※この作品はR-18です。

淫姫絶頂したいフォギア   作:拙作製造機

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読んで頂ければ分かりますが、家族編はここで一旦終了です。
ようやくAXZを視聴出来ましたので、そちらをやっていこうと思います。
ただ、皆様の予想通り既に原作以上に戦力を得ている装者側に対し、パヴァリア側は実質の実働部隊がサンジェルマン達のみという壊滅状態です。
……ま、響の金色ギアも有り得ないので、そこだけはアダムにとって有利かもしれませんが(汗


流れる時間、変わりゆくもの

「ゆ~めこっちゃん、こっち向いて?」

「うー?」

 

 自分を呼ぶ響へ不思議そうな表情を見せる夢子。で、それに悶えそうなぐらい喜ぶ響がいる。見ればそんな響を見て未来は若干呆れ、クリスは露骨にため息を吐き、切歌と調は自分達もとばかりに夢子へ呼びかけを始める。

 

 学院も冬休みへ突入したため、学生組は夏休み同様シャトーへ泊まりに来て、毎日のように夢子と遊んでいた。ま、響には課題を片付けるための強力な助っ人がいるからというのも大きいんだろうけど。

 

 実は、クリスはもう既に我が家に半分住んでいるのだ。ご両親の位牌と当座の着替えなどを持って、冬休みが始まる前にやってきたのだから。

 

―――ま、卒業も見えてきたしな。一気に色々持ってくるより少しずつ運んだ方がいいだろ。

 

 というのがクリスの意見。でも、真っ先にご両親の位牌を持ってきてる時点で本音は明らかである。それと、仏壇に関してはキャロルが俺のベッドの時と同じように転送してくれる手筈となっていた。

 

「夢子、アタシの方も見るデスよ~」

「夢子、こっちだよ」

「う?」

「あはっ、アタシを見てくれたデス。どうデスか、調。夢子はアタシを選んだデス」

 

 その切歌の言い方に若干ムッとした調は、夢子の頭をそっと撫でながら目を合わせた。

 

「夢子、私の名前、呼んでみて」

「う~?」

「調、さすがにそれは無理デ」

「し・ら・べ。どうかな?」

「う~……いあえ?」

 

 ……時が止まったかと思うような静寂がリビングを包む。うん、今、たしかに夢子が調の事を呼んだ、気がする。とても”しらべ”ではないけど、音が似ていた。

 多分みんなもそう感じたんだろう。だからクリスさえも目を見開いているんだ。で、そんな一瞬なのか永遠なのか分からないような間が流れ、真っ先に立ち直ったのは当然呼ばれなかった者達である。

 

「夢子ちゃんっ! 私っ、私も呼んで! ひーびーきっ!」

「夢子、アタシもデス! 調だけなんてズルいデスよ! きーりーかっ!」

「二人共……」

「気持ちは分かるけどよ。さっきのは偶然だって」

 

 再起動した響と切歌に呼応するように未来とクリスも再起動。ただし、調は一人噛み締めるような表情で胸を抑えていた。

 

「調って、呼んでくれた……」

 

 嬉しそうに呟いて笑みを浮かべる姿は、まるで姉か母である。というか、やっぱり夢子ってこっちの言ってる事分かってるんじゃないだろうか?

 そう思う事、度々あったし、何よりあのフィーネとなった了子の子だ。読心術とか使えても不思議じゃない。あるいは受信限定のテレパシー?

 

「そんな事ないよクリスちゃん。はい、夢子ちゃん。次はぁ、くーりーすーちゃん」

「このバカっ。ちゃんはいら」

「ういう?」

 

 響へツッコミを入れようとしたクリスへ放たれる夢子の声。その母音もクリスの名と同じ。だから、クリスも動きが止まる。そしてゆっくりとその顔を夢子へと向けた。

 

「お、おい……今、何て」

「ういうー」

「うわぁ! 夢子ちゃんがクリスちゃんの事、呼んだよぉ!」

「羨ましいデス!」

 

 キャッキャっと手を伸ばしてクリスへ微笑みかける夢子に、呼ばれた本人はどうしたらいいのかとオロオロするばかり。

 さて、これはいよいよかな。おそらくすぐにでもキャロルとエルへ夢子がみんなの名前を呼べる事が伝わり、そこから夢子への熱いアプローチが始まるはずだ。

 

「あの、シキさん」

「ん?」

 

 了子やマムと相談する必要があるかもと、そう考えていると気付けば未来が隣にいた。

 

「夢子ちゃんって、まだ一歳にもなってないですよね?」

「うん。だから、俺も驚いてる。あれ、フィーネの力の応用とかならいいんだけどね」

「それもそれで……。って、そうじゃないんです。私が言いたいのは、最初に名前呼ぶの、普通お母さんじゃないのかなって」

「……そっか」

 

 言われて気付く。夢子がちゃんと言葉らしい言葉を放ったのは、さっきの調の名を呼んだであろう”いあえー”だ。一般的には、赤ちゃんが最初に覚える言葉はママとかパパなどの両親の呼び方であるらしい。

 

 そう考えると、やはり夢子は特殊なのかもしれない。まぁ、父親が俺だもんなぁ。

 

「ただ、考えてみるとさ。了子って自分の事、夢子の前では母さんって言うんだよ。でも、周囲はお母さんとか了子さんだろ? だから、夢子は了子の事をどう呼んだら正解か分かりかねてるのかもしれない」

「…………ないって言えないのが凄いかも」

「ん」

 

 そう、了子は呼び分けをされている。キャロルとエルは母さん、スコア達はお母さん、俺などは了子で、マム達は了子さん。

 夢子は、これだけの呼び方があると理解しているのかもしれない。だからこそ了子の事を呼べないのではないか。そんな馬鹿げた事を言えるぐらい、現在目の前で起きている現象は驚きだ。

 

「いー、いー、いっ」

「私の事かな?」

「あー」

「おおっ! お返事まで!」

「夢子、夢子、アタシは? デス」

「いー、いー、あっ」

「おおっ! いいデス! その調子デス!」

「えう」

「デスまでうつりそうだから程々にしろ」

「いいじゃないデスかぁ」

「夢子、もう一回私の事呼んで?」

 

 我が家の人気者はすっかり取り囲まれていて、楽しそうに響達を眺めて笑っている。本当に、こちらの言っている事を理解してるんだろうか? もしそうなら、今後は気を付けていかないと。変な言葉なんかを覚えさせてはいけないからなぁ。

 

 と、そこで俺のスマホが震える。取り出して見ればエルからの着信だった。何となく用件は分かる気がする。

 

「もしもし?」

『父さんっ! レイアからメールがきたんですけどっ、夢子が調さんを名前で呼んだって本当ですかっ!?』

「……正確には、呼んだと思われる感じだけどね。いあえーって感じ」

『……いいなぁ』

 

 心の底からの羨ましい声、いただきました。しょうがない。こうなるともう一人のお姉ちゃんも似た事を心に抱いているに違いないだろう。なら、父親として言えるのはこれが精一杯。

 

「エル、キャロルにも伝えておいて。今日は定時で帰宅するようにって。勿論了子も、いや母さんも一緒に」

『っ、はいっ!』

 

 これで通話終了。きっと今頃、エルとキャロル揃って了子の研究室へ向かったはずだ。さてさて、ではそろそろ我が子を助けに行きますか。

 見ればみんなから名前を呼んでと懇願され、困惑する夢子がいた。あれ、そろそろ泣くかもしれない。そう思って俺はちょっとだけ強引に響達の輪の中へと入った。

 

「はいはい、そこまでそこまで。夢子が困って泣きそうだから」

 

 言いながら夢子を抱き抱える。その感じる重みは、最初に抱いた時よりも明らかに増していた。大きくなってる事をこうやって実感する。日々、この子は成長しているんだと。それと共に、俺ももっと親として成長しないといけないと、そう思わせてもくれる。

 

「ううっ、そう言われると弱いなぁ。実際、夢子ちゃん困ってた感じだったし」

「だから言ったろ。程々にしとけって」

「でもでも、クリス先輩だって何回か呼んでもらってたじゃないデスか」

「あ、あれはあたしが強要したんじゃねー」

「でも、クリス先輩が嬉しそうだったから夢子も呼んでたんだと思います」

「はい、調ちゃんも切歌ちゃんもそこまでだよ。今度はクリスを困らせたいの?」

 

 学生組は未来が一先ず沈静化させた。うーん、やっぱり未来は響で慣れてるからか母親っぽい。見事にきりしらコンビが大人しくなった。そしてクリスが安堵するように息を吐いてる。で、響がそれを見て小さく笑みを零すと。

 

「うー」

「ん? どうしたんだ?」

「お腹すいたんじゃないか? はい、ミルクだゾ」

 

 夢子がこちらへ手を伸ばしてきたのを疑問に思っていると、いつの間にか近くにいたミカが哺乳瓶を差し出してきた。なので、俺はならばと夢子の口へ吸いくちを近付ける。すると飲むわ飲むわ。本当にミカの予想通りだったらしい。

 

「おおっ、凄いなミカ。予想的中だ」

「それほどでもないゾ」

「そうですよ。私達は夢子の反応で大体の察しはつくようになりました」

 

 そう言って現れるのはファラ。その手には乾いたのだろう大量の洗濯物がある。

 

「ん。泣いたらおむつかげっぷ。それ以外は大体お腹すいただゾ」

「そんなもんか」

「そんなものです。ミカ、私はこれを畳みますから手伝いを」

「りょーかいだゾ」

 

 揃ってテーブルへと向かう二人を見送り、俺は夢子へと視線を落とす。そこでは嬉しそうに了子の母乳を飲む我が子の姿があった。

 

「……スコアのみんなまでお母さん化してきてるか。俺も、出来る限り近付かないとな」

 

 育児を女性達だけに任せきりにはしたくない。そう強く思って、俺は夢子の事を見つめ続けた。今年も、終わりが近付いてる中での、一コマである。

 

 

 

「それでエルとキャロルが珍しく定時上がりをしたのですか」

 

 夕食が終わっての一時、俺はマムと共に夢子を中心とした人の輪を遠巻きに眺めていた。そう、再びシャトーでの生活を短期でし始めた切歌と調に合わせ、マムとセレナもこちらへやってきていたのだ。

 

「ええ。で、あれが夕方前には響達だけで展開されてました」

「そうですか。その様子は分かり易いです」

「それで、お義母さんに相談なんですが」

「何でしょう?」

「了子の事、夢子の前では母さんと呼ぶべきでしょうか? どうもこちらの言っている事を夢子は感覚的に理解してるみたいで……」

 

 俺の言葉でマムはこちらの言いたい事を察したらしく、若干驚いた後で小さく微笑んでくれた。

 

「そういう事ですか。なら、そんな事をせずとも解決出来るかもしれません」

「え?」

「シキさんは難しく考え過ぎです。仮に夢子がこちらの言っている事を理解しているのなら、根気よく了子さんの事を母さんと呼ぶように教えればいいだけですよ? そして、理解出来ていないのなら、その配慮は無意味です」

 

 まさしく思考の盲点だった。マムの言う通り、夢子が理解してようがしてなかろうがやる事は一緒だとそこで気付いた。

 

「……何か、馬鹿の考え休むに似たりって感じですね」

「それを言うなら下手の考え休むに似たり、です」

 

 完全に返す言葉を無くし、俺は気まずい顔を返すしかない。そんな俺にマムは小さく苦笑してくれる。それもまた家族のような感じがして、俺も小さく笑う。互いに笑みを見せ合う俺達の耳に一際大きなざわめきが聞こえたのはそんな時だった。

 

「と、父さんっ! 夢子が、夢子が母さんの事をっ!」

「何だ何だ? 遂に母さんって感じに呼んだのか?」

 

 エルの声に苦笑しながら近づいていくと、夢子を抱き抱えているフィーネを発見。と、そこで向こうも俺の接近に気付いたらしく、こちらへ振り返った。

 

「ああ、アナタか」

「フィーネ、どうして君が?」

「夢子ちゃんが、フィーネって呼んだんです」

「へ?」

 

 未来の言葉に目を丸くする。夢子が、母さんではなくフィーネと呼んだ?

 

「おそらくだが、この子は母親から二つの気配を感じ取っていたのだろう。だから名前を呼べなかったのだ。櫻井了子とフィーネは同じ体であっても別人だからな。本当に、聡い子だ」

 

 言いながら優しく夢子を撫でるフィーネ。俺もそれで納得がいった。夢子が了子の事を呼べなかったのは、フィーネの事を察していたからか。つまり、母さんでは了子とフィーネ両方を意味してしまう。だから夢子はこれまで母さんのような意味合いの声を発しなかったのだ。

 

「夢子はフィーネの事、何て?」

「いーえ、だったか。おそらくこの子は名前の母音で呼んでいる。だから母音が同じ者は呼びにくいのだろうな。響や切歌の場合、一音一音区切るように対処しているのはそのためだ」

 

 そこで俺だけでなく響達も感心したような声を漏らす。何というか、本当に赤子と思えないような子だ。ん? でも、フィーネを名前で呼んだとすると……。

 

「夢子、フィーネはフィーネなんだよな? なら、了子は母さんでいいんだよ。ほら、呼んでごらん?」

「う?」

 

 不思議そうな顔で俺を見つめる夢子。だけど、もう一度だけ優しく呼びかけてみる事に。きっと伝わる。そう信じて。

 

「フィーネ、了子に変わってあげて。……夢子、ほら、母さんだよ。かーさん」

 

 フィーネがどこか微笑みながら了子へ変わり、それを見届け俺は夢子へ再度の声掛け。すると、夢子は俺から視線を了子へと移した。何となくだけど、周囲が息を呑んでいる。

 

「あーあっ」

 

 その瞬間、みんなで一斉に「呼んだっ!?」と驚きと喜びの声を上げる。何故かハイタッチをする響と切歌に、笑みを向け合うエルとキャロル。クリスなどは慌てて照れ隠しするように口を抑え、それを未来と調に見られて微笑まれていた。

 

「了子、どうだい? 呼ばれた感想は?」

「そう、ね。何というか今まで感じた事のない喜びよ。じんわりと、胸が温かくなるわ」

「あーあっ! あーあっ!」

「はいはい。母さんですよ~」

 

 夢子もやっと呼び方が決まって嬉しいのか、何度も何度も了子の事を母さんと呼ぶ。それに心からの笑顔で応対する了子は、紛れもなく母親の顔をしていた。

 

「どうやら上手くいったようですね」

 

 聞こえてきた声に顔を向ければ、そこには柔らかく微笑むマムがいた。

 

「ええ。お義母さんの言った通りでした。難しく考え過ぎたみたいです」

「ふふっ、ですが本来であればこれは有り得ない事ですから。次の子も同じと思わない方がいいですよ?」

「……気が早いかもしれませんけど、そうですね。覚えておきます」

 

 次の子が出来るとすれば、奏かマリアだ。どちらも有名なアーティスト故に色々と考えなければならない事も多いが、二人曰く出産したら引退を考えるとの事。何でも、出来る限り子供の傍にいてやりたいらしい。

 共に悲しい子供時代を過ごした経験を持つ、慈愛深い二人らしい考えと気持ちだ。だから、俺はそんな二人に代わって稼がなければならない。

 

 幸いにして、血液の分析は進んでおり、上手くいけば本当に稼ぎになるとの事。おそらくだが俺が家族を養いたいという気持ちが働き、血液が生命のスープに近いものへと変化しているのではと了子やマムは言っている。

 俺の気持ちが体液全般に影響する。そして、それが命あるものにとって有益である事。そこからも俺が異常な事がはっきり分かる。

 

「俺が一体何者なのか……ね。出来れば地球人であってほしいけど」

 

 小さく呟く。一家の大黒柱として成長すると同時に膨れていく不安。自分は本当に人間なのだろうかという、本来ならば有り得ない疑問。だけど、こうして考えれば考える度にそれは大きくなる一方だ。

 それでも、目を背ける事はしない。今の俺には、支えなければいけない命があり、支えて行きたい人達がいるのだから。

 

「アナタ~、こっちへきてみなさいよ。夢子がアナタの事も呼んでるわ~」

「えっ!? ホントに!?」

 

 告げられた言葉に思わず大きな声を返して動き出す。すると、そんな俺へ向かって夢子が両手を精一杯伸ばしてきた。

 

「おーあっ」

「ほら、とーさんって」

「うわっ! 本当だぁ……感動する……」

 

 夢子の手をそっと握り、俺はその頭を優しく撫でる。その手に感じる温もりと、掴んでくる弱いけれど確かな感触。それを守るんだ。そう改めて誓いながら、俺は緩みそうな涙腺を何とか持ちこたえさせる。

 

 周囲の温かな視線に、包まれながら……。

 

 

 

 クリスマスが近いとなり、我が家もあちこちでそれらしい物が準備され始めた。特にそれらに興味津々なのが言うまでもなくキャロルとエル、そして夢子である。

 

「父さん、これは何ですか?」

「ん? ああ、よくあるクリスマス商品の一つだよ。お菓子の詰め合わせをサンタのブーツに見立てた入れ物に入れてあるんだ」

「父さん、何故ツリーの天辺に星があるんだ?」

「え? ん~……目立つようにじゃないかな? 遠くからでも、そう、サンタが空からでも見えるようにって」

「うーっ!」

「夢子、靴下の出番はまだ後だから。それは二十四日の夜までとっておきなさい」

 

 俺の腕の中で靴下を手に楽しそうに笑う夢子。今年のクリスマスは過去最大規模で盛り上がりそうだ。

 

 何せツヴァイウイングはワールドツアーを控えているためクリスマスライブを見送り、マリアはクリスマスを家族や友人などの大切な人達と過ごして欲しいと言ってクリスマス公演などを断った。

 そう、つまり今年のクリスマスは彼女達もいるのである。しかも、キャロル達に夢子までいての大人数だ。こうなるとお祭り好きな響や切歌が張り切らない訳がない。

 

「未来、ケーキは私と切歌ちゃんで受けとりに行くからね」

「分かってる。何度も言わなくてもいいって」

「調、調、ツリーの電飾はいつ点灯させますか?」

「イヴの前日からって昨日決めたでしょ?」

「あーっ、待ちきれないデス! 早く明日になれ、デスっ!」

 

 クリスマスイヴを明日に控え、ムードメーカー二人のテンションはおかしなぐらいに高い。正直、俺は響や未来は実家で過ごしたらと言ったんだけども、前述の三人がここへ来る以上仲間外れは嫌だと言われてしまった。

 

「賑やかですね」

「あらあら、もうツリーまで。たしか買って来たの昨日よね? もう組み立てたの?」

「お義母さん、了子、お帰りなさい。で、問いかけの答えは言うまでもなく双子の姉妹と響に切歌中心でね。何でも、夢子にツリーを早く見せてあげたかったそうだよ」

 

 俺の言葉に苦笑しつつも納得する二人。ま、きっとキャロルとエルにも見せたかったんだろうけどな、響は。それと、ミカ達も地味に楽しんでいるようで、クリスマス料理特集を眺めてはセレナや未来とどうするトークを展開している。

 

 俺も、実は結構テンションが上がっている。何せ初めて家族と過ごすクリスマスだ。それが、奥さんだけでなく子供達までいるのだから凄いとは思うけど。

 

「去年のクリスマスは、楽しむどころじゃなかったもんなぁ」

 

 しみじみと噛み締める。あの時はフロンティアの色々でみんな大忙しだった。まぁ、おかげで今年は良い年末を迎えられそうだけども。

 

「たっだいま~っ!」

 

 聞こえてきた大きな声で全員の視線が同じ方向へ向く。そこにはシックなブラウンのコートを着た奏がいた。後ろには蒼いセーターに白いマフラーをした翼もいる。

 

「シキさん、今帰りました」

「おかえり二人共。これで今年は仕事納?」

「ん」

「はい。いよいよ新たな年から両翼が羽ばたきます」

 

 とてもイイ笑顔を向けるツヴァイウイング。そう、いよいよなのだ。二人の、最初で最後のワールドツアー。ツヴァイウイングを世界に知らしめ、伝説となる時はもうすぐそこまで迫っている。

 

 と、何かに気付いたように奏と翼が後ろを振り返った。つられるように俺も視線を動かす。そこには……

 

「あら、みんな揃ってるのね」

 

 世界に知らない人はいない有名人、マリアがいた。だけど着ているコートや身に着けているマフラーに手袋は所謂高級品ではない。だが、マリアにとっては世界で一番豪華な冬の服装だろう。

 

 それは、一足早い俺と切歌や調、セレナにマムからのクリスマスプレゼントなのだから。切歌と調で色んな店を見て回り、良さそうな物をスマホで撮影しセレナが厳選。代金を俺とマムが主体となって用立てて、ロンドンへ向かうマリアへ渡したのである。

 

「姉さん、お帰りなさい」

「ただいま。こっちも寒いけど、ロンドン程ではないわね」

「マリア、そこはみんながいるから、って言うとこだろ?」

「あら、そんな事は言うまでもないじゃない。暑さ寒さも、家族がいてくれる事でへいきへっちゃらになるものよ」

 

 最後に響へ向けてウインクをし、マリアはそう言い切った。で、口癖を言われた本人は照れくさそうに笑ってる。にしても、へいきへっちゃら、か。

 響から聞いた話だと、何でも親父さんからの教えらしい。辛い事も悲しい事も、それを口にする事で大丈夫になる。そんな、魔法の言葉だそうだ。

 

 きっと、この言葉が響の中で大きなものとなっているんだろうと思う。そして、それ故にこれまでの様々な事を乗り越えてきたんだ。

 

 ルナアタックも、フロンティアも、キャロルとの衝突も。全部、へいきへっちゃらの精神で何とかしてきたのだから。

 

「さて、ならみんな久しぶりに揃った事だし、ご飯にしましょうか。ファラ~、レイア~、お願いね~」

「承知しました」

「地味にお任せ。派手な食卓」

「んじゃ、ガリィちゃんも手伝うとしますか」

「ミカもだ。ごっはん、ごっはん~」

 

 慌ただしく動き出すスコア達。当然そうなれば家事を受け持つ事が多い者達が黙ってるはずはなかった。

 

「じゃあ、私達も手伝おうか。調、未来」

「うん」

「はい」

 

 三人揃ってキッチンへ向かいながらそれぞれのエプロンを身に着けていく様は、まさしく台所の番人である。

 で、響と切歌は大人しくテーブルへ着席―――する前にセレナ達の後へ続いた。珍しいと思っていると、台拭きを手に戻ってくるではないか。

 

「ちゃっちゃっと綺麗にしようね、切歌ちゃん」

「合点デスよ」

 

 それぞれで大きな食卓を拭き始める二人。と、気付いて見ればそれぞれがそれぞれの動きを見せて夕食の準備へ取り掛かっていた。このままでは役立たずとなってしまう。

 

 そう思って動き出そうとしたら、目の前にフワフワと夢子が浮かんでやってきた。

 

「アナタは夢子を頼む、だそうだ」

「……フィーネは?」

「ふふっ、たまには私も家の事をやりたいのだ。妻らしい事をしてみたい」

 

 そう楽しげに言って、フィーネはキッチンへと向かう。その後ろ姿を見送り、俺は受け止めた夢子へと視線を落とす。

 

「夢子、父さんと一緒に待ってような?」

「あー」

 

 いつかと同じように夢子を抱き抱えて食卓につく。そこへやってくるのはマムだ。

 

「よければ、私もご一緒しても?」

「いいですよ。な、夢子」

「あー」

「まぁ、返事も段々しっかりしてきましたね」

 

 微笑みながら俺の隣へ座るマム。それを見て俺は夢子を手渡してみる事にした。

 

「お義母さん、よければ抱いてやってください。夢子も、男の俺よりもそちらの方が落ち着くでしょうし」

「う?」

「夢子は、そんな事ないと言ってますよ?」

「なら、お祖母ちゃんにもだっこして欲しいよな、夢子?」

「あー」

 

 嬉しそうな声でマムへ顔を向ける夢子。それならとマムは俺から夢子を受け取り、優しく抱き抱えた。

 

「本当に重くなりましたね。こうしてあげられるのも、いつまでか……」

「俺と一緒に筋トレでもしますか?」

「それは遠慮しておきます。ですが、いいものです。まさかこうやって孫を抱ける日がこようとは……」

 

 色々な事を思い返しているのだろう。マムの声には噛み締めるような響きがあった。

 きっと、マリア達と出会った頃の事を思い出したんだろう。聞けば、かなり厳しく辛く接していたそうだ。そうしなければいけなかった理由も聞いた。

 

 自分が一番厳しくしなければ、他の誰かがそれをやる。その誰かが本当に悪意や私怨を子供達へぶつけないとも限らない。故にマムは自分の本心をひた隠して冷徹に振舞ったのだそうだ。

 

「お義母さん、夢子はその内だっこ出来なくなるかもしれませんけど、まだまだ孫は増えますから」

「そうでしたね。夢子もすぐに姉になるかもしれませんよ?」

「う?」

 

 そうなの? そんな感じに指を咥えてこちらを見つめる夢子に何とも言えない気分となる。でも、ま、今更だもんな。

 

「ああ。夢子がもう少し大きくなったらお姉ちゃんだ」

「おー」

「ふふっ、本当に不思議な子です。将来が楽しみですね」

 

 そうやって夢子を話題にマムと過ごしていると、部屋着へ着替えたマリア達が姿を見せる。そして、三人は迷う事なくこちらへと近付いてきた。

 

「あら、夢子。マムの膝の上なんて珍しいじゃない」

「あー」

「しかも上機嫌だ。すっかりお祖母ちゃん子だね、こりゃ」

「ああ。マム、私も夢子をだっこしたいのですが」

「ええ、構いませんよ」

 

 こうしてマムから翼へと移動する夢子。笑顔を絶やす事無く、むしろよりご機嫌になって夢子は翼の腕の中へと納まった。

 

「あはっ、本当に重くなったわね。いい鍛錬になりそう」

「翼、言うに事欠いてそれはないでしょ」

「まあまあ、翼らしくていいじゃないか。あたしは嫌いじゃないよ」

「それはそうだけど……」

「夢子、私の鍛錬相手になってくれるよね?」

「う?」

 

 どういう意味? そんな感じの夢子に翼だけでなく奏とマリアも微笑む。と、そこで閃いた。まだこの三人は未体験の事を味わってもらおうと。

 

「夢子、翼の事を呼んでごらん?」

「う? うー、あー、あっ?」

 

 間違いなくそこで翼達三人が目を点にした。俺とマムは何を夢子が言ったのかをもう分かっている。なので俺は三人へ更なる衝撃を与えてもらうべく、夢子に声をかける事にした。

 

「夢子、奏とマリアも呼んであげて」

「う? あー、あー、えっ。あいあ」

「「「っ!?」」」

 

 夢子の反応にアーティスト組が揃って驚き、そして表情を綻ばせていく。うわぁ、分かってはいたけど三人していい笑顔してるよ。

 

「き、聞いた? 今、この子私達の事を……」

「あ、ああ。呼んだよ。うん、呼んだ!」

「さっきのはやっぱり翼の母音? でも、マリアは繋げていたのに……」

「どうやら母音しか発する事が出来ず、同母音の場合は区切って対処しているようなのです。奏さんも同様ですよ」

「あー」

 

 夢子がマムの言葉に合わせるような声を出し、それに翼達だけでなく俺も笑みを浮かべる。そこへ現れるは、食卓を拭いていた響と切歌。

 

「どうかしました?」

「マリア達、顔が笑ってますデス」

「ああ、夢子が三人も呼んだんだよ」

「「あ~……」」

 

 納得と言った声を上げる二人。そう、もう既にほとんどの人間が通った道だ。だけど、だからこそ分かるのだ。それが、とても嬉しくあったかいのは。響と切歌の顔が笑顔なのもそういう事。

 

「こうなると、もっと言葉を覚えて欲しいね」

「そうね。早くちゃんとした音で名前を呼んでもらいたいもの」

「奏もマリアも気が早いから。夢子は、夢子の早さで成長して欲しいじゃない」

「ですね。でも~、私もどちらかと言うと奏さん達寄りだったり……」

「アタシもデスかね~。夢子に切歌って呼んでもらったら、それだけで何でもできちゃいそうデスよぉ」

 

 女性五人を見事に虜としてみせる我が子に感嘆を禁じ得ない。本当に夢子はいつだって話題の中心にいる。願わくば、これから生まれてくるであろう夢子の弟や妹もそうなってくれる事を。

 

 ……まぁ、現状を見ているとそうならない方が難しい気はするけれど。

 

「父さん、そろそろ料理が出来上がります」

「響と切歌は台拭きを手にお喋りとは随分余裕だな。もう拭き掃除は終わったのか?」

「っと、いけない! 切歌ちゃんっ!」

「了解デスよ! さっさと仕上げるデス!」

 

 キャロルのどこか呆れたような言い方に響と切歌が急ぎ気味に動き出す。エルは翼に抱き抱えられている夢子に気付き、笑顔を浮かべて近付くとその頬を人差し指で優しくつつきだした。で、キャロルはそれを若干羨ましそうに見つめる。

 

「キャロル、フィーネはどうしてる?」

「ん? ああ、母さんなら初めての料理に四苦八苦しているぞ。先史の巫女にも、意外な弱点があったものだ」

「これからは家事も積極的に参加しなくては。そう言って笑ってました」

 

 娘二人からの言葉に俺だけでなくマム達も笑顔を見せた。フィーネもゆっくりとではあるけど母になっている。そう実感しつつ同時に思うんだ。やっぱり赤ちゃんの力って凄いんだな、と。

 あのフィーネを母性に目覚めさせ、研究熱心なマムやキャロル達でさえも定時に帰宅させ、歌う事が誰よりも好きな翼達に家で過ごす事を選ばせる。これは、さすがの俺でも無理だ。

 

 何よりも俺自身が、今まで以上に頑張って働かないといけない、と、そう思わせられているのだから。

 

「はーい、お待ちかねのご飯よ~」

「今日は大人数だからお鍋だゾ」

「一つは地味な味噌ちゃんこ。もう一つは派手なカレー鍋」

「今回は味が味ですのでお椀を二つ用意しました。それぞれで使い分けてください」

 

 スコア達が箸やフォークなどを準備し、ついでにグラスまで用意していく。そこへ大きな鍋を持ってセレナと未来がやってきた。調はその後ろから追加するための食材が載った大皿を運んでくる。

 

 こうして賑やかな夕食が始まった。今はまだ仮初めでしかない時間。だけど、いつか、必ずいつかこれが日常となる。そのためにも、俺は少しずつでも前に向かって歩き続ける。

 

 現在(いま)を生きる人達と、未来(あす)に生まれ来る命のために……。

 

 

 

「予想以上に遅れてしまったわね」

 

 薄暗い空間に女の声が響く。周囲には実験機材のようなものがあちこちに見られ、ここが実験室のような場所である事を示していた。

 

「まったくだ。まさかシンフォギアとキャロルが激突しないまま事態を収束させてしまうとはな。予想外過ぎる結末なワケダ」

「それどころかぁ、キャロルはシンフォギアへ協力してるそうじゃない?」

「そのようね。だが、やっとラピスが完成に至った今、私達も目的のために動き出せる」

 

 そう告げると、男装の女性は目の前にあるハートの形をした宝石のような物へ手を伸ばす。

 

「キャロルが敵にいるとしても、ラピスを得た我々の脅威とは成り得ない」

「そして、それはシンフォギアもなワケダ」

「じゃあ、始めましょうか。まずは、相手戦力の確認も兼ねての第一段階を」

「ええ。全ては、支配の軛から人類を解き放つために」

 

 今静かに、闇の中からとある存在が動き出そうとしていた。その名は、パヴァリア光明結社。そんな彼らの手が伸びる先は、紛争の続くとある国、バルベルデ。

 だが、彼女達は知らないのだ。既にその目的を果たす事は不可能に近い事を。目指す先にある光明、神の力を得るための条件を満たすには、もう遅すぎる事を。

 

「ようやくか。ギリギリだね、時期的に」

 

 そして、この男もまた、知らないのだ。己が手の内にある使い勝手の良い手駒は、とっくに無力化されている事を。

 

 パヴァリア光明結社。その終焉は、近い……。




原作ではキャロルが敗れた事によって製作が早まったファウストローブ。こちらでは、それができないので原作で言うXVぐらいまでずれ込んでしまいました。
つまり、XVで登場が匂わされている”カストディアン”が現れる時期が近い訳です。

だけど、装者達に神の力を宿せる者はいません。これが、ある意味で原作との最大の違いですかね?
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