時刻は午後十時を過ぎ、マムは既に就寝した。私も本来であればそろそろ眠りに就くかと考え出す頃なのだけれど……。
「でさ、裏筋舐めたらすごい勢いで反応すんだ」
どうしてこうなったのかしら。珍しく私と奏達ツヴァイウイングの休みが重なった事もあり、今回は女だけでのパジャマパーティーとなった。マムも苦笑しつつ皆の来訪を喜んでくれて、夕食の賑やかさはかなりのものだった。そう、そこまではとても良かった。問題は全員が入浴を済ませ、マムが気を遣って先に休むと自室へ移動し、皆でリビングで語らい出した辺りからだ。ある程度した時、突然切歌と調が奏へ質問したのだ。
―――奏さん、男の人について教えてください。
―――どうしたら男の人を喜ばせる事が出来るデスか?
そこから始まった奏の話す内容は、とてもじゃないけど切歌や調に聞かせられるものではなかった。けれど、そう言おうとしたらセレナから「下手に遠ざけると間違った知識を自分達で得ようとするかもしれないよ」と注意され、行き過ぎない内は認める事にした。ま、まぁ? 実際私もそこまで知識がある訳でもないし、奏は彼とそういう間柄なのだからある意味生きた知識だ。それを知っておくのはその時のためにも間違わないためにも有用なはず。
「奏さん、男の人ってオチンポ舐められる以外に弱い事ってないんですか?」
「ひ、響……」
「未来、恥ずかしいのは分かるけど、これは将来必要になるかもしれない事だよ。なら、実体験をした人から教えてもらうのが一番確実じゃん」
「それはそうだけどぉ……」
未来は顔を真っ赤にしているわね。見ればセレナも似たようなものか。だけど、切歌と調はやや恥ずかしそうにしているものの、本当に知識を吸収しようとしているような真剣さが見える。翼やクリスは平然としているし、響などはさっきの反応から分かる通り、斜め上の真面目さを発揮している。……もしかして、未来やセレナ以外は好きな男でもいるの? まさか、だからこそ貪欲に男性との睦み事を知ろうと……?
「よし、じゃあ教えてやるよ。て言っても、あたしもまだ試した事はないけどな。男は、一番の弱点を尻の中に隠してるらしい」
「お尻の中?」
「奏、それは前立腺の事か?」
「さっすが翼。物知りだね」
翼の告げた言葉に切歌と調は疑問符を浮かべ、セレナはこちらへ知っているかと視線で問いかけてくる。私だって知らない訳じゃない。で、でもそれを説明出来るかと言われれば正直勘弁して欲しいわ。
「ま、簡単に言うと女でいう子宮みたいなもの。正確に言うなら、その変化したものだっけな」
「難しい言い方すりゃ、遺伝子的に男は女のなりそこないだからな。だからそんなもんがあるんだよ」
クリスの補足に感心したような声を上げる切歌と調に響。そして声は出さないものの、同様の反応を見せる未来とセレナ。良かった。どうやら私が説明する必要はなさそうね。それにしても、たしかにこういう知識は意外なところでためになるかもしれないわ。それに、こういう事を教えるのは私には少し荷が重いもの。
「で、そこを刺激するには道具を使うか自分の指でやるしかないね。まぁ、シキはきっと嫌がるだろうけどさ」
「嫌がるんですか?」
「シキは基本的に自分主導でいたがるからね。たまに甘える時はあるけど、それは気持ち良くなりたいとかじゃなくて、あたしへの信頼とかを前面に出してくれてるだけだし」
奏の嬉しそうな表情に私は言葉を失った。綺麗だと思っただけではない。女の幸せを心から感じているような、そんな雰囲気を感じ取ったからだ。見れば未来やセレナも似たような事を感じたのか、羨むような顔と目をしている。分かる。あの奏がここまで見事な女の顔を見せるのだ。きっとその瞬間はとても幸福なのだろう。
「あんた達もその内分かるよ。自分が好きな男と繋がるだけじゃなくて、そいつと気持ちを通じ合わせて子供を作る幸せをね」
私達全員と表しながら視線はしっかり私だけを捉えていた。それがどういう意味かを察し、ため息を吐いた。ええ、そうね。このままではこの中で一番結婚が遠そうなのは私でしょうね。立場は世界的アーティストで悪を装いながらこの星を守った救世主。そんな女へ言い寄る男などおそらく皆無に近いでしょう。かといって私が自分から男へ言い寄るのも考えられない。
「……奏はズルイ。そうやって要さんと絆を深め合っているんだから」
「ま、あたしはシキの初めての女だからね。どうしても特別扱いはされるさ」
奏へ拗ねたような声を出す翼に違和感を覚えた。それはまるで自分の男を取られたかのような感じだったのだ。それはセレナも感じ取ったようで、微妙な表情をしている。いや、未来もそうだ。だけど、その三人以外は何も感じていないのか普通の表情をしていた。
「分かった。なら、私も今度要さんとデートする。勿論泊まりで」
「ちょ、ちょっと翼!? 何言ってるの! 貴方はトップアーティストなのよ? 略奪愛なんて止めなさいっ!」
さすがに見過ごせない。そう思っての言葉に翼が返したのは心からの疑問だった。
「略奪愛? マリア、何を言ってるんだ。私と奏はもう二年以上も前から要さんに愛されている」
「は?」
「両翼の先輩は、あたしらがあいつと出会う前からとっくに男と女の関係って事だ」
「あー、マリアさん達は知らないですもんね。シキさん、私が二課へ加わった時から奏さんと翼さんを同じぐらい大事にしてましたから」
フリーズしそうな私へ告げられる衝撃の事実。どこかでまさかと思っていなくもなかった。でも、そんなはずはないと思っていた。それが本当に正しかったとは思いたくなかったし知りたくなかった。だけど、そう思っていたのはどうやら私だけだったようだ。
「シキさん、奏さんと翼さんの両方を彼女にしてるデスか。なら、調と一緒に可愛がってくれるのもそういう事デスかね」
「うん、そうだと思う。私と切ちゃんに差を付けないようにしてくれてるんだと思うよ」
切歌と調の言葉は妹分としてのものよね。うん、きっとそうよ。たしかにシキは、初対面の時に二人に襲われたにも関わらず、それを許し自分の下心が原因だったと謝ってさえくれた。その事がどれだけ二人の心を軽くしてくれたか。私がシキを許したのはそれがあったからだ。でなければ、己の精子を二人へ飲ませた最低男のままだった。それでマムが助かり、私もセレナと永遠の別れをせずに済んだのは分かっている。だけど、それとこれは話が別。いくら二人が無理矢理迫ったとはいえ、切歌と調にそんな物を飲ませたなんて……。
「響はシキさんが好きなの?」
「……だって、私を可愛いとか色気があるって言ってくれたのシキさんだけだし。勿論もっと私が好きになる人が出て来たら分からないけど、今はシキさんが一番かな」
「奏さんや翼さんの彼氏でも?」
「うん。誰かの相手だからって自分の好きに嘘は吐けないし吐きたくないから。それに、今はまだ二人に置いて行かれてるとしても、諦めなかったら逆転も有り得るし」
響の言葉は何というか、眩しい気持ちね。でも、それを間違ってるとは誰も言えない。きっと未来も同じ事を思ったのでしょうね。どこか寂しそうで、でも納得したような顔をしていた。
「クリスはシキさんをどう思ってるの?」
「……あったかい人。絶対あたしを一人にしないって約束した奴だ。あたしから離れない限り、な」
「そうなんだ。あれ? って事はクリスも?」
「…………悪いかよ」
セレナとクリスの会話を聞いて、私ははたと気付いた。ある意味当然ではあるけれど、私達の役目を知っている異性は少ない。更に、年齢も近い相手となると尚の事だ。そして、これがきっと一番大きいだろう要因。彼、要シキは私達の体へ少なくない影響を及ぼしている能力を有している。
「もしかして……セレナや未来以外は彼と何かしらの関係を持っている……?」
自問するような呟きは幸か不幸か周囲には聞こえなかったようだ。でも、その呟きをして一つ確かめなければならない事が出来た。奏達はもう別にいい。本人達も承知しているし今更だろう。響やクリスに関してもだ。だが、切歌や調に関してはそうはいかない。一度私が直接会って、二人きりで確かめなければ!
「複数の彼女、かぁ……」
私が問いかけた後、クリスはシキさんとのデートを簡単に教えてくれた。一緒に色んなお店回って、アミューズメントコーナーでゲームして、お昼にお寿司を御馳走になって、カラオケという場所へ行って歌って、テンドンって言う食べ物を教えてもらったらしい。よく分からない事もあるけど、それを話すクリスはとても嬉しそうだったからきっと楽しかったんだと思う。
「……デート、か。私もしてみたいな」
聞いているとシキさんは奏や翼と、そ、その……エッチをしてるみたいだし、クリスやどうも響とも仲良くしてる。こういうのを本来は節操がないっていうんだろうけど、シキさんは良くも悪くも遊びで女の子と付き合えるような人じゃない。だから怒るに怒れないんだ。本気でみんなを幸せにしようとしてるから。それが自分達に伝わってくるから。
「するぐらいなら言ってみりゃいいじゃねーか。あいつならそれぐらい付き合ってくれるぞ」
「え? いいの?」
私の呟きが聞こえていたみたいで、クリスがさらりとそんな事を言ってくれる。
「セレナ、デートって言うけどな。それが彼女とのもんかそれ以前の奴かで意味合いは大分違うんだよ。あたしがしたのは前者。お前の場合は後者だ」
「つまりそこまで気にする必要はないって事?」
「おう。ま、お前もあいつの女になりてえって言うんなら話は違ってくるけどな」
そんな事ないだろって、そんな目をクリスは向けてくる。私が肯定するように頷くと、クリスも納得したように頷いて視線を動かす。その先にいるのは姉さん。どうやらクリスは姉さんがシキさんへ何かするんじゃないかと思ってるみたい。たしかに切歌と調の様子からして、シキさんと何かあるのは疑いようがない。でも、それは仕方ないと私は思う。何せ、二人にとってはシキさんは初めて出会った優しく強い年上の男性。忍び込んだ二人を見つけ、その違法性に気付きながらもモニターでのライブ鑑賞を持ちかけてきただけでなく、二人の話だと、何とか姉さんが装者である事を奏達へ伝えようと逃げ出す機会を探り続けたらしい。
「戦う力がなくても諦めない。本当の強さって、そういう事なんだろうな」
そういう人だから奏達は好きになった。優しくてあったかいから響やクリスも惹かれた。そして、切歌と調もきっと……。
「一度だけ、お願いしてみようかな?」
クリスのような彼女版デートは憧れるけど、今は雑誌の中でしか知らない世界を経験してみたい。ノイズが現れなくなった今なら、もうギアを纏う必要はないはず。あったとしても、それは誰かを傷付けるのではなく助けたり守ったりするためなんだ。だから、だから少しぐらいいいよね。普通の女の子になってみたって。普通の人みたいに、楽しんだりしたって。今のマムなら許してくれるはず。そう思いながら私は再開された奏の体験談に耳を傾けた……。
「じゃ、おやすみ未来」
「うん、おやすみ響」
場所は切歌ちゃんと調ちゃんの部屋。そこの二段ベッドの上が今日の私と響の寝床。下では切歌ちゃんと調ちゃんが寄り添うように寝ているし、クリスはリビングのソファでいいと言い張って一人で寝てる。マリアさんは奏さんを連行するように自室へ行き、残された翼さんがセレナさんの部屋で一緒にいる。
「……今日は色々すごかったなぁ」
シキさんの部屋でみんなと過ごした時はお泊りじゃなかったし、男の人がいた事もあって会話も刺激的ではなかった。だけど、今日は女だけだし、ナスターシャさんという保護者がいなくなった事もあって過激な事を結構話した気がする。何よりも響があそこまで前のめりにエッチな話へ食いつくなんて……。
「未来、まだ起きてる?」
「うん、起きてるよ」
下の二人へ聞こえないように小声で問いかける響に私も合わせて声を潜める。でも、いつもならこっちを向く響が背中を向けたまま。でも、これも最近は珍しくなくなった。いつ頃からか響は私へあまりくっつかなくなった。理由を聞くと「あー、やっと私も未来離れしなきゃと思ったと言うか、いつまでも未来へ甘えてちゃいけないと感じたって言うか」と答えのような答えじゃないような事を言われた。あれは、いなくなったと思った響が帰ってきた後ぐらいかな。その辺りから、響は一人で寝る事を増やしていった。正直寂しさはあったけど、響の言う通りいつまでも一緒に居られないのも事実だったから受け入れた。
「あのさ、今日の話なんだけどごめんね」
「え?」
「私が奏さんへ色々質問した辺りから、どんどんエッチな方向になったから」
そう言うと響は寝返りを打ってこっちへ顔を向けた。
「未来、嫌じゃなかったかなって」
「ううん、そんな事ないよ。私だってまったく興味がない訳じゃないし」
これは本当。たまに読む雑誌には特集でそういう系の記事がある事もある。私も、いつかお母さんみたいに結婚して可愛い赤ちゃんが欲しいって、そう思う事がない訳じゃない。
「そっか。良かった。未来に嫌われたんじゃないかって思ってさ」
「そんな事言うなら一回嫌ってあげようか?」
「うぇ、そんな事言わないでよ未来ぅ。私が悪かったからさぁ」
「ふふっ、はいはい。私が響を嫌うなんて有り得ないから大丈夫」
そう響を安心させるように告げると、響は何故か不安そうな眼差しを向けた。
「ホント? 本当に有り得ない?」
「……どうしたの響? もしかして何かあったの?」
そう私が問いかけると響は小さくシキさんの名前を告げた。それだけで私は響が何を心配しているのか分かった。響はシキさんが好き。でも、シキさんは奏さんと翼さんを彼女にしてる。そんな男の人と付き合っていく事を、もっと言えば迫る事で嫌いにならないかと響は思っているんだ。なので私は響の手を優しく握って微笑みかけた。
「響って私の事になると心配性なんだから。大丈夫だよ。響がもしシキさんと結婚しても、私は心からお祝いしてあげるし、ずっと親友だからね」
「……そっか。ありがと未来」
こうしてこの夜は久しぶりに響と一緒に寝た。握った手は繋がれたままで。その夜の夢は、何故か私と響が揃って誰かのお嫁さんになる夢だった。きっと寝る前に話した事と私の不安がくっついちゃったせいだろうな。もしそんな事が出来るなら、たしかに響とずっと一緒にいられるもんね。そんな有り得ない事を考えつつ、目覚めた私はすやすや眠る親友の寝顔をただ眺めるのだった……。