※この作品はR-18です。

アイギスの少女たち   作:東寺明

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 王子軍最強の機甲兵を操るウェンディは、王城での暮らしになじめずにいた。ある日、ふとしたきっかけで知り合ったエルフのスプラと次第に仲良くなる。機甲兵の改修を終え、試運転した日、機甲兵が暴走し、鍛冶職人、ゴルドーが重傷を負う。責任を感じたウェンディは落ち込む。スプラはウェンディを励ますために、森のハイキングに誘う。そこで、スプラは、ウェンディに告白する。

 


ウェンディのともだち

        ウェンディのともだち

                             東寺明

 

                   1

 薄い壁の向こうから、鉄を叩く甲高い音が聞こえてくる。力強くリズミカルなその響きは、いつもウェンディを励ましてくれる。胸が暖かくなり、ごく自然に、微笑みが浮かんでくるのだ。

 ウェンディの右手にはスパナ。左手で歯車を組み合わせたギアを押さえつけ、ナットを締め付ける。慎重に。けれど、手際よく、仕事を進める。

 ウェンディの指は油にまみれて黒ずんでいるし、額の汗を腕で拭うと、顔がよごれる。かがみ続ければ、腰も背筋も痛くなる。鉄板は重いし、切断面がナイフのように尖っていることもある。危険がいっぱいで、ちっとも楽じゃない。だが、それだからこそ面白い。それが、機甲兵づくりだ。

 機甲兵。くぐつとも、ロボットともいう。人の手が作り出す、戦闘機械だ。最強の機甲兵ともなれば、不死身の戦士として、最前線で押し寄せる大軍を蹴散らすことができる。今ウェンディが修理しているものは、王子軍最強の機甲兵だった。そして、ウェンディの戦友であり、相棒であり、弟分でもあった。ウェンディはいつも機甲兵と一緒にいて、いつまでも一緒にいるのだと思っていた。それが、一番の幸せなのだと信じていた。

 

 ここは、王城の一番奥にある、広い空き地にある古びた倉庫だ。正確に言えば、ここは王城の外になる。城壁の裏門のすぐ外側にあり、門をくぐれば、そのまま王城の中庭に入ることができるので、不便はない。倉庫の隣に、煉瓦造りの鍛冶場がある。王国の武器や農具を製造するための鍛冶工房であり、大量の火を使うために、王城の外に作られているのだ。

 この倉庫は、もともと練炭や薪を蓄えておく場所だったが、今はウェンディの機甲兵の整備場所になっている。そして、ウェンディのねぐらにもなっている。ウェンディは王城での暮らしより、相棒である機甲兵と過ごす方が好きだった。

 先日の戦闘で傷んだ機甲兵の修理は、ウェンディ一人で続けられていた。もともと、この機甲兵は、ウェンディがほとんど一人で造り上げたものなのだ。まだ、二十歳にもならない若さで、これほどの技術力を持った少女は、王子軍の中でも特異な存在だった。

 壁の向こうから聞こえていた鉄を叩く音が途切れた。隣の鍛冶場には、溶鉱炉の火が一日中燃えている。鋳鉄も作るし、鍛鉄もつくる。鋼で剣も作る。そして、今はウェンディの機甲兵のボディを、鍛え上げてくれているのだ。

 今回の修理は、さらに強力になるための改良をすすめている。魔物の投げ槍を弾き飛ばすだけでなく、魔法の雷をも無力化する装甲を取り付ける予定なのだ。完成したら、強力な機甲兵は、さらに強大な力を持つのだ。それを思うだけで、ウェンディの頬がほころび、知らぬ間に口笛を吹いている。

 

 その時、扉がノックされた。倉庫の入り口の扉は、木でできた簡素なものだ。

「だれ」

 ウェンディが大きな声で返事する。すると、扉がきしみながら開いた。

 おずおずと顔をのぞかせたのは、ブロンドの髪のエルフだった。

「あのー」

 思いがけない客に、ウェンディはいぶかし気な顔になり、汚れた手を作業服でこすりながら、近づいていく。

 倉庫の中は薄暗く、扉から漏れ入る光が眩しい。その光を後ろから浴びた少女の髪が、黄金の糸のように輝く。ウェンディがその眩しさに目を細めた。

少女が中に入ってきた。エルフは美女が多いので有名だが、この少女の美しさは、この世のものならぬほどだった。まだ十代だろう。愛らしさと可憐さが混然となり、夢を見るようなまなざしが、天上の美を地上に現出させている。ウェンディは口をぽかんと開け、立ち尽くした。

 少女は身の丈ほどある長弓を持ち、狩りの装束を身に着けている。ただし、その装束は胸と肩をおおうだけの短い上着と、ショートパンツだけで、いかに初夏とはいえ軽装過ぎる。しかも、ところどころに花を飾り、翠色を基調にした鮮やかな色彩に染められていて、本当に狩りができるとは思えない。

「あの。お手洗いを貸していただけませんか」

 少女はもじもじと太ももをこすり合わせ、眉間にしわを寄せている。それは切迫感があり、ウェンディに考えるいとまを与えない。

「え。うん。こっち」

 ウェンディは踵を返して倉庫の奥に導く。エルフの少女は、小走りに後をついてきた。

 

「ご迷惑をおかけしました。王城までもう少しなので、我慢できると思っていたのですが……」

 手洗いから出てきた少女は、肩をすぼめ、申し訳なさそうな顔でウェンディに頭を下げた。

「いや。別に……」

 ウェンディは、同世代の少女との交流がほとんどない。王子軍に入るまでは、機甲兵づくりに没頭し、他者との付き合いをほとんどしてこなかった。友達とおしゃべりすることもなく、ましてや遊んだりすることもない。それが当たり前で、他者を必要としないし、他者から頼られたいとも思わなかった。

「お仕事中だったのでしょう。つまらない用事で、時間をとらせてしまって、ごめん……」

 エルフの少女の言葉が途切れた。その視線の先には、修理中の機甲兵がいた。

身の丈は人間の二倍ほど。横幅は三倍。足も胴も腕も太く、首はなく、頭は半球形で目が愛らしい。今は胸の装甲板が外され、胴体内のからくりが見えている。

エルフの少女は、魅せられたように機甲兵に近づいていく。ウェンディは反射的にその前に立ちはだかり、自分の大切な相棒を守った。

「エッ?エッ?」

 エルフの少女には、ウェンディの行動の理由がわからない。端正な顔に、困惑の影が浮かぶ。すると、今度はウェンディがうろたえた。

「あ。いや。なんでもない、です。だけど、この子に、触らないで」

「あ。はい。ごめんなさい。大切なものなのに」

 そして、にっこりと笑うと、ウェンディに顔を向ける。

「わたし、この前の戦場で、この機甲兵が戦うのを見てたんですよ。オークの大軍が押し寄せてきたとき、たった一人で立ち向かっていった。見ていてドキドキしちゃいました。本当に強くて、感動しました」

 その言葉は、ウェンディの困惑をさらに深めた。

「だって、あの時は、わたしたちは、戦列から突出していたから、誰も見ていないはずだから……」

 少女はフフッと笑った。その花のような笑顔は、見るものすべてを幸福にするほどのものだった。

「エルフの視力はすごいんですよ。人間では見通せないほど遠くても、見えますから。あの時は、丘の上の本営にいたのですが、わたしやスピカさんが戦況をみんなに伝えたんです。あ、そうだ。ウェンディさん。始めまして。わたしは、スプラと言います」

「スプラ、さん。アーチャー、なの?」

「いいえ。レンジャーです。アーチャーに似てるけど、ちょっと違います」

「はあ」

 王子軍に参加して間もないウェンディには、レンジャーという職種がどのようなものであるか、よくわからない。ただ、目の前の可憐なエルフが、王子軍の将官であることに、意外な思いを感じただけだ。こんな頼りなさげな少女も、本当に魔物と戦っているのだろうか。

 確かに、王城で見かける将官には、スプラと名乗るこの少女よりも年下の者がいる。でも、この少女ほど、戦いとは縁がなさそうな者はいなかった。あの長弓で射るのは、ゴブリンではなく、男のハートの方がふさわしい。

「それにしても、すごく立派ですね。近くで見るとすごい迫力があります。全部鉄でできているんでしょ。こんなに大きなものを動かせるなんて、ウェンディさんはすごいです」

 本当に感動しているらしく、スプラは機甲兵の周りをまわりスキップしながら、感嘆の声を上げ続ける。

 ウェンディにしても嬉しくないわけではない。ただ、どう答えたらいいかわからないので、困惑するしかないのだ。

「今、修理しているのですか。お腹がパカッと開いてて、ちょっと可哀そうです」

「うん。装甲を交換しているの。もっと強くしたいから」

「もっと強くなるの?すごいです。こんな機甲兵が一緒にいてくれたら、心強いでしょうね。ほんとうに、王子軍は強い人ばかりなので、わたしはいつも驚いてばかりです」

 スプラは機甲兵に触れられそうなほど近くに立ち、つま先立ちになって見上げる。機甲兵の顔は、どことなくユーモラスで、初めて間近で見たのに、なぜか懐かしさすら感じる。スプラは長い時間、機甲兵をながめ続けた。

「エルフの里では、弓の名手として、尊敬されていたんですよ。わたし。なのに、王子軍に入ってからは、なかなか戦場に連れて行ってもらえないんです。わたしより、ずっと上手なアーチャーや、経験豊富なレンジャーがいるから、仕方ないんですけどね」

 スプラが振り向き、微笑んで見せる。その透き通った笑みに、哀しみの影はない。自分の能力が劣っていることを、恥じてはいないようだ。人間とは、感情の在り方が少し違っているのかもしれない。

「あの……」

「ウェンディさんは、最近王城に来たんですよね。前は、どこで暮らしていたのですか。わたしが生まれ育ったエルフの里は、とても平和な土地でした。でも、わたしは外の世界を見てみたかった。エルフの里から出れば、戦いもあるだろうし、憎しみや、いさかいもある。だからやめておけって、みんなに言われました。それは本当でした。戦いは厳しいものだし、勝ったとしても仲間や友達が傷つく。亡くなってしまった方もいます。だけど、わたしは、ここに来てよかったと思っています」

「そう……」

「あの。もっとお話をして、いいですか」

 スプラが小首をかしげて聞いてくる。そのしぐさはあまりにも愛らしく、これを拒否できる人間はほとんどいないだろう。

 反射的に、ウェンディはうなずいていた。

 

 

 ウェンディは木箱を二つ持ってきて、機甲兵の前に並べた。倉庫のすみにあるストーブで、お湯を沸かし、お茶を淹れる。これがウェンディにできるたった一つのもてなしだった。スプラはマグカップを両手で包み込むようにして熱いお茶を啜り、微笑む。

ウェンディも、油で汚れた手でマグカップを持ち、お茶を飲みながら自分の相棒を見上げる。いつだってウェンディは、機甲兵と一緒にいたいのだ。できれば触れていたいし、撫でていたい。一人きりの時は、機甲兵とおしゃべりをして過ごした。

もちろん、機甲兵に会話能力はない。でも、ウェンディには機甲兵の声が聞こえるし、考えていることもわかる。相棒だからだ。

だが今は、向かい合って座るエルフの少女の方が気になっている。本当はすぐにでも機甲兵の修理を始めたいし、女の子とおしゃべりなんかしたくない。でも、主導権はエルフの少女にある。

「ウェンディさんは、いつもここにいるのですか?王城でお見掛けすることが、あまりありませんが」

「あの、わたしは、ここで寝泊まりしているから。その、あまり人と、付き合うのが、好きじゃないんです」

「そうなんですか。それって、いつもこの機甲兵さんと一緒にいたいってことですよね」

「うん。そう。そうなの」

 ウェンディは目を丸くする。初めて会ったばかりなのに、なぜそれがわかるのだろう。エルフというものは、人の心を読むことができるのだろうか。

「この機甲兵さん。そばにいるととっても安心できそうな気がします。ただ、強いだけじゃなくて、信頼できるというか、そばにいても許してくれるって言うか。なぜでしょう?」

「それはきっと、この子が優しい心を持っているからだと思う。でも、それを感じられる人はあまりいない」

「……。そうなのですか」

 スプラはウェンディの目を見て、微笑む。頬のえくぼがかわいい。

「うん。それに優しいだけじゃなくて、強い。だから、安心できるんだと思う」

「そうですね。強い心を持つことが必要だと、わたしも思います。心が折れてしまいそうなとき、機甲兵さんのような存在が、頼りになるのでしょう」

「うん。そうだった……」

 ウェンディが遠い過去を見る目になる。機甲兵と共に、生き延びてきた記憶がよみがえる。

 スプラは首を傾げ、唇に笑みを浮かべながら、その様子を眺めていたが、思い出したように小さなリュックから麻の小袋を取り出した。口の紐をほどき、中から赤い実を取り出す。

「いかがですか」

 スプラの掌にグミの実が乗っていた。ウェンディがつまみ、口に入れる。

「おいしい」

「でしょ。さっき森で摘んできたんです。この季節の森は、すごく気持ちがいいし、おいしいものもたくさんありますよ。さあ、もっと食べてください」

「うん。ありがとう」

 王城での食事はおいしい。でも、このグミは、摘んだ人が目の前にいて、笑いかけてくれるのだ。グミの甘酸っぱさが、幸福感を満たしてくれる。

 スプラが森の話を始めた。王城の背後には、深い森に覆われた低い山並みが続いていた。初夏の森は草木が生い茂り、決して歩きやすくはない。しかし、エルフにとってはなんの問題もない。スプラは早朝に王城を出発し、森に分け入り、森を満喫して帰ってきたのだ。

「それに森に入ると、人と会わなくて済みます。王城では、いつも誰かが近くにいて、話しかけてきたり、笑いかけてきたり。ちゃんと応えなくちゃいけないでしょ。それって、結構疲れるんです。わたしが、エルフだからでしょうか」

 スプラは含み笑いをしながらそう言う。ウェンディはまたビックリした。この少女は、外見の美しさとはかけ離れた、独特な価値観を持っている。そしてそれは、ウェンディの望むものに近い。

「エルフだけじゃない。わたしは人に気を遣うのが得意じゃないから、その気持ち、わかる」

「よかった」

 スプラは花のような笑顔を見せた。

「それなら、今度、一緒に森に遊びに行きましょう。いいですよね」

「……でも、わたし」

 その時、倉庫の正面扉が開かれた。スプラが入ってきた入口とは違い、両開きの大きな開口口だ。

 光と共に入ってきたのは、大男だった。その太い腕は分厚い装甲板を乗せた台車を押している。

「ゴルドー。装甲板がもうできたの」

 椅子を蹴とばす勢いで立ち上がったウェンディが、満面の笑顔になって大男の元に駆け寄る。取り残されたスプラは、一瞬憮然となるが、すぐに微笑みを取り戻し、立ち上がる。

「お客さんかね」

 近づいてくるスプラを見たゴルドーは。装甲板をなでているウェンディに訊ねる。

「エッ。うん。エルフの子。初めて会ったんだけど」

「こんにちは。鍛冶職人の方ですよね。わたしはスプラと言います」

「うむ。俺はゴルドーだ。日がな一日、鍛冶場で鉄を鍛えている。あんたは、レンジャーだな。矢じりが必要になったらいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます。でも、わたしの矢じりは特別製で、エルフの鍛冶でないと作れないのです。人間のものは、わたしには重くって」

「軽い矢じりも作れる。重いものは威力があるが、持っていける数が限られる。女が射るには軽い方がいい場合もある。今は、女も戦わなくてはならない時代だからな。どうだ。一度試してみてくれ」

「本当ですか。そんな風に言ってもらえたの、初めてです。感動です」

 スプラは頬を染めてゴルドーを見上げる。その様子を傍らでウェンディがぼんやり眺めていた。

 

 

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 夕暮れ時の食堂は混雑していた。今は、大規模な遠征軍が派遣されていないので、将官の多くが王城にいるのだ。

王城にいると言っても、文官は政務で忙しいし、武官は訓練を怠らない。休暇を取り、王城の外で過ごすものもいるが、あまり多くはない。特に、地方出身者は行く当てもなく、王城でのんびり過ごす者がほとんどだった。

機甲兵の修理を終え、食堂に来たウェンディは、ご飯を乗せたお盆をもって空いた席を探していた。

 ほとんどのテーブルは、談笑しながら食事をとる将官たちで埋まり、新参で友達のいないウェンディが入り込む余地がない。もう少し後に来ればよかったと後悔していると、ウェンディを呼ぶ声がした。

「こちらですよ」

 遠くから手を振っているのはスプラだ。さほど大きな声ではないのに、食堂の喧騒の中でもよく通る。ウェンディは一瞬頬を緩めたが、周りの目が集まるのを恐れてうつむき、そちらに向かう。

「ウェンディさん。食堂であうのは珍しいですね。さあ、こちらの席にどうぞ。あ。こっちはルチア。白の帝国の神官戦士です。わたしの隣の部屋に住んでいるので、一緒にいることが多いんですよ」

「あの。ウェンディです」

「初めまして。今、あなたの話をスプラから聞いていたのです。わたしも機甲兵に興味があったので、会えてうれしいです」

 ルチアは立ち上がり、礼儀正しく挨拶して手を差し出した。ウェンディは慌ててお盆をテーブルに置き、握手しようとするが、油汚れが気になって躊躇う。ルチアがにっこり笑い、その手を握った。柔らかくて暖かい手だ。

「さあ。食事を続けましょう。ウェンディさんは、小食なのですね」

「あ、いいえ。ずっと貧しい暮らしだったので、これぐらいで、十分なんです」

「ここでは遠慮はいりませんよ。でも、食べすぎは良くないと思ったりはします」

「エルフも小食だからな。この中では、わたしが一番の大食漢になるわけか」

「ルチアはヒールのお仕事で忙しいから、たくさん食べなくてはね。わたしは戦いがない時は、狩りぐらいしかやることがないから。つまり、無駄飯喰らいってことですね」

「そんなことはないさ」

 ルチアが笑い、ウェンディも微笑む。スプラの気遣いが心地よい。

 スプラとルチアは食事を続けながら魔界の話を始めた。王子軍は地上に出没する魔物を根本から撃退するために、魔界への侵攻を開始している。しかし、魔界の瘴気は人体に悪影響を与えるために、その対策が必要だった。

「機甲兵ならば、瘴気にあてられることなく、戦える。王子はそう考えているのではないかな」

「そうなのですか。ウェンディさん」

「いえ。わたしはなにも、聞いてません。魔界など、行ったことがないし」

「そうなんだ。まあ、あまり行きたい場所じゃないからな。でも、魔界で機甲兵が働けるかは確かめておきたいものだ」

 そんなことをしゃべっていると、少し離れた席から、騒がしい一団の声が聞こえてきた。

「くぐつ使いってのはな。みんな、くぐつとできているそうだ。ほら、あいつ」

「あいつって、誰ですかい。親分」

「ほら。あれ」

「くぐつ使いと言えば、リッカだろ」

「そう、それ。リッカはな、あのエロいくぐつとやっているそうだ」

「でも、女同士じゃないですか」

「女同士でもいいんだと。なかなか強烈らしいぞ」

「そいつはもったいねぇ。どっちかをおいらに貸してくれよ」

「おまえの顔じゃ、くぐつも逃げ出すだろうよ。バーガン」

「親分より、マシですぜ」

 モーティマ率いる山賊の一団だ。決して悪い人物ではないが、下品であることは、王子軍でも突出している。食堂ではただで酒が飲めるので、毎日のようにつるんでやってくるのだ。しかも、今夜はケイティやジェロームのようなこわもてがいないので、羽目を外しているのだろう。

「でも、その線で行くと、あの新しい機甲兵は、どうなるんです。あんなでかい奴についているのをぶち込まれたら、壊れっちまうじゃないですかね。セシリー姉さん」

「あたしゃいやだよ。おまんこが裂けちまうじゃないか。気持ちいいどころじゃない」

「そりゃ無理だわな。だからな。突っ込むのはゴルドーあたりじゃないか。人けのない城外で、隣同士で寝ているんだろ。夜は冷えるから、暖めてあおうなんて言ってだな。寝床に入り込んで、一発やるってとこか」

「えっと、それって、どっちが寝床に入ってくるんですかね」

「そりゃ、ゴルドーさ。あいつも女日照りだったからな。若い娘がすぐそばにいりゃ、ちんちんも元気になるだろうよ」

 ウェンディの顔が蒼白になった。いかに世間知らずでも、あの猥談の対象が自分とゴルドーであることはわかる。それをたくさんの人がいる食堂で、大声で言いふらされ、笑われているのだ。スプラが不安げな表情を浮かべ、ルチアは目を細め、唇を引き締める。

「どれくらいおっきいんだろうね。モーティマなんか比べようがないほど、でかいだろうね。入れられたら気絶するかも」

 セシリーが手を広げて猥褻なしぐさを再現する。

「う、うっ」

 うめき声と共に椅子を倒して立ち上がったウェンディが、早足でセシリーに近づき、肩をつかんだ。

「やめて」

「なにすんだ。なんだよ。おまえ」

「お嬢ちゃん。野暮な真似はよせ」

「許さない。ゴルドーはいい人なのに。嘘ばっかり言わないで」

「嘘じゃないぜ。想像ってものさ。大の男が、お嬢ちゃんを可愛がったって、おかしくはあるまいて」

「だから、そんなんじゃない」

 ウェンディがセシリーの肩をを揺さぶると、テーブルのマグカップが転がり、泡をまき散らす。

「なにすんだ。もったいねぇじゃないか」

「痛い。あんたの指、強すぎる。離せってば」

「謝って。嘘ばっか言ったこと、謝れ」

 ウェンディがさらに詰め寄ると、まわりの山賊どもが引きはがしにかかる。それに抵抗するウェンディともみあいになり、食堂が騒然とし始めた。

「もうやめるんだ。ウェンディ。怒りを収めて」

 ルチアが間を割って入る。小柄だが腕力があり、冷静に対処できるので、こういったことにはうってつけだ。

「ルチア。この子、なんとかしてくれよ。飲んで楽しんでるってのに、興ざめだからさ」

「そうだ。暴力反対だぞ」

「わかってる。でも、おまえたちも、反省してもらうぞ。人を傷つける悪口は、もってのほかだ」

「悪口じゃないくて、軽口なんだってば」

 食堂の雰囲気も、皆が皆、ウェンディの味方ではないようだった。ルチアに抱きすくめられたウェンディの顔がゆがむ。その時、後ろから近付いてきたスプラがウェンディの腕をつかむと、すっーとその場から離れる。ウェンディは抗議する間もなく、食堂の扉をくぐった。

 

 

「待ってください。待って」

 早足で回廊を抜けていくウェンディの背中に、スプラは呼び続ける。だが、ウェンディは振り向きもせず、足早に王城を出て、城門をくぐり、住まいの倉庫に帰る。

 後ろ手に戸を閉めようとしたウェンディを制して、スプラも中に入ろうとする。

「帰って」

「いやです」

「帰って。一人にして」

「だめです。一人になんかしません」

「なんでよ。わたしのこと、いやになったでしょ。がさつで、迷惑かけて」

「そんなことありません。ウェンディさんは、優しい方です。わたしにはわかっています」

 ウェンディは口ごもり、扉をそのままにして、倉庫の中に駆け入った。スプラは扉を閉め、暗い倉庫に足を踏み入れる。おおよその配置は頭の中にあるが、ウェンディの寝床の場所はよくわからない。

「ウェンディさん。どこ」

 天井の高い倉庫に、スプラの声が響く。

「ウェンディさん」

「帰って」

 暗闇のどこかから、ウェンディの声がした。

「いや。わたしは、ウェンディさんに謝らなくてはいけないから」

「なんで。スプラはなにも悪いことしてない」

「軍の同僚たちが、酷いことを言った。ウェンディさんを傷つけた」

「……。わたしだって、王子軍だよ」

「そうだけど」

「わたしは同僚だって、認めてももらえないんだ」

「……。そうじゃない。ウェンディは友達。だから」

 スプラは闇の中に足を踏み入れる。両手をさまよわせ、あたりの様子を視覚以外で感じながら、声の方向に進む。

「ねえ……」

 その時、スプラはなにかに躓いて転んだ。スプラの悲鳴と、金属音が鳴り響く。膝を打ったスプラは、その場にうずくまる。

 するとしばらくして、燈火が近づいてきた。淡い光の向こうに、気づかわし気なウェンディの顔が浮かび上がる。

「大丈夫?怪我してない」

「うん。大したことない。ねえ、ウェンディ。ちょっと話がしたい」

「……。わかった」

 

 ウェンディの寝床は、倉庫の片隅を小さく仕切っただけの場所だった。置いてあるものはベッドと小さなタンスだけ。女の子らしい可愛い小物はどこにもない。

 小さな燈火を一つ灯し、ウェンディとスプラはベッドに並んで腰かける。

 先に口を開いたのは、ウェンディだった。

「別に慰めてくれなくてもいいよ。こんなこと、わたしは、慣れてるから」

「そうなの」

「うん。ここに来る前にいた村でも、わたしはよそ者だったから。いろんなこと言われるのは慣れているんだ」

 スプラはちらりと視線を送っただけで、なにも言わない。

「だから、懸命に機甲兵をつくったんだ。わたしにも魔法の力があれば、別の道を選んだかもしれない。けど、わたしには機甲兵をつくる才能しかなかった」

「それだけでも、すごいと思う」

「そうね。そうかもしれない。もしもその才能もなかったら、わたしはここにはいない」

「ええ。そして、わたしと会うこともなかった」

 ウェンディはスプラの顔を見つめる。そして、ささやく。

「どうして、わたしのことを気遣ってくれるの」

「……。どうしてかな。たぶん、あなたを好きになったからだと思う」

「好きって、わたしのどこを好きになれるの。わたしは自分が好きになれないのに」

 今度はスプラがウェンディを見つめる。菫色の瞳が次第に深くなっていく。

「ねえ。わたし、眠くなってきた。ここに泊めてもらってもいい?」

「……。かまわないけど、どうして?」

「わたしだって、ここでは異邦人だから。エルフの仲間はいるけれど、女王様だったり、別の部族の人だったり。馬鹿ですよね。そうなることはわかって、ここに来たのだから。王子さまの噂だって聞いていたから、あんなことをされるって、知ってたわけだし」

 その気持ちは、ウェンディも同じだった。自ら望んで、性行為をしたわけではない。

「身分が高い人には、わたしみたいな者の気持なんか、わからないでしょうね」

「ええ。わたしの気持ちは、わたしにしかわからない。人の気持なんか、わかるはずがない。けど、わたしは、ウェンディを知りたい」

「どうして」

「好きになったから。それじゃ、だめ?」

「わからない」

「一緒に時間を過ごしたら、いつかきっと分かり合える気がする。だから、今夜は、一緒に居たいの」

 スプラの言葉に、ウェンディはうなずいた。

 

 

                     3

 三日後の朝、改修を終えた機甲兵は、倉庫の外に置かれていた。最終チェックをするウェンディの横で、スプラとルチアが興味深げに眺めている。さらに少しはなれば場所に、ゴルドーが腕組みをして立っていた。

「機甲兵を動かすのが、こんなに手間だとは知らなかったな。魔法の力で動くのだと思っていたんだ」

 ルチアが心底感心したように言う。

「魔法は使うのだそうです。ほんの少しね。ほら。わたしたちレンジャーが弓を射るときに射程を伸ばしたり、身を隠したりするために魔法を使うみたいに。でも、動く力の大部分は蒸気機関でつくるんですって」

 スプラの言う通り、機甲兵は体内の蒸気機関を始動させ、背面から水蒸気を噴き出している。その振動が、近くにいるスプラたちにもはっきりと感じられる。それを聞いていると、ワクワクしてくる。

「まだかな。まだかな」

 ルチアが少女のように頬を染めている。スプラはルチアとウェンディを交互に見やり、微笑みを浮かべる。ウェンディも作業に集中しながら、高揚感に満たされ、瞳を輝かせていた。

「よし。いくぞ」

 ウェンディは相棒の肩をガンガンたたくと、前部装甲板の前に据え付けられた小さな座席に乗り込んだ。

「ウェンディ。そんなところに乗って、どうするの。今までは、乗ったりしなかったのに」

 驚いたスプラが声をかけると、座席に座り、シートベルトを締めたウェンディがにっこり笑う。

「これが改良なんだ。今までよりも一体になって、操縦性能も上がる。動きも早くなる」

「でも、そんなところにいたら、敵の攻撃をまともに喰らってしまう。危険よ」

「大丈夫だよ。この子が守ってくれるし、魔法の力もある。わたしには、敵の攻撃は当たらない」

 スプラはなおも額にしわを寄せていたが、ウェンディは明るい顔でレバーを引いた。

「出動」

 大きな蒸気音と共に、水蒸気が噴き上がり、同時に機甲兵の体がググッと持ち上がる。ウェンディの体がゆれながら上がっていき、スプラを見下ろすほどの高さになる。ウェンディはスプラをちらっと見て、ニコッと笑った。それにつられて、スプラも笑顔を返す。

「前進」

 ウェンディの声と、レバー操作で機甲兵は前進歩行を開始した。鋼鉄でできた機体は、重い足音を響かせて一歩一歩前に進む。ウェンディは周囲を見回すと同時に、レバーとそれに付随するボタンを注視している。

「すごいじゃないか。こんなでかい機甲兵が動けるなんて、感動ものだぞ」

「でしょ。でもこれだけじゃないんだから。戦場での活躍を思えば、これくらいは序の口よ」

 感嘆するルチアに、スプラがわがことのように自慢する。二人は機甲兵に遅れまいと、早足でついていく。

 倉庫の前は広い草原になっていて、深い森に囲まれている。草原の真ん中まで前進したウェンディは、レバーを前に倒す。

「慌てるんじゃない。もう少し暖機運転しろ」

 スプラたちの後ろからついてきたゴルドーが注意を促すが、ウェンディは唇に笑みを浮かべ、レバーの角度をさらに深く倒した。

 機甲兵が走り出す。戦場で、騎馬兵が突撃するほどの速さで、機甲兵が突進していく。スプラとルチア、そして、ゴルドーが走るが、とても追いつかない。

「すごい。すごいよ。ウェンディ。かっこいいよ」

「まだよ。まだこれからだからね」

 ウェンディが轟音を立てる蒸気機関に負けないように、声を張り上げる。激しく上下動する期待に乗るウェンディも、すごく揺さぶられているが、それも楽しんでいた。

 森が目の前に迫ってくる。

「停止」

 ウェンディがレバーを強く引いた。機甲兵は一瞬、ぐらりと動きを止めた。が、装甲内部でガキガキッと何かが壊れる音がして、再び走り出す。

「停止。停止せよ」

 ウェンディが声を張り上げ、なんどもレバーを前後に動かすが、機甲兵の突進は止まらない。そのまま、機甲兵もろとも、ウェンディは森に突っ込んでいった。

「ウェンディ」

「止まって。止まるのよ」

 王子軍最強の機甲兵は、森の木々をなぎ倒し、打ち砕き、前進を止めることはない。小枝が吹き飛び、木の葉が舞い散り、静かだった森は騒然とし始めた。

「ウェンディ。降りて。そのままじゃ危険よ」

 エルフのスプラは、どんなに深い森でも自由に動くことができる。スプラは機甲兵の前に走り、どれくらいの危険があるか、見極めようとする。

「だめだよ。止めなきゃ。この子も壊れちゃう」

「この先、小さな川があるから、転倒するかもしれない。機甲兵は無事でも、あなたの体が危ないわ」

「それは大丈夫だって。この子が壊れたら、大変なの」

「でも、いつ止まるの」

「ボイラーの圧が弱まれば止まる」

「それはいつ」

「わからない」

 スプラは険しい表情になり、機甲兵の前に出て、枝に跳びあがる。

「ウェンディ。降りなさい。まずあなたの命を守るのよ」

「来ちゃ、だめー」

 スプラがひらりと枝から飛び降り、操縦席のウェンディの上に舞い降りる。スプラの体がウェンディに届く直前、機甲兵の両腕に装備されたブラスターが火を噴いた。

「スプラ」

 スプラが炎に包まれる。だが、瞬時にスプラの姿が視界から消える。さらに次の瞬間、炎の下に、スプラが姿を現し、地面に落ちていく。まるで、幻術を見ているようだ。

「スプラ。どこー」

 ウェンディは座席から立ち上がり、体をよじらせて地面に落ちたスプラを探すが、地生えの草と羊歯が密集していて何も見えない。

「止まってー」

 ウェンディは涙声で叫ぶ。頭が混乱して、どうしたらいいか、わからない。

 その時、機甲兵の真正面に大男が立ちふさがった。胴体ほどある巨木をわきに抱えたゴルドーが、槍を構えるように腰を落として待ち受ける。

「だめよ。無理だって」

 そうだ。強大な装甲を施した機甲兵には、大木でも傷を負わすことができない。そんなことは、ゴルドーだってわかっているはずなのに。

 だが、ゴルドーは恐れることなく機甲兵の突進を待ち受け、ぶつかる直前に身をひるがえす。伸ばされた巨木の先端は、前部装甲板の脇に突き刺さった。そこは装甲板が最も薄い場所なのだ。

 機甲兵の体が一瞬持ち上がり、そのまま横倒しになる。真っ白い蒸気が噴出し、それと同時にブラスターが火を噴く。

 地面に倒れたゴルドーは、ブラスターの火を避けきれなかった。周り一面が炎に包まれる。

「ゴルドー」

 ウェンディは倒れていく機甲兵から飛び降り、その炎の中に突っ込んでいった。

 

 

                 4

 全身を炎に焼かれたゴルドーは、追いついたルチアのヒールと、スプラの迅速な行動によって一命を取り留めた。

 スプラは王城に走り、ヒーラーと看護師を連れて現場に駆け戻り、ゴルドーの手当てをしながら医務室に運び込んだ。さらに付き合いの広さを生かして人手を集め、森の中で横倒しになっている機甲兵を倉庫に運び込んだ。

 それらを終えたスプラは医務室に戻った。ベッドに寝かされたゴルドーは全身を包帯で巻かれ、うめき声を上げていた。その周りには、王子軍の最高の力を持ったヒーラーが集まり、懸命の治療を続けていた。運が良かった。遠征軍が出ていなかったので、有能なヒーラーがすぐに集まってくれたのだ。即死でない限り、卓越した能力を持つヒーラーに癒せない怪我や病はない。

「大丈夫だ。時間はかかるがゴルドーは全治する。わたしが保証するよ」

 ルチアがスプラに言って聞かせた。ルチアの顔が幾分かやつれているのは、瀕死のゴルドーを懸命に治療していたせいだろう。

「ありがとう。ルチア。でも……」

 スプラの視線は、部屋の片隅で膝を抱えてうずくまるウェンディに向けられている。ルチアはスプラの肩に手を置き、部屋から出ていった。

 スプラはウェンディの前に膝まづき、両腕で抱きしめる。

「ゴルドーは元気になるわ。ヒーラーの皆さんが、一生懸命に治療してくださっているから大丈夫よ。だから、あなたも元気を出して」

 しかし、ウェンディは顔を伏せたまま頭を振るだけだった。

「自分を責めないで。失敗は、誰にでもあることだから。誰も死ななかった。機甲兵さんは、そうね。また、あなたが治してあげればいいでしょ」

「ゴルドーは……」

「まだ、意識がない。でも、彼もあなたを責めない。だって、あなたはあなたの持てる能力のすべてを使って、機甲兵を改装したのだから」

「わたしが失敗した。ゴルドーはもっと試験を重ねてから試運転すべきだと言ったのに。わたしが焦ってしまった」

「それもよくある失敗でしょ」

「でも……」

 ようやく顔を上げたウェンディは、スプラの顔を見て、大きく目を見開いた。

「スプラ。あなたはどうして怪我をしていないの。ブラスターで炎に包まれたのに」

 スプラはにやりと笑う。

「あれは、わたしのスキル。遠距離攻撃から自分を守ることができるのよ。知らなかった」

「知らなかった」

「わたしだって、ちょっとは魔法の能力があるのよ。見直した?」

「うん」

「なら、わたしの言うことも、少しは聞きなさい。自分を責めるのはやめにして、まず心を落ち着けるの。いい。ご飯を食べて、ぐっすり眠る。考えるのはそれからにしましょう」

 スプラは腕に力を込め、ウェンディを立ち上がらせる。そして、ゴルドーの傍までウェンディを連れていくと、声をかけた。

「ゴルドー。あなたのウェンディが弱っているの。だから、ここから連れていくわ。あなたも早く元気になって、ウェンディを安心させてあげてほしい」

 その声が聞こえたのか、気絶しているはずのゴルドーの右手がかすかに持ち上げられた。その手にウェンディが縋り付く。

「ごめんなさい。ごめんなさい。わたしが未熟で、ごめんなさい」

 泣き崩れるウェンディを、静かな顔でスプラは見下ろしていた。

 

 

               5

 二日後、スプラはウェンディとともに、森に入った。

 落ち込んでいるウェンディは、ゴルドーの傍を離れようとせず、言われなくては食事も睡眠もとらない。もちろん、機甲兵の修理など、頭の端にも浮かばない。このままでは、ウェンディのためにならないし、王子軍の為にもならない。ゴルドーの容態は安定していて、時間はかかるものの、元通り元気になることは間違いなかった。ならば、今は、ウェンディの心を支えることを優先すべきだった。

 スプラは強引にウェンディを急き立て、森に出かける。二日ほど森を旅すれば、気分転換になるだろう。

「もうすぐ夏ですから、草がいっぱい生い茂っているでしょ。森を旅するには、良い季節じゃないけど、わたしが道を見つけてあげるから」

 リュックを背負い、エルフの弓矢を持ったスプラが、迷うしぐささえ見せず、森の奥深くに分け入っていく。ウェンディも大きなリュックを背負い、杖を持って後に続く。下生えの草や羊歯が地面を覆っているが、スプラが選んだ道は、とても歩きやすい。ウェンディは嫌がるわけでもなく、喜んでいるわけでもなく、淡々と歩いていく。

 森は小さな起伏を繰り返しながら、徐々に高みに上っていく。王城の背後に連なる山並みは、そのまま隣国との国境になるのだ。だが、スプラが目指すのは、そちらではなく、もっと変化にとんだ森林地帯だった。

 ほとんど会話をすることもなく、同じペースで歩き続けた二人は、昼前に小さな池のほとりにたどり着いた。

 まわりを森に囲まれた池は、初夏の陽光を浴びて、キラキラ光っていた。森の中は蒸し暑かったが、水辺にはそよ風が流れていて、汗ばんだ肌を冷やしてくれる。

森の端の切り株にリュックを置いたスプラは、慣れた手つきで小石を集め、小さな炉をつくる。続けて枯れ枝を集め、火をおこし、持ってきた小鍋に水を汲んで沸かす。

その間、ウェンディはリュックを地べたに下ろしただけで、ぼんやり立ち尽くしていた。疲れていたのだろうし、王城から離れて気が抜けてもいただろう。スプラはそんなウェンディに声を掛けもせず、てきぱきと昼食の支度をする。

 熱いパン粥と、炙った干し肉。そして、途中で採ってきた桑の実だ。

「ウェンディ。ご飯ができたよ」

 けれど、ウェンディは池を眺めているだけで、動こうとしない。スプラはウェンディの傍らに立ち、その腕に手を置く。ウェンディがゆっくりと振り向いた。

「ほんとは、森が怖いの」

 ウェンディの瞳が揺らぐ。スプラはいぶかし気にその瞳を見つめるが、口は開かない。

「魔物に追われて、みんなで逃げた。森の中に逃げ込んだ。夜だった。一緒に逃げたお父さんがいなくなって、どうしたらいいかわからなくて、お母さんと抱き合って震えていた」

 スプラはうなずいた。

「森は怖かった」

「きれいな森もある。わたしたちを抱いてくれるような、優しい森があります。わたしにとって、エルフの森はそんな森でした」

 ウェンディはスプラを見つめ返す。

「わたしはウェンディに、そんな森を感じてもらいたい。体験してもらいたい。だから、森に誘った」

「……うん」

「それなら、ご飯を食べましょう。王城のご馳走とは比べ物にならないけど、この景色の中で食べるとおいしいですよ」

 

 スプラの言う通り、簡素な食事はウェンディのお腹と心を満たしてくれた。こわばっていた表情が和らぎ、まとっていた緊張感が消える。それを確認したスプラは次の行動に移る。

「なに。どうしたの。スプラ。なんで服を脱ぐの」

 王子軍の女性将官は皆薄着だが、スプラも例外ではない。ブーツとソックスを脱ぎ、おへそが見えるような丈の短い上着と、ショートパンツをスルスルと下ろし、下着を脱ぎ捨てると、池に向かって走っていく。水しぶきを上げて池に飛び込み、そのまま泳ぎだす。

「ウェンディもおいで。気持ちいいよ」

 上げた手を振りながら、スプラは水と戯れる。

 池の水は透き通り、それほど冷たくない。熱いパン粥を食べて、火照った体を冷やすのは気持ちがいい。

 ウェンディは服を脱ぎだす。いつも着ている厚手の作業着を脱ぎ、ブーツとジーンズを脱ぎ、下着を脱ぐ。裸になると、解放感と恥じらいが同時に襲い掛かってくる。それを振り払うように、ウェンディも池に飛び込んでいった。

 乳房は小さく、ウエストは細く、お尻は小さい。十代の二人は青い果実のような未成熟な体をしている。けれど、強い陽光に照らされるその肢体は、小鹿のように躍動し、見る者を魅了する。

「キャ」

 ウェンディが小さな悲鳴を上げたのは、潜ってきたスプラに足をさらわれたからだ。バランスを崩したウェンディが、水しぶきを上げて尻餅をつくと、浮き上がってきたスプラが手を叩いて喜ぶ。

「いじわる」

「そうなの。いじわるでしょ」

 銀色に光る髪から滴をしたたらせたスプラが、満面の笑みで応える。そして、池に座り込んだウェンディに手を差し伸べる。その手を握ったウェンディが、立ち上がりかけて急に手を引っ張ると、今度はスプラがつんのめって顔から池に突っ込んだ。でも、スプラはそのままウェンディの体にのしかかり、腕を絡ませて抱き着く。おっぱいにむしゃぶりつき、手をつかんで自由を奪い、膝を股間に押し込んでいく。

「いや、いや。だめよ」

「だって、いじわるしてるんだから」

「さわらないで。揉んじゃ嫌」

「ウェンディのおっぱい、やわらかい。きもちいいよ」

「だめ、だめ」

 二人の美しい少女が戯れるさまは、時のはざまに現出した楽園のようだった。

 

 

 ゆっくり休息をとり、再び森の奥に進み始める二人の間には、今までにない親密感が生まれていた。スプラは絶えずウェンディの体に触りたがったし、ウェンディもそれを嫌がらない。

「森はね」

 跳ねるように歩くスプラは、森の話を始める。

「エルフの森はね。すべてのものに、調和がとれていて、いつも心地いいの。醜いものは何もない。だって、エルフは美しいものだけが好きだから。でも、人間の森には、雑音がある。まばゆい木漏れ日の下には、薄汚い汚物がうごめいているみたいな。でもね。そっちの方が面白いんだって、わたしは気づいたんだ。エルフの森にとどまれば、醜いものは見なくて済む。でも、醜いものがどんなものかを知らなかったら、美しさの価値はわからない」

「スプラは、難しいことを考えているんだ」

「難しくなんかないよ。昔、エルフの里が魔物に襲われたことがある。その時、大部分のエルフは、戦うことを選ばず、ただ殺されることを選んだんだって。それはね。殺されてしまえば、醜いものは見なくて済むから。そうでしょ」

「そうでしょって、言われても。わたしは、嫌だな。苦しくても、生きていたいと思ったから、わたしはここにいる」

「そう。わたしもここにいて、ウェンディと一緒に歩いている。森を遊び歩いて、夜になったら眠る。それだけ」

 スプラの艶やかな唇には、絶えず笑みが浮かんでいたが、それが喜びによるものかは、わからない。

「おいしいものを食べるのも好き。好きの人と一緒に過ごすのも好き」

「好きな人って、王子さまのこと?」

「まさか。わたし。人間の男って、よくわからない」

「そうなの」

「うん。エルフの男の方が単純で、わかりやすい気がする」

「そうなのかしら。わたしは、エルフの男の人は会ったことがないから」

「そうよね。王城にはいないよね。あのね。わたしは思うんだ……」

 その時、スプラが素早く動いた。左手の弓を構えると同時に、矢をつがえ、放つ。太い幹の隙間を矢がすり抜け、三十メートルほど離れた下生えの草を射抜く。スプラが駆け出し、矢が吸い込まれた場所にたどり着くと、太ったウサギを持ち上げた。

「すごいね。こんなに遠いのに、見えてたんだ」

「エルフは目がいいって言ったでしょ。獲物は他にもたくさんいるけど、おいしそうなのを狙ってたんだ。これが夕ご飯ね」

「エルフって、菜食主義だと思ってた」

 再び歩き出した二人は、会話をつづける。

「そういうエルフもいるよ。でもそれは、余裕のある人だけ。冬になると森で採れるものが少なくなるから、あるものを何でも食べないと生きていけない。人間も同じでしょ」

「そうだね」

「わたしは思うんだ。この世界は人間のもので、エルフなんて、いてもいなくても同じだって。エルフは希少価値だからもてはやされるだけで、本当はいなくてもちっとも構わないって、人間は思っているんじゃないかな。王子軍でもそうでしょ。わたしなんて、いなくたってちっとも困らない」

「そんなことはないよ。わたしは、スプラがいなくなったら困る」

「ほんと?ウェンディは、最初会った時は、わたしのこと、気にもしなかったでしょ?興味なかったでしょ?」

「……。そうだった、けど」

「いいよ。それでいいよ。実はね。ウェンディがそんな風だったから、わたしはウェンディと仲良くなりたいと思ったんだ」

「どういうこと?」

「わたしって、いつも周りに人が集まってくるんだよね。前にちょっと話したけど、それが嬉しくないわけじゃない。けど、時々鬱陶しくなるんだ。たぶん、わたしが可愛いから、自分よりも幼い容姿をしているから、皆、わたしをかわいがっているんだろうけど、それがウザったい。だけど、ウェンディは違った。だから、なんだろうね」

 スプラのあけすけな告白は、ウェンディを困惑させる。思わず立ち止まってしまったウェンディを、スプラは振り返って見つめる。

「ねえ。わたしは見た目よりも、悪い子なんだよ」

 

 

                 6

 スプラが熾した焚火で、ウェンディがパン粥を煮ながら、ウサギの肉を焼く。その間にスプラは今日の寝床をつくった。ツリーハウスだ。広葉樹の大木を選び、枝分かれした場所に木を組み合わせて平らな場所をつくる。その上に鹿の皮を広げるだけの寝床だ。葉のついた枝を組んで屋根代わりにする。

「雨が降っても、生い茂る木の葉なんかでほとんど濡れないけど、天井があった方が落ち着くでしょ」

「でも、木の上だなんて、眠れるかな」

「少し揺れるけど、絶対落ちないから安心して。これは結構丈夫だから。それにほんとはもっと高い場所に作るんだけど、ウェンディが怖がるといけないから、低くい場所に作ったからね」

 低いと言っても、高さは三メートルはあるだろう。落ちたら痛いだけでは済まない高さだ。

「信じてるから。スプラ」

 ウェンディはいささか情けなさそうな顔で言う。スプラはうれしそうに笑った。

 

「まだ、森は怖い?」

 食事をしながら、スプラが尋ねる。ウェンディはうなずいた。そして、しばらく黙ってから口を開く。

「お母さんと森をさまよい歩いた。もう、出られないかと思ったけど、手をつないで歩いたの。お母さんはずっと黙り込んでいた。わたしは知らなかったけど、森に逃げ込んですぐ、お父さんは殺されてた。よく覚えてないけど、きっとお父さんは、わたしたちを逃がすために、魔物と戦ったんだ。お母さんは、それを知ってた。それで、もうわたしのことも、忘れてしまったみたい。森から出て、村人に助けられて、一緒に逃げた。どれくらい逃げたんだろう」

 温かい粥を口に運びながら、ウェンディは淡々と語る。スプラは伏せたウェンディの目をじっと見つめていた。

「お母さんは心を病んでしまって、もう一人では生活ができなくなった。わたしは、お母さんの面倒をみながら、村人の手伝いをして食べ物をもらって暮らした。そうしているうちに、お師匠様と会ってくぐつ作りを覚えたんだ」

「よかったね。お師匠様に会えて」

「うん。自分にやれることがあるんだってわかって、ほんとにうれしかった。みんなの役に立てるし、ご飯だってたくさんもらえる。それに、お父さんの敵討ちもできる。くぐつ作りが好きだったし、頑張ったんだよ。わたし。それで、あの子を作り上げた」

「あの機甲兵には、名前はないの」

「もちろん、あるよ。でも、誰にも教えない」

「どうして」

「だって、あの子はわたしだけのものだから」

「そうかな。もしもみんなが名前を知ってたら、みんなに愛されるんじゃないかな」

「……。そんなこと、考えたこともない」

「それなら、考えてみてよ」

「うん」

 そして、二人は食事を終え、片づけを済ませると、ツリーハウスに上った。

 

 

「けっこう揺れるね。寝返り打ったら、落っこちそう」

「大丈夫。端にはそり返しをつくっておいたから、絶対落ちないよ」

「うん。それは信じてる」

「でも、もっとこっちに来て。ほら、こうしていた方が暖かいし、気持ちいいでしょ」

 初夏とはいえ、森の夜更けは気温が下がる。それでも鹿革は風を通さないし、上掛けにした薄い毛布は暖かい。しかも、服を脱ぎ、下着だけになった二人は肌をくっつけている。

「なんか、変な感じ」

 ウェンディがつぶやく。奇妙な浮遊感と、肌と肌が触れ合う感触。

「そう?わたしはすごく、気持ちいいよ」

 そう言いながら、ゴソゴソ動き、体と体がうまくくっつくポジションをつくる。肌がこすれあうごとに、震えるような快感が頭をもたげてくる。

「くすぐったい」

「うん。くすぐったくて、気持ちいい。ウェンディの肌はすべすべしてるね」

「スプラこそ」

 夜の帳が下りた森は、獣たちが活動を始めていた。森ネズミが地面を走り、フクロウが羽ばたく。オオカミの遠吠え。山鳥の鳴き声。夜の森は、けっして静かではなかった。

 向かい合って抱き合う姿勢になったウェンディとスプラは、互いの息を感じながら、体の緊張を解いていく。

「あの、スプラ」

「なに?」

「くっついてると、少し暑くなってきたみたい」

「わたしは、暖かくて、すごく幸せだよ。ウェンディは嫌?」

「そうじゃない。そうじゃないけど、これって……」

「王子との方がいいの?」

「エッ。ううん。わたし、そんなに良くなかったから」

「王子とのセックスのこと?」

「うん」

「教えて。どんなだったか」

「恥ずかしいよ」

「そう。なら、わたしから教えてあげるね。王城に入って、すぐに王子に呼ばれて、ベッドに連れ込まれた。なにがあるのかは、知ってたわよ。だって、みんな知ってることだから。わたしは、エルフとのセックスもしたことがなかったけど、別に嫌じゃなかった。だって、生殖行為でしょ。動物だって、みんなやってることだから。王子は、わたしの体中を嘗め回して、あそこを指でこね回して、それからペニスを入れてきた。指使いは上手だったし、舐められるのも悪くなかった。結構気持ちよかったよ。でも、膣にペニスを入れられるのは、痛かった。王子は強引に入れてきて、わたしが痛いって言っても、すぐに良くなるからって、許してくれなかった。ヒリヒリ痛いのに、出したり入れたりするから、涙が出てきた。王子は鼻息を荒くして、ハアハア息をして、汗まみれになって、わたしの体を揉んだり、吸ったりして、めちゃくちゃ興奮して、それから中だしした。馬鹿みたいな顔でうっとりして、いっぱい精液を出して。気持ち悪かったな」

 話しながら、スプラはウェンディの耳に息を吹きかける。その吐息は熱く、スプラの情熱がこもっていた。ウェンディの背筋に震えが走る。

「ペニスが引き出されて、ほっとしてたら、体を裏向きにされて、お尻の方からまた入れられた。処女膜が破れて血が出てたのよ。まだ痛いに決まってるじゃない。それなのに、戦士だから痛みを感じないとでも思ってるのかしら。それとも、魔法の力で痛みをなくせると思ったのかしら。ばかじゃないの。初めてなんだから、少しは気を使いなさいよ。王子のくせに」

スプラの愛らしい唇が、毒のような言葉を吐き出す。

「逃げられないようにお尻をつかんで、ペニスを奥まで突っ込んで、ぐりぐりとこね回して、そのあげくに『どうだ。感じるか』だって。ほんとに大ばか者よね。男ってみんなどうしてあんなに頭が悪いんだろう。うんざりする」

「うん。そうかも」

 スプラの毒が移ったかのように、ウェンディも口を開く。

「わたしはなにも知らなかった。わたしの機甲兵が役に立つからと王城に招かれて、嬉しかったんだ。機甲兵の整備もできるし、ご飯の心配もしなくて済む。それに少しだけど、今まで支えてくれた村人たちへも恩返しができるから、本当にうれしかった。それで、王城に来て、三日目ぐらいに王子さまの部屋に呼ばれた。最初はケイティ女史とかがいて、機甲兵のこととかを説明したりした。それからお酒が出て、わたしは飲んだことがなかったけど、断れなかったから少し飲んだ。そうしたら、頭がボーッとなって、気が付いたらベッドに寝かされてた」

「裸にされたの」

「うん。恥ずかしかった。部屋に行く前に、大浴場で体を洗っておくようにって、言われたんだ。王子に会うのに、汚い格好だと失礼になるからだと思ってた。でも、そうじゃなかった」

「王子は、ピカピカに磨かれたウェンディの体を、嘗めたり、しゃぶったりして楽しんだんだね」

「楽しむだなんて。いやらしい」

「だって、本当でしょ」

「本当だけど。でも」

「それで気持ちよかった?」

「う、ん。どうだろ。気持ちよかったかも」

「入れられた時は?」

「あのね。あまり痛くなった。でも、別に気持ちがいいわけでもなくて。なんだか、体が引き裂かれるみたいで、苦しいっていうか」

「ああ。そうだよね。それから、それから」

「ほんとは、あまり良く覚えていないんだ。お酒は飲んだことなかったし、心臓がバクバクしてしんどかったし、眠かったし」

「でも、中だしされたんでしょ」

「うん。あとからね。精液が垂れてきて、恥ずかしかったのは覚えてるよ」

「そう」

 話をつづけながら、スプラはウェンディの背中に腕を回し、胸や太ももをこすりつけていく。頬を摺り寄せ、鼻で耳をなで、髪に息を吹きかける。

「あの。スプラ」

「なに?」

「なにするの」

「だって、森の中で二人っきりなんだよ。ここには邪魔するものはだれもいない。王子だっていない。だから、ね。わたしは好きな人と、気持ちのいい一夜を過ごしたいんだ」

「好きって、わたしのこと?」

「なんども言ってるのに、信じてくれないんだ」

「いや、好きって、こんなことなの?」

「そうだよ。わたしは、ウェンディが好きで、一緒に蕩けてしまいたいの。嫌?」

「……」

 スプラの指や唇、そして、ひかえめなおっぱいや太ももが、ウェンディの全身を刺激し続けている。その官能は、もう引き返せないところまで来ていた。

「王子なんて、どうでもいい。男なんか、いらない。だって、わたしは、赤ちゃんは欲しくないから。そう、今はね。それよりも心が通じ合う女の子と一緒にいる方が好き。もちろん、体も通じ合いたい」

 スプラのささやきが耳から流れ込んでくる。同性での性行為など、考えたことがなかったウェンディは、戸惑いながらも、拒否はしない。

「ウェンディは、わたしが好き?」

「好き。だって、わたしの初めての友達だもの」

「そうかな。ほんとはわたし、ウェンディの体を狙って、近づいたんだよ。友達のふりをして」

「嘘」

「嘘。でも、心だけじゃ嫌なんだ。王子にやられたおかげで、時々体が疼くの。自分でしても物足りない。だから、誰かとしたいっていつも思ってる」

「もしかしたら、ルチアさんと……」

「クスクス。どうかな」

「酷い」

「今は、ウェンディしか見えないよ。ほら」

 そう言ったスプラは、ウェンディと見つめあい、そして、キスをする。最初は優しく、それから、舌を差し込んで深いキスを交わす。スプラの喉がゴクンゴクンとなり、頬が紅潮していく。背中に回した手で、ウェンディのブラを外し、ショーツを下ろしていく。体をくねらせて、自分のブラを上にずり上げ、太ももを差し込んで、布越しにヴァギナを押し付ける。

「でも。こんなところで、するなんて」

「ここはエルフの家なのよ。誰も見ていないわ。少なくとも、人間はいない」

「動いたら、落ちたりしない?」

「ウェンディがのけ反ったりしたら落ちるかもね。でも、そうなったら一緒に落ちてあげるから」

「スプラって、ほんとは意地悪な人だったのね」

「最初から言ってるでしょ。でも、人じゃないわよ。エルフは人じゃない。どうせ、いつかは滅んでしまう種族なんだから、今は楽しまなくてはね」

「滅ぶだなんて言わないで。わたしはスプラとずっと一緒にいたい」

「嬉しい。ほんとに嬉しいよ」

 そう言って、スプラはウェンディの体に覆いかぶさった。

 

 

 生まれたままの姿になったスプラは、ウェンディの上に腰を下ろし、両手をたわわなおっぱいの上に乗せたまま、じっとしている。エルフ特有の透明感のある白い肌が絶妙な曲線を描く。ウェーブするブロンドの髪。菫色の瞳は神秘的な色をたたえ、薄闇の中で光る。

「わたしは、この瞬間を夢見てた。ウェンディと一つになりたくて、その機会をうかがっていたの。機甲兵が暴走して、ゴルドーが大けがを負って、ウェンディはひどく落ち込んでしまった。わたしは、ウェンディを慰めるふりをして、この森に誘い込んだ。そして、あなたをこうして落とした。わたしは、とても悪い子だって、前に言ったでしょ。これでわかった?」

「うん」

 ウェンディは、胸を上下動させて大きく呼吸する。スプラが圧し掛かる下腹部が、汗でしっとり濡れている。垂れ落ちる髪がウェンディの肌をくすぐる。軽く触れる手が、乳首をこすり、もどかしいほどの官能をかきたてる。

「わたしは、スプラの獲物なんだ。スプラに射抜かれて、皮をはがれて、焼かれて食べられてしまうウサギと同じ」

「そうよ。今からわたしは、ウェンディを味わって、食べてしまうの。それを思っただけで、もう濡れ濡れになっちゃった。わかるでしょ」

「わかるよ」

 そう言いながら、ウェンディは手を伸ばし、スプラのヴァギナに指を這わせる。薄い陰毛の下は、ぐじゅぐじゅに濡れていて、いつでも挿し込められる状態になっていた。

「入れて。お願い」

 スプラの懇願を待つことなく、ウェンディの指は奥へと進む。指の腹でクリトリスをこすりながら、中指を先頭にして膣に挿入し、中をこね回す。

 スプラが背をのけぞらせ、大きく吐息をついた。豊かな髪がゆれ、甘い香りが夜の森に漂う。スプラはウェンディのおっぱいを揉みしだきながら、頭を下げていく。ウェンディの唇を吸い、耳を甘噛みし、頬から目にキスをして、最後に額に口づける。

「あなたが好き。わたしの恋人」

 ウェンディは空いている左手でスプラの肩を抱き寄せ、キスを返す。右手の指の動きを早くして、ヴァギナへの刺激を強める。スプラは体を移動しながら、ウェンディの全身にキスと愛撫を与え続ける。

「わたしも、わたしもして」

 スプラの右手がウェンディの股間に伸びていき、陰毛をかき分けてヴァギナを探り当てる。自分がされていることと同じことを相手に与え、一緒に官能を高めていく。

 ツリーハウスが大きく揺れ、木の葉が落ちていく。近くの枝に止まっていたフクロウが突然、羽音を立てて飛び去っていった。

 けれど、自分たちだけの世界に没入した二人は、気づきもしない。いつの間にか、二人は向かい合って抱き合い、互いの股間に指を差し込み、深いキスを交わし続ける。おっぱいをこすりつけ、髪をかきむしり、喘ぎ声と吐息とを繰り返しながら、高みに上っていく。指の動きが早まると、愛液がほとばしり、太ももを濡らしていく。悲鳴のようなよがり声とともに、汗が吹き出し、飛び散り、髪が振り乱され、全身を紅潮させ、ついに、一度目の絶頂を迎える。二人は強く抱き合い、力の限り一つになろうとする。

 

 

 ウェンディが上になり、顔をスプラの太ももの間に差しいれる。当然のごとく、膝立ちのウェンディの股間には、スプラの顔があった。互いに舌を伸ばし、お尻から回した指を膣に差し込み、敏感な場所をなめたり、いじったりしている。

「やっぱり、女の子の方がいい。男なんていらないよ」

「スプラは、そうなんだ。意外だったな」

「ウェンディはペニスが好きなの。あれを入れられる方がいいの?」

「わかんない。でも、アンナさんとかを見てると、いいのかもしれないって思う」

「わたしはいらない。ウェンディがいてくれたらそれでいい」

「わたしもそうだよ」

「よかった。それじゃもっとするね」

「うん」

 性器だけを刺激するのではなく、二人はお互いの体のすべてを愛そうとした。しきりに体位を変え、攻守を変え、指で触れられる場所すべて、舌でなめられる場所すべてを探索する。すると、スプラがわきの下が弱く、ウェンディは背中が弱点であることがわかった。

 激しいスポーツをするように、汗みどろになり、組み合い、絡み合い、撫で合い、甘噛みし、キスをする。粘膜は特に入念に刺激を与える。膣だけでなく、口や、お尻の穴や、耳の穴まで。若い体は、すべてが美しく、新鮮で、瑞々しい。艶やかな肌は弾力があり、芳しい。

「これがいい」

 二人は足を交差させ、ヴァギナをこすりつけ合う。互いの足首を引っ張り、隙間なくヴァギナをこすり合わせると、クチャクチャと水音がする。クリトリスや小陰唇や、会陰部がこすれ合うたびに、汗と愛液が溢れ出す。今はもう、誰はばかることなくよがり声を上げつづけ、喘ぎ、泣き、笑う。

「もっと、もっとしてよ」

 その叫びがどちらのものであるかは、意味をなさず、ただひたすら官能の高みを目指して突き進む。

「いや。いやー」

 ツリーハウスは音を立てて上下動し、今にも落ちそうだったが、そんなことはどうでもいいのだった。

「ひー。ひーー」

 最後は泣き声がばかりが聞こえてきたが、それは喜びの声に他ならなかった。

 ウェンディとスプラは、同時に絶頂を迎え、そして、力尽きた。

 

 

「ねえ、スプラ」

「なあに」

 裸のまま抱き合い、毛布にくるまっている二人は、快感の余韻に浸る。

「もしかしたら、あなた。あの時、お手洗いを貸してくださいって来たのは……」

 ウェンディの問いに、スプラは微笑みを浮かべた。

「聞かなくてもわかってるでしょ。わたしは悪い子なんだから」

 そして、スプラは、ウェンディにキスをした。

 

 

                        終わり

 




 いかがでしょうか。
 女の子同士の絡み合いは、なかなか楽しいのですが、物足りない方もおられるかもしれません。作者は、小説を映像でとらえているので、女の子だけが出てくる方が好きかもしれません。今回は、当初考えていなかった闇の部分も出てきて、なかなか気に入っています。
 もしかしたら、女性向かもしれません。と言うと、男同士の行為を描いた作品の方が受けるかもしれませんが、それを書く予定は全くないので、ご安心ください。

 書くスピードが落ちてきましたが、まだ描きたいものがあるので、続く予定です。これからも、よろしくお願いします。
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