年齢が近いアリシアに相談する。生理がまだ来ていないと聞いたアリシアは、神に作られた天使には、子宮がないのではないかとの疑問を抱く。子宮があるかどうかを確かめるために、二人は大浴場に行き、アリシアはミルノの膣に指を入れて確かめるが、わからない。
仕方なく、研究者のマキナに調べてもらうことにする。マキナはミルノを裸にし、性的刺激を与えて、ミルノには子宮がないことを発見する。落ち込む、ミルノ。しかし、マキナは堕天使のある能力に注目する。
前作よりはコミカルな話の展開になっています。楽しんでいただけると、嬉しいです。
ミルノの夢
東寺明
1
「わたし、王子の赤ちゃん、産みたいです」
ミルノが言った。
ミルノはエンジェルだ。エンジェルは、人間を憎む神によって生み出され、人間を滅ぼすために地上に派遣された。しかし、その使命に疑いを持ち、神に反逆し、人間を守るために戦い始める者たちがいた。堕天使だ。ミルノは堕天使の一人として、王子軍に加わったのだ。
「なに馬鹿な事、言ってるんだ」
クロエが言う。
「そうでしょうか」
「セックスなんてもんは、気持ちよくなるためにやるもんだ。なんで赤ちゃんを産むなんて、めんどくさいこと、しなくちゃならないんだよ」
ミルノとクロエは自分たちの部屋にいる。王城では部屋数が限られているので、相部屋が基本だ。エンジェルである二人は、同じ部屋で暮らしている。ただし、その生活スタイルはまったく違う。
「王子は、赤ちゃんを、とてもかわいがっています。遠征で、出かけたとき、村人の赤ちゃんを見かけると、必ず抱いて嬉しそうにしています。わたし、何度も見ました。わたしが、赤ちゃんを産んだら、きっと王子は、喜びます」
「そりゃ、喜ぶだろうけど。王子は、あんなにやりまくっている割には、子供がまだいないんだよな。愛人の中には、王子の子を産んで、寵愛を得ようとしてる輩もいるみたいだが」
「寵愛、ですか」
「王子に、もっと愛してもらえるようになるってことだ」
「それなら、わたし、寵愛が欲しいです」
「ふーん。ミルノもそんな風に思うのか。だから、赤ちゃんが欲しいと」
「いえ。わたし、王子に喜んでほしい。だから、赤ちゃんを産みたいです」
「うーん。ミルノが言うことは、よくわからないなぁ」
ミルノには人の心の機微がわからない。人に似て創られたエンジェルは、人ではないからだ。
「でも、やめとけよ。赤ちゃんていうのは、おなかの中でだな、だんだん大きくなってだな、重いし、スタイルも悪くなるし、産むときは痛いって言うぞ」
「重いの、平気です。痛いのも、我慢できます」
「ああ、ミルノはそうだったな。戦場でどれだけ痛めつけられても、平気な顔で帰ってくるから」
「痛がらないと、いけないんでしょうか」
「いや。いいんだ」
ベッドの上で胡坐をかいていたクロエは、めんどくさそうにコロンと寝ころんだ。もう夜は更けているが、エンジェルは睡眠をとらないのだ。
「赤ちゃんを産むなんて、人間に任せておけよ。人間は赤ちゃんができないと、そのうち滅んでしまうからな。王国の繁栄も、人が増えてこそだ。あたしたち、堕天使の仕事じゃない」
「そうなんですか」
ベッドの端に、膝をそろえ、背筋を伸ばしてきちんと座るミルノがうなだれる。
「皆さまの、迷惑になるのでしょうか」
「いやいや。別にそこまで言ってるんじゃない。だからさ。あたしたちエンジェルは、セックスで王子を喜ばせてやればいいって言ってるんだ。王子が気持ちよくなったら、ミルノも嬉しいだろう」
「はい。嬉しいです」
「だったら、いろんなことして、王子を喜ばせてやれよ。だいたい、ミルノは、前の穴でしかやってないんだろ」
「前の穴、ですか」
「前と後ろの、前。膣。おまんこ」
「膣はわかります。王子はいつも、わたしの膣にペニスを入れます」
「それが王道だからな」
「はい。でも、それがセックスの作法なのでしょう?」
「違うよ。後ろの穴でやることだってある」
「後ろの穴。それは、もしや、排せつ物を出すところですか」
「そうそう。お尻の穴。アナルセックス。油とかを塗り込んで滑りをよくして、お尻にペニスを入れるんだ。するとだな、おまんこと違って、入り口でぎゅうぎゅう締め付けられるから、すーごく気持ちがいいんだと」
「気持ちがいい。だれが?」
「王子に決まってるじゃないか。王子はお尻の穴が大好きなんだ。あたしとやるときは、たいていお尻だ」
「そんなこと、わたしにはしてくれません。どうしてなのでしょう。わたしが、きらいなのでしょうか」
「いやいや。ミルノには、ちょっと早いと思ってるんじゃないかな。まあ、お尻の方は趣味みたいなもんだから。だいたい男ってもんは、女の持っている穴には、全部突っ込みたいって思う生き物なんだぞ」
「女の持っている穴、ですか」
「わからないか。自分の体を考えろよ」
「まさか、鼻の穴、とか」
「入るわけないだろ。いくらなんでも、鼻の穴に、王子のでかい一物が入るはずがない」
「そうですね。では、どこに」
「口だよ。お口。ミルノはフェラも知らないのか」
「フェラですか。難しそうですね」
「難しくなんかない。王子のペニスを口でしゃぶるだけだ」
「口でしゃぶる。おいしいのですか」
「おいしかねえよ。でも、あたしは結構好きだけど」
「そうですか。では、わたしも次の時は口でしゃぶります。それから、食べる?」
「食べるな。王子のペニスを食うな」
「そうですね。食べてしまったら、もう生えてはこないでしょうから」
「やばいな。ミルノは。じゃあまず、お尻の穴に入れてもらえ。王子におねだりすればいいさ」
「でも、王子だから、王道でなければいけないのではありませんか。あの。膣に入れるのが王道なのですよね」
「そうじゃないったら」
「そんなに赤ちゃんが欲しいのか」
「赤ちゃんを抱いている王子は、それは幸せそうでした。人に幸せを与えることが、エンジェルの役目ではないかと、わたしは、思うのです」
「エンジェルの役目か。人に幸せを与えることが、エンジェルの役目。そうかもしれないな。あたしたちが、可愛い女の子の姿をしているのは、そのためかな」
「わかりません」
「そうだよな。神様に聞かなくちゃわからないだろうな。でも、そうだったらいいな」
「はい。人が幸せだと、わたしも幸せな気持ちになれるような気がするのです」
「ああ、それわかる。あたしがいろんなことをやって、みんなが楽しそうだとうれしくなるもんな。でも、時々、叱られるんだよな」
「それは、クロエが皆さんに迷惑をかけているのだと思います」
「まあね」
二人はしばらくの間、だまってもの想いにふけった。
クロエがすっと起き上り、ミルノの目を覗き込む。
「なあ。エンジェルって、赤ちゃんを産めるのか」
「えっ」
「そんな話は聞いたことがないし、エンジェルの子なんて見たこともない」
「そう、ですね」
「セックスはできるけどさ。うーん」
「難しいのでしょうか」
「わからない。誰かに聞いてみるしかないかも」
「そうですか。なら、わたし、聞いてみます」
「ああ。そうしなよ」
2
次の日の朝、中庭に出たミルノは、花壇にいるアリシアを見つけた。晩秋の夜明けは遅く、空は明るくなっていたが、庭にはまだ闇が残っている。花壇にすくっと立つアリシアは、白い空を背景にしたシルエットになっている。
「アリシア」
「あら、ミルノ。おはよう」
「おはよう。あの……」
「もう起きたの。早いのね。ああ、エンジェルは眠らないんだったわね」
近づいてきたアリシアが、微笑んだ。アリシアは寝起きのようで、ショートボブの髪がほつれているし、寝間着にガウンを羽織っただけの姿だ。
「アリシアも、早起きした?」
「ええ。目が覚めてしまって。思い切って起きちゃった。誰もいない庭も、いいものよ」
「花が、咲いていない」
「もう冬だもの。春が待ち遠しいわ」
「……。よくわからない」
「そう」
アリシアは両腕を抱え込むようにして、肩をすくめる。
「寒いわね」
「あの、アリシア。聞きたいことがあります」
「なに」
「わたし、王子の赤ちゃんを産みたいんです」
「エッ?エー?」
「どうしたら、赤ちゃんを産めるのでしょう」
「エッ。だって、あの、その、えーと」
アリシアが目を白黒させる。
「とにかく落ち着きましょう。そうだ。ベンチに座って」
「はい」
「ミルノはなぜ赤ちゃんを産みたいのですか」
「はい。王子が喜んでくれると思うんです。王子は赤ちゃんが好きだから」
「はい、そうですね。王子さまは赤ちゃんや子供が大好きです。いつもは無口なのに、子供相手だとおしゃべりしたりします。抱っこして、あやしたりもして、本当にかわいいんです。あっ、王子さまがですよ」
アリシアは早口でまくしたてる。王子のことになると、アリシアはこんな風になるときがある。
「あの。それで、赤ちゃんをつくるのは……」
「あっ。そうでしたね。でも、あの、ミルノは王子さまと、その、してますよね。この前の戦いの後も呼ばれてましたし」
「セックス、ですか」
「はい……」
「してます。王子に呼ばれて、膣の中に入れてもらっています。中に精液を出してもらってます。王道です」
「あ、ああ。そうですね。普通ですよね」
「はい?アリシアもセックスしているんでしょう。王子と」
「はい?はい」
アリシアのあたふたしながら答えた。
「アリシアは、王子の赤ちゃんは産まないのですか」
「エッ。わたしなんかが、赤ちゃんを産むなんて、無理です。アンナ姉さまがまだなのに、わたしが先なんて、絶対だめです。怒られちゃう」
「それでは、わたしも産めないのでしょうか」
「いえ。そんなことはないと思いますが……。ミルノはそんなに赤ちゃんが欲しいのですか」
「はい。王子に喜んでほしいです」
「そうですね。でも、わたしたちはまだ子供だから、赤ちゃんを産むなんて思っていませんでした。ミルノは偉いですね」
「あの、それで、どうしたら」
「えーっと。赤ちゃんは天からの授かりものといいますから、できるかどうかは天の思し召しなのでしょう」
「そうなのですか。授かりものなのですか。わたしが、エンジェルだからできないのかと思っていました」
「それは……。わたしはエンジェルのことはよく知らないので」
「そうですか。そうですよね。ごめんなさい。失礼しました」
そう言ってみるのは立ち上がり、深々とお辞儀をして、立ち去ろうとする。
「あの、待って」
「はい」
「ミルノ。あなた、生理はありますか」
「生理。それは何ですか?」
早朝の浴場は人けがなく、入っているのはミルノとアリシアだけだ。夜間は釜焚きがいないので、お湯はぬるくなっていたが、寒くて困るほどではない。二人はさっと体を洗っただけで、浴槽につかる。
「あの、どうして、浴場に来たのですか」
「ええと、それはね。あなたの体がどうなっているか、確かめたくて」
「体ですか。やはり、わたし、変でしょうか」
「ううん。そうじゃないの。ただ、生理がまだ来ていないんでしょ。だから、どうなのかなって」
ミルノの体は、人間で言うと十代半ばぐらいの生育だった。膨らみかけた乳房と、丸みを帯び始めたお尻。けれど、手も足もほっそりしていて、成熟とは程遠い。首筋や肩の頼りなさは、少女といってもいい程だ。つるつるの下腹部や、きれいなわきの下が、幼さを強調している。
「やっぱりまだなのでしょうね。これから来るのかも……」
「あの、生理って」
「ええと。赤ちゃんを産むための準備です。生理のある女性だけが、子供を授かることができるんです」
「そんな……」
ミルノの顔に影が差す。
「あの、大丈夫ですよ。きっともうすぐ、生理が来ると思います」
「いつ?」
「それはわたしにもわかりません。ただ……」
「ただ?」
「エンジェルの体がどうなっているか、疑問があって。ほら、背中に翼が生えているでしょう。竜人の翼とはちょっと違ってますよね。役割も違うと聞いています。エンジェルはその翼で飛ぶこともできるのでしょう」
「わたしは飛んだことないです。クロエもないです。でも、これはもっと大きくなります」
「知っています。翼で体全体を覆い隠し、敵の攻撃から身を守っているのを、わたしも見ていますから。だから、エンジェルの体は人間とはちょっと違うのかもしれないと思って」
ミルノの顔に憂いが浮かんでくる。人と違うということが、彼女にとってはとても重大な意味を持っていた。
「ミルノはあまり食事をしませんね。食べなくても大丈夫だとか。昔からそうだったのですか」
「昔は、ご飯は食べなかったです。食べるようになったのは、王子と会ってからです」
「食べなくても動けたのね」
「はい」
「ご飯を食べるようになって、体は大きくなったの?」
「わからないです。多分、大きくなっていない。クロエも同じだと思います」
「うーん。体の中の仕組みが違っているってことかな。でも、それだと……」
向かい合って浴槽につかり、考えにふけるアリシアを、ミルノは不安げな表情で見ている。
「おっぱいは膨らんでいる。生理があってもおかしくない年ごろよね。なのに来ていないなんて……」
「あの……」
「あのね。ミルノ。あなたには子宮があるのかしら」
「子宮。それはなんですか」
「そうか。子宮も知らないのか。あのね、子宮ってのは赤ちゃんのゆりかごで、赤ちゃんの種がそこで育つの。それで生理の出血は、そこから流れてくるのよ」
「エッ。血が出るんですか。ここから?」
そう言って、ミルノは自分の股間を指で触れる。
「う、うん。そう。けっこう痛かったりするのだけど。ねえ、確かめてもいい」
「はい。なにをですか」
「エンジェルの体に子宮があるか、どうかを」
「……はい。いいです。でも、どうやって」
「ええとね」
ミルノは浴槽の縁石に座り、体を後ろに倒して、大きく両足を広げている。その両足の間に、アリシアが頭を突っ込んでいる。アリシアの視線は、つるつるの股間に刻まれた一本の亀裂に向けられている。見ようによっては、ひどくわいせつな行為なのだが、二人とも真剣だった。
「いい。開くわよ」
「はい。どうぞ」
アリシアが左手の人差し指と中指でミルノの大陰唇を左右に開く。現れたのは、ピンク色に光る性器だった。クリトリス。尿口。小陰唇にふさがれた膣口。右手の指で小陰唇を押し開くとぬらりと濡れた膣があらわになった。
「いい。痛くない?」
「大丈夫です」
アリシアが右手の中指を膣に差し込んでいく。ぬるっとした感触で、指はスムーズに入っていった。
「この奥に、子宮があるのですね」
「そのはずなんだけど。指で届くかどうか」
「アリシアは子宮があるのですね」
「そうなんだけど、わたしだって触ったことはないわ。ただ、王子さまのあれが、奥まで入ってくると、ぶつかるのよ。その感触はわかる」
「それはどのようなものなのでしょう」
「ちょっと痛い。でも、何度もあたると痛さが気持ちよくなってきたりする。ミルノは感じたことある?」
「王子のペニスが入ってきて、奥にあたる、ですか。わかりません」
「そうなの。あんなに大きいのに」
「大きいのですか。男の人は、誰でもああなのではないのですか」
「エッ、いや、わたしもほかの男性は知らないけど。でも、みんなそう言ってるし」
「そうだとすると、わたしの膣は、王子のよりも深いということなのでしょうか」
「うーん」
アリシアは指を奥まで差し込もうと悪戦苦闘する。指で膣をこねくり回したり、抜き差しして、勢いをつけようとしたり、一本だけでなく人差し指まで突っ込んだりしている、ミルノの体が火照ってきた。
「ごめん。もっとひざを曲げて。膝を抱えるみたいにしてみて」
「……はい」
二本の指を膣に押し込んでいると、知らぬ間に親指でクリトリスをこすり上げてた。
「うっ」
ミルノがうめき声をあげる。思わず腰を動かし、背中をのけぞらせて、体をくねらせた。
「動いちゃダメ」
「……はい」
アリシアは左手で太ももを押さえつけ、右手で性器全体をぐりぐりと押し込むようにしながら、指を突っ込む。
ミルノの喉からクーンと鳴き声が上がった。ミルノは右手を口に当て、沸き上がる快感に耐える。
「もうちょっとだと思うんだけど」
アリシアの紅潮した顔に、汗が流れ落ちていった。それと同時に、性感が高まってくる。ミルノの性器をなぶる感触と、その反応が、興奮をかきたてる。アリシアは湯につかっている太ももを無意識にこすり合わせ、熱い息をミルノの股間に吐きかける。
「……ミルノ。どう?」
「あの。気持ちいいです」
「そんなんじゃなくて。でも……」
「そんなにぐりぐりされたら、わたし……。ぐりぐりが、気持ちよくって……いってしまいます」
アリシアが喉を鳴らした。
「わたし、聞いたことがあります。いく時、子宮が下りてくるんだと。そうなったら、指にあたるかもしれません」
「それなら、もっとしてください。そうだ。わたしだけじゃなく、アリシアも気持ちよくなれば」
「わたしはいいよ。しなくても」
「でも、わたしひとりじゃ、なんだか嫌です」
ミルノが素早く動いた。体を起こし、アリシアを浴槽から引っ張り出すと、仰向けにし、その上に反対向きに覆いかぶさる。69の姿勢だ。
「ほら。こうしたら指も突っ込みやすくなりませんか」
「いや。それはダメ」
ミルノの口がアリシアの性器にかぶりついた。うっすらと生えている陰毛ごと口に含み、舌で濡れそぼったクリトリスから膣口までなめとり、さらに舌先を膣に押し込んでいく。
「だめ、だめよ」
アリシアが暴れるが、エンジェルの力はやすやすと抵抗を抑え込む。
「こんなことをするつもりじゃないもの。あなたの子宮を調べるためにやっているんだからー」
「早く調べてください。もっと奥に指を突っ込んで。もっと、入れて」
「わかんない。わかんないよー」
急激に高まる快感に、アリシアの意識が吹き飛ばされた。
アリシアはミルノのお尻を引き寄せ、唇を押し当てる。性器をなめまわし、後ろから回した指を押し込み、抜き差しする。すると膣から滝のような愛液が飛び出してきた。アリシアの性器も同じだった。ミルノも指を差し込み、こねくり回しながら押し込んでいく。クリトリスを強く刺激すると、体に震えが走る。お互いのおっぱいをこすりつけ、乳首の快感を味わう。よがり声や悲鳴が断続的に上がり、天井に反響する。
そして二人は同時に絶頂を迎えた。長い快感を味わった二人の体は力をなくし、浴室の床に重なり合ったまま倒れた。
「わたしに子宮はあったのでしょうか」
二人は浴室の床に向かい合って座り込む。額に張り付いた髪をかきあげながら、ミルノが問う。
「あの。わかりませんでした。ごめんなさい」
「そうですか。それじゃあ……」
ミルノが悲し気にうつむくと、アリシアは両手で肩を抱き、声を励ました。
「大丈夫です。わたしがなんとかします」
3
マキナの研究室は、王城の地下にある。なぜ、地下に設けたかはわからないが、怪しげな噂ばかりが常に語られていた。入ったことのある人はごく少数で、しかも中に何があるのか、ほとんど語らないからだ。口止めされているという説もあれば、記憶を消す薬を飲まされているという説もある。
アリシアがミルノを連れて行ったのは、この研究室だった。ドアをノックすると、白衣姿のマキナが出てきて、簡単な事情聴取を終えると、ミルノだけが迎え入れられた。一人取り残されるアリシアは不安げだったが、ミルノはすっと入っていき、ドアが閉められた。
思いのほか広い部屋だった。普通地下室には明り取りの天窓があるものだが、ここには見当たらない。明かりといえば、部屋の隅の小さな暖炉の炎と、大きな机の上の燭台だけだ。弱々しい明りで見えるものは、得体のしれない研究器具と、積み上げられた蔵書。人骨や動物の骨格標本。毛皮と布。薬箱。天上からつりさげられた鳥と蝙蝠のミイラ。
しかし、ミルノはごく普通の様子でそれらを眺めている。そのミルノを、マキナは興味深げに眺めている。
「エンジェルか。ここにエンジェルが来るのは、初めてだ」
「そうですか」
「緊張はしていないみたいだね。結構だ。さて、あんたの頼みというのは王子の赤ちゃんを産むための、子宮があるかを確かめること、だったな。あんた、そんなに赤ちゃんを産みたいのかい」
「はい。王子に喜んでもらいたいです」
「まあ、喜ぶだろうね。それにたくさん子供をつくらなければ、王国は衰退してしまうから」
「そうなんですか」
「そうさ。戦乱で人が減ってしまったんだ。だから、みんな子作りに励めばいい。それで幸せになるんだったら、なおさらさ。ところでお前さんは、本当に子宮がないのかい」
「アリシアがわたしの膣に指を入れて探してくれたのですが、わかりませんでした」
「ふんふん。まあ、指を突っ込んだぐらいじゃ、だめだね。でも、わたしがやれば、すぐにわかる」
「本当ですか。お願いします」
「いいよ。エンジェルの体を調べるのは興味深いからね」
マキナの眼鏡の奥の瞳が光る。
「調べる、ですか」
「そうさ。まず調べる。調べなければ、何も始まらない。まずこの目で確かめなければ、真実を知ることなどできないじゃないか」
「……」
「まあ、いいさ。ちょっと、痛かったりするかもしれないが、それでもかまわないかい」
「はい。痛くても、我慢できます」
「結構、結構。では、こちらへ来てくれるか」
「はい」
大きな机の向こう側に、背もたれの高い籐の椅子があった。肘掛けがついていて、座面から下に、足乗せがついている。
「そこに服を脱いですわってもらおうか」
「はい」
靴とニーソックスを脱ぎ、レオタードのような服をするっと脱ぎ落して、椅子に座る。身に着けているのは、プラチナブルーの髪をくくる、赤いリボンだけだ。そして、肘掛けに腕を乗せ、足乗せに両足を置いた。
マキナが指を鳴らした。
すると籐の椅子から蔓が伸びてきて、ミルノの手と足、胴体を絡めとり、縛り付ける。
「どうして縛るのですか」
「心配はいらないよ。別に乱暴しようってわけじゃない。調べやすいように、動かなくするだけだから」
「わかりました」
平然としているミルノに、マキナは唇をめくりあげて、ほくそ笑む。
「いいねえ。かわいい女の子を裸にして、椅子に括り付ける。これはマニアの男たちの垂涎の的ってやつだね」
「マニアって、どのような方なのですか」
「そうだねぇ。まあ、少女の方が萌えるとかいう輩だよ。おや。陰毛も生えていないのかい。これはロリってやつらが喜びそうだ。ん。もっとよく見せておくれ」
そう言ってもう一度指を鳴らすと、籐の椅子の足元部分が左右に開いていく。縛られたミルノの足も大きく開かれ、女性器が露わになっていった。
「なんてきれいなんだ。くすみもしわもない。つるっつるの肌に、くっきり刻まれた割れ目。きれいだね。わたしもこんな時があったのかねぇ」
「そうなのですか」
「自分じゃわからないものだ。自分の価値なんて、自分で決めるものじゃないからね。あんた、ロリの皆さんには大人気だろうよ」
「そうですか。その方々には、どこに行けばお会いできるのでしょう」
「いやいや。会わない方がいい。奴らはお前さんを、自分の都合のいい情報として消費するだけだからね。会えばきっと、うんざりするだけさ」
「はい。わかりました」
「ふふ。あんた。その素直さは国宝級だよ。さあ、調べ始めようか。言っておくが、わたしの調べ方は独特だからね」
「はい」
マキナはミルノの頭に顔を近づけ、手で触れながら観察していく。
「いい匂いがする。香水じゃない。体臭なんだろうが、清潔なのに、蠱惑的な匂いだ。これは男を虜にするためのものか……」
指先で髪にさわり、頬に触れ、うなじまで撫でおろし、目にキスをする。
「すべらかで、きめ細かな肌は、子供のものだね。柔らかく、頼りない。それ故に護ってあげたくなる」
マキナは舌でミルノの眦から耳、そして首筋までなめていく。ミルノがすぅーと息を吸った。その頃には左手が小ぶりな乳房をなでている。乳首を指先でつまみ、指の腹でこねまわし、掌で揉みしだく。どこまでも柔らかい乳房が赤く染まり、乳首が硬くなっていく。
「あの。これが調べることなのですか」
「そうだよ。あんたのすべてを知って、理解したいのさ。さあ、少しおしゃべりしよう」
「はい」
「いい子だ。あんた。初めてのセックスは王子とだね」
「はい。わたしは王子と、初めてセックスをしました」
「どんな風にやったのかい」
「どんな風に、ですか。ええと、今マキナさんがしているみたいに、手や口で体中を触ったりなめたりして、それから、わたしの膣に、王子のペニスを入れました」
「ふんふん。それで、どうだった」
「どうといわれても。体が火照ってきて、少しむずむずして、なんとなく心があったかになりました」
「心が、かい」
「はい。その時まで、わたしは心というものを理解できなかったと思います。自分の感情というものなのでしょうか。それを初めて感じたと思えました」
「なるほど。あんたは思ったより頭がいい。その説明はよくわかるよ。では、ロストバージンの痛みはなかったのかい」
「さあ。あっ、膣から出血しました。もしかしたら、それが生理というものでしょうか」
「たぶん違う。処女が初めてセックスをすれば、たいてい出血するものだ。で、セックスは気持ちよかったわけだ」
「さあ。よく覚えていません」
「ほう。それでは、これもよくないのかい」
マキナは念入りに乳房をもみ、口に舌を入れてゆるゆるとなめまわす。
「……いいえ」
ミルノは顔をねじり、マキナのキスから逃れて答える。
「気持ちいいです。おっぱいがキュンとしびれます」
「王子とセックスしているときは」
「今は、気持ちいいです。初めは感じなかったです」
「ふうん。つまり、何度もセックスしているうちに、感じるようになったと。まあ、それが普通だろうね。経験を重ねなければ、五感も発達しないだろうし。ましてやセックスは、ただの体の接触ではないから」
「それは、どういうことですか」
「セックスは性的な刺激だけでできているんじゃないのさ。もっと深い、心とか魂とかのふれあいが絡んできて、初めて意義深い交流が生まれる。言い換えれば、セックスは深いコミュニケーションと言うべきものなのさ。セックスによって、人と人は結びつきを強めることができる」
「よく、わかりません」
困惑するミルノに、マキナが笑った。
「今はわからなくてもいいのさ。これから学んでいけばいい。それで、王子と何度ぐらいセックスした?」
「さあ。三十回が、四十回ぐらいでしょうか」
「あんた。本当に王子のお気に入りなんだね」
マキナが嘆息する。
「そうなんですか」
「そうともさ。一度きりなんて子も少なくない。そんな子は、ちょっと哀れだねぇ。処女を散らして、それで捨てられるなんてさ」
「処女を散らすとは、どうなるのですか。まさか、ばらばらにされてしまうとか」
「わたしの言い方が悪かった。そんなことじゃないからね。安心してくれ。でもまあ、あんたの性感は、王子によって開発された、と。じゃあ、どんなものか、調べてみよう」
そこからマキナの動きが、より妖しくなっていく。ディープキスから始まり、小さな顎をなめ、細い首を這い、薄い乳房でとどまる。嘗め回し、しゃぶりつくし、甘かみして、ミルノが吐息を上げるまでやめない。その間に、マキナの右手はミルノの股間を責めていた。繊細な指の動きで、ミルノの大陰唇を開き、クリトリスをこね回し、ひらひらをのけながら膣に指を潜入させていく。ミルノの膣は狭く、一本の指を奥に進めるのにも抵抗があるだが、その分、強い刺激を与えることができるのだ。
ミルノが甘い声をあげた。
「気持ちいいだろ」
「はい。でも、どうして」
「どうしてこんなことをするか、って。それはわたしがこうしたいからさ」
そういうなり、マキナは手早く自分の服を脱ぎ捨てた。そして、椅子に座るミルノにのしかかるように、体を密着させる。
「あんたの頼みを聞く報酬は、これさ。わたしはあんたを楽しむ。あんたは知りたいことを知る。それでイーブンだろ」
「はい。そうです」
「いい子だ。我慢しなくてもいいんだよ。思いっきり声をあげなよ」
マキナは体をくねらせ、その豊満な肉体をミルノにこすりつける。強く抱きしめ、舌を絡めてキスを交わし、股間に膝を押し込んで前後に動かす。ミルノの性器から愛液があふれてくる。指で性器を刺激し、それだけでは不足だと口でなめる。舌を膣にねじりこみ、ぺろぺろと嘗め回す。
拘束されたミルノは、体をよじり、嬌声を上げることしかできない。
「どうだい。王子とやるよりもいいだろ」
「……いえ。王子の方がいいです」
「なぜ。男根をぶち込まれないと、いけないのかい」
「ペニスは好きです。入れてもらえると満ち足りた気持ちになります」
「そうか。陰陽合一ってやつかね。でも、女同士もわるくないだろ」
「……はい。マキナさんはお上手です」
「うれしいねぇ。それじゃあ、もっと感じなよ」
「……るはい」
なめらかなエンジェルの肌は紅潮し、快感に震える。ミルノは身もだえして、椅子に体をこすりつけ、泣き声を上げ始めた。それでもマキナの責めは続き、ついにミルノは絶頂に達した。
籐椅子を揺るがすように、きく弓なりになり、その体がすとんと椅子に落ちた。胸を上下させ、短く呼吸を繰り返す。太ももを愛液が流れ落ちる。朦朧となったまなこは、なにも映さない。
その様子を眺めながら、マキナは大きなテーブルの上から、円錐形をした器具を取る。もう片手には、細いガラスの棒を持つ。その棒は、淡い光を放っていた。
もう一度指を鳴らすと、椅子が持ち上がり、ミルノの体はでんぐり返し状態になる。大きくさらされた陰部が、マキナの目の前にあった。マキナは膣に円錐の器具を差し込む。
夢うつつのミルノが小さく悲鳴をあげた。
「冷たかったかい。少しの辛抱だ」
マキナは慎重に器具を押し込んでいき、その器具の真ん中に開けられた穴に、目を当てる。だえが、暗くて何も見えない。そこで左手に持った光るガラス棒を穴に差し込み、透かすようにのぞき込む。
「うーん。なにもない。なにもないようだ」
「……。ない」
「ああ。膣の奥は閉じている。子宮口は見えない。やはり、あんたの体は、セックスはできても子供はできないようになっている」
「ああ……」
ミルノが嘆息した。か細い声が、絶望の色を帯びる。
マキナは指を鳴らして椅子を動かし、ミルノを普通の姿勢に戻し、戒めを解く。だが、ミルノは立ち上がらなかった。
「泣くんじゃない。まだ、観察が終わっただけだ」
マキナはミルノの頬を流れる涙を見つめる。
「天使の涙だねぇ。古い伝承では天使の涙は宝石に変わるというが、あんたのはどうかね」
「涙なんて。わたし、涙なんて、出たことがない。これが涙ですか」
「ほう。そうかい。あんたは、初めて体験するってことが多いようだね」
「そうでしょうか」
「そうさ。あんたは、王子軍に入ってから、ご飯を食べるようになったと聞いたが。それまでの飲み食いしたことがなかったと」
「はい」
「おかしいじゃないか。口も喉も消化器もあるのに、食べなかっただなんて。食べなくても動けたのだろう。なら、どうして食べようとしたのかい」
「みなさんがそうしていたので」
「まねをしたってことか。それじゃあ、小便は」
「それも皆さんがしていたので。はじめておしっこをした時のことは覚えています。膣の前にある穴から、水が出てくるなんて、変です」
「人のやり方を真似しているみたいだねぇ。それとも、自分の意志によって、何でもできるようになるとか」
マキナは、両足をそろえて行儀よく椅子に座るミルノを眺めながら、考えにふける。
「そうだ。あんた。髪を切ったことがないって、本当かい」
「はい」
「だって髪は伸びるだろう。うっとうしくないのかい」
「髪は伸びません。人間の皆さんは伸びるようですが」
「髪を伸ばしたいとは思わないのかい」
「はい。この髪が気に入っていますし」
「それじゃ、その気になれば伸ばせるのかい」
「その気?」
「だから、王子がもっと長い髪の女の子が好きだと言ったら」
「えっ」
ミルノの瞳に感情が動いた。
「本当ですか」
「ああ。本当さ。わたしは以前、聞いたことがある。王子は足元まで伸びる長い髪を持った女の子が一番好きなんだ。あんたももう少し、伸ばした方がいいんじゃないか」
「はい。わたし、やってみます」
ミルノは真剣な表情になり、髪をくくっていた赤いリボンをほどく。両手を胸の前で組み、頭を垂れて目を閉じる。ゆっくりと呼吸を繰り返し、意識を集中させていく。
そして。
ミルノのプラチナブルーの髪がゆらぎはじめる。風に吹かれたかのように波うちながら毛先が伸びていき、人ではありえない速さで、髪が床に届いた。
マキナの頬に、怪しげな笑みが浮かぶ。
「こいつはいい。ミルノ。これくらいで十分だ。王子も喜んでくれるだろう」
「本当ですか。わたし、嬉しいです」
「そうだねぇ。王子をもっと喜ばせたいねえ。ああ。そういえば、王子は青い瞳の女の子がいいと言っていた気がするな。青い瞳で見つめられると、心を奪われてしまいそうになるとね。あんたのは、菫色だねぇ」
「わたし、やってみます」
再び、ミルノは意識を集中していく。すると、菫色の瞳から色素が抜けていき、琥珀色に変わったかと思うと、青みを帯びていく。そして、透明なブルーの瞳に変わった。
マキナはその様子に夢中になる。
「すごい。エンジェルというのは、こんな能力を持っていたんだ。もう一つ思い出した。王子はエルフのような尖った耳が好きなんだ。あの耳をなでるのが、いたく気に入っているらしい。あんたも撫でてほしかったから……」
ミルノのメタモルフォーゼは続く。小さな耳の上の部分がとがり、エルフそっくりになる。
「もっとよく見せておくれ」
マキナはミルノの手を取り、椅子から立たせる。そして、ポーズを取るように命じる。
「こう、ですか」
裸の少女は、命じられるまま、さまざまな姿態をとる。
足元にまで伸びるプラチナブルーの髪が揺れ、その前髪の奥には青い瞳がある。時折見え隠れする尖った耳が、神秘的だ。ほっそりした肢体は、先ほどまでの快感の余韻をのこし、ひどく蠱惑的だった。
「いや、これは。これは、もしや」
「どうしましたか。気分が悪いですか」
「いいや。そうじゃない」
マキナは先ほどまでミルノが座っていた椅子に、どすんと腰を下ろし、手で顔を覆った。ミルノは心配げな顔になり、その肩に手を置いた。
「ありがとうよ。だが、気分が悪いんじゃない。どちらかといえば、嬉しいんだ」
「嬉しいですか」
「ああ」
マキナは顔を覆っていた手を開き、じっと見つめる。
「わたしには、夢があってね。まあ、夢はたくさんあるんだが、その一番は人間を作り出すというものなのさ」
「人間をつくる。赤ちゃんを産むことですか?」
「はは。そういえば、あんたの夢はそれだったね。わたしのはそうじゃない。何もないところから、人間を作り出すことなのさ。正確には、生き物の死骸とか、薬草とか、からくりとかを合成して、人間と同じものをつくりたいと思っている。今、あんたが、自分の体を自分の意志で変えていくのを見て、それは人間をつくることと、ほとんど同じではないかと思ったのさ」
「よく、わかりません」
「ああ、そうだろうね。でも、あんたに会えてよかった」
「はい。それで……」
「そうだったね。それじゃあ、今度は、あんたの膣の奥に子宮をつくってみよう。きっとできるはずだ」
「エッ。でも、わたし、子宮がどんなものか、知りません」
「ふむ。確かにそうだねぇ。わたしだって、知らない。ではこうしよう。まず、わたしの膣を覗いて、子宮口がどうなっているかを見る。それから、イメージするんだ。自分の子宮に王子の精液が流れ込み、子種ができて成長し、赤ちゃんとなって生まれてくる、ってね」
「……。はい。わかりました。わたし、やってみます」
二人は熱中して作業を続け、ついにミルノの膣の奥に、子宮らしきものが生まれる。それを円錐形の器具で確認したマキナは、こう断言した。
「これで大丈夫だ。あんたには子宮がある。いつか王子の赤ちゃんを産めるはずだ」
「マキナさん。本当に、ありがとうございます」
4
「アリシア。アリシア」
ノックもせずに、部屋に飛び込んだミルノは、ベッドの端に座り、うなだれるアリシアを見つける。その前には、腕組みして立つ政務官アンナがいた。この部屋はアンナとアリシアの相部屋なので、おかしくはない。
「ミルノさんですか」
いつも優しいアンナが、冷ややかなまなざしで入ってきたミルノをにらむ。
「あの……。ノックを忘れました。ごめんなさい」
「それはいいのです。ちょうどいいところに来ましたね」
入ってきたミルノを見たアリシアは、声を上げかけるが、すぐに口を閉ざす。それに気づいたアンナが、怖い顔になると、アリシアは体をすくませ、また顔を伏せる。
「あなたたちが、こんなに親しいとは知りませんでした。いえ。仲がいいことが悪いのではありません。あなたたちのやったことが問題なのです」
「問題、ですか?」
「問題です。わかりきったことでしょう。皆さんが利用する大浴場で、女の子同士で、情事に耽るなんて」
「情事、って何ですか」
ミルノの問いに、アンナの端正な顔がかすかに赤らむ。
「それはその。二人で触りあったり、抱き合ったりすることです。わかるでしょう。あなたたちは人が集まる場所で、そのような恥ずかしい行為を行ったのです。王城の風紀を乱した、重大な問題行動です」
「触りあったり、抱き合ったり……。わたし、王子とよく抱き合っています。それは恥ずかしいことだったのですか。ごめんなさい。」
「い、いえ。そうではなくて……」
「もうやっては、いけないのでしょうか。わたし、セックスしたいです」
ミルノが、必死に訴える。
「わたし、セックスをして、王子の赤ちゃんを産みたいです。子宮がないから、子宮をつくりました。マキナさんにやり方を教えてもらいました。教えてもらうために、マキナさんに触られたりしました。それも、悪いことなのでしょうか」
ミルノの言葉に、アンナの表情が変わる。
「子宮がないから作った。それはどういうことなのですか。アリシア?」
「はい……」
アリシアとミルノの説明に、アンナは思案深げな顔つきになる。
「あの大浴場でのことは、そのような理由でなされたのですか。誉められたものではありませんが、考慮すべきですね。それにしても、エンジェルという種族は、驚くべき能力を持っていたのですね」
「わたし、自分がこんな事できると、知りませんでした」
ミルノは伸びた髪を指でもてあそびながら答える。アリシアも恐る恐るミルノの耳を触っている。
「確かに外見は変わっている。子宮のことはわかりませんが、マキナがそう言っているのなら、間違いないでしょう」
「はい。これでわたしも、赤ちゃんが産めると思います。でも、その前に、アンナさんに産んでもらわないといけません」
「ハッ?どういうことでしょうか」
「アンナさんが王子の赤ちゃんを産まないと、アリシアも産めないって言ってました。わたしは、アリシアと一緒に赤ちゃんが産めるとうれしいです」
「エッ?アリシア。どういうことですか」
にらまれたアリシアは首をすくめるが、恐る恐る口を開く。
「だって、アンナ姉さまが王子さまの一番だから、最初に赤ちゃんを産むのは、やっぱり姉さまじゃないといけないと思ったんです。そうでしょ」
そう言われて、アンナが顔を赤らめた。
「そんなこと……。わたしは、政務官としての仕事が忙しくて、そのような私事を優先させることは、できません。できません。だって、王子の赤ちゃんを産むなんて。わたしは政務官ですから、王国のことを一番に考えなくてはならない立場なんです。だから、王子との赤ちゃんだなんて。そんな……」
赤い顔のアンナがしどろもどろになって答える。
「みんなで赤ちゃんを産めばいいと思います」
そうきっぱりと言ったのはミルノだった。
「赤ちゃんを産んで、子供を育てたら、王国は繁栄するんだって、マキナさんも言ってました。わたしの赤ちゃんは、どんなだかわからないけど、アリシアやアンナさんに赤ちゃんができたら、王子もみんなも喜ぶと思います」
「そうですね」
落ち着きを取り戻したアンナは微笑みを浮かべる。
「たくさんの子供を産み育てる。それができる平和な世界を、わたしたちは作ろうと魔物たちと戦っているのでした。大切なことを忘れていたような気がします」
「ミルノはすごいね。わたし、変な遠慮とかして、大事なことをおろそかにしていた気がする。わたしが王子さまを好きだって気持ちは、アンナ姉さまがいても、変えられないんだ」
そう語るアリシアを、アンナは穏やかなまなざしで見やった。
「そうですね。わたしが好きな王子を、アリシアも好きだというのは、嬉しいことですね。好きな人は、たくさんの人に好意をもってもらいたい。一人の女としては、複雑でもありますが」
「それは仕方ないです。みんな同じ気持ちだと思います」
「そうね。ところで、ミルノ。その髪とか、瞳とかは元に戻した方がいいのではありませんか。なんだか、あなたじゃない気がします」
「わたしじゃない、ですか。でも、マキナが王子はこちらの方が好きだって言っていました」
「それはマキナの冗談ですよ。だって、王子はたくさんの女性を好きになっているでしょう。その人たちはみな、足まである長い髪で青い瞳ですか。違うでしょう。王子は外見だけで好き嫌いを決める方ではありません。だから、ミルノはミルノらしい姿でいいと思いますよ」
「そうですか。でも、どうすれば……」
「自分で髪を伸ばせたんだから、縮めることもできるんじゃないの。ミルノ」
「わかりました。やってみます」
ミルノは目を閉じ、意識を集中する。そして、再び、ミルノのメタモルフォーゼが始まった。
目の前で変身していくミルノを、アンナとアリシアは固唾をのんで見守る。そして、元の姿に戻ると、ため息をついた。
「どうでしょうか。元に戻りましたか」
「すごい。すごいよ、ミルノ」
「本当に奇跡のようでした。自分で見ていたのに、なんだか狐に化かされているような気分です」
「ねえ。ミルノ」
アリシアは、元に戻ったミルノの髪や耳を触りながらささやく。
「もしかしたら、おっぱいを大きくすることもできるの?」
「たぶんできると思います。あの。王子はおっぱいが大きい方が好きなのでしょうか」
アリシアはちらりとアンナの胸を見、答えた。
「いいえ。王子さまは小さなおっぱいも大好きです」
終わり
いかがでしたか。次回作も用意していますので、また、お会いしましょう。