「母さん、だと?」
「ああ、そうだ。今の俺は要シキの養子となった。故にその妻である櫻井了子は俺の義母だ。そして夢子の義姉でもある。これだけ言えば分かるだろう」
怒りを込めて告げられる言葉。サンジェルマンはそのキャロルの言葉に返す言葉が出てこなかった。
(キャロルは、要シキだけでなくその妻までも慕っているのか? 母と、そう呼び、血の繋がらぬ幼子を妹と、そう思って……)
ティキを成長した娘と思ってと、そうシキが言っていた事まで思い出し、サンジェルマンは思わず目を閉じた。
その娘を、キャロルは妹として大事にしていると知って。それだけではない。夢子からシキを引き離したと悔やんだサンジェルマンにとって、キャロルの怒りは更なる心苦しさを与えるには十分だった。
「今の俺に、いや俺達にとって要シキは父であり家族だ。長きに渡る復讐で曇っていた俺の目を覚まし、亡きパパの願いを思い出させてくれた。そして、一人ぼっちだった俺に妹や母さん、グランマまで引き合わせてくれたんだ。それを、それをお前達が壊した。あったかくて笑顔の絶えなかった俺の居場所を、お前達がぶち壊したっ!」
「「「っ?!」」」
キャロルの全身から放たれる怒気。殺意ではないが、それに近しいぐらいに激しく昂っているそれに、サンジェルマン達が若干ではあるが気圧された。
更にガリィ達も呼応して怒気を放てば、もう戦いの火ぶたが切って落とされるのも時間の問題である。
「人類を支配の軛から解放するとか言っていたが、正直そんな事は俺にはどうでもいい。ああ、そうだ。どうでもいい。お前達の目的も、理想も、全てがどうでもいい。俺はただ、家族や大切な人達と平和に過ごせればそれで良かった」
「本当にお前はキャロル・マールス・ディーンハイムなのか? 我々に支援を求めてきた時とは別人に感じるワケダ」
「当然だ。今の俺は錬金術師のキャロルではない。今の俺は、S.O.N.G所属研究員のキャロルだ」
「マスター、そろそろいいでしょうか? 正直私達としても、シキさんをさらい夢子やお母さんを悲しませた相手を許してはおけませんので」
言いながらファラがそっとキャロルの前へと立つ。響は既に少し離れた場所へ運ばれ、そこからキャロル達の様子を見つめていた。
「そうだゾ。シキがいなくなったせいで、お母さんも夢子もあまり笑わなくなったんだゾ」
「地味に堪えるのよね、あれ」
「ほ~んと。ほんの二週間前はあんなにみんなで笑ってたのにねぇ」
静かに怒りを燃やすスコア三人もキャロルの前へと歩み出る。それは、守護するのではなく、キャロルがサンジェルマンと戦えるようにするためのもの。
その証拠に、ファラとレイアがカリオストロを、ミカとガリィがプレラーティをそれぞれ見つめていたのだ。
「あらあら、オートスコアラーが息巻いちゃって」
「身の程を教えてやるワケダ」
「二人共、気を付けて。甘く見れる程可愛い相手ではない」
「分かってるわよ。で・も、あーし達の敵じゃないわ」
「シンフォギアを圧倒できる今の我々に噛みついた事を後悔させてやるワケダ」
「思い出した。そう言えば響とかなり遊んでくれたようだな。その礼も合わせてしてやろうっ!」
そう言ってキャロルは何かを地面へばらまく。それはサンジェルマン達にも馴染みの物。
「「「アルカ・ノイズっ!?」」」
「何を驚く? 元々俺がそちらのレシピを基に創ったものだ。俺が使って何がおかしい」
出現したアルカ・ノイズ達は迷う事なくサンジェルマン達へ向かっていく。それに合わせてガリィ達も動き出した。
これにサンジェルマン達は出遅れてしまう。自分達もアルカ・ノイズで対抗しようとしたのだが、そこを狙ってキャロルが追加のアルカ・ノイズを出現させ、三人が出現させる隙間を無くしてしまったのである。
そこへガリィ達がアルカ・ノイズを巻き込みながら攻撃を開始。一瞬にしてそこは激戦区と化した。
「凄い……」
響は視線の先で展開される光景に息を呑んでいた。元々ガリィ達が手強い事はよく知っている響であったが、その本気を見るのは今回が初めてだったのだ。
何しろ、初めてにして最後の激突は、シキの事を考えてガリィ達が手心を加えていた時だったために。
そもそも、ガリィ達はイグナイトを使用しなければ勝てないよう作られている。それは裏を返せば、イグナイト状態のシンフォギアに匹敵する強さを有しているという事だ。
つまり、ラピス・フィロソフィカスの輝きを無力化出来た装者達と同等である。しかも、残存していたドリンクを全て使用している今、四人の力はスープを摂取出来てない装者達よりも上。
「な、何だ! この圧力は一体どういうワケダっ!」
プレラーティへ迫る炎と氷の共演。スープを体内で吸収しているにも関わらず、それに負けず劣らずの力を見せるミカとガリィのコンビに、プレラーティは苛立ちを隠す事なく手にした巨大なけん玉で薙ぎ払うように腕を動かした。
「そんな攻撃避けるまでもないゾっ!」
「っ?! 何だとっ!?」
だが、その一撃をミカが両手で受け止める。スコア達の中で一番の燃費の悪さを誇るミカだが、それ故に戦闘面において放つポテンシャルの高さは他の追随を許さない。
その能力が、ドリンクとこれまでの暮らしで得た思い出を支えにし、最後の決め手を以ってプレラーティへと炸裂しようとしていた。
「お前達、マスターからシキ奪った。それだけじゃなくて、みんなから笑顔も奪った。だから、だから……」
「ぐっ……! 動かない、だと……」
「ぜ~ったいっ! 許さないゾぉぉぉぉぉっ!!」
感情の爆発。シキ達との暮らしでミカ達にたしかに芽生えた、心の動き。それがミカに作られた性能を超える力を生み出し、与えたのだ。
けん玉を逆に持ち上げ、体を宙へと動かすミカの怪力にプレラーティは動揺する。そんな彼女の耳元へ囁きが聞こえてきたのはそんな時だった。
「覚悟するのねぇ。ガリィちゃん達は、響達程優しくないわよ?」
「っ!? 手が……凍るっ!?」
ガリィの両手で掴まれたスペルキャスターを持つ手が、ゆっくりとファウストローブごと凍てついていくのを見てプレラーティは驚愕する。
シンフォギアと同じで防御力にも優れるファウストローブ。それを一部とは言え凍らせる。それが意味する事の恐ろしさと凄まじさを誰よりも知るが故に。
「ミカっ!」
「分かってるゾっ!」
ただ、ガリィも分かっていた。自分の力では全身を凍らせる事は不可能だと。だからこそ一部を凍らせ、ミカへ呼びかけてプレラーティから離れる。
ミカもスペルキャスターを地面へと突き刺して手を放し、プレラーティの体が激しく揺れる。そこで二人は同時に攻撃を放つ。火炎と吹雪。相反する二つの攻撃がプレラーティの正面と背面から押し寄せた。
逃げようにも手がファウストローブごとスペルキャスターへ氷漬けにされていて、プレラーティは自由に動く事が困難である。それこそが狙いだったと気付き、彼女は表情を悔しさで歪めた。
「お、オートスコアラーなどに後れを取るなど……有り得ないワケダっ!」
コインとビームが衝突する。その中を一陣の風が駆け抜け、その度に火花が散る。
「ああんっ! もうっ、鬱陶しいんだからっ!」
苛立ちを見せ、カリオストロは拳を握る。そのままその拳を目の前の相手へ、ファラへと打ち出して迎撃しようとして、彼女はその場から後ろへと下がる。
直後、先程まで彼女のいた場所を多数のコインが襲い、地面へ無数の穴を作り出す。カリオストロの追撃を阻止するように。
「チッ!」
「地味に避けられた」
「ですが効果は派手ですよ、レイア」
「みたいね。なら、地味に派手な効果を狙い続けるとするわ」
前衛後衛コンビとして機能するファラとレイア。その厄介さにカリオストロは内心で舌を巻いていた。
(やってくれるわ、このオートスコアラー達。あーしの間合いへ完全に入り切らないようにあの緑は立ち回るし、あーしが踏み込もうとするとあっちの黄色が邪魔してくる。これ、あーしの得意が近接戦って読まれてるわね。……ああ、そういえば前の時に両翼の片方へ強烈なのおみまいしちゃったわ)
迫り来る翼へ咄嗟に放った一撃。その重さを知ってしまったからこその二人の行動だと、そう理解しカリオストロはため息を吐いた。
「これはもう隠してても意味がないみたいねぇ」
「何の事か分かりませんが、戦場で出し惜しみを出来る程貴方達は強くありません」
「あら? 何ですって?」
「地味に事実。実際、シキの能力を使わなければとっくに響達が派手に勝っている」
「ぐっ! あーし達の地味に気にしてた事をあっさりと言ってくれるわねっ!」
言い放つと同時にその場を蹴ってファラへと迫るカリオストロ。その速度はこれまでよりも数段速い。さすがのファラもそれには対処が遅れ、腹部へその拳を叩き込まれる―――前にレイアの攻撃がカウンター気味でカリオストロへ放たれた。
「こんなものっ!」
「地味に通じない。なら……」
押し寄せるコインを避ける事もせず、両腕を交差する事で弾きながらファラへと迫るカリオストロ。が、レイアの攻撃はその勢いを弱める事が目的ではなかった。
「これならいかがです?」
「っ?! 風が……っ!」
腹部へ叩き込まれるはずだった拳が捉えたのは、重く鈍い金属の感触。レイアの剣へ命中したカリオストロの一撃は、その刀身へ微かなヒビを生じさせるだけで終わる。
レイアの攻撃は一瞬でもカリオストロの視界を塞ぐ事にあった。その間にファラは持っていた武器を盾代わりにし、反撃の機会を待ったのである。
カリオストロの体を包む竜巻。それを何とか弾き飛ばそうとするカリオストロへ、金色の輝きが無数に放たれた。
「一度で駄目なら何度でも。地味に継続する事で派手な結果を」
「痛っ! こ、こんな地味な攻撃でぇ!」
「やられてくれとはいいません。ですから、やらせてもらいますっ!」
「しまっ!?」
意識をレイアへ向けたところを逃さず、ファラが風のようにカリオストロへ迫る。その剣先を煌めかせて、竜巻ごとその体を切り裂かんと。
周囲が激しい戦闘を繰り広げる中、キャロルはサンジェルマンと対峙したまま立ち尽くしていた。
「答えろ。シキは、父さんはどこにいる?」
「そう言われてお前なら答えるか?」
「ふんっ、そうだな。ならば聞く事を変えよう。神の力とやらのためにお前達は俺の父さんを利用しているようだが、それは保険だろう?」
「何の事か分からないな」
「レイライン」
「っ……」
キャロルの口から出た単語にサンジェルマンが僅かに表情を変える。理解したのだ。キャロルが自分の元々やろうとしていた方法を悟っていると。
「神の力という途方もないものを錬成するには、例え七十億の生贄を捧げても可能か分からん。それに、お前は人類を支配から解き放つと大言を吐いた。なら、可能な限り人類を犠牲にはしたくないはずだ。そこから考えれば、俺には思い当る節がある。かつての世界の分解再構築。そこで利用しようと思っていたレイラインの事だ」
「……そうだったな。お前ならそこへ気付くのは自然だ」
「星の命とも言える膨大なエネルギーの動脈。それを利用して贄とする。そう考えてレイラインを見せてもらえば、お前達がどうしてこの国へ来たのかも分かった。いや、この国へ来たからこそ俺も探索範囲を狭める事が出来た」
「成程。私達も失態を演じていたか」
「むしろ失態でない時の方が珍しいがな」
そう言い終わるや否やキャロルはその手を動かしてサンジェルマンへと向ける。
「正直、俺はお前達が何をしようが俺達に危害が及ばないのなら構わない。月遺跡へのアクセスも、支配の軛もどうでもいい。だがっ!」
「父を奪われた以上、放置など出来るものかと?」
「当然だっ! 夢子はこれまで凄まじい速度で成長していたのに、父さんがいなくなってから火が消えたように静かになったんだぞっ! よく笑ったり不思議そうにしたりと表情をころころ動かしていた夢子がっ! 今では笑う事より泣く事が増えたんだっ!」
キャロルの叫びがサンジェルマンの心を打つ。脳裏に浮かぶ赤子の泣き顔。それがいなくなった父親を求めてのものなら、そう考えてサンジェルマンは胸を痛めた。
(理想のため、目的のためと、そう思ってどんな犠牲も払ってきたのに、何故ここまで彼らの話は胸に来る? やはり、その関係性か? 父を奪われた幼子とキャロル。それにかつての自分を重ねてしまっているのか……)
そこでサンジェルマンが思い出すのはシキの事。それも、今朝の出来事である。彼女は、遂にシキから本当の生命のスープを手に入れたのだが、当然それは普通の手段ではなかったのだ。
(彼に、あそこまでの決意をさせてしまうとは……)
時刻は朝の六時。まだ外は暗さが残っている。そんな中、私は裸でベッドに座っていた。その視線の先には反り返るペニスとそれなりに締まった体、それとやや戸惑いの色を浮かべる男の顔がある。
「本当にいいんですか?」
問いかける声には、私を思いやる優しさが込められていた。やはり彼は優しい男のようだ。これまでの人生でも何度か男と床を共にする事はあったが、ここまで穏やかで優しい対応は初めてと言える。
大抵は、私が裸になると獣のようになり、裸にならなくとも、床を共にするとなっただけで豹変する者達がほとんどだったのだ。
「ああ、構わない。もう言ったはずだ。既に異性との性行為は経験済みだと。今更恐れも躊躇いもない」
「かもしれませんけど……」
今も私の事を抱けるのに躊躇し、あろう事か止めさせようとしている。これが、私には驚きだった。怖気づいたのでも、気が乗らないのでもない。
彼は、要シキは私の心へ配慮してそう動いているのだ。どこに好きでもない男と性行為をする事を望む女がいると、そう言うように。
「ああ、そうか。複数の男と行為をした体が嫌かもしれないが」
「いえ、そういう事でもなくてですね?」
こちらの言葉を遮り、彼はどこか申し訳なさそうな顔をした。
「何だろうか?」
「サンジェルマンさんは、俺の精液が贄の代わりになるとしてどれぐらいのものかを知りたいんですよね? なら、別にセックスしなくてもいいじゃないですか。手で射精させて調べてみるだけでも十分でしょう」
彼の言葉は正論だ。実際、私も当初はそうしようと思っていた。だが、思い出したのだ。プレラーティもカリオストロも、彼と交わる事を最後には選んだ事を。
その理由が、一番スープを効率良く吸収出来るからだと。なら、その方法で射精してもらう方がより質が良くなるのではと思ったのだ。
「そうかもしれない。だが、どうせならば一番質が良くなると思われる方法で調べたい。私の錬成しようとする力は、その儀式の起動にさえもかなりの贄を必要とするのだ」
「……その起動分ぐらいになってくれれば十分、ですか?」
「ああ」
実際そうだ。儀式の完成には膨大な生命エネルギーが必要となる。これまでの経験上、そのために必要となる贄は十や二十では到底足りない。
だが、血液で贄十人分以上になる彼の能力ならば、その精液がどこまでとなるか分からない。もし、もし仮に起動分の贄代わりとなるのならこの上なく助かる。
だからこそ、私は恥じらいなどなく股を広げる。こんな事で犠牲となる命を出さずに済むのなら、いくらでも股を開くし抱かれもしよう。
それに、彼なら、要シキなら私も構わない。こんな私を一人の女性として思い、気遣い、心砕いてくれるのだから。
「さぁ、要シキ、私を抱いて欲しい。今だけは、妻子の事を忘れてくれ。酷い事を強要していると思うが、それで失われずに済む命が出来るかもしれないのだ」
「……分かりました。だけど、一つだけ言わせてください」
「何だろうか?」
私が問いかけると、彼は私の目をしっかりと見据えてこう告げてきた。
―――これは、俺がサンジェルマンさんを抱きたくて抱くんです。けして嫌々とか渋々じゃないって事だけ、分かっておいてください。
それは、暗に協力するために抱くのではないと言っていた。彼は、私を一人の女として見て、抱きたくなったから抱くのだと、そう言ってきた。
その言葉に、不覚にも私は動揺してしまった。これまでの中で、もっとも愛情の込められた告白だったからかもしれない。
生娘でなくなった時よりも私は狼狽えていたと思う。だが、それを顔にも出さない私に彼は気付くはずもなく、避妊具をペニスへ着けると静かに近付いてきた。
「サンジェルマンさん、一つだけお願いを聞いて欲しいんですけど」
「何だ?」
内心では心臓が煩い程鼓動を鳴らしている。どんな淫らな事を頼まれるのだろうと思っていると、彼は私の予想だにしない事を告げてきた。
「してる間だけ、呼び捨てでもいいですか?」
「……そんな事か。構わない。好きに呼んでくれ」
「ん。じゃ、始めるよ、サンジェルマン」
「ぁ……」
私のヴァギナへ擦り付けられるペニスの感触。避妊具のためか、若干ではあるが違和感のような物を覚える。思えば、そんな物を付けて私と性交した男はいなかった。
そう思った瞬間、より彼が私を大事にしていると感じてしまい、心が騒ぐ。これは神の力を得るための実験なのだと自分へ言い聞かせるも、視線の先には微笑む彼がいて、その気持ちを揺らがせる。
「力は抜いて、俺に任せてくれないか?」
「分かった。君に委ねよう」
「ありがとう。なら……」
「んっ!?」
顔を近付けて何をするのかと思えば、まさか口付けされるとは。ただ、そんな優しい口付けも初めての経験だった。
荒々しく舌をねじ込む事も、貪るように唇を重ねる事もなく、ただ私を愛おしいと言うような口付け。すると、そのまま彼の手が乳房へ伸びる。その手つきさえも優しい。
「サンジェルマン、綺麗だ」
「そ、そういう事はいい。早く挿入して射精してくれ」
「駄目だよ。言っただろ? 俺の想いがスープに影響するんだ。だから、出来るだけ君を大事な人と思って接しておかないと。なので悪いけど、もう少し愛撫させてもらうよ」
「あっ」
言い終わると同時に彼が私の乳首へ吸い付いた。優しく甘い快感が体を走り、とうに捨て去ったはずの女が戻ってくるような感覚に陥る。
それと同時に、私の乳房を揉みながら赤子のように乳首を吸う彼が子供のようにも見え、なるはずもない母親の気持ちにさえなってしまいそうになった。
こみ上げてくる愛しさに困惑しつつも、私は彼の行為を受け入れた。委ねると言った以上、それを翻すのは癪だと思っただけではない。その温かさに、甘えたくなったのだ。
生まれてから久しく忘れていた人の温もり。母を失ってからは、感じる事のなかった温もり。それを思い出して、私は気付けば彼の頭を撫でていた。
やがて彼は乳首から口を離し、そこをまじまじと見つめる。
「……うわぁ、エロいなぁ」
「自分でしておいてよく言う。これは君の唾液で濡れているんだ」
「だからだよ。にしても、良かった」
「何がだ?」
私の乳首を見てどこか安堵する彼に疑問符が浮かぶ。もしや不感症と思われていたのだろうか。だとすれば、さすがに文句を言ってもいいだろう。
「うん、ちゃんとサンジェルマンがエッチを嫌がってなくてさ。こういう事、あまり好きじゃないって思ったから反応も好意的じゃないかもってね」
「……君とだからかもしれないな」
まるで子供のような笑顔で言われてしまっては、怒気も失せてしまった。要シキ、不思議な男だ。大人と思えば子供のようにも見える。だが、そのどちらも私には不快さを与えない。
それどころか、むしろ好感を覚えてしまう。大人の顔も子供の顔も、どちらも邪気や下心を感じないからだろうか。
「それは光栄だな。なら、次は……」
「きゃっ!?」
思わず出た声に耳を疑う。今のは、何の声だ? いや、誰の声だ? 彼が私の視界から消えるように動いたかと思うと、股を大きく開かれた。その瞬間、私の口が勝手に声を出していたのだ。
彼はその声に気を良くしたのか、そのままヴァギナへと舌を這わしてきた。何とも言えない温かさと感触が私を襲い、感じさせてくる。
「か、要シキっ、それはいいっ。もう十分濡れているはずだ!」
「だ~め。言ったろ? 俺の大事な人として扱うって。だから嫌って程ここで感じてもらうよ。今、俺の気分は最愛の人の初めてをもらうって感じなんだ」
「は、初めてではないとっ! あんっ!」
私の口を封じるように強い快感が走る。今のは、おそらく陰核を舐められたのだろう。ああっ、駄目だ。これまでもそういう行為をされた事はある。だけど、ここまでの快感と幸福感を得た事はない。
彼の舌で陰核や膣内を舐められる度に、私の中で女が急激に目覚めてくる。儀式のため、目的のため、そんな私の考えを彼方へ消し飛ばすような、そんな甘く優しい毒が体を回る感覚だ。
「んっ! はぁんっ! だ、駄目ぇ……陰核をそんなに舐め回しちゃ駄目ぇぇぇぇっ!」
聞こえてくる淫らな音と感じる快感。まるで内側から彼に私が溶かされているような感覚さえある。これまでの数百年で作り上げてきた錬金術師としての私を溶かし、あの時に死んでしまった私へと戻すかのような。
「っはぁ……はぁ……」
初めてと言ってもいいぐらいの絶頂を迎えた。体全体を甘く優しい痺れと疲れが包む。これでまだ挿入されていないのか。もし、もし今のを繋がった状態で迎えたらどうなってしまうのだろう。
そんな事を思って私は視線を動かす。そこには、雄々しく反り返るペニスを見せつけるように立つ、彼の姿があった。
「本当はもっとしたいけど、時間もあるし入れるな?」
「……お願い」
無意識にそう返していた。もう、既に私の意識は目の前のペニスへと向いていたから。反り返り、逞しく雄々しいそれは、私が今まで見てきた中でもかなりの物だ。
自然と、下腹部が熱を生む。どうやら私もやはり女だったらしい。完全体と言えど、その本質は生物である以上本能には逆らえないのだろうか。
今の私は、生まれて初めて男に抱かれたいと思っている。
ベッドが少しだけ音を立てて彼の接近を教えてくれる。私は股を開いて彼を待つだけ。だけど、視線は、意識は、片時もペニスから逸らされない。
「サンジェルマン……」
「要シキ……」
ペニスをヴァギナへ突き当て、彼は私の名を呼んだ。その声に込められた想いに私も応じるように名を呼び返す。
「約束して欲しい。自分の命を大事にして。それと、出来る限りでもいい。奏達を、シンフォギア装者を殺さないでくれ」
「……ええ、約束する。可能な限り、君の心を苦しめないと」
私が告げた言葉に、彼は優しい口付けをしてくれた。それに目を閉じると、体の中に熱くて硬い芯のような物が入ってくる。
挿入されたのだと、そう理解した時には私は彼の背中へ腕を回してしがみついていた。
「ああっ……これが、これが本当の性交。こんなにも、こんなにも心が満たされるなんて」
私を包む温かい温もりと頼もしい肉体。向けられる眼差しは優しさに満ち、その表情も穏やかで柔らかい笑顔だ。
「えっと、それはちょっとだけ訂正させて欲しいな」
「訂正?」
どうやら彼は私の言葉に納得出来ない点があるらしい。それが分からず彼の言葉を待っていると、彼は私にこう告げてきた。
―――避妊具ないのが本当のセックスだよ。
その瞬間、私は相反する二つの想いを抱いた。一つは、そうだったと思い出して安堵するもの。そしてもう一つは、そうだったと思い出して後悔するものだ。
「これは結構薄いんだけど、それでもあるのとないのとじゃ違いが出る。いつか、サンジェルマンにも知って欲しいな。身も心も繋がるっていう、本当の意味を」
「……今の私にはどんな誘惑よりも効く言葉ね」
だって、それが分かるとすれば、それは彼が相手でなければならない。きっと、いや絶対彼以外の相手ではそれを感じる事は出来ないだろうと確信出来る。
何故なら、私の体が既にそう言っているからだ。自然と腕を回し、足さえも絡めて彼と繋がりたいと言っている。
「お世辞でも嬉しいよ。じゃあ、動くから」
私の本音を世辞と受け取り、彼は腰を力強く動かし始める。その一突き一突きに、私は、自分が壊されていくのを感じ取っていた。
錬金術師としての自分を溶かされ、あの幼い頃の自分へ戻されたのに、今度はそれさえ壊していく彼に恐怖ではなく喜びを感じて。
きっと、彼は私を奴隷でも錬金術師でもない私へ戻したいのだ。ただの一人の人間である、私へ。そう思うと、自然と体が彼を求め始める。もっと壊して欲しいとねだるように。
「えっ!? サンジェルマン……?」
きっと私が強く彼へしがみついた事に驚いたのだろう。一瞬目を見開き、ゆっくりと不思議そうな顔をする彼を見て、私は可愛げを見出して笑みを浮かべた。
「何? 私を最愛の相手として抱いてくれるのでしょ?」
「……うん、そうだよ。それが君やみんなを助ける事になるならね」
「ぁ……」
私の中で硬い芯が動く。それを感じ取った瞬間、今度は口を塞がれた。しかも、舌が口内へ入りたいと迫ってくる。
嫌がるはずもなく、私はそれを迎え入れた。初めて自分から舌を絡める口付け。彼の唾液が甘く感じられ、もっともっととねだってしまう。それに彼は応じるように何度も舌を絡めてくれる。
それに合わせて私と彼の性器も絡み合い、互いを求めるように動いていた。ああ、これが本当の交わり。愛し合うという意味を、私は今、彼に教えてもらっている。
だが、それは当然だ。だって、私は今まで抱かれたくて抱かれた事などない。生きるため、目的のため、この体を使った事しかないから。
今のように、相手の愛情を強く感じる事も、私が相手へ想いを見せる事も、一度たりともなかったのだから!
「ああっ! き、気持ちいいっ! か、要シキっ、私は初めてこの行為を嬉しいと感じているっ!」
「そっかっ! なら、もっと気持ち良くなる事を教えるよっ! 俺を名前で呼んでみて! シキって、そう呼んでくれっ!」
「分かったっ! シキっ! シキぃ!」
言われるまま名で彼を呼ぶと、私の中で彼が喜んでくれるのが分かる。それが私を感じさせ、気持ち良くしてくれた。ああ、本当だ。彼は嘘を言わない。
いつだって、彼は私へ可能な限り誠実であろうとしてくれる。愛する家族から引き離したのに、望まない事をさせているのに、それでも大きな心で接してくれる。
その後も、私は彼の名を呼び続けた。呼べば呼ぶ程彼が喜び、私を感じさせてくれるから。そうこうしている内に、気付けば私は彼と自発的に口付けていた。
舌を絡め、足と腕さえも絡めて、私は全身で彼を、シキを求める。もうそれ以外何も頭にはない。この交わりを終わらせたくないけど、その終わりで与えられるだろう快楽を求めて。
「サンジェルマンっ、そろそろ……っ!」
「まだダメっ! もっと、もっとぉ!」
「う、嬉しいけど……本当に無理だってぇっ!」
「あああっ! い、今のズルいっ! 陰核を弄るなんてぇっ!」
「いいんだよっ! 一緒にイクためだっ!」
「一緒!? ああっ、それならいい! 一緒に、一緒にぃ!」
シキのペニスを感じながら陰核を触られ、私の中の女が歓喜の叫びを上げる。直後こみ上げる濁流のような感覚。これに身を委ねてはいけないと、私の中の何かが告げるも、それ以上の声で委ねてしまえと叫ぶ私がいた。
「「ああああああっ!!」」
委ねた瞬間、シキが一際強く私の中へと入ってきた。それが合図となり、私とシキは揃って声を上げた。同時に感じる熱いものが出されるような感覚。
だけど、それが欲しい場所へ届かず終わる。そこで思い出した。シキは避妊具を着けていた事を。本当なら、今感じている熱は私の中へ出されていたのに。
そう思っているとゆっくりと熱が失われていく。見ればシキが私から体を離していた。そのままペニスを引き抜き、着いている避妊具を外しているようだ。
「……はい、どうぞ」
見せられたのは、たっぷりと精液が入った避妊具。それを私は受け取り、しばらく眺めた。
「じゃ、申し訳ないけど先にシャワーを使わせてもらうから」
「ああ……」
離れて行く背中を見送り、私は視線を手にした避妊具へと戻す。そこに入っているものは、本来ならば私の体内へ放たれていたと思うと、鎮まったはずの下腹部の熱が戻ってくるような気がした。
「……飲んでみたらどんな味がするのだろう」
そんな事を呟いて私は何も考えず、その避妊具の中身を口へと流しいれた。そして口の中に広がるこれまで味わった事のない美味に震える。
これは、駄目だ。私がもう以前までの私に戻れなくなる。ああっ、でも抗えない。今なら分かる。何故プレラーティが、カリオストロが、彼に、シキに夢中となってしまったか。
「……なくなってしまったわね。これは、またシキに協力してもらわないと」
空になった避妊具を見つめ、私は熱に浮かされるように呟く。そうだ、きっとシキは協力してくれる。だって彼は優しく強い男だ。自分の精液で失われる命がなくなるならと私を抱いてくれた人なのだから。
だから、きっとまたしてくれる。
「……彼は、私へこう言った。自分の命を大事にしてくれ。そして可能な限りで構わないから装者達を殺さないでくれと」
「父さんらしいな」
サンジェルマンの言葉に俺は父さんの顔を思い出す。俺達と事を構えた時でさえもそうだった。敵のはずの俺達を父さんは結果的にだが助けようとしてくれた。
やり方はともかく、あれが父さんに出来る精一杯だったと思う。そして今もそうしているのだろう。目の前の奴らがスープを使っているのは確実で、雰囲気からしてきっと行為まで及んだはずだ。
「だが、私はそれを守れなかった。これまで犠牲を厭わず進んできたのだ。今更と、そう思って」
「成程な。だからあの時の攻撃がミカ達に防げた訳か」
そう俺が言ってやると、分かり易いぐらいにサンジェルマンが動揺した。どうやらこいつは分かっていないらしい。
あの三人同時攻撃は、本気であればミカ達でも完璧に防ぐ事は難しかっただろう。スープを体内で吸収した状態のこいつらは、響達よりもその効果が強く出ているようだしな。
それを四人がかりとはいえ完全防御出来たのは、そこに無意識の手加減か躊躇いが働いたためだ。おそらくだが、こいつだけでなく残りの二人も父さんから似た事を頼まれたはず。それがあっての結果だろうな。
「お前だけでなく残りの二人も父さんから似た事を言われたんだろう。それで、お前達はどこかでそれを意識してしまったんだ。それがとどめを刺す攻撃を僅かではあるが鈍らせた。父さんらしい戦い方だ」
「戦い方、だと?」
「ああ。かつて俺も父さんに同じような戦い方をされた。こちらの心を掴み、解し、和らげる。それに気付いた時にはもう遅い。何故なら、自覚症状が出る時点で末期だからだ」
俺の言葉に面白いぐらいサンジェルマンが顔色を失っていた。ふん、どうやらあいつもそうらしい。悪に対して悪性の働きを持つのが父さんだ。きっともうこいつらも半分以上は骨抜きにされているのだろう。
だからといって俺は許しはしない。最低でもさらった事と夢子を泣かせた事のお返しはさせてもらうっ!
「さて、お喋りはここまでだ。最初に言った通り、これまでの償いをしてもらうぞっ!」
初手より奥義にて相手仕る。そう翼辺りなら言うだろう。俺の今出来る最大を叩き込んでくれるっ!
「っ!? これはっ!」
「俺のとっておきだ! 遠慮なく受け取れぇっ!」
四大元素の力を集約し放つ攻撃だ。奴らのファウストローブがどれ程の物だろうが、これを直撃してタダでは済まん。死にはしないかもしれないが、腕の一本や二本は覚悟してもらう!
俺の想いを乗せた攻撃はサンジェルマンを包み込む。そして残っていたアルカ・ノイズまでも巻き込んでいく。
「……今ので通用しなければ」
「通用しなければ、何だ?」
「っ!」
ふとした呟きに返ってきた声に歯ぎしりする。目の前には、錬金術で俺の攻撃を凌いだサンジェルマンがいた。当然その体にダメージはない。
「ラピスだけしか私の守りがなければ危なかっただろう。生命のスープが私の力を増幅してくれていればこそ、この結果がある」
「やはりそうか。生命のスープと名付けた母さんは天才だったな。あれは生命力そのものを向上させるものという訳だ」
「そうだろうな。故に、お前に勝ち目はない」
その言葉には、言外にこういう意図が込められているように俺は感じた。
―――ファウストローブもないお前には、と。
「言ってくれる。まるで俺にはもう手がないような言い様だ」
「実際そうだ。今のお前の全力は先程の攻撃だろう。それでは、私を倒すどころか傷付ける事さえ出来ない」
「だろうな。ただし、今の俺では、だ」
「何?」
怪訝そうな表情を見せるサンジェルマンへ、俺は目に物を見せてやる事にした。そう、奴らは自分達こそが唯一のファウストローブ持ちと思っているかもしれないが、それよりも先にファウストローブを実用化していたのは俺なのだ。
「ファウストローブがお前達だけの物と思うなっ!」
キャロルがダウルダブラを身に纏おうとしている頃、シキは白一色となったティキから興奮気味に話を聞かされていた。
「それでねそれでね! アダムがティキを見て大きく目を開いたのっ! だからティキがアダムとお揃いだよって言ったら、アダムったらいつものような感じじゃなくて」
「驚いたよティキ。似合っているよ、その服って言ってくれたんだろ?」
「そうなのっ! アダムがあんなに驚くところ見たの初めてっ!」
キャーっと黄色い悲鳴を上げるティキを眺め、シキはやや疲れた顔を見せた。そう、お気付きかもしれないが、既にこの話は三度目である。
ティキにとってそれだけ思い出深い出来事となったのは間違いないが、最初と二度目までは笑顔で聞いていたシキも、さすがに三度目となると疲れるようだ。
「ティキ、ティキはアダムの事が好きみたいだけど」
「好きじゃないわ! 大好きなのっ! 愛してるんだからっ!」
「ああ、うん。愛してるのは分かった。でも、どこでそう思うようになったんだい? アダムのどこをティキは愛するようになったの?」
その問いかけは、ティキにとって初めてであり予想だにしないものだった。彼女がアダムを好きなのは誰もが知っているし、その事へ触れれば面倒な事になると分かっているため触れないからだ。
だが、今のティキはかつてとは違う。シキとの触れ合いを通してゆっくりではあるが成長を始めていた。つまり、かつてであれば考える余地もなく即答した事も……
「アダムの……どこを好きになったか?」
自らへ問いかけ、考えるようになっていたのだ。そう、何も考えない無垢な乙女は、恋と愛の違いを僅かではあるが知った少女と変わっていた。
シキはティキの答えが出るまで何も発しようとしない。静かに、じっくりとその言葉を待ったのだ。それはまさしく父の姿。子に考える事を促し、その答えを急がせる事もせず、ただ黙って待つという、父親の姿であった。
「……分からない。ティキは、気付いたらアダムの事が好き、だったから」
絞り出すような答えに、シキはそっと手をティキの頭へ乗せて優しく撫でる。
「そうか。ティキ、分からないって答えを出せて凄いよ」
「凄いの?」
「ああ。どんな事でも答えを出すっていうのは難しいんだ。間違ってるかもしれないって、そう思うからね。だけど、ティキはちゃんと答えを出した。その答えを大事にこれからも考えてごらん。アダムの何が好きなのか。今から触れ合う事でそれを見つけてみるんだ。今のティキが、今のティキの答えを出してね」
「……うんっ!」
満面の笑みで頷くティキにシキも優しい笑みを返す。いつか誰かが言った。シキは思い込みの激しい人間だと。だからこそ、彼はもうティキを娘のように思っていた。
キャロルとエルに初めて出会った際に自慰の手伝いをさせたにも関わらず、今は本当の娘として接していられるのもそれである。
その性格がここで活きていた。父性を見せるシキを、ティキも慕い出していたのがそれである。今、このやり取りをもってティキは己へ自問する事を覚えた。
「ね、シキ、また聞かせて。シキと奥さんの話」
「はいはい。えっと、じゃあ……」
それは、さながら父親に母親との思い出話をねだる娘のようだった。
シキは教える。奏達との日々を、時間を、思い出を。ティキの心に何か残ればいいと、そう思いながら。無垢な乙女心に少しだけでも栄養となってくれればと。
その想いが伝わるのか、ティキも話に耳を傾け続けた。様々な性格の装者達との思い出は、ティキにとってはまるで別世界の物語のように感じられた。
だけど、共通するのは一つ。シキは彼女達を愛し、また彼女達もシキを愛している事。シキが奏達のどこを好きなのか、好きになったのかも分かり、何故彼女達がシキを好きになったのかもティキには何となく分かってきた。
「シキって、大人こどもなのね」
「大人子供かぁ。うん、そうだね。当たってると思うよ」
無邪気な笑顔で告げられた表現にシキは若干苦い顔で頷いた。大人になろうとしている彼だからこそ、未だに自分が大人になり切れていない事は分かっているのだ。
だからこその、大人こども。こどもが大人の振りをしている。そんな表現が今の自分には相応しいと納得出来たのである。
「でも、だから言える事もあると思うんだ。ティキ、俺から見てアダムって人はちょっと怖い。サンジェルマンさん達を助けると言いながら三人を殺しかねない攻撃をしたりね。だって三人は結社の幹部で大事な人のはずだ。それを下手したら失っていたかもしれない」
「で、でもサンジェルマン達は助かったじゃない! それはアダムがいたおかげで」
「うん、そうだね。たしかにアダムがいなかったら今の結果にはなってない。でもね、それはアダムだけじゃなくてシンフォギア装者がいたからでもあるんだ」
「……どういう事?」
そこでシキが教えたのは、サンジェルマン達から聞いた事の顛末。アダムの攻撃を装者達が迎撃し、サンジェルマン達を守った事で得られた結末だと、そう静かに教えたのだ。
「う、嘘よ。アダムがいたからサンジェルマン達は助かったんだもんっ!」
「アダムがいたからサンジェルマンさん達は助かった。これは間違いないよ。でも、アダムだけじゃ結末は変わっていた。ううん、こう言うのが正しいかな。装者達がアダムの攻撃から逃げたら、サンジェルマンさん達は死んでいた可能性が高い」
淡々と告げるシキにティキは反論出来なかった。彼はアダムが悪いとは断言していないのだ。ただ、アダムがした事は最悪の結末を招きかねなかったと指摘しているだけなのである。
ティキにとってそれは、アダムに対する狂信的な想いへの揺らぎを与えるには十分だった。完璧で完全なアダム。それが自分の行動の結末を予想出来ぬはずがないと、そうティキは信じている。
だからこそ、シキの指摘が突き刺さるのだ。アダムは、サンジェルマン達を死なせてもいいと思っていると。
(どうしてアダムはサンジェルマン達を殺してもいいと思ったの? 死んでもいい存在だから?)
以前までのティキであればサンジェルマン達をアダムのように見下す発想をしただろう。だが、シキによってその思考は正され、更に前日の外出もあって彼女達への気持ちの変化も起きている。
故に悩む。自分へ物を与えてくれ、服装を見繕ってくれ、服を貸してくれた者達。それは、アダムさえもしてくれなかった事だ。そんな三人が死んでもいいとは、もう今のティキは思えないのだから。
「シキぃ、ティキ、胸が苦しいの。アダムの事を考えるといつもは嬉しくなるのに、今は苦しくて辛いの」
「ティキ、辛いかもしれないけど、これも必要な事なんだ。好きな人の事で思い悩むっていうのはね」
「……うん」
頭を優しく撫でる温もりに少しだけ心が和らぎ、ティキは小さく頷いた。恋に恋する乙女は、静かにその状態を抜け出しつつある。
それをアダムは知らない。気付かない。想像もしない。彼にとって、ティキは恋愛脳で一々癪に障る存在に過ぎないのだ。向き合う事も通じ合おうともしないアダムに、ティキの内面変化は気付きようがなかった。
そしてそれが、自分の目的を邪魔する最大の要因になる事も、アダムは想像さえ出来ないのだから。
「キャロルちゃん、駄目だよ……それは、それは使っちゃ駄目……」
私の見てる先では、キャロルちゃんがファウストローブを纏っていた。大人の姿となったキャロルちゃんだけど、私は知ってる。あの姿になるだけならまだいい。でもその姿で全力を使う事はキャロルちゃんの思い出を焼却する必要がある。
それは、今までの事を全部忘れてしまう事だ。みんなで過ごしてきた時間を、日々を、なかった事にしてしまう事だ。
「動かなくっちゃ……」
キャロルちゃん達が戦ってくれているのはどうして? それは私を守るため。なら、それを助けるために変えてもらえばいい。
私も一緒に戦えば、キャロルちゃんだって全力を使わなくて済む。だから、だから……っ!
「お願い……っ! 私に、私にキャロルちゃんの思い出を守る力を貸してっ! シンフォギアっ!」
そう言った途端、少しだけ体が軽くなった気がした。気のせいだと思う。だとしてもこれでまた戦える。見ればミカ達やファラ達が少しだけ押され始めてる。
多分ドリンクの効果が薄れてきたんだ。このままじゃ、四人も危ない。ならここは私の出番だ。そう思って立ち上がって拳を握る。
「始まる歌……始まる鼓動……」
自分を奮い立たせるために、キャロルちゃん達に気付いてもらうために、私は歌う。あの時、装者全員で歌ってサンジェルマンさん達を押し返したあの歌を。
たった一人でも、この歌を歌えばみんながいてくれる気がするから。何とか出来る気がするから。だってこれは、この歌は……
「この奇跡に嘘はないぃぃぃぃぃっ!」
奇跡を起こす歌なんだっ!
「「「「「響っ!」」」」」
「まだ戦うつもりか、シンフォギア」
「しぶといワケダ」
「だけど、らしいかもね。あの子、一番装者の中で諦め悪そうだもの」
聞こえてくる声に私は思わず笑みが浮かぶ。だって、キャロルちゃん達は嬉しそうでもおかしくないのに、サンジェルマンさん達もどこか嬉しそうだったから。
きっとシキさんだ。キャロルちゃんの時もそうだ。あの人は関わる人をみんな優しくしちゃう。だからサンジェルマンさん達もそうなってきてるんだ。
「キャロルちゃんっ! 全力使わないで済むように私も戦うよっ!」
「お前と言う奴は……分かった。なら、当てにさせてもらうっ!」
「うんっ!」
キャロルちゃんの言葉に胸が熱くなる。一度目は向かい合って戦った。二度目の今日は、隣り合って戦える。それが、とっても嬉しい。
「ったく、大人しく休んでればいいのに」
「響だから仕方ないゾ」
「地味に納得」
「ふふっ、では私達も共に参りましょう」
サンジェルマンさんへ挑む私を見て、四人が支えるように動き出した。キャロルちゃんと私だけじゃない。ここにはガリィが、ミカが、レイアが、ファラがいる。
ああ、やっぱりそうだ。私はいつだって一人じゃないっ! 装者の仲間だけじゃなくて、もっと多くの仲間が、家族がいてくれるんだっ!
「響き鳴り渡れ希望の音ぉっ!」
「くっ……」
「生きる事をぉ! 諦めないとぉぉぉぉっ!」
不思議だ。さっきは全然太刀打ちできなかったのに、今はサンジェルマンさんと普通に戦える。キャロルちゃんがいるからだけじゃない。体が、軽い。
その理由はその後で分かった。私の歌に、別の歌声が重なったから。
「「「飛べよっ!」」」
ミカとガリィの声だ! 一緒に二人も歌ってくれてる! 視界の隅で二人がプレラーティさんの攻撃を押し返すのが見えた!
「「「「「この奇跡にぃっ!」」」」」
ファラとレイアの声もする! あの時の歌を、四人も覚えてくれたんだ! 二人もカリオストロさんがこっちへ手出し出来ないように戦ってる!
「「「「「「光あれぇぇぇぇぇっ!!」」」」」」
最後はキャロルちゃんも加わっての大合唱! キャロルちゃんがサンジェルマンさんの攻撃を弾き飛ばして私に道を作ってくれたっ!
それに、みんなの歌でフォニックゲインが私一人じゃ出来ないぐらい高まって、私の体を動かしてくれる。
ギアがなくても、歌は歌える、響き合える。それが力となって奇跡を起こす。それを私は全身で感じながらサンジェルマンさんへ迫った。
「何故だ!? スープをもらった私達を、どうしてお前達はっ!」
「胸の歌がある限り、私は、私達はどんなものにも負けませんっ!」
「胸の歌、だと!?」
サンジェルマンさんが私の攻撃へ錬金術でバリアみたいなのを出した。それへ私は全力で拳を叩きつける。
「スープだけじゃダメなんです! シキさんは私達にスープをくれる時、難しい事を考えず、ただ大好きって気持ちをくれますっ! そして、そのあったかさを私達は歌に乗せて戦ってきました! ただもらうだけじゃスープは生命に響くものになってくれないんですっ!」
「くっ……」
さっきは全然びくともしなかったバリアを、今の私は揺るがせてる。このまま押し切ろうと、そう思ったけど、何か嫌な予感がしてその場から後ろへ大きく下がった。
そのすぐ後だ。私がいた場所へ大きなけん玉が振ってきたのは。更に私を追い駆けるようにカリオストロさんが迫ってくる。
「勘が良いワケダ!」
「でもっ!」
どうしようと思って少しだけ後ろを見て、私はその場を足で踏みしめる事に決めた。
「っ! 一点突破のぉぉぉぉっ!」
あの時は押し負けたけど、今の私は違う。あの時は背中に誰もいなかった。だけど今はキャロルちゃん達がいる。今までの戦いで疲れて、それでも何とか戦おうとしてくれる、仲間がいる!
だから負けない、退けない。さっきは私が守ってもらった。なら今度は私が守る番だっ! その想いを込めて歌と拳に乗せて放つ。
「決意のぉっ!」
「こんのぉっ!」
ぶつかり合う拳と拳。速度を乗せてた分、カリオストロさんの方が重い。私の方は地面へ足がめり込んで、そのまま押し潰されるんじゃないかって思うぐらい辛い。
「右手ええええええっ!」
「ウソっ?!」
だったら、自分から潰れてやればいい。そう思って身を縮めたら僅かだけどカリオストロさんの体がバランスを崩した。
そこを見逃さず、もう一度拳を突き出す。ガングニールが想いに応えてそれを加速させてくれて、結果は大成功。カリオストロさんの体を押し返した。
「よしっ!」
「安心するにはまだ早いワケダっ!」
「だからこそ俺達がいるっ!」
「なっ!?」
「あっついのとっ!」
「冷たいのも付けてあげるわっ!」
「っ?! ローブが!?」
キャロルちゃんの攻撃がプレラーティさんのけん玉へ命中。そこへミカとガリィの攻撃が続いてローブの一部を直撃した。
その隙を突いて私はその場から跳び上がる。狙うは、ミカとガリィの攻撃が当たったローブの弱くなったとこっ!
「貫けぇぇぇぇぇっ!」
「しまったっ!?」
手応えあり! 私の拳がローブを貫いてそのままプレラーティさんの脇を通り抜ける。目指すはサンジェルマンさん。
「そうはさせないわよっ!」
「それはこちらの台詞です!」
「派手に行け、響っ!」
「うんっ!」
ファラとレイアがカリオストロさんの行動を邪魔してくれる。私はそれにありがとうを込めて頷いて、サンジェルマンさんを目指すだけ。
「来たか、ガングニールっ!」
「違いますっ! 立花響ですっ!」
そう返して私は全力で拳を打ち出した。それはサンジェルマンさんの錬金術に阻まれて、だけど確実にさっきよりも届きそうな感じがしている。
「何故、何故だ……。スープのないお前が、どうして私へ迫っている?」
「スープに頼り切りじゃ、駄目なんです! 私達がそうでした! スープはあくまで手助けっ! その力を活かすには、自分が頑張らないといけないんですっ!」
あまり時間はかけられない。私の体は限界を超えてる。それに、キャロルちゃん達もそろそろ無理だ。だからっ!
「例え命枯れてもぉぉぉぉぉっ!」
「っ?!」
正義を信じて、握り締めて。私は、私を貫くっ!
「手と手繋ぐ温もりがぁっ!」
「ば、馬鹿なっ!」
ガングニールが私に応えてくれる。そうだ。私は本当は握り締め続けたい訳じゃない。
「ナニカ残しっ! ナニカ伝い……っ!」
この手を、みんなと繋ぎ合いたい。殴り合うんじゃなくて、話し合いたい。それだけなんだっ!
「こ、この力は、一体何だと言うのだっ!」
「未来っ……見上げぇ!」
「「サンジェルマンっ!」」
「「「「「響っ!」」」」」
届かせてみせるっ! キャロルちゃんの時のように、サンジェルマンさんへも、この手を、このあったかさを。人の作る温もりをっ!
「凛と立ってきっと花にぃっ! 生まれると信じてぇぇぇぇぇぇっ!!」
「そんなっ!?」
片手でダメなら両手で行く。突き立てた右腕だけじゃなくて左腕までも打ちつける。その瞬間、感じていた抵抗感が消えて、目の前には驚くサンジェルマンさんの顔が見えた。
そのまま私は勢い良くサンジェルマンさんの体へ両拳を突き当てそうになって……
「……何故、止める?」
何とか寸止めに成功。疑問符を浮かべるサンジェルマンさんへ、私はみんなの想いを代弁するように言い切る。
「私達は、これまでどんな時も相手を殺そうとしませんでした。必ず手と手を取り合えるって、そう信じてきたんです」
「……だから私達もと、そう言うのか?」
「はい。だって、最初に会った時、サンジェルマンさんは認めてくれました。諦めずに手を伸ばし続ける事が出来れば、分かり合う事は可能だって」
笑顔でそう言って私はギアを解除した。その瞬間、みんなが驚くのが分かる。だけど、これが一番だと思うから。バカって言われても構わない。私は、賢くなって手を繋げなくなるぐらいなら、バカなまま手を伸ばしたいから。
「可能だからと言って、必ず出来るとも限らない」
「だとしても、私は希望を信じ続けます。絶望と希望が両方あるなら、いつだって希望を選びたいじゃないですか」
迷う事無くそう返すとサンジェルマンさんが言葉を失ったみたい。ううん、カリオストロさんやプレラーティさんもだ。三人共同じような顔で私を見てる。
「一つだけ言っておく。響は例え何があってもその在り方を変えないぞ。俺と戦った時もそうだった」
「その子、バカなのよ。それもとびっきりの」
「地味に派手なバカ」
「手の施しようのないバカです」
「最強最高のバカだゾ」
バカバカ連呼されてちょっとへこむ。でも、これは愛のあるいじりってやつだと思うから、へいきへっちゃら。それに、サンジェルマンさん達もそんな雰囲気に当てられたせいかもう戦意が見えない。
やっぱりギアを解除したのが大きい気がする。拳を開くだけじゃない。鎧さえも脱ぎ捨てた事でサンジェルマンさん達へ私の気持ちが本気だって伝わったんだと思う。
「……馬鹿、か。だからこそ、お前は頑なに会話を望むか、立花響」
「はいっ!」
「サンジェルマン、どうすんの? あーし、さすがに無防備な相手を攻撃出来ないわよ?」
「私も同意見なワケダ。シキとの協力関係もある。さすがにギアを纏っていない状態では攻撃し辛いワケダ」
カリオストロさんとプレラーティさんが何となくだけど私の味方をしてくれる。シキさんがきっと何か二人へ言ってくれたんだ。多分、私達を死なせないで欲しいとか、そんな感じかな?
「……仕方ないか。今ここで彼の協力を完全に断ち切られる事は避けたい」
「っ! じゃあっ!」
「勘違いするな。今は、お前を殺す利益よりも不利益が勝っているから戦いを止めるだけだ。それがなくなれば」
「よく言う。お前が父さんへ嘘をつけるのなら終わる話だ。いや、お前らがと訂正しよう。ここで俺や響を殺しても父さんがそれを知る事は出来ないんだ。なら、賢い奴なら選ぶ道は一つだが?」
キャロルちゃんがどこか悪い顔をしてそう言うと、サンジェルマンさん達が揃って苦い顔をした。えっと、これってもしかして……
「シキと一緒にいたからバカがうつったんだな」
ミカの容赦ない一言にサンジェルマンさん達がため息を吐き、私達は苦笑した。うん、やっぱりそうなんだ。シキさんも戦ってくれてる。私と同じように、サンジェルマンさん達と手を取り合えるようにって。
と、そんな時私の端末が鳴った。慌てて出ると、聞こえてくるのは師匠の声。
『響君、状況を教えてくれ。こちらでは映像しか届かないのでな』
「あ、えっと……」
「はぁ……代われ。俺が伝えた方がいい」
「あ、うん。師匠、キャロルちゃんに代わります」
どう言えばいいのかと迷っていると、見かねたキャロルちゃんが片手を動かして端末を渡してと言ってくれた。なので一言師匠へ断ってからキャロルちゃんへ端末をパス。
「司令、一先ず停戦となった。とはいえ、今回に限るがな。それと、どうやら父さんはまた俺の時と同じ戦いをしているようだ。それが今回の停戦にも繋がっている」
言いながらサンジェルマンさん達を見つめるキャロルちゃん。それにしても、こうしてみると大人のキャロルちゃんはどことなくフィーネさんに似てる。
髪色のおかげかな? でも、きっとそう言ったら喜んでくれそう。ああ、それと話し方も似てる気がする。こうなると、エルちゃんが了子さん寄りで、キャロルちゃんがフィーネさん寄りかも。
「……そうか。分裂したアルカ・ノイズは残らず殲滅されたそうだ」
「ま、でしょうね」
「こちらとしては、あれは分断するための餌に過ぎないワケで、それ以上の期待はなかったワケダ」
「それと、こちらへクリス達も向かっているそうだが、どうする?」
そのキャロルちゃんの問いかけはサンジェルマンさん達へのものだった。ここも、シキさんをお父さんにしたキャロルちゃんなりの変化なんだろうな。
だって、最初は許さないって言ってたのに、今はそれを忘れたように振舞ってる。きっと、シキさんがサンジェルマンさん達とも仲良く出来ないか頑張ってるのを分かったからだろうな。
何だかんだでキャロルちゃんはシキさんが大好きだから。その大好きがあるから、許せないって気持ちも生まれたんだし。
「ここは退く事にしよう。だが、今回だけだ。次回は、例えギアを纏わなくても攻撃を加える」
「それが普通なんだけどねぇ」
「ガリィ、茶化すのは止めなさい。彼女達がシキさんを失う訳にはいかないように、私達もシキさんを殺されてはいけないのですから」
「まったくだ。あいつの存在が我々も、そしてお前達の行動も制限するワケダ」
「ホントよ。後悔する事になるって言葉、これもあったのかしら?」
「それ、言ったのお母さんか?」
「お母さん? よく分からないけど白衣を着た眼鏡の女性よ」
「ああ、お母さんね。さすがお母さん、地味に的中させた。実体験に基づく派手な予言を」
私は目の前の光景を見て、笑みが浮かぶのを止められなかった。まだそうなった訳じゃないけど、何となく見えてしまったんだ。
サンジェルマンさん達と手を繋ぎ合えたらどうなるかを。その景色を、その空気を、今、私はしっかり感じられた。
「サンジェルマンさん! プレラーティさんとカリオストロさんも聞いてください!」
だからもう一度言っておこう。そして、シキさんにも伝えてもらうんだ。
「私、絶対諦めません。この手を皆さんと繋ぐ事を、シキさんと一緒に頑張ります。そう、伝えておいてくれますか?」
「……伝えるだけ伝えておこう」
「じゃ~ね~」
「次はこうはいかないワケダ」
転送結晶でサンジェルマンさん達がその場から消える。何というか、最初に戦った時よりも三人が柔らかい印象を受けるなぁ。
……シキさん、エッチな事してないかな、これ。そう思うと今日の三人は今までで一番強かった。あれ、スープをエッチでもらったからじゃ……。
「よし、これはみんなと相談しないと」
「響」
「ふぇ?」
私が未来達に了子さんを巻き込んでの話し合いを決意したところへ聞こえる、どこか噛み締めるようなキャロルちゃんの声。顔を向ければ、そこには複雑そうな表情をしたキャロルちゃん。
「どうしたの?」
「……父さんは、またスケベな戦い方をしてるんだろうか?」
返す言葉に困る質問がきた。でも、どういう考えや気持ちでしてるかはともかく、内容はきっとそうだと私も思う。
「多分、ね。でも、キャロルちゃんの時とは何かが違うはずだよ」
「ああ、それは俺も分かっている。ただ、だからといって見逃すのは違うと思わないか?」
「え? キャロルちゃん?」
視線の先では悪戯っぽく笑うキャロルちゃん。それで私も何となく分かった。キャロルちゃんが何を言おうとしてるかが。
「帰ってきたら、しっかりと灸を据えないとな。俺達全員で、しっかりと」
「……うんっ!」
「あら、クリス達が来たみたいですよ、マスター」
「お~いっ! ミカ達は無事だゾぉ~!」
言われて見上げればそこにはヘリがいた。クリスちゃんとセレナさんがこっちへ手を振ってる。これで今回は本当に終わったんだと思えた。
サンジェルマンさん達は次はこうはならないって言ったけど、シキさんの戦い次第な気もする。でも、きっとガリィ達の時とはシキさんの気持ちは違うはずだ。
だって、こうは言いたくないけど、もしシキさんがエッチな気持ちでサンジェルマンさん達へ手を出したのなら、二回目の戦いで三人共強くなってたはずだから。
―――信じてますからね、シキさん。
「何とかなったか」
キャロル君達の参戦と響君の奮戦もあって、今回は何とか乗り切れた。だが、これは僥倖の結果だ。これからもそれに頼る訳にはいかない。
「了子君、エルフナイン君、ナスターシャ教授もですが、何か現状を打開する方法に心当たりはありませんか?」
「そうねぇ……やっぱりアレしかないかしら」
「一番は、イグナイトの使用を可能にする事だと僕は思います」
「そうですね。今回もそれが使えれば多少マシになっていたはずです」
三人揃って意見は同じ、か。イグナイトモジュールの使用。これが出来れば現状の装者減少状態でもマシになる。奏君や翼、マリア君といった年長組の離脱はやはり影響が大きい。
今回も、それを狙われた。分断されるとはいえ、あの三人もいれば響君の場所へ未来君を送る事が出来たのだ。
「しかし、イグナイトモジュールはあの相手のファウストローブで」
「そうなんです。でも、あれは哲学兵装の一種だとすれば、対応策はあるはずなんです」
「哲学兵装って、あのアレキサンドリア号事件の時のやつか?」
「はい。あの時はツタンカーメンの呪いを哲学兵装として使用されました。つまり、相手のファウストローブはそれとは逆の、浄化の哲学兵装としての面を持っていると考えられます」
「エルフナイン君、もう少し俺達にも分かるように説明してくれないか?」
見れば了子君以外は疑問符を浮かべ始めている。この話だけでも、了子君は何をエルフナイン君が言おうとしているか分かっているようだ。頭の作りが俺達とは違うな、彼女は。
「えっと、要は相手の哲学兵装の能力を打ち消す事が出来ればいいんです。せめて、呪いと浄化が互いを打ち消し合うぐらいに」
「つまり対消滅させるのですね、相手の特性を」
「はい、グランマの言う通りです。問題は、相手のファウストローブが何から出来ているかなんですが……」
『それならば察しがついたぞ』
聞こえてきた言葉にエルフナイン君が俯き気味だった顔を勢いよく上げた。
「キャロル!? どういう事っ!?」
『奴らは、事ある毎にこう言っていたらしい。ラピス、と。そして呪いを撥ね退ける浄化の力。更に言えば、あのハートのような形状もだ。奴らは錬金術師。それが自力で作り上げたファウストローブ。ここまで来れば思い当る言葉は多くはない』
「ラピス……っ!? ラピス・フィロソフィカス!」
『おそらく正解だ。奴らは賢者の石を錬成したんだろう。霊薬であり、全にして一なる究極の物質。おそらくだが、この霊薬という部分が呪いを払う浄化の概念を持たせたんだ。不老不死というのは、言うなれば強い生命力の象徴だからな』
「全にして一……」
また話が分かりにくいものへなったが、それでも分かる事があった。どうやらキャロル君達は相手のファウストローブの謎へ迫り、その打破に光明を見出してきているようだ。
なら、俺に出来る事は多くはない。餅は餅屋と言うし、この件に関しては彼女達に一任するのが一番だろう。
「エルフナイン君、キャロル君、その件は君達へ任せる。何か必要な物や設備があれば遠慮なく言ってくれ」
「はいっ!」
『ああ』
これでいい。俺が考えるべき事は他にある。要君は、どうやら相手の錬金術師達とただの交渉だけでなく性交渉までしているようだが、その思惑はキャロル君達の一件と同じで相手との心の交流だろう。
それに、かつてと違いスケベ心でやっている訳でもなさそうだ。父となり、彼も大きく成長していたしな。
そして、それが今回の停戦に繋がった。彼のしている事は、無駄ではない。思えば、彼は人と仲良くなるのが上手かった。本人は自覚していないだろうが、彼は建て前が苦手だったのが影響しているんだと思う。
誤魔化しや嘘が苦手で、それをよく奏君や翼に指摘されていたのを昨日の事のように思い出せる。っと、いかんな。俺も年をとったか。
「弦十郎ちゃん、ちょっといいかしら?」
「何だろうか?」
昔を思い出して懐かしい気持ちとなったところへ了子君が声をかけてきた。見ればナスターシャ教授もその傍にいる。二人で、という事なのだろうか?
「イグナイトが使えるようになっても、生命のスープで強化された錬金術師達を上回るのは難しいわ」
「だろうな」
「なので、私達は一つの提案をしたいのです」
「提案?」
一体何だろうかと、そう思った俺へ了子君とナスターシャ教授は真剣な面持ちとなった。
「「錬金術による更なるギアの強化案。プロジェクトアルケミーを」」
「プロジェクト……アルケミー……」
「考えてみて? ファウストローブは、起動に歌を必要としないシンフォギアのようなものよ」
「つまり、その成り立ちは非常に似ています」
「……キャロル君達ならギアを今以上の性能へ上げられる?」
「可能性はあるわ。でも、成功するかも分からない」
「最悪の結果、ギアを駄目にしてしまう可能性もあるでしょう。故に、司令の判断を頂きたいのです」
告げられたのは中々重たい内容だった。ギアを最悪駄目にする、か。そうなれば確かに責任を取らねばならないだろう。だが、現状ままでは苦しいのが現実。
俺の出来る事はそう多くないと自分でも分かっている。明日の事を心配するのは当然だが、その明日へは今日を生き抜かねば辿り着かない。
「分かった。そのプロジェクト、許可しよう。全ての責任は俺が取る」
帰還した響達を待っていたのは、ギアの強化案の発表とイグナイト使用のための方法だった。前者についてはキャロルが受け持ち、後者はエルが受け持つ事となった事も教えられ、強化の対象となったのは神獣鏡のギア。
「未来が一番本来の状態のギアに近いからな。他のはイグナイトのために一度錬金術の手が入っている。だからこそ、これで成功すれば他のギアへの転用はし易い」
「そっか。じゃあ、これお願いね、キャロル」
「ああ」
キャロルの説明に誰もが納得し、未来はギアをキャロルへ託す。実はもう一つ未来のギアが選ばれた理由があった。それは、彼女が一番装者でなくなっても戦力減とならない事。
だが、それを口にする弦十郎やキャロルではない。こうしてしばらく未来も戦線を離脱する事となる。しかし、それは響にとって嬉しくもあり悲しい事でもあった。
(未来が戦えないのは、傷付かないでいいって事だからいいけど、隣にいてくれないのは寂しいかも……)
そう、つまり今後未来が復帰するまで響は一人で戦う事となる。それでも彼女は弱気にはならない。何故なら、今回で分かったからだ。
自分は一人きりじゃない、と。胸の歌を信じて立ち上がる限り、いつでも誰かが傍にいてくれる。そう今回の戦いで響は思えたのだ。
「そうだ。お前達に朗報だ。先程マリア君から連絡があり、スケジュールに変更が発生したので二日後には帰国するとの事らしい」
「ホントですかっ!?」
「マリアが……」
「帰ってくるデス!」
喜びを露わにする響に調と切歌も同調する。だが、クリスは違った。
「おっさん、一体何があったんだ?」
マリアは世界的アーティストである。その予定が変更されるとは、何か厄介事が起きたのではと思ったのだ。
「……イベントを行うはずの会場にアルカ・ノイズが現れたそうだ。幸い犠牲者は出なかったものの、その影響で会場が使用不能となった」
「アルカ・ノイズが……」
「パヴァリアの奴らか?」
「かもしれん。が、あの三人ではないだろう。装者の分断を狙った彼らが、下手をすれば合流させかねない真似はしないはずだ」
「するとしたら、そこで姉さんを確実に倒してるはずですもんね」
セレナの言葉に弦十郎は深く頷いた。マリアが相対したのはアルカ・ノイズのみ。使役している錬金術師は姿を見せなかったのだ。
そして、故に弦十郎はこうも読んでいた。今回のマリア襲撃は、おそらくパヴァリア内での小さくない争いを生むだろうと。
その読み通り、サンジェルマン達はアダムからの連絡に憤りを覚えていた。
「どういうつもりですか! 装者達の合流を促してしまうとはっ!」
「そんなつもりじゃなかったんだ、最初は。やれるかもと思った同志がいたんだよ、相手が一人なら」
「それで結果としてあーし達の不利益になるとか、そいつどう責任取ってくれるのかしらね?」
「僕からちゃんと言っておくよ、その彼には。だけど、僕にも言いたい事があるのさ、君達に」
「今回の撤退の件なワケダな?」
プレラーティの問いかけに深く頷き、アダムはサンジェルマンを見つめる。
「逃げる必要があったかい、追い詰めた相手に。僕には勝てるように思えたよ、これまでと違って」
「……神の力の錬成に役立つ存在の協力を失っても、ですか?」
ピクンッと、アダムの眉が動いた。どういう事だと、その眼差しは告げている。
「要シキ。その能力は、シンフォギアやラピスの強化に留まらず、贄としても機能する事が分かりました」
「聞こうか、詳しく」
「彼の血液を少量贄に錬成したところ、バルベルデの際と同等の神の力が錬成出来ました。つまり」
「使えるわけだ、儀式の起動に。いや、彼一人で十分かもしれないね、下手をすれば」
明らかに上機嫌となったアダムを見て、カリオストロとプレラーティは嫌そうな顔をする。分かったのだ。アダムの中で、神の力のためにシキを利用するとなった事が。
(仕方ない事とは言え、いや~な気分……)
(アダムなどにシキの有用性を知られるのは癪だが、ここは仕方ないワケダ……)
そして、二人と同じようにサンジェルマンもまた……
(これで彼を安易に殺す事や機嫌を損ねる事は出来ない名分が出来た。ただ、彼はきっといい顔はしないでしょう……)
嫌そうな顔をしながらも、事情を話せば理解して飲み込むだろうシキの顔を思い浮かべ、サンジェルマンは内心でため息を吐いた。
ただ、どこかでこうも思っていたが。
―――これで二人よりも私の方へ彼の時間を融通してもらえる。
年齢不詳の美女、サンジェルマン。その女が、しっかりと芽吹き出していた……。
「んっ、あんっ!」
自分で上げる声に身震いが起きる。未だ慣れない女としての自分に、最初程の嫌悪感はないが不快感がない訳ではない。
「プレラーティ、可愛いよ」
だが、こうして言われる度にその不快感が弱くなっていく。いや、言い直す。最早ないと言ってもいいかもしれない。それぐらい今の私はシキの言葉に流されている。
可愛い、大好きだ、愛してる。これで喜ぶ女に、そう女にされてしまったワケダ。ああ、もう認めるしかない。私は、シキに女にされた。身も心も完全なまでに女となった。
「ああっ……それぇ、もっとぉ」
乳首や乳房を愛撫する手つきの優しさに声が漏れ、無意識に強請る言葉が紡がれる。私ではない私がいるような、そんな感覚の中でシキが小さく笑みを浮かべてその手を動かす。それだけで私は簡単に女となる。
今日の戦いで分かった。セックスでの生命のスープ摂取は強力だ。考えてみれば、装者達が命がけで使う絶唱を安易に使えるように出来るぐらいなのだ。
ならば、魔力が満ち満ちても不思議でないワケダ。実際、私もカリオストロもドリンクとやらで強化されたオートスコアラー達に多少押されたぐらいで済んだのは、生命のスープのおかげと分かっている。
特にあのミカとやらは凄まじかった。その分消耗も激しいらしく、私を圧倒出来たのは短時間だった。まぁ、それ故に助かったワケダが。
「プレラーティ、ちょっといいか?」
「何だ?」
快楽に浸りながら思考に耽っていると、不意にシキがこちらの顔を覗き込んでくる。その真っ直ぐな眼差しに心が騒ぐのを感じつつ、出来るだけ平静を装って返す。
「呼び名、付けてもいい?」
「呼び名?」
「そ。プレラーティって長いんだよ、俺の感覚だと。だから、許してもらえるなら愛称を付けたいなって」
思いがけない提案に思考が止まる。そして、言われた意味を理解して顔が熱くなった。つ、つまり、シキは私の事を呼ぶ際に自分だけの呼び方をしたいと、そういうワケダ。
「ち、ちなみにどう呼ぶつもりなワケダ?」
「えっと、怒らないで欲しいんだけど、レティ辺りがいいかな」
「……一度呼んでみるワケダ」
愛称という事と、存外響きが女性らしくなった事もあり、一度聞いてみようと思った。私の気持ちを察したのか、シキはどこか嬉しそうに笑みを返して口を開く。
「レティ」
「……もう一度」
不味い、と思った。以前までならふざけるなと怒ったはずの事なのに、今の私には喜びにしかならない。何故なら、これはシキだけの私だからだ。
レティという名で私を呼ぶのはシキだけ。逆に、シキがレティと呼ぶのは私だけ。ああ、言い様のない笑みが込み上げてくるワケダ。
「レティ?」
「もう一度」
そこでシキは何かを悟ったのだろう。不思議そうな表情からとても優しい微笑みを見せた。ああっ、駄目だ。そんな顔で私を見るなぁ。
「大好きだよ、レティ」
「わ、私も、シキが好きなワケダ」
繋がりながら名を、愛称を呼ばれるだけで何て幸せになってしまうのだろう。これが、女になったという以外で何の説明が出来る?
そのまま私はシキへ抱き着きながら射精を求めた。その間中、シキからレティと、愛しげに呼ばれて。
「レティっ! レティっ!」
「ああっ! シキぃ……」
「可愛いよっ! 本当に可愛いっ!」
「う、嬉しいワケダっ! もっと、もっと私を求めて欲しいワケダぁ!」
シキの言葉に嘘はない。それが感覚だけでなく体や心で分かるワケダ。私の子宮を刺激するペニスが、私の理性を溶かすカウパーが、何よりも、私の体を包む温もりがそれを伝えてくれるっ!
「くっ……レティっ!」
「んっ!?」
シキが射精する瞬間、私の口を塞いできた。だが、私はそれに舌を返す。すぐに絡まるシキの舌。流れてくる唾液が甘いと感じる中、私の中へ注がれる熱くて気持ちのいいもの。
じんわりと下腹部を温かくし、同時に幸福感を与えてくれる。それと、私の中の女がこう思うのだ。シキの子を産んでやりたいと。
精液を出し終えたのに、今も私はシキとキスを続けていた。何度も何度も舌を絡め合い、私はシキを求める。
「っはぁ……シキ、聞きたい事があるワケダ」
「何?」
「その、お前は私を本当はどう思っているワケダ?」
正直怖い。シキは以前こう言ったのだ。行為中は最愛の人として扱うと。それが、今は逆に怖い。おかしな話だが、私はもう行為中だけの扱いでは嫌になっているワケダ。
「どうって……あー……言ってもいいんだろうか」
戸惑い、迷い、不安。そういう感情が声と顔から分かった。それでも、それでも私は止まるつもりはないワケダ。だから黙ってシキの言葉を待った。
「本音を言わせてもらうと、こうやって抱いてる時点で俺は一種本気なんだ。だから、許されるのなら妻にしたい」
「っ?!」
言われて自分の大失態に気付く。今、私はシキと繋がっている。故に分かってしまったのだ。それが嘘ではないと。
「つ、妻に……本気か?」
「冗談でこんな事言えないよ。まぁ、その時は……」
そこでシキが真剣な表情となる。これは、まさか言われてしまうのだろうか? サンジェルマンと手を切れと。パヴァリアの錬金術師ではなく、一人の人間として生きてもらうと。
「パヴァリアを抜けて欲しいかな。それだけ」
「……それだけ?」
「うん、それだけ。十分過ぎる条件だと俺は思うんだけど?」
「お前と言う奴は、本当に……」
心底そう考えているシキに驚きよりも好ましさが先立ち、思わず笑みを返してしまう。きっとシキの事だ。組織を抜けてもサンジェルマンとの繋がりを切れとは言わないのだろう。
いや、下手をすればサンジェルマンも組織を抜ける日が来るかもしれないワケダ。今回のアダムとのやり取りで感じたが、やはりサンジェルマンもアダムへの不信感を募らせている。
それでも抱いた理想のために組織に留まっているが、私の見立てではアダムにサンジェルマンの理想を達成させるつもりはないように見えるワケダ。
そうなれば、絶対にサンジェルマンは組織にいない。アダムの下にいるのは、今はまだサンジェルマンの理想を叶える可能性が残っているために他ならないワケダ。
だからこそ、今回の事はその分水嶺なワケダ。本当にアダムがサンジェルマンの理想を叶える動きを見せるか否か。神の力の錬成に成功した時にこそ、私達の本当の敵が分かるワケダ。
「シキ、頼みがあるワケダ」
「……あと一回だけな」
「十分なワケダ」
仕方ないとばかりに苦笑するシキへ私は笑みを返してキスをする。それが合図となって再びシキが私の中で動き出す。幸福感と満足感を噛み締めながら、私は快楽の中へ身を委ねる。
女になってよかったと、そう心の底から思いながら……。
「今後は就寝前に採取?」
まるで昨夜の再現かと思うような状況だ。響からの伝言を伝えた後、サンジェルマンさんはそう告げてきたのだから。
俺の前には魅惑的なバスローブ姿のサンジェルマンさんがいる。まぁ、そこが違いと言えば違いかもしれない。
「そうだ。その、今回の戦闘結果で局長に撤退理由を説明するため、君の能力について話すしかなくなってな。そのため、局長から君の力を使って神の力を手にするようにと言われたのだ」
「あ~……要するにアダムは俺を利用して神の力へ近付きたい訳か」
俺の言葉にサンジェルマンさんが頷いた。どうやら厄介な事になったらしい。俺を害する事は出来ない訳だが、代わりに今まで以上にスープを出せと暗に言われたようなものだ。
その相手がサンジェルマンさんというのは嫌ではないが、彼女はどうなのだろう? 俺とエッチする事自体に嫌悪感などは感じないのだろうか?
「サンジェルマンさんはそれでいいの?」
「構わない。それに、私個人としても君と肌を重ねるのは、その、嫌いではない」
「へ?」
若干頬を赤らめて告げられた言葉に耳を疑う。これって、あれかな? サンジェルマンさんもレティ達みたいになったって事? でも、おかしいな。俺、サンジェルマンさんにごっくんさせた事ないんだけど?
「不思議な話だが、君との行為は安らぎを覚える。出来れば、今後も継続的にお願いしたいぐらいだった」
かなり強烈な発言だ。これ、要は俺とのエッチにハマっちゃったって事だよな。うん、普段クールで静かな美人が、俺の前だけ見せる顔ってヤバい。翼やマリアぐらいのギャップがある。
「えっと、当然避妊具はありだよね?」
「……どちらがいい?」
ゾクッとした。こちらへ問いかける声には、初めて聞く蠱惑的な音色が混ざっていたのだ。サンジェルマンさんは無意識なのも余計その感覚へ拍車をかける。
俺、今誘われてる。意図的じゃないにせよ、サンジェルマンさんは俺へこう言ったんだ。本来の形での性交をしてもいいぞって。
「さ、サンジェルマンさんはどうなんです?」
「私はどちらでも構わない。ないのなら直接体に取り入れた場合の確認になるし、あるのなら研究用に出来る。どちらにせよ意味がある」
さらりと返すサンジェルマンさんは普段の彼女のようにも見える。だけど、その表情のどこかに艶があるような気がした。色気と呼ぶべき艶が。
「それで、どうする?」
こちらへ軽く距離を詰めながらそう問いかけられる。本当に以前までの俺なら迷う事もなく飛びかかっていただろう。だけど……
「ゴム着けます。ナマでする必要が今はないですから」
「……そうか」
どこか残念そうな声でそう返してサンジェルマンさんはバスローブへ手をかける。するりとバスローブが落ちれば、そこには生まれたままの姿となったサンジェルマンさん。
「では、始めよう」
「っ!?」
熱っぽく息を吐いて、サンジェルマンさんが俺を見つめる。その視線の熱は、明らかにこれまでと違う。今朝抱いた時とは別人だ。何というか、女としての魅力が増している上雰囲気までも異なってる。
本当にエッチをする時の翼並の差だ。もしかして、サンジェルマンさんは日々のストレスとか凄かったのだろうか。それを俺とのエッチで解消出来たから、それにハマってしまったとかなら分からなくもないんだが……。
「どうした? ああ、そうか。そういう事か」
「えっ?」
俺が戸惑っていると、サンジェルマンさんが一人で勝手に何か勘違いして動き出した。トランクスをずらしてって、これは……。
「レロっ」
「うあっ」
俺のチンポへ舌を這わせ、そのまま舐め始めるサンジェルマンさん。こ、これは不味い。俺の中の雄が久々に雄叫びを上げそうになっている。これだけのクールビューティーが見せるギャップに、もっと変化させてやれと煩いぐらいだ。
サンジェルマンさんのフェラが多少ぎこちないのもヤバい。初めてした訳ではないのかもしれないが、確実経験が少ないのが分かるため、俺が仕込みたいという欲求が芽生えてくるから。
「どうだろうか? 口淫は自発的にした事がなくてな。上手く出来ているだろうか?」
「……もっと裏筋をゆっくり舐めたり、カリ首を舌でなぞったりしてくれると」
「裏筋? ……ここの事か? では、カリ首は……ああ、そこなのだな?」
本気で翼を思い出す。いや、翼と言うよりは調かもしれない。どちらにも共通しているのは、普段楚々としているのに床の上では淫乱さをこれでもかと見せつけてくれる事か。
もしかして、サンジェルマンもそうなのか。だとすれば、俺がその扉を開いたのだろう。
……責任、取らないといけないな、これ。
「サンジェルマン、もし良かったら胸で挟みながらしてくれる?」
「胸で? ……こう、だろうか」
戸惑いながらもおっぱいでチンポを挟んでくれるサンジェルマンが、本気でエロくて可愛い。大きさも十分だし、何より雰囲気からしてこれは初めてと見た!
「うん、そんな感じ。そのまま両手で胸を押さえながらチンポを扱いてみて? で、可能なら舌を伸ばして舐めたりも」
「分かった。やってみよう」
言われるままにやってみてくれるサンジェルマンが本気で以前の翼や調に重なって見える。というか、年齢不詳の美女が、初めてのパイズリフェラとか改めて考えると萌えるな。
今も拙いながら懸命に舌を伸ばしてチンポの先を舐めようとしてくれている。それが愛しくなって、俺はその快楽に身を委ねた。
「れー……難しいな。んっ、ペニスを胸で扱く事と舐める事が両立し辛い……」
パイズリフェラをしながらの真面目な声に、俺は思わず笑いそうになるのを我慢する。だけど、本当にギャップが凄いな、サンジェルマン。
普段の感じはどこへやら。今など、本当に舐めたくて堪らないというように舌を伸ばしてチンポの先端へ触れさせている。
「サンジェルマン、一旦扱くの止めて口で先端だけ咥えて」
「分かった。はむっ」
ああ、予想通りこれはヤバい。クールビューティーがチンポを胸で挟みながら亀頭を口にしている構図はエロい。
しかも、何も言ってないのにサンジェルマンは亀頭を舌で舐め回し始めたのだ。多分我慢汁を欲しくなったのだろう。
「いいよサンジェルマン。そのまま続けて」
「んっ」
返事するように小さく頷き、サンジェルマンはフェラを続ける。熱心にチンポを咥え続ける様は、本当にこういう行為がしたいという感じだ。
俺とだからと言っていたけど、やっぱり生命のスープが決め手なんだろうな。レティ達もそうだったけど、やっぱりあれは女の何かを刺激するんだ。それも強く。
「サンジェルマン、チンポ美味しいかい?」
ちょっとしたイジワルと言うか、興味本位で問いかけてみる。どんな答えや反応を見せるのかなと思っていたら、彼女はチンポから口を離してこちらを上目で見つめてきた。
「お、美味しい……」
「っ!?」
「私は、この味が気に入ってしまった。いえ、シキのペニスだからだろう。口の中に生命のスープを出してくれないか? 直接味わってみたい」
こんなおねだりをされて猛らない程、俺は残念ながら枯れていない。
「構わないよ。むしろ嬉しいぐらいだ。胸で挟まなくていいから、チンポを咥えられるだけ咥えてくれ」
「ええ、やってみる」
すっかり女としてのスイッチが入ったサンジェルマンは、どこか嬉しそうにチンポを深く咥えてくれた。そこから俺が言うようにディープスロートをしてくれ、貪欲に射精を促してきた。
俺はそれに抗うつもりもなく、与えられる快感に身を任せる。そうしていれば待っているのは……
「ああっ、出る……出すよっ!」
俺が限界を告げると、サンジェルマンはより一層激しくチンポを吸い続けた。それに俺も応えるように反射的に彼女の頭を両手で掴んで固定する。
「出るっ! ……ふぅ」
強い快感と共に押し寄せる疲労感。それに浸りながら俺はチンポへ感じる温もりに気付いた。どうやらサンジェルマンは飲むだけでは飽き足らず残った分まで舌で舐め取っているようだ。
完全にエロモードなんだろう。なので俺はそれに甘える事にした。少しの間、サンジェルマンはチンポを舐め続け、もう満足したのか口をゆっくりと離す。
ただ、その眼差しはどこか名残惜しそうに見えたけど。
「……これ程違うのね。直接もらうのと間接的にもらうのとでは」
「らしいね」
惚けたような表情でそう呟くサンジェルマンは色気などが凄まじい。でも、してくれた事への感謝を込め、俺は優しく彼女の頭を撫でた。
「気持ち良かったよ、サンジェルマン」
だけど、そうした途端彼女は俺の顔を見つめて止まってしまった。まるで、俺に誰かを重ねて見ているような、そんな感じだ。これは、いつかのキャロルに似てる。
もしかしてと、そう思って俺はそのままサンジェルマンの頭を撫で続けた。優しく優しく、夢子やキャロル、エルへするように。
そうしていると、サンジェルマンの目から涙が流れ始めた。一瞬驚いたけど、それでも止める事なく続ける。多分だけど、俺に重ねるって事は彼女が見ているのは父親だ。
キャロルもそうだったけど、多分サンジェルマンも父親と何かあったのだろう。俺の行動で今は亡き父親を思い出したのか? だとすれば、彼女の気が済むまで付き合おうと思う。
「…………お父さんっ」
やがてぽつりとそう呟いて、サンジェルマンは目を閉じて大きく涙した。声を押し殺して、だけど身を震わせて彼女は泣いた。
俺はその間も撫で続けるだけ。どれぐらいそうしていただろう。気付けば俺はすっかりその気がなくなり、サンジェルマンさんも目元を拭って真っ赤な目を見せていた。
「すまない。取り乱してしまった」
「こっちこそ何かごめん。辛い事、思い出させたみたいだね」
「……いいんだ。おかげで一つだけハッキリした。私は、君に父を見ている。正確には、父親の理想像だろうか」
「理想像……」
「ああ。私の父は、とある時代の貴族だった。私の母は、いわば最下層の身分。要は気まぐれで抱き私を儲けたのだ」
「もしかして、責任を取る事もせずに?」
「それがあの時代は当然だったからな。私は病気で苦しむ母を助けたくて父を頼ったが、結果は君の想像通りだ」
「突き放した、か。いくら時代背景があるからって、そんなの俺は許せない。自分の血を分けた子じゃないか。産んだのが誰であれ、自分の子なら大事にするのが当然だろ?」
俺だって簡単な古代の在り方は知ってる。たしかに身分差ってのは大きく、奴隷なんていた時代は人が人として扱われないのが常だった。でも、だからって今を生きる俺がその時の考えで物を考えられる訳ない。
特にサンジェルマンさんはここにいて、涙したんだ。父親に愛されたかったと、優しくして欲しかったと、そう思って涙を流したんだ。
「……君は優しいな。私が見た訳ではないが、あの頃にも君のような者はいたらしい。やはり、君ならあの時代であの身分でも、君のままであっただろう」
「断言出来るよ。何せある一定年齢から前の記憶がなくてもこうだからね」
「そうらしいな。ふふっ、それにしても」
「何?」
彼女は俺を見て笑い出した。何かあっただろうかと、そう思って気付いた。俺はチンポ丸出しで、彼女は全裸。そういう雰囲気や気分ではなくなった今、これ程おかしい状態はない。
「あー、間抜けだな、これ」
「ふふっ、私もだ。精飲した後でこの様だしな。だけど、何故だろうか。こんなにも笑ったのは生まれて初めてかもしれない」
言われて見れば、俺も彼女の笑顔を見たのは初めてだ。よく見るととても可愛い笑顔をしてる。普段からは想像も出来ないような愛らしさもある。
「なら良かった。俺も間抜けた姿を晒してる甲斐があるってもんさ」
「クスッ、何だその言い方は。まあいい」
そう言うなり、サンジェルマンさんは俺の隣へ座って俺の上着を脱がしにかかる。何をするのかと思いながら、俺は抵抗どころかむしろ手伝うように服を脱いだ。そしてついでに下まで脱ぐ。
「これでいい」
「お揃いだな」
「ああ、そうだ。シキ、今夜はここで寝てもいいだろうか?」
「それは構わないけど……もう採取はいいのか? それに色々不味いと思うけど」
正直朝起きた時に全裸のサンジェルマンとかチンポに悪い。俺から手を出してしまいそうだし。そういう事も暗に含めて問いかけたのだけど、それに対して彼女の返した答えは……
「一応もらったし、シキとなら構わないと言ったはずだ。どうされても、今の私には益しかない」
「……そ」
こうして俺は裸のままでサンジェルマンと寝る事になった。ただ、抱き着いたままでも構わないだろうかと言われた時は驚いたけども。
―――君のような人に父となって欲しかった。
―――何ならそう呼んでみる?
―――無理だ。
―――じゃ、してる時なら?
―――……は、恥ずかしいな、それでも。
恥らうサンジェルマンを見れたので、御代としては十分。ま、この後で小さく「お、お父さん……」と呟いているのが聞こえて俺も悶えそうになったけれど。
―――要、シキ……。私の心に安らぎをくれる人……。
自分で今回について一言言うなら、長いっ!
書きたい事、書かなきゃいけない事。それらをやったら、初めて三万字を超えました。
本当はまだあったんですが、今回はここで一旦終わりにします。きっと余計長くなってしまうんで(汗
次回は愚者の石関係の話と、地上のオリオン座関係の話を予定。
過去と未来の狭間で、もがき足掻く事こそが……。