「もぐもぐ。美味しい」
「たーんとお食べ」
今川焼をはむはむと小動物らしく、しかし凄いペースで食べているアンの姿を見て苦笑する。結局、東京から離れる事はなかった。その代わりに、東京内を色々と回って、買い物とか食べ歩きをしている。あまり、扉から離れるのが嫌だという事もあるが、拠点をパークハイアット東京に決めたのだ。新宿に近いという理由がある。
一番高い所を適当に頼んでみたら一晩100万円を超えるとかいう超驚きの事実である。流石超高級ホテルとでも言うべき貫禄が存在している。とはいえ、既に崩壊世界では円なんて概念、マッカに駆逐されかかっているのでケツを拭く程度の価値しか存在していない。だから自分も基本、もう円は持っていない。その代わりのマッカであり、
その代わりの貴金属や宝石類である。
帝都からはクラリオン戦の報酬でちゃんとプラチナインゴットを大量に貰っているし、それ以外にも宝石類も悪魔交渉用に大量に持ち歩いている。表世界では少し珍しいかもしれないが、悪魔業界では
それを売れば、数千万ぐらいの金を用意するのは簡単だ。高レベルサマナーは金銭感覚が容易く壊れるという話はよく聞くが、それをよく理解する出来事だった。プラチナとダイアモンドを幾つか放出した金でパークハイアットの一番高い部屋をしばらく貸し切りにする事にした。少なくとも数週間は泊まり続けても浪費して遊べるだけの額を用意するのは簡単だった。
帝都ヤタガラスとクズノハ支払い様様である。
そういう訳でベルベットルームも無事に部屋に開通したので、遠慮なく外へと飛び出す事が出来た。この東京は帝都の時よりも時代が進んでいる。何せ、199X年なのだから、スマートフォンなどは無くても、少しずつコンピューターという概念が普及し始めていた時代でもあった。
あの帝都よりも発展した街並み、そして多くの文化が海外から入り込んでいる。基本的に食べられるものや種類が今までは限られていたが、ここに来れば好きなレストランに入って食べる事が出来る。今川焼とか初めて見るアンにとっては珍しいものばかりの景色だったのだろう。今川焼を食べ終わると、今度はたこ焼きの店を見つけ、そっちの方を指さしている。
そしてそんなアンが好き。ついつい財布の紐が緩んでしまう。甘いのは解っているが、ついつい緩んでしまうのは正直、しょうがない事だと思っている。だから許してほしい。それにしてもアンの写真が撮りたいから、カメラでも購入するべきだろうか? COMPのカメラ機能でもいいが、やるなら本格的な物が欲しい。金ならあるのだから、別に良いものを揃えても問題はない筈。
「たこ焼きかー。俺も食べるのは久しぶりだな」
「美味しそう」
店の外側のカウンターから8個入の1パックを購入し、前に置いてあるベンチに座って、パックを広げる。焼きたてで熱いたこ焼きの上では鰹節が躍っているのが見える。その普通の料理では見えない現象に、アンがおぉ、と声を零し、つまようじを刺して口へと運ぶ。
刺して口へと運ぶ。
「カリカリ……ふわふわー」
「外国人はタコが苦手な人が多いらしいんだけどね。んむ、ありがと」
あーん、をして貰って口の中にたこ焼きを放り込んで貰った。別に、焼き立てで熱々だろうが、それでも超人ボディからすれば微々たる熱量だ。火傷させたかったらアギダインでも持って来いという感じだった。たこ焼きを食べて楽しんでいると、アンが口を雛の様に開けて、待っているのが見えた。何を求めているのかはわかるので、その口の中につまようじで刺したたこ焼きを放り込んでやった。
「幸せ?」
「幸せ」
ふふ、とアンが笑った。普通の少女の様な、花の咲くような笑みだった。それを見るとあぁ、俺はこの子が好きなんだなぁ、と再確認できてしまう。たったこれだけでやる気が沸き上がってくるのだから簡単な男だ。
「……あの、たこやき一つ」
「食ってみるか……」
「一パックください」
アンとたこ焼きを食べさせあっていると、そんな声が周囲から聞こえてきた。先ほどから視線は感じていたが、どうやら美味しそうに食べるアンに釣られてお客さんが入ってきた様だった。少し前までは暇そうにしていた店員が忙しそうに動き出すのを見て苦笑しつつ、つまようじを口元へと運んで、咥えた。こうも平和だと流石に少し、戸惑う。
ここ最近はあんまりゆっくりしていなかったのも事実だ。クラリオン戦からの流れ、傷や体力の回復を終わらせたらひたすら悪魔の相手ばかりをしてきた。そうなると漸く掴んだ、つかの間の休息という奴だろうか? 今しばらく、命の危機レベルの悪魔は出現しないそうだし、そう考えたら心もある程度安らげる。だがそれはそれとして、
「将来、こうやって一緒に居られたらいいな」
「うん」
将来の事。今まで、あんまり深く考えていなかった。だけどそろそろ、この平穏の中、自分がすべきこととは別に、
きっかけは恥ずかしいけど、アンとセックスした事だった。アレで色々と踏ん切りがついたような気もした。確かに自分には自信がないのは事実だ。だけどアンを求め、そして同時に求められた。だとしたら最後までその責任を背負わなければならないだろうと思う。少なくとも、もう逃げるのはダメだ。彼女なしでは自分も、到底まともに生きていけそうにはない。
だからなぁ、と思う。
「お前と一緒にこの先も生きていきたい」
「私も、リュージと一緒が、いいな」
「んんんんっ!!」
唸り声が聞こえるので、振り返ればたこ焼き屋の店員が壁を殴っていた。どうしたんだ一体……? と思いながら食べ終わったたこ焼きのパックを膝の上に乗せて、手を繋ぐ。そのまま、何をするでもなく食べ終わった余韻を楽しむ様に肩を合わせ、並んで座っている。
「んんんっっ!」
またどこからか唸り声が聞こえた。振り返ればたこ焼きの人が両手で顔を覆っているのが見えた。どうしたのだろうかこの人は……? まぁ、きっと疲れてるんだろう。そう思いながらさて、と呟く。
「次はどこに行こうか」
「んー……お洋服、でも、見る?」
「そうすっか」
現代ものの服装はシンジュクで調達している。だがそれとは別に、ある程度のファッショントレンドというモノも取り込んでおきたい。一応、クズノハから認識阻害の符というモノを貰っていて、どんな格好をしていても違和感を抱かれないという効果のあるものだ。これのおかげでアンはスパッツ丸出しルックだし、俺も制服と外套のキメラルックを維持できている。というかこれに馴染み過ぎて結構着替えるのが手間なのだ。ちゃんと洗濯とかはしているのだが。
とはいえ、馴染める服装を探すのが一番だという話もある。ちょっと、ファッション店を覗くのも悪くはないだろうと思う。そう言う考えから新宿の服飾店を軽く見て回ろうとしたが、
ちょっと、空気が悪くなっていた。
そうやって見かけるのは銃を持った男たちだった。その服装を見れば、一瞬で自衛隊であるのに気付く。個人的に自衛隊の評価は高い。何せ、あの崩壊世界で最優先で民間人を守ってくれている人たちだからだ。だが今の彼らは……自分が崩壊世界で知る様な、格好良い姿ではなかった。どことなく険悪で、周囲の人間を睨んでいる様な、格好悪い姿を見せていた。
「なんだあれ……」
足を止めて、周りを睨んでいる自衛隊の姿を見て呟いた。小銃で少し、周囲を威嚇している様にさえ思える。新宿には似つかわしくはない、そして自衛隊の見たくはない姿を見てしまった気分だった。この世界、全体的に人間が屑になっている様な気がする。いや、或いはそれが悪魔から干渉を受けた結果だろうか?
自分の世界と比べて、良心となるストッパーが一切存在しなかった世界……の様に思える。悪い方へ、悪い方へ人が進んでいく。そうでもなければいきなりICBMが落とされてくるかよ、としか言えない。
……まぁ、関わらなければいいだけの話だ。
「なんで、誰も、銃の事を、言わない、の?」
「……んー?」
そう言えば自衛隊員が銃をぶら下げているのに誰も文句を言っていない。というか遠巻きに怖がっているだけ……じゃない、何らかの力が働いている? 首を傾げ、流れを魔力とMagの流れを見るのに切り替える。ついでにアナライズし、相手の力量を調べる事にすれば―――驚く事にレベルがぎりぎり二ケタ存在していた。魔力の気配を発する物品を懐に収めている。
「……同じもんか?」
「お札?」
たぶんそれ、とアンの言葉に答える。たぶん何らかの道具で認識を阻害しているのだ、今の姿を見ても違和感が少ない様に。
『あぁ、そう言えばゴトーなんて軍人がクーデターを予定してたわね。それの下準備じゃないかしら? 確かカオス勢力よ』
「お前、そう言う事は先に言えよ……」
『ごめんごめん、どうせ放置しててもザ・ヒーローが始末しちゃうから』
「軍人ぶち殺すのかよこえー……」
余りにもアグレッシブじゃないだろうか、それ。そんな事を考えながら自衛隊の見える場所から去ろうとしたら、
「おい、なんだその髪色は!」
自衛隊の男がどうやら、アンを見つけてしまったらしい。まぁ、物凄く可愛いし美人だしそりゃあしゃーないわ、目が行っちゃうよね! と納得するが、最初に指摘するのはアンの髪色だった。ゆっくりとアンを指さしながら近づいてくる。下品な笑みを浮かべているのが気に入らない。
「んー、大和撫子なら黒髪が当然だろう?」
「そんな髪色で歩き回っていて恥ずかしくないのか?」
「俺達の相手―――」
言葉が終わる前に三人纏めて顔面を殴り飛ばす。数メートル軽々と吹っ飛び、回転しながら地面をバウンドし、そして再び回転しながら道路に飛び出す姿を見て中指を立てる。
「ロウもカオスもまず犯す事しか脳味噌にねぇのかよお前ら!! 根本的に同じかよ!!」
中指を突き立てながら転がった自衛隊員共へと視線を向け、頭を揺らしながら起き上がろうとする姿を見て、連中が起き上がるよりも早く、トラックが道路を走って隊員どもを轢き殺してミンチにした。
「おぉぅ」
「うわぁ」
周辺に血肉が飛び散り、腕やら内臓やらが辺りに散乱する事で悲鳴が勃発し、一瞬で新宿の中心部がパニックに包まれる。あちゃあ、と声を零して頭を抱える。殺っちまった、と。しばらくは平和に過ごすつもりだったのに、これでは自衛隊に喧嘩を売ったようではないか……。
「とりあえず逃げるか」
「とーぼー」
「ショッピングはまた今度だなぁ」
苦笑しながら絶叫する人々の間に紛れ込む様に逃亡する。この時代から監視カメラはあったっけ? と軽く首を傾げながらとりあえずはここにはいられない。一旦引き上げよう、という事でパークハイアットへと向かって逃亡する。
「ふぅ、とりあえず水面下では地雷が大量設置されているという事実は非常によく理解出来た」
最高級ルームのプレジデンシャルはもう、一つの家というレベルで設備が整っている空間だ。それこそVIP用の部屋だから、ある種当然と言えば当然だ。一晩100万という金額を消費するのにふさわしいだけの設備や空間が容易されており、部屋全体が品のある風に整えられている。ぶっちゃけ、嫌いじゃなかった。避難する様に戻ってきたところで、ソファに座り込む。
「はぁ……まともにおでかけさえもできないな」
「でも、平和だったね」
「あぁ、崩壊世界と比べるとな」
最近の四国やホッカイドウ情勢と比べると、やっぱりどう足掻いても平和と感じる。ICBMが落ちて来たらその限りではないが、所詮はICBMだ。どうせ威力が《フレイダイン》程度と考えれば、俺でも素で受けて耐え切れるレベルの破壊力だ。自分で言っていてちょっとこれは悔しい。本当に人間止めてるわ。
しかし解った事がある。ソファに座り込み、だらり、と背もたれに倒れてつつ、
「とりあえず、またロウとカオス勢力が馬鹿やってるのは解った。ガイアーズは居るのか?」
『この世界、ガイア教徒はいないのよねー。その代わりに完全に悪魔で構成されたカオス勢力がメシア教によって統一されたロウ勢力と戦う事になってるわ。この戦いで理解しちゃったのよ、人間という生物を運用する効率の良さと可能性の広さが。だから次回から人間をたぶらかしてガイアを設立したのよね』
「ほんとクソだなお前ら!」
『ぐうの音もでない』
つまりICBMが落ちて来るのもこのとばっちりを受けたという部分があるのではないだろうか……? カオス勢力とロウ勢力が根本的にクソであるというベルたちの発言の根拠、その意味を漸く理解してしまった。とはいえ、今の状態ならまだまだ雑魚がたくさんいるだけだ。ここで俺が動き出してトップ連中を始末して回れば、
『ICBMは落ちないわね。その代わり、ペルソナ使いが出現する世界に続くわ』
成程なあ、と呟く。つまり、俺がICBMを阻止すれば湊達の存在する未来へ繋がるのか、この世界は。となると彼らが生まれて来る未来を守るという事にもなるのだろう。それを考え、湊達、今頃何をしているのだろうか? と少しだけ考えてしまう。中途半端な所で離脱してしまっただけに、ちょっと先に進めているのかどうか、無事かどうかが心配だ。
あぁ、でもなんか、近いうちに会いそうだなぁ、とは思えている。
クロニクル・タナトス。それを使った感覚がまだ、脳裏に焼き付いている。車椅子に座り、欠けた月の下で空虚なものなんて全て吹き飛ばしたような姿を見せた湊。普段の彼は嫌いだったが、彼があんな風に笑えるようになるならば、
「ICBM、阻止するか」
「しちゃうの?」
そう言うとアンが正面から馬乗りになってくる。片手でその腰を抱いて支えると、アンが視線を降ろし、唇を重ねてきた。それを受け入れながらそうだねぇ、と言葉を返す。
「……やっぱり、
崩壊した世界。
崩れたビル。
跋扈する悪魔。
忘れられたモラル。
消えゆく文明。
自分の崩壊世界の様子を思い出して、そしてこの東京が、そして日本の姿がアレと同じようになってしまうと考えると、ちょっと放置はできない気がする。だからICBM、破壊してしまおう。トールマンという男を暗殺するか、或いは落ちて来るICBMが到着する前に迎撃してしまえばどうとでもなるだろう。
スカートの隙間から手を差し込み、スパッツに包まれたアンの尻に触れる。それに合わせる様にアンが体を密着させる。クロッチの部分が股間部に来るように体を寄せ、胸を押し付けて来る。そして再び、唇を重ねる。
「リュージ、Mag、足りない」
「あぁ、世界全体でまだMag不足だったからそうか……」
という事はまた、派手にセックスしないといけないのか、と完全に火が入っているアンを見て納得する。それはそれとして、余りにも脈絡もなく発情していないか? とは思わなくもない。
『満月発情じゃろ。COMPの中に居れば問題はないんじゃが』
『月齢に影響されやすいのよ、悪魔は。特に満月と新月は影響力高いわよ』
「だからお前らそう言う情報はさぁ―――んむ、ちゅ」
「ん……ちゅ、れろっ」
舌と舌を絡め合わせながらもアンが股間に陰部を押し付け、それで軽く自分を高めている。完全に発情しているのがそれで解る。まるで抑えが利かない様な態度に少しだけ戸惑うも、そういえば今までは無垢だったから耐えれてたのかもしれない、と憶測する。まぁ、それ以上考えるのも無粋だろう。
まだ東京の平穏は長い、愛ぐらい語り合っても誰も文句は言わないだろう―――。
次回はたぶんエロに突入するぞい。
GP足りなくて出現できない駄狐がそろそろキレそう。しかし自衛隊のクーデターにアメリカ大使館が敵だったとか、東京の外に出ても地獄が広がっていそうだなぁ、真1世界は。
そもそもアメリカ大使館に天使で、ICBMをうつ権限を保有しているという事は、アメリカという国そのものがヤバそう。