第1章で絆を深めた一人と一匹に危機が!?
ギルドの思惑…師弟の溝…越えられぬ種族という隔たり…温もりを求める白疾風ナルガクルガと、本心とハンター業の宿命に揺れるキルト。そしてそのキルトと白疾風の過去…。
ちなみに、3章の副題を裏切ることはないのでご安心ください。
ナルガクルガ───それは音もなく
暗闇に紛れ
気づかれぬまま狩る
獲物が見るのは
二筋の紅き残像のみ
確かに私は音をたてずに獲物を狩る。
確かに私は二筋の紅き残像を残す。
でも私は…。果たして私は暗闇紛れるのだろうか。私の身体は漆黒ではない。紺色に白模様。故に同族にけなされ、避けられた。
全てのナルガクルガが黒い訳じゃない。緑色をした亜種や不思議な白みを帯びた稀少種、純白に淡い紅の模様の、伝説の極種…。
皆体色には意味がある。暗夜に紛れるため。密林に紛れるため。月光に紛れるため。一説には、極種はとある偉大な古龍の力を持っていると。そしてその龍の色と同じだと。
では私は?私の身体の色には何の意味がある?母も、母いわく父も普通のナルガクルガだった。母は私を愛してくれた。父は見たことない。まぁ、種族の習性として雌雄が協力して子育てするのは火竜ぐらいだろう。母以外の同族で私と親しくしてくれる者はいなかった。
一人立ちし、繁殖期になり、自分も発情し、そして番を子供を夢見た。だが、雄は私に振り向かなかった。『こんな変なやつに自分の子供を産ませられない。』と。
何度か交尾に不馴れな若い雄が匂いに誘われ理性を失い襲いかかって来ることもあったが、苦痛しかなかった。無理やりで乱暴だったからというのもある。でも一番の理由は同族に対して恐怖を抱いていたから。だから襲われても逃げたり追い払うことのほうが多かった。
それでも次の繁殖期のとき。孤独に耐え兼ね、恐怖を押しきって若い雄を匂いで誘った。雌の発情出血の匂いは、雄の欲をを一気に掻き立てる。経験の浅い雄の理性を消し飛ばすぐらいに。だからまだあどけなさが残る好きでもない雄の目の前で恥を捨てて交尾の体勢をとり、襲われるのを待った。思った通りその雄は欲望という本能のまま私に覆い被さり、自身の固くなった雄槍で突こうとした。しかし…。どういう訳かそれは中に入ってこない。どうしたのかと振り向くと私の身体を見つめている。目が合うと、まるでイビルジョーをみたかのごとく慌てて逃げ去った。
泣いた。泣いた。吠えた。逃げた。
他の肉食竜や獣に食って貰おうと思ったぐらいだった。
それでもいくらか月日が経った頃、友達が出来て自分の体のことを忘れられた。異種族との友達。リオレイアとリオレウスだ。泣きながら突っ伏しているところをリオレイアが『大丈夫?』と声をかけてくれたのが始まりで、正直食われるかと思ってたので驚いた。彼女の番は亜種だったから私の気持ちを理解してくれる。彼らは優しくすぐに友達になり、彼女が卵を産んだときはそこに立ち会わせてくれるほど仲が良くなった。私も彼らの子供の誕生を心から喜んだが、今思えば私も友達というより彼らの子供のような存在だったかもしれない。
ある日、リオレウスの咆哮が聞こえた。最初は特に気にしなかったが、2度目に聞こえた咆哮で異変に気づく。それがただの威嚇ではなかったのだ。心配になって、それを頼りに探すと…いた。何かと戦っている。あれは…人間だ。数は2。近づくにつれ強くなる血の匂い。不意にリオレウスが悲鳴を上げる。眼と耳はかなり良いので聞こえているし見えてもいるがまだ距離がある。ふと目が合った。私が向かっていることに気づくと、血だらけの彼が断末魔とも言える、叫び声に近い声で
『来るな!もうだめだ!あいつには気にするなと言ってくれ!たのむ!妻と子供たちを…』
そこで途切れた。ショックで墜落するところだった。あの人間を殺したい。殺してやる。だが思いとどまる。彼が必死に伝えたことを無駄にするわけにはいかない。ヘアピンカーブをきって彼らの巣へ向かった。
「くそっ。通常種のレイアごときが!」
「狙いはずすんじゃねえぞ!流れ弾が卵にあたったら、台無しだ!あんな立派な卵はそうそうない!」
こちらもすでに血だらけのリオレイアと、自身の身長ほどある刃を持った2人の人間。頭に一気に血が上る。
(せめて彼女とその子供たちだけでもッ)
音もなく一気に滑降し、人間たちを弾き飛ばす。
しかし腕には固い感触が残り、人間たちはすぐさま起き上がる。何かしゃべったあと、私を見てニヤリと笑った。
「ぐっ!な…なんだ!?なんだあのナルガクルガは!?」
「チッ、邪魔しやがって。だがこいつは見たことがない。…今日はついてるぜ」
「気を付けろ。行動もわからない。念のため回復しておこう」
人間たちはなにやら緑色の液体を飲んだ。すると、唯一露出している一人のハンターの顔の擦り傷や切り傷がみるみる治っていく。もう一人の方は火竜の鱗などで作ったと思われる物で顔もすっぽり被っているのでわからないが、同じような反応が起きているのだろう。
「ハンターランク50とレウスX装備を舐めるなよっ!」
そしてこちらに向かってきた。
『あなたは逃げてっ!狙いは私たちよ!』
というレイアの制止を無視し、全力で尻尾を振った。青白い光を放つ巨大な真空刃が高速で飛んで行き、人間たちの身体を通過する。未だにこれほどの真空刃を出したことはない。相手は上下真っ二つになった。
しばらくして先程リオレウスを殺したと思われる人間がやって来た。彼の血の匂いを嗅いでレイアが激昂するが静止する。
『今のあなたでは死ぬだけよ!』
『うるさい!あいつらは…あいつらは…』
『あなたが死んだら子供はどうするの!?大丈夫。私は強いわ。』
まず長い針のようなものを持った人間に狙いを定める。突進してきたので尾棘を飛ばし、転がって避けたところにブレードを叩きつけ切り裂いた。彼らの纏っているものも中々の硬さだが私の刃翼の方が鋭い。断裂はしなかったが死は確実だろう。
もう一人の方は何やら筒のようなものを向けた。破裂音とともに筒の先が光ったので反射的に避ける。なにかが翼をかすめた。どうやら雷を帯びているらしい。再び破裂音が響くとブレードに何か硬いものが当たって火花が散る。それを無視して一気に距離を詰めると尻尾を振った。尻尾自体は避けるも同時に飛ばした尾棘に当たり体勢を崩したところで今度は宙返りして尻尾を叩きつけた。メシャッという音とともに血が飛び散りその人間は原型を失う。その後は来なかった。
また泣いた。だが他竜が死んで泣くのは初めてだ。レイアにレウスの言葉を伝えると泣き崩れるが今はそんな暇はない。もう一人の知り合いである、竜と会話ができるメラルーに頼み込み、私達の鱗と人間の持ち物を引き替えに彼女の卵を一族総出で自分の巣に運んでもらった。1度人間が来たということは、巣の場所を知られてしまった可能性があるからだ。
しばらくして無事に全ての卵がかえり、3年後その子供たちが巣立ちした。私は救えなかったリオレウスの代わりにレイアたちの獲物もとり、共に子供たちを守った。今思えば随分と自然の常識を覆したものだ。
だがいつまで経っても彼女のそばにいるわけにはいかない。次の繁殖期がくる。レイアは私に気を使って新たな番を求めようとしなかったが、レウスの最後の言葉である『気にするな』には、自分を忘れ、新たな番を求めて幸せになってほしい、という意味もあったはずだ。自分がその足枷になってはいけない。それにいつまでもその優しさに甘えてはいけない。もう心の整理はとっくについた。温もりも充分貰った。いい加減一人立ちしなければ。もちろんこの巣は彼女に譲る。
それを伝えると、
『今まで本当にありがとう。あなたが幸せになれることを祈っているわ。でもまたいつか帰ってきてね』と
また泣いた。本当に私は泣いてばかりだ。でもこれで最後にしよう。
そうして旅立ち、水没林に新たな巣を作った。レイアと別れて1年近く経って孤独に寂しさを感じ始めたとき、『彼』と出会うことになる。
彼は不思議な人間だった。こちらに気づいても攻撃せず、じっとこちらを見ていた。その見に纏っているものの匂いを嗅いで同族のものだと分かる。普段なら怒るところだが、なぜかそんな気になれなかった。匂いに禍々しさがないのだ。むしろその匂いが『この人間を攻撃しないで』といってるかのようだった。
その人間と会うたびに仲は深まっていき、一緒に寝たり、撫でてもらったり。今までにない安らぎに彼に会うのが楽しみになる。
そしてあるとき気がついた。気がついてしまった。自分は彼に惚れていることを。言葉も通じないのに、そもそも人間なのに、何故そうなったか自分でもわからない。孤独だったからか?温もりがほしいからか?撫でてくれたからか?肉をくれたからか?…それはないか。仲の良い番が相手に肉を口移しで与えることもあるとはいえ、相手はそれを知らんだろうし。口移しじゃないし。
ただ、会いたいのだ。一緒にいたい。一緒に生きていきたい。
でも彼は人間だ。異種でも竜同士ならまだなんとかなる。いや、まぁ人間とでも子供がつくれない訳じゃないが、人間と竜。そこには越えられない隔たりがある。
彼とこれからもこの関係を続けたい。でも彼は人間の雌と番になるべきだ。
それを示すために私は彼の額に自分の額を擦り付けた。頬に額を擦り付ければ求愛になるが、額同士は信頼と親愛の印だ。ただちょっと物足りなかったので彼の顔を一舐めしてから飛び去った。
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ところかわってタンジアの港ギルド会議室
キルトの師であり、ギルドナイトのハンター監視及び暗殺部隊の隊長、ギールは、ギルドの幹部とギルドマスターにある報告をしていた。
幹部A(以後A、他も同様)
「それで、いったい何のようだね。」
ギール
「白疾風ナルガクルガが水没林に現れました。」
幹部B(生態研究員)
「それは本当ですか!?是非とも生け捕りにしていただき、行動を記録したあと解体して他の種との比較をしたいものです。」
ギルドマスター
「確かか?」
ギール
「確かです。」
C
「しかしよく気づかれなかったな。ナルガクルガの類いは皆感知能力に優れている。」
ギール
「弟子のおかげです。」
B
「重要機密資料によれば、白疾風はかなり凶悪なモンスターです。優秀なハンターに頼まないと、捕獲に失敗して殺すどころかハンターが殺されるかもしれません。以前白と紺のナルガクルガを見たというハンターの仲間が横に両断されていたとか。」
ギルドマスター
「それならそなたの弟子の月光(キルトの異名)で良かろう。彼は殺しを好んでないが腕はたつ。」
A
「賛成。彼の装備はナルガクルガ稀少種のもの。つまりかつてそいつを倒したということ。迅竜相手も慣れているだろう」
B
「ハンターの実力はよく存じませんが…生きたまま研究できるなら良いです。」
ギール
「それには賛成しかねます。」
C
「どういうことだギール。自分の弟子では敵わぬということか?」
ギール
「問題があるのです。近頃よく水没林へ向かうので、少し前から彼を監視していたのですが、白疾風を見つけたのはそのときです。」
ギルドマスター
「はて、そういえば以前自分になついた迅竜を飼う許可をくれと申請があったが…まさかその迅竜が?」
ギール
「申請した話は存じませんが、恐らくそうです。何度か尾行しましたが、なつくどころではありません。まるで恋人同士のようです。この間は額同士を擦り付けあってました。」
B
「そ、それって竜の親子や番によく見られる行為ですが…。」
C
「つまりその月光は白疾風迅竜に惚れているから殺すことができないと?なら余計好都合ではないか。むしろその仲を利用すれば、苦労せずに連れてこられるではないか。」
ギルドマスター
「いや、あの月光、時として捕獲でも嫌がる…。つまりそなたが言いたいのは、彼がその恋仲にも近い白疾風を我々に研究資料として差し出すわけがない。ということじゃろう?」
ギール
「その通りです。なので彼のいるモガ村には知らせずに、別のハンターを指名するのが良いかと」
A
「成る程、そうすれば彼は白疾風が何処かへ行ってしまったと思い諦める。そうすれば彼の反感を買わずにすむし、もし彼にやらせて彼が白疾風を逃がしたことによる罰を与えずにすむ、というわけか。」
ギルドマスター
「では人選はこちらで行う。ご苦労じゃった」
ギール
(悪く思うなよ、キルト。お前のため故、知らぬが仏だ。)
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数日後、モガ村にて。
モガ村村長「キルト、少し良いか?話がある。」
隔たり『第2章~決別~後半』へ続く
いったいモガ村の村長は何を伝えたのか…次章でキルトの過去の体験が明かされます。
ところで、皆さん「金雷公は白疾風と幸せになるそうです」と言う小説をご存じですか?私その小説が大好きで、自分も書こうと思ったきっかけがそれだったりします。ぜひそちらも読まれてみては。