。シーサーは体を震わせるとバー内を歩き出し、気に入ったコーナーを見つけて丸まった。ダンテ同様、勝手な奴だった。その姿を見て、カウンターの支配人が呆れた表情を浮かべた。
「ダンテ……もう戻ってきたのか……」
「なんだ、俺の事が寂しくて涙で枕を濡らしてなかったのか? 俺に一つ盛大なハグでも……あー、やっぱお前からはいらないわ。坊主からもらった方がまだマシだな」
「このダンテイズムよ」
バーの中が一気に騒がしくなった。こいつ一人でだいぶ騒がしくなってくるのは、この男の特有の暖かくも騒がしい気配のせいだろう。笑いながら戻って来たアロハダンテは適当にカウンター席に座り、自分は目の前に置かれた水をちびちび飲む。自分がやった事を反省して、ちょっと食欲は激減していた。あれほど荒れるとは俺も思いもしなかった。
ベルとアンはチェフェイを連れて女子会を始めてしまったので妙に疎外感感じるし。
「というかダンテ貴様、どうやって帰ってきた」
「ん? あぁ、アカラナ回廊渡ってきたんだよ」
その言葉に支配人が動きを止めた。それに聞いた事のない単語だった。
「アカラナ回廊……あれが復活したのか?」
「現代Onlyだけどな。過去にも未来にも繋がる道は壊れてた。普段住み着いている連中も大半が消えてたぜ。今は便利な移動手段程度だったぜ」
アカラナ回廊、聞いた事のない場所だった。気になるのでCOMPを取り出し、軽くキーワードを入力して検索してみる……反応があった。悪魔業界ではそこそこ知られた場所らしく、どうやら未来や過去へと移動する事の出来る場所らしい。ただし侵入手段がルナティックとでも表現できる難易度であり、根本的に利用できるような場所でもない。だが入り込めれば過去や未来へと移動する事も可能となる。
ほんと、この業界は滅茶苦茶だった。これを使えばもしかして崩壊世界を救えるのでは? と一瞬だけ考えたが、未来も消えてた、とダンテは言ってたのだ。つまりまだ、救えるような状態ですらないのだろう。一瞬だけ見えた希望が消えてしまった気分だった。
「それよりどうしたんだよ坊主。まるでこの世の終わりの様な表情をしてるぜ。まぁ、世界は既に終わっちまったんだけどな」
まるで笑えない冗談だった。背中を叩かれるも、まるで笑えない。だけど、まぁ、振り返り、アンの姿がないのを確認してから、一瞬だけどうしようか考えて―――この中ではまだ比較的にまともな人間の男という事もあって、ダンテに相談する事にした。ともあれ、昨晩何をしたのか、そして今、どんな気分なのか、それを口にしてみた。滅茶苦茶恥ずかしい話だが、不思議とこの男になら話せる気がしていた。
それを聞いて、ダンテは珍しく茶化すわけでもなく、口を閉ざす、
「Hmm……ちょっと難しい問題だな」
ダンテは少しだけ考えてから、
「お前の仲魔や店の連中はなんて言ったか?」
「気持ち良ければそれで良くね? って」
「あぁ、まぁ、だろうな」
連中、セックスをスポーツや娯楽の一つ程度にしか考えていない。おかげで相談する意味がまるでないのだ。だからここで、一番まともそうな人間であるダンテに話をするのだ。彼以外の人間はここではベルベットルームの絵師とピアニスト、それと後はスティーヴンだが絵師以外は全員童貞だった。そして絵師も今は出張中でバーにはいなかった。だから頼れそうなのは、ダンテぐらいだった。
なので何か、導きの様なものを期待してダンテへと視線を向ける。それを受けてダンテは顎髭を軽く擦りながらHmm、と物凄い綺麗な発音で呟く。
「まぁ、俺もそこそこ女遊びには慣れてるからな……あんまり参考にならないぞ?」
「人間からの意見の方が悪魔より参考になりそうなんで」
まぁ、それなら、とダンテが言葉を口にする。
「まず、お前はちょっとセックスに幻想を抱き過ぎだ。気持ち良くて楽しいなら別にそれでいいだろう? 第一相手が了承してきて何も言われてないんだろう? だったらそこに罪悪感を感じる方がおかしいんだよ」
「えぇー……」
物凄い暴論を叩きつけられている気分だった。
「いや、だって」
「いやもクソもねぇだろ。相手が喜んで、自分も喜んで、気持ちの良いセックスってのはそういうもんだろ? そりゃあ相手が嫌がったり止めてって叫んでるなら話は分かるぜ? だけどそんな事言われたか?」
「いや、まぁ、なかったけど……」
というか足を回されてがっつりホールドされたりしてた。ベルなんか滅茶苦茶誘惑して積極的に犯されに来てた。それは真面目な事実だし、ベルに対抗心を燃やしてアンも這い寄ってきていた。その姿は滅茶苦茶興奮したのも事実なのだ。
「だったら悩むほどの事でもないだろ。相手が気持ちよく、そして楽しんでいたって解るならお前はそれに胸を張ればいいんだよ。セックスってのは双方気持ちよくなって意味があるんだ。それが達成できたのなら成功したって事だろ」
それに、とダンテが付け加える。
「本当にショックを受けたのか? 人間の薄皮一枚下がどうなっているのかはお前自身が良く知っている事だろう?」
「……」
「だから大事なのは忘れない事だ。セックスするなら自分だけじゃなくて、しっかり相手も楽しませる事。お前は悪魔じゃないんだ。ちゃんと忘れず、一人だけ楽しむようにならなければそれで大丈夫だろう」
ダンテの普段の言動や行動とは違い、彼の今の発言は恐ろしく真っ当なものだった。そしてそれだけではなく、真面目に頷ける内容だった。確かに途中からは結構勢いで犯し続けてたが、それでもベルもアンも、起き上がった頃は文句を言うどころか楽しんでいたし、またやろうとかまで言っていた気がする。その事を考えれば、自分の手綱を放してしまった事が失敗なだけで、セックス自体は悪くなかったのだと思える。
まぁ、初めての経験だっただけに、色々とショックが重なってしまったのかもしれない。
「誰だって初めてはある。それで少し暴走するのもしょうがないだろ。俺も初めてデビルトリガーを引いた時は酷い事になったしな」
「たぶんそれ違う話」
すかさずツッコミを入れると、ダンテが笑い声を零す。
「ま、頑張りなよ、坊主」
頭をぽんぽんと叩かれ、ストロベリーサンデーを支配人から受け取ると、それを食べ始めながら声を零してくる。
「それに一度抱けば次があるからな。お前のガールフレンドも、仲魔も、いよいよ解禁って事だからどうせ何度も抱くんだ。今のうちに諦めるか慣れた方がいいぞ」
「待って、最後に爆弾発言を置いてかないで」
ど、どういう事だダンテ! 答えろよダンテェ! と声に出すが、ストロベリーサンデーの世界へと旅立ってしまったダンテにはもはや、その声が届かない。完全にストロベリーサンデーの世界へと突入している。このアロハほんと役に立たねぇなぁ! と評価していると、COMPから仲魔の声が聞こえてきた。
『主殿よ、性交は最も簡単な力を高める為の儀式だ。それにサマナーはどうやら膨大なMagを生み出し維持できる体質の様だ』
「つまり」
『長時間交わる時間さえ確保できれば、強力な悪魔を相手にせずともレベルだけであれば双方向の交わりで強くなれるだろう。アン殿が初を頂いた今、女性陣にはもう遠慮する理由がない。それ以外でも性交渉は魔術との関わりが深く、悪魔によっては交渉として要求する場合もある』
「知りとうなかったわそんな話……」
溜息を吐きながら頭を抱える。とはいえ、ダンテと話したおかげで気分は比較的に楽になっていた。少なくとも罪の意識は感じない程度に。気持ちいいのなら、気持ちが良い程度で考えておけばいいって。まぁ、結構インパクトの強い初体験となってしまったが、それでも想い出に残るって考えればいいのだ。そう考えれば良い。チェフェイが部屋の角から女の顔で此方を誘っているのはこの際、無視する。今はとてもじゃないが、そんな気分じゃない。
それに今、漸くレベルが揃った。
レベルが77のラーマ、ミコト、黄龍、チェフェイ。レベルが74まで上がったアンとベル。この程度のレベル差であればほぼ誤差のラインだ。レベル差が5あれば流石にまたレベルを上げる事を考えたが、これであれば問題はない。そして自分も、セックスをした影響でレベルが1上がってレベル78になっていた。後2レベル程上がれば自分もレベルが80代になるだろう。
後一週間ぐらいセックスしてればレベルが上がりそうな気配がある。とはいえ、そんな事している暇がないのだが。まぁ、ガイア連中が専用の性魔術を鍛錬した巫女を保有する理由が良く解るものでもあった。気持ち良くて、楽しくて、それで強くなれるのであればやらない理由はないよな、と思う。
手段だ。手段の一つとだけ、思っておこう。
それにそもそも、俺はレベルが上がっても今更、恩恵が薄いだろう。俺のレベルが上がっても使役できる範囲が広がる以上のものがない。
だから一旦、情事の事を忘れておく。チェフェイに関してはその内、抱かなきゃ拗ねそうだなぁ、と思いながら。
「次の扉……大破壊って話だけど。何を持てばいいか解る?」
その言葉に支配人が渋い表情を浮かべるが、即座にそうだな、と言葉を零す。
「大破壊……もしそれが私の思った通りの世界になるのであれば、それは二段階のステージで構築されている」
「二段階?」
その言葉に支配人が頷いた。
「一つ目は最初のまだ文明のあった頃。カオスを象徴する自衛隊のクーデター。そしてロウを象徴するアメリカ大使館。この二大勢力を中心にニュートラルを象徴するレジスタンス勢力の三つ巴の戦いだ」
「また争ってる……」
カオスとロウ勢力、常に戦い続けないと満足できないのだろうか、連中は。いや、或いは一方的にロウ……というよりメシア勢力が排他的なのだろう。聞いてみた感じ、ガイア勢力は何時だってそれをメシアが許容できるのであれば、ガイアに含んでも良さそうな感じがあった。少なくともそういうのを受け入れられるからこそのガイア、という感じはあった。
ただメシアがガチキチの終末前提思想な上に全ての宗教思想に対して排他的なのが悪い。
つまり存在そのものが割と終わっているという悲しみ。
「あぁ、そしてこの戦いはICBMが東京に落ちる事で終わる」
「マジかぁー……」
「発射するのはロウ勢力―――というよりメシア教だ」
「言葉も出ない」
ベルたちがガイアやメシアを説明する時、何で連中がキチガイであると良く表現しているのかが解った。確かにこれはキチガイの所業だわ、と納得するしかなかった。なんでいきなり東京にICBMをぶち込む必要があったのだろうか。
「そして続きはその30年後、ロウ勢力がカテドラルを東京湾の上に建築した。その周辺を舞台にカオス勢力とロウ勢力が争い、大洪水で地上が一掃されたり」
「地上滅んでる……」
「後はそれら全員をザ・ヒーローが皆殺しにする戦いだったな」
「強い」
支配人の話を聞き、体を起き上がらせ、腕を組み、考える様に天井を見上げ―――そして視線を戻した。
「なんだこの
ICBM落として大聖堂建築して大洪水で地上を滅ぼすっていったい何事だろうか。マジで連中一回は終末を経験しないと駄目とか、そういうルールでもあるのだろうか? なんというか、話が通じる通じないとかそういう次元を軽く超越している予感しかしなかった。
「まぁ、ベルベットルームを拠点に活動すると良いだろう。アレは時の流れに縛られない。ICBMも大洪水も30年の時もベルベットルームで時間を進めれば問題なく到達できるだろう。恐らく世界の記録、その取得完了に必要なのは物語をその区切りまで進める事なのだろうと私は思っている」
つまり、ICBMや大洪水の対策を事前に考える必要があるのだろう。その事実に、軽く頭を掻き、そして溜息を吐く。進む先は最初、こことは違って文明のある現代らしいし、その間は特に生活は心配する必要がなさそうだ。問題はICBMが落ちた後、支配人が説明する所ではどうやら今の崩壊世界よりも酷い状況になる様だった。
その事を考えたら、事前に物資やアイテムの類を詰め込んでから出発したほうがいいのかもしれない。それにあんまりのんびりやっていると、一人だけお預けを喰らっているチェフェイに襲われかねない。なるべくラーマとミコト復活の時間を稼ぎたいが、それを待っていた所で世界がまた未定義に飲まれ始めても困る。
行動できる時に行動するべきだろう。
それを考え出すと、自然と前向きになれる。
「……うん」
よし、と呟く。やる事が見えると自然と冷静になって考えられるのは、ある意味職業病かもしれない。もう既に自分も、超一流と呼べるだけの実力を兼ね備えたデビルサマナーだ。何時までもぐだぐだしている訳にはいかない。セックスも道具の一つだ、そう割り切るしかない―――アンが相手の時以外は。
だから何が必要になるのかを考える。まず崩壊する世界でバックアップがベルベットルームだけの事を考えると、食料と弾薬などを大量に持ち込むのが良いだろう。それ以外にも交渉用の宝石、スキルカードも欲しい。
とりあえず、レベルは揃えたのだ。次の世界へと移動し、この世界を再生する為の作業を始めたい。ラーマとミコトが死亡しているが、危ない所へと近づかなければいいんだ。レベル100を超えた悪魔の相手とかは、ザ・ヒーローとかと呼ばれる奴に任せればいい。そう、帝都の時みたいに関わる必要はないのだ。
そして準備が終われば―――次の世界へ。
なんだかんだでアイツ、経験数ありそうだよねって。
振り返ってみれば自己嫌悪はあるけどやっぱ気持ち良かったので、うん、まぁ、理由をつけて……な! という感じ。ストレスしか存在しない状況だしまぁ、しょうがないのはしょうがないよな、とは。
なおお預け駄狐。漸くセックス解禁という事で出来る範囲も増えた所で、
次回、崩壊前の真1世界へ。メシアの酷さが良く解る世界。