何事にも代償はあるんです…。
「わざわざ満月の日に来たのはこれが理由か。」
「ご…ごめ…んな……さい………ガフッ!」
「どうしちゃったのよ…ルークゥ…」
血を吐きもがき苦しむルークにシルバはただ寄り添うことしかできなかった。だがそれも彼の父によって禁じられる。
グラド「我はせがれと話をする。下がれシルバ。」
シルバ「…」
グラド「では聞こう。最初に、なぜその力を使った。あれほど使うなと禁じたはずだが?」
ルーク「シルバが……シルバが鋼龍に襲われて……それ…ゲフッ!……それで…あの龍も500歳ぐらいで───」
グラド「それで怪我をしたからと言うことか?確かに500歳ともなればかなりの力を持っているだろうが、この天彗龍もなかなか丈夫そうにみえるがそこまで酷かったのか?」
ルーク「ブレスを……2度…も…食らっ…ガフッ!…て…」
ここで少しグラドとセラの顔に驚きの表情が浮かぶ。
グラド「ほう!あれを2度食らったのか。生き返らせるようなことをしていなかったということは耐えたのか。よく耐えたな。さすが流星と呼ばれるだけある。それで?」
ルーク「で……も…でも…」
ルークの目に涙が浮かぶ。だがこれは悲しみの涙ではない。それもある程度はあるかもしれないが、それは苦痛故の涙だった。
ルーク「僕が助けに来たときは……う…鱗と甲殻…が殆ど剥がれてて……片目もつぶれて…皮を…剥いだみたいな感じで…あち…こちの……骨が折れて……あちこち肉がもってかれて……骨が見えてるところ……も…あって……。」
シルバ「そんな…そんな…」
グラド「…セラ」
セラ「…いいえ、嘘はついてませんわ。」
これにはグラドも黙った。つまり愛する者が狩られ食われかけた獲物のような状態になっていたということだ。さすがに同情せざるおえない。
グラド「力を使った理由はわかった。次の質問をする。なぜこうなることがわかっているはずなのに、力を使った後休眠しなかった?」
ルーク「鋼龍を……殺した訳じゃ…ない……でも巣に…運ぶ時間も…ないから……」
グラド「その場でやるしかなく、かつ眠ってしまえば追撃されるということか?」
ルーク「は………い…」
グラド「どれぐらい前だ?」
ルーク「2ヵ月…たたない……ぐらい…」
セラ「2ヶ月……!」
シルバ「どういうこと!?ルークになにが起きたの!?彼はどうなるの!?」
グラド「こいつは自然の理に反する力を不十分ではあるが使いこなすことができる。だが、それは我でさえ使おうとするだけで全身を捻じ切られるような苦痛に襲われる。それだけ負荷がかかると言うことだ。」
苦しみ呻くルークを意に返さないといった様子で説明を続ける。
セラ「普通、私達祖龍に限らず、何かしらの能力を持つ竜のその力は命に比例する。命が少なくなれば力も弱まり、力を使いすぎれば命が弱る。力を使いすぎたことによる命の消耗は、時間をかければ命も力も回復するのですが…」
グラド「こやつは削れた命を回復させるため休眠に堕ちようとする肉体を、自らの力で誤魔化し続けたのだろう。結果、回復することなく肉体も命も傷つき続け、それを誤魔化すために更なる力を使い、さらに傷つくという循環に陥った。その末路がこれだ。もはや自己回復もできなくなってしまったようだ。」
セラ「我らの力は満月の日に最も強くなる。これは普通良い意味なのですが、傷ついた彼にとっては逆効果です。」
シルバ「回復できないって…じゃあ…彼は…死ぬってことですか?」
グラド「うむ。このままでは明日ぐらいが限界だろう。そしてこのまま死の寸前まで苦しみ続けるだろうな。こっちへ来い、ルーク。いつまでも寝てるでない。」
シルバ「そんなぁ…やっとお互い幸せになれたと思ったのに…あなた達は…なんとも思わないの?…自分の息子が苦しんでて…」
レイがハッとしてシルバをみる。グラドとセラの表情に一瞬衝撃が走る。
ルーク「待って、シルバ。」
と、ルークがよろよろと起き上がる。だが二足歩行にはなれず、四足歩行で立つ。そしてシルバを遮るように彼女の前を通って、
ルーク「シル…バに悪気は……ないから…。」
と言うと、グラドはただこう言った。
「もうよい。話は後だ。こっちに来い。」
ルーク「はい……」
ルークが両親の方へ歩こうとしたとき、雲が切れて月明かりが辺りを照らした。レイが息をのみ、グラドとセラの表情が明らかに焦りに変わった──────
ルーク「グ、グギアァァァァ!ガハッゴハァァ…」
悲鳴を上げて大量の血を吐き、呻きながら数歩よろけると倒れた。今度はシルバも間に合わないが、ルークが地面に叩きつけられることはない。母親のセラがしっかりとルークを支え、抱き締めた。
セラ「もういいわ。さぁおいで、今楽にしてあげますからね。…いいでしょう?」
グラド「あぁ、本人を問い詰めるのはまた後にしよう。レイ、シルバを塒へ案内しろ…いや、我も行こう。シルバにもう少し説明をせねばなるまい。」
シルバ「彼はどうなるの?」
グラド「セラが助ける。心配はないだろう。」
セラは半ば引きずるようにしてルークを塔の中心部分へ連れて行った。
「アガッアギャアァァァアアァァ!」
更なる悲鳴に振り向けば、充血した目を見開き母親に抱きつくようにして泣き叫ぶルークの姿があった。セラは月光から庇うように翼を広げ、なだめるように舐める。
シルバ「本当に大丈夫なの?」
グラド「あぁ。このタイミングで雲が切れてしまうのは想定外だったがな。お陰で随分苦しんでいる。どれ程の苦しみかは我には想像できんがな。」
レイ「ここです。」
大きな平たい岩の影に、今までいた彼の巣とそっくりな巣があった。手入れもされていて材料の枯れた草木はまだ新しい。あそこより少し広い気もする。
再度ルークの方を振り向くと、丁度中心部に着いたところだった。そこに彼をうつ伏せに寝かせ、セラが咆哮…というより美しい声を響かせた。優しいような、悲しいような声。すると光の波紋がかれらに向かって規則的に集まった。セラはルークの体に抱きつくように頬を着け、何か話しているようにも見える。
グラド「大地の力を集めているのだ。それとともに彼女の命を注いでいる。」
シルバ「そんなことが…!」
グラド「我でもできるが、より愛情の強い母親がやった方がよかろう。我らの力は感情にも呼応するからな。」
シルバ「でもそうしたらセラさんの命は?」
グラド「自己回復が出来るようになる程度までしか注がんから終わったあとしばらく休めば問題ない。ルークはしばらくではすまぬだろうがな。以前この力を使ったときは半年目覚めなかった。実はあやつが力を使ったのを感じで、たまたまここに寄っていた嵐龍に様子を見に行ってもらっていて、その時は休眠している様子は無かったらしいから、力を十分制御できるようになったかと思ったのだが…まだまだだったようだな。」
シルバ「半年!?それに前って?」
レイ「…」
グラド「あやつの力は肉体がついていってないとはいえ我々をはるかに越している。…我々祖龍には命を司る力を持っているが、その真の力を使えるものは滅多にいない。そしてあやつはその真の力を使うことができる。」
シルバ「命を…司る?」
グラド「そうだ。我々祖龍の役目は命の平衡を保つこと。乱れれば、平衡が戻るまですべての生命を滅ぼす。だが真の力を解放したあやつは滅ぼすどころか死者を甦らすことさえ可能だ。」
シルバ「…!」
グラド「最初はただの言い伝えだと我も思っていた。そもそも真の力を解放する祖龍でさえ少ないのに、自然の理を覆すようなことができるはずがない、とな。」
一呼吸おいて続ける
グラド「息子に真の力を解放する力があると知ってもそう思っていた。だがある日、あれは…あやつがまだ15歳の仔龍だった頃の話だ。今も忘れん。」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
15歳といっても祖龍は生まれてから一定期間の成長がとても遅いゆえにまだ幼龍ではなくなったばかりぐらいのころだ。
我々の下僕のなかで特に信頼ある者や親しい者には子供の面倒も見させていてな、ルークにも1匹の下僕をつけていた。その下僕もまだ若く、仔龍の相手にはうってつけだと思ってな。真面目で優しく、我らも信用している下僕だ。息子とその下僕はとても仲が良く、いつも楽しそうにじゃれあっていた。他の下僕や竜人はその様子を見て、その下僕を将来の番にするのではと噂したぐらいだ。
ルークが成長し、ある程度力を使えるようになってもあやつの無邪気さは相変わらずで、暇があれば遊びで取っ組み合っていたぞ。
だがある日、その下僕が狩りに行ったっきり帰ってこなくなった。数日後、捜しに出ていた他の下僕に支えられながら血まみれになって帰ってきた。一目でもう助からないことがわかるほどの怪我と出血で、意識もほぼ無さそうに見える。そして戻ってきて我らを一目見ると呼吸をしなくなり、その目から光がなくなった。後で知ったことだが大勢の人間にやられたそうだ。その時だった。
『嫌だ!死んじゃ嫌だ!』
下僕に駆け寄って泣いていたルークがそう叫んだと思うと紅の雷が彼らを包み、それは瞬く間に強くなる。さらに、丁度今セラがルークにやっているような光の波紋が大地を伝い、同時に空が分厚い雲に覆われると紅の稲妻が大地に呼応するかのように波紋を描いて彼らの真上に集まった。
それを見て我は決して起きてはならぬことが起きようとしていると直感でわかった。そして一言、
『引き離せ!』
すぐさま下僕たちが駆け寄ろうとするも雷に阻まれ近づけない。
不意にルークが今まで聞いたことのないような叫び声を上げると空から閃光が彼らに向かって落ち、まばゆい光の柱となった。
(これは…この力は…!)
間違いない。大地のエネルギーが、全ての生き物の命の内の僅かが集結している。我でさえ未だに手を出すことさえもできない力。それをまだ仔龍の息子が使っている。
『ウギァァァァァ!!』
ゾッとするような悲鳴。やはりただでは使えないようだ。何度も吐き、吐くものが無くなれば血を吐いた。
『もうやめて!あなたが死んでしまう!』
セラが涙声で訴えるも届かない。なんとか引き離そうと閃光に突っ込んで行くが膨大な力に弾かれてしまった。他の下僕達も必死に呼び掛けながらブレスや気弾を放ったが、光の柱に変化はなかった。我々が一斉に自身の持つ一番強い技を使えば止められるかもしれない。しかし大地のエネルギーと一体化している以上、無理に引き離せばルークも無事では済むまい。
さらに強い光が炸裂し、辺りにいたものは皆目を眩ました。
視界が戻ったときにはもう光の柱は無く、下僕とその上に突っ伏しゼェゼェと苦しそうに呼吸するルークの姿があった。みな唖然とした。下僕は元通りだった。傷は跡形もなく消え、折れた角は痕跡なく生え、毛並みはむしろ良くみえ、そして何より息子とは対照的に安定した呼吸をしている。
下僕『あ………れ?』
ルークを助けなくてはいけない。そうと分かっているものの、目の前で起きたあり得ない出来事に我らを含め皆硬直していた。
下僕『ここは……?ッッ!ルーク様!?一体…!?』
その声に我に帰る。
下僕『グ、グラド様!これは何が起きたのですか!?』
それは我にも分からない。だが恐らく────
『…全ての命を少しずつ集めてお前に注いだのだろう。言い伝えは知っているだろう?』
下僕『そんな…ルーク様は!?どうなるのですか!?』
『それは我にも分からぬ。ただ弱っておる。危険なほどにな。』
『あなたのせいではありません。息子が勝手にやったことです。』
泣いて詫びる下僕に対し、セラが生気の抜けた目で言った。げっそりして見える。
『私が力を注いでみます。それで幾分かはましになるはずです。』
その後セラが力を注ぐもルークは半年間眠り続けた。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
シルバ「その下僕はどうなったの?」
グラド「ずっとせがれを看ていた。我々も辛い半年だったがその下僕にとってはさらに辛い半年だっただろう。自分を生き返らすため故のことだからな。」
レイ「あれは…生きた心地がしませんでしたね。」
シルバ「え?じゃあその下僕って…。」
レイ「私です。私は本来この世にいない存在なのです。それをルーク様が自らを顧みずに助けて下さった。どんなに返しても返せない恩があるのです。」
グラド「だがその力は自然の理に反する。それに我々の役目が世界の平衡を保つことであることもあり、その力は決して使ってはならぬ。故に半ば脅すように固く禁じていたのだ。」
沈黙が流れる。シルバの目には涙が浮かんでいた。そういえば兆候はあった。普通より長く寝ていることや、あれ以来雷を使わなかったこと。火竜の子供を助けたときも、油断していたのではなく本当は苦痛を必死に耐えていたのかもしれない。それを笑ってしまった自分のなんと愚かなことか。それにしても彼の両親は、特に父親は彼のことが心配ではないのだろうか。先程も平然と質問をしていたし。それを読み取ったようにグラドが今度はシルバに質問をする。
グラド「シルバよ。お前は苗床や下僕ではなく、番としていずれ王となるあやつに寄り添う覚悟はあるのか?」
シルバ「もちろんです。」
グラド「あやつを愛しているか?」
シルバ「当然です。」
グラド「そうだろうな。でなければ我らに先程のような物言いはしないだろう。我らにあんなことを言ったのはお前が初めてだ。」
シルバ「そ、それは…」
グラ「我もセラも同じだ、シルバ。あやつは我の大切な後継ぎである前に我とセラの大切な宝だ。真の力を夢見て我も何度かそれに手を出したが、100歳のときも、200歳のときも、400歳のときも使おうとするだけで死んだ方が楽なのではというほどの痛みを感じた。それをまだかなり若いあやつが使うのだ、その苦痛は計り知れない。」
「…」
グラド「我は先の言葉を訂正しよう。理に反するというのは所詮建前よ。我らが愛する子供に想像を絶する苦痛を味わって欲しくない、それによって泣き叫ぶのを見たくないのだ。」
セラ「グラド?手伝ってくれないかしら?私だけでは引きずらないと運べないの。」
いつの間にか光の波紋は止んでいた。
シルバとレイが同時に
「私が運びます!」
と言って顔を見合わせる。
レイ「お任せします。」
そう言われ母親のところまで行き、彼を背中に乗せてもらうと巣に運んだ。深い眠りに就いた彼は重かったが足腰の力にはある程度自信がある。安定したルークの呼吸と鼓動を感じて少しホッとした。
セラ「力持ちですね。美しい上にこれなら竜人達も文句を言わないでしょうね。」
運びながらセラが感心したようにいった。美しいと言われて礼を言いつつ笑みをこぼす。ねぐらに戻るとグラドにも同じことを言われた。
シルバ「…認めてくれるんですか?私と彼が番になることを。」
セラ「もちろんよ。さっきグラドも言っていたけど私は他者の感情や思っていることを読み取ることもできるの。だからあなた達がお互いのことを強く想っていることも分かってる。引き離すことなんて出来ないわ。」
グラド「引き離そうとなんかすればこやつが我々を消し飛ばしてしまうかもしれんな。母親に似て情愛の強い子だからやりかねんぞ。」
そう言って2匹はふぐふぐと笑う。
セラ「さて、私は疲れてしまったので休むわ。あなたもくつろいでいってね。レイも楽にしてね、あなたも大変なんだから。」
シルバ、レイ「はい。」
そう言って2匹は去っていった。彼を見る。穏やかな顔だ。いつまで眠り続けるか分からないと言うことは目覚めるまで世話をしなければならない。レイに頼めば快く引き受けてくれそうだが、任せることはしない。私は彼に甘えすぎた。出来ることはしなければならない。
シルバはそう決意した。
続く
今執筆中なのはこのシリーズだけですが、実は頭の中ではあと3作ぐらい考えてます。いつ具現化できるかなぁ。