やがて三人は峠越えで狼の襲撃にあい、力を合わせて撃退する。そして、その夜。
リンネの旅立ち
東寺明
1
王国の東の国境近くの小さな町に、裕福な商家があった。その家の、二階の一室には、商家の一人娘が引きこもっていた。
名をリンネと言う。
幼いころから不可思議な力を発動することがあり、それが同世代の少年少女に嫌われることもあった。それが心の傷となり、いつしか一人遊びがおおくなり、十歳を越える頃には部屋から出なくなった。両親は困惑したが、無理強いをして外に出そうとはしなかった。大切に育みつつも、わがままを許さず、必要な生活習慣を守らせた。そして、リンネは美しく成長し、十六歳になった。
「拙者のような者に、お任せくださって、よろしいのですか」
それまで無言でいた男が、口を開いた。
商家の応接室で主人と向き合う男は、侍の形をしている。麻の小袖と袴は擦り切れているが、清潔感があり、そのたたずまいは凛として、彼の矜持をあらわしている。
「先生は、寺子屋と剣術道場を開かれ、町の者にも慕われております。また、剣術の技能は、卓越したものであると伺っております。魔物が出現するかもしれない道中、娘を託することができる者は、コジュウロウ先生を置いて他にございません」
主人は深々とお辞儀をした。
「我が技量を、高く買ってくださり、感謝いたします。ご期待に沿えるよう、全力を尽くす覚悟でございます。ただ、拙者が思いますには、うら若き娘ごと二人きりで旅をするというのは、ちょっとまずいのではないかと……」
コジュウロウの精悍な顔に、困惑の表情がうかんでいる。
「そのことでございますが……」
主人の顔にも、戸惑いの色があった。
応接室からは、日本庭園風の小さな庭が見える。池の周りに植込みがあり、苔むした石の灯篭が置かれている。コジュウロウは故郷に思いをはせながら、主人の言葉を待った。
「娘は幼いころから、被禍予見の力を発現させる時がございました。実は、その予見によって、わたしも命拾いしたことがあります。今回、王都に参るようにとのご指示は、この予見の力を、王子さまがお聞きになったためなのです。それに加えて、最近の魔物の横行で、この町の治安も悪くなってきましたし、娘を安全な場所に移したいとも感じておりました。そのようなことを妻と相談し、娘の意見も聞きました。いや。娘とは直接話せはしませんでしたが」
主人はお茶で喉を潤し、一度ため息をつく。コジュウロウは、引きこもりと噂されるこの家の娘のことを考える。
「娘が言うには、あなた様のことは以前より知っていたそうです」
「拙者をですか。しかし、こちらの娘ごとは、面識はない……」
「この家の二階からは、意外に見通しが良いのですよ。表通りはもちろんのこと、市庁舎前の広場まで見通すことができます。娘は、日がな一日部屋におりますから、先生のお姿を拝見したこともありましょう。背が高い先生の、着物姿は目立ちますから」
「左様でありますか。それで、娘ごは拙者で良いと」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします。もちろん、報酬も十分にいたします故」
「いいえ。そのような事情でしたら、お気遣いは無用。この王国の為でもあり、か弱き娘ごの将来の為でもある以上、全力を尽くしてやり遂げる所存であります」
うららかな春の日差しを浴びながら、小さな馬車は細い街道を進む。一頭の馬が引く馬車は、屋根はついているものの、座席は狭く、横に二人並んで掛けると肩がぶつかるほどだ。御者台も狭く、コジュウロウは身を縮めるように座り、手綱をとっている。ちらりと振り向くと、緊張した少女が、硬い座席にきちんと座っていた。
色白のふっくらした面持ち。長くすべらかな黒髪。目がびっくりするほど大きく、瞳はいつも潤んでいる。紅く小さな唇が引き結ばれ、いまだ一言も言葉が発せられない。明るい色の丈の長いワンピースに、ふわり羽織る上着。胸の谷間が強調されていて、十六と言う年の割に発育がいい。
「リンネどの。旅は始まったばかりじゃ。そのように緊張していては、疲れるばかり。馬車の座り心地は良いとは言えぬが、くつろがれるがよいぞ」
少女の緊張がほぐれるようにと、コジュウロウはなんども声を掛けるが、一度も答えはない。あらかじめ、そう教えられていたし、それもやむを得ないとは思っていた。リンネが無視をしているわけではないのは、わかっていた。声を掛けられるたびに、リンネの体が緊張するのが見て取れてからだ。だが、年頃の少女が好みそうな話題を、彼が知る由もなく、結局は時にゆだねるしかなかった。
この地方にも魔物は頻繁に出没していたが、街道を行き交う旅人も多く、穏やかな春の日はゆったりと過ぎていく。
「王都とは、どのような町であろうな。何年か前、魔物に攻め落とされ、ひどく荒れ果てたと聞いたが、王子が復興されたとか。あなたを送り届けるこの機会に、王都を見、軍の将官たちと親しく交わり、この国の行方を見定めたいと思っているのだ」
コジュウロウのこの言葉に、リンネの眉がピクリと動いた。その気配を察したコジュウロウは、話を続ける。
「王子は、なかなかの勇者であると聞く。軍を率いて魔物と戦い、連戦連勝だそうだ。魔物と言っても、ゴブリン程度ならば村人でも対処できる。だが、ドラゴンはどうだ。われらにできることは、息をひそめて穴倉に隠れるぐらいしかできない。ところが王子軍は、ドラゴンを射落とし、魔法の炎で焼き尽くし、撃退してしまうのだ。拙者はわが故郷、東の国を滅ぼした魔物を駆逐し、平和を取り戻したいと願ってきた。だが、一人では何もできぬ。もしも、王子が……」
リンネに話して聞かせるつもりが、いつしかコジュウロウの述懐に変わっていった。彼にとっても、この旅立ちは、意義深いものになる予感があったのだ。
「……。わ……」
リンネが発した声を、コジュウロウは聞き逃さなかった。体をねじり、顔を向ける。
ところがそれがいけなかった。リンネは喉を詰まらせたかのように、体を震わせ、頬を赤く染めてうつむいてしまう。コジュウロウは失望をおし隠し、手綱を振った。
まだ陽が高いうちに、二人を乗せた馬車は町に着き、宿に入る。
ずっと引きこもっていたリンネにとって、緊張続きの旅で疲れ果てていた。担がれるようにベッドに入り、そのまま寝入ってしまう。コジュウロウは荷物を整理し、部屋を出ていく。リンネがこのまま眠ってしまったら、夕食の用意がいるだろう。
家の物とは比べ物にならないほど固いベッドに横たわり、リンネは失望と後悔に苛まれていた。失望は自分自身へ。そして、後悔は自分の決断に対してのものだった。
今朝。旅立つときに、両親には長くお世話になったお礼を言い、同行してくれるコジュウロウには、よろしくお願いしますと言うつもりだった。何日も前から考え続け、お辞儀をする練習までしてきたのだ。けれど、リンネができたのは、ぎこちなく頭を下げることだけだった。道中では、なにかと気遣ってくれたコジュウロウに、満足に返事もできなかった。
後悔はこの旅立ちそのものに向けられていた。王都からの招請も、魔物の脅威も、リンネが嫌と言えば、両親はそれを受け入れただろう。しかし、引きこもり続ける自分自身に嫌気がさしていたリンネは、家を飛び出す最後の機会だと考えたのだ。そして、きっと自分ならできるだろうと言う、根拠のない自信に支えられ、話を進めてきた。ところが、その自信はあっさりと砕け散ってしまった。馬車で荷物のように運ばれるだけの、体たらく。この先、王都にたどり着いたとしても、いったい何ができるだろう。
帰りたい。あの部屋に逃げ帰りたい。リンネの目に涙があふれ出す。目をぎゅっとつぶり、泣くのをこらえる。そして、体を丸めてただ一人震えていた。
いつの間にか寝てしまったらしい。体の上に毛布がふわっと掛けられている。鎧窓が閉められ、部屋が淡い橙色の明かりに満たされている。そして、かすかな人の気配があった。
リンネが身じろぎすると、すぐに声がかかった。
「初めての旅で、さぞかしお疲れになったのだろう。お腹は空いてはいまいか。ここにパンとベーコンとジャガイモがある。少しでも食べられてはどうか。いや。無理にとは言わぬ。このまま眠りたいのなら、それでもかまわぬぞ」
太い男の声が、優しく語り掛ける。心から心配してくれているのがわかる。それが、無性にうれしく、消えかけていた力が体中にあふれてくる。
リンネは体に力を込め、むくりと起き上るが、少しよろめいてしまう。
「大丈夫か。馬車に揺られて、体が痛くはないか」
力強い男の腕が、リンネの肩をしっかりと抱きとめてくれた。
「あ、の……」
リンネは恥ずかしさに打ち勝ち、顔をもたげ、男を見る。武骨な侍は、気づかわし気な表情でリンネを覗き込んでいた。
「わらわ、は、酒場と、言うところ、行ってみたい……」
リンネがつっかえつつ、そう言った。
「です」
そうだ。リンネがこの旅で期待していたものの一つは、宿屋での酒場だった。そこでは、夜になると人々が集まり、おいしいものを食べながら、音曲を聞き、ダンスや芸能を鑑賞できるという。そうした大人の世界を覗きたいと、リンネはいつの頃か思うようになっていた。眠れない夜には、賑わいを見せる酒場の光景を想像した。旅の楽師が奏でる旋律にあわせて、着飾った娘たちが踊り、酔客が歌をがなり立てる。おいしいご飯。甘いお酒。リンネは、まわりの客たちと楽しくおしゃべりし、笑いさざめく。空想の翼は大きく羽ばたき、リンネは甘美な時間に身をゆだねたのだ。
「わらわ……?」
その古風な物言いに、コジュウロウは戸惑うが、それは引きこもったゆえであろうと推測する。
「酒場か」
コジュウロウは考え込む。この時間では、夕食をとる者は少なく、酒を飲む者がほとんどだろう。そんな場所に、リンネのような麗しい娘を連れて行って良いものだろうか。大勢の人間が集まる場所に、昨日まで引きこもっていた娘が耐えられるだろうか。疲れ果て、明日からの旅がさらに辛くなるだけではないか。
そう考えたコジュウロウは、ここで食事をとり、おとなしく夜を過ごすようにと言いかけ、ふと気づく。
今日一日で、これが初めての意思表示なのではないかと。
「わかり申した」
コジュウロウははっきりとうなずく。
「では身支度を整えて、出かけましょう。夜は冷えます故、もう一枚上に着てくだされ」
コジュウロウは、おっぱいが覗くリンネの服が、酒場ではトラブルの種になることをよく知っていた。
固唾をのんで返事を待っていたリンネの顔が、パッと明るくなった。
宿の主人に頼み、酒場の隅の席をとってもらう。リンネを奥の席に押し込み、テーブルの上に大きな水差しを置き、目隠しにする。それから温かな鳥雑炊と焼酎を注文する。
リンネは落ち着かなかった。怯えてもいた。それでも、好奇心は失わなかった。大きな目をさまよわせ、耳をそばだたせて、酒場で起きているあらゆる物事を見聞きしようとしている。
コジュウロウにとって、それは見慣れた酒場の光景だった。楽しく騒ぐ太っちょがいて、
一人酒を楽しむ初老の男がいる。頭を突き合わせて、深刻そうな話し合いを続ける中年男がいる。その剣呑さは、まわりの客を遠ざけていた。一方、陽気な夫婦連れが、ビールを片手に歌をうたいだすと、まわりの客が手拍子を始めた。歌が歌を呼び、声を合わせ、手拍子、足拍子が高まっていく。
コジュウロウは焼酎をあおり、盃を置いた時、テーブルが揺れているのに気づいた。横を見ると、リンネが体を小刻みに揺らしている。歌に合わせ、手拍子に合わせて、リンネも不器用に体を揺らしていた。小さな唇が動いているのは、歌を口ずさんでいるのだろう。隣にいるコジュウロウのことを、すっかり忘れているようだ。
リンネのふっくらした頬が、和らいできた。黒い瞳が輝き、頬が染まる。ずっと身にまとっていた警戒心が薄れ、好奇心が表に現れる。
蝋燭の橙色の明かりが映し出す、町の人々の小さな宴は、盛り上がっていく。
その時、一人の少女がテーブルをすり抜けて、酒場の真ん中に飛び出した。赤を基調にした着物をまとい、両手にもった扇を振りながら、舞い始める。テーブルにぶつからないように、巧みにステップを刻みながら、飛んだり跳ねたりまわったり。茶色の瞳。栗色の髪。白い肌。髪に花の冠をつけた少女は、客の歌に合わせて踊り続ける。
すると、酒場の空気がさらに熱気を帯びていった。少女の舞いに煽られるように、客たちが立ち上がり、歌い踊り歓声を上げる。テーブルから盃や皿が床に落ちても、誰も気にしない。盛り上がり、もっと盛り上がって、酒場は熱狂の渦と化した。
絶頂の後に、高揚感と満足感が残った。客たちは乾杯を繰り返し、拍手と歓声を上げながら、少女におひねりを渡す。
少女はお辞儀をしながら、おひねりを受け取りながら、コジュウロウのテーブルに近づいてくる。
「今晩は」
少女はまっすぐコジュウロウを見て、声を掛けてきた。コジュウロウは懐を探り、小銭を取り出す。
「いいえ。それじゃなくて、なにか飲ませてもらえますか」
「焼酎しかない。そなた、未成年だろう」
「いいえ。もう、ちゃんと女ですよ」
コジュウロウは顔をしかめ、チラッとリンネを見やる。しかし、リンネは少女の顔をじっと見つめて切り、身じろぎもしない。一方、少女が歓声を上げた。
「カワイ―。女の子だー」
奥に隠れて見ていたリンネは、少女の声に赤面する。そんなリンネにお構いなく、少女はリンネの隣の椅子に強引に座り、身を乗り出して覗き込んでくる。リンネは気圧されるように顔を背け、縮こまった。
「どうして。どうしてこんな夜更けに酒場にいるの?あんた。こっちのおじさんの連れ?二人はどういう関係なの。どこまで旅するの?」
少女は矢継ぎ早に質問を浴びせかけ、その間にコジュウロウの焼酎をあおり続ける。
「ねえ。その雑炊、なんで食べないの。冷めちゃってるじゃない。食べないんだったら、あたしにおくれよ。踊ったから、お腹ペコペコなの」
図々しいことを言いつつ、少女は屈託のない笑顔を見せる。その勢いにリンネはうなずいてしまう。
少女は雑炊のお椀を引っ掴み、箸で掻きこむように食べる。頬を緩め、くすくす笑いながら、あっという間に全部食べてしまった。そして、すぐ、焼酎を一気に飲み干す。
「フ―ッ。おいしかった。ありがとね。おじさん。それから、お嬢ちゃん」
それだけ言い残して、少女は風のように酒場から出て行ってしまった。
コジュウロウは頭をかきながら、リンネを見やる。リンネは少女が去った方を目で追っていたが、その顔には小さな微笑みがうかんでいた。
2
昨日泊まった町の城壁が、遠ざかっていく。
魔物の襲来以降、町を守るために、人々は高い城壁を築いた。煉瓦を積み上げただけの城壁であっても、ゴブリン程度ならば十分撃退できる。王子軍の派兵が間に合わなくても、町の住民が力を合わせて守り切る。そうしたことで、住民の自治意識が高まり、郷土愛が芽生えていくのだ。
馬車に乗るリンネは、体を曲げて小さくなっていく町を、いつまでも眺めている。昨日の夜、初めて体験した酒場での出来事を思い起こしていた。それは、引きこもり続けていたリンネにとって、どれほど大きな衝撃だったのだろう。
穏やかなまなざしで彼女を見守るコジュウロウは、この旅がリンネに多くの幸をもたらすのではないかと感じていた。自分が若かった頃は、毎日修行に明け暮れ、人生を迷うことなど、思いもよらなかった。この道を進んでいけば、いつか必ず完ぺきな侍になれると信じていた。
その道の途上で、リンネと言う少女と出会った。リンネが初めての体験の中で、大きな感動を得ている姿に、コジュウロウは忘れていた初心を思い出した。だから、リンネがこの旅で多くのものを得られれば、それはすなわち、自分をも成長させてくれるのだと、信じられた。
リンネが声を上げた。物思いにふけっていたコジュウロウは、慌てて後ろを振り向く。すると、馬車のずっと後方に、人影があった。まだずいぶん遠かったが、それがだれかは見間違いようがない。昨夜出会った踊り子の少女だ。少女が力いっぱい走ってくる。
コジュウロウはリンネに言われる前に、馬を止めた。馬車が止まると同時にリンネが飛び降りるが、慌てすぎて、転びかける。コジュウロウが身を乗り出すが、リンネはよろめきながら駆けていく。その後ろ姿は、頼りなく、それでいて躍動感に満ちている。これが若さなのだな、とコジュウロウは改めて感じた。
町の方へ戻っていくリンネに、駆けてきた少女が抱き着いてきた。何を話しているのかわからないが、少女が話しかけ、リンネがなんどもうなずいている。そして、すぐに二人は連れ添ってこちらに歩いてきた。
踊り子は、町から町へと移動しながら商売するものだ。だから、あの少女も次の町へ行くのだろう。つまり、旅の道連れになるのだ。
リンネにとって、それはどんな意味を持つのだろう。
コジュウロウは二人が馬車まで来る間、そんなことを思っていた。
「リンネちゃんって、お嬢様なんだよね。こんな馬車で、王都まで行くんだから、すごいよね」
少女はハナと言った。リンネと同じ年で、幼いころから踊り子として生きてきた。だから、一か所にとどまることがなく、国中を旅してきたし、外国へも行ったことがあった。そんなハナが、家に引きこもっていたリンネと楽しそうにおしゃべりしている。
リンネはほとんど言葉を発しない。なにか言いかけるのだが、それが言葉になる前に、ハナがしゃべるのだ。それでも、それなりに会話になっていて、リンネは頬を赤らめ、うなずいたり、笑ったりしている。
「ハナ殿は、王都に行ったことがあるのか」
「あたし?うん、昔あるよ。ずっと前」
「王都陥落の前なのか」
「そうだね。ほんの小さなこどもの頃。叔母さんに連れて行ってもらったんだ」
「叔母さん?」
「うーん。育ての親、みたいな感じ。怖い人だったなー」
「今は一緒じゃないのか」
「まあね。ねえ。リンネちゃんのお母さんって、どんな人?」
突然問いかけられたリンネは、口をパクパクさせるが、何とか声を出す。
「……やさしい」
「そうなんだ。ねえ、おじさんは、リンネちゃんのお母さんに会ったことあるんでしょ。優しかった」
「どうであろう。あいさつして、ほんの少し話しただけだからな」
「エー。会ったのにわからないの。もしかしたら女の人に興味がないとか」
「なにを馬鹿なことを……」
「侍ってさ。男同士が好きだって聞くけど。もしかしたらおじさん。ホモ?」
コジュウロウが絶句し、リンネが肩を震わせて笑いをかみ殺す。
「エッ。やっぱりそうなんだ。昨日、そうじゃないかって感じたんだよ」
「やめてくれ。拙者は至極普通なのだ」
コジュウロウが叫んだ。
その日の宿は、三人で一つの部屋をとった。出会ったばかりの相手との相部屋に、コジュウロウは懸念をもったが、リンネが訴えるようなまなざしで懇願した。若い娘と二人っきりで泊まることに、息苦しさを感じていたコジュウロウは、三人の方がましだと思い、了承した。
夕食は三人で取った。たらふく食べ、酒を飲んだハナは昨日よりもさらに陽気で、客の歌が始まると、すぐに踊り出した。自分が踊るだけでなく、酒場を盛り上げ、客を乗らせる。酒場にとっては売り上げが増え、客は楽しみが増え、その結果ハナはおひねりをたくさんもらえる。それは計算された行動であり、同時にハナの魔力の発現でもあった。
ハナが作り上げたその夜の熱狂は、コジュウロウだけでなく、引っ込み思案なリンネまでも巻き込んだ。ハナに手を引かれて、恐る恐る立ち上がったリンネは、ぎこちなく踊り出す。両手をつないでステップを踏みながらクルクル回り、歌に合わせて小さくジャンプする。リンネの長い髪が跳ねおどり、笑顔が生まれる。コジュウロウも動きの遅い故郷の踊りを披露し、喝さいを浴びる。
リンネは声を上げて笑い続ける。それは十年分ぐらいの笑いだった。
3
その日の午後、降り始めた雨は、篠突く雨になり、馬車での移動すら難しくなった。コジュウロウは近場の農家の納屋を借り受け、三人はそこに避難した。
御者台のコジュウロウはもとより、屋根があるだけの馬車に乗っていたリンネとハナも横殴りの雨に、ずぶ濡れになってしまった。コジュウロウは簡易コンロを借り、火をたいた。
コンロが熱くなると濡れて震えていたハナが服を脱ぎ始めた。さして慌てもせずに、コジュウロウも着物を脱ぎ、冷えた体をこする。リンネはもじもじしていたが、寒さと気持ち悪さに勝てず、コジュウロウに背を向けて、のろのろ服を脱ぎ始める。
暖まっていく空気に、汗の入り混じった体臭が入り混じっていく。二人の女の子から漂う甘い匂いが、コジュウロウの鼻を強く刺激するが、彼はポーカーフェースを崩さない。彼は納屋の梁に紐を張り渡し、脱いだ服を掛けていく。
「ハナ。そなたは……」
「だって、着替えがないもん。あっ。下着は持ってるよ。ねっ」
「わらわの。服。着て」
「わらわ、って、なあに。ああ。あたしってことか。いいの?嬉しい。リンネちゃん、どんなの、持ってるの?」
ショーツとキャミソール姿のハナが、リンネの衣装箱を探り始める。リンネも一緒になって、服を品定めする。リンネの母親が持たせてくれた服は、色鮮やかな可愛らしいものばかりで、今着ている黒を基調とした服とは違和感があった。もしかしたら、リンネは明るい服が嫌いなのかもしれない、とコジュウロウは思う。
コジュウロウは米を入れた鍋と、野菜を入れた籠をもって、外に出ていく。戻ってきたコジュウロウは鍋をコンロにかけ、野菜と肉を切っていく。
服を着終わったハナは、リンネを手伝わせて寝床の支度をする。納屋に積み上げられた藁を平らにし、その上に持ってきたシーツを敷き、毛布を掛ける。
「洗濯したシーツ。新しい毛布。こんなんで寝られるのか」
ハナが普段とは違った、しみじみとした声で言う。
「嫌。なの」
リンネが大きな瞳を潤ませる。
「違う。違う。嫌なんかじゃなくて、嬉しいの。こんなんで寝られたら気持ちいいだろうなって。ただ……」
ハナが笑顔を見せるが、リンネの憂いは晴れない。
「ただ、リンネちゃんがうらやましいだけ。お母さんに愛されているんだなって、感じるよね。ねえ。おじさん」
「そうだ。リンネ殿はご両親に大切に育てられてきた。こうやって、娘を手放し、遠くに旅立たせるのは、どれほど辛い選択であったろう。この品々には、ご両親の愛情が込められている。拙者たちはそのおこぼれにあずかり、一夜の温もりを感じようぞ」
その言葉は、リンネとハナに感銘を与えた。リンネは両親の愛を改めて心に刻み、ハナは人を想う心に、あこがれを募らせる。
リンネは両親との記憶をたぐらせながら、ぼんやり座り込む。そして、ハナは唇に笑みを浮かべ、コジュウロウの手伝いを始めた。
「休んでいるがいい。拙者一人で十分だ」
「ううん。やらせて、ほしい」
ハナがコジュウロウを見上げる。その唇に浮かぶ笑みに、かすかな影があることに、コジュウロウは初めて気が付いた。いぶかし気に見下ろすコジュウロウにむけて、ハナが妖しげな微笑みを投げかけた。
火で炙った干し肉を噛みしめ、熱々の雑炊を食べる。酒場の食事とは雲泥の差だが、コンロを囲んで三人きりで食べる夕食は心まで温めてくれた。
「ハナ殿は、いつも連れと共に旅をするのか」
「ううん。一人のことの方が多いよ。人とおしゃべりするのは大好きだけどさ。誰でもいいってわけじゃない」
「しかし、一人旅は難儀であろう。危険も多かろうし」
「それは慣れているから。危険って、おじさんが考える危険はないよ。だって、あたし。強いんだもん」
ハナの答えに、リンネが首をかしげる。ハナがにやりと笑った。
「あたしの踊りはね。人の心を惑わすことができるんだ。操る、って言った方が分かりやすいかな。だからね。襲い掛かってこれれても、騙してやっつけることだってできる。ね。わかった?」
リンネがうんうんと頭を上下させた。そして、尊敬のまなざしをむける。
「あたしよりも、リンネちゃんはどんな力を持っているの。王子に招かれたってことは、すごい力を持っているんでしょう」
ハナがリンネとコジュウロウを相互に見やる。コジュウロウが首を振ると、リンネをじっと見つめる。リンネの顔が赤くなった。
「……わらわも。よく、わからない」
「ん。どういうこと」
「風水。得意なの。です」
「風水って、なに。おじさん」
「拙者もよく知らんが、なにやら、気を操ることで、環境を改善する技であるとか」
「??ぜんぜんわからん。リンネちゃん」
「わらわも。わからぬ。でも。元気にすること。できる」
「元気を回復するとは、ヒールのようなものであろうか。それならば、リンネ殿と一緒に居て、気分が良いのはそのせいであるかもしれぬな」
「そうなんだ。なんだか、ラッキーだね」
ハナが笑うと、リンネも微笑む。一緒に居る仲間を喜ばせられたことに、リンネは満足した。
納屋には荷車や石臼のような、大きなものも置いてあった。コジュウロウはそれらを利用して、二人の女の子と自分の間の衝立にする。昨日も同じ部屋で寝ていたから、どうしても必要というわけではないが、彼はそうした。
急ごしらえのベッドに横たわると、地面を叩く雨音が大きく聞こえてきた。春とはいえ、雨模様で少し冷えている。簡易コンロの温もりが、嬉しい。そして、納屋の反対側から、女の子のささやき声が聞こえてくる。それを子守唄代わりにして、コジュウロウは眠りに落ちていった。
眠りから覚めたのは、人の気配によってだ。いかなる時も、警戒を怠らない侍の勘が発動し、コジュウロウは目覚めると同時に刀を握った。
「待って。あたしよ」
耳元でささやかれた声は、聞きなれたものだった。
「どうした。ハナ殿。なにかあったのか」
シルエットになったハナが、コジュウロウに覆いかぶさるように迫ってくる。
「眠れないんだ。馬車なんて、乗ったことがないのに、一日中座って移動して、なんか変」
そう言いながら、ハナは毛布の端から体を滑り込ませる。
意図を察したコジュウロウは、腕でハナを押し返そうとする。
「どうして。おじさん。ホモじゃないんでしょ」
コジュウロウの手は、ハナの素肌に触れた。身に着けているのはショーツだけだ。
「やめるんだ」
「おじさん。あたしのこと、嫌い?嫌いだったらやめるけど」
「嫌いではない」
コジュウロウはきっぱり答える。
「よかった」
ハナがグイッと抱き着いてくる。ふんどし一つで寝ていたコジュウロウの胸に、小さなおっぱいが押し付けられ、つぶれる。
「だが、ここではいかん」
「なぜ。リンネちゃんがいるから?」
「そうだ」
「寝てるから大丈夫だよ。あたし、リンネちゃんが寝付くの、待ってたんだから」
そう言いながら、ハナの指はコジュウロウの逞しい肉体をまさぐっていく。
「おじさん。服着てるときはそんなでもないけど、脱いだらすごく逞しい。カチカチだね」
「だが……」
コジュウロウはまだ迷っている。健全な男として、女が欲しい。セックスをしたい。だが、大人ならば、欲望だけで行動することはできない。
「すこしだけ。すぐ終わる。大きな声は出さないから。ねっ」
「わかり申した」
コジュウロウのペニスは、すでにそそり立っている。もう後戻りはできない。
ハナの指が、ふんどしの中に差し込まれていく。指先が亀頭に触れ、くるくるこねくり回す。すると先端から、ねばねばの液体が出てきた。
コジュウロウは両手でハナの小さな肩を抱き、抱え上げて唇を求める。ハナは首を伸ばし、コジュウロウの口に吸い付く。二人は舌を絡ませ、強く吸い合い、官能を高めていく。
「おじさんの、おっきいね」
ハナが喘ぎながら、言葉を継ぐ。
「こんなの、入れられたら、すごくなりそう」
「大丈夫なのか。無理ではないか」
「ぜんぜん大丈夫。早く欲しいよ」
コジュウロウの右手が、ショーツの中に忍び入り、ハナの秘部をまさぐる。そこはもうぐっしょり濡れそぼり、こね回すと音が聞こえてくるようだ。
「ねえ」
ハナがコジュウロウの上にまたがる。
「待て」
コジュウロウが、ハナを抱えたまま反転した。その勢いでハナのショーツを下ろし、足から抜き取る。それからふんどしをほどき、そそり立つペニスを出した。そして、ハナの両足を大きく開き、ペニスを膣口に押し当てる。
「よいか」
「うん。入れて」
コジュウロウは、ゆっくり腰を押し出していく。ハナの狭い膣に、大きなペニスが押し込まれていく。ひどくきついが、たっぷり濡れているのでスムーズに侵入していく。
「……」
ハナが、声のない吐息を深々とはいた。背中をのけぞらせ、腕に力を込めて、コジュウロウを抱きしめる。
「やっぱり、おっきい。いっぱいになっちゃった」
「きついな。動いてもよいのか」
「うん。激しくてもいいよ。来て」
コジュウロウは肘をつき、ハナに体重を掛けないように気遣いながら、動き始める。同時に顔にキスをし、下に下にと動いていく。やがて、ひかえめなおっぱいの小さな乳首に達すると、唇と舌で舐め始める。敏感な部分を舐められて、ハナが身をよじりながら声をあげる。
コジュウロウがハッと顔を上げると、ハナも気づいて口を手でふさぐ。それを見て、コジュウロウは、腰を前後に動かす。ハナの顔がゆるんだ。
「ハナ殿は、可愛いのう」
「嬉しい。ねえ。リンネちゃんと、どっちが可愛い?」
「それは、わからぬ」
「バカ。そんな時は、嘘でもハナだって言うものよ」
「そうなのであろうが、拙者は言えぬ」
「おじさん。可愛いよ。すごく」
ハナは自分から腰を動かし、感じやすい部分をこすりつけていく。二人の接合部から、ニチャニチャと音がした。ハナは太ももを引き付けて、コジュウロウを動きやすくし、より深いストロークを要求する。コジュウロウはハナの口を口でふさぎ、動きを早める。
汗がほとばしり、息を荒くし、腰を打ち付けて一気にクライマックスに突き進む。ハナは両手両足を絡ませ、コジュウロウの攻撃に身を任せ、高まりゆく快感を貪り尽す。
コジュウロウはペニスで幼い膣を味わい、右掌で薄いおっぱいを楽しみ、舌で小さな舌を転がして遊ぶ。禁欲してきたわけではないが、久しぶりの女の体は、コジュウロウにも大きな喜びを与えてくれた。コジュウロウは全身でハナを楽しむ。それはすなわちハナの喜びであった。
ハナは叫び、よがり、うめきながら、からだをうねらす。膣から沸き上がってくる快感が全身を駆け巡り、頭を混迷の中にぶち込む。
コジュウロウの絶頂が先に来た。ペニスが唸り、ハナの膣に大量の精液をぶちまける。二度、三度、精液が放出されるたびに、コジュウロウの脳天に衝撃が走る。
強烈な射精を浴びて、ハナもクライマックスを迎えた。全身に震えが走り、硬直し、衝撃に耐える。耐えて耐えて、噴き上がる快感に身をゆだね、流されながら踏みとどまる。
そして、快楽の底に落ちていった。
コジュウロウは一度では満足しなかった。快楽の余韻に浸るハナの体を裏返し、お尻を引き寄せ、挿入していく。腰をしっかり支えて、ニュルニュルの膣にペニスを深々と打ち込み、そのまま早い前後運動を開始した。
しばらくの間、ハナは自分が何をされているのか、わからないようだった。ただ、膣への刺激はゆるい快感をもたらしてくれるので、じっとしていた。
やがて、意識を回復すると、ハナもまた二度目を求めはじめる。腕に力を込め、お尻を高く掲げてペニスを咥えこみ、より強い刺激を求める。コジュウロウの手が前にまわされ、おっぱいと乳首、それからクリトリスを刺激する。
「おじさん。いいよ。すごくいい。もっとちょうだい」
ハナの求めに応じて、コジュウロウはさらに力を込める。ハナの体から蠱惑的な女の匂いが立ちのぼり、それがさらに興奮を高めていく。
「すごい。もっと」
ハナはよがりながら声を上げ、荒い息を吐き続ける。
ハナの可愛らしいお尻に、コジュウロウの大きなペニスが入っていく。引き抜かれたペニスはテラテラと光り、ひどく厭らしい。そして、また入っていく。細い太ももを踏ん張らせて、コジュウロウの責めを必死に受け止める。お尻とペニスがぶつかるぺちゃぺちゃパンパンと言う音が、納屋に響く。
「おじさん。リンネちゃんが起きちゃうかも」
ハナの哀願をコジュウロウは無視する。そして、己の欲望のままに動き続ける。華奢な背中。小さな肩。可愛いお尻。少女とのセックスは、コジュウロウに今までにない快楽を呼び覚ました。幼いからだは自由自在に操ることができる。そして、そこから溢れ出す快感は、大人の女とは違ったものだった。
腕でハナの上体を持ち上げ、のけぞらせて、口を吸い、おっぱいを揉む。すべらかな肌は、どこまでも柔らかく、指先で味わうことができる。髪の匂い。汗ばむ肌のさわやかな少女の匂い。膣は心地よく、いつまでも味わっていたい。
だが、射精欲がすべてを飲みこんでいく。狭い膣に締め付けられたペニスは、アッというまに、二度目の射精を迎えた。最初と同じほどの精液が放出され、快感がもたらされる。ハナもまた快感の渦に巻き込まれ、共に落ちていった。
4
翌朝、雨上がりの街道を馬車がすすむ。ぬかるんだ道を行く車輪が、泥を撥ねるので、コジュウロウはいつもよりもゆっくり馬を進ませる。
馬車に向かい合って座るリンネとハナは、ひどく対照的な様子だった。
ハナは朝からテンションが高かった。いつも元気いっぱいなので、特別には見えないが、昨日までよりもリラックスしているのがよく分かった。
一方、リンネは体がだるそうで、ほとんど口を開かない。昨夜は納屋での一夜だったので、よく眠れなかったのかというハナの問いに、リンネはうなずきで答える。ハナとコジュウロウは一瞬顔を見合わせたが、すぐに視線をそらした。
「昨日の雨はすごかったもんね。あれじゃ、眠れなくても仕方ないよ」
ハナが振りかえり、コジュウロウに向かってそう言った。
「そうだな」
「この辺は、あんなすごい雨が降るんだね。雨の中の旅って、嫌だよね。旅を続けていると、やっぱり晴れた日が嬉しいよ。でも、自分のお家があれば、雨の日だって楽しめるんだろうなぁ」
そして、ハナはリンネの顔を覗き込む。リンネはかすかに頬をゆがめた。ハナはしまったという顔になり、視線をさまよわせる。
手綱を取り、会話を聞いていたコジュウロウも、顔をしかめた。ハナには悪気がなくても、今の発言は、家に引き籠っていたリンネへの皮肉ともとれる。
「農民は、雨を待ち、雨に泣く。晴れていても、雨であっても、農作業を休むことはない。頭が下がる」
「そうだよね。うん。あたしたちがご飯を食べられるのは、お百姓さんが働いてくれるからなんだよ」
「さよう。王子たちが魔物たちと戦えるのは、この民衆の働きと支持があってこそなのだ。拙者は王子たちと共に戦いたいと、思い始めている。だから、この旅で普通に暮らす町の人たちが、王子をどのように思っているのか、知りたいを思うのだ」
「そうなの。おじさん。リンネちゃんを王都に送り届けるだけじゃないんだ」
「無論、それが一番の目的だ。リンネ殿を安全に送り届けると、ご両親に約束した。これを命に代えても守らなくてはならない」
二人の会話を聞いていたリンネは、胸の痛みを感じていた。
二人が仲良く話しているのを、そばで聞いていると、自分ひとり取り残されたような気がする。二人は天気の話をしていたはずなのに、いつの間にか王子の話をしている。その話の流れが、理解できない。魔物と戦うことに、リアリティが感じられない。と言うよりも、何のために戦わなければならないかなど、考えたこともない。
リンネの世界は、両親に守られたあの部屋の中だけだった。そこは居心地がよく、安全で、まるで子宮のようだった。勇気を奮ってそこを踏み出したリンネは、すぐに足踏みしてしまう。頼りがいのある大人との出会い。同じ年の友達。手が届くところにいるのに、まだ、遠い。そのことが、リンネを打ちのめす。
力なくうなだれるリンネの様子に、ハナがうろたえた。
「リンネちゃん。気分悪いの?あたし、なにか変なこと、言ったかな」
ハナは手を伸ばし、リンネの手を両手で包むように握る。リンネの手は冷たかった。
「旅の疲れが出る頃だ。昨日は納屋で泊まるしかなかったが、今宵はちゃんとした宿屋に泊まろう」
「そうだよ。今日はお風呂に入りたいな。ね、ね。リンネちゃん。一緒に入ろう。体、洗ってあげるよ」
「大きな町ならば、風呂屋もあるだろうが、どうであろう。確かに風呂につかれば、疲れもとれるだろう」
「わー。期待しよ」
喜ぶハナを見て、リンネも微笑む。
けれど、リンネの心のうちは、複雑だった。なぜなら、リンネは昨日の夜、目覚めていたからだった。
隣で寝ていたハナが起き上ったとき、リンネは浅い眠りからさめた。手洗いに行くのだろうと、ぼんやり思っていたら、外ではなくコジュウロウの方へ行った。リンネは、急に頭がはっきりしてきて、なにが起きるのかと耳をそばだてた。
今日は雨で、行程が進めなかったから、明日からの旅の予定を話し合うのだろうか、と思った。ところがハナはなかなか戻ってこない。疲れていたリンネがうとうとしかけた時、突然、ハナの声がした。苦しさを押し殺したような、小さな叫び声だ。
リンネははっと目を覚まし、上体を起こしかける。コジュウロウが寝ている場所との間には、荷車が置かれているし、明かりもない。闇の向こうから、身じろぎする音が聞こえてくる。そして、時折、ハナの押し殺した声がする。
何をしているのだろう。
引きこもっている間、リンネの情報源は本と、窓から見える風景だけだった。本は母親にねだって買ってもらったり、借りてきてもらった。当然、母親に知られても恥ずかしくないものばかりになる。
だから、ハナのよがり声が聞こえてきた時、リンネは仰天した。知識はほとんどなくても、それが何を意味するかは、ぼんやりとわかる。それは、男と女とが行うことで、生殖行為と呼ばれるものだ。だが、それは大人がやることで、自分と同じ年のハナが、なぜするのだろう。
リンネは全身を緊張させて、聞き耳を立てる。すると二人が動く音が、頻繁に聞こえてきた。それと共に、荒い息と、うめき声が、ずっと聞こえてくる。二人は激しく動いているらしい。
ハナの声がだんだん上ずってきて、ひそめていた声が、はっきり聞きとれるようになっていくと、リンネの体が火照ってきた。体の真ん中から沸き上がってくる得体の知れない情動が、身も心も揺さぶるのだ。リンネは体をぎゅっとすぼめ、それを抑えようとする。
だが、それは無駄だった。
藁の寝床で身をくねらせたリンネは、無意識に手を股間に持っていく。下着だけで寝ているので、秘部を覆うのは薄い布だけだ。指を這わせ、こすると、体がピクリとなるほど気持ちいい。もっと強く、押し込んでいく。そこに何があるかぐらいは知っている。けれど、そこがどうなっているか、はっきりは知らない。
離れていると言っても、五メートル位なのだ。そこで、自分を守ってくれている侍と、偶然出会った踊り子の少女が妖しい行為をしている。最初はひっそりとしていたが、次第にエスカレートしていき、今は声も音もはっきりと聞こえてくる。
二人は自分が起きていることに、気づいていないのだろうか。気づいていたら、きっとこんなことはしていないだろう。だから、そっと近づいていけば、なにをしているか、はっきり見ることができるのではないか。闇の中であっても、近づけば、シルエットはわかるのだ。
ハナが大きなよがり声をあげた。リンネの体がそれに反応する。こすっていた股間が、しっとり濡れてくるのが、布越しでもわかった。もどかしさが募り、リンネは手をショーツの中に差し入れ、指をのばす。そこは普段とは全く違う、別世界だった。薄い陰毛がしっとり濡れ、さらに奥に進むとそこは潤いのある沼のようになっていた。リンネの指は、ためらいなく奥に進み、膣の中に埋没していく。同時に、掌がクリトリスを圧迫し、こすっていく。
リンネは体をのけ反らせた。右手を強く動かして、刺激を与え続けると、体が一気に熱くなっていく。向こうでは、肉体と肉体がぶつかり合うような音がする。ぴちゃぴちゃと液体がこね回されるような音もする。ハナのよがり声と悲鳴は間断なく続き、コジュウロウの呼吸も荒くなっていく。
もう片方の手は、キャミソール越しに年齢に似合わぬ豊満なおっぱいを揉みしだき、ヴァギナへの刺激をさらに強める。背中をいっぱいにのけぞらせ、足を硬直させ、指を激しく抜き差しさせて、リンネは生まれて初めて、いった。
むこうではハナが絶頂の喜びを露わにして声を上げ、コジュウロウも大きな声を出した。
しばらくして、二人はもう一度始めたが、その頃には、リンネは快感に包まれて寝入っていた。
昨日のことを思い出すと、股間が濡れてくるのがわかった。目の前にいる少女が、昨夜どんなことをしていたのか。そして、大きな背中を向けている頼りがいのある侍が、少女に何をしていたのか。それを思うと、恥ずかしくもあり、好奇心も刺激され、さらに、ひそやかな共犯意識も感じる。その感覚が、リンネの心を引き裂き、沈黙を強いる。そして、ただ一つのことを思いめぐらす。
今夜もまた、あれをするのだろうか。
5
「詐欺だー」
風呂屋で裸になったとき、リンネのおっぱいを見たハナが、悲鳴を上げた。
小柄で童顔のリンネは、驚くほどの巨乳の持ち主だったからだ。しかも着ている服がゆったりしたものなので、外からではわからなかった。
「なんでそんなにおっきいのよ。あたしのがすーごく貧弱に見えるでしょ。もう、もう」
裸で地団駄を踏むハナの前に立つリンネは、両手でおっぱいを隠し、困惑する。もっとも、リンネの掌では、おっぱいのほんの一部しか隠れない。
夕方の風呂屋は、そこそこ混んでいて、二人のやり取りを、客の女たちがニヤニヤ笑いながら見ている。
そんなこんなで騒ぎながら、リンネとハナは体と髪を洗う。天上は低く、湯気が立ち込めていて、客の体臭がむっと立ち込めている。明り取りの窓は小さく、薄暗いなかで、裸の女たちが体を洗いながら、おしゃべりを楽しんでいる。
町の風呂屋に、湯船はない。体を洗い、サウナのように、湯気が立ち込める温もりを楽しむのだ。
体を洗ったリンネとハナは、片隅の椅子に座り、暖かい湯気に身をゆだねる。
「王城には、お湯がいっぱい入った池があるんだって。知ってた?」
ハナが両手を輪のようにして、池の大きさを表そうとする。リンネは首をふるふる振った。
「その池に、入ると、お肌がピッカピカになるんだってさ。王子軍の女の人は、肌がきれいだって有名だよ」
「そう、なの」
「あたしたちも、入れるかな。入りたいな。旅で嫌なのは、体をきれいにするのが難しいからね」
そう言いながら、自分の胸や太ももをなでるハナは、同じ年なのに色っぽい。両腕を前で組み、さりげなくおっぱいを隠すリンネは、そんなハナを見て、また昨日の夜を思い出す。スレンダーなハナのおっぱいやお尻を、あの侍は触ったのだろうか。触られたら、どんな気持ちなのだろう。聞いてみたいが、恥ずかしくて絶対聞けない。
板壁の向こうから、男たちの声がする。風呂屋は混浴が多いが、ここは男女別れている。混浴だったら、リンネは入らなかっただろう。
「うーん。体が綺麗になるって、いいよね。これなら、なにをしても大丈夫だから」
ハナが伸びをし、心からリラックスした様子でそう言った。リンネは眉毛をピクリと動かす。なにをしても、って、いったい何をするのだろう。
二日ぶりに豪華な夕食をとり、歌い踊った。いつもよりもハナの踊りは情熱的で、酒場は熱狂の渦に包まれた。そして、いっぱいおひねりをもらい、部屋に引き上げた。
部屋には暖炉があり、薪が燃えていた。春の夜は、寒いほどではないが、火があるとほっこりと心地よい。
三人は暖炉の前に座り、お茶を飲みながら話をする。
「明日は峠越えになる。馬車でも越えられるだろうが、時間がかかるだろう。できるだけ早く出立する」
「早起きは苦手だよ」
「お茶を飲んだら、早く寝ることにしよう。山には狼が出没しているらしい。昼間は、危険は少ないだろうが、峠越えは休みなしで進むからな」
そして、お茶を飲み終えると少女たちはお手洗いに行き、すぐにベッドに入った。
窓際に並ぶシングルベッドにリンネとハナが眠り、廊下側のエキストラベッドでコジュウロウが休む。
ベッドに横たわるリンネは、ぎゅっと目を閉じる。ハナとコジュウロウも、少しの間ごそごそしていたが、すぐに静かになった。
コジュウロウは早く寝るようにと言っていた。それにコジュウロウのベッドは、昨日よりもずっと近い位置にある。遮るものはないし、暖炉の明かりもある。だから、今夜は何もないはずだ。リンネはゆっくりと眠りに落ちていった。
「早く寝ろと言ったはずだ」
「風呂屋できれいにしてきたんだよ。あんただって、期待してたでしょ」
「そんなことはない」
「いいじゃない。今日はお口でしてあげる」
そう言ったハナは、毛布に潜り込んでいく。コジュウロウはしかめっ面をするものの、拒否はしない。昨夜、久しぶりのセックスは気持ちよかった。ハナの若い肢体は瑞々しく、新鮮で、おいしかった。己の役割を忘れることは、一瞬たりともないが、禁欲に徹することはない。性行為は自然なことであり、やりすぎでなければ、日常生活に悪影響を及ぼすことはない。
ハナはふんどしを外すのに苦労していたが、コジュウロウのペニスを取り出すと、そのまま口にくわえた。柔らかかったペニスがハナの口の中で硬くなっていく。ハナは指で睾丸をもてあそびながら、ペニスを強く吸う。コジュウロウはハナの頭をなでながら,目を閉じて快感を楽しむ。
やがて、物足りなくなったハナは、体の向きを回転させ、コジュウロウの顔の上に乗っかる。コジュウロウはハナのショーツを引きおろし、股間にかぶりついた。口いっぱいにヴァギナを頬張り、舌を動かしてクリや膣を嘗め回す。
二人は一気に燃え上がった。
下着を脱ぎ捨てたハナは、コジュウロウにまたがり、そそり立つペニスを一気に咥えこむ。膣を締め付けながら、上下動すると、強い刺激がペニスに加わり、コジュウロウが思わず声を上げた。
リンネが目を覚ました。
肘をつき上体を少し起こす。すると、暖炉の熾火が、絡み合う二人の姿を浮かび上がらせていた。
二人とも裸だった。上に乗るハナの肌は、汗で光っていた。濡れた髪を揺らし、上体をくねらせ、腰を回転させていた。両手をコジュウロウの分厚い胸板につき、息を荒げている。コジュウロウの手が、ハナのささやかなおっぱいを揉みしだき、下から腰を突き上げ続ける。ハナの華奢な体が、騎手のように上下動する。
リンネはベッドに横たわり、首だけを伸ばして二人のセックスを覗きながら、手をショーツの中に差し込む。ヴァギナは濡れ始めていた。
ハナが喘ぎ声をあげ、動きを早める。すると、それにあわせるようにリンネも膣に指を突っ込み、激しく動かす。もう一方の手で、おっぱいを揉む。指で乳首を挟み、こすると、ツンと尖ってくる。触ると痛みと共に、快感が背中を駆け巡る。
汗をほとばしらせ、喘ぎながら絶頂に向かうハナが、ちらりとこちらを見た。ベッドの上に横たわるリンネは、窮屈な姿勢で股間とおっぱいを弄りながら、視線を向けている。
二人の眼差しが交差した。
ハナの口元にうっすらと笑みが浮かび、唇が動いた。なにを言っているのかはわからない。でも、意味は分かる。
リンネはのぞき見していたことへの後ろめたさと、見られてしまった恥ずかしさが同時に襲い掛かってきた。一瞬、動きを止めたものの、体の疼きは止められない。だから、ハナが動き始めると同時に、リンネも手を動かす。もっと強く。もっと早く。もっと感じたい。もっと気持ちよくなりたい。いきたい。快楽の彼方まで、行ってしまいたい。
リンネは熱いセックスを繰り広げる二人と、足並みをそろえるように、頂点を目指し、駆けのぼっていく。よがり声が漏れ、瞳に涙が浮かぶ。体をくねらせ、よじらせ、のたうちながら、自分で自分を責め続け、ついに初めての絶頂を迎えた。
目の前が真っ白になり、動きを完全に止め、そして脱力していった。
6
翌日の昼前、三人は峠の入り口に到着した。そこで早めの昼食を取り、峠越えの支度をする。コジュウロウは、馬車の引馬に鞍を取り付けた。
山を見上げるコジュウロウの表情は、こわばっていた。熟練の侍の勘が、森深い山に、危険を感じていたのだ。
「最悪の場合、馬車を捨て、リンネ殿を馬に乗せて逃げる。大切なものは身に着けておくように」
「本当に危ないのかなぁ。あたしにはわからないよ」
「確かに。拙者も確信を持っているわけではない。だが、用心を怠ることはできない」
昨夜のことを引きづっていたリンネは、張り詰めた緊張感に戸惑い、身を固くする。
そして、峠越えが始まった。
深い森の中を、狭い登り道が続いていく。コジュウロウは御者台から降り、引き綱を握って前を進む。坂道がきつくなってくると、ハナも馬車から降りて、後ろを歩きだす。いつもと違って口数も少なく、顔を巡らして、常に森の状況に目配りをしている。馬車に乗るリンネも、緊張と不安で視線が定まらない。
山道を登っていくと、森が途切れ始める。やがて右手に切り立った崖が現れてきた。石ころだらけの道は崖にそって登っていき、見晴らしがよくなっていく。やがて峠についた。しかし、コジュウロウは一息もつかず、下り坂を急ぐ。気温が上がってきた。歩き続ける二人の額に、汗が浮かぶ。
再び森に入っていくと、気温が下がってくる。それと同時に、空気が変わった。
コジュウロウが一度立ち止まると、森の静寂が押し寄せてくる。コジュウロウは空を覆い隠す森の梢をぐるりと見わたし、頬を緊張させる。
「ハナ殿」
同じように森を見上げていたハナは、頷き返す。コジュウロウは、馬を強く引き、早足で歩きだす。
「どうした。の」
窓から顔を突き出し、リンネがハナに問いかける。
「森が静かすぎる」
普段とはまったく違う緊張した表情で、ハナが答えた。リンネはずっと荷物の中に入れていた、小ぶりの鏡をぎゅっと胸に抱いた。
コジュウロウは森の様子を探りながら、さらに足を速める。
その時、狼の遠吠えが森に鳴り響いた。
「ハナ殿。代わってくれ」
ハナが慌てて前に行くと、コジュウロウは引き綱を手渡し、リンネの所にやってくる。
「狼がやってくる。馬車から絶対に出ないように。狼は拙者が必ず倒す」
そして、馬車の後方に位置し、全方位に気を配る。
最初の一頭は左前方から姿を見せた。その後方から四頭が続く。
「ハナ殿。決して急ぐな。馬をよく御して、慌てるな」
そう言いおいて、コジュウロウは狼に向かっていく。左の腰に差した剣をするりと抜き放ち、右上段に構えて突き進む。
突っ込んできた狼は、扇のように広がり、迫ってきた。コジュウロウは迎え撃つのではなく、先頭の一頭に突進する。
一閃。
狼の顔の半分が切り裂かれ、血しぶきが飛び散る。
一瞬立ち止まったコジュウロウに向かって、残りの四頭が突っ込んでくる。
剣先が光のように走ると、狼の四肢が千切れ飛ぶ。すかさず後退して、体勢を整える。
「おじさん」
ハナの悲鳴に、コジュウロウはすぐさま反応する。反転して馬車の元に戻ると、別の四頭に襲われかけていた。
ハナは武器を持っていない。戦うのではなく、迫りくる狼を、軽やかにかわす。ただ、彼女は馬を御さなければならない。一人ならば、人並みなずれた身体能力によって、逃げ切れたかもしれないが、今は躱すのが精いっぱいだった。
そこに、コジュウロウが突っ込んできた。馬車に襲い掛かる狼を、後ろからなで斬りにしていく。
「おじさん」
「怪我はないか」
「まだ、来るよ」
森には、狼の吠える声が満ち満ちていた。
「歩みを止めるな」
「あたしも戦う」
「無用だ」
「おじさん一人じゃ無理だよ」
「無理ではない。相手は狼だ」
「ただの狼じゃない」
コジュウロウは黙り込んだ。ハナの言う通り、これはただの狼の襲撃ではない。
魔物が人間界に進攻を始めてから、自然界の動物が凶暴化する現象が生まれている。森の王者である狼は、むやみに人間を襲うことはない。それが、これほどの群れで襲い掛かってくるのは、正常ではないのだ。
「ハナ殿は、どのような武器を扱えるのか」
コジュウロウは、小刀一つ持っていないハナに問う。
「おじさんを、応援してあげる。力が湧いてくるよ」
コジュウロウは唖然として、口を閉ざす。
「信じないでしょ。すぐわかるよ」
ハナは自信満々、言い放った。迷っている暇はない。コジュウロウは次の襲撃に備えつつ、着実に前進し続ける。
狼の群れは、後方から迫ってきた。コジュウロウは馬車のそばで、刀を構え待ち受ける。最初は機を制して突破しようと考えていたが、それでは馬車のリンネを守り切れないと判断したのだ。
刀は重い。一度振るうだけで、腕が重くなる。修行を重ねているコジュウロウにしても、いつまでも戦えるものではない。
「おじさん。力を受け取って」
遠くからハナの声がする。その声を聞いただけで、コジュウロウの体に、力が沸き上がってきた。
コジュウロウの斬撃が冴えわたる。
けれど、狼の衝撃は執拗だった。必ず複数の狼が取り囲み、コジュウロウの隙をついて爪と牙を振るう。剣の達人であるコジュウロウも、体のあちこちに傷を負い、血を流す。疲労が動きを鈍くし、さらなる攻撃にさらされる。
「おじさん」
ハナの懸命の応援も、傷や疲労までは癒すことができない。
「ハナ殿。大丈夫か」
「こっちはいいよ。おじさーん」
ハナの悲鳴が、リンネの耳を打った。馬車の中で震えているだけの自分がいる。守られてばかりいる自分が嫌で、この旅に出た。なのに、守ってくれて来た二人が、危ないのに、何もしないでいいのか。
突然、リンネのお腹が熱くなった。まるで炭火を投げ込まれたかのように、熱く燃える。すると、頭がクリーンになった。今まで見えなかったものが、くっきりと見えてくる。それは、気の流れだった。
気が渦となって滞留する二つの場所。大きな渦はコジュウロウのもの。そして、小さなハナの渦。気の滞留は、そこに痛みがあることを示す。
おなかの熱が全身に広がっていく。体が熱くなると同時に、風が吹き始める。体を吹き抜ける風だ。そして、風は気の流れを正す。お腹に抱えた鏡が光を発していくと、その光は大きく広がっていく。
コジュウロウの痛みと疲労が、霧のように消し飛んでいく。体が急に軽くなり、視界さえもくっきりと広がる。狼をいなしながら舞い踊るハナ。馬車の中で祈りを捧げるリンネ。
コジュウロウは二人の少女の助けを借りて、迫りくる狼を蹴散らしていく。
そして、狼の追撃をかわした三人は、ようやく森を抜けた。
7
「気の流れを正す力がある、っていうことなの?すごいね。リンネちゃん」
「それが風水師の能力なのだな。あれはヒールに似ていたが、確かに少し違っていたようだ」
コジュウロウの指摘に、リンネは小さくうなずく。
次の町で早めに宿屋に入り、部屋に籠って、三人は疲れを癒していた。夕食は酒場ではなく部屋に運んでもらう。暖炉の前でくつろぎながら食事をとると、改めて生き延びたことを実感できた。
「なるほど、王都に招かれるだけのことはある。リンネ殿は、これほどの力を隠し持っていたのだな」
「わらわは」
リンネはおずおずと話し始める。
「知らなんだ」
コジュウロウがうなずく。
「人の才能は、極限状態で花開くこともあると聞く。まさにそれだったのだ。ハナ殿の力も恐れ入ったぞ。踊り子が、あのような力を持つとは、知らなかった」
「あれ、そうなんだ。結構有名だと思ってたのに。あたしだけじゃないよ。もっと有名な踊り子もいるんだよ」
「そうか。王都に行けば、出会ったこともない、すごい術師がいるのであろうな。ますます楽しみになってきた」
「それよりもさ。あたし体を洗いたいな。傷はリンネちゃんに治してもらったけど、汗や泥でべったべたなんだもん」
「たしかにそうだ。路銀には限りがあるが、今晩はお祝いをしても罰は当たるまい。湯を運ばせて、ここで行水をしよう」
「わーい。やったー」
「では、拙者は宿屋の主人と話して来る。他の旅人のために、峠の狼のことを、知らせておかねばならぬしな」
そう言って、コジュウロウは部屋を出ていった。
二人きりになると、ハナは自分のベッドに寝転がって、くつろぐ。リンネは暖炉の前に座り、じっと考え込む。
今日一日の出来事で、旅を共にしてきた二人への親近感が、飛躍的に高まった。それ故に、もっと親しくなりたいと、リンネは強く感じていた。感謝の気持ちも伝えたいし、これからも一緒に居てほしい、友人になってほしいと言いたい。けれど、どうしたら、伝えられるのだろう。
でもその前に、確かめておきたいことがある。
「ハナ。恋人、なの。コジュウロウ」
「エッ」
ベッドでごろごろしていたハナが、顔を上げた。
「なに。恋人?あたしと、おじさんが?」
ハナがキャキャと笑う。
「まさかね。ありえないよ」
「でも、夜。してた」
「あれ。やっぱり見てたんだ。一昨日もやってたって、知ってた?」
リンネがうなずく。
「そっか。でも、セックスしてただけだからね。別に恋人なんかじゃないよ」
リンネが首を傾げ、哀し気な顔になる。
「変かな。だって、セックスしたくなるって、よくあるでしょ。だから、手ごろな男とやっただけだから。あ。でもね。おじさんが嫌いってわけじゃないわよ。ていうか、結構好き。優しくて包容力のあるおじさん、大好き。あんなおじさんと、もっと前に出会えてたら、あたし、違った人生を送れたかも……」
ハナの述懐に、リンネは下を向く。自分も同じことを考えていた気がする。だから
「わらわも、したら、仲良くなれる、か?」
リンネの言葉に、ハナは絶句した。
仲の良い女の子同士で、男を共有するのは、アリだと思う。でも、リンネが求めているものは、きっと違う。よくはわからないが、親しくなることが目的で、セックスしたいと思っているようなのだ。確かに、セックスすれば二人の距離は縮まるはずだ。だが、それがリンネの求めているものなのだろうか。
「リンネちゃんは、処女だよね。セックスしたいの?それとも、おじさんと仲良くなりたいの?」
問われたリンネは、困惑した。
「仲良く、なりたい。でも、わからない」
「わからないんだ。それなら、やってみる?」
「やる?」
「セックスしてみたら、わかるんじゃないかな。頭で考えててもきっとわからないよ。嫌かな?」
「……嫌、じゃない」
「よし。ならそれで決まり。行水をして、体をきれいにしよ。それから、おじさんとセックスする」
ハナの提案にリンネは躊躇いがちにうなずいた。
コジュウロウが戻ってきたとき、リンネとハナは下着姿でくつろいでいた。
「また、そのような格好で、はしたないではないか」
「おじさん。遅かったじゃない。待ちくたびれたよ」
「話が長引いたのだ。狼のことは町の者たちにも、深刻な問題だったからな。ん。待ちくたびれたとは、なんだ」
「あたしたち、とっくに行水、終わってるんだからね。おじさんも早く体、洗ってよね」
「お。そうであったか。これは申しわけない。では、遠慮なく」
「あれ。おじさん。その服は、なに?」
「これは、安く譲ってもらったのだ。この着物ではな」
コジュウロウの着物は、狼の襲撃でぼろぼろになっていた。体はリンネの能力で回復出来ても、服までは直せない。
「ま、いいや。おじさん。早く体、きれいにしてね」
コジュウロウが行水を済ませて、暖炉の前にやってくると、リンネはすでにベッドにもぐりこんでいた。
「リンネ殿はお疲れであろう。拙者たちも、早く休もうではないか。ハナ殿も眠たいであろう」
「そんなことよりさあ。おじさんって、リンネちゃんのこと、どう思っているの?」
「どう思う、とはいかなる意味であろうか」
「だから、かわいいな、とか。抱きたいな、とか」
「リンネ殿は可愛い娘ごであることは、言わずもがなだ。だが、抱きたいとはいかなる意味か。狼に襲われた時、どうにもならぬ時は、リンネ殿を抱いて逃げる所存であった」
「そうじゃないったら。じれったいな」
ハナが口をとがらせて文句を言う。
「あのさ。リンネちゃんが、おじさんを好き、って言ったら、おじさん、どうする?」
「ハッ。なにを戯けたことを申す。確かに、この数日の旅で、リンネ殿に、拙者が信頼できる侍であると、思っていただけたであろう。拙者はリンネ殿の護衛として、ご両親から託されておる。故に、拙者の功績によって、好いていただけることは、望外の誉れである」
「なに、頓珍漢なこと、言ってるのよ。だから、リンネちゃんが、おじさんとセックスしたいって言ったら、おじさん、してくれる」
「……」
コジュウロウは絶句し、思わずシーツを被って寝ているリンネを見つめる。
「ハナ殿。悪い冗談はよしてくれ。リンネ殿は、依頼主の子。そのような不埒な真似ができか」
「頭硬いなぁ。リンネちゃんは女の子なんだよ。男を好きになることもあるし、セックスに興味だってある。そうでしょ。リンネちゃんは、血を流して狼と戦い、自分を守ってくれたおじさんを、好きになっちゃんたんだ。いいでしょ」
「いいでしょ、と言われてもだな」
コジュウロウが頭を振る。話の展開についていけないのだ。
「おじさん。頭で考えちゃだめ。体で感じてよ」
そう言いながら、ハナがコジュウロウを押し倒した。
「やめろ。そこにリンネ殿がいるのだぞ」
「もう、とっくにばれてるよ。昨日は、ばっちり見られてたし。知らなかった?」
「まことか。これはしたり……」
コジュウロウが顔を赤らめる。その純情さに、ハナの胸がきゅんと熱くなった。
「ああ。もうたまんない。リンネちゃん。悪いけど、あたしが先にいただくね」
「なにを言っておるのだ。こら、やめんか」
「だめだよ。昼間。もう死ぬかと思いながら、狼と戦ったんだよ。頑張ったんだよ。だから、ご褒美、ちょうだい」
コジュウロウの上に馬乗りになったハナは、股間をこすりつけながらキャミを脱ぎ始める。ひかえめなおっぱいを露出させると、体を倒して、コジュウロウにこすりつけていく。
「いかん。このような不埒な真似は、許されぬぞ」
「なに言ってるのさ。強姦は許さないけど、これは二人が望んだ、ううん。三人が望んだことなんだよ。今日、力を合わせて生き延びてきた証を、この体に刻み付けておきたいだけ。あたしたち、仲間なんだよね」
ハナの主張は、冷静な時であったら簡単に反論できただろう。だが、狼との戦いの余韻は、コジュウロウの体内の奥深くにも残っていた。
「だが、いかん。リンネ殿は……」
コジュウロウの口を、ハナはふさぐ。舌を入れ、絡め、吸うと、体温が急激に高まっていく。ハナはからだをくねらせながら、コジュウロウの服を逃がせ、自分のショーツを脱ぎ捨てる。
「あんた、侍なんでしょ。諦めが悪すぎ。さっさと立てて、あたしに入れなさい」
「そのようなことを言われてもだな」
コジュウロウは頭をのけぞらせ、すぐそばで寝ているリンネを気にする。シーツのふくらみが、先ほどと違っているようだが、顔は見えない。
「ハナ殿。せめて、向こうでいたさぬか」
「もう。観念しなさいよ」
だが、その瞬間、コジュウロウはハナを抱きかかえて、起き上がり、あっという間に端のベッドに移動する。これで、リンネとの距離は遠くなったが、視線の高さは同じになる。リンネには、こちらの方が見やすいと、コジュウロウは気づいた。しかし、その時には、ハナに下からがっちりと羽交い絞めされていた。
「ふんどし、って、なんでこんなにほどきにくいのよ」
「これは男の操を守るためにあるのだ」
「バカ。つまんないおちゃらけ、言ってるんじゃないわよ」
「いや。冗談でも言わねば、どうにも間が持たぬ。なんとかしてくれ」
「だから、さっさと入れなさいよ」
ハナに叱責され、コジュウロウは泣く泣くふんどしをほどく。すると巨根がそそり立っていた。
「あっ」
声を上げたのは、ハナではなかった。向こう側のベッドで、シーツの中から覗いていたリンネが、初めてはっきり見たペニスに驚きの声を上げたのだ。
動揺したコジュウロウが腰を引き、逃れようとするが、ハナはそれを許さない。腰にタックルし、口でペニスを咥えこむ。
「あー」
ハナの小さな口が、コジュウロウの巨根を咥え、唇でこすりながら前後に動かす。音を立ててしゃぶり続ける光景は、リンネには刺激が強すぎた。
シーツの下では、リンネがキャミをめくり上げ、ショーツを引き下ろして、指を使っている。目を皿にして、ハナのフェラを凝視しながら、指使いを早める。喘ぎ声を抑えもしない。全身から汗が吹き出し、暑さのあまり、シーツを撥ねのけてしまった。あられのないリンネの姿が露わになり、それを見たコジュウロウは息を止める。すると、巨根がびょんと上を向く。
「わー」
ペニスから口を離し、ハナが声を上げる。
「なんでちんちんを動かすのよー。えー?」
そして、リンネの痴態を見つけたハナは、にやりと笑った。
「リンネちゃんも、こっちにおいでよ。教えてあげるから」
「いい。ここで見てる」
「わかった。それじゃあ、あたしが終わったら、おじさんを貸してあげるからね」
ハナの言葉にリンネがうなずき、コジュウロウが抗議の声を上げる。
「貸すとはなんだ。拙者をなんと心得るか」
「うるさい。美少女二人とセックスできるのに、不満があるわけなの。どうせ女日照りだったんでしょ。こうやって、奉仕までしてもらって、文句言わないでよね」
「そ、それは……」
「こんだけおっきくなれば、十分よね。さあ」
ハナがコジュウロウに抱き着き体を密着させる。正座になったコジュウロウの太ももに乗っていき、狙いを定めて腰を落としていく。するっと、ペニスは膣に飲みこまれていった。
ハナが大きな吐息をついた。うっとりした表情でコジュウロウにおっぱいをこすりつけ、腰をグラインドさせる。ぴちゃぴちゃと音がした。
リンネはもどかし気に下着を脱ぎ、トンビ座りになって、股間と巨乳を触りながら、二人のセックスをじっと見つめる。
「そのようにみられるのは、恥ずかしいのだが」
「あたしは見られて興奮する。こんなの初めてかも」
ディープキスを交わし、互いの体をまさぐりながら、動きを早めていく二人。リンネに見られているシチュエーションが、普段よりも興奮を高める。コジュウロウが腰を突き上げ、ハナの体がピョンピョン跳ねると、快感が一気に盛り上がる。ハナは大きな喘ぎ声を上げ続け、コジュウロウにしがみついて快楽に耐える。しかし、崩壊は時間の問題だった。
ハナの柔らかで敏感な体に溺れたコジュウロウは、一気に責め立てる。ハナをベッドに押し倒し、思う存分ペニスを突っ込んで、狭い膣の感触を味わい尽くし、悲鳴を上げるハナの反応を楽しむ。おっぱいを揉み、髪をかき乱し、口に指を突っ込んで、ハナの体を味わい尽くす。そして、盛大に射精した。
抽出運動を繰り返すごとに、膣から精液があふれだし、射精の快感と、スムーズな刺激が、コジュウロウを夢見心地にさせる。うっとりとした表情で、ハナの体を楽しむコジュウロウは、リンネの存在を忘れていた。そして、ハナの体の覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめ、目を閉じる。
二人はしばらく動くことができなかった。そして、二人を見つめるリンネも、動けなかった。
目の前で繰り広げられたセックス。それは驚きと興奮をかきたて、快感と充足感を満たしてくれた。脱力し、うなだれるリンネは、やがて、得も知れぬ不安に襲われた。
ハナのように、うまくセックスができるだろうか。人との会話すら満足にできないのに、セックスはハードルが高すぎる。下手過ぎて、コジュウロウを怒らせてしまうのではないか。あるいは、呆れられ、侮られ、見捨てられてしまうかもしれない。
「リンネちゃん。お待たせ」
いつの間にか、ハナがそばに寄ってきて、顔を寄せてくる。肩に手を置かれたリンネは、ぶるっと震える。
「大丈夫だよ」
初体験を怖がっていると誤解したハナは、リンネを励ます。
「怖くなんかないよ。初めて入れられるときは、ちょっと痛いけど、きっと我慢できるから。あとは、おじさんがリードしてくれるからね。おじさん。上手だから。優しいし、きっと気持ちよくしてくれるから」
リンネが顔を上げ、首を振るが、ハナは唇を尖らせ、許さない。
「怖がっちゃだめだよ。みんなしてることなんだよ。せっかくの機会なんだから、経験しようよ」
「でも、わらわは……」
「リンネちゃん。すごくきれいだし、おっぱいも大きいし、男の人からモテモテになるよ。そうなったら、上手に男をあしらわないと、うまくやっていけない。男を知ることも、必要なんだよ」
違う。リンネが求めているのは、そんなものではない。だが、それを言葉にする力は、リンネにはなかった。
ハナはリンネの手を取り、立たせる。そして、コジュウロウが正座しているベッドへ導く。リンネは体をすくめながら、ベッドに這い上がり、コジュウロウの前に正座した。うつむき、おっぱいを両手で隠し、小刻みに震える。
「リンネ殿。本当によろしいのですか」
コジュウロウは優しく問いかけた。セックスを終えたばかりのコジュウロウは、ギラギラしたものが消え、普段の落ち着きを取り戻していた。
「……はい」
リンネの体も冷え、興奮も冷めていた。どうしてもセックスしたいと感じは消えていた。しかしそれだからこそ、一歩踏み出してみようと言う決意を、思い出すことができた。
「お願い、します。わらわに、教えて」
コジュウロウは大きく息を吐いた。
「わかり申した。こちらこそ、よろしくお願いいたす」
しかし、真面目な顔で向かい合って座るところから、セックスを始めるのは難しかった。だから、脇で見ていたハナが、その手助けを始める。
「最初は抱擁から始めるんだよ。刺激じゃなくて、安心感が大切なんだ」
ハナはリンネの腰を支えて、コジュウロウに抱き着かせ、太ももの上に横座りさせる。リンネはぎこちなくコジュウロウの首に腕をまわし、おっぱいを胸に押し付ける。コジュウロウはリンネの腰に手を回し、左手で体をなでる。最初はくすぐったがっていたリンネも、次第にリラックスしていき、気持ちよさにふっくらした頬を緩める。
「キスして。もっとくっついて」
ハナの指令に、リンネは首を伸ばしキスを求める。コジュウロウはそっと唇に触れ、それから口を重ねる。リンネの唇が震えていた。
その初々しさに、ハナが感動する。ハナはリンネのおっぱいを後ろから揉みしだき、乳首を指でこすり上げ、官能を高めていく。コジュウロウもキスしながら、自由に動く手でハナの体を愛撫していく。
ハナがもう一度リンネの腰に手をやり、姿勢を変える。コジュウロウをまたぐようにさせ、正面から抱き合う姿勢にする。二人はキスを交わしながら、体を密着させる。
「男の人って、逞しい体をしてるでしょ。この腕が、昼間、あたしたちを守ってくれたんだよ」
ハナにそう言われて、リンネは改めて感謝の念を深める。もしも、自分の体で喜んでもらえるなら、こんなにうれしいことはない。
「おじさん。リンネちゃんのおっぱい。もっと愛してあげなよ。さっきから凝視してたじゃない。揉むと柔らかくて、すごく気持ちいいよ」
「わかり申した。では失礼いたす」
十代のおっぱいはどこまでも柔らかく、頼りない。触っていると、あまりの心地よさにずっと弄っていたくなる。
リンネは眉根をひそめ、苦痛が少し入り混じった快感に耐える。コジュウロウの頭にまわした手に力を込め、熱い吐息を吹きかける。すると、お腹に押し付けられたペニスが、ドクンと息づいた。
触りたいと思う。でも、恥ずかしくて、まだ触れられない。
リンネの体が、ベッドに横たえられた。長い黒髪が、白いシーツに扇のように広がる。リンネは顔を背け、胸に手を置いて待つ。
コジュウロウは優しい手つきで、リンネの両足を左右に開いていく。薄い茂みの下に潜んできた割れ目が、ぱっくり開き、ぬらぬら濡れていた。コジュウロウは腰を前に突き出し、亀頭を割れ目にあてがった。
「では、参る」
コジュウロウはためらいもなく、ペニスを押し込んでいく。決して急がないが、止まることはない。
リンネは体が引き裂かれる感覚に、じっと耐える。痛みより、違和感が強かった。押し込まれる熱い棒は、リンネの体内に進攻しつづけ、決して立ち止まることがない。そして、
「あ、ああ」
リンネは長い吐息を漏らし、ロストバージンの瞬間を終えた。
「すごい。よかったね。リンネちゃん」
ハナがリンネの顔や髪に、祝福のキスを降らす。
「リンネ殿。かたじけない」
コジュウロウはリンネの頭と髪をなで、穏やかなまなざしをそそぐ。
リンネは目に涙をうかべながら、なんどもうなずいた。
「おじさん。リンネちゃんの中。どう?」
「きつい。食いつかれているようだ」
「そりゃ、そうだよね。リンネちゃん。苦しいでしょ」
ハナの問いかけに、リンネはうなずく。
「それじゃ、おじさん。やって。早く終わらせて。ね。リンネちゃん。痛いけど、頑張るんだよ」
「はい」
荒い息を吐きながら、リンネは答えた。
コジュウロウはリンネを抱きしめると、腰を使って、ペニスを抜き差しし始める。それはリンネに、想像を絶する痛みを与えた。歯を食いしばり、身をよじり、肩に爪を立てて、痛みに耐える。
コジュウロウのペニスも狭い膣に締め付けられ、痛みを感じる。愛液の分泌が少なく、粘膜同士がこすれ合い、両方に苦痛を与えるのだ。
それでも、処女膜を破られたリンネの痛みは、耐えがたいものだった。けれど、リンネは声を押し殺し、弱音を吐かない。これが試練だとわかっていた。これを乗り越えないと、前に進めないのだ。
リンネは脂汗を浮かべながら、体を震わす。コジュウロウは動きを早め、射精へと突き進む。それがリンネを痛みから解放する、唯一の方法なのだ。
「リンネちゃん。がんばって。もう少しだよ」
ハナの励ましが、リンネを勇気づける。
「リンネ殿。すばらしい。なんと、可愛いんだ」
「リンネちゃん。きれいだよ。すごく、可愛いよ。とってもエッチで、もう、すごいよ」
ハナはリンネのおっぱいにしゃぶりつき、舐め、揉み、堪能する。
動き続けるうちに、愛液があふれ出て、動きがなめらかになってきた。コジュウロウは動きを早め、一気にクライマックスに向かう。
リンネは痛みの中に快感を見つけた。背中をのけぞらせ、足をコジュウロウの胴に巻き付けて、いっしょに高みに上っていく。
そして、
「コジュウロウ」
リンネは初めての男の名を呼ぶ。体内に放出された精液を感じ、今まで経験したことのない快楽を知った。
それから、もう一度コジュウロウとハナが抱き合い、その夜は終わった。
朝、目覚めた三人は、深い友愛と性愛に満たされていた。それは何物にも代えがたいものであり、この世界の光景を一変させるものだった。
さて、三人が馬車に乗って出立しようとしたとき、宿の前には町の人たちが押し寄せていたのだ。
目くるめく一夜で、すっかり忘れていたが、昨日彼らが成し遂げた狼撃退は、町中に広がっていた。類まれなる勇者の旅立ちを一目見ようと押し寄せた群衆に、三人は目を丸くし、呆然となった。彼らを振り切りように出発した三人は、次の町でも盛大な歓迎を受けた。
王都に着くまで、リンネたちの一行が通る町は熱狂に包まれ、盛大なもてなしを受け続けた。
そして、王都に到着した時、門の前には正装した王子が出迎えていた。
群衆の中で、馬車から乗り立ったリンネの姿は、引きこもっていた頃の自信なさげな態度はみじんもなく、凛としたたたずまいを見せていた。
終わり
ブラックチケットでお迎えしたリンネちゃんは、わが軍の主力として活躍しています。でも、本当は内気で恥ずかしがり屋の少女。と言うことで、引きこもりから外に出たリンネちゃんの活躍を描くことにしました。
当初の構想になかったハナちゃんが登場したことで、場面が生き生きとしてきたと感じています。
まだまだ続きそうなこのシリーズですが、みなさん楽しんでもらえているでしょうか。