※この作品はR-18です。

アイギスの少女たち   作:東寺明

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 暗黒騎士コーネリアは、初めての男でもある王子との関係に苦しんでいた。戦闘で活躍し、人々の暮らしを守ることを誇りに感じつつ、王子に認められたいといつまでも願い続けていた。ルームメイトとの友情。そして、彼女を見守ってくれる人物との心のふれあいによって、コーネリアは自分の道を見出していく。


 第一章は戦闘シーンになっています。ゲームをやったことがない方には、違和感があるかもしれません。飛ばし読んでくださって結構です。


コーネリアの居場所

              コーネリアの居場所

 

                  1

 ズン。

 重い砲声が狭い谷に響き渡る。

 二秒後。谷の入り口に灰色の粉じんが巻きあがり、巨大な爆裂音が谷間に轟く。

 

 コーネリアは背伸びをして谷の入り口に目をこらす。

そこには巨大な盾を連ねたヘビーアーマー部隊が展開し、押し寄せるオークの大軍を押し返している。ゴブリンの弓兵が放つ黒い矢が盾を貫き、隊列が崩れかけるが、味方の砲撃が魔物たちを吹き飛ばし、容易に近寄らせない。

 ヘビーアーマー部隊の左後方の丘に展開するヒーラー隊が放つ魔力は、傷ついた兵士を癒し、疲労を回復させてくれる。さらにその前面には、強力なアーチャー部隊が陣取り、ゴブリン弓兵を倒していく。だが今だ、敵を圧倒することができない。

コーネリアは後ろを振り向き、十メートルほど離れた場所にいる王子と幕僚を見やる。金色に光り輝く鎧に身を固めた王子は、戦況を見つめて身じろぎもしない。政務官を中心とした幕僚は、刻一刻と変化する戦況に合わせて伝令を走らせ、部隊を指揮している。だが、コーネリアに、出撃命令は出されない。

右手の丘から砲撃を続けていた砲術士の部隊が撤退し、そこにメイジ隊が展開し始めた。さらにヘビーアーマー部隊の後方に魔法剣士を進出する。頑強なオーク部隊を魔法攻撃で殲滅する作戦だ。

メイジ隊から放たれたファイヤーボールが、敵の大軍に突き刺さると、轟音と砂塵が舞い上がり、オークが吹き飛ばされる。第二弾。第三弾。灼熱のファイヤーボールが敵を粉砕し、前進の圧力を弱める。そこに魔法剣士の遠距離攻撃が放たれる。魔法の刃が、分厚い鎧を紙切れのように切り裂き、肉体に突き刺さる。鮮血を噴出したオークが、どうと地べたに倒れた。オーク軍の壊滅は近い。

コーネリアは汗にぬれた掌を強く握った。いける。これで敵を粉砕できる。だが、それはすなわち、コーネリアの出撃はないと言うことだった。

 敵の防御力を無効化する魔法攻撃が、押し寄せる魔物たちを圧倒するかに見えたとき、突然西の空からガーゴイルが来襲した。黒い影のような翼を広げ、耳障りな鳴き声を上げながら、数十羽の魔鳥の集団が押し寄せてきたのが。アーチャー部隊から放たれた矢が先頭のガーゴイルを撃ち落とすが、後続はひるみもせずに飛来してくる。ファイヤーボールが放たれ、魔法の刃が空に向けて撃たれるが、ガーゴイルには効果が薄い。

 本営の前面に待機していたモンスタースレーヤーとパイレーツが超遠距離攻撃を開始した。

 

 ガーゴイルが撃ち落とされるたびに、本営から歓声があがる。それは恐るべき速さで接近してくるが、空を埋め尽くすような弾幕に妨げられ、本営を強襲できるまで近づいて来られない。遂に、ガーゴイルは全滅した。

勝利の余韻に浸りながら、本営の将官たちの目が地上に戻ったとき、彼らは思いがけないものを見つける。

 オーク軍の後方から二体の黒いデーモンが接近してきたのだ。

 

 デーモンが放つ遠距離雷撃が前線を支えるヘビーアーマー部隊を粉砕し、丘に展開するメイジ隊に強烈な打撃を与える。ヒーラーが支援しようとしても、とても追いつかない。それどころか、ヒーラーにも被害が続出しだした。デーモンに対して有効弾を放てるはずのアーチャー隊も、敵の雷撃の前に散り散りになって逃げるしかない。

 戦線が崩壊し始めた。

 剣の柄に手をかけたコーネリアは、王子にすがるような視線を送る。その視線を受け止めた王子ははっきりとうなずいた。

 コーネリアは漆黒の駿馬にまたがり、稲妻のような速さで前線へと飛び出していった。

 

 純白の鎧をまとい、プラチナブロンドの髪をなびかせて駆けるコーネリアの姿は、天上より舞い降りた天使のように可憐だ。だが、その魂は闇に染まっている。コーネリアは心の中でこう祈っていたのだ。

 暗黒神よ。わが主なる闇の支配者よ。この身に降り来たりて、その力をわれにもたらしたまえ、と。

 前線から敗走してくる味方の兵を蹴散らしながら、コーネリアは盾を構え、剣を抜く。目指すは二体のデーモンのみ。

 メイジ隊が陣取る丘と、ヒーラーが拠点を置く丘を通り過ぎ、先ほどまでヘビーアーマー部隊が確保していた最前線に飛び出したコーネリアは、荒れ狂うデーモンと対峙した。

 先ほどまで周囲を薙ぎ払っていた雷撃が、コーネリアに向かって集中する。だが、コーネリアが高く掲げる白い盾が、雷撃を無効化した。

 コーネリアの瞳が、妖しく光る。

 馬を駆り、人の数倍の大きさのデーモンに肉薄したコーネリアは、長剣を振るい、デーモンの足を、胴を、腕を斬る。馬を返し、反撃をくぐり抜けて、再び接近し、翼の付け根を狙った一閃で、デーモンから噴水のような血が噴き出す。

 デーモンの悲鳴が谷にこだました。

 激しい接近戦になった。デーモンが召喚する雷撃が、狭い空間で爆裂するが、コーネリアの盾がことごとく弾き返す。コーネリアの周囲は爆風と熱風で目が明けられないほどだ。それでも、コーネリアの斬撃は容赦なくデーモンを切り刻む。だが、致命傷は与えられない。

 デーモンとの接戦を繰り広げながら、コーネリアは周囲に視線を送る。最前線で戦っていた味方は負傷兵も含めてすべて撤退を終えている。メイジ隊と魔法剣士、弓兵部隊とヒーラー隊も後方に退いたようだ。だから今、王子軍を支えているのはコーネリア一人きりなのだ。

 このまま突っ込んでデーモンを切り刻みたいという欲望と、ここでデーモンの前進を阻んでいれば、援軍がやってくるはずだという冷静な判断とが、コーネリアの脳裏を行き来する。

 だめだ。弱気になってはだめだ。本営にいる王子が見ていてくれる。その期待に応えなくては。

 コーネリアは長剣を高く掲げ、喚声を上げながら右側のデーモンに突撃する。そのわきを狙って、左側のデーモンが雷撃の至近攻撃を仕掛けた。白い盾が雷撃を防ぐが、その衝撃でコーネリアの体が馬から弾き飛ばされる。

 だが、コーネリアはすぐに立ち上がり、走り出す。戦場慣れした愛馬がすぐさま駆け寄ってきてくれた。コーネリアは手綱を取り、鞍によじ登る。

 右肩に痛みが走った。至近距離の雷撃に耳鳴りがひどい。だがまだ戦える。コーネリアは一旦退くが、それを追尾するようにデーモンが進出してきた。敵は休ませてくれそうにない。

 コーネリアは馬を旋回させ、二体のデーモンの背後にまわりこむ。そして馬上から跳びあがり、その背中に剣を突き立てた。再び鮮血が噴き上がり、コーネリアの白い鎧を赤黒く染める。デーモンはもだえ苦しみ、体を揺り動かすが、コーネリアは剣を支えにしてしがみつく。そこにもう一体のデーモンが突進してきた。不気味な赤い目に炎を宿し、ギザギザの歯をむき出しにして、デーモンが襲い掛かる。

 その瞬間、美しい放物線を描いて飛来した矢が、デーモンの目を直撃した。その威力はデーモンの突進をとどめるだけでなく、膝をつかせるほどのものだ。

 これほど威力のある弓撃はミルノしかいない。ここからは見えないが、ミルノが出撃してきたのだ。さらに、痛みをこらえてデーモンを撃つコーネリアの体が、急に軽くなった。ヒールだ。コーネリアは眦の端にドラゴンシャーマン、エキドナの姿をとらえる。デーモンの雷撃をものともしない防御力を誇るヒーラーだ。それらと間をおかずして、長距離銃撃が始まった。本営近くに陣取ったモンスタースレイヤーの援護射撃だった。

 仲間がいる。それは今まで彼女が持っていなかったものだ。そして、王子がくれた大切なものの一つでもある。

 魔物を倒す。

強い決意を胸に抱いた、コーネリアの瞳に強い光が蘇る。体中にみなぎる力。暗黒神の加護を強く念じて、コーネリアはデーモンに止めを刺すために長剣を振りかざした。

 

               2

「デーモンの出現により、苦戦を強いられましたが、コーネリアさんの活躍によって、敵を殲滅することができましした。これで魔物の脅威は取り除かれ、国民の平穏な暮らしが守られたのです。ここに集う将兵と兵士たちの健闘を称え、犠牲となった者たちの冥福を祈り、王国の栄えある未来を祝し、アイギス様の偉大なるご加護に感謝して乾杯いたしましょう」

 政務官アンナの呼びかけに、大天幕に集う将兵たちが盃をかかげ、一気に飲み干す。

 そして、勝利の宴が始まった。

 

 山盛りのご馳走と酒がふるまわれ、激戦に疲弊した将兵たちの胃袋をいやしていく。そして、酒を酌み交わし、互いの健闘を称え、辛い記憶を消していくのだ。食べるほどに、飲むほどに、天幕は騒がしくなっていく。

 その天幕の片隅に、コーネリアは座っていた。政務官のあいさつで称えられたように、彼女が今日一番の功労者だったが、それを恥じているかのように小さくなっている。もともと人との交わりが苦手なのだ。さらに仲良しのアーニャもいないので、話し相手がいない。そして、戦闘で痛めた肩がまだ十分治っていない。

 戦闘でたくさんの魔力も消費した。それを回復するためには大量の食べ物を摂取する必要がある。コーネリアはひたすら食べつづける。そして、その視線はずっと王子に向けられていた。

 戦友たちの称賛が嬉しくないわけではないが、彼女が欲しいのは王子の優しい言葉だった。けれど王子は、幕僚や古参の将官に取り囲まれていて、コーネリアのところに来る様子はない。しかたがない。この軍ではまだ新参者に過ぎないのだから。

「コーネリアさま」

 ぼんやりしていたコーネリアは声をかけられてびくっと顔を上げる。そこにはバラの花のような笑みを浮かべた魔法皇女エステルがいた。

「はい」

「一言、お礼を申し上げたく参りました」

 そう言うと、エステルは優雅な動作でコーネリアの隣に座る。エステルの艶やかな衣から、甘いバラの香りが漂ってきた。

「あの、どういうことでしょう」

「はい。デーモンの雷撃によって、わたくしのメイジ隊は手ひどい損害をうけました。退却しようにも、魔法攻撃を続けていたわたくしたちはすぐに動くことができないのです。もしもあなたがデーモンの雷撃を受け止めてくださらなかったら、わたくしたちは多くの死者を出したに違いありません。わたくしはメイジ隊を代表してお礼を申し上げます。ありがとうございました」

「いえ。それは」

 深く頭を下げるエステルに、コーネリアはうろたえてしまう。

「あれが私の役目ですから。わたしがもっと早く前線に行きつくことができたら、皆さんの損害はもっと小さかったと思います。メイジ隊の活躍こそが、今日の戦いの勝利の決め手だったと思います」

「いいえ。わたくしたちのファイヤーボールでは、デーモンに打撃を与えられないのです」

「それでもオークを壊滅させたのは皆さんです。そのとき、わたしは後方で見ているだけでした」

 コーネリアの言葉に、エステルはにっこり笑う。

「コーネリアさまは、本当に謙虚な方ですね。わたくしはあなたともっと仲良くなりたいを思っています。王城に戻ってから、一緒にお茶をいたしましょう」

 そう行って、エステルは席を立った。

 戦闘が終わってから、それほど時間はたっていない。参戦したものは多かれ少なかれ手傷や疲労が残っているものだ。ヒーラーが手当てをしてくれはするが、ここに集う多くの将官のほとんどは戦塵に汚れ、痛みを抱えたまま参加している。それなのに、エステルは散歩から帰ってきたかのように疲れの色などまったく見せない。どれほどの自己回復力を、この魔法皇女は持っているのだろう。

芳しい残り香をおいて去っていく、エステルの後姿を見送りながら、コーネリアはそんなことを考えた。

 

エステルとの会話で、すっかり食欲がなくなってしまったコーネリアはまわりの様子をうかがい、こっそりと出ていこうとする。そのコーネリアに、背後から声がかけられた。

「コーネリアさん。少しよろしいですか」

 料理を乗せた盆を持つ、政務官アンナがやってきて、コーネリアの隣に座る。

「はい。なんでしょう。アンナさま」

「お疲れはありませんか。右肩を痛めたと聞いています。ヒーラーの治療はおすみですか」

「はい。戦闘の後、すぐに治療していただきました。明日には良くなります」

「それはよかった。二体のデーモンを両断する剣捌きを、後方から拝見しておりました。あなたの武威にはいつも感服しております。王子もあなたに全幅の信頼をおかれています」

 そういって、アンナは小首をかしげ、にっこり笑みを浮かべる。その自信に満ちた表情に、コーネリアは思わず顔を伏せてしまう。

 政務官として、常に王子の横にいて、戦闘の指揮を執る。それなのに女らしい華やかなファッションを身にまとい、ナチュラルメイクを欠かさない。戦場にはよほどそぐわない存在であるにもかかわらず、王子軍の柱石としての地位は盤石だった。

「コーネリアさん。今日は本当にありがとうございました。あなたの活躍がなければ、わが軍は敗北を喫していたでしょう」

 アンナは両手をつき、深く頭を下げた。

「……」

 思いがけないこの行為に、コーネリアは声を出せない。

「コーネリアさんにはぜひ、お話しておきたかったのです」

「なんでしょう」

 コーネリアの声が硬くなる。なにを言われるのか、警戒心が沸き上がった。

「わたしの作戦ミスでした。ヘビーアーマーでブロックし、メイジで焼き尽くす。それが作戦の王道であるということは、あなたもご存知でしょう。敵オークは頑強で大軍ではありましたが、その作戦で十分対処できるとわたしは考えました。でも、激戦のさ中に、わたしは敵後方に放った忍者からデーモンが接近中であるとの報告を受けていたのです」

「それは…」

「デーモンに対しては、アーマーやメイジで対処するのは難しい。それはわかっていたのです。ところがガーゴイルの群れが飛翔してきて、それに気を取られてしまい対応が遅れてしまった」

 アンナはコーネリアの目を覗き込む。そして、声をひそめて話を続ける。

「予想以上の速さでデーモンが接近し、メイジやアーマーに損害が出てしまった。その時点で前線の兵を撤退させれば、戦線に穴が開き、一気に本営を突かれてしまう。でも、新たな部隊を展開するには時間が足りない。ダークファイターのあなたを出すか、ドラゴンシャーマンでヒーラーを支援するか。それともミルノを出して一時的な全軍支援をするか。わたしも軍師もパニックになってしまい、決断が下せなかった。そのとき、あなたは命令を待たずして前線に突出していった。そして、ぎりぎりの場所でデーモンを阻止した。あなたがデーモンの雷撃を受け止めてくれている間に、前線を撤退させ、新た兵を送り込むことができたのです」

「……はい」

「ほんとうにありがとうございました。」

 もう一度アンナは頭を下げる。

「わたしは」

 話すことが得意ではないコーネリアではあったが、自分の思いを伝えたいと考え、口を開いた。

「わたしはいつも仲間に助けられています。ずっと一人ぼっちで戦い続けていたわたしにとって、仲間がいることの嬉しさは何よりも代えがたいものなのです。アンナさまにもいつもよくしてもらっています。だから、そんな風に頭を下げないでください。わたしは、王子さまのお役に立てることができればそれでいいんです」

「そう言っていただき、ほっとしました。コーネリアさまにはこれからもお世話になることでしょう。そうだ、忘れていました。これをあなたに食べていただきたくて持ってきました。もっと食べて、英気を養ってください。では、これで失礼します」

 お盆には骨付き肉のワインローストが芳ばしい香りを漂わせていた。コーネリアはそっとため息をつき、アンナの心づくしのご馳走をほおばった。

 

 

 コーネリアが天幕から抜け出ると、夜の帳がすっかり降りていた。夜風が冷たく、酒と人いきれで火照った体に心地よかった。夜空を仰ぎ見れば、天空の星々が瞬いている。今日も一日が終わろうとしている。

 コーネリアは白い息を吐き、自分の天幕に向かいかける。

「もう、お休みですかな。コーネリア殿」

 振り向いたコーネリアは天幕の陰から現れた大きな人影に目を凝らす。

「サイラスさま」

 黒衣の宰相と異称されるサイラスは、黒いマントをまとい、ゆっくり近づいてくる。

「ずいぶんお疲れでありましょう。あのデーモンはなかなかの強敵でありましたから」

「はい。強いデーモンでした。あのような魔物がたびたび現れるとは、油断がなりません」

 コーネリアのまっすぐな物言いに、髭に覆われた頬がゆるむ。

「左様。油断はできぬ。けれど、コーネリア殿がわが軍に入られてから、難敵だったデーモンに負けたことはありませぬ。これは画期的なことなのですよ。昔は何度も苦渋をなめさせられたものです」

「そうでしたか。あの、サイラスさま。わたしにご用が」

 サイラスとは、ほとんど話したことがない。コーネリアの心に警戒心が芽生える。

「お疲れのところを申し訳なく思います。ただ、わしは今日の戦いのことであなたにお話ししておきたいことがあったのです」

「はい」

 これで三人目だ。エステル。アンナ。そして、サイラス。あまり親しくない人たちが、今日に限って話しかけてくる。老獪なメイジの目に、自分はどのように映っているのだろう。疲れてはいたが、年長者の言葉にコーネリアは素直に従い、近くの石に腰をおろす。サイラスはその横に立ち、星空を見上げる。

「あれは危うい局面でありました。わしはメイジの陣にいて、デーモンの攻撃を受け、対応に追われておりました。しかし、わしはあなたが疾風のように谷をかけ下り、前線に飛び出していった姿を見ていたのです。猛々しく、そして美しい白い騎士が盾を構え、剣をかざしてデーモンと戦うすがたは、戦場にはあるまじき華麗なものでありました」

 コーネリアはサイラスの横顔を見上げる。真黒な服を身にまとい、つえを突き、鋭く削ったような頬に柔らかな笑みを浮かべる姿は、年長者だけが持つ威厳を醸し出していた。

 サイラスはいったい何歳なのだろう。どのような人生を重ねてきたのだろう。魔物たちに王城を攻め落とされ、王国の兵たちは四散した。生き残った者たちは辛苦を重ねながら生き延びてきたのだ。その中にサイラスがいたことは間違いない。この人はあの苦しい時代をどのように過ごしてきたのだろう。

 それはコーネリアも同じだった。

「いやいや。長話はお疲れの身には無用なこと。わしが今宵言いたかったのは、コーネリア殿がデーモンとぶつかる直前、馬の手綱をひき、一瞬周りを見廻したことです。わが軍の状況を見て取り、味方の撤退をどのように支援するか。どのような戦い方をすれば、敵を殲滅できるのかを瞬時に判断していた。そうではありませんかな」

 いつの間にか、サイラスの瞳に強い光が宿り、コーネリアを見据えている。

「そう、だったのかもしれません」

 コーネリアはのろのろと答える。

「わたしはいつも一人で戦っていたので、味方のことを思いやるのは得意ではないと思っています」

「いいえ。おそらく、あなた自身が思っているより、あなたは仲間と共に戦うすべを身に着けています。自分が盾になり、雷撃を引き付けていれば、味方が反攻してきてくれることがわかっていた」

「そうかもしれません。でも、それって、みんな同じでしょう」

「そう。みな同じです。それが仲間を信じて戦うことです。あなたは最近になって王子軍に加わった。そのことへの遠慮が見受けられます。でもあなたの行動はすでに仲間であることの証なのです。わしは年老い、十分な戦力としては働けなくなっております。ですから、わしはわしにできること。すなわち、あなたのことをいつも見ております。いつでも見守っております。それをお伝えしたかった」

 コーネリアは立ち上がった。口が小さく開かれ、何かを話そうとする。でも、言葉が出てこない。

「わしはあなたをほめちぎったり、褒めそやしたりしない。わしはあなたを見て、正直に思ったことをいう。それがきっと、あなたの力になる。そう信じております」

「はい。そうしてください。わたし、うれしいです」

「よかった。では、おやすみなさい。今のあなたに必要なものは休息だ」

 

 

 

                  3

「あっ、コーネリア。ヤッホー。お帰り」

 扉を開けたとたん、床に座り込んでいたアーニャが飛びついてきた。抱き着かれ、その勢いに押されて、コーネリアは尻餅をつく。

「アーニャ。痛い」

「えへっ。ごめんね」

「もう。アーニャったら。危ないでしょ」

「コーネリア。無事でよかった。いつも一人で突っ走るから、心配してた」

「なによ。それはアーニャの方でしょ。わたしは大丈夫」

「うん」

 ここは王城の地下にある一室だ。石づくりの暗い小部屋だが、小さな暖炉があって居心地がいい。竜人のアーニャは暗くて狭い場所が好きなので、わざわざこの部屋を選んだ。その部屋に、後から入隊したコーネリアが住まわせてもらっているのだ。

 コーネリアは硬い木の寝台に座り、コロンと横になる。するとようやく緊張がほどけてきた。ようやく家に帰ってきたのだ。

 アーニャは石の床にぺたりと座りこみ、サイコロ遊びを始める。五つのサイコロを振り、出た目の数で、四種類の牌を並べ替えていく。コーネリアにはどこが面白いのかさっぱりわからないが、アーニャは夢中になって遊び続ける。この城にはハクノカミ。エキドナ、ゴライヤといった竜人がいて、時々集まってはサイコロで遊んでいる。そんなときは、コーネリアはちょっと寂しかったりもする。

「アーニャ。東の国はどうだった。魔物がいたって聞いたわよ」

「うん。ちょっとした戦いがあったんだけどね。わたしは出撃しなかったから」

「そうなんだ」

「戦いがないと、王子に誉めてもらえない。つまんないよ」

「そうね」

「コーネリアはいっぱい誉めてもらったんでしょう」

「うん。ちょっとね」

「それじゃ、王子にいっぱいエッチしてもらえたの」

「ううん。それはなし」

「なんだ。つまらないね」

「……」

 アーニャは竜人の繁栄のために、王子の子を産むのだといつも言っている。まだ、子供じみたアーニャには似合わないが、本気なのだ。コーネリアは子供を産みたいなどと考えたことがない。

「コーネリア。疲れてるみたい。なら、お風呂に行こうよ。体、洗ってあげる」

「ええ。体と髪を洗ってすっきりしたい」

「うん。行こう、行こう。きれいにして、王子にいつ呼ばれてもいいようにしよう」

 アーニャが伸ばした手を、コーネリアはつかんで起き上った。

 

 大浴場は王城の裏庭の端にある。石造りの建物で、明り取りの窓が大きく取られている。隣の小屋で沸かした湯を、樋を使って浴槽に流しているので、いつもきれいな湯をふんだんに使うことができる。みんなの憩いの場所であり、湯につかるだけでなく、くつろいでワインやビールを飲んだり、お菓子をつまんだりしておしゃべりするのだ。そして、混浴である。

 二人が入っていくと、二人のエルフが床に敷かれたマットに横たわり、くつろいでいた。

シーディスとスピカ。二人ともエルフ特有の白い肌とサファイアの瞳を持った美女だ。木の椀に盛られた棗や干しブドウをつまみながら、ワインを飲んでいる。

「あら」

 二人に気づいたスピカが上体を起こし、白銀の髪をかきあげながらあいさつする。

「ようこそ。勇者のお二人。ご機嫌はいかが」

「……。こんにちは」

 コーネリアがお辞儀をするが、アーニャはその背中に隠れてしまう。快活なのに人見知りでもあるアーニャは、頭だけだしてエルフを覗く。

「香油がありますわ。湯上りの肌につけるとしっとりします。戦場から帰ってきて、荒れた肌にはこれが一番ですのよ。しみになったら大変ですもの」

 一見、気位が高そうなスピカだが、本当は気さくで親切だった。

「ありがとうございます。あとで使わせてもらいます」

 コーネリアはそう答え、浴槽の端に座る。桶でお湯を汲み、体にかけてヘチマのスポンジでこするのだ。その隣にアーニャも座り込み、一緒に洗い始める。

「おっきいよね」

 洗いながら、アーニャが小声で言った。何が大きいかは、聞くまでもない。スピカのおっぱいは身じろぎするたびに揺れ、シーディスの胸はマットに押しつぶされてはみ出ているのだ。

「こら。失礼でしょ」

 コーネリアはアーニャをたしなめ、洗うことに専念する。互いに背中を流し、髪を洗う。戦場に出れば湯につかる機会などない。こうやって体をきれいにできるのは、王城で暮らすものの特権だった。

 二人のエルフが出ていくと、浴場はコーネリアとアーニャの二人きりになった。こんなことは珍しい。明り取りの窓から見える空は暮れかかっていて、夕食時になっていたからなのだろう。

 体を洗い終えた二人は、浴槽につかり、のんびりくつろぐ。コーネリアは浴槽のふちに頭を乗せ、手足を伸ばして目を閉じる。アーニャは浴槽から半身を出し、床に頬杖をついて宵の空を眺めている。

「やっぱり、おおきいおっぱいがいいよね」

「またその話。もうやめようよ」

 コーネリアは目を開き、暗い天井をぼんやりとみる。壁にいくつかのロウソクの明かりが灯っているが、浴場は薄暗い。

「だってさ。はち切れそうな桃みたいだったよ。艶々して、柔らかそうで、おいしそうで。あのおっぱいを、王子はもんだり、しゃぶったりしているんだよ。おっぱいだけで王子を気持ちよくできるんだよ。コーネリアはそうしたくないの」

「それはそうかもしれないけど。わたしには無理だから」

「わたしはもっと無理だよ。背だって小さいままだし、おっぱいも掌で隠れるぐらいだし。だから王子はあんまりエッチしてくれないのかな」

「そんなことないわよ。もっと小さな子もいるでしょ。イリスとか」

「イリスはけっこうエッチしてもらってるけど。だって、あの子はヒーラーのエースだから。わたしは第一軍にも入れなくなっちゃったし」

「……」

コーネリアはびくっと頭を上げ、アーニャの小さな背中を見る。

 国土にはびこる魔物を駆逐するために、王子軍はいくつもの部隊を編成していた。王子が率いる最強の部隊を第一軍と呼び、そこにエースが集められている。

 コーネリアとアーニャは、デーモンのような最強の敵と対峙する能力を持った戦士だ。だが、一つの部隊に二人いる必要はない。コーネリアが入るまではアーニャがエースとして第一軍に入っていたが、今は立場が逆転している。

「わたしは、王子の役に立てればいいと思っている。王子に誉めてもらいたいけど、抱いてもらいたいと思うけど、それが一番の目的じゃない」

 コーネリアは静かな声で言った。

「うん。わたしもおんなじ」

 アーニャが答える。コーネリアは体の向きを変え、アーニャに近づいてその小さな肩を抱く。お湯から出ていたアーニャの体は冷えていた。

「アーニャ。ごめんね」

 コーネリアはアーニャの体を温めるように抱き寄せ、髪に口づけする。

「うん」

 静かだった。静かで親密な時間だった。友達がいることが、心強く、うれしかった。

「ねえ、コーネリア」

 夜空を眺めながら、アーニャがいう。

「なに」

「コーネリアのおっぱい。けっこうおっきいね」

 アーニャがするりと体を反転させ、コーネリアのおっぱいに頬をこすりつける。

「ヒヤー」

「おっぱい吸わせて」

「ダメ。ダメだって。イヤー」

 しかし、アーニャの怪力は有名だった。コーネリアの体をぐいっとつかみ、乳首を口に含んで舌でころがす。

「ダメ。やめて」

「コーネリアのおっぱい。おいしいよ。ねえ、感じる」

「感じるわけないでしょ。女の子同士なのに」

「エー。女の子でも感じるよ。おもしろいし。コーネリアのこと好きだし」

「それ、好きの意味が違うでしょ」

 コーネリアの抵抗にも関わらず、アーニャの責めはつづく。膝を股間にねじ込み、ぐいぐい押し込んで、腿をコーネリアの秘部にこすりつける。お尻を抱え、ぐりぐりと腿を動かすとコーネリアの秘部が濡れ始めた。

「いや、いや」

 二つのおっぱいを交互に吸い、右手を背中から回して、指でお尻の穴をまさぐり、さらに陰部に侵入させていく。お湯の中にもかかわらず、コーネリアの秘部はどんどんと濡れそぼっていく。

「だめ。だめなんだから」

 経験の少ないコーネリアは、お湯の熱さにもあてられて、息も絶え絶えになる。

「すごいよ。コーネリア。わたしも興奮してきちゃった」

 アーニャの指はコーネリアの膣に差し込まれ、ぐるぐるとかき回し続ける。コーネリアはぐったりとなって抵抗しなくなった。でも、頭をふりつづける。

 アーニャはコーネリアの唇を吸い、おっぱいとおっぱいをこすり合わせ、恥骨をおしつける。もちろん、指での抽出運動は止めない。

「だめ。もう、許して」

「許さない。二人して、おっぱいを揉んで大きくしようよ。ね」

 汗にまみれ、愛液にまみれながら、二人の秘め事はつづいた。

 

 

                4

 空腹で目が覚めた。大浴場でアーニャと妖しいことをしたあと、食事もとらすに寝てしまったのだ。夜が更けている。食堂は閉まっているが、酒場は開いているだろう。

 ぐっすり眠っているアーニャを残して、コーネリアは部屋を出た。暗い階段を上がり、長い回廊をすすむ。下腹部にもやもやしたなにかが残っている。お酒が無性にほしくなる。

 夜も遅いのに、酒場は賑わっていた。遠征から戻った将官たちが、心の疲れを癒しているのだ。

 コーネリアは焼肉とポテト、温野菜をたっぷり注文した。酒は温めたワインにした。それらを乗せた盆を持ち、席を探す。

 暖炉のそばの安楽椅子に座るサイラスがいた。銀の酒杯をサイドテーブルに置き、分厚い本を読みふけっている。コーネリアの気持ちが少しだけ揺れたが、すぐ目をそらして、酒場の片隅のテーブルに向かう。顔見知りの将官たちは盃をかかげてあいさつしてくるが、コーネリアは会釈するだけで通り過ぎる。

 一人で静かに飲む者もいれば、数人で談笑する者もいる。向かい合って座り、黙って酒を飲み交わす者たちもいる。戦いにあけくれる日々は、歴戦の勇者たちにとっても、生易しいものではない。いつか訪れるはずの平和な世界を夢に見、みな歯を食いしばって生きているのだ。

 おなかがすいていたコーネリアは、盆の上の食べ物をあっという間に平らげ、ワインをすすりながらサイラスの後姿を覗き見る。その大きな肩に、どれほどの重荷を背負っているのだろう。サイラスが王国の政治をつかさどる評議員として、重要な役職についていることは知っていた。軍の中でも、前線で戦う将兵を背後から支える役割を担っている。もしかしたら、わたしの悩みもその大きな胸で抱き留めてくれるかもしれない。

 願うものはただ一つ。王子の優しい抱擁があれば、それでいい。この半年、ずっとそれだけを求め続けた。

 でもそれは、誤解だったのかもしれない。王子は分け隔てなく人と接し、人を救い、愛情をそそぐ。そしてコーネリアにとって、初めての男である。あの時は、自分が王子の特別であると思った。だが、それが間違いであるとすぐに知った。自分が王子に求めるものと、王子が自分に求めるものとは違うのだ。

 わたしは王子から自立しなければならない。いつまでも頼っていてはいけない。

 ならば、これから私は、なにを頼りにすればいいのだろう。

 コーネリアはテーブルに肘をつき、両手で顔をおおう。

 友達は救いだ。けれど、それだけでは心もとない。自分を導き、支えてくれるものが欲しい。

 暗黒神は強大な力を与えてくれる。しかし、行くべき道を指し示すことはない。

「コーネリア殿」

 コーネリアの耳元で、ささやく声がした。それが誰であるか、見る必要はなかった。

「もうすぐ月が昇ってまいります。二人で月夜を眺めませんか」

「はい」

 

 

サイラスが誘った場所は、王城の広いベランダでも、中庭でもなかった。主城の四階にあるサイラスの居室のベランダだった。

コーネリアとサイラスはベランダの手すりに手をかけ、夜空を見上げる。遅い月が東の地平から上がってくると、星々は輝きを失い、月明かりが眼下の街を照らし出す。街の明かりはほとんど消え、しんと寝静まっている。聞こえるものはオオカミの遠吠えと、フクロウの羽ばたく音だけだ。

「夜の方が落ち着きます。多分、わたしが、暗黒神のしもべであるせいでしょう」

 月明かりがコーネリアのまだ幼さを残した顔を浮かび上がらせる。その表情は沈鬱な影を宿していた。

「わたしは、暗黒神に魂を売り渡す代わりに、強大な力を得ました。だから、わたしが死ねばわたしの魂は暗黒神の元にいくはずです。そこはどのような場所なのでしょう」

「コーネリア殿は、暗黒神と契約を取り交わしたとき、その姿をご覧になったのでしょうか」

「いいえ。声だけでした。何も見えない暗闇の中で、暗黒神の声を聴いたのです。その時のわたしは無力な少女でした。父さんと母さん、姉さんとアイリス、わたしのかわいい妹、家族ぜんぶを魔物になぶり殺しにされ、命からがら荒野に逃げ延びた死にかけの子供だったのです。その闇の中で、わたしは暗黒神の声を聴き、唯一の希望を得たのです。暗黒騎士になり、魔物に復讐するという希望です。暗黒神はわたしの願いを聞き届けてくれました。わたしの魂を代償として、剣を握ったこともないわたしに、デーモンをも惨殺することのできる力を与えてくれたのです」

「存じ上げております。あなたが王子軍に入られた時、あなたは荒ぶる神のように、まわりのものすべてを破壊せんばかりの怒りに、満ち満ちておいででした。黒い装束をまとい、黒い兜を目深にかぶって顔を隠していた。魔物を撃滅することにしか興味がなかった。誰も近づこうとしなかったほどです。もっとも、あの装束の女性に近づく勇気をもてる男はあまりいないでしょう。荒くれどもがみな、顔を赤らめ目をそらしておりましたから」

 そう言われて、コーネリアは夜目にもわかるほど赤面した。ほとんど裸同然の恰好で、街や村々を白昼堂々闊歩していたのだ。それを恥ずかしいと思うことも忘れていた。あれはコーネリアの黒歴史だった。

「申しわけございません。あなたを辱めるつもりではなかった。今では華麗な聖戦士であるあなたにも、そんな未熟な時代があったのだということを言いたかった。だれでも、恥ずかしい過去というものがあるのですから」

「サイラス様にも」

「無論、ございます。けれど、今はそれを話はいたしませぬぞ」

 その答えに、コーネリアは一瞬不満げな表情を浮かべたが、おとなしく次のサイラスの言葉を待った。サイラスはにこりと笑い、次の言葉を発する。

「では、あなたのお尋ねのことについて、お話いたしましょう。死者の国についてでした」

 そう言って、サイラスは月を見つめる。このような話題は、月夜にこそふさわしい。

「われら、アイギス様の使徒は、死して後、アイギス様の元に召される。そう信じられております。では、そこはどのような場所か。広い土地なのか、壮麗な宮殿なのか、あるいは虚空なのか。それを知る者はいません。アイギス様は幾度も化現され、われらに言葉をくださりますが、そういったことを語ることはない」

「だれかお尋ねになった者はいないのでしょうか」

「いたかもしれませんね。でも、記録は残っておりません。もしもわしがお会いできる機会があるとしても、そのようなことを尋ねようとは思いませぬ」

「なぜ」

「もっと他に、お聞きしたいことがあるからです。この世界の行く末のこと。魔物のこと。われらがどのような心構えをして生きていけばよいか。自分が死んだあとのことは、安んじてアイギス様にお任せすればいいことですから」

「そのように信じられればいいのですが」

「そうでしたね。暗黒神はアイギス様ほど、お優しくはなさそうですから。あなたはアイギス様の大切な働きの一つに、召喚があることをご存知でしょう。戦いを続けるわれらに、新たな戦士を与えてくださる行為です。あなたのような暗黒神に仕えるものや、白の帝国から派遣される戦士もおりますが、王子軍の主力はアイギス様から与えられたもの。この召喚される戦士は、その昔命を落とした戦士の魂を宿していると言われます。つまり、戦士が死ぬとアイギス様の元に召され、いつかまたこの世に戦士として帰ってくる。わたしたちはアイギス様の国がどのようなものであるかは理解できない。でも、人間の魂は巡り巡ってこの世に帰ってくる。そう信じていいと思います」

「では、暗黒神は……」

「どうでしょう。ただ、このように考えると、今ある自分が、昔生きた戦士の魂を引き継いでいると言うことになります。自分は自分のものであるとともに、自分以外の誰かの魂を宿している。戦場で敵の攻撃にさらされて、逃げ出したくなる自分がいる。でも、その隣に何とか踏ん張れと励ます自分もいる。励ましてくれるのは、過去に生きた偉大なる戦士の魂なのだとわしは考えております」

「それなら、わたしの中にもそのような魂があるのでしょうか。暗黒神に仕え、魔物と戦った戦士の魂がいるのでしょうか」

 勢い込んで尋ねるコーネリアに、サイラスは微笑みでこたえる。

「そう、感じますか」

「ええ。自分ではない何かがここに、胸の中にいるような感じがします。こうなる前は、魔物は怖くて、想像するだけで立ちすくんだものです。けど、今は違う。サイラス様のお話で、昔の戦士の勇気がわたしの中にあるのだと思えるようになりました」

「そうですか」

「死んだ後のことを思い悩む必要はないのですね」

「思い描くことは必要かと思います。けれど、それに囚われるのはよくない。我々は神々から偉大な力を与えられたのだから、それをこの世界のために生かすことを考えるべきでしょう」

「はい。わたし、そうします。この力をみんなの役に立てたいです」

 コーネリアの瞳が明るく輝き、花のような微笑みが顔いっぱいに広がっていった。

 

 

「もっと、聞いてもいいですか」

「どうぞ。わしにわかることでしたら」

「王子様のことです。王子さまはどうして、たくさんの女性と、あの、寝ているのですか」

「ほほう」

 サイラスが顎鬚をなで、コーネリアを見据える。その視線に、コーネリアはうつむき唇をかんだ。

「王子だから、では理由になりませんか。王子というものは、国のために子孫を残さねばなりませんから」

「それにしても、見境がなさすぎると思うんです。新しく軍に入った女の子は、全員ベッドに連れ込んでいるのでしょう。そうなったら、女の子はみんな自分が王子さまに愛されているのだと勘違いしてしまいます」

「あなたも、そうでしたか」

「……。知っていらっしゃるのに。ひどい」

 サイラスが破顔した。

「申しわけない。あなたの顔が、とてもかわいらしかったので、つい」

「かわいいだなんて。サイラス様は意地悪です」

 コーネリアは右手でプラチナブロンドの髪をかきあげ、首筋に風を通す。

「男というものは、好きな相手にはつい意地悪をしたくなるものなのです。少年でも、じじいでも、変わりありません」

「……。サイラス様は、わたしが好きなのですか」

「はい。ここで告白するつもりはありませんでしたが」

「本当にすきなのですか。どうして、どこが好きなのでしょう」

「そうですねぇ。美しく聡明な女性を好きにならないですむのは難しい。朴念仁か、男色でもなければ、ね。あなたと話ができてよかったと、心から思っています。真面目に、まっすぐに生きようとする若い女性を応援したい。その人生を支えてあげたい。そう思うようになったのは、わしが年をとったからかもしれません。でも、わしは完全に枯れてしまったわけではありませんよ」

 サイラスがにやりと笑うと、コーネリアは困ったような顔つきになった。

「わたしは、自分を導いてくださる人を求めているのだと思います。でも、それだけではなくて……」

 サイラスは体の向きを変え、コーネリアの正面に立ち、その両手を握る。コーネリアはハッとして顔をあげ、サイラスを見つめる。しわ深い顔。黒い瞳。硬そうな髭。触れてみたいと感じ、コーネリアはもじもじと体をくねらせた。

「王子さまが、部屋に呼んでくださらないから。わたし……。あの」

「では、わしがあなたをお呼びしましょう。どうぞ、わしのベッドにおいでください。コーネリア。今宵はあなたを愛してあげたい」

「はい」

 コーネリアは夢見心地で答えた。

 

 

 服を脱ぎ捨てたコーネリアは、ベッドに横たわり、目を閉じる。両手で胸を隠し、足を軽く交差させ、唇をなめ、大きく息を吸う。

 サイラスの簡素な寝室に、明かりは一つきりだ。サイドテーブルにおかれた灯明の橙色の炎が、コーネリアの白い肌を浮かび上がらせる。寝室に暖房はない。晩秋の肌寒い空気に、コーネリアの肌が小刻みに震える。

 衣擦れの音がした。サイラスが服を脱き、そっとベッドに入ってくる。武骨な右手が、コーネリアの平らなおなかにおかれる。その手はゆっくりとコーネリアの肢体を撫でていく。

 掌の暖かさが心地よい。ふれられた場所が熱を帯び、緊張がほどけていく。左手が髪に触れ、頭をゆっくりなでる。これはうれしい。まるでお父さんに誉めてもらっているみたいだ。右手は体中を移動していき、その分だけ暖かさがひろがっていく。手で隠していた乳房が揉みしだかれ、交差させていた股間に指が差し込まれる。

 ……。

 コーネリアが吐息を漏らす。そして、腕を伸ばしてサイラスの肩を引き寄せる。目を見開き、キスを求めて顔を近づける。

「美しい」

 サイラスがささやいた。

「琥珀の玉のような透き通った肌。紅い唇。流れ落ちるプラチナブロンドの髪」

 コーネリアの頬に笑みがうかぶ。

「天空に浮かぶ月から舞い降りてきた、女神さまのようだ」

「それは言いすぎです。でも、うれしい」

 コーネリアは唇を押し当て、舌を差し込んでいく。サイラスは体勢を変え、コーネリアの隣に横たわった。コーネリアは乳房をサイラスの胸に押しつける。

「熱いです」

 唇をはなし、小さな肩を上下させて息を継ぐ。そして、目の前の男の髪を愛おし気になで、目にキスをする。

「黒い瞳。黒い髪。黒い髭。サイラス様は黒をまとっているのですね」

「あなたは、プラチナをまとっているわけですだ」

 サイラスは、コーネリアの髪を指先でからめとり、もてあそぶ。

「いいえ。わたしはなにもまとっていません。わたしはただ、わたしです」

「わしには、眩しすぎるほどの輝きが感じられます」

 そういって、サイラスが動き始める。右手が肩から背中に走り、小さなお尻へと這っていく。その感触に、コーネリアは思わずため息をもらす。唇が耳から顎へ、首筋から乳房へとすすむ。

「サイラス様。お髭がくすぐったいです」

「ふむ。これがお好きのようですな。しからば、このままあなたの一番柔らかい部分をこすって差し上げましょう」

「いやです。髭なんかじゃ嫌」

「ならば、なにがいいと」

「サイラス様は意地悪ばかり言います」

「あなたが、可愛すぎだからですよ」

 

 唇が秘部に達すると、コーネリアはサイラスの頭をつかんで指先に力を込め、揉みしだく。唇がクリトリスを咥え、舌でなめ、後ろから回された指がお尻の穴に侵入していくと、コーネリアは声を上げる。舌は膣に差し込まれ、口全体で秘部を吸い込む。コーネリアは爪を立てて頭皮をつかみ、髪を引っ張る。

「これこれ。髪が抜けて、薄毛になってしまうではないか」

「禿になっても、サイラス様は魅力的です」

「つまり、精力のみなぎる禿はお好きだと」

「禿でもどっちでもいい。サイラス様。もっとわたしを愛してください」

「わかりました。では、まいりますぞ」

 

 濡れそぼった秘部に男根をあてがうと、サイラスはゆっくり侵入していく。経験の少ないコーネリアの膣は窮屈だったが、こぼれ落ちるほどの愛液が侵入を助けてくれた。

 蕩けるようなキスを続けながら、男根を動かすと、コーネリアは眉根をひそめる。

「痛いですか」

「すこし。でも、つづけてください。だんだん良くなると思います」

「はい」

 右手で乳房を揉みしだき、乳首をつまみ、ころがす。左手は頭をしっかり支え、太い指先で頭皮を刺激する。キスは口だけでなく、耳や目や首筋など、敏感な場所を移動していく。けれど、一番良いのはクリトリスへの、指での刺激だった。接合部に指を押し込み、クリトリスを剥いて指の先でくるくるとさすると、愛液がじっとり流れ出した。

 コーネリアは背中をそらせ、小さく喘いだ。

 コーネリアの両足を抱えて体を折り曲げ、上からのしかかるように抽出を続けると、喘ぎ声がさらに大きくなる。自由になった両手で、濡れそぼる体の隅々まで撫でまわし、刺激を与えていく。膝やふくらはぎや足の指を口に含み、舌でぺろぺろとなめる。

 そのころには、コーネリアの一番奥にまで男根は突き立てられていた。痛みは感じなくなり、こすれあう刺激が快感へと変わっていく。サイラスの動きが速くなっていく。

「すばらしい。あなたは素敵な肉体をお持ちだ」

「いいです。すごくいい。気持ちいいです」

 さきほど、アーニャとした行為より、ずっといい。あれだけでは満足できなかったが、今は満たされている。

「抱きしめてください。サイラス様に抱いてほしいんです」

「心得ました」

 力強い腕がコーネリアの上体をかかえ上げ、腿の上に乗せる。男根と膣はつながったまま、正面から抱き合い、唇を重ねる。コーネリアがお尻をくねらせると、今までとは違った刺激が沸き上がってくる。

「あ、ああ。あーん」

 こらえきれず声を上げる。口を大きく開けて息を吸い、息を吐く。汗にまみれた肌と肌をこすり合わせ、気持ちの良い所を探す。押しつぶされた乳首が、ぴりぴりと痛み、それが快感へと変わっていく。

「もっとください。もっと激しく」

 普段のおとなしさから想像もできないほどの激しさで、コーネリアはうごめき、叫び、体液を流し続ける。サイラスの太ももの上で、コーネリアの体が跳ね、深々と男根を咥えこみ、高まりゆく刺激にもだえ狂う。

 やがて。

「……」

 大きく開いた口から声が出なくなった。半開きの目と頬がゆるみ、頭がぐらぐら揺れ、四肢から力が抜けていく。サイラスの腕は絶頂をむかえた細い肢体を抱え、なおも上下動させる。長い絶頂に、コーネリアは意識を失いかける。

 空白の時が流れた。

 

「ごめんなさい。わたしだけ先に行ってしまいました」

「かわいかったですよ。もっと感じてください。先ほどのあなたからは、生命の息吹を感じました。わしにもっと分け与えてください」

「はい」

 サイラスは汗にぬれたコーネリアの体をいったん外し、後ろ向きにさせる。

「これはお嫌いですか」

「いえ。でも、恥ずかしいです」

「わしは、あなたのきれいな体を全部見られて、うれしいですよ」

「だって」

「あなたは、地上にある誰よりも美しい。わしの目には、あなたが女神にしか見えないのです」

「わたしはサイラス様のたくましい腕に抱かれて、心を奪われてしまいました。サイラス様のすべてが好きです」

「それはいい。では一緒に参りましょう。天上の世界へ」

 丸いお尻をつかみ、男根を秘部にあてがい、ゆっくり挿入していく。したたり落ちるほど愛液にぬれた膣は、なめらかに太い男根を受け入れ、キュッと締まる」

 コーネリアは吐息をついた。両腕をつっぱり、背中を湾曲させ、お尻を突き出す。目を閉じ、サイラスの男根が侵入してくる様を想像しながら、この感触を楽しむ。そして、亀頭が子宮口に触れると、お尻をくねらせた。

 サイラスは両手ですべらかなお尻をなで、細い腰をさすり、背筋に直線を描き、細い肩を抱く。手を伸ばして乳房を揉み、乳首にふれる。おなかをなで股間に手を伸ばしてクリトリスと外陰部を刺激する。

 丸いお尻が下腹部にぴったりと収まり、そこだけが汗にむれる。腰を前後させ、膣の感触を味わいながら、興奮を高めていく。

「いいです。もっと強く」

 リズミカルな動きはスピードを上げ、お尻をたたく音がし始める。それはひどく扇情的で、やがて水の撥ねる音がしてくると、さらに興奮が高まっていく。

 コーネリアが断続的に声を上げ始める。肩を震わせ、体をくねらせ、髪を振り乱してもだえ苦しみ始める。だが、それは、喜びの声なのだ。

 がっちりつかんだお尻を引き寄せ、強く打ちすえる。それまで触れないでいたお尻の穴に、指を突き立て、男根と同じリズムで出し入れする。

 コーネリアの体がガクッと崩れ落ちた。ベッドに顔を押し当て、すすり泣くような声をあげ、シーツを握りしめて責めに耐える。

「いや。いや。いや」

 口から洩れる声は、ほとんど意味をなさなくなった。白い肌は薄紅色に染まり、汗が流れ落ちていく。

 サイラスの動きがさらに激しくなり、大きな声を上げた瞬間、男根が爆発した。大量の精液がコーネリアの子宮を満たしていく。膣が収縮し、男根を咥えこみ、痙攣する。コーネリアが声を上げて泣き叫び、全身から力が抜けていった。

 

 

「サイラス様」

 分厚い胸に顔をうずめ、左手で黒髪をまさぐっていたコーネリアが語り掛ける。

「わたしをサイラス様の恋人にしてください」

「ほう。恋人ですか」

 まぶたを開いたサイラスは、腕の中にいる柔らかく良い香りのする生き物を見つめる。そのまなざしを、コーネリアがとらえる。

「本気です。わたし、サイラス様が好きなんです。恋人でだめなら、愛人でもいいです」

「これは困り申した。王子になんと申し開きをすればいいでしょう」

 そのおどけた口調に、コーネリアが口を尖らせた。

「信じてくれないのですね。たった一度、セックスしただけなのに、そんな気にはなれないですか。わたし、ようやくわかったんです。王子さまは英雄です。人心を掌握し、将兵の信頼も厚い。誰にでも優しく、国のことを大切に思っている。だからみな、王子さまに心酔し、己の命も顧みず、戦いに馳せ参じる。わたしだって、同じ気持ちです。一人ぼっちで戦い続けていたわたしを、王子さまは仲間にしてくれた。強くはあっても孤独だったわたしを、仲間として認めてくれたのは王子さまだけです。いくら感謝しても、しきれないほどの恩を感じています。でも、王子様の、星の数ほどいる愛人の一人として生きていくのは辛い。いいえ。辛いとわかったのはサイラス様に教えてもらったからです。サイラス様に声をかけていただいて、こうして親しくしていただいて、初めて辛かったのだとわかりました。だから、わたしは王子さまから自立したいんです」

「なるほど。そのように感じられていたのですな」

 サイラスは同じ目の高さになるように、コーネリアを持ち上げる。二人はまっすぐに向き合った。サファイア色の瞳は訴えかけていた。自分を理解し、愛してほしいと、呼びかけていたのだ。

「わしは、あなたの背中に深い孤独の影をみていた。家族を亡くし、暗黒神というあまり歓迎されることのない神と契約を交わし、アイギス神を信奉する軍に入ったあなたは、孤独を強いられていた。あなたの勇猛果敢な戦いぶりも、ともすれば自暴自棄になりそうな危うさをかかえていた。それはあなた自身にも、まわりの者にも危害を及ぼしかねないものです。だから、わしは、あなたと対話をしたかった。ずっとその機会をうかがっていたのです。

先日の戦いのあと、それはようやくかなえられた。そして、わしはあなたの信頼を得た。そうですね」

「はい。あの、サイラス様」

「孤独は人の心に巣くう業病です。人ならば、多かれ少なかれ孤独という病に侵されている。そして、その病は根深く、容易には癒されない。だからこそ、わしのようなものが必要なのです。孤独に陥った者に手を差し伸べ、語り合い、支える存在が。そして、その人の傍らにずっと居る者が必要なのです」

「わかりました」

 コーネリアのまつ毛が小さく震えている。瞳がうるんでいる。声がかすれている。

「わかりました。サイラス様はわたしに同情してくださっていたのですね。苦しむわたしに情けをかけ、こうして慰めてくださった。それなのに、わたしはわたしを好きだと勘違いしてしまった。ごめんなさい」

「いやいや」

 サイラスは朗らかに笑い、コーネリアの腰に手をまわし、ぐっと引き寄せる。

「まだわしの話はおわっておりませんぞ。確かに最初はそのような理由であなたに声をかけたわけですが、わしもまた一人の孤独を抱える男です。あなたの寂しさ、哀しさに心を揺さぶられ、それが恋心に変わってしまってはいけませんか。あなたの孤独を埋めることで、己の寂しさをも消し去ろうとするのは、ルール違反でしょうか。あなたとこうして抱き合い、喜びを分かち合って、わしがどれほどの充足感を得たか、あなたにわかりませんか」

「それは」

「わしはあなたに恋をした。このような恋心を抱くのは、いったい何十年ぶりでしょう。いやはや。あなたに恋人にしてほしいと言われて、嬉しさのあまり、わしは昇天しそうになり申した。まだ死ぬ予定はなかったのですが」

 年を重ね、経験を深めた黒い瞳が、少年のような輝きを帯びている。それはコーネリアの胸に再び火をともした。

「サイラス様。サイラス様。お願いします。わたしの恋人になってください。わたしをいつまでも愛してください。ずっとずっと、わたしを支えていてください」

「任せてくだされ。この命が果てるまで、あなたと共に参りますぞ」

 そうして二人は、熱いキスをかわした。強く抱きあい、もう一度、喜びに満ちたセックスを交わした。

 

「サイラス様」

「いや。そのサイラス様はもうやめてくだされ」

「そうですね。なんとお呼びしましょう」

 互いの体をまさぐりあい、温めあいながら、ふたりは親密な時を楽しんでいる。

「わかりました。わたしはサイラス様のことを、お父様と呼ぶことにします」

「いや。それは……」

 サイラスの笑顔がそのままひきつった。

「何故、そのような呼び名を」

「だって、わたしの父は、生きていればサイラス様と同じぐらいの年。いいえ。サイラス様の方がきっと年上だから、わたしにとってお父さんみたいなものだと思うんです。お父さんならわたしのことを無条件で愛してくれます。どんな戦場であっても、必ず助けに来てくれると信じられますもの」

 そう言うコーネリアの笑顔には、幾分かの邪心が含まれているようだった。しかし、コーネリアは無邪気を装い、サイラスの首に抱き着き、乳房をゆるゆると押し付ける。

「お父さま。大好き」

「やめてくだされー」 

サイラスが悲鳴を上げた。

「どうして。お父さま」

「それだけはお許しくだされ。そんな呼び名が王城内に広まったら、わしは恥ずかしくて歩けませぬ」

「そんなことはないと思います。まさか皆様も、わたしがサイラス様の本当の娘だとは思わないでしょう」

「それでも、それでも、これだけはご容赦ください」

 サイラスの悲痛な声に、コーネリアはうれしそうに笑う。

「しかたありませんね。それほどまでいわれるのなら。おじさま、で許して差し上げます。これなら文句はないでしょ。ねっ。サイラスおじさま」

「……。ううっ。わかりもうした」

サイラスは観念して目を閉じる。その瞼に、コーネリアは優しくキスした。

「おじさま。わたしをもっともっと、愛してください。おじさまをこの体でもっと感じたいんです」

 そして朝を迎えるまで、ふたりは愛しあったのだ。

 

 

                              おわり

 




 いかがでしたか。
 
 メインヒロインを変えながら、シリーズ化していく予定です。
 千年戦争アイギスはとても面白いゲームなので、機会があればやってみてください。
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