照りつける太陽。香る潮風。焼け付く砂浜。まさしく海日和である。今、俺達はS.O.N.Gの所有する海辺の保養施設に来ていた。表向きは砂地や海辺でのギアのデータ収集だが、実際は思いの外早く課題を片付けたご褒美である。響と切歌はそれぞれの相方と、マムと了子の目もあって八月前に課題を全て片付ける事に成功したのだ。調も二人と同じではあるが、怠けやすさとさぼり易さで目立たぬため、そこまで口うるさく言われる事はなかった。
「うっみだぁ!」
「デスね~っ!」
で、その二人が一番元気がいいのも当然である。何せ、響は今まで課題を七月中に終わらせた経験などないそうだ。俺はどうだったんだろう? 記憶がないから分からないけど、きっと俺も響側だろうなぁ。
「響、あまりはしゃぎ過ぎないの」
「切ちゃんも。了子さん、身重なんだからね」
「「はぁ~い……」」
未来と調に忘れてたとばかりの反応を返す二人。そう、了子も臨月近い体で参加しているのだ。何でも、出来るだけ動いてやりたいのと、エルやキャロルとの時間を作ってやりたいからとの事。俺やマムだけでなくみんなが軽く止めた時、彼女はそう微笑んで理由を教えてくれたのだ。なので、みんなで了子とお腹の子を気遣う事で同意し今日に至る。
俺はみんなの荷物と了子やマムのためにパラソルを立てていた。これをもう一回やらないといけない。人数が多いので、どうしてもそうなるのだ。
「っと、これでいいな」
「ありがと、アナタ」
「シキさんはどう動くのですか?」
水着を着た了子が微笑み、同じく水着―――しかも人生初らしい―――を着たマムから問いかけられる。俺の動き、かぁ。前だったら一緒に泳ぐとか遊ぶと言えたけど、今はエルとキャロルの事を見ててやりたいかな?
「エルやキャロルを」
「マスター達ならもう遊んでるわよ?」
後ろから聞こえたのはガリィの声。水着姿の彼女はある一点を指さした。そこでは、エルとキャロルが揃って砂で何かを作ろうとしている。それをミカも一緒になって遊んでいた。うん、和む。
「それにマスター達なら私達が見ておきますのでご安心を」
「派手な日差しと地味な仕事。マム達も私達が見ているわ」
「そういう事よ。必ずあたし達の誰かはここにいるから」
「あら、悪いわねぇ」
「そういう事らしいので、シキさんもご自由に。私も基本ここにいますから」
妻と義母、そして家族たちからこう言われてはしょうがない。ありがたくお言葉に甘えてバカになってきますか。
「ありがとうみんな。じゃ、ちょっとばかし父親見習いからバカのプロに戻るわ」
そう告げるとその場の全員して納得するように苦笑した。それがどこか恥ずかしくて、でも嬉しく思えた。了子達に見送られ、俺はまず準備体操をしている翼達の元へ。見れば奏はもう響や切歌と沖を目指して泳いでいる。元気だなぁ、あの三人。
「あれ? シキさん?」
「了子さんと一緒に居なくてもいいのですか?」
調と翼に揃って不思議そうな顔を向けられる。見ればマリアもそうらしく、セレナと揃って少しだけ気の抜けた顔を見せていた。
「その了子やマムに言われたんだよ。こっちは気にせず過ごしてくれってさ」
「成程ね。道理であそこにガリィ達が居る訳だわ」
「そ。で、こっちは真面目にギアを展開するんだろ? だから俺はここでその様を見せてもらおうと思ってさ」
「どうしてですか? シキさん、みんなのギアなんて見慣れてるのに」
セレナの意見はきっとこの場の総意なのだろう。誰もそれに何も言わないのだ。と、そこへ遅れて現れたクリスと未来が近付いてきた。ふむ、クリスは赤の色合いでビキニタイプか。未来は可愛らしい淡いピンクのワンピースタイプ。どちらもイメージに合うなぁ。
「ん? どうしたんだよ?」
「何かあったんですか?」
「あー、うん。俺がみんなのギアを見たいって言ったらどうして今更ってね」
「「あー……」」
俺の言葉に納得するような声を出す二人。さて、では俺の正直な意見を述べるとしますか。
「そりゃ見慣れてはいるよ。でも、俺が見慣れた姿だけじゃないだろ?」
そこでみんな理解したらしい。そう、通常状態だけじゃなくイグナイトもデータを収集するはずだ。あれはまだ一度しか見てない。しかも、何となくだけどあのギア、露出は減る分どことなくエロさが漂うんだよなぁ。呪いの姿だからだろうか?
「イグナイトモジュールもたしかに試すつもりだけど……」
「それが楽しみなんですか?」
「まあね。正直、あれってみんなが若干エロく見えるし」
「シキさんらしい」
調の一言に全員が深く頷く。でも、その表情が笑っているので良しとする。そうこうしている間に奏達も砂浜へ戻ってきた。というか、何で君ら三人は全力で遠泳して疲れてないんだ?
「ありゃ? シキがいる」
「デスね。シキさんはてっきりマム達とおしゃべりかと思ったデスよ」
「何ですか? シキさんもギア纏ってみます?」
「気持ちだけでいいよ。出来ても出来なくても笑いは取れそうだけどさ」
俺の本音にみんなが笑う。そこへエルとキャロルも現れたので、いよいよデータ収集開始となった。見れば了子とマムも携帯端末を手にしているので準備完了のよう。
「じゃ、みんなの艶姿を期待してるよ」
「シキさん、未来はイグナイトないんですけど?」
「……なら未来なりに頑張って擬似イグナイトとか?」
「出来る訳ないじゃないですか」
「だよね。なら、その時は未来だけ俺の傍においでよ。艶姿を眺めてイチャつこう」
その言葉に小さく笑う未来と呆れるマリアやクリス。奏や翼はらしいと思って苦笑していた。こうして始まったギアの運用データ収集。どうも砂浜は足を取られるらしく、みんな苦労していた。こうして考えると、ギアって局地戦には向いてないんだな。もっと言えば極寒や灼熱と言った限定的な環境下に。
俺は一人照りつける太陽を浴びながらみんなの姿を見つめる。ある程度したところで未来以外がイグナイトモジュールへ手をかけた。いよいよか。そう思っていると、隣へ未来がやってきた。しかもギアのままで。
「どうしたの?」
「シキさんがおいでって言ったんじゃないですか」
「ああ、いやそっちじゃなくて格好」
「あ、これですか? ギアの方が水着よりも日焼けしないかなって」
「……ちょっと触っていい?」
「どうぞ?」
軽く未来のギアへ手を触れてみる。あっつい。
「金属とまではいかないけど、割と熱いね。肉とか焼けそう」
「そうなんですか? どれどれ……っ!」
「ね?」
小さくこくこくと頷く未来。視線を前へ戻せば黒を基調としたギアを纏ったみんながいる。と、どうも様子がおかしい。明らかに先程よりも動きが鈍い。と、そこで気付いた。未来のギアと今のみんな。共通点はその色だ。黒いのだ、見事なまでに。
「うひゃ~、これは結構キツイねぇ」
「ま、まさかイグナイトにこんな欠点があるとは……」
汗を流しながら奏と翼が額を拭い……。
「お、思ってた以上にしんどいよクリスちゃん」
「ああ……ある意味でイグナイトの弱点かもな」
響とクリスはその首筋から胸元へ汗を流し……。
「ダメデ~ス……このままじゃ干からびるデスよ~……」
「日陰に行きたい……」
茹だる暑さで切歌と調がグロッキー気味に呟けば……。
「局地的な環境変化……こんなところにギアの欠点があるなんて」
「あとは泳ぐのも無理そうだね、ギアだと」
イヴ姉妹は疲れた顔で息を吐いていた。うん、これは当然かも。見ればエルとキャロルも熱さでちょっと疲れた顔をしている。じゃ、ここはあれの出番だな。せっかく用意したのに忘れてたよ。
「シキさん? どこへ?」
「うん、ちょっと荷物からキャロルとエルの帽子をね」
小走りでパラソルの下へ戻り、二つの麦わら帽子を手にして戻る。で、それをキャロルとエルの頭へと。
「これは……?」
「帽子か?」
「麦わら帽子だよ。風通しもよくてつばも大きいから夏にはよく使われたんだ。ごめんな、もっと早く渡せば良かった」
「似合ってるよ、エルちゃんもキャロルちゃんも」
未来がそう言うと二人は互いを見つめ嬉しそうに笑う。それだけで俺と未来にも笑みが浮かぶ。が、どうやらその光景があの年下コンビには羨ましく映ったようで……。
「う~っ、キャロルとエルだけズルいですよぉ。アタシも涼しい格好になりたいデスっ!」
「でも、まだギアのデータ収集中。水着には戻れない……」
「いっそギアが水着みたいになればいいんデスよっ! それならきっと涼しいはずデス!」
「水着のギア……シキさんが喜んでくれそう……」
何事かをぶつぶつ言っている二人だったが、次の瞬間、その姿に誰もが言葉を失った。そこには何故かスクール水着姿になった二人が立っていたのだ。
「「あれ? 急に涼しくなった(デス)」」
あまりの事に目を疑う。え? ギアってそんな事も出来るの? そう思って俺は了子へ目をやる。あっ、目を真ん丸にした了子なんてレアなもん見たや。てことは、これは了子でさえ知らない現象って事か。あと、地味にマムも似たような顔をしていて、どれだけこれが凄い事かを物語ってる。
「し、調? 切歌も何をしたの?」
「「え?」」
「お二人のギアが形状変化を起こしてるんです。その、水着の一種に」
エルの言葉でようやく二人も理解したらしい。自分達の姿を見て驚いた後、揃ってこちらを見てきた。うん、さすがにスクール水着を可愛いと言うのはどうかと思うので、感想はこの一言にしておこう。
「二人にとっての水着ってそういうイメージ?」
「あー、何というかデスね……」
「一番着た水着がこれだった」
「ああ、そういう事か」
学院での授業が二人にとっての水着デビューである訳だ。だからスクール水着な訳ね。にしても、これは言うなれば水中用ギアなんだろうか?
「エル、これはギアが海辺に対応してくれたって事?」
「かもしれないです。お二人は一度初めからデータを取らせてくれますか?」
「いいデスよ! 何かこのギアになったら暑さもそこまで感じないデスし」
「うん、それに砂浜に足を取られない」
二人の言葉に了子とマムが手を動かして計測の準備を始める。エルは二人と共に移動開始。どうやら先に水中のデータを取るらしい。で、残された響達はと言えば、ある意味で予想通りの行動を始めていた。
「私も水着ギアになりたい……奏さんっ!」
「やってみるか? どうも強く思う事が鍵みたいだけど」
「信じられないけどやってみましょう。二人に出来て私達に出来ないとは思えないし」
「ギアの新たな可能性か。試してみる価値はあるな」
「んじゃ、やってみるか」
「後はシキさんの事考えてみるとか? 調はどうもそれも切っ掛けだったみたいだし」
六人揃って水着ギアへの変化を試してみるらしい。じゃ、俺は隣の子へ目をやる。
「未来も試してみたら? あれ、きっとギアだから変化したんだろうし」
「そうですね。やってみます」
「出来ればちょっとセクシー系でお願い」
「もう、シキさんったら」
そう軽く笑って未来は再び響達の元へと向かう。そして何事か話していた。で、全員がこちらへ一度目をやるので、最後の一言を教えたんだろうと予想。なので両手を合わせて拝むとため息を吐かれた。こうして響達がギアの変化を試す中、調と切歌の水着ギアは水中及び砂浜へ驚くべき対応力を発揮していた。
エルだけでなく了子やマムも驚きを隠さず、一旦データ収集を中断して話し合いを始めてしまったぐらいだ。キャロルはシンフォギアの新しい可能性に唸り、ガリィ達は感心しながらこう述べた。
「便利ねぇ」
「そうね。その気になれば着替えずに泳げるもの」
「私達でさえ水着を着ないと色々地味に面倒」
「さすがに裸でいると他の目がある時は不味いゾ……」
「うん、そうだね。そっちはいいけど周りはそうはいかないから」
今回も俺達だけなので構わないと言えなくもないが、一応念のために彼女達も水着を着てもらっている。それにしても、キャロルの製作とはいえファラとレイアは中々な外見だな。これ、海水浴場にいたら確実ナンパされている。ガリィとミカは外見的にナンパはないかもしれないが、それでも可愛らしいので声をかけられないとも言い切れない。スコアの四人も今は間接などを人形と思えないように細工してあるため、パッと見は人間と遜色ないし。
「父さん、ふと思ったんだが」
「何?」
「これは、ギアの本当の意味での汎用性の形かもしれない」
「……装者の強い意志でギアがその環境へ適応するって事?」
「ああ。可能性はある。エクスドライブとやらも、強い相手と戦うための適応かもしれん。まぁ、それは発動に膨大なフォニックゲインが必要だが」
キャロルの言葉で俺も考えてみる。そう言えば昔、クリスがギアを下着代わりに発現させていた事があった。成程、予兆はあった訳だ。だけど俺もクリスもあれっきりの事だったし、そこまで大きな変化じゃなかったから気にも留めなかったんだろう。それに、あの時は初素股の方が印象強かったしな。
「どうした?」
「うん、以前クリスがギアを下着のように展開してた事を思い出したんだ。あれもそういう事なのかなって」
「…………どうしてそんな状況になったかは触れないでおくが、そんな事があったとはな」
「やっぱり必要なのは装者の強い意志?」
「もしくはイメージかもしれないな」
そこで会話は終了。キャロルがエルに呼ばれたからだ。麦わら帽子を片手で押さえて駆け足で砂浜を走る姿は、本当に可愛らしい少女そのもの。エルと並ぶと本当に双子だ。違いはほくろぐらいかな? 後は口調と声。水着は色違いのワンピースタイプ。キャロルがオレンジでエルがスカイブルー。本当に愛らしい娘二人である。
「シキさ~んっ! ちょっとこっち来てくださ~いっ!」
呼びかけに顔を動かせば、装者九人が揃っていた。で、響が大きく手を振っている。何だろうと思いながら近寄ると、全員の視線がこちらへ向く。
「何?」
「うん、実はイグナイトを制御する時に、あたしら旧二課組はシキに見てもらいたいって気持ちでそれを制御出来たんだ」
「だから、シキさんに傍で見てもらえばギアも変化させられるのではないかなって」
「ま、あたしらも見せたい奴がいる方が意識出来るしな」
「それにシキさん自身が少しセクシーな感じが良いって言いましたしね」
「と、言う訳なんです」
響の締め括りに頷き、俺はマリア達を見た。特に既に水着型の調と切歌を。
「二人は別にいいんじゃない?」
「ダメデスよ! これ、そこまで可愛くないデス」
「うん、それにシキさん、あまりこの水着に反応してくれない」
「らしいわ。で、もし二人のギアの形状が変わるのならそれもデータとして必要かとね」
「だから調と切歌もここにいるんです」
「そういう事ね」
水着ギアの形状が変化するとか、もし可能なら本気で装者のイメージ次第になりそうだな。では、間近で見せてもらうとしますか。九人の女性によるある意味でのファッションショーを。俺が見つめる中、九人が一度ギアを解除する。そして、頷き合って一斉に聖詠と呼ばれる起動させる歌を口ずさむ。何というか壮大な感じがするけれど、やろうとしているのはこの海で快適に過ごすための事と思うと何とも言えない気分になる。
一瞬にして姿を変えたみんなだったが、何というかやはり変化なし。しかも、切歌と調さえも通常のギアへ戻っている。
「「あれ?」」
それに二人も気付いたようだが、俺は理由が分かっていた。
「多分二人がこんなギアじゃダメだって思ったからだよ。強いイメージが必要なんじゃないかってさっきキャロルと話してたんだ。装者自身の強い想像や思いがギアを呼応させるんじゃない? だから最初の二人はスクール水着になった訳で」
「じゃ、私達の海や水着への想いが必要って事ですね!」
「多分ね。おそらくギアとしてはこの環境に適応させただけで、その形状は装者に任せてるんじゃない? 装者の思う海辺に適した姿が水着だったんだと」
俺の推測に全員が納得するように頷いた。ならばと再びギアを解除する九人。そして今度は何故か俺を見つめて聖詠を歌う。どういう意味だと思っていると、再び光が彼女達を包みその姿を変える。
「……おおっ」
「どうやら出来たみたいだね」
「強くイメージする、か。どうやらシキさんの予想は間違っていないようですね」
「だな」
奏、翼、クリスが見事な南国を思わせるトロピカルな色合いの水着へと変わっていた。うん、良く似合う。それと、奏とクリスは果実もたわわである。翼? 彼女はそこではなく全体のバランスこそいい。特に尻と脚。
「未来も出来たね」
「うん、響と色が似てるね」
こちらは色合いは三人と違ってオレンジとレモンイエロー。柑橘系だな。太陽の響とそれに近しい未来だからだろう。
「こんな風になるのね、驚く程違うわ」
「うん、暑さが気にならないよ」
マリアとセレナも奏達よりの色合い。何というか、やはり全体的に南国じみてる。それと、姉妹はバランスが神掛かってるなぁ。これはビーチの女神様である。
「やったデス! アタシ達もちゃんとした水着になったデスよぉ!」
「うん、これならシキさんに喜んでもらえる」
そして切歌と調も変化成功。こうなると、やはり変化型ギアは装者のイメージが大事という事だろう。この後、九人による仮称水着ギアのデータ収集を行い、お昼を迎えた辺りでそれは終了。で、当然食べ物など売っていないので買い出しに行く事になったのだが……。
「じゃ、行ってくるよ」
「くっ……やはりグーを貫くべきだったか」
「今更悔やまないの」
「そうだぜ、先輩。ほら、行こうぜ」
俺は確定で、装者九人でのじゃんけんの結果、翼、クリス、マリアが買い出し部隊となりました。近くのコンビニまで徒歩で向かう。無論、三人は未だに水着ギアである。その方が快適だからね、仕方ないね。軽く上着を羽織って四人で歩く。まさしく泳ぎに来ている感全開だ。
「飲み物は俺が持つ事にするよ。食べ物は三人でよろしく」
「なら、あたしが菓子類」
「私は……オニギリや弁当か」
「それなら私はパンね」
歩きながら割り振りをする。一緒に買えばいいのだろうが、それでは袋が分けられないので四人で分担の物を買う事で分かりやすくする。と、ふと人気のない神社のような物を見つけた。目当てのコンビニよりも先の方だが、何故か気になる。
「どうしたの?」
「神社のようですね」
「あ? 何か珍しいもんでもあんのか?」
俺が足を止めたものだから三人も同じ方向を見て気付いたらしい。
「ちょっとだけ見てきてもいい?」
「……まぁ、急いでいる訳でもないし」
「これぐらいはいいか」
「そうだな。これも買い出し部隊の特権と思ってもらおう」
こうして四人で神社へ向かう。そこには、しめ縄を巻かれた大きな石が置いてあった。何となくだけど、不思議な力みたいなものを感じるそれに、俺だけじゃなく三人も息を呑んだ。
「これは……風鳴の家にある物と似ている」
「それって、要石って奴か?」
「そうだ。おそらく、これもその一つだろう」
「じゃ、ここも下手をしたらキャロル達が狙っていたのね」
「……でも、人気ないなここ」
見渡すけど、境内にも周囲にさえ人気がない。結構静かでいい場所だと思うんだけどな。そう思っての俺の言葉に三人も同意するように頷くが、その表情はやや苦いもの。
「まぁ、観光地ではないし……」
「いい雰囲気ではありますが、若者受けはしないでしょう」
「じいさんやばあさんなら気に入るかもしんねーけどな」
「……そっか。じゃ、ある意味でそういうのに最適かな?」
ぽつりと呟いた言葉に三人が微かに息を呑むのが聞こえた。今の一言で分かるぐらい、俺達は関係を深めてる。気付けば三人が俺の傍へ近寄っていた。両脇をマリアと翼、正面をクリスと言った具合に。その目は少しだけ艶めいていて、吐息がやや熱を持っている。
「神社で罰当たりな事してえとか、ホントシキってスケベだよな」
「まったくだわ。ここもこんなに大きくして……」
「ああ、凄く硬くて熱い。もしかして、私達の水着ギアを汚してみたいと?」
「……うん、スケベギアにしたい」
俺の言葉に三人は小さく笑い、揃ってチンポへと手を伸ばす。
「「「どうぞ?」」」
初めての露出プレイは、とても盛り上がりました。マリアと翼はどこかで分かっていたが、クリスも意外に興奮したらしく、締め付けがいつもよりも強かった。後、ギアでのプレイは後始末が楽でいいと三人して述べた。何せ一旦解除しもう一度纏い直せばいいのだから。こうして俺達はコンビニでの買い出しを手早く終え、みんなの待つ砂浜へと戻る事に。少しだけ急ぎ気味で戻ると、待ちきれなかったのだろう響と切歌が駆け寄ってきた。
「ごっはんだぁ~!」
「お腹ペコペコデ~ス!」
「犬か、おめーらは」
呆れるようにため息を吐くクリス。マリアと翼もどこか苦笑い。俺はパラソルの方へと向かって歩き、まず了子達へ飲み物を見せる。お茶やスポーツドリンク、ジュースなどを適当に大きなボトルで買ってきたのだ。勿論紙コップも一緒に。
「マム、了子も好きなの飲んで。ガリィ達もね」
「では、私は水を」
「私もそうしようかしら」
「なら、あたしはオレンジにするわ」
「私はスポーツドリンクを」
「私は派手な味の炭酸」
「ミカもそうするゾ」
そんな風に飲み物が開けられ始めると、マリア達もこちらへ近付いてきた。見れば響と切歌は翼の持つ袋を覗き込んでいる。ああ、翼はご飯系だからな。マリアはパンなのでがっつりしたのを食べたい二人はそっちがご所望と。
「マム、了子さんもサンドイッチはいかが? 菓子パンや総菜パンもあるわ」
「翼の方はオニギリや弁当系だから、そっちが良かったらそう言って」
「なら、私はサンドイッチにしておくわ」
「私は……マリア、中を見せてもらっても?」
「ええ。はい」
「いっそ、全部出して並べた方がいい。翼、そっちもそうしてくれる?」
「わかりました。響、切歌、少し離れてくれ」
こうしてパラソルの下でみんながそれぞれ緩い円を作るように座り、中心に食べ物が置かれる。クリスのお菓子は後となり、荷物と一緒に隅へと置かれている。飲み物は一か所に固め、ファラとレイアが注ぎ、それをみんなでリレーして渡す形を取った。うん、もう気分は大家族である。
「色々買ったのねぇ」
「ああ、一気に店の棚が空になったからな」
「少し気は引けたけれどね」
「大人買いってやつですね」
「どちらかというと、買占め?」
「独占デスね」
「来期の収益が二倍になるね」
「あー、またあの続きやらないと。やっと地域王とか高額物件とか面白い感じになってきたし」
未来の発言を受けての奏の言葉にみんながそれぞれに頷く。学生組やキャロル達は深く、マムや了子は微笑みながら、マリア達成人組は苦笑して。みんながそれぞれオニギリや弁当、サンドイッチにパンなどを手にして食事をする。誰かが飲み物を求めると、レイアやファラが動き、それをみんなが手渡していく。そんな光景を眺め、知らず笑みが浮かぶ。それと同時に心が引き締まる思いも。これを俺は守るんだ。そのために出来る事を精一杯頑張ろう。そう思いながら俺は梅のオニギリを食べる。
「……酸っぱいな」
何となくだがこれからの人生にも思えて噛み締める。風鳴さんの言った、大人とは必要とあればどんな味も飲み込む事という言葉が頭を過ぎる。キャロルやエルのためなら、了子達妻のためなら、マムやガリィ達家族のためなら、俺はどんな味だって飲み込んでやる。父として、夫として、守るとはそういう事なのだから。
そして話題は当然ギアの変化へ。俺とキャロルで話した事を了子とマムへ教えると、二人して少しだけ考え込む。何か気になる事でもあったかな。そう思いつつ誰もが二人の言葉を待った。
「ギアの変化は単なる環境適応であるとの推測は当たっているかもしれません」
「で、その形状が装者のイメージに委ねられているのもね」
「ええ。ですが、それだけではないと私は思います」
「私もよ」
「理由を教えてもらっても?」
エルの疑問に二人はチラリと目を向け合う。そしてマムが頷いて了子がそれに応じる。アイコンタクトで話す順番を決めたのか。
「私はね、調ちゃんの変化とその後のみんなの変化がその理由」
「私もです。貴女達は彼に見て欲しいと思ってギアを変化させました。それであるなら、ギアの変化は環境への適応だけでなく、装者の強い想いもその変化理由になると推測出来ます」
「じゃ、その気になればギアは何にでも形を変えられると?」
「……そりゃすごいね」
翼の言葉に揃って頷く二人に奏が感心したように感想を述べた。こうなるとクリスのギア変化もその証拠になり得るな。
「クリス、覚えてる? あのスープの正体を知った日の事」
「あ? 何でその話が今……あっ」
「何々? どうしたのクリスちゃん」
「何かあったの?」
響と未来の問いかけにクリスはどこか照れくさそうに頬を掻くと、あの話をしてくれた。俺が疲れで眠ってしまい、心配して仕方なく泊まる事になった日の事を。下着を洗濯する間、ギアを下着のように展開した事をだ。それに了子とマムが揃って頷いた。その推測への何よりの後押しになったからだろう。
それにしても、もし本当にギアが装者の強い想いで変化するなら以前ぼんやり思ったエロギア、いやスケベギアの妄想は現実味を帯びてきたな。ボンテージやナース、婦警にOLとコスプレに最適かもしれないし。何より、どれだけ汚しても後始末が楽という利点が凄い。
「父さん、だらしない顔をしてるぞ」
「もー、またエッチな事を考えてますね?」
「……ごめんなさい」
娘二人に軽く睨まれ頭を下げる。それでみんなが笑ってくれた。と、そこでいつか思った事を提案してみる事にした。そう、みんなでの旅行だ。目的地は未定だが、その一番の目的は決まっているアレ。漁港近くや市場での美味しい寿司を食べる事。
「お寿司、ねぇ……」
「俺は食べた事はないが……美味いのは知っている」
「うん、僕も。切歌さんがよく話してくれたから」
「えへへ、自慢話デスからね」
キャロルとエルだからいいけど、これが違う相手なら文句言われてもおかしくないよ、切歌。そうは思うが口にはしない。
「カニかエビ、イクラやウニ……北海道がいいと思いますっ!」
「響ったら……」
「でも、たしかにあたしも北海道がいいと思うよ? ほら、そこなら寿司以外にも美味いもんが沢山あるし」
「北海道……ラーメンにジンギスカンが収益良かったです」
「ゲームの知識も馬鹿に出来ませんね」
思い出すように調が呟いた言葉にマムが苦笑していた。実際俺も似た事を思ったのだ。見れば了子やマリアもそうだったようで、揃って小さく笑って調を見ていた。
「ただ、生まれてくる赤ちゃんの事を考えると遠すぎる気もするなぁ。だから、北陸辺りがいいんじゃない?」
「ならあたしは静岡を推す。あそこも漁港があるし、たしかカツオやマグロが有名だろ?」
「マムの事を考えると温泉がある場所がいいわ。療養も兼ねられるのが一番よ」
セレナとクリスにマリアが注文を付け加える。たしかに飛行機よりも電車で一時間か二時間程度の方が万が一の際は安心か。実際、ノイズがもう出ない事を知っているのは俺と了子にフィーネだけだし。アルカ・ノイズは出てくる事があっても、キャロルのおかげで大きな騒ぎにならず対処可能だ。
「温泉地で魚が美味しくて……」
「比較的都心から離れてない場所……」
翼の条件に未来が続く。と、その時俺に電流走る。
「伊豆なんかがいいんじゃない? 海が近いから魚も美味いし温泉地でもある。しかも、都心からそんなに離れてない」
「……そこが無難かしらねぇ」
「では、その方向で考えましょう。宿や食事処などはガイドブックでも買って皆で話し合いながら」
「賛成です。キャロルもそれでいい?」
「ああ、俺に文句はない。それに、まずはこの国を見て回るのが良さそうだ」
エルとキャロルが笑みを見せ合う。その光景に俺も笑みが零れた。
「そうですねぇ。何せあのゲームでさえこの国を回るの苦労しますし」
「地域ごとに特色があり、しかも代表的なものでさえ膨大な数の特産物」
「地味に骨が折れるわ」
「美味いもんだけでも大変だゾ」
ガリィ達の言葉にエルとキャロルが頷く。あのゲーム、思いがけないところで活躍してるな。ホント、馬鹿に出来ないゲームだよ。こんな感じで食事の時間は過ぎていく。ギアの変化、旅行の計画、何よりみんなでの海の思い出。それらを満喫して日が暮れ始める辺りで療養施設へと戻る事に。疲れて眠るキャロルとエルを俺と奏で背負い、その寝顔を見てみんなが微笑む。
「キャロルちゃんもエルちゃんも嬉しそうな寝顔だね」
「最後なんて二人で水掛け合ってたもん。疲れるはずだよ」
「初めての海だからだろうね。あたしも楽しかったし」
響が軽くキャロルの頬をつつき、未来が小さく笑う。奏はそんな二人へ笑みを返して感想を述べる。俺もそうだったな。初めての海水浴だった。本当に、楽しかった。
「今度は最低でも一人増えてるだろうしな」
「そうね。最低、ね」
「姉さん、悪い顔してる」
「マリア、貴女は立場があるんだ。あまり軽率な行動は」
「それ、翼さんが言うんですか?」
調の正論。翼に痛恨の一撃。翼が大きくふらついた。それと、マリアもダメージを受けている。クリスにセレナと調はそんな二人に笑みを浮かべていた。うん、本当に仲良しだよねみんな。
「どちらにしろ、またみんなで来たいデスね」
「そうねぇ。出来るだけ家族の時間を増やして、思い出増やしたいわぁ」
「思い出を使って動く私達が、自ら思い出を作る事になるとは……」
「あの頃は思いもしなかった。地味な事でも派手な変化」
「しかも、こーんな大家族だゾ。驚きしかないゾ~」
「そのためには頑張らないとね、お父さん?」
「そうですね。一家の大黒柱なのですから」
「はい、一生懸命頑張ります」
身重の妻と義母からこう言われて発奮するしかない。背中に感じるエルの重みもその材料だ。だけど、きっと俺だけでやろうとしちゃダメだ。俺が頑張りながら、みんなの力も借りて進んで行かないといけない。俺だけで出来る事なんてたかが知れてる。だから、家族みんなの力で進むんだ。その先頭に俺が立たないといけないだけで。
―――この幸せを、守りたいのは俺だけじゃないはずだ。
そんな心の声を噛み締めながら、俺は背中のエルを背負い直す。その寝顔を照らす夕日が水平線を燃やし、とても綺麗だった事を最後に記す。