「……ちょっと、貴方。起きなさい」
揺さぶられる感覚に、俺はゆっくりと目を開け――そして、すぐに芝居を打った。
「貴様……ヴァン先生を襲った暗殺者だな! 俺をどうするつもりだ! これでもファブレ公爵の嫡男、貴様ごとき賊に屈する俺ではない!」
ティア――確かに昨夜、そう名乗った金髪の女――は目を丸くし、慌てた様子で両手を振る。
「ちょ、ちょっと待って。私は……貴方に危害を加えるつもりはないわ! 本当に……その、昨夜のことも……悪かったと思っているし……」
口元を曖昧に濁しながら、頭を下げる。
ふむ。なかなか殊勝じゃないか。
(ちょろいな)
こんなに素直に謝罪されるとは思わなかった。
それだけ罪悪感があるということだ。……いや、俺に対するというより自分の身体の変化に戸惑っているのかもしれない。
――俺は知っている。
昨夜、彼女の内部がどう反応していたか。
何も知らぬ無垢な器に高貴なる種を注ぎ込むときのあの震えと、熱と、甘さを。
彼女は俺の隣を歩くたびに、何度も下腹部に手を当て足取りを気にしていた。
ああ、そうだ。
「どうした?」
何気ないふりをして振り返ると、彼女はびくりと肩を揺らし、「な、何でもないわ」と視線を逸らした。
顔は朱に染まり言葉は上ずっている。
(ふふふ……効いてるな)
俺は心の中で嗤った。
高貴なる血と力を持つこの身。平民どころか、教団の兵士上がりにすらその証は深く刻まれている。
(俺の希少種を受けたら……そりゃ、体が覚えるさ)
ティアの歩幅が一瞬乱れたのを見て、俺は鼻歌まじりに前を向いた。
さあ、この先どうなるか。
旅が始まろうと、彼女がどうあろうと――俺の種は、もう彼女の中に根を下ろしているのだから。
海が見えた。しばらく歩くと、林の向こうに停車している馬車を見つけた。
俺は水場に向かっている男の背を見つけ、足早に近づく。
「おい、平民」
男の背がびくりと震えた。振り返るその顔には露骨な動揺が浮かんでいる。
当然だ。俺はファブレ公爵家の嫡男。庶民にとっては夢にも出ない貴族様だからな。
「この馬車、どこへ行く?」
高圧的に問いかけると、男は帽子を取り深く頭を下げた。
「へ、へぇ。貴族様、この馬車は帝都グランコクマまで行きやす」
……グランコクマ。
その名前に自然と顔がしかめられる。
マルクト帝国の首都。キムラスカとは長らく対立関係にある敵国の中枢だ。
「最寄りの街は?」
「エンゲーブでございます。街道を少し南に下ればすぐに」
ふむ。なら問題ない。
馬車に乗って、俺とティアはマルクト中部――いわゆる穀倉地帯へと足を踏み入れた。
窓の外に広がる黄金色の平野を見ながら、ふと口が滑る。
「ここら一帯を燃やせば、マルクトの経済に大打撃だな」
食糧がなければ兵も民も動かせない。
国は腹が減れば戦争どころじゃなくなる。
(……戦略として、悪くないな)
そんなことを考えながら車内の空気を一瞥する。
馬車代のことを考えたとき、一瞬だけ選択肢が浮かんだ。
――俺への謝罪の証として、ティアの身体を馬車代として平民に渡すという案だ。
俺を巻き込んだんだ。少しぐらいの賠償はあって然るべきだろう。
でもまあ俺もそこまで鬼畜じゃない。
俺は靴下の中――いざという時の護身用に仕込んであった、青い宝石を取り出した。
「……どうして靴下の中なんかに宝石を?」
ティアが小さく眉を寄せる。
「財布代わりさ」
本当は打撃用の武器だけどな。
男に宝石を突き出す。
「これをエンゲーブで売ってこい。釣りは寄越せよ。誤魔化したら、我が家名にかけてお前の一族郎党、根絶やしにするぞ」
「は、はいっ! もちろんでございます、貴族様!」
脅し文句は貴族の挨拶のようなものだ。
だが隣から不意に声が飛ぶ。
「ルーク……貴方って……」
ティアの声は明らかに不満の色を帯びていた。
軽蔑と戸惑いの入り混じった女の声だった。
「あん?」
鋭く返すと、ティアは一瞬たじろぎ――そして、唇を噛んで俯いた。
「……ごめんなさい、何でもないわ」
俺たちはそのまま、エンゲーブの村に入った。
魔物退治で得た素材は思いのほか高く売れ、道具屋の主も満面の笑みだった。
「今日はもう店仕舞いですよ」
「ああ。また機会があれば寄らせてもらうよ」
そう言いながら、俺は店を出た。
(もっとも、二度と来ることはないだろうが)
それが戦場であれ、商いの地であれ――敵国の地に馴染むつもりは、毛頭なかった。
宿の部屋は粗末な板張りに、軋むベッドがひとつ。
窓からは夜の風が吹き込んで、燭台の火をかすかに揺らしていた。
「……さて」
俺は備えつけの机に椅子を引き寄せ、ティアを正面に座らせる。
「国境の状況を教えろ。お前、教団の末端だろ。ちょっと位、情報を持ってるんだろ」
「私は神託の盾騎士団、情報部第一小隊。正式には、
どこか俯きがちにそう答えるティアの声は硬く、感情を押し殺していた。
「国境は高い壁と門で分断されているわ。キムラスカ領へは正規通行証がなければ越えられない。ましてや今は国境警備も強化されてる」
「なるほど。なら、海から渡るしかないな」
そう言って、俺はティアの答えを聞き流すように頷いた。
最終判断は俺が下す。それがこの旅のルールだ。
「で――ほら、お前も飲め」
俺は、宿の下で買わせた安酒の瓶を掲げ、ティアの前にぐいと突き出す。
料理は干からびた塩肉と、焦げたパン。
せめて酒ぐらいはと大量に用意させたのだが、ティアは眉を寄せて首を振った。
「……私、お酒はあまり……」
「黙って飲め」
そう言って無理やり杯を握らせる。
「これから共に旅をするんだ。お互い腹を割って話すには、酒しかないだろう。そういうもんだ」
理屈の通らない理屈を並べながら、俺は自分の盃を干した。
ティアはしばらく躊躇していたが、やがて小さく溜め息を吐き、口をつけた。
少し飲んだだけで、肩がすくむ。
「……からい……」
「慣れだ」
俺は笑って、自分の盃に次の一杯を注ぐ。
そのあとも何度か勧めるたびに、ティアは少しずつ杯を空けていった。
頬が赤くなり口数が減り、視線がふらふらと泳ぎ始める。
傍目にもわかる。
酒が、ゆっくりと彼女の思考と警戒心を溶かしていた。
(……よし)
疲労もあるのだろう。ティアのまぶたが徐々に落ち始め、最後は椅子の背にもたれたまま、静かに息を整えて眠りに落ちた。
その唇は微かに開かれ、肌にはほのかに紅が差している。
――本番は、これからだ。
「じゃ、今夜は頑張っちゃうぞ」
誰に聞かせるでもない冗談めいた呟きを落として、俺はティアのそばに膝をつく。
彼女は椅子にもたれたまま、深く眠っていた。頬は紅潮し、唇はわずかに開かれている。
俺は、そっと指を伸ばした。
まずは髪に触れる。さらさらとした金の絹糸のような髪を、掌の上で撫でながらそのまま頬へ。
肌は温かく少しだけ熱っぽい。酒のせいだけではないだろう。
俺の指が鎖骨をなぞり、制服の前をゆるめていく。
「……綺麗だな、お前」
小さく呟きながら、開かれた隙間に唇を寄せそっと舌を滑らせる。
彼女は目を覚まさない。けれど身体は正直だった。
指先で撫でれば皮膚がぴくりと震え、呼吸が浅く乱れる。
甘く、優しく。あくまで時間をかけて、乱暴なことはしない。
唇で愛し、指先で慈しむ。
ゆっくりと、彼女の身体の奥を思い出させていく。
二度目――そう、これはもう二度目なのだ。
初めてのときは戸惑いだけだった彼女も、今では無意識のうちに快楽の波を受け入れている。
腰がわずかに動き脚が絡まる。
胸元に唇を落とすと、うっすらと喘ぎが漏れた。
「……ん、っ……ぁ……」
その反応が、たまらなく愛おしい。
繋がったまま、奥を確かめるようにゆっくりと愛を注ぐ。
心が、身体が、繋がっている。
意識の奥で、彼女がそれを受け入れてくれているのが分かる。
相性は、完璧だった。
ぬくもりも締めつけも、吐息も、すべてが俺にとって理想通りで――だからこそ、確信した。
(もう、離せないな)
この身体も心も、俺のものだ。
たとえ彼女が覚えていなくても、目を逸らしても、真実はこの身体が知っている。
俺の愛は、確かに彼女の奥に届いている。
朝の光が木の窓越しに差し込んでいた。
ティアは、薄い掛け布をかぶったまま、じっと動かずにいた。
身体が重かった。
全身に鈍い疲労がまとわりついていて、特に――腰の奥、下腹部のあたりがじんわりと熱くて……痛い。
何かに深く触れられたような……突き上げられたような……そんな記憶は、ない。
ないはずなのに、身体だけが確かな痕跡を訴えていた。
(どうして……?)
脚を動かそうとすると、太腿のあいだがぬるりと粘つく。
ティアは息を詰めて、そっと手を伸ばした。
下着はずれていて、肌には冷えた何かが張りついている。
それを指に取った瞬間、目を見開いた。
ぬるく、重く、乾きかけたもの――女であれば知識としては知っている。
けれど自分の身体にそれがある意味は理解が追いつかない。
(……私……何か……された……?)
昨日、酒を飲んだ。酔いがまわって、すぐに眠ってしまったはずだ。
その後の記憶は……なかった。
隣の簡易ベッドでは、ルークがまだ眠っていた。
その寝息は安らかで、まるで何もなかったかのよう。
(まさか……でも……そんな……)
頭では否定しようとする。
でも、腰の奥の痺れるような感覚と、膣の中に残された痕跡が現実を告げていた。
彼女の瞳に、戸惑いと微かな羞恥が浮かぶ。
そして言い知れぬ喪失感のような、よく分からない感情も。
涙は出なかった。ただ、胸の奥が、ひどく静かだった。
部屋の隅に置かれた木製の小さな卓上には、今朝の朝食――固いパンと温めた豆のスープが用意されていた。
その席にルークは何事もなかったかのような顔で座っていた。
カップを片手に湯気の立つスープをすすりながら、当たり前のようにティアの席も引いている。
「おい、起きたなら早くしろよ。冷めるぞ」
……その声は変わらなかった。
昨夜のことを何一つ意識していないかのような、いつもの少し偉そうで、無神経な声音だった。
ティアはゆっくりとベッドを降りた。
下着の位置を直しながら、歩くたびに身体の奥がわずかに疼く。
けれど顔には何も出さなかった。出せなかった。
椅子に腰掛けると、ルークはパンを半分にちぎり、軽く笑った。
「夢見心地だったか? 昨日の酒が効いたんだろ」
ティアの手がスプーンの上で止まる。
指先が白くなるほど力を込めていた。
――夢? 本当に、それだけだったのだろうか。
けれど問いただすことはできなかった。
彼の顔には、自分が怯えていたような悪意も罪の意識も、何もなかった。
あるのは、ただ当然という顔。
「……ありがとう、用意してくれて」
そう口にした自分の声が、他人のもののように遠かった。
ルークは満足げに頷くと、卓上のナイフでパンを切り分ける。
「今日の目的地は決めてある。早めに村を出るぞ。日が高くなる前にな」
まるで、昨夜、何の出来事もなかったかのように旅の話を進めていく彼。
そして、それにうなずくしかない自分――
ティアの腹の奥で、まだ温かさを残す感覚が、なにより雄弁に何かがあったと語っていた。
でも彼は知らない。
いや、知っていて――それを当然としているのかもしれない。
(私は……この人に、何をされたの? そして……私は、それをどう思っているの?)
その答えは、まだ霧の中だった。
朝靄が晴れ始めた街道を、俺たちは南へと歩を進めていた。
風は涼しく、陽の照りもまだ柔らかい。
だが隣を歩くティアの足取りはどこか不安定だった。
「……二日酔いか? 顔色、悪いぞ」
俺がそう声をかけると、ティアは一瞬だけ顔を伏せ、それから小さく首を横に振った。
「……飲みすぎたわ。途中から記憶がないの」
その答えに俺は何気ないふうを装って肩をすくめる。
「お前、床で寝てたからな。寒そうだったし、さすがに放っておけなかった」
それは嘘ではなかった。
ただ、真実の半分だけを差し出すのは俺にとっていつものことだ。
ティアは、わずかに目を見開いたまま静かに答える。
「……そう。運んでくれて……ありがとう」
ぎこちない声音。
けれどその奥にかすかな羞恥と、確信の持てない不安が滲んでいた。
彼女の腰はほんの少し揺れていた。
歩くたびに何かを庇うように――身体の奥に昨夜の痕跡を感じているのかもしれない。
俺は平然とした顔で言葉を返す。
「気にするな。固い床よりベッドの方がいいに決まってるだろ」
そのときティアの唇から、ふっと小さな吐息が漏れた。
「……っ、ん……」
かすかに震えるその音は、まるで無自覚な甘い喘ぎのように響いた。
(……ああ、やっぱり、いい声だな)
記憶に残る、夜の音と重なるその響きが、俺の内に静かな興奮を呼び起こす。
昨夜の彼女は、無垢だった。
経験のない身体が、俺の愛撫に反応し何度も震え、脚を絡め、奥へと迎え入れてくれた。
今こうして、彼女の戸惑いと沈黙が続くたびに、逆に俺の中で所有の実感が強くなっていく。
彼女はまだ、自分の中に何を宿したのか知らない。
だがそれはもう時間の問題だ。
火は細く、柔らかに燃えていた。
乾いた薪がぱちりと音を立てては弾け、ふたりの影を草の上にゆらゆらと揺らしていた。
風はほとんどなく、星がはっきりと瞬いている。
この夜がどこまでも静かで、美しいものに思えるのは――隣に彼女がいるからかもしれない。
「……寒くはないか?」
小さく耳元に囁く。
ルークはあくまで自然な仕草で、自分のマントを半分、彼女の肩へかけてやった。
そしてごく当たり前のように、そっとその肩を抱き寄せる。
ティアは拒まなかった。
戸惑いの気配は微かに伝わってきたが、腕を退けるでもなく、されるがままに寄り添っていた。
「こうしていると、少しだけ……平和な気分になるな」
火を見つめながら、ルークが低く穏やかな声で囁く。
「お前とこうして旅をしているなんて、想像もしなかった」
「……わたしも。まさか、あなたと……」
ティアの声はかすかに震えていた。
けれどそれは恐れではなく、別の、言葉にならない疼きが混ざっていた。
彼女の身体が微かに寄り添ってくる。
薄布越しに感じる女の体温。かすかに汗ばみ、香のように甘い匂いが漂う。
「……怖がらなくていい。俺は、無理はしないよ」
優しく。穏やかに。
ルークは決して荒々しくは迫らない。ただ、彼女の温度に溶け込むように、そっと語りかける。
その声音が彼女の耳の奥に深く残った。
ティアは、自分でも理由が分からなかった。
ただ――ルークの腕の中にいると、なぜか胸の奥がざわついて呼吸が浅くなる。
焚き火の光に照らされた自分の脚が、いつの間にか……膝を擦り合わせていた。
(……どうして、こんな……)
ふと、下腹がきゅうっと疼いた。
肌の奥がひりひりと熱を持つ。
擦れる布の感触がいやに鮮明で、それが心の奥に波紋のように広がっていく。
ルークは気づいていた。
彼女の脚の動き。密かに、しかし確かに溢れてくる熱の香り。
けれど彼は何も言わない。
火が静かに燃え続けていた。
赤く溶けるような焔が、彼女の横顔を淡く照らし出す。
寄り添ったティアの身体は、もう緊張を解いていた。
呼吸は浅く、肩の動きも細かく揺れていて、それが逆に彼女の無防備を物語っていた。
ルークは、あえてその身体に積極的に触れなかった。
ただ髪に触れるだけ。
頬に、宵闇のような静かな吐息を送り込むだけ。
それだけで、彼女がどれほど敏感に震えるかを、知っているから。
今宵、彼は触れないという贅沢な手段で、彼女を堕とすことを選んでいた。
「……眠れないのか?」
問いかけは低く、あくまで優しく。
咎めるでも、誘うでもなく――ただ、彼女の答えを待つように。
ティアは、わずかに首を振った。
「ううん……ただ……」
「ただ?」
「……あなたが、あまりに静かだから……何を考えてるのか、わからなくて」
ルークは、その言葉に小さく笑った。
「何も考えていないわけじゃないさ。ただ――いまはこうして、お前の傍にいることだけで十分だから」
甘い言葉は、ささやくように落とされる。
まるで夜露が肌に落ちるような、やわらかく、でも確実に沁みてくる響き。
ティアは言葉を返さなかった。
けれど彼女の身体が僅かに寄り添い、頬をルークの肩に預けてきたことが――何よりの返答だった。
(……可愛いな)
ルークは内心でゆるやかに嗤った。
無理強いをしない。
だからこそ、彼女は安心する。
だからこそ、身体の奥まで染みこんでいく。
今夜は、ここまででいい。
この甘い緊張とぬくもりを、じっくりと馴染ませて――次に触れるときには、もう、逃げ道はない。
まどろむように目を閉じたティアの耳元に、ルークはごく低く、囁いた。
「……おやすみ、ティア。今夜は、夢の中で会おうか」
その言葉に、ティアの睫毛がかすかに揺れた。
焚き火の音だけが、ふたりの沈黙をやさしく包んでいた。
やがてティアは小さな吐息をひとつ漏らし、そのままルークの肩にもたれかかった。
まぶたは静かに閉じられ、緩やかな寝息が胸元で上下する。
眠ったのだ――心を許した証。
彼女の中に確かに安心という甘い毒が入り込んでいる。
(……今夜は、ここまで)
ルークはゆっくりと腕をほどき、そっとティアの身体を寝具へと移した。
薪の熱が残る焚き火の近く。冷えないようにマントを掛け、その細い指先をじっくりと見つめた。
眠っている――だが、だからこそ触れられる領域がある。
彼は音も立てず、そっとスカートの裾をめくった。
ぬくもりを逃がさぬように太腿の内側を撫で、指先で膝裏をなぞる。
布越しの柔らかさ。その下に、既にうっすらと熱を持つ花が隠れていた。
彼はその上に口づけをひとつ。
ティアの眉がわずかに寄ったが、起きることはなかった。
その反応が愛しくて、ルークは舌先で下着越しにやわらかく線を描いていく。
(……よく、反応する)
開発は進んでいる。
快楽という概念に慣れていない身体ほど、初期の刷り込みは深く残る。
布をずらし、ふわりと香り立つそこへ、そっと唇を押し当てる。
濡れていた。眠っているのに、いや、眠っているからこそ――無意識のなかで、彼女の身体は思い出していたのかもしれない。
ゆっくりと、舌で秘裂を割り、指で軽くなぞる。
ぐちゅ……と、小さく湿る音。
ティアの喉がひくりと動いた。寝言のように、甘い息が漏れる。
「……んっ……んぅ……」
声にならないその熱が何より官能的だった。
そして、ルークは己のポークビッツを取り出す。
中には入れない。それが今夜の約束。
彼女の太腿の間に膝を差し入れ、柔らかな秘所にそっと自身を添わせる。
素肌と素肌。濡れた肉が、男を包むようにぬるりと馴染む。
ゆっくりと、腰を前後に滑らせる。
ずる……ずちゅ……ぬち……
寝息の合間に、彼女の小さな声が時折漏れる。
腰が無意識に微かに揺れて――それが、逆にたまらなかった。
「……ティア……」
囁きながら、奥に触れず、外側だけで確実に高まっていく。
そして――果てる瞬間。
彼女の秘裂のぬくもりに挟まれたまま、静かに、こぼした。
「……ふぅ……」
白濁は、太腿のあいだに垂れ、彼の指でそっと拭われた。
ティアは眠ったまま、静かに寝息を立てている。
その髪に最後の口づけを落とし、ルークはマントを整えた。
(今夜も、いい夜だった)
焚き火が、ぱち、と小さく火花を散らした。
まぶたの奥に、光が差し込んできた。
朝――らしい。
けれど、身体はすぐには動かなかった。
その理由はあまりにも明確だった。
肩に腕がまわされている。
背に感じるぬくもりは、昨夜の焚き火の名残ではない。
それは、確かに人の体温――彼のものだった。
ティアはゆっくりと目を開けた。
視界に映ったのは、至近距離のルークの顔。
すぐ隣で眠っている。静かに、穏やかに。まるで、何も起こっていないかのように。
けれど――彼の腕は、確かに自分の肩を、柔らかく包んでいた。
嫌な感じは……不思議と、なかった。
むしろ、安心感が胸の奥に滲んでいた。
(どうして……?)
自分の心が分からない。
混乱もある。
けれど、身体の奥は――あの夜からずっと、なにかを思い出しているような、熱を帯びた違和感を抱えていた。
脚を動かすと、太腿のあいだにぬるりとした感触が残っている。
(……夢じゃなかった……の?)
ティアはそっと、指先で太腿をなぞった。
そこに、何かがあった。
でも――中には、入っていない。痛みはない。
なのに熱い。やわらかく残されている。
ふと、ルークの腕が動いた。
寝返りかと思ったその動きは、彼女の肩をより引き寄せるような仕草だった。
そして、低く、まだ眠気の残る声が落ちてくる。
「……おはよう、ティア」
それだけで心臓が跳ねた。
「ゆっくり休めたか?」
耳元にそっと落ちる囁きは、どこまでも優しい。
けれどその優しさが、かえって胸を締めつける。
「……うん。ありがとう……」
そう応える自分の声が震えていたのは、朝露のせいだけではなかった。
歩きながら、何度もティアはその横顔を盗み見た。
ルーク。
あの夜、肩を抱いてくれた腕。
焚き火の温もりと一緒に、自分を守ってくれていた――はずの、その人。
彼はいつも通りだった。
声も、態度も、昨日と何も変わらない。
彼女の頬を撫でた風すら、彼の余裕をなぞるように優しかった。
「歩幅、合ってるか? 疲れたなら少し休もうか」
そんな言葉を迷いなく口にする。
そして彼のその優しさが、ティアの心を揺らす。
(……あの人が、そんなことをするわけ……)
だが昨夜の記憶は曖昧で、そして確かで――太腿の間に残っていた温もり、肌に触れた柔らかな感触は誰のものだったのか。
彼女は、問いただせなかった。
なぜなら、その「優しさ」にすがっている自分がいたから。
微笑むルークの顔は、どこまでも穏やかで、気品があった。
でも――
(なのに、どうして……ときどき、怖いって思うんだろう)
その問いは、まだ言葉にならない。
ティアは唇を引き結び、何も言わずにただ隣を歩いた。
ルークは、そんな彼女の沈黙を咎めることなく、ただ淡く笑っていた。
まるで、次に彼女がどんな言葉を選び、どんな風に心を傾けていくのか――すべて知っている者のように。
カイツールからケセドニアまでは、キムラスカ王国の支配力が及ぶ青い地図――いわば味方の懐の中だった。
逆に言えば、国境を越えるまでは常に、マルクトの目が光る赤い敵地だったということでもある。
その緊張の中、俺たちは一つ一つ慎重に進んだ。
途中の要所――セントビナーの町では、荷の整理と装備の補充を行った。
ティアは医薬品と食料を確認し、俺は地図を片手に街道筋と川の水位を調べた。
今の季節、フーブラス川の上流にあたる浅瀬は渡れる。
地元の農夫たちが「ぎりぎりだが、馬車も押せば渡れる」と言っていた。
「ここが踏みどころだな……」
俺は地図の上、国境線を示す墨の帯を指先でなぞり、笑った。
(ここを越えれば、こちらのものだ)
キムラスカの旗の下なら、俺の名前は通用する。
ルーク・フォン・ファブレ。その名は、ここから先の地では庇護そのものだった。
フーブラス川の浅瀬はぬかるんでいたが、俺たちは問題なく渡った。
ティアは、少し緊張した面持ちで後ろを振り返っていた。
「もう……マルクトの兵は追ってこない?」
「来たところで関係ないさ。ここは俺の国だ。追ってくる奴らが間違ってる」
彼女は黙っていたが、納得したように小さく息を吐いた。
俺たちは、濡れた靴を乾かす暇も惜しみながら、国境を超えた地を歩き始めた。
そして俺は、確信していた。
これでもう、誰にも邪魔はさせない。
彼女をどこへ連れて行こうが、何をしていようが――この領内にいる限り、すべては俺の裁量で決まる。
フーブラス川を越えて間もない南の丘陵地帯。
緩やかな尾根を歩いていた時だった。
遠くの空気が熱を含んでいた。
乾いた風の中に、焦げた油と黒煙の匂いが混じる。
「……あれは……」
ティアが指差した方角。
岩の尾根の隙間から、巨大な鉄塊――マルクトの陸上戦艦が見えた。
艦の周囲を囲むように、蠢く影。獣。魔物。
野生の暴力が、兵士たちを蹴散らしている。
魔物たちは訓練された軍隊をものともせず、群れの勢いそのままに、装甲を破り、砲塔を引き裂いていた。
「……!」
ティアが思わず息を呑む。
だが俺は、嗤っていた。
「ざまあみろ」
思わず口に出たその一言に、ティアが振り返る。
けれど俺は肩をすくめて言った。
「敵国の軍艦が潰されて何を惜しむ必要がある? しかも、こっちの領地にまで寄りかけていた。むしろ歓迎すべきことだろう」
ティアは反論しかけたが、言葉にならなかった。
おそらく国際政治が絡んでいるからだ。
だが俺は揺るがなかった。
「マルクトがどうなろうと知ったことか。あいつらが弱るなら、俺たちにはそれで十分だ」
目の前で装甲が爆発し、艦の横腹が崩れ落ちる。
兵士たちの悲鳴が風に乗って届いてきたが、どれも俺には雑音だった。
ただ、戦場の焼ける鉄と肉の匂いが心地よかった。
(俺たちは進む。誰に止められることもない)
そして――あの鉄塊の崩壊すら、運命がこちらに傾いている証に見えた。