大破壊
出発の朝、スティーヴンが出てこねぇなぁ、と思ったけど既に仕事は完了しており、気が付いたらストレージの中にアップグレードマニュアルが追加されていた。どうやら今回持ち込んだデビルソース等でルーチェ&オンブラ、そしてガンナーズブルームを強化してくれたらしい。ガンナーズブルームは動力部分とフレームの大幅な強化を行って飛行制限を排除、成層圏までぶち抜いて行けるパワーを手に入れた。
そしてルーチェ&オンブラは神話級の存在の素材を利用する事で全体的に強化された。今までは魔人クラスの人間が使用しても壊れない、連射の利くハンドガンという形だったが、それだけではこれからの戦いについて来れない為、全体的なオーバーホールを行って強化された。強度、連射力、対応弾種、全てが強化された。今まででも人間が振るう事の出来ない武器だったが、その怪物っぷりに拍車がかかった。更に、使用者のMagを吸い上げる事で純粋な破壊力が上昇する様になった。
メインウェポンが銃であり、これからも使い続ける前提なら武器の強化も必要であろう、という事でデビルソースを使ってスティーヴンが強化してくれたらしい。そのおかげでこれからは上位悪魔相手に通常弾で十分なダメージが叩き込めそうになった。それにラーマがDYING中でもあるので、それに合わせて再生阻害弾を幾つか納入して貰った。撃ち込めば魔に属する存在限定で回復魔法や再生能力の類を一時的に無効化させる事が出来る。
なお、材料はラーマの髪の毛である。ちょっと切らせて貰った。
そう言う事でラーマ、ミコト死亡状態で再び日本の最北端、つまりは
「……少しだけ浸食してるな」
「そう、なの?」
「まぁ、普通の人には解らないかな」
自分だからこそわかる様なものだ。前よりもほんの少し、気付きもしない程度だが世界の終わりが近づいている。この感じだと三カ月もすれば日本を削り始める感じだろうか? まぁ、今まで通りのペースなら余裕がある。ただあちらの世界では30年の時間が必要となるらしいし、その事を考えたら微妙……だろうか?
どちらにしろ、やるかやらないかだ。そしてやる、と決めたのだ。だったら足を止められない。
世界の終わりから目を離し、視線を背後、モニュメントの代わりに設置されている世界の扉を見た。そこに刻まれている大破壊というタグを確認し、ふぅ、と息を吐く。これを抜ければ新たな世界に到達する。だから深呼吸をして、それを抜ける準備をする。出た先はどうなっているか解らないので、ブルームを横に浮かべ、ルーチェ&オンブラを両手に握り、十束剣を背負う。横を見れば、アンがサムズアップを向けてくる。
「私も、いけるよ」
「うっし」
セックス以来、アンも足りなかった何かを補充したのか、言葉が前よりも少しはっきりしてきた。なんというか、欠如していた人間性を再獲得している? 或いは定義されている。そういう感じだった。まだ口数は少ないし、無表情というかクール系? みたいな雰囲気がある。だけど前よりも楽に喋れる様になった、というのは見えた。
「いこ、リュージ」
拳をアンが持ち上げてくる。銃を握ったまま底を見せる様に拳を持ち上げ、横に並んだアンと拳の底をぶつけ合った。それで勇気を分け与えて貰う。
そのまま、目の前の扉を蹴り開ける。そしてそれを抜けた。何時も通りの光と世界を超える感覚が包んで行く。だけどレベルも上がり、そして二つの世界を超えてきた。この程度で揺れる程、弱くはなかった。
つまり、慣れた。
扉を広げた先に広がっていたのは―――宇宙だった。
無限に無限を内包し、その無限が無限を生んでいた。その間を一つの道が繋がっている。それこそがこの世界の扉だった。無限に存在する宇宙に設置された、専用の通路。それを渡る為の入り口。ある意味、アカラナ回廊と同種の存在なのかもしれない。それが今の自分には良く見えた。
だからそこで足を止めて、振り返った。
そして見た。
「なんだこりゃあ……」
振り返った先に存在するのは自分が通ってきた扉だった。だがそれは虫食いの様に所々欠けていた。一部が古く、継接ぎの様に別々のパーツで繋げて応急処置している、という感じの扉だった。いや、まさしく丁度自分の世界の状態でもあった。それが良く理解出来てしまった。
「瀕死、じゃねぇか」
見えてしまった。スティーヴンや支配人、あのバーに集まった連中の視点が。超越者の視点。彼らが何を見て何を想って、どうして助け合う事を選んだのかを。これは
「―――」
それを蘇らせたのが同時に、自分であると直視させられた。
「リュージ、大丈夫?」
「あぁ、いや、大丈夫だ。ただ、サボれないなぁ、って思っただけだから」
サボれない。見てしまった。理解してしまった。強くなって、自分の肉体はそうでもないけど……この性質と、才能は育っていた。だから嫌でも理解してしまった。自分が一体何を蘇生しようとしているのか。宇宙だ、宇宙を丸ごと一つ再生しているのだ、自分は。まだ無限の中の一滴しか再生していない。
だがこの宇宙は今、蘇っている。抗っている。
宇宙がまだ生きたいと叫んでいるのを感じてしまった。
「そうか、お前も生きてるのか……」
星だけではなく、この宇宙そのものも呼吸している。その妙な事実にどこか、不思議な感触を感じつつも背を向けた。まだ、旅路は始まったばかりなのだから。まだまだ、世界には足りないものが多すぎる。それを取り戻す為にもまずは、この道を抜けなければならない。少しだけ心配そうにしているアンに視線を返し、微笑んでから元の道を進み始める。
その先にある、扉へと向かって。
近づけばその向こう側の世界へと引っ張られるのを感じる。その流れに乗って、そのまま、世界を、宇宙を超えて新たな世界の扉を抜けた。
一瞬の光、そして浮遊感。それから全てが消えて、そこから新たな世界へと繋がる。目を開ければ光と共に新たな世界へと繋がった。数歩、歩き出す様に目の前の確かな大地を踏みしめて前に出た。片手で光を遮る様に影を作り、そして光が消え去った所で漸く、周りの状況が見え始める。
ゆっくりと、ゆっくりと、光が消えて周りの状況が把握できるようになってくる。
そして見えてくる、周囲の風景が。変わりゆく景色はカーペットの敷いてある足元を見出し、そしてその上に自分を立たせている。そこで漸く、自分が何らかの建物の中に居るのだという事を理解させられる。両手に銃を握った状態で出現した所で、軽く周辺へと視線を向ける。
周囲に見えるのは大量の天使だった。
通路を警戒する様に浮かび上がり、そして警備をしており―――此方が突然出現した事実に、完全に動きを停止させた。自分も、そしてアンも、突然の事態に思考停止をして、ふぅ、と息を吐きながら片手に手を当てる。
「よっし、誰でもいい。なんで扉がこんなところに通じていたのか、それを説明してくれる奴はいないのか。前回まで誰もいない所に通じてたじゃん!!」
「ご機嫌斜め、とか?」
「扉が?」
「うん」
「ご機嫌斜めじゃしょうがないかなぁ……」
ふぅ、と溜息を吐いてからこめかみを軽く揉み、そして視線を近くのパワーへと向けて、その肩を軽く叩く。
「へーい! ちょっとした迷子だよ! 気にすんなよ! 今出ていくからな! じゃあな!」
「ばいばい」
手を振って去って行こうとするが、天使パワー、ヴァーチャー、そしてアークエンジェルが道を塞ぐように取り囲んできた。素早く両側へとルーチェ&オンブラを向け、アンが蹴り出せる様に片足を持ち上げて構えた。剣が、視線が、そして発動待機にされている魔法が全て、自分たちへと向けられているのを感じる。
「魔人……!」
「それに高位サマナーか! 貴様! ここがどこだか解っているのか!」
「いや、ほんと、解ってないんだよ。突然放り出されたから。はは、ほら、全部扉君が悪いからさ」
「何を言ってるんだこいつは……どうやって入り込んだ! 答えよ!」
「いや、殺して頭の中を読んだ方が早い」
「その魔人も素体は良い、良いぼた―――」
言葉が終わるよりも早く引き金を引いた。ルーチェ&オンブラがクソを口から吐き出そうとした天使の頭を一撃でミンチにして吹っ飛ばしてやった。それに反応して連鎖する様に他の天使が行動開始しようとするが、それよりも此方が引き金を引く動きの方が遥かに早い。一瞬で素早く銃弾を連射させ、挟み込む天使の頭を全て綺麗に動く事もなく吹っ飛ばし、全て即死させる。
「あー……やっちまった……」
片手で顔面を抑えると、アンに首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられて移動を開始する。
『開幕から腹が痛い程笑わせて貰ったんじゃが』
『ごめん、サマナー。私も笑ったわ』
「お前ら……」
アンに出口へと向かってずるずると引きずられつつも、追いかけて来る天使の姿を目撃するのでそれを射撃して頭を吹っ飛ばし、殺す。なんなんだこの天使の巣は、とちょっと辟易しながらしゃーない、と気分を入れ替えて立ち上がり、復活する。自分の両足で立つと、アンがこっちへと視線を向けて来る。
「もう大丈夫?」
「もう大丈夫」
言葉を吐き出すのと同時に横に蹴りを入れて突っ込んできたヴァーチャーをアンが蹴り飛ばした。その姿が床や壁に届く前に蹴りの衝撃でミンチになって吹っ飛んだ。俺、この子を良く一方的に犯し続ける事出来たよな、とその破壊力を見ながら思える。まぁ、自分の前では可愛い娘だから一切問題ないよな! とも思えてしまうあたり、本気で恋をしていると思う。
それはそれとして、天使が余りにも雑魚過ぎて話にならない。
どれだけ高位天使であろうとも、そのレベルは一桁しか存在しない。銃を撃つ必要もなく、それをストレージに投げ込んでから蹴りと拳だけで対応しても余裕だった。故に装備を全てストレージの中へと格納してから、迷路のように入り組んだ通路を抜ける―――のが面倒になってきた。
「もう脱出していいな!」
「えい」
タイミングを合わせて二人で壁を蹴り飛ばし、そのまま小規模異界化していた空間を出口まで無理矢理ぶち抜いて作成した。建物の外へとそのまま素早く脱出し、出た所で振り返る。
「アメリカ大使館―――!」
日米戦争に発展しちゃう―――! と、心の中で叫んでいるとチェフェイとベルが大爆笑しているのが聞こえて来る。お前ら絶対に近いうちに笑った事を後悔させてやるからな! と誓いつつ、逃亡する為にカメラにも記憶にも残らない、超人と悪魔特有の超スピードで大地を蹴り、
一気に離脱した。
「Hmmm……199X年か」
「ダンテの、真似?」
「真似」
あのイケオジ、仕草が一々格好いいので、その動きとか仕草とか、ちょっと盛り上げ方とか真似、というか参考にさせて貰っている。あの陽気な感じは自分に一番足りないものだと思っている。まぁ、せめて、少しは明るくしていないとやってられないというのも事実なのだが。それはともあれ、
時は199X年の東京だった。どうやら20年近くタイムスリップしている世界だったようだ。マッカではなく円がまだ機能している時代でもあった。正直な話、また文明的な生活が出来る上に、現代寄りな世界だったようでかなり安心している。
『間違いないわサマナー。ここはICBMが落ちる世界ね』
『メシアが酷すぎると噂の』
『本当にすまない……』
まぁ、部下が勝手にキチガイになる事は鳩にさえどうにかできるものでもないのだ、そこは普通にしゃーない、と慰めておく。それよりも重要なのは今、ここで自分たちが何をするのか、という事になる。とりあえずはアメリカ大使館から大きく逃亡して、井之頭公園まで逃げてきた。此方は妖精の異界は展開されていない、普通の公園になっていた。腰を落ち着けるには丁度よい場所だった。
とりあえずは、この世界に関して色々と整理する。
「まずは空気中のMagが薄いな」
「お腹が、すいちゃう……ね」
『寧ろこれぐらいが本来は普通なのよ。私レベルの悪魔が地上に降臨するには本来、数千人の犠牲が必要ってレベルよ? 場合によっては国家レベルの犠牲だったりもするわ』
『まぁ、ゲートパワーが足りぬのぉ。妾らを召喚した所でMag不足とGP不足でまともに顕現する事も出来ないじゃろう。素直にサマナーらと鳩のみでどうにかするのが良いじゃろうて』
『我も手伝いたいが、天使がいる以上、我の扱いは気を付けると良い』
『場合によっては全メシアンから最優先目標にされる場合があるな』
まだ、悪魔が堂々と地上に出現出来ていない世界。その為、根本的なリソース等が足りずにいる。だからこそ、生身である自分たちの身が今の状況では戦力となっているのだろう。なんというか、どうやらこの世界、魔界とまだ本格的に繋がっていない為、人間を媒介として召喚されるか、或いは大量のMagをどうにか準備し、それで維持するしかない。
ゲートパワー、つまりGPが低いとはそういう事だ。
門でもあり、維持コストでもある。これが低いと大型の悪魔は地球に出現できない。なお崩壊世界はそれが完全にぶっ壊れて魔界と直通しているレベルになるので、高位悪魔の顕現とかにはまるで困らないのだ。嬉しい反面、悲鳴しか出てこない気持ちも非常に良く解る。
井之頭公園のベンチに座りながら、溜息を吐く。周辺では低GP故にちょっとした低位悪魔が溢れ出る状況となっており、他の人には見えないクイックドロウで瞬殺してストレージに銃を戻した。まだピクシーやガキ辺りしか出現していないが、それでも一般人からすれば致死性だ。見かけたらとりあえず殺す事にしているが、
「どーすんだ、これ」
「ん、んー……?」
このまま放置してればICBMが落ちてくる。GPの上昇によってここが崩壊した世界になる。だから行動方針を組み立てなきゃいけない。とりあず、ある程度の流れをベルが知っているらしい。それに合わせて行動するか否か、という所になる。
『まぁ、放射能が通じるレベルでもないんじゃしの。
「つぶやいったーが炎上するってレベルじゃねぇな」
『ちなみにICBMの落ちる理由はさっきのアメリカ大使館に居るトールマンという男が原因よ。回避するならサクッと殺せば解決ね』
「……」
ベルにそう言われ、少しだけ悩む。果たして自分がその手段を取っていいのか、どうかを。それに首を傾げるが、ベルが声を零す。
『まぁ、今すぐ判断しなくていいわ。大体の流れを私が覚えているし、状況が迫ってきたら教えるから。それまでは文明社会を楽しめばいいわ』
「食べ歩き……!」
アンが目を輝かせている。成程、確かに今の状況なら好きに移動して好きに食べて回る事も出来るだろう。それこそ北海道へと飛んでジンギスカンを食べるとか。そう考えると帝都から離れられなかった時よりも自由かもしれない。
『まぁ、この世界はWW2でヤタガラスとクズノハが壊滅しちゃったからね。ぶっちゃけ、今の状況であれば止められる存在はないわよ?』
「んー……とりあえず適当なホテルの部屋を借りて、それを拠点にするかぁ」
とりあえず、ICBMをどうこうする、とはあまり考えない。どうせ、俺は衝動で動く男なのだ。深く考えた所でその時の衝動で全部投げ出してしまう。だったらその時まで、好き勝手やってればいいと思う。
だから、とりあえずは拠点確保だ。金は腐る程あるのだし、最高級ホテルのロイヤルスイートを借りたい。《マリンカリン》でも使えば大体一般人はどうとでも騙せるし、そのノリで楽しもう。
崩壊前の東京観光を。
という訳で真1世界にようこそ。今までは安全な場所に繋がっていたけど、初手アメリカ大使館とかいう事故。
真1は全ての始まりとも言えるからなぁ……。