「ど、どうしよう?」
チフォージュ・シャトーを抜け出して、僕は今途方に暮れていた。初めての街。初めて見る様々な物。行き交う人達は僕を見て冷たい目を向けるだけ。やっぱりこのローブだけじゃダメだったかな。そう思いながら僕はドヴェルグ=ダインの遺産が入った箱を強く抱きしめる。
「シキさんのためにも、僕がやらなきゃ……」
シャトーに連れてこられた時、シキさんは命懸けでキャロルと取引した。あれはきっと装者の方達を信じているからだと思う。だからこそ、僕は彼女達と接触しないといけない。キャロルの考えている恐ろしい計画を阻止してくれるシンフォギア達に。そう思って僕がとにかく動こうとした時だった。
「ふむ、何やら奇妙な波動があるから来てみれば……」
「え?」
いつの間にか目の前に金髪の女性がいた。大きなお腹をしているから妊婦、だろうか。でも、その僕を見つめる目はどこか冷たい。
「お前、あの錬金術師とどういう関係だ?」
「っ!? キャロルを御存じなんですか?」
「……どうやら訳ありか。いいだろう。微かに匂うそれはあいつのスープだろうし、私について来い」
そう言うと女性は背を向けて歩き出す。よく分からないけどシキさんの事を知っていて、キャロルの事も知っているなら装者の方達に会えるはず。ちょっと怖いけど今はそれに賭けるしかない。
「ま、待ってくださいっ!」
離れていく背中へそう言って走り出す。すぐに追いつき横に並んで歩く。横目で見てみると向こうもこちらを見ていた。あ、そうだった。
「あ、あの……」
「何だ?」
「僕、エルフナインと言います。シキさんには長いからエルちゃんと呼ばれていました」
「長いから、か。あいつらしいな。では、私もそれに倣うとしよう。それでエル、お前の持っている箱は何だ?」
「ドヴェルグ=ダインの遺産です。キャロルの計画を、パパとの約束を間違えさせないために僕が奪ってきました」
「ほう。そのためにそれを使うと」
「はい。何かおかしいですか?」
どこか楽しそうな顔をしている彼女へ問いかける。彼女はそんな僕の瞳を見つめてこう尋ねてきた。
「本当にそれはお前の意思か?」
「えっ? どういう意味ですか?」
何でそんな事を問われるのかが理解出来なくて、僕が不思議そうに足を止めると女性も小さく笑みを返して足を止めてしゃがんでくれた。お腹が大きいから辛いはずなのに。
「名乗りが遅れたな。私は櫻井了子。またの名をフィーネ」
「フィーネ……じゃあ、貴女がキャロルを」
「エル、お前は先程計画と言ったな。それをあの小娘はどうやってか完遂しようとしているはずだ」
「はい」
「では、その遺産とやらは計画とやらに必要ないのか? 必要ないなら何故所持している?」
虚を突かれたような気持ちになった。そうだ。キャロルがいらない物を所持しているはずはない。でも、それならどうして僕が持ち出せる? そもそもここまで簡単に抜け出せた事も疑問符が浮かぶ。それらを考える僕へ了子さんは更なる疑問を投げかけた。
「そして、お前がここにいる事をどうしてあの小娘は捨て置いている?」
僕は息を呑むしかなかった。もしかして、キャロルは僕が疑われるように仕向けているんじゃ。実際、了子さんが、フィーネさんが言うようにここまで何もキャロルがしてこないのは変だ。そう思った。
「……どうやら自分でも気付いたようだな」
「はい、あまりにも状況が妙です。でも、一つ理由を挙げるのなら、キャロル達はシンフォギアを無力化出来るからかもしれません」
「ああ、奏がギアを展開出来なくなった事か。お前ならそれをどうにか出来ると?」
「錬金術の知識が多少あります。なので少しはお役に立てるかと」
「……解せんな。それも分かっていて何故お前を放置しているのか。シンフォギアなど複数でなければ恐れるに足らんと思っているのか、あるいは……」
と、そこで了子さんは何か通信機のような物を取り出してどこかと会話を始めた。たしか、あれはシキさんも持っていたスマホ、だったはず。その連絡から数分後、僕らの前に一台の車がやって来た。それに乗り、僕は装者の方達と会う事になる。そして僕は知る。あの人がどれだけ装者達から思われているのかを……。
「アルカ・ノイズ。対シンフォギアに特化した錬金術の申し子か」
「はい。ですが、それも絶対の力ではありません。錬金術には錬金術を。僕の持つ知識で再使用は可能に出来ます」
「あと、どうもエルちゃんの話だとアルカ・ノイズ対策の強化みたいなのも出来るそうよ」
了子君の言葉に翼達が軽くざわつくのが分かった。無理もない。あのオートスコアラーとの遭遇戦以来あの新型ノイズは姿を見せていないが、これまではノイズに対して圧倒的な切り札と言えたシンフォギアが逆の立場となったのだ。
「それは本当なのかエルフナイン君」
「はい、ですがそれでもミカ達には……」
「直接戦ったから分かる。あいつらはたしかに普通じゃ勝つのは難しい。でも、シキがいたら勝てない相手じゃなかった」
「了子君も同じ見解か?」
「ええ、そうね。考えてもみて? ドリンクもスープも無しの奏ちゃんを相手に優勢。つまり本来だったら?」
「……要君の能力により強化された奏君なら最低でも互角、か」
本当にそう考えると彼は装者達にとって欠かせない存在だったと分かる。こうなればやはり俺がオートスコアラーだけでも戦うか?
「どういう事ですか?」
「えっと……」
了子君がこちらを見る。そうだな。一応彼の体質や能力は機密扱いだったか。教えてもいいとは思うが、さすがにまだ早いとも言える。それに、了子君の目はどちらかと言えば待ったをかけたがっているように見えるな。……ここは女の勘を信じるとしよう。
「エルフナイン君、それについてはまたいずれ。要君の能力は機密扱いなんだ」
「そうなんですか。分かりました。まず、僕は皆さんに信頼してもらえるよう全力を尽くします」
「すまんがよろしく頼む」
素直な良い子だ。さて、では次の議題か。エルフナイン君の持ってきた聖遺物の欠片。ドヴェルグ=ダインの遺産だったか。その使い道だ。
「ギアの強化とアルカ・ノイズ対策に一応の目途はついた。次はエルフナイン君、あれについて話してくれるか?」
「分かりました。これを見てください」
メインモニタに表示されるデータ。これが了子君とエルフナイン君が検討中のオートスコアラー対策案か。
「アルカ・ノイズ対策の強化と並行し、僕が持ち込んだダインスレイフを使い、ギアの出力を上昇させるシステムを組み込みます」
「考え方としては響ちゃんが融合症例時代になった暴走を人為的に起こして制御する方向よ」
「暴走を……制御?」
「可能なんですか、そんな事が」
オペレーター二人から当然の疑問が出る。俺も同意見だが、了子君がそんな事を分からぬはずはない。と、思いきや彼女の表情は優れない。どういう事だ。そう思って見つめていると分かり易くため息を吐いた。
「なぁんか腑に落ちないのよねぇ」
「と、言うと?」
「弦十郎ちゃん、考えてみて? あまりにも出来過ぎじゃない?」
「…………そういう事か」
了子君の言いたい事は分かった。あまりにも流れが上手く行き過ぎているのだ。新たなノイズは今のギアでは対応し辛く、オートスコアラーには力負け。そこへその対策と強化案が可能になる人材と材料がやってきた。まるで何者かのシナリオ通りに進行させられている気がする。
「エルフナイン君を疑う訳ではないが、確かに出来過ぎな感は否めん。だからこそ了子君はこの強化案に反対なのか」
「そ。私もエルちゃんは白だと思う。だけど、その行動の背景はそうだと思えないの。これが遭遇戦前なら話はまた違ったわ。だけど、あの戦闘でこちらは有効な手立てを失った。唯一対抗出来そうな手段は封じられ、ジリ貧になる可能性さえあった。そこへ来てのエルちゃんとこれよ?」
「ですが、なら何故敵はこちらへ塩を送る真似を?」
翼の言葉に響君達も頷く。それは一つしかないだろう。見れば了子君もナスターシャ教授も察しているようだ。ならば、ここは一番の年長者へお願いしよう。俺の視線を受け、ナスターシャ教授が頷いてくれた。
「それも計画とやらの内、だからです」
「なんデスと?」
「……そうか。あの時のドクターみたいな事だね、マム」
「ええ、ドクターウェルが私達の拠点を敢えて知らせ、アンチリンカーの実験と私達の居場所を奪う事で自身の欲望を推し進めたあの行動です。敵に利するように見える時は、その裏で別の目的を叶える行動と見る方が良いでしょう」
ナスターシャ教授の言葉は翼達への強い説得力を与えたようだ。何しろあのフロンティア事変で実際経験なさったからな。俺が言うよりも説得力がある。感謝を込めて目礼する。本当に要君や装者達には頭が上がらない。二度の戦いで失われるかもしれなかった命が今に繋がっているからだ。だからこそ、今回は辛い部分が多い。今まで要君の能力に助けられた部分は大きいためだ。
「じゃ、じゃあやっぱりこれを僕が持ち出せたのは……」
「おそらくキャロルって子の思惑でしょうね。検査の結果、エルちゃんは暗示や催眠の類にかかっていないのは証明済みだけど……」
「ギアの強化案、プロジェクトイグナイトはしばらく様子を見た方がいいでしょう。或いは組み込んでも使用しないよう心掛けるのがいいかと」
ナスターシャ教授の意見が一番いいか。例え敵の思惑通りとしても、要君がいない今はそれに頼るしかないのも事実だ。
「了子君、ドリンクの予備はどうだ?」
「新入生コンビだけが使う事を考えるとかなり余裕よ。ただ……」
「私達も出撃の度に使うってなると厳しい、ですよね? 了子さん」
「ええ」
「なら、どうする? チームを二つにするか?」
「奏が動けない今はそうするしかあるまい。しかも連携等を考えると旧二課と旧F.I.Sで組むべきだが」
「私なら大丈夫。ちゃんと切歌と調を守るから。今度は……もう躊躇わない」
セレナ君はそう言って奏君を見る。ふむ、どうやら奏君が戦闘不能になった事でセレナ君も腹が決まったようだ。ならば不幸中の幸いと言うべきだな。では、ここは俺が指揮をするか。
「前回オートスコアラーと遭遇した地点を重点的に捜索。その際、全員ドリンクを使用。オートスコアラーが出現した場合、戦闘し可能なら撃破してくれ。無理ならば撤退だ。前回の事と今回のエルフナイン君への行動から察するに、向こうもこちらを利用しようとしている節がある。おそらくだが、強引に撤退しようとすれば深追いはしないはずだ」
「万が一そうじゃなかった場合は?」
「そのためのドリンク使用だ。しかも一気に二本使ってくれ」
俺のその提案に全員が言葉を失った。無理もないか。だが、数が限られているからこそ有効利用する必要がある。それに、要君との長年に渡る付き合いのおかげか奏君は既にドリンク要らずになっている。最近では切歌君や調君の適合係数も上昇していると聞くし、勝負をかけるなら短期決戦だ。
「し、師匠? さすがにそれは」
「いや、悪くねえ判断だ。出し惜しみしてる場合じゃねえしな」
「雪音の言う通りだ。数少ないからと惜しんでいては、いざと言う時に競り負けるやもしれん。ならば、ここが天王山とばかりに一気呵成の攻めを見せるべきだ」
流石にクリス君と翼は勝負所の勘が良い。その説明を聞いてセレナ君達も分かったようだ。何度も何度も遭遇戦をするつもりはない。要君の救出は一刻を争う。であればドリンクの在庫を全て使い切ってでもやり遂げなければな。
「いいか? 次にこちらが出向く時は相手から要君を取り戻す時だ。それまでは迂闊な行動はせず、エルフナイン君の改良作業を待つ。エルフナイン君、まずは奏君と翼、そして響君のを頼む」
「は、はい」
「クリス君とセレナ君は切歌君と調君と共に待機。もし相手がアルカ・ノイズを使ってきた場合、対処出来るようにだ」
「だからまず接近戦三人なんだ」
「おおっ、そういう事デスか」
そう、経験豊富で連携を一番やってきている三人をまず行動可能にする。それまでは遠距離主体で戦えるクリス君を主軸に、どちらも出来る切歌君と調君をサポートに付け、守りに長けたセレナ君を最後衛とするチームで防衛に当たってもらう。
「エルちゃん、私も手伝うからね。一人だけでやらないでいいわ」
「こちらでも出来る事は言ってくれて構いませんからね」
「あ、ありがとうございます。了子さん、ナスターシャさん」
どうやら研究者チームは上手くいきそうだ。まるで三世代家族のような構図だが、だからこそいいのかもしれん。異なる年代や環境にいたからこそ、それが噛み合った時に強みとなる。要君、待っていてくれ。必ず君を連れ戻し、父親にさせてみせるからなっ!
「ミカ、舌出して」
「ベー……んむぅ」
「いい匂い……濃いスープがもらえそうだわ」
「それは同感だけど独り占めすんじゃないわよ?」
ミカとディープキスしながらファラとガリィにフェラされる。レイアを起動させるまではこれがおそらく毎朝の光景。ミカに飲ませてもいいんだけど、そうすると暴れたいと言いだしかねない。なので濃いスープはファラやガリィへ飲ませ、ミカには多少薄くなったスープをあげる事にした。
「っぷは! ん。ミカ、これも好きだゾ」
「良かった。もっとしようか?」
「するゾ。もっとウマいの欲しいゾ」
素直なミカは欲求も素直。なので可愛く思え、自然キスにも熱が入る。頭も撫でてやると嬉しそうに目を細めるとこはもう猫だ。が、俺がミカばかりに意識を向けていると下半身の二人が熱烈フェラを始める。特にガリィが凄い。下半身の熱を感じつつミカへもその熱を伝えるようにディープキスをする。
「ほらぁ、さっさと出しなさいよぉ」
「ふふっ、とても硬くなってきました。そろそろ出るんですね」
「ならこの筋をゆっくり舐め上げてやろうかしら?」
「では、私はこのくぼみに沿って舐めてあげましょう」
「「さあ、出しなさい」」
ああっ、これはやばい。ミカも俺の唾液を吸い取ろうと激しく舌を絡めてくる。もう耐え切れない。それを察知してガリィが亀頭を口へ咥えた瞬間、生命のスープが放たれる。だが、ガリィも分かっているのだろう。飲む事はせず、口に貯えたままファラとキスを開始する。その光景を見ながら俺はミカとのキスを終えてその耳元へ囁く。
「分かったゾ」
こうしてガリィとファラのキスを眺めながら俺はお掃除フェラをミカにしてもらう。ああ、やばいなこれ。みんなとは精々が3Pだったのに、ここにきて4Pが日常になりつつある。贅沢な環境だよなぁ。しかもこの三人は俺に敵対する側なのだから余計に興奮する。
「ごちそう様」
「美味しかったわ」
「ウマかったゾ」
それぞれ口の端に俺の精液を残し、妖艶な顔を見せる可愛いスコア達。と、そうだ。確認をしておかないと。念には念をって言うし。
「あのさ、三人にとって俺ってどんな存在?」
「ま、死なれたら困るわね」
「計画のために生きていてもらいます」
「ウマいものくれる奴だゾ」
「えっと、なら俺とキャロルちゃんなら好きなのは?」
「あんた」
「あなたです」
「お前だゾ」
よし、確認完了。それに、ガリィだけじゃなくファラの声にも若干感情らしきものが乗っている。ミカは変化なしだけど、じゃれつき方が初日よりも強い。これは上々かな。なら、レイアを起動させるのは明日にしよう。それで何とかなるはずだ。
「ガリィ、明日レイアを起動させよう」
「……いいの?」
「ああ、全部のオートスコアラーが起動すればキャロルちゃんも何か動きを見せるかもしれない。計画の進行度も気になるしね」
「では、私からマスターへ進言しておきましょう」
「いいわよ。あたしがするわ。あんたは余計な事しないの」
軽く火花を散らすガリィとファラ。ミカは関係ないとばかりに欠伸をして俺のベッドに横たわる。うん、ホント猫みたいだ。
「ファラ、キャロルちゃんへ下手な進言すると余計なお世話だって言われるかもしれないから」
「……そうですね。では、ガリィに任せます。マスターの機嫌を損ねたくないですので」
「ケッ、言ってなさいよ」
やはりどこか仲が悪い二人。いや、これはもしかして……俺へポイントを稼ごうとしているのか? もしそうだと仮定すれば納得がいく。ガリィは一番に俺のスープで壊れ、ファラは二番目に壊れた。共に主人であるキャロルちゃんへ忠誠を示そうとしている点は同じ。それが俺にも適応されているなら当然か。
「二人共、ケンカは止める。じゃないと俺がキャロルちゃんに二人がケンカしてスープを出し難くするって言うよ」
その瞬間二人が何事もなかったかのように睨み合いを止めた。よし、これでいこう。俺にも嫌われキャロルちゃんに叱られるのは嫌だろう。俺はすっかり眠ったミカへ毛布をかけ、静かに部屋を後にした。その後ろからガリィとファラもついて来る。向かう先は当然キャロルちゃんのいる場所。
「ん?」
見えてきた玉座に座るキャロルちゃんは目を開けていたがその雰囲気がおかしい。目を開けたまま寝ているのかと思ったけど何か様子が違う。もしかして何かあったのかと思って急いで駆け寄ろうとした―――ところをファラとガリィに止められた。
「何?」
「今、マスターは精神統一を行っています」
「邪魔すんじゃないわよ」
「精神統一?」
言われてもう一度キャロルちゃんを見る。たしかに何か集中しているような感じもある。あと、口が微かに動いていた。何だろう? 若干不気味なんだけどな、あれ。
「……錬金術師の精神統一って変わってるんだな」
俺はそう呟く事しか出来なかった。でもそうであるなら仕方ない。とはいえ、部屋に戻ったところでする事もないし。なのでその場でしばらく立ち尽くす事に。キャロルちゃんの精神統一が終るまで待機するしかないからなぁ。だけどただ待っているだけなのも退屈なのでガリィ達へ質問をしてみる事に。
「な、アルカ・ノイズってキャロルちゃんやみんなしか使役出来ないの?」
「いえ、資金援助の材料としてマスターがパヴァリア光明結社へ流したはずです」
「資金援助?」
「このチフォージュ・シャトーを作るためのよ」
「ああ、そっか。そりゃそうだよね」
錬金術でも元手がなければ作り出す事は出来ないよな。それにしても、今のは由々しき問題だ。アルカ・ノイズがキャロルちゃん達だけのものじゃないとなると、俺の装者妊娠計画は考え直さないといけない。と、ふとそこで気になる事が。
「ね、仮の話だけどさ。もしガリィとファラがアルカ・ノイズと戦うとして倒せる?」
「「可能だけど(ですが)?」」
「……そっか」
最低な考えだけど、これでみんなへガリィ達を助けて仲間にする理由とメリットが出来た。俄然レイアも壊してキャロルちゃんを説得ないし懐柔出来ないか可能性を探らないといけない。そこでふと視線を戻してキャロルちゃんを見た。するとその目が合う。
「何をしている?」
「キャロルちゃんが精神統一してるから邪魔するなって言われてね」
「……そうか」
チラリとファラやガリィを見てからキャロルちゃんはそう返した。うん、どうやら違うっぽい。でも、下手に首突っ込むとヤバイだろうから触れないでおく。
「それで、一体何の用だ?」
「教えられる範囲で計画の事を教えて欲しいんだ。無理なら諦めるけど」
「ほう、思い切った事を言う。教えられる範囲だと? 一つもないと言ったらどうする」
「別に。どうせみんなが阻止するんだろうし、ルナアタックの時やフロンティアの時みたいに終わった後から教えてもらうだけ」
本心をさらりと返す。正直時間潰しに近いんだ。キャロルちゃんと世間話をしたいけど、きっとそれは嫌がられると思った。だからキャロルちゃんが話したい事や話を続けてくれそうな事を考えたらこうなっただけ。キャロルちゃんは俺の素っ気無い返しに一瞬言葉を詰まらせるが、どうやらまったく興味ないというのも腹が立つのか、渋々のように話し始めてくれた。
「俺は、奇跡を殺す。そして、世界を知りたい。それが計画だ」
「随分要約したね。奇跡を殺す事と世界を知りたい、か。前者はともかく後者は世界を巡るだけじゃダメなの?」
「貴様は一口に世界と言うが、この星がどれだけ無駄に広く雑多な文化や人種、生物が生息していると思っている。それら全てを知るには時間がかかり過ぎる上、果てがない」
「うん、だからじゃない?」
「……何?」
俺の返しにキャロルちゃんが初めて見せるような顔をした。純粋に虚を突かれたみたいな、そんな可愛くてあどけない顔。
「つまり、世界を知るってのは死ぬまで学ぶって事じゃないかな? ほら、良く言うじゃない。人間死ぬまで勉強だって。だってさ、今日出会った人や物だって、明日には何か変わってるかもしれない。一度訪れた場所も次に訪れたら変化しているかも。て考えたら、世界を知るって事はずっと学んで覚えて、また学んでの繰り返しをする事かもしれない」
俺のその答えにキャロルちゃんは目を何度か瞬きさせる。そんなにおかしい事を言ったつもりはないんだけどな。俺にしては結構まともな事を言ったと思うし。それと、もう一つ言っておくか。
「あと、キャロルちゃんは奇跡を殺すって言ってたけど、それは止めておいた方がいいと思うよ?」
「何故だ!?」
「キャロルちゃんもご両親が出会った結果の命じゃないか。それ、十分奇跡だから。もっと言えばキャロルちゃんのご両親が出会った事も奇跡で、その二人が生まれた事も奇跡。昔からの奇跡が今の俺やキャロルちゃんに繋がってる。奇跡を殺すっていうのは、自分を殺す事と同じじゃないかなって、そう思うんだけど……どう?」
そう言ってキャロルちゃんの反応を窺う。キャロルちゃんは完全にその表情が固まっていた。まるで俺を通して誰か別の人を見ているようだ。ふと見ればファラもガリィもそんなキャロルちゃんに驚きを隠せないみたい。二人して目を見開いていた。
「命は奇跡……出会いは奇跡……じゃ、もしかしてパパが言いたかった事は……」
まるでうわ言のように呟くキャロルちゃん。今、パパって言ったな。じゃ、キャロルちゃんに世界を知りなさいって言ったのはお父さんなのか。でも、どうしてそれが奇跡を殺すなんて発想に繋がっていくんだ? この辺り、エルちゃんがいれば分かったかもしれない。でも、キャロルちゃんに死んだお父さんの事を根掘り葉掘り聞くのも気が引ける。
「ね、キャロルちゃん。キャロルちゃんが世界を知りたいって思ったのはどうして?」
「…………今は亡き父が最後に言い残した言葉だ」
「そっか。なら遺言として考えれば余計俺の言った意味だと思うよ。自分の分まで長く生きて欲しい。でも、それだけだと寂しいから、自分が見れなかった物や出会えなかった人を知って欲しいって、そういう意味をくっつけたんじゃないかな?」
俺の言葉にキャロルちゃんは本当に押し黙って俯いてしまった。何となくそっとしておくべきかと思って静かにそこを離れようとした。でも、そうしようとした時、誰かが俺の服の裾を掴んでくる。振り向けばキャロルちゃんの手がしっかりと、でもどこか躊躇いがちに裾を掴んでいた。
「えっと、キャロルちゃん?」
「………………もっとお前の話を聞かせろ」
「え?」
「世界を知るのは人を知る事もあるんだろう? なら、お前を教えろ。まずはそこからだ」
「……ああ、分かった」
若干気恥ずかしそうに顔を背けるキャロルちゃんに心から微笑みを浮かべ、俺は話し出す。と言っても俺の記憶は二課に保護されたところからだから、十年は越えているけど十五年もない。その事にキャロルちゃんが気付いたのはすぐだった。俺がいきなり二課の話を始めたからだ。
「おい、まずはお前の幼少期を話せ」
「あー、そのね。俺、実はノイズに襲われてるとこを保護されたんだけど、それ以前の記憶がなくって」
「……記憶喪失と言う奴か」
「うん、そうなんだ。だから二課に保護されたところからしか話せない」
俺の言葉が事実と分かってくれたのか、キャロルちゃんは少し考えた後ため息を吐いた。
「分かった。なら、お前が知っている思い出を全部俺に話せ」
「ああ、えっとまずは……」
二課に保護された事から始まり、風鳴さん達と出会い、名前をもらい、奏や翼と知り合い……話しながら俺も忘れかけていた事が沢山あるんだと思いながら話を続けた。キャロルちゃんへは現代社会の文化を中心に話した。きっとキャロルちゃんが知ろうともしてない事だと思ったから。そして装者のみんなの事も。何かで聞いたけど、兵士が簡単に敵を殺せるのは相手の事を知らないかららしい。だから、みんなの事を知ってもらって、少しでもキャロルちゃんが殺しにくくなってくれれば、もっと言えば本人達と話して知りたいと思ってくれれば。そんな事を思いながら話した。
「マスター、そろそろ食事の時間ですよ。あと、ついでにそいつも」
俺とキャロルちゃんの会話はガリィの声で終わりを迎えた。そんなに話しこんでいたのか。キャロルちゃんも軽い驚きを浮かべてガリィを見ている。
「そうか。なら、持ってきてくれ」
「はーい」
「えっと、いいの?」
「構わん。わざわざ部屋まで運ばせるのもな」
「それもそうか」
そうして運ばれてきた食事は信じられないものだった。所謂サプリとでもいえばいいのだろうか。色んなカプセルが入ったグラスがキャロルちゃんの前に出される。俺の目の前にはいつものようにパンとメインディッシュにサラダとスープ。
「……まさかいつもそれ?」
「必要な栄養素はこれで十分だからな」
「よし、分かった。キャロルちゃん、お願いがある」
「どうした急に」
「買い物に行かせてくれ。食料品を買う。で、ちゃんとしたご飯食べよう。俺と、出来るならみんな一緒に」
キャロルちゃんの呆気に取られた顔を初めて見た。ふと視線を動かせばガリィとファラも似た顔をしている。自分でもとんでもない事を言い出したと分かってる。だけど、これを見せられてクリスやセレナとのデートを経験した俺が黙っていられる訳がない。
「荷物持ち兼見張りにファラやミカを連れて行っていい?」
「……本気で言っているのか?」
「キャロルちゃんだってずっとこんな食事してた訳じゃないよね? なら、現代の料理本を買ってくるからそこから食べたい物を作るよ。あっ、そんな事しないでキャロルちゃんも一緒に行けばいいのか」
「なっ!? どうして俺が」
「だって、その食事が百歩譲って体にいいとしてもだよ? 精神的には? そんな食事じゃ心の栄養は足りないよ」
心の底からそう断言する。さしものキャロルちゃんも、心の栄養との表現には即座に反論出来なかったらしい。僅かに言葉に詰まり、こちらを見上げるだけだった。ならばと俺は言葉を続ける事にした。
「世の中に色んな食べ物が溢れてるのはその証拠だよ? みんな、栄養のためだけに食べるんじゃない。自分の心のためにも食べてるんだ。キャロルちゃんも昔はそうじゃなかった? 初めて見る食材や料理に心を動かしたりしたんじゃない?」
「料理……心の栄養、か……」
何かを思い出したのかキャロルちゃんは一瞬だけ遠い目をした。俺はしばらくキャロルちゃんの反応を待つ。ダメと言われたらしょうがないけど、出来る事なら栄養食じゃなくて温かいご飯を食べさせたいと思う。キャロルちゃんが荒んでしまった理由は、きっと心の栄養を取らなくなったからだ。そして、おそらくだけどその原因はお父さんが亡くなった事なんだと思う。最後の言葉を支えに今まで生きてきたんだと分かるぐらい、キャロルちゃんはお父さんが好きだったんだ。俺には家族の記憶がないから分からないけど、奏と置き換えれば理解出来るから。
「……いいだろう。装者達への揺さぶりにもなるかもしれん」
「じゃあ……」
「お前の言う通り、あの言葉がそういう意味だとしたらこの目で見るのも必要だと思うからな」
「うんうん。なら明日みんなで行こう。と、なら明日レイアを起動させようか。それで全員で買い物だ」
「いいけど目立つんじゃなぁい?」
ガリィの遠回しな面倒くさいから行きたくない発言だ。でも、たしかに目立つかもしれない。するとキャロルちゃんがバッサリと一言。
「それがどうした。なら目立たぬように考えろ」
これにガリィは返す言葉を持たず、黙って従う事となった。ま、外国人然としてるみんななら目立つとしても悪目立ちじゃないとは思う。こうして俺は翌日の外出に備えて部屋へと戻った。で、思い出したのだ。
「ミカ……いつまでここで寝るんだ?」
「もう食べられないゾ……」
結局この日はミカと一緒に寝ました。朝起きた時にフェラされてたのには驚いたけど。目覚ましフェラをしようと部屋に来たガリィと軽く揉め、その間にこっそりファラが抜くという一幕がありましたとさ。