というか、そもそも錬金術関連の知識はキャロルも相当のものがありますので、パヴァリア側の目的も看破される可能性高いんですよねぇ(汗
バルベルデ地獄変、にはさせません
「「「「「「「「「「「メリークリスマスっ!」」」」」」」」」」」
響達装者九人とエルにキャロルが声を揃えてそう告げた直後、手にしたクラッカーを鳴らす。瞬間漂う硝煙の匂い。
「「「「「「「メリークリスマス(だゾ)」」」」」」」
少し遅れて俺達も同じ言葉を告げる。こちらにはクラッカーはなし。食卓にはケーキが二つと、チキンなどの所謂パーティーメニューが並んでいる。
実は、チキンなどは某チェーンのクリスマス用のもの。前々から予約し、こちらはキャロルの希望であの初めて六人で行った店で購入してきたらしい。
―――俺もファラやレイアと共に一緒に受け取りに行ったら、対応した店員が覚えていたらしくてな。
そうどこか照れくさそうにキャロルが話していた。それと、その後でファラが教えてくれたのだが、店員のお姉さんは「今日はお父さんは一緒じゃないの?」と聞いてきたらしく、キャロルは「そ、その、母さんや妹達と家で待ってる」と恥ずかしそうに答えたとの事。
その話を聞いて、俺はとても嬉しくなった。もうキャロルにとって俺達は紛れもなく家族になれたのだと、そう実感出来て。
そうやって思い出して感慨に浸っている間にも、響と切歌を始めとする色気より食い気な子達が食卓の上から食べ物を消し去って行く。特にミカが凄い。さすがは一番思い出消費が激しいだけの事はある。
「ミカ、チキンを食い過ぎだ。俺達の分も残せ」
「はぐはぐ……っ分かってるゾ。これでチキンは終わりにするゾ」
「だからってポテトならいいって訳じゃないのよっ!」
すかさずガリィがポテトを鷲掴もうとしていたミカの手を叩く。その速さに全員が一瞬驚きを浮かべる程だ。
「む~っ、じゃあ何なら食べていいんだ?」
「ポテトはポテトでもサラダの方を食べてなさい。ほら」
「ふぁ~い」
不承不承ながら了承し、差し出されたポテトサラダを食べ始めるミカ。こうして見ていると、本当にミカとガリィはいいコンビである。故に見ているみんなにも笑顔が浮かぶのだ。
「それにしても、ケーキが二つもあると豪勢に見えるね」
「本当に。ブッシュ・ド・ノエルとフルーツタルト?」
「はいっ! どっちも美味しいって評判の洋菓子店で買ってきました!」
「要予約だけあってスゴイ人でしたっ!」
ケーキ受け取り係だった二人の報告にマリアが苦笑して頷く。何せ二人してチキンの油で口周りがテカテカしている。
「響、口拭いて」
「切ちゃんも。油で光ってる」
何故マリアが苦笑したのか察した未来と調が相方へ拭く物を差し出す。しかも、揃ってウェットティッシュな辺り流石としか言いようがない。
受け取った二人も少し苦い顔をしながら口を拭く。と、それを待っていたのかセレナがクリスと一緒にメインディッシュを運んできた。
「はい、お待たせ」
「ほら、どけどけ。七面鳥様のお通りだ」
あちこちから「おおーっ」と言う声が漏れる。クリスマスと言えばターキー。そう聞いたスコア達がキャロルとエルに食べさせたいと思い、料理が出来るセレナへ相談して決まった今日のオオトリ。
その七面鳥を乗せた大皿が食卓の中央へと置かれる。その存在感はケーキを霞ませる程だ。と、そこである事を思い付いて席を立つ。
たしか、色んなクリスマスグッズを買った時に一緒に入れたはずだ。そう思ってリビングの隅に置かれた袋を漁る。
「あったあった」
手にしたのは雪だるまとサンタの形をした蝋燭。所謂キャンドルである。きっと女の子受けがいいと思って買ったのだ。それを手にして食卓へ戻る。
そこではセレナによってターキーが切り分けられ、小皿に乗せられそれぞれの手元へと配られていた。丁度いいや。ならばとターキーが置かれている近くとケーキの近くへキャンドルをセット。
「あら、アナタそれは?」
「もっとらしさを出そうとね」
「置物? いや、違う。もしかしてこれは蝋燭ですか?」
「翼、正解。っと、そうだ。ターキーを配り終えたら教えて。少しだけムードを出したいんだ」
「それならもう終わりましたよ」
「派手な料理、地味に配膳完了」
ファラとレイアの言葉に頷いて、俺は了子へ目をやる。すると彼女はそれだけで何かを察したのか、小さくため息を吐くと指先を二回鳴らした。
直後、二つのキャンドルに火が灯る。流石我が妻。あのアイコンタクトで全てを察してくれたらしい。
「んもう。これぐらいは普通にやって欲しいわ」
「ごめんごめん。俺、タバコ吸わないからライターとか持ってなくてさ」
謝りながら明かりを消そうと動こうとするも、既にそれはキャロルに読まれていたようだった。
「父さん、もういい? 一旦明かりを消すから」
次の瞬間、全ての明かりが消え、ぼんやりとしたキャンドルの光だけが残る。その幻想的な明かりに、誰もが言葉を発さなかった。夢子さえも黙ってゆらゆらと揺れる火を見つめている。
「……綺麗」
「そうですね。こういうのも、いいものです」
セレナの言葉にマムが同意する。きっと、それはみんなの言葉でもあった。
「何て言うんだろう? 厳かな気分になるね」
「元々クリスマスはキリストの誕生日だもん。間違ってないんじゃない?」
「ま、そうだな。響には似合わねーけど」
「そう言うな。だが、本当に悪くない」
未来の言葉にクリスが続けた言葉へ翼が苦笑混じりに応じる。彼女達の視線も、揺らめく火へ向けられていた。
「誕生日デスか。なら、明日は盛大にお祝いデス」
「誰の誕生日でもないのに?」
「いいんじゃない? 元々クリスマス当日もパーティーの予定だったのだし」
マリアが楽しげに告げた言葉で思い出す。そう、我が家は今日と明日の二日に渡り、パーティーをする事になっていた。中々全員が揃う事が出来ない上、こういうイベント事がある時に揃う事も難しいためだ。
「キャロル、不思議だね。僕は、まさかこんな日が来るとは思ってなかった」
「私もだから。父さんと母さんが出来て、妹が生まれて、グランマまでいる。家族なんて、得られないと思っていた」
「ま、これも奇跡、ってやつですよ」
「全てが積み重なり、今日という奇跡へ錬成されたのです」
「地味な時間は、派手な結果のための布石。理想だわ」
「ミカ達も食べる事を覚えたし、思い出を無くさずにいられる。最高だゾ」
最後のミカの言葉に誰もが笑みを浮かべた。淡い光だけど、何故かその時だけはハッキリとみんなの顔が見えた、気がする。
「あたしも、こうして生きていられるとは思わなかった」
「私もだ。本当なら、あの時に死んでいてもおかしくなかった」
「……それって、ひょっとすると俺のおかげ?」
「う?」
「以外に何があるの? だって」
夢子の反応にフィーネが了子へ戻ってそう言ってくる。何というか、本当に幸せだ。だからこそ、俺が声を出さないといけない。
「そうだな。俺が、今の光景を作る一因なんだ。じゃ、そろそろ花より団子といこう。キャロル、明かりを」
「うん」
「エル、火を吹き消して」
「はいっ!」
「みんな、飲み物を持って。仕切り直しだ。乾杯しよう」
それを合図にみんながグラスを手にする。夢子だけは哺乳瓶だけども。
「それじゃあ、今夜も明日もみんなで楽しもう。メリークリスマスっ!」
俺が掛け声と共にグラスを掲げると、一斉に声と共にグラスが掲げられる。そこから近くの者同士で軽くグラスを合わせたり、ターキーに舌鼓を打ったりと動き出す。
その賑やかさを眺めながら、俺はそっと了子の膝に座っている夢子へと近付く。夢子は楽しそうにしているみんなを眺め、嬉しそうに笑っていた。
「夢子、楽しんでるかい?」
「おー」
「……そっか。なら、明日の朝はきっと良い事があるよ」
「う?」
「今年の夢子はとってもいい子だったからね。サンタさんがプレゼントをくれるはずさ」
「う?」
分かってなさそうな夢子だけども、俺が昨日持っていた靴下を見せるや思い出したかのようにご機嫌となった。そのはしゃぎように笑みを浮かべ、俺は夢子の手へ靴下を握らせる。
もう放すものかとばかりに靴下を握り締め、夢子は上機嫌に笑う。その無邪気さに微笑み、俺は視線を上へ向けた。
「これ、プレゼントは入れられないかも」
「いいんじゃない? 夢子にとってはこれがもうプレゼントになってるかも」
「……安上がりだなぁ」
「ええ。でも、その代わり年を追うごとに高くつくわよ?」
「おー怖い。でも、幸せも強くなるだろうからどーんとこいかな」
了子と見つめ合いながら夢子の頬を優しくつつく。幸せというものを、俺は夢子が生まれてからより強く感じられるようになった。
何気ない時間が幸せなんだと前から思っていたけど、夢子が生まれてからはそれがもっと実感出来るからだ。こうして頬を触っているだけで、接しているだけで心があったかくなる。
気付けば料理は全て平らげられ、残すはケーキのみとなっていた。
「さて、残すはケーキだけとなった訳ですが……」
マムがチラリとキャロルとエルを見る。二人は強弱こそあれ楽しみにしているのが窺えた。
「まだ食べられるようですね。ですが、無理に食べ切る必要はないですからね」
「そうそう。残ったら、ラップかけて冷蔵庫に入れておくから」
そうは言ったけど、俺はどこかでそんな必要はないだろうと踏んでいた。いや、ミカがフォークを手にしてウキウキしてるんだよ。あれ、絶対ケーキ食べ尽くすゾって意思の表れだよなぁ。
「二種類あるからそれぞれをちゃんとみんなに切り分けるよ。でも、どっちかしかいらないとか、食べられそうにないとかは言ってね」
「なら、あたしと翼はそれぞれに一種類でいいよ。分け合うからさ」
「うん。その方がいいかな」
「じゃあ、私もセレナとそうしようかしら。どう?」
「もちろんいいよ」
「なら……」
「アタシと調もデス」
「み~くっ」
「はいはい」
「キャロル、僕らもそうしよう」
「そうだな。その方が全員に行き渡るか」
「なら、ガリィちゃんもしょうがないからミカとセットになってあげるわ」
「いらないお世話だゾ」
「では私とレイアも」
「地味な節約も派手な幸せのためには必要ね」
「私は……」
「あ、あたしがなってやる。こうなったらそれしかないだろ」
「では、私がシキさんとですね」
「無難な感じに落ち着きましたね」
こうしてコンビではないが二人一組となって二種類のケーキを食べる事に。クリスは了子と組んだのだが、そこで一口食べた了子が当然のようにフィーネとチェンジ。
「すまないな。櫻井了子が私にも食べさせたいと」
「……別にいい。ほら、食えよ」
「……ああ」
どこか複雑そうだけども、それでも拒絶や嫌悪など見せない辺りにクリスの本音が見えた。きっと、クリスもフィーネもどこかで相手へ言いたい事があるのだ。それがまだ言い合える時ではないのだろうけど、いつか言い合える時がくると信じている。
何故なら、共に残ったケーキを分け合って食べた二人は、笑みを向け合ったから。その光景こそ、フィーネもクリスも変わっている事の紛れもない証。必ずいつだってそうなれる日が来る。そう誰もが信じられる何かがあったんだ。
そうして楽しかった時間も終わりを迎え、後片付けをみんなで済ませた後、リビングには静けさが戻る―――はずもなかった。
「ねぇ、誰? ここの6を止めてる人」
「キャロルちゃん、多分だけどそれはクリスちゃんだと」
「はぁ!? ふざけた事ぬかすな! あたしはハートの6なんぞ持ってねー!」
「じゃあじゃあ、スペードの8はどうデス?」
「持ってねーっ!」
「ならダイヤの9」
「…………出し忘れてたんだよ」
追い詰められたとばかりに苦い声を出すクリスに、響と切歌に調がしてやったり顔。今はキャロルとクリスにマムやフィーネの四人で七並べ。
で、いつかのゲームと同じでみんなでその四人の後ろへ好きなように移動して眺めている。響はキャロルの後ろで、切歌と調はマムの後ろ。
「今のっていいのかい? なら、あたしもクリスのために援護するよ?」
「程々なら許容する、てとこかな。やり過ぎはダメ」
「アナタ、審判なんだからもっと厳しくした方がいい。私が言うのも何だが、先程のは十分注意が必要だろう」
「私もそう思います。切歌、調、次はないですよ?」
「は、はいデス……」
「気を付けます……」
マムに言われて若干落ち込む二人。響の方はと言えば、未来がきっちり言い聞かせてました。流石響の保護者的立場である。
「クリス、あんたも素直過ぎ。いっそ開き直っちまいなって」
「……そうする」
「ふふっ、でもさっきのクリスは中々可愛かった。後輩には甘いんだな?」
「そ、そんなんじゃねーから。ほ、ほら、ご所望のダイヤの9だ」
ツヴァイウイングに見守られながらカードを出すクリス。そんな彼女を誰もが笑みと共に見つめていた。と、そんな時だった。手元のカードに目をやって考え込んでいたキャロルが顔を上げてこちらを見てきたのは。
「キャロル?」
「……父さん、アルカ・ノイズの反応だ」
瞬間、全員の表情が一気に変わる。奏達はすぐさま本部へ行くために動き、フィーネとマムさえもゆっくりとではあるが立ち上がると、装者達の後を追うように歩き出した。
スコア達も素早くリビングから出て行った。おそらくキャロルとエルのための仕事着を取りに入ったのだろう。その場には、俺とキャロルにエル、そして夢子がいるのみだ。
「場所は……分かりそうか?」
夢子を抱き抱えながら尋ねる。夢子は突然の事に困惑しているのか、どこか寂しそうで泣きそうに見えた。なのでそっと額へキスをする。大丈夫と、そう告げるように。
「おそらくだが……少し待ってくれ。エル」
「うん!」
呼ばれたエルが空中にモニターらしきものを出した。そこには地球が映し出されている。
「…………ここか」
キャロルが指さした瞬間、一部に赤い点が付いた。すぐさまそれを見たエルが何か操作開始。
「……本部へのデータ転送完了」
「これで後は向こうが調べてくれる」
「凄いな。いつの間にそんな事を?」
たしか、以前の話ではここは発令所に出来ないと言っていた。なのに、どうやって本部とのやり取りを可能としたんだ? 業者など入れた事ないのに。
「父さん、忘れたのか? 母さんは技術者だぞ?」
「本格的な事は機材がないと無理ですが、本部とのデータのやり取りぐらいは何とか出来たそうです」
「……そうだった。了子は天才だった」
俺がそう呟いた時だった。背後に複数の気配を感じたのは。振り向けば、そこにはキャロルの錬金術師としての服装を持ったファラと、白衣を手にしたガリィがいた。ミカとレイアは俺のコートとマフラーを持っている。
「マスター、これを」
「すまない」
「エル、これでいいわよね?」
「うん、ありがとうガリィ」
「シキはこれだゾ」
「防寒具はあった方がいい。地味に寒い」
「ありがとな、ミカ、レイア」
こうして俺達も本部へと向かう。夢子にとっては初めて訪れる事となるS.O.N.G本部。俺達はそこで思いがけずクリスの過去に触れる事となる……。
「キャロル君がアルカ・ノイズを感知出来たのは、バルベルデ共和国と分かった」
俺達が発令所へ着いた時には、風鳴さんが既にいた。聞けば、家でくつろいでいたそうなのだが、見ようと思っていた映画を本部に忘れていた事を思い出して取りに来ていたそうな。運がいいんだが悪いんだか分からんとは本人の言。
それと、藤尭さんも友里さんもせっかくのイヴだったのにそれでも本部に向かっているらしい。本気で頭が下がる。キャロルに頼んで、緊急時の本部移動用にあの結晶を増産してもらおうか。
「バルベルデって……」
「クリスの両親が最後に訪れた国だ」
その名に聞き覚えがあった俺にフィーネが告げた内容が意味する事。だからか全員がクリスへ視線を向ける。
「ああ、そうだ。あたしが地獄を見た場所だ」
「クリスちゃん……」
「いいんだ。今のあたしは周囲全てに耳を塞ぎ目を閉じてたあたしじゃねえ。ここで、あったかい場所とあったかい時間を得た。そして、パパとママの夢を思い出してそれを叶える事が出来る力を得た、雪音クリスだ」
静かに、だけど力強い宣言だった。誰もの顔に笑みが戻る。それも、すぐに凛々しさが取って代わって行くけれど、それでも確かに笑みがあった。
「先程、国連へバルベルデで特異災害関連の非常事態が起きた事を報告している。おそらくだが」
「遅くなりましたっ!」
「司令、状況を教えて頂けますか?」
「その必要はないだろう。通信が入っているはずだ。繋いでくれ」
「はい」
友里さんが定位置に座るや正面のモニターに見知った顔が映る。
「八紘さん?」
『要君か、久しいな。弦、承認が出たぞ』
「そうか。なら、早速行動を開始する」
『頼む。一応バルベルデ共和国へも国連から通達がいっている。まぁ、おそらく黙殺するだろうがな』
「構わんさ。そもそもアルカ・ノイズを使った時点で後戻りはしないだろう」
『そうだな。……キャロル・マールス・ディーンハイム君』
「何だ?」
『君の力の一端は見せてもらった。出来れば残る力も示して欲しい。国連にではなく、世界に』
「……俺達の幸せのためにも、家族の笑顔のためにも、それが必要とあれば出し惜しみせずやってやる」
『頼む。では、翼も気を付けてな』
「ありがとうございます、お父様」
通信を終えて、キャロルは風鳴さんへ目を向けた。その目には、普段はない鋭さが宿っている。あれは、錬金術師としての目だ。
「それで、いつやればいい?」
「出来ればまだ待って欲しい。バルベルデでアルカ・ノイズを使ったのは政府だろうが、そこへそれを流したのはパヴァリア光明結社だろう。なら、その人間が現地にいる可能性が高い」
「それを確認、あるいは捕縛出来れば……という事ですね?」
「ええ。可能ならば組織の全貌を明らかにし、錬金術師達を一網打尽にしたいのです」
風鳴さんの言葉にキャロルは何かを思い出したのか、帽子を触って少しだけ上へ向ける。
「確か、俺と交渉した男のアダムとやらが統制局長と名乗っていたような……」
「であれば、そのアダムとやらが組織のトップか。ならば、当面はその男へ辿り着けるようにするべきだな」
右拳を左手へ軽くぶつけ、風鳴さんは視線を正面へ向けた。
「よし、出航準備! 目標、バルベルデ共和国っ!」
風鳴さんの声を合図に騒がしくなる船内。俺は、夢子を少しだけ強く抱き締めた。これで今までの日常が壊れ去ってしまわぬようにと、願うように。
夜明けと共に、バルベルデ共和国に歌が鳴り響く。絶対無敵を誇るはずの防衛網を文字通り斬り裂いていく一陣の風と共に。
「な、何だ!? 何が起きているっ!?」
「っ!? し、シンフォギアです!」
告げられる名は、悪意の下に力を振るう者にとっては死刑宣告。逆に、か弱き者達には希望の光。絶望の地と化したバルベルデを、今、三つの歌声が払い清めていく。
迫り来るアルカ・ノイズを、戦車を、銃撃を物ともせず、翼が、クリスが、響が突き進んでいく。それは、さながら解放軍。圧政を強いる者達への、たった三人による大反抗劇。
いかな攻撃も寄せ付けず、奏で響く歌声が鳴り渡る度に、戦車や軍人が無力化される。奥の手であろう空中要塞も、力と歌声を合わせた三人には毛ほどの役にも立たずに撃墜と相成った。
更に、別働隊として動いていたマリア達によってアルカ・ノイズ製造工場も壊滅、その監督官もセミエクスドライブの奏の前では逃げ切る事叶わず、こうしてバルベルデ共和国でのアルカ・ノイズ騒動は幕となった。
だが、物語はここから始まる。本部の守りとして未来とセレナに奏を残し、パヴァリア光明結社の痕跡を探すために響達は二手に分かれて動き出した。
「ね、クリスちゃん」
「ん?」
何かあってもいいようにと、ギアを展開したままで響達は行動していた。そんな中、突然響が近くを流れる川を眺めてクリスへ呼びかける。
「ここでクリスちゃんに何があったか、詳しく聞く事はしない。でもね、これだけは言っておきたいんだ」
「何をだよ?」
そこで響は顔を川からクリスへと向ける。その表情は、優しい笑みを浮かべていた。
「例え、何があったとしても、私はクリスちゃんの友達で、未来の家族って事」
「……そうかよ」
「うん。翼さんもですよね?」
「そうだな。今は先輩と付いているが、いつかはそれさえもなくなって欲しいものだ」
「……考えとく」
照れくさくなってきたのか、二人から顔を背けるクリスだったが、その反応だけで今の二人にはその感情が伝わった。故に響と翼は笑みを向け合う。
そうしてある程度緊張感を和らげつつ、三人はアルカ・ノイズ製造工場があった近くまで向かった。既にそこは国連の手によって立ち入り禁止区域となっており、三人はそれを確認するや更に川沿いを下って行く。
「この先に村があるって言ってましたね」
「ああ、どうやらそこから工場の作業員を徴発していたそうだ」
「ひでぇ事しやがる。どうせ賃金さえ支払ってないんだろ」
「だろうな。そして、逆らえば死」
「……許せない話ですね」
「まったくだ。ま、だからこそ罰が当たったんだ」
心底いい気味だと言わんばかりのクリスに響と翼が苦笑する。と、その時だった。
『翼、聞こえるか!』
「司令? はい、聞こえています」
翼の応答に響とクリスの表情が変わる。何か厄介事が起きたと直感で察したのだ。
『例の場所の調査部隊を護衛していたマリア君達が、パヴァリアの錬金術師達と接敵した。今からその場所へのルートを伝える! 至急、そちらへ向かってくれっ!』
「分かりました。ただちに向かいます」
答えると同時に翼は響とクリスへ目配せをする。それだけで良かった。今の三人はそれだけで互いの考えをある程度察する事が出来る。それも、人に言えぬ夜を過ごした間柄故の事。
響達がクリスのギアから放たれたミサイルで移動を開始した頃、マリア達三人は思いがけない苦戦を強いられていた。
「くっ……攻撃が無効化される……っ!」
何度もダメージを与えるもなかった事にされてしまう。そんな敵の名は、ヨナルデパズトーリ。マリア達は知らないが、何人かの命を犠牲にして生まれた存在である。
「ユニゾンでさえも効果なしデス……」
「三人でもダメなんて……」
適合係数が上昇している事に加え、出かけにシキとしたキスもあってかギアの調子は好調。にも関わらず、一切の攻撃を無にされる。その現実が、少しずつではあるが三人の戦意を削いでいた。
そんなマリア達を遠くから眺めている三つの人影。彼らこそパヴァリア光明結社の錬金術師であり、ヨナルデパズトーリを使役している者達である。
「思ったよりもやるじゃない」
「あの三人はリンカー頼りと聞いていたが、それであれなのか? 予想外にやるワケダ」
「そうね。それでも、神の力を宿したヨナルデパズトーリには……」
揃って見つめる先では、マリアが再び切歌に調とのハーモニーを奏でてヨナルデパズトーリへ攻撃を仕掛けようとしていた。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
「敵わない」
その言葉の通り、マリアのアームドギアから放たれた一撃は見事にヨナルデパズトーリを貫くが、その姿が数秒で元に戻る。そしてそのまま、マリアへとヨナルデパズトーリが迫った。
「「マリアっ!?」」
「くっ……やはりダメなのっ!?」
空中にいるため、体勢を立て直せないマリア。それでもその目に恐怖も不安もない。あるのは、悔しさと闘争心。その手に握った槍を強く握り直し、それでもとばかりに突き出した。
「だとしてもっ! このガングニールで貫くのみっ!」
諦めない。その言葉を込めた一撃がカウンターとなってヨナルデパズトーリを捉えた。絶叫を上げるヨナルデパズトーリ。それは、今までと異なる反応だった。
「っ!? 直接攻撃なら、通ると言うの?」
その違いをマリアはすぐさま察した。これまでは威力を重視して直接攻撃ではなくエネルギー放射へ重点を置いていたのだ。
そして、錬金術師達は困惑を浮かべていた。
「どういうワケダ? 再生が始まらないとは」
「ちょっとぉ、どうなってるのよ」
「分からない。不完全だった、という事だろうか?」
事態の理解が出来ないまま、それでも錬金術師達は目の前の光景を観察し続ける。無事着地したマリアは、未だに苦しむヨナルデパズトーリへ再度の攻撃をしかけようとしていた。
「調っ! 切歌っ! 援護して! もう一度この槍で貫いて終わらせるっ!」
「分かった!」
「任せろデス!」
削られていた戦意が元通りどころか膨れ上がったのを感じ取ったのか、ヨナルデパズトーリが苦しみながらも三人へ向かっていく。それを受け、調と切歌が突進の勢いを弱めるようにアームドギアでいなし、マリアへと視線を向ける。
「「マリアっ! 今(デス)っ!」」
「誇りとぉ……契れぇぇぇぇぇっ!!」
烈槍ガングニールの旋律と共に、マリアの手にしたアームドギアが突き出される。まるで先程の再現のような状況だったが、それでも結末は同じではなかった。
ヨナルデパズトーリを貫いていくマリア。その体が完全にヨナルデパズトーリを通過した瞬間、光の粒子となって消滅させたのだ。
その結果に見守っていた錬金術師達が息を吐く。それはため息。思っていたような成果を上げなかった事への、落胆だった。
「こんなものか。まぁ、実験にしては上々なワケダ」
「そうね。お試しならこんなものよね」
「……シンフォギアの力も見れた。思っていたよりは……っ?!」
何かを感じ取ったのか、男装の女性が後ろを振り返る。残る二人も同様に。
「はあぁぁぁぁっ!」
「推して参るっ!」
「「「シンフォギアっ!?」」」
そこで彼女達が見たのは、凄まじい速度で向かって来る響と翼の姿であった。ミサイルによる加速にギアによる加速を加えて、二人は錬金術師目掛けて突撃したのだ。
一瞬動揺を見せた錬金術師達も、即座にその場から離脱し二人をかわす。だが、そこへ無数の銃弾が押し寄せた。
「ちょせえっ!」
「くっ、まだいたのか」
瞬時に防御壁のようなものを展開し、残る二人をも守る男装の麗人。さしものイチイバルの射撃もそれを貫く事は出来ない。ただ……
「シンフォギア……これ程か……っ!」
降り注ぐ銃弾の雨に、展開している守りが余裕を失っていた。流石に亀裂などは生じないものの、展開している男装の麗人に汗が浮かび始めたのだ。
「まさか、サンジェルマンの守りを……」
「貫きはせずとも脅かす、だと? どういうワケダ!?」
「何をごちゃごちゃ言ってやがるか知らねーが、あたし様のクリスマスプレゼントはこんなもんじゃねーぞっ!」
「「「っ!?」」」
目の前でクリスが準備するは巨大なミサイル。さすがに現状でそれを受ければサンジェルマンと呼ばれた女性の守りも危ういかもしれない。そう思って、ならばと背後の二人が動こうとした瞬間、そんな彼女達へ迫る者達がいた。
「私達を相手に気を取られるなどとっ!」
「そこだぁぁぁぁっ!」
翼と響が再度背後から錬金術師達を強襲したのである。今度は先程のように離脱する訳にもいかず、しかもサンジェルマンはクリスの攻撃を防いでいるため身動き出来ない。したがって、今回彼女達が取れる行動は少なかった。
「やるわよっ!」
「分かっているワケダっ!」
迎え撃つ。それしか二人に選ぶ道はなかった。
「カリオストロっ! プレラーティっ!」
「てめえの相手はあたし様だっ!」
自分の背後から動いて離れて行く二人へ声をかけるサンジェルマンだったが、それで状況が変わるはずもない。クリスからの攻撃は止むどころかどんどんと激しさを増しており、今まさに二つのミサイルが放たれようとしていたのだ。
「素手のお嬢ちゃんの相手は私よっ!」
「っ!? わわっ!」
カリオストロの手から放たれる攻撃に動揺しつつ、響は何とか回避しながら距離を詰めていく。
「剣は私がへし折るワケダ!」
「この剣は、何者であっても折る事も曲げる事も出来ぬと知れっ!」
プレラーティの言葉へ力強くそう言い返し、翼は手にした刃へ力を込める。
そうして空中でぶつかり合う錬金術とシンフォギア。響達三人とサンジェルマン達三人の力関係は、若干ではあるが響達の方が上と言える。だからだろう。彼女達三人は、それぞれ奥の手を使う事にした。
(((ラピスを使うしかないようね(ワケダ)……)))
丁度その瞬間、クリスの放ったミサイルがサンジェルマンの防御壁へ炸裂、爆音と炎を巻き起こす。それらに飲み込まれるように姿を消す錬金術師達。
それを避け、地面へと降り立った響達はすぐに上を向いて異常さに気付いた。そう、誰も落下してこないのである。
「まだ終わってない、ですね」
「ああ、そのようだ」
「相手は錬金術師。あたしらの知らねー力を山ほど隠してやがるだろうしな」
「そうだ」
聞こえるは、朗々とした声。そして、一瞬にして消し飛ばされる炎。そこには、姿の変わった錬金術師達がいた。まるでギアをまとったかのようなそれに、響達はとある名称を思い出す。
「「「ファウストローブっ!?」」」
「やっぱり知ってるのね」
「そのようだ。キャロルがいるから当然なワケダ」
「侮り難いなシンフォギア。こちらが想定していたよりも随分と出力が上がっている」
「で・もぉ」
「それもこれまでなワケダ」
「何だと?」
「たかが姿を変えたぐらいでいい気になりやがって」
「クリスちゃん、待って。キャロルちゃんも、ファウストローブを使って凄く強くなったんだ。さっきまでとは全然違うはずだよ」
すかさず攻撃を再開しようとするクリスへ、響が警戒心を露わにして止めに入る。そして、ここしかないとばかりに問いかけるのだ。
「どうして貴方達はこんな事をするんですか! アルカ・ノイズを使って、大勢の人達を苦しめる事が目的なんですか!」
「答える必要はない」
「ありますっ! 私達は、キャロルちゃん達とも分かり合えた。それは、しっかり向き合って話をしたからです。だからっ!」
「分かり合える? バラルの呪詛がある限り、人類に完全理解など有り得ない」
「っ! そんな事ないっ! だって、私達は周囲に理解され辛い夢を目指して、頑張ってる人を知っている! その人の頑張りを、少しずつだけどみんなも分かってくれてきてる! 手を差し伸ばす事を諦めない限り、人は、必ずその手を届かせる事が出来るっ!」
見つめ合う響とサンジェルマン。根拠なく言っている訳ではない響の言葉は、微かではあるがサンジェルマンにも響いた。だが……
「そうかもしれない。だが、全ての人間がそんなに強くあれるはずもない」
「それは……」
「いいでしょう。一つだけ教えてあげる。私達は人類を支配から解放する。力弱き者達も力強き者達も同じように生きていけるように」
「支配からの解放、だと?」
「一体何を企んでやがる……」
思いもよらぬ解答に、翼とクリスにも困惑の色が浮かぶ。
キャロルは己がために世界を分解、再構築しようとしていた。それに対し、サンジェルマンの目的は我欲とは思えないような内容だったためだ。
「言ったはずだ。人類を支配の軛から解き放つと。それを邪魔すると言うのなら、誰であろうと容赦はしない」
「そういうワケダ」
「だからぁ、大人しく引っ込んでなさいな」
「っ! 引っ込んでろだとぉ? ふざけるなっ! 誰かを犠牲にしても胸を張ってる時点で悪党だろうがっ!」
「そうだ! 支配からの解放と言うが、そのためなら犠牲を出しても構わないと思っている以上、お前達の事を見逃す事は出来ないっ!」
そのクリスと翼の言葉に響も拳を握ろうとする。と、そこへマリア達が合流しようと迫っていた。その様子をいち早くサンジェルマンが気付き、一度だけ目を閉じるとすぐに開いた。
「……今日はこれぐらいにしておきましょう」
「え~っ? ここからじゃない」
「なら、お前だけで六人相手にするワケダ」
「うっ、さすがにそれは……」
「撤退する」
「了解だ」
「はぁ~い」
素早い判断で即時撤退を選ぶサンジェルマン。その判断に追従し、プレラーティとカリオストロもその場から消える。それとマリア達が合流するのはほぼ同時だった。
「ごめんなさい。合流が遅くなったわ」
「いや、いい。おかげで相手の気勢を削ぐ事が出来た」
「さっきの姿、あれって……」
「ああ、キャロルが持ってるのと似たもんだ」
「ファウストローブ、デスね。でも、キャロルが錬金術師なら誰でも作れる物じゃないって」
「きっと、あの人達もキャロルちゃんと同じぐらい凄い錬金術師なんだよ。だからこそ……」
揃ってサンジェルマン達のいた場所を見つめる装者達。日はゆっくりと沈み始めており、辺りは夕焼けが染め上げている。その美しさを感じながら、誰ともなく呟いた。
―――また、戦いが始まる……。
「思わぬ出来事で時間を食ったが、これで目的は達成なワケダ」
響達が本部へ撤収を始めた頃、とある建物の地下室にサンジェルマン達の姿があった。そここそが、藤尭達が調査していた場所であり、マリア達が彼女達と接敵した場所である。
「まさかあーし達がここへ戻ってくるとは思っていなかったみたいね」
「あるいは、まだここへ到着していないのでしょう。とにかく、今はティキの回収が最優先よ」
そう告げるや、サンジェルマンは目の前の人形をどこかへと転送させる。それを見届け、彼女もまた姿を消した。
「ね、プレラーティ」
「何だ?」
「あいつら、いくら何でも強すぎない? データがキャロルと接触する前のとは言っても、たった一年弱でファウストローブを使わないといけないまでになる?」
カリオストロの疑問はプレラーティも抱いていたのか、珍しくサンジェルマンに追従する事なくその場へ留まった。
「私もそれは思った。イグナイトモジュールという決戦仕様を組み込んだらしいが、それは使用すれば分かるワケダ。なら、あれは通常状態」
「それであーし達を圧倒、とまではいかないでも優勢。直接やり合った訳じゃないけど、ラピスを使った後なら一気に逆転ってのも有り得ない」
「そうだろうな。つまり、奴らを強化した何かがあるワケダ」
そこで二人は揃って笑みを浮かべる。邪悪な笑みを。
「なら、それを調べないといけないわね」
「おそらくだが、錬金術の類ではないはずだ。キャロルの手で強化されたのなら、どこかに我々が気付く要素が出るワケダ」
静かに暗躍しようとする影がある。その二つの影が目指すは、当然あの男。
「っくし! ……南米だからあったかいかと思ったけど、日が落ちるとそうでもないんだなぁ」
彼女達は知らない。彼に手を出す事がどれだけ厄介かを。彼らは知らない。かつての頃ならいざ知らず、今の自分達では彼がどれだけ恐ろしい相手かを。
カリオストロとプレラーティ。サンジェルマンへの強い恩義を感じている二人は、その彼女のために、自ら死地へと赴こうとしていた……。
感想でありましたが、シキはサンジェルマン達へ手を出すのか問題の始まりです。
GX編でキャロルはまずシキへと接触しています。つまり、二人がシキが怪しいと思うのはすぐです。
そして、彼の能力である”生命のスープ”は、神の力を錬成するために犠牲を出してきたサンジェルマンにとっても見逃せないものとなっていくでしょう。
で、肝心の答えですが、手を出すかは置いておいて、種は出すとだけ言っておきます。
……どこに出すかまでは言えませんが。