※この作品はR-18です。

淫姫絶頂したいフォギア   作:拙作製造機

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いよいよ迫る最後の決戦。そう、今作では南極決戦が最後の戦いとなる予定です。
XVは、響と未来が神獣鏡の光を浴びていない時点で破綻していますのでね。
シェム・ハの眠る棺を破壊し、ついでに腕輪をどうにかすれば終わり。

……ノーブルレッドの三人は、一応出す方向も考えていますが、今はまだとだけ(汗


神威赫奕の極みに達してしまう事もなく

 色々とあった夜が明けた朝、俺は本部内の医務室にいた。まぁ、神の力を宿したから精密検査を受けていたのだ。

 

「……それで、結果はどう?」

 

 全ての検査が終わり、俺は詳しい事が分からないでも簡単な事は言ってもらえると思って、目の前で腕を組む了子へ問いかける。エルとマムは検査後のバイタルデータらしきものを眺め、互いに小首を傾げていた。

 

「そうね。今のところは異常なし」

「今のところ、ね」

「詳しい結果は時間がかかるもの。ただ、おそらく何も問題ないとなるでしょうね」

「……俺の能力と同じ?」

「そ。要は、今の神の力は休眠状態。だから検査しても無駄」

 

 良く出来ましたみたいな表情で笑い、了子は視線を俺からマム達へ向ける。二人も同じ結論を出したらしく、どこか残念そうにため息を吐いていた。うん、何か増々家族らしくなってきてるな。

 

「でも、それでいいのかもしれません。正直神の力というものが検査機器にどう影響するか分からない以上、迂闊な事は出来ませんし」

「最悪壊れてしまうかもしれません。そうなったら、またお金が……」

「エル、お願いだからそんな顔しないでくれ。というか、その外見でお金の事を気にするの、結構心に痛いからさ」

 

 我が家の改造で必要になった資金を知っているためか、エルはお金の使い道や方法に敏感になってしまっている。それはS.O.N.G研究員としてもらしく、経費を削減出来るならどこまでも頑張ってしまうそうだ。

 風鳴さんが気にしないでいいと言ってくれているらしいが、元々心配性な面を持つエルは中々そういう思考に慣れないみたいだ。

 

「で、でもぉ」

「そうですよエル。ここは国連直轄の組織です。そして、その役割は世界のためになる事。なら、ここでやっている事は世界を守るための行為です。そのためには、必ず結果を出さねばならないのですから、資金の事を気にして失敗しては意味がありません」

「それは……分かってるんですが」

「エ~ル~? 貴方がそうやってるとね、母さんやグランマも研究し辛くなっちゃうのよ? だって、可愛いエルが経費を削減しようとしてるのに、こっちはそんなの度外視で色々要求したりやったりするんだもの」

「あう……」

 

 了子の指摘にエルがどうしようとばかりに俺を見る。若干涙目な辺りが本当に可愛い。

 

「エル、節約は家の事だけにしてくれ。ここでは、いや研究員としては経費よりも結果優先で」

「……分かりました。出来るだけそうやって考えていきます」

「まぁ、そもそも何事も突き詰めようとするとお金がかかるものなのよ。特に聖遺物や錬金術関係は、ね」

「金食い虫ですからね、研究は。私もかつては頭を悩ませたものです」

 

 似た苦労をしたのだろう了子とマムが揃って思い出し笑いをする。その少しだけ苦い笑みに、エルはどこか感心するような表情を見せた。何か琴線に触れたのだろう。

 そういえば、エルは科学者兼錬金術師になると言ってたな。了子とキャロルから学んで、それぞれの分野から得た事を別の分野へ活かせるようになりたいのだそうだ。

 

 これは、レティとの話で抱いた目標らしい。何でもレティと少しだけ話をして、彼女から何かアドバイスをもらったようだ。

 

「それで、俺はもう解放してもらえる?」

 

 そう俺が問いかけた時だった。医務室のドアが開いて風鳴さんが姿を見せたのは。

 

「結果はどうだ?」

「異常なし。ま、おそらくどれだけ精密検査しても無駄かも」

「そうか。そうらしいぞ、八紘兄貴」

「へ?」

 

 風鳴さんが中へ入るなりそう言って後ろを振り向いた。俺達もそれに合わせて視線を風鳴さんの後方へと向けると、そこにはスーツ姿の八紘さんがいた。

 

「そうか。なら、他国へ露見する事もないか」

「や、八紘さん?」

「こうして直接会うのは久しぶりだな、要君。いや、いっそシキ君とでも呼ぶべきだろうか?」

 

 俺へ軽く笑みを見せ、八紘さんはそう言った。何というか、少し会わない間にこっちへの雰囲気が柔らかくなったような気がする。

 

「そ、それはまだ早いかと。翼の夫には近い内になりますが……」

「実は、それ絡みで困った事になりそうなのだ。私は、その事で君へ会いに来た」

「はい?」

 

 先程とは一転して真剣な、それでいて複雑そうな表情を見せて八紘さんは俺を見つめる。見れば風鳴さんも似た表情だ。

 

「私達の父である風鳴訃堂が、君を風鳴の入り婿にしたいと言い出していてな」

 

 告げられた言葉に俺は目が点になった。入り婿。その意味は分かるし、翼のお祖父さんが俺を受け入れようとしている事も分かった。

 だけど、俺は知っている。その風鳴訃堂という人こそが、八紘さんと翼の間に妙な壁を作った理由であり、俺以上に常軌を逸している人だと。

 

「そうですか。じゃ、有難いお言葉ですが断りますとお伝えください」

「やはりか。翼からも、君が特定の家と親しくなるのを嫌がるだろうと言われていた」

「……それでも一応本人の意思を聞いてくれたんですね。いや、この場合は別の意図も?」

「さてな。俺達にもあの人の考えは分からん。ただ、君がこうして拒否した事で俺達もはっきりとその旨を言えるようにはなる」

 

 風鳴さんの言葉に八紘さんが小さく頷いた。どうやら俺自身がちゃんと断るという意思を見せないと引き下がる事はしない人らしい。いや、一旦は、かもしれない。何せ、俺を風鳴の入り婿としたい理由は確実にアレが目当てだろうから。

 

「神の力を宿す可能性が、血で遺伝する可能性を考慮してるんですよね、その人」

 

 俺の言葉に二人の風鳴が押し黙った。それこそが何よりの答えだと思う。今の検査結果と昨夜の出来事で俺の中に神の力は残っていないと押し通す事は出来るだろうけど、それでも一度宿った事実は消えない。

 なら、その事実を狙って動く者達がいないとも限らないのだ。そういう意味で言えば、風鳴訃堂はそういう人間だと思う。翼の出生は、まさしくそういう発想故のものだろうから。

 

「もし今の俺の言葉が間違っているなら、俺は風鳴訃堂さんへ直接謝りに行きます。翼の想い人である俺を、しかも複数と関係を持ち子まで設けた俺を風鳴の家へ入れてくれようとしたと、そういう事ですから。そんな孫娘想いの方の気持ちを疑ってすみませんでしたと、そう言いに行きます」

「要君……」

「分かった。ならば、私が父へ直接会って君の言葉を伝えよう。翼の父として、君の気持ちは嬉しいものだからな」

「八紘兄貴……」

 

 風鳴さんが俺と八紘さんを交互に見やり、何とも言えない顔をしていた。了子達はとんでもない事を聞いたとばかりに神妙な顔をしているが、きっとこれを誰かに言う事はないだろう。

 そういう意味では、ここにいたのが了子達で良かった。これが響や切歌辺りなら絶対どこかでもらしているだろうから。

 

「お願いします」

「ああ。弦、私はこれで役目を終えた。後の事は任せたぞ」

「あ、ああ……」

 

 颯爽と去っていく八紘さんを見送り、俺は改めて理想の父親像に八紘さんを掲げる事にした。風鳴さんもだけど、本当に大人って感じでカッコイイ。俺も、あんな背中になりたいものだ。

 

「それで、弦十郎ちゃん? ここに来た用件はそれだけ?」

 

 で、場の空気を変えるように了子が茶化すような口調で問いかける。うん、了子らしい気の遣い方だ。

 

「いや、実は奏君と翼が今日帰国する事に決まってな。それを要君へ伝えようと」

「奏と翼が?」

 

 そういえば昨夜そんな事を聞いた気がする。てっきり当分日本へは帰れないと思ってたのに。というか、たしかマリアもまだ海外だったはずだ。なのにどうしてここにいたんだ? 思えば疑問符だらけだな、この辺り。

 きっと、それが顔に出ていたんだろう。風鳴さんが苦笑して事情を教えてくれた。どうやらアンジェ達とは別の錬金術師がマリアの出演するはずだったステージをメチャクチャにし、それがツヴァイウイングにまで影響したとの事。

 

 成程ね。そういえばいつだったか、アンジェ達がお冠だった時があったっけ。リオなどは隠す事なくアダムの悪口を言ってたし。

 

「じゃ、余計ここでこうしてる暇はないな。風鳴さん、俺、家に帰ってもいいですよね?」

「ああ、構わない。日本政府も今更君を護衛対象には出来ないらしくてな」

「そりゃそうよねぇ。一旦護衛対象から外した存在をまたそうすれば、諸外国からこの人が狙われる理由を与えるようなものだし」

「事がこうなっては、これまで通りに振舞うしかないですからね。国連の方へはどうするのですか?」

「そちらも既に対策済みです。要君が昨夜の戦いであの力を存分にふるってくれたおかげで、神の力を使い切ったと言える証拠が出来ましたからね。誰も詳しい事は知らない未知の力です。そこを逆手にとって、今の検査結果と昨日の映像で黙らせます」

「悪魔の証明、と同じですね」

 

 エルの簡潔な例えに誰もが苦笑して頷いた。ないものをあると言い張るのは難しい。神の力を俺がまだ使えると示すのは、俺自身がそうしようとしない限り不可能である以上、国連も諸外国も日本政府さえも”神の力はあの戦いで使い切りました”を信じるしかない。

 幸いそれを示すかのような証拠は出ていて、そちらの言葉には一定の説得力があるのだから。それを論破するには相手側に証拠が何もない。

 

 こうして俺は晴れて自由の身となった。まず真っ先に家へと帰り、未だ本調子ではないミカ達へスープを与えようと思って……

 

「……この力で似た事出来ないかな?」

 

 ティキを人間へと近付けた神の力。なら、スコアのみんなのエネルギーと出来るかもしれない。さすがにティキと同じ事は無理だろうけど、それぐらいなら俺だけの意思で出来る気がする。そう思ってまずはミカの頭へ手を置いて、はたと気づく。

 

「そうだ。キスに力を込めてみれば……」

 

 スープよりも薄い唾液なら万が一の際も大丈夫だろう。特にミカは大喰らいだし。そう考えて、俺は眠るように目を閉じているミカへそっと口付けた。

 

「んぅ? ん~……」

 

 最初こそ寝惚けたような反応だったミカだけど、すぐに目を開けてうっとりしてくれた。優しく抱き締めてあげて、そっと口を離す。

 

「ミカ、どうだい?」

「……シキ、今の何だ? いつもよりも思い出多いゾ?」

「ま、ちょっとしたパワーアップだよ。俺のミカへの気持ちが強く伝えられるようになったんだ」

「そっか。なら、その調子でガリィ達にも頼むゾ。みんな、まだご飯食べて眠るしか出来ないからナ」

「分かった」

 

 ミカの反応から大丈夫と踏み、俺は残る三人へもキスをしていった。ガリィ達もミカと同じような事を言っていて、特にガリィはスープに匹敵するとさえ言ってくれた。

 

「あんた、何て事してくれたのよ」

「えっと、どうしてそんな風に言われるんだろうか?」

 

 で、何故か今俺はガリィ達から軽いジト目を向けられていた。ミカだけがその輪に加わらず、不思議そうに小首を傾げている。

 

「シキさん、今のキスはとても嬉しかったです。そして、同時にとても美味しかった」

「美味しかった、ねぇ……」

「ええ、とても派手な味だった。スープに匹敵するけど、地味にどこか違う味」

「だから、ガリィちゃん達は思ったのよ。これでスープもらったらどうなるのかしらって」

「ああ、そういう事か」

 

 要は生命のスープ神の力風味を飲みたいと、そういう事だ。ただ、それは若干不安がある。

 

「えっと、それでガリィ達が異常をきたしたりしないかな?」

「うっ……それはぁ……」

 

 俺の問いかけにガリィだけでなくファラとレイアも思案顔。やはりそれぐらい神の力は強いんだろう。何せティキの体を元に戻したり、挙句生身へと変えてしまえる程なのだ。

 まぁ、後者に関してはティキの強い想いも必要だったみたいだけど。なら、多分何とかなるかも。少なくても、スープを飲んだら生身の女性へ大変身とかならないと思う。

 

 ……あくまで勘であり、事実どうかまでは分からないけれど。

 

「じゃ、こうしよう。先走りだけで一旦判断。そこでガリィ達が危険性があると思ったらスープはなし」

「それが一番現実的でしょうか」

「地味だけど、派手な事になる可能性は低いわね」

「じゃ、そうしますか」

「な、ミカもいいか?」

「うん、いいよ。実験みたいなものだしね」

 

 かつてであれば性欲全開な展開でも、今の俺からすれば大事な家族のために必要な行為と思う事。聞けば響を助けるために残り少ないドリンク全使用でアンジェ達と戦ったそうだし、俺がこうやって戻るまでは本当に眠って食事して眠っての繰り返しだったらしい。

 

 そういう訳で始まった四人でのフェラは、呆気なく終わりを迎える事となる。何も俺がすぐに出してしまった訳ではない。四人がチンポへ舌を這わせた瞬間、揃って表情を緩めたかと思うとこう告げたのである。

 

 一舐めで充分、と。要は、神の力がかなり俺の能力を底上げしているらしく、今の俺なら我慢汁でさえ以前のスープに匹敵するとの事。味もそれに伴ってか良くなっているそうで、ミカなどはもっと舐めたいと言ってきた程だった。

 

 まぁ、さすがにそれはと思って頭を撫でる事で我慢してもらったけど。相変わらず犬みたいで可愛い子だよ。

 

 で、すっかり回復した四人を連れてキャロルの研究室へ行ってみれば、そこには響達学生組が勢揃いしていた。

 

「あれ? どうして響達が?」

「今日は始業式だけなんですよ」

「それで、これから私のギアの起動実験をやる事になってて」

 

 響と未来の言葉で大体事情が分かった。と、そこで全員の視線が俺から後ろへ動いた。

 

「およ? ミカ達、もう起きても大丈夫デスか?」

「ん! 今のシキとキスしたら完全回復だゾ」

「えっ!? キスだけ?」

「正確には、普通のキスと別の場所へのキスにも等しい行為、ですが」

「だけどそれで十分過ぎる程の思い出。地味な行為で派手な効果。私の理想よ」

 

 ファラとレイアの言葉でキャロル達が俺をややジト目で見てくる。だけど、今回は俺も後ろめたい事はないので平然とする。

 

「どうやらあの力が効果を底上げしてくれてるみたいでね。だからきっとキスでもじっくりすれば十分なぐらいになってるかも」

「味も良くなってんのよ。本当に増々生きる栄養だわ」

「味が……」

「良くなってる、か」

 

 調とクリスが喉を動かすのを見た。いや、響達もだろう。若干だけど、学生組の眼差しが雌のそれになった気がする。と、そこで気付いた。俺がさらわれてから今まで、みんなはエッチどころかキスさえしてなかったんだと。

 

「うん、じゃあ響おいで」

「へ? 何ですか?」

 

 なので軽くキスしておこうと思い、まずは響を手招き。疑う事なく近付いてきた響を抱き寄せ、優しくキス。

 

「んっ……」

「……どう?」

「は、はい。今までで一番幸せなキス、かもしれません。心がポカポカしてくる感じ」

「そっか。じゃあ、未来来てくれる?」

「え? は、はい」

 

 学生服の響とキスしたのは初めてだなぁ、と思いながら今度は未来を。もう何をされるか分かっているからか、未来はどことなく照れていた。そんなところも可愛いと思って、そっと抱き寄せてキス。

 

「……どうだい?」

「……響の言う意味、分かっちゃった。今のシキさん、すごくキスが優しいから」

 

 どこか惚けた顔でそう告げる未来は、中々の色気を放っていた。だけど、それでも俺は性欲よりも愛情が勝る。可愛いとそう思って俺は未来の頬を優しく撫でる。

 

「そう。なら良かった。次は切歌、おいで」

「はいデスっ!」

「切ちゃん、喜び過ぎ……」

「ったく、らしいちゃらしいけどな」

 

 ルンルン気分で俺へ近付く切歌を調とクリスが若干呆れながら見つめている。だけど、何となく二人も自分が呼ばれるのを今か今かと待ってる気がした。

 そう思っていると切歌が目の前に来たので、こちらも優しく抱き寄せてキスをする。と、そこで切歌が抱き締め返してきた。

 

「えへへ、ホントに幸せデス。心がフワフワするデスよ」

「それは良かった。調、来て」

「はい。切ちゃん、交代」

「はーい、デス」

 

 舌を出して離れる切歌と入れ替わるように調が胸へ飛び込んでくる。調にしては甘えてるな。きっとそれだけ寂しかったんだと思う。なので少しだけ強く抱き締めてキスをした。

 

「……シキさん、やっと帰ってきてくれた」

「調……」

「こうやって抱き合って、キスするだけで幸せです。私、もうこの温もりがないとダメなんです。責任、取ってください」

「うん、約束するよ」

 

 最後に笑みを見せて頷くと、調が嬉しそうに微笑んで離れて行く。で、それを合図に最後の一人が恥ずかしそうに近付いてきた。

 

「あ、あたしだな?」

「クリス、お待たせ。寂しい思いさせて、ごめん」

「っ……シキぃ」

 

 感極まったような顔でクリスが抱き着いてきた。なのでまずはキスするより先に強く抱き締めた。そうやってクリスが満足するまで待っていると、そっとクリスが顔を動かしてこちらを見上げてきた。

 その潤んだ瞳がキスを待っているように思え、俺はそっと口付ける。本当に触れるだけのキスを。それが、今のクリスには良かったらしい。嬉しそうに笑みを見せてくれたのだ。

 

「ホンっトに長い間寂しい思いさせやがって」

「ごめん」

「……だけど、今のでチャラにしてやる。で、ここからは詫びだからな?」

「ああ、分かった。じゃあ……」

「んぅ……」

 

 さっきよりは長めのキスをした。すると、クリスが胸を押し付けるように抱き着いてくる。これ、明らかなセックスアピールだよな? てことは、今、クリスはキスされた事で甘えん坊モードになってると、そういう事か。

 

「あ~っ! クリスちゃんだけ二回もキスしてる!」

「ズルいデス! おーぼーデス!」

「みんな一度で我慢したのに!」

「クリス、それはないよっ!」

「……別にキスは一度だけなんて決めてねーだろ。だからあたしは悪くねー」

 

 照れくさそうにしながら、クリスはそう言って顔を俺の胸へと戻した。俺は不満爆発しそうな響達へ笑みを向けて手招きする。これはちゃんと俺が収拾つけないといけないと思って。

 

「響達ももう一回来てくれるか? お詫びじゃないけど、もう一度みんなの事を抱き締めさせて欲しいんだ」

 

 こうして俺は学生組ハーレムを堪能させていただきました。制服姿の五人を愛でるのは初めてだったし、当然興奮もしたけど、それよりも本当に帰ってきたんだ感が凄くした。

 で、満足した五人とミカ達四人が出てった後、愛しい娘も俺へ抱き着いてきました。まぁ、まだみんなに甘えてるところは見せられないのだろう。

 

「……父さん、もっと強くていいから」

「はいはい」

 

 今、俺はキャロルを椅子に座って抱き締めていた。俺の背にもたれて甘える姿は外見相応に見える。ギアの起動実験開始までもう少し時間があるそうで、キャロルはそのギリギリまでこうして欲しいと頼んできた。

 

 キャロルなりに、今までの寂しさを払拭したいのだろう。一応昨日帰ってきてから了子と二人でキャロルとエルを挟んで眠ったんだけど、それだけじゃ足りないらしい。

 

「ねぇ父さん」

「ん?」

 

 俺達以外誰もいないし見てもいないからか、キャロルが完全娘モード。その口調や声が甘えを多分に含んでいる。

 

「何があっても、今の私は父さんの娘だから。絶対、もう失いたくないの」

「……ああ、俺も同じだよ。今の俺は、キャロルの父さんだ。絶対、離れないからな」

「約束」

「うん、約束だ」

 

 そっと俺の左手の小指へ絡められるキャロルの白くて細い小指。それだけではキャロルが信頼出来ないかもと思い、俺は右手をキャロルの頭へ置いて優しく撫でる。

 そうやってしばらくすると、キャロルがそっと指を放してこちらを見上げてきた。時間を見れば実験開始が間近である。

 

「そろそろ行こうか」

「うん」

 

 二人手を繋いで歩き出す。本部へは転送で行くのだが、それでも一応転送場所として設定している場所まで移動する。我が家には玄関がない。いや、あるにはあるのだが基本使用していないのだ。

 何せ転送結晶があるため、わざわざ遠い場所まで行かなくても外に出れてしまうからなぁ。それに、玄関と便宜上呼んでいるけど、そこもそもそもはそういうつもりで存在する扉じゃないし。

 

「キャロル」

「何?」

「もし、もしもここに新しく住人を増やしたいって言ったら、どうかな?」

「はぁ~……まぁ、同じ錬金術師として意見交換や知識の共有が出来るのは助かるかな。私はそれで納得してあげる。母さん達は、自分で説得して」

「ありがとう。優しく理解のある娘を持って俺は幸せだよ」

 

 大きなため息の後、キャロルはその優れた頭脳でもってこちらの言いたい事を察してくれた。しかも、その言葉は錬金術師としてのものではなく、あくまでもキャロル個人としてのものだ。

 一人称と言い方がそれを裏付けてくれている。要は、俺の在り方や考え方を知っているからこそ、抱いて繋がりを深めた相手をどう想うかを理解してくれているのだ。

 

 アンジェ達といつかここで暮らしたい。響達だけでなく、彼女達とも家族になりたいと。その考えをキャロルは受け入れ、納得する理由も告げてくれた。

 

「私は、こんなにも女の人にだらしない人を父にして不幸かも」

「なら、その不幸を上回る幸せをもたらすように頑張るから、その、許してくれるか?」

「……そういう人だから、きっと母さん達は父さんが好きになったんでしょうね」

 

 呆れつつも最後には笑ってくれるキャロルは、とっても可愛い女の子だった。こんなとこにも変化が見える。皮肉にも俺という第二の父と引き離された事で、キャロルの中で長年に渡り造り上げてしまった顔が崩れ始めたんだろう。

 

 もしかすれば、それも切っ掛けは夢子かもしれない。血の繋がらないでも明確な妹が出来た事で、キャロルはその導となれるようにと考え始めたのかも。

 

「何?」

 

 そんな事を考えながらキャロルを見ていたら、若干不審そうな表情と目を向けられました。うん、普通義父へ向けるものじゃないね。

 

「キャロルもお姉ちゃんっぽくなったなって思ってさ」

「……夢子が、私を姉さんって呼んだから。あの子には、俺なんて一人称を使って欲しくない」

 

 照れ混じりの答えは、とっても優しくあったかい言葉だった。もしかすると、近い内に“俺”と言って強がる錬金術師の女の子はいなくなるかもしれない。

 変わりに、“私”と言って頑張る錬金術師の女の子が戻ってくるんだろう。“僕”と言う妹分と一緒に幼い妹を大切にしながら。

 

 そんな事を思い、俺は笑顔でキャロルと共に本部へと向かった。繋がれた手は、いつかの外出よりもしっかりと繋がれている。それがキャロルの心情に思えて、俺は笑みが深くなった。

 

―――キャロルのパパさんも、喜んでくれてるといいな……。

 

 

 

「これが……新しいギアの姿か」

 

 私を見る司令の表情は、驚き一色って感じだった。見れば響達も似たような感じ。ただ、司令と違ってどこかまぶしいものを見るような眼差しだけど。

 

「はい、キャロルがラピスのデータを参考に組み込んだ、現状神獣鏡のみの特殊形態です」

「ラピス・フィロソフィカスは呪いを払う浄化の概念を持っていた。それがこの上なく神獣鏡のギアと相性が良かったからな。俺としては自力で完成出来なかったのが癪ではあるが、おかげで想定以上のものが出来た」

 

 キャロルの言葉通り、いつもよりもギアが軽くて動きやすい。それに、とってもあったかい気がする。

 

「それで、名称はどうするのですか? 便宜上あった方が今後都合がいいでしょうし」

「そうですねぇ。ならキャロル、案を出して?」

「俺が?」

 

 マムと了子さんから見つめられ、更に響達からも見つめられ、キャロルは困った顔で私を見てきた。うん、分かるよ。突然言われても思いつかないよね。

 

「じゃあ、いっそそのままの名前にしたら? 錬金術って意味の」

「……アルケミーか。いや、いっそ呪いのイグナイトに対して浄化の姿と言う意味で、アピーズ」

「よし、今後この状態のギアをアピーズと呼称する」

「イグナイトとアピーズ、かぁ。どういう意味?」

「お前、ちったぁ真面目に勉強しやがれ」

 

 響らしい言葉にクリスが呆れるけど、私も似た気持ちだよ響。せめてイグナイトぐらいは分かろうよ。

 

「イグナイトは、火を点けるって意味ね。で、アピーズは鎮めるかしら。癒すって意味もあるけど」

「癒す……ラピスの力って感じですね」

「ピッタリデスよ。さすがキャロルデスね」

 

 了子さんの説明に調ちゃんと切歌ちゃんが笑顔を見せる。へぇ、そういう意味なんだ。じゃ、神獣鏡の能力にも似てるかも。だからアピーズ、鎮めるなのかな?

 

「だとよ」

「あ、あはは、英語は苦手で」

「苦手じゃないものの方が少ないじゃない」

「未来ぅ~、それは言わないで~」

 

 私の指摘に響が泣きそうな顔をした。まったくもう、そうやって勉強と距離を取ってるとこの先困る事になるんだから。だって、今年でクリスは卒業して、私と響は最上級生になる。

 それは、つまり将来に対して大きな決断をしないといけない事だ。進学するのかしないのか。または、するならどこへ進むのか。人生に対しての、大きな決定を下すんだもん。

 

「ただ、これは他のギアには組み込まない方がいいかもしれないわねぇ」

 

 そんな中、了子さんが困り顔でそんな事を言い出した。でも、見ればキャロルやエルちゃんは苦い顔をしているし、マムでさえも納得する顔をしている。

 

「そうですね。アピーズはいわば神獣鏡だからこそ可能になった姿でしょう。呪いの力であるイグナイトとは、相性が悪すぎますから」

「あっ、そういう事か」

 

 響の言葉はきっとみんなの言葉でもある。思えば、私のギアにイグナイトが実装されなかったのも、そのギア特性との相性の悪さが原因だった。なら、呪いの魔剣を組み込んだ響達のギアは、ラピスの力が相性最悪だ。

 

「そうなるな。まぁ、逆に言えば、だ。これで神獣鏡はやっとお前達のギアと同じく更なる性能を発揮出来るものとなった訳だ。釣り合いが取れたと言えば、聞こえはいいか」

「仮にイグナイトとアピーズを展開し合ったとしても、ラピスのデータを基にしたアピーズには対消滅バリアは必要ありません。それぐらい、ラピスの力は強いんです」

「じゃあ、私だけ何の不安もなく強い力を使えるの?」

 

 響達のギアは、ラピスへ対抗してイグナイトを使うと、使用後にちょっとだけメンテナンスが必要って聞いた。私のギアだけそれがないなら、万が一の際には私が最後の盾になるって事だから。

 

「いや、そうも言えない。おそらくだが、アピーズも使用時間に限度がある。イグナイトと同様、本来ない力を無理矢理引き出しているからな。その限界を迎えれば、再使用までは必ず一定時間が必要だ」

「でも、浄化作業は必要ないので、そういう意味では皆さんよりも使いやすいかとは思います」

 

 その言葉に私は頷いた。みんなとは違う力で強化された神獣鏡。それを正しく使っていこうって、そう思って。サンジェルマンさん達が、響達を愚者と呼んでいたのなら、私は賢者になろう。

 このラピス・フィロソフィカスから生まれた、アピーズの力で。いつだって手を伸ばし続けるみんなを、守り癒せるように……。

 

 

 

 遂にやってきたこの時が。そう思ってあたしは翼と共に歩き出す。向かうはみんなが待っているだろうリビングだ。

 足取りは、重く引きずられるようだった空港とは真逆に軽かった。それこそどこまでも飛んで行けそうなぐらいに。

 

「「ただいまっ!」」

 

 視界に広がる姿や耳に聞こえる声へ懐かしさを覚えながら、あたしと翼は声を揃えて告げる。

 

 久しぶりの日本。久しぶりのシャトー。それに何より……

 

「おかえり、奏、翼。心配かけて、ごめん」

「シキっ!」

「シキさんっ!」

 

 愛する男が戻ってきた事。それが何よりあたしには嬉しかった。翼と一緒になってシキの胸へ飛び込むと、何とシキの奴は倒れる事もなくあたしらを受け止めたのだ。

 こんな力あったか? いや、さらわれたシキが筋力を上げるなんて出来る訳がない。そう判断してあたしはシキの顔を見つめた。

 

「何があったのさ?」

 

 チラリと見れば翼も同じ事を思ったのかシキを不思議そうに見つめてる。見つめられた本人はと言えば、どこかバツの悪そうな顔をしていた。

 

「えっと、この家以外では絶対話さないでくれよ? 実は……」

 

 シキから聞かされたのは耳を疑う内容だった。神の力を、何とシキが宿した。単純に言えばそれだけ。でも、どうもそれが一番複雑な話らしい。何せ、本来ならバラルの呪詛がある人間は神の力を宿せないんだと。

 じゃ、何故シキが? そう思った瞬間、あたしの中に一つの仮説が生まれた。それは、シキが普通の人間じゃない事に関係してるって。

 

「もしかして、シキの能力と関係ある?」

「分からない。でも、どちらかって言うと、そもそもあんな能力がある時点で普通じゃないからね。だから俺が神の力を宿せても不思議はないかも」

「それでも、シキさんはシキさんです。私の、初恋の人で愛する夫となる人です。その一点は、何があろうと揺るぎません」

 

 翼の凛とした声にあたしも頷いた。

 

「そうだね。あたしはシキが例え怪物でもいいよ。シキがいなきゃ、あたしはもうとっくにこの世にいないだろうし。なら、どこまでもあんたについて行くよ」

「……ありがとう、奏、翼」

 

 言い終わるとシキはあたしと翼を優しく強く抱き締めてくれた。その温もりにあたしは思う。自分で言っておいてなんだけど、こんなあったかい人が怪物である訳がないって。

 たしかにスケベで女にだらしないとこはあるけど、今やそれもかなり薄れてきた。あと、この頼もしさはきっと神の力関係ないとこからだろうしね。

 

「父さん、二人も帰ってきた事だし、あの事、話した方がいいんじゃない?」

 

 シキに抱き締められて幸せを噛み締めていると、唐突に放たれるそんな言葉。だけど、あたしはその言葉を発した相手に気付いて顔を動かした。

 

「キャロル? あんた、今……」

「……夢子がいる家では、もう乱暴な言葉は使いたくない。あの子が、俺なんて言い出したら嫌だから」

 

 あたしに対して照れくさそうに顔を背けて、キャロルはそう返した。そんなキャロルにあたしだけでなくみんなが笑みを浮かべた。あの黄金錬成の時に見せてくれた、キャロルの本当の顔。それが、これからはここで見せてくれるって、そういう事か。

 

 ……あたしらに、本当の自分を見せてもいいって、そう思えるようになったんだ。そう思うと、何だかとても嬉しくて誇らしいじゃないか。

 

「キャロルがああ言ってくれた事だし、そうだな。みんな、聞いて欲しい事がある」

 

 あたしらからそっと腕を放してシキは周囲へ聞こえるように話し始めた。ただ、何となくだけどあたしと翼以外は気付いてる感じだね、これ。

 

「実は、いつになるか分からないけど、ここにアンジェ達、サンジェルマン達を迎え入れたいんだ。俺の、嫁さんとして」

「「やっぱり」」

 

 あたしと翼の声がハモる。うん、しかないよな、これ。ったく、あたしと翼がいない間にシキは一体何をしてたんだろうね? てか、もしかすると長野での一件、そこでシキはもう手ぇ出してたって事か?

 

「シキ、私達はある程度察しているし分かってるけど、奏と翼はそうじゃないのよ? ちゃんと説明しなさい」

 

 マリアの言葉でもうあたしと翼は悟った。どうやらシキは、またスケベな事をして相手側とねんごろになっていたらしい。しかも、この様子じゃ単なるスケベ心からの動きじゃないね。

 思い返してみれば、もしシキがスケベ心で動いてたら最初からスープの事を教えてたはずだ。でも、あいつらはシキの血がスープと思い込んでいた。つまり、シキはスケベをしようとしてなかったんだ。

 

「その、彼女達が以前のマリア達と重なって見えたんだ。自分達が悪と言われようと、それで大勢の人達が助かるのならそのそしりを甘んじて受けるって、そんな風に。だから、俺はあの三人に死んでほしくなかった。そして、みんなが三人を傷付ける事も殺す事もして欲しくなかった。だから、結果的に俺は彼女達にスープを与えた。可能な限り、みんなを殺さないでくれって、そう頼んで」

 

 思わずあたしはため息を吐いた。あーあ、シキがスケベじゃなくなったら、余計厄介な方向でそういう事をしでかすようになってる。

 思うに、これであの三人はシキへ惚れ込んだんじゃないだろうか。何せ、そのつもりならいくらでも抱く口実は作れるのに、それをする事もなくむしろ避ける。かと思えば、自分達を守るために深く強い想いで抱こうとするのだ。

 

 ……間違いなくあたしなら惚れてる。ううん、絶賛惚れ直してる最中だ。父親らしくなって、旦那として立派になってきたと思ったらこれとか、男として成長し過ぎでしょ。

 

「どんな理由があっても、俺がみんな以外の女性へ手を出した事に変わりはないよ。そこについては言い訳も何もない。もしそれが許せないって言うのなら」

「ここを出てその三人と一緒になる?」

「少し違うよ。ここを出て、アンジェ達に約束を守れなかったって謝って、一人暮らしをしながら夢子達の養育費を稼ぐために頑張るさ」

 

 若干茶化すようなあたしの言葉へ、迷う事無くさらりと告げられた内容にあたしだけじゃなくみんなが呆気にとられた。

 

「し、シキ? 別にそこまで」

「する必要があるさ。そもそもこれだけの女性と関係を持って、更に娘までいるのにあろう事か誘拐した相手側と肉体関係を築いたんだ。で、そんな彼女達もここへ迎え入れて妻にしたいって言ってる。これだけの身勝手を言いのけたんだ。なら、その報いは厳しいものでないと」

 

 少しも笑わず、シキは真剣な表情でそう言い切った。本当に、少し見ない内に随分と変わった気がする。それだけ、色んな事があったんだろうね。これまで誰よりもシキを近くで見てきたって自負があったけど、今回の事でそれはもう言えないかな?

 

「よし、じゃあ……あたしは受け入れるよ。シキの事だから、きっとその分ちゃんとしてくれるんだよね?」

「エロい事じゃないのも含めて、な」

 

 その言葉にあたしは笑みを返した。見れば翼達も笑ってる。やっぱりシキはシキだ。あたしの好きになった、そして心底惚れ込んだ、シキのままだ。

 

「それに、アンジェ達の受け入れだって、いつになるか分からない。もしかしたら、こう言ってるだけで終わる可能性もあるんだ」

「あっ、そっか。サンジェルマンさん達、パヴァリアの中から変えていくって言ってましたもんね」

 

 響の言葉にあたしは軽い驚きを覚えた。聞いてはいたけど、本当にそうなんだって思って。風鳴の旦那は、パヴァリアの幹部連中やあのアダムって奴と協力関係を結んだと言ってた。

 その一環として、向こうは錬金術師達の暴走や悪事をさせないよう目を光らせるらしいと。ただ、表向きは国連組織と秘密結社が手を組むなんてのはご法度だから、その関係は内密であり知られないようにするとも。

 

 どうしてそうなったかいまいち分からなかったけど、シキがあの三人を絆して、そこからって事か。にしても、あのアダムって奴はどうして? 一度見ただけだけど、簡単にこっちへ協力しそうな感じには思えなかったけどね。

 

「あの、シキさん。あの三人が何故こちらと手を繋いだかは何となく分かりました。でも、あのアダムという人物は何故?」

「ああ、そっちはご想像の通り揉めに揉めた結果って感じ。一言で説明するなら、文字通り改心したってとこ」

 

 翼の疑問へシキは苦笑しながらそう返した。響達も似た表情をしてる。要は、詳しく説明すると長くなるからまたの機会って事かな。

 

「さて、そろそろいいかしら? ツヴァイウイングの二人も帰ってきた事だし、あの夜の続きじゃないけれどパーティを始めましょ」

 

 了子さんがそう言うと待ってましたとばかりにファラ達が動き出す。そこで思い出す。あたしらが全員揃ってたのは、あのクリスマスイヴの夜が最後だったんだって。

 勿論バルベルデに着いた時も揃ってたけど、あれは非日常。こういう気楽で明るい雰囲気の中で全員集合は、もう一か月以上前になるんだ。

 

「奏さん、翼さんもまずはコートなどを置いてきなさい。そして、手を洗ってくるのです。大丈夫とは思いますが、風邪を予防するには手洗いとうがいが肝要ですからね」

「分かりましたよ、マム」

「言われた通りにします」

 

 本当のお祖母ちゃんみたいな雰囲気になったマムに、あたしと翼は小さく笑みが浮かぶ。するとマムも笑みを返してくれた。これも、大きな変化だね。正直出会った時は、この人がこんな風に笑ってくれるようになるとか思わなかった。

 

「じゃあ、私達はスコアのみんなの手伝いだね」

「おさんどん、おさんどん」

「配膳なら任せろデス」

「はーい、私はテーブル拭きやりまーす」

「なら私も手伝うね」

「んじゃ、響と未来はテーブル拭きな。あたし達はどうする?」

「そうね……ならフォークとかの準備をしましょう」

「僕らは……」

「大人しく待ってる方がいい。夢子の相手は母さんとグランマがいるし」

「あら、いいのよ? 二人も一緒に夢子の相手をしてくれても」

「そうですよ。貴方達は夢子の姉なのですから」

「あの、それって今まで俺の役目だったんだけど……俺は何をすればいいんだ?」

 

 後ろから聞こえてくる声に、思わず笑みが浮かぶ。ホント、家族だね、これ。

 

「奏、私は今、本当に家へ帰ってきたって感じた」

「あたしもだよ。もう、ここがあたしらにとっての家なんだ」

「うん。早く、ここでみんなと一緒に暮らしたい」

「そのためにも、残ったステージ、全力で飛び回らないといけないね」

 

 揃って頷き合って、あたしと翼はまずコートとかを用意されてる部屋へ置きにいく。遠ざかる楽しげな声と雰囲気を寂しく思いつつ、そのあったかさの中へ帰ってきた事を噛み締めて……。

 

 

 

「かーきーくーけーこー」

「かーきーくーけーこー」

 

 我が家のリビングで展開される微笑ましい光景。赤ちゃん椅子に座る夢子へ、エルが五十音を教えているのだ。

 俺が帰ってきた日からまだ二日。だが、キャロルの言葉を借りるのなら「これまでの停滞を一気に取り戻すように」夢子は成長を再開していた。

 

「完全にか行は言えるようになったなぁ。切歌が喜びそうだ」

「ら行もすぐだと思う。私はきゃ・きゅ・きょ辺りが鬼門かも」

「あー、キャロル姉さんって呼んでもらえるのに時間がかかりそうって?」

 

 俺の問いかけに無言で頷くキャロル。その表情がどこか寂しげで、こう言ってはなんだけどちょっと可愛い。

 了子やマムもそんなキャロルに笑みを見せていた。それと、実は今、我が家には客人が来ている。正確には、まだ来ると表現するべきかもしれないけれど。

 

「まだ一歳にもならない赤子が、既に五十音とはなぁ」

「成長速度、本当に異常ですね。でも、要君とフィーネの子と考えると……」

「今となっちゃ、納得するしかないんだよなぁ」

 

 風鳴さんの言葉に友里さんと藤尭さんが共通意見を述べた。そう、今日はこの三人がお客さんとして来訪している。格好は、風鳴さんはいつものだけど二人が制服ではなく私服と言えば分かってもらえるだろう。

 つまり、S.O.N.Gの人間としてここにいないと言う証拠みたいなものだ。何故そんな風に思うかと言えば、それは後で来る客人達に関係しているとしか言えない。

 

「で、若い二人はそんな光景に余計子供欲しくなっちゃったでしょ?」

「……はい」

「いやぁ、シキを見てるとやっぱ家庭があるっていいなって思うんですよ。キャロルやエルも可愛い娘って感じで」

「実際可愛い娘なんで。あと、ないと確信してますけど嫁にはあげませんよ?」

「いや、さすがに俺もエルを嫁にとは」

「何故そこで私の名は挙げないの」

 

 藤尭さんの言葉にキャロルが若干不満そうな表情を見せた。きっと複雑な気持ちなのだと思う。だけど、やっぱりキャロルも女の子だ。エルの方だけ名前を挙げられるのは納得出来ないのだろう。

 

「いっ?! いや、だってまだエルの方が嫁さんになりそうって思えるだろ? キャロルは研究に一生捧げそうな感じだし」

「……そう言われると否定し辛い。でも、それならエルも同じだと」

「え、えっと、僕はちょっとだけお嫁さんに憧れあるんだけど……」

 

 キャロルの言葉を遮るようなエルの照れ混じりの意見に、リビングの誰もが目を見開いた。で、藤尭さんも意外そうな顔をする。あの、さっき自分でエルの方がって言いましたよね?

 

「そうなの?」

「うん。父さんと母さんを見てると、仕事をしながらでも幸せに夫婦生活って出来るんだって、そう思えるし。後、可能なら僕も子供へ色々と教えていきたいし教えてもらいたいから」

 

 天使のような微笑みで話すエルに、誰も何も言えなくなる。キャロルでさえ、色々と思う事はあるのだろうが無言でテーブルに突っ伏した。

 双子の姉として、妹の女の子らしい意見は胸に刺さるものがあるのだろう。にしても、エルがお嫁さんかぁ。

 

「……エル、絶対一度は俺に会わせてくれ。で、相応しくない奴なら俺がこの力でいてっ!」

 

 拳を握って神の力を収束させると、頭部へ痛みが走る。見れば了子が呆れた顔でこちらを見ていた。

 

「止めなさい。ったく、その力をそんな事に使おうとするんじゃないの」

「でもなぁ」

「それに、エルだってすぐにお嫁に行くわけじゃないし、そもそもまだそんな時期でもないわ」

「うん。僕もまだ子供です。結婚やお付き合いは、せめてもう五年ぐらいは先の話かなって」

 

 俺を見て苦笑するエルは、とっても可愛い女の子でした。何というか、初めて会った頃に比べると、本当に表情豊かな子になったもんだ。

 

「にしても、家庭か。いっそ、お前達で付き合ってみたらどうだ?」

 

 それは、風鳴さんなりの冗談だったのだろう。その表情はどこか笑っていたし。俺としても、友里さんと藤尭さんならそれを分かって何かリアクションをすると思った。だけど……

 

「俺達が……ですか?」

「付き合って……ねぇ」

 

 二人はお互いを見て、何というか微妙な表情。嫌ではないけど頷く事も出来ない。そんなとこだろうと思い、俺は了子へ目を向けた。

 

「了子、どう思う? あの二人」

「そうねぇ……よし、じゃあ試しにデートとかしてみればいいんじゃない?」

「「えっ!?」」

 

 満面の笑顔で言い放った了子へ、二人の驚く顔が返ってきた。俺もまさかの提案に言葉がない。風鳴さんだけは、どこか面白そうにしている。キャロルとエルは、何故か呆れ顔。マムは……静かにお茶を飲んでいた。冷静ですね、お義母さん。いや、これはあれだ。我、関せずってやつだ。

 

「ものは試しって言うじゃない。それに、どうせ二人して気になる相手もいないんでしょ? お見合いって手もあるけど、二人の仕事って色々大変で時間も不規則になりがちだし中々理解が得られない。そう考えるとアリなお相手よん」

「それは、そうかもしれませんけど……同僚って……」

「大体、職場恋愛って何かあまり良いイメージないんですが……」

 

 難色を示す友里さんと藤尭さん。ただ、ここで俺は気付いた。

 

「あの、二人して相手の事を何も言わないですけど、そこに不満はないんですか?」

 

 そう、二人が口にするのは状況や環境の事だけで、相手への不満などは一切ないのだ。まぁ、隣にいるから言い辛いってのはあるとは思うけど、友里さんならその辺りさらりと言いそうな気がするんだよなぁ。

 

「ふむ、そうだな。そこのとこはどうなんだ?」

「俺ですか!? いや、まぁ、美人だし仕事は出来るし気遣いや気配りも出来る。そんな彼女に俺なんかが文句や不満を言える部分はないですよ」

「あ、ありがとう」

 

 おや? 藤尭さんの言葉に友里さんが若干照れてる。もしかして、正面から本音で褒められる事に不慣れでらっしゃる?

 俺と同じ事に気付いたのか、了子がイイ笑顔を浮かべて頷いていた。これ、あれだ。完全に事の成り行きを楽しんでるやつだ。

 

「ふむふむ、じゃあ、そっちは?」

「え? そう、ですね。別に容姿が劣っているとは思わないですし、仕事も多少抜けている時はありますが、私にはない優れた部分もあるのは知っています。なので、不満などはないです」

「そ、そうか。……何か照れるな」

 

 あーあ、雰囲気が完全にお見合いだこれ。二人の間に座っている風鳴さんが仲介人にしか見えなくなってきた。

 それと、密かにマムとキャロルがテーブルから離れてエルと夢子の傍へと移動している。俺もそっちへ行きたいけれど、俺が動くときっと気付かれるので断念しよう。

 

「成程ね。じゃ、やっぱりデートぐらいしてみなさいな。どうせ仕事仕事で碌な出会いもないんだし、忘れかけてる若者らしい時間を過ごしてみなさい」

「忘れかけてるって……否定し辛いのが何とも」

「本当ね。デート、かぁ」

「俺なんてそんなの学生時代が最後だしなぁ。そっちは?」

「同じよ。というか、旧二課時代から今まででそんな時間取れなかったじゃない」

「そうなんだよな。片付けても片付けて別の仕事が」

「幸いノイズ関連はキャロルちゃんとの一件が始まる前から途絶えたし、アルカ・ノイズ関連も終息が予想されてるけど」

「それで俺達の仕事がなくなる訳じゃないもんな」

 

 聞いていると、完全に飲み屋のノリだ。ただ、隣の奥さんだけがニヤニヤしてる。風鳴さんはそっと椅子から立ち上がり、静かに夢子の方へと。

 それに気付かないまま、友里さんと藤尭さんは互いを見る事なく会話を続ける。愚痴と言うの名の、甘くもなんともない会話を。

 

「大体、二課時代もそうだったけど何でもこっちと思ってる感じがあるのよね」

「そうそう。少しでも超常的だとすぐ俺達だって感じなんだよな」

「上が政府から国連になってもそうなんだから堪ったものじゃないわ」

「ホントだよ。早く俺達がお役御免になるような世の中になって欲しいもんだ」

「……無理に等しいけど、私もそう思う。もしくは、ただ災害救助とかの任務だけがいいわ」

「戦闘管制が必要ない時代、か。理想って言うのは嫌だから目標って事にしとくか」

「そう、ね。いいと思う。理想じゃ、叶わないって言ってるようなものだもの」

 

 何というか、これはこれで悪くない雰囲気では? そう思って俺はチラリと了子へ目をやる。と、向こうと視線が合った。

 

「どう思う?」

「アナタは?」

「……多分一緒なんじゃないか?」

「そう。なら、そろそろ私達もあっちに行きましょうか」

 

 了子の意見に賛成。と言う事で俺達も夢子の傍へと移動開始。幸い二人は今や意識だけでなく視線も完全にお互いへ向け合っているため、こそこそとした俺達の行動に気付いていないようだ。

 

 そうして夢子の傍へやってくれば、みんなして疲れて眠る夢子を眺めていた。

 

「ん? ああ、要君達か」

「夢子、寝ちゃったのか?」

「ついさっき。さ行を言えるようになったところで私とエルが頭を撫でたら」

「笑ってくれたと思ったらすぐにコテンって感じでした。夢子も満足したんじゃないかと」

 

 キャロルとエルの発言で流れは理解出来た。夢子はお姉ちゃん二人に褒められて嬉しくなって、それで疲れが一気に出たのだろう。

 

「夢子も、きっと自分の成長を家族全員に見て欲しかったのでしょう。だから、シキさんがいなくなってしばらくしたところで、急に大人しくなったのではないかと思います」

「マムの言う通りかもしれませんわ。それにこの子、どちらかと言えば私よりもこの人に懐いていますし」

 

 言いながらこちらを若干羨ましそうに見てくる了子。だけど、俺は言いたい。それは了子があまりにも研究者の方を優先するからだと。

 思い出して欲しいが、夢子が先に呼んだのは父さんではなく母さんなのだ。つまり、やっぱり夢子も母親の方を好きなんだと思う。ただ、了子が仕事人間だから普段相手してくれる俺に懐いているだけなんだよなぁ。

 

 だから、夢子はガリィ達にも懐いてる。特にミカなんかは凄い懐かれようだ。そうそう、夢子が生まれるのと前後して、ミカはその手に改良が加えられた。

 これまではかぎ爪みたいな手だったので、それを平時は普通の手へ変化出来るように、キャロルが了子から義手の技術を教わって造り上げたのだ。

 おかげで今は洗濯だけでなく掃除なども手伝えるようになっている。マスターがくれたプレゼントだぞと、ミカが自慢げにはしゃいでいたのを昨日の事のように思い出せる。

 

「違うよ。夢子は俺の方がよく一緒にいるから懐いてるだけで、接してる時間が同じなら了子の方に軍配が上がるんだって」

「……だから、私はずっとアナタに負けちゃうのよ」

 

 どこか悲しそうに笑って、了子はそう言った。要は仕事より夢子とは絶対になれないと言う事だろう。

 

「だが、それも永遠じゃないと思うぞ? 何より、夢子君が大きくなってくれば、否応なく要君は、な」

「あー、ですねぇ」

「? 何か、あるの?」

「夢子が大きくなると、問題でも起きるんですか?」

 

 風鳴さんと俺の会話でキャロルとエルが揃って疑問符を浮かべた。そこで気付いた。キャロルには反抗期が来なかったのだろうと。いや、正確にはそんな時期まで父親と一緒にいられなかったのだ、と。

 

「女の子は成長してくると、基本的に肉親の異性と距離を取り始めるの。まぁ、近親での繁殖を避ける意味合いもある生物的な反応ね」

「で、大抵が匂いが嫌になるんだって。だから、夢子が遅くても十二歳ぐらいになったら距離を取られるんじゃないかな?」

 

 その言葉にキャロルが少しだけ遠い目をした。多分だけど、キャロルが父親と死別したのはその頃より少し前ぐらいじゃないかなと思う。

 根拠はキャロルの発育具合。第二次性徴前ぐらいじゃないかって思うんだ。女の子の場合、それは早くて十歳ぐらいだったはず。個人差があるからはっきりとは言えないけど、キャロルの場合は早くはなかったんじゃないかって。

 

「……パパは、そうなってたら狼狽えてたかな」

「だろうね。大抵の父親は娘に弱いから」

「アナタもね」

「間違いないよ。俺が何があっても生きて帰ると思ったのは、大事な娘達のためなんだから」

 

 言ってキャロルとエルの頭をそっと撫でる。揃ってくすぐったそうにするのが本気で愛おしい。今の俺を支えてくれる大事な、大事な存在の一部だ。

 

「それにしても、そろそろ時間になるな。向こうはここへどうやって来る事になっている?」

「司令達と同じで転送。座標は既に教えてあるから」

 

 その答えに風鳴さんがこちらを見た。きっとどうやってと思っているんだろう。そこについては可愛い次女から説明をお願いしようか。そう思って軽くエルの背中を押した。

 

「えっと、僕からプレラーティさんへ連絡をしました。ラピスの情報を教えていただいた際に、錬金術師としても科学者としても、それに人としても色々と教えて欲しい事があると思って連絡先を交換したんです」

「成程な。公人ではなく私人としてのやり取りか。なら、俺は何も言えんか」

 

 小さく笑みを見せて風鳴さんはそう言った。未だにパヴァリア光明結社とS.O.N.Gは表向き相容れない組織である。

 だからこそ、そこのトップや幹部達と繋がりを持っている事はあまり歓迎はされない。でも、それが私人としてのものなら大目に見ると、そういう事だ。

 

「マスター、お客様がお見えになりました」

「案内、地味に完了」

 

 と、そこへ聞こえてくるファラとレイアの声。振り向けば、そこには五人の客人達が揃っていた。

 

「やあ。お招きに与ったよ、こうして」

「シキ~っ! 遊びに来たよ~っ!」

 

 アダムに続いて淡いピンクのスーツ姿のティキが元気よく声を出すと、話しこんでいたのだろう友里さんと藤尭さんがそちらへ顔を向け、眠っていた夢子が目を覚ました。

 あ、夢子が起きた事でキャロルがムッとした顔をしている。これは不味い。そう思って俺はそっとキャロルの肩へ手を置いて小さく頷いておく。

 それだけでキャロルは俺のしようとしてる事を分かってくれたらしく、不承不承ながらも頷き返してその場に留まってくれた。

 

「ティキ、気持ちは嬉しいけどもう少し声を抑えてくれないかな? ここには赤ちゃんがいて、しかも今まで寝てたんだ」

「あっ、その、ごめんなさい。ティキ、そういう事まだ気付けなくて」

 

 申し訳なさそうにするティキを見て、俺はチラリとキャロルを見る。我が家の長女はティキの殊勝な態度にお許しを出すようにゆっくりと頷いた。

 

 そのやり取りを眺めていたアンジェ達が小さく笑みを浮かべているのが見え、俺はそんな彼女達へ笑みを返す。

 

「それと、アンジェ達も我が家へようこそ」

「ああ、邪魔している。それにしても……」

「私が関わったものとは思えない程、かなり変化しているワケダ」

「家、なんだもの。だからじゃない?」

 

 リオがこちらを見てウインク一つ。それに俺は笑顔で頷いて返事とする。にしても、今の以前よりも可愛くそして魅力的になってた。本当に見事なまでの女性となったって事なんだろうか。

 

「そういえば、プレラーティはシャトーの設計に携わってもらったっけ。その節はありがとう」

「……ど、どういたしましてなワケダ」

 

 微笑みを浮かべて礼を述べるキャロルにレティが面食らってた。まぁ、そうだろうな。家ではもうただのお姉ちゃんなキャロルだ。俺と言っていた姿しか知らないレティには驚き以外ないだろう。

 

「キャロル、お前はそんな話し方だったか?」

「家では夢子がいるから本来の話し方へ戻すんだって。乱暴な言葉遣いを夢子に覚えて欲しくないんだろうさ」

 

 俺がそう言うとキャロルが少し恥ずかしそうに小さく頷いた。そんなキャロルを見たアンジェが軽く驚き、そして優しく笑みを浮かべた。

 

「そうか。お前も、いや君もすっかり姉なのだな」

「……血の繋がりはなくても家族にはなれる。結婚がそうだもの。必要なのは、きっと想いなんだって、そう父さん達が思わせてくれたから」

 

 そっと俺の手に触れる小さな温もり。見ればキャロルが手を握っていた。と、残った手にも温もりが。そちらはエルが忘れないでくださいとばかりに握っている。本当に、俺の義娘二人は可愛いです。

 

「ま、そういう事らしいよ。俺も、親になるのに必要なのは思い込みだって分かったし」

「親となるには思い込みが必要、か。そうかもしれない」

 

 柔らかく微笑むアンジェには、初めて出会った頃の険が消えていた。おそらくだけど、理想から一種解放された事で肩の力がいい具合に抜けたんだろうと思う。

 

「キャロル、エル、悪いけどちょっと手を離してくれるかい?」

 

 アンジェとティキに夢子を見せてあげようと思って、俺は優しくキャロルとエルへ呼びかける。すると、二人も俺のしようとしてる事を気付いたのか、小さく苦笑して手を離してくれた。

 そっと夢子を抱き抱えると、その感じる重みがさらわれる前よりも増している事を改めて実感し、俺はたしかに流れた時間を感じ取って微妙な気持ちとなりながらアンジェ達へと近付いた。

 

「ティキ、アンジェ、この子が夢子だよ」

「へぇ、赤ちゃんってこんな感じなのね」

「……私を観察しているようだな」

 

 そう、初めて見る二人を不思議そうに見つめる夢子は、さながら二人を観察しているように見える。だが、やがて二人へ手を伸ばしたのだ。まるで、夢子が二人を歓迎するかのように。

 

「あー」

「えっと?」

「シキ、これは?」

「多分夢子なりの歓迎なんだと思うよ。二人が良い人だって夢子には分かったんだ。な?」

「あー」

 

 俺の問いかけに返事をする夢子にアンジェとティキが揃って驚きを表情に見せ、アダム達も感心したような顔を見せた。

 

「あの時も思ったけど、本当に賢い子ねぇ」

「ああ、まさかここまでとはな。想像以上なワケダ」

 

 特に、一度夢子の赤ちゃんらしからぬところを見たリオとレティは一層感心している様子が強い。

 

「驚いたよ、本当に。理解しているとはね、こちらの言葉を」

 

 アダムさえも微かに目元を緩めて夢子を見つめていた。本当に赤ちゃんの魔力は凄いようだ。改心したとはいえ、あのアダムにこんな表情をさせるとは。

 

「さて、場が和んだところでそろそろいいだろうか?」

 

 聞こえてきた声に誰もが視線を動かした。その相手である風鳴さんは、仁王立ちのような雰囲気を漂わせてアンジェ達を、特にアダムを見つめていた。

 それを受け、アダムも表情を普段のものへと戻し帽子を外した。それが、風鳴さんには意外に思えたのだろう。小さく「ほう……」と呟いた、ような気がする。

 

「そうだね。始めようじゃないか、この集まりの目的を。ティキ」

「うんっ!」

 

 アダムに呼ばれるや、ティキが待ってましたとばかりに返事をする。でも、最後に夢子へ小さく手を振る辺りにティキの可愛らしさが出てた。

 

 そのままティキはとことことリビングの中央辺りへ移動すると、少しだけ上を向いて動きを止めた。そして瞬時に凄い星空が展開される。その光景に藤尭さんと友里さんから感動するような声が漏れ、風鳴さんでさえも感心するような顔をしていた。

 

「……見てくれるかな、星空を。分かるだろう、一つだけ目立つものが」

「…………南極点、か」

「どうやら完全なる神の力が錬成された事を受け、眠っていたカストディアンが目覚め始めたらしい」

「完全覚醒まで時間はないみたいなのよ。で、出来ればそちらにも南極まで来てもらいたいの」

「そちらが動ける理由として、南極でアルカ・ノイズを出現させる。ただし、それは我々ではなく他の錬金術師だ。組織内の過激派、といった者達なワケダ」

 

 アンジェ達の言葉に誰もが息を呑んだ。決戦の場所が場所なら、そこへ向かう口実も口実だからだろう。要は、一種の制裁だ。いや、この場合は生贄でもいい。

 過激派という事は、その錬金術師達はアンジェ達と違って世の中を急激に変えたい、あるいはもっと私欲に塗れた行動を考えているのだ。

 

「神の力に匹敵するものがあると、そう教えるの?」

「いや、それじゃさすがに向こうも疑うはずだ。きっと、教えるんじゃなく流出するような形にするんじゃないか?」

「流石はS.O.N.Gの中枢にいるだけあるわね。ま、そういう事よん」

「局長との話し合いを意図的に奴らの一部へ聞かせてある。幸か不幸か、私達幹部三人がシンフォギアに負けたと、そう奴らは思っている。故に、今回の事を利用し地位も狙っているはずだ」

「な、何というか見事なまでにお約束な思考をしてる奴らだな」

 

 藤尭さんの呆れた声に俺も頷く。絵に描いたような悪役思考だ。でも、だからこそアンジェ達もこういう形での行動をとったのだろう。

 

「ああ、してくれていいよ、安心は。彼らを殺す事はないようにするさ、全力で」

「それと、キャロル、可能ならばそこで見せてくれないだろうか?」

「何を?」

「……アルカ・ノイズを制御出来るのだろう?」

 

 そのアンジェの言葉に、キャロルが驚いた後で小さく笑みを浮かべた。何というか、まだ俺と言う錬金術師の顔は消えてはいないみたいだ。

 

「……いつ気付いたの?」

「つい最近だ。君と戦った際に言われた言葉が切っ掛けでな。私達の使っているアルカ・ノイズも君からの流用だ。そこで、ふと思った。もし自分ならそれを差し向けられた時の事を考えないか、と」

「それで調べたのよ。ただ、当然だけど簡単じゃなかったわ」

「私達も最初から疑いを持たなければ見逃す程の、だが確実な細工だったワケダ。まさか命令系統に仕込まれているとは……」

 

 三人の言葉にキャロルが嬉しそうに笑みを深めていく。うん、完全に俺モードのキャロルだ。ただ、何故か隣のエルが苦笑しながらそんな姉を見つめている。エルとしては、こっちのキャロルの方がなじみ深いもんなぁ。

 

「それで、そこに気付いたのだから当然改良したんでしょ?」

「いや、していない。正確には、するのは困難だった」

「そこへ手を加えると、今度はアルカ・ノイズへの命令が不可能になる。いや、オリジナルのソロモンの杖でもあれば別だったかもしれないが、現状でそれは無理というワケダ」

「というか、それを知ってるからキャロルはこっちへアルカ・ノイズを渡したのでしょ?」

 

 最後によく出来ましたとばかりに頷き、キャロルは風鳴さんへ目を向けた。

 

「司令、どうやらパヴァリアの上層部は、アルカ・ノイズの脅威を世界に知らしめると同時にその無力さも示すらしい。その提案、乗るか否か」

「うむ、向こうからの折角の申し出だ。精々高く買わせてもらおうじゃないか」

「よろしく頼むよ、本当に。さて、もういいよ、ティキ」

 

 アダムの声で星空が消え、いつものシャトーの風景が戻ってくる。と同時にティキも普段の雰囲気へ戻った。

 

「ね、ティキの星空どうだった?」

「えっ? えっと、とても綺麗だったわ」

「そっか! ね、貴方は?」

「俺? 同じだよ。今までで一番凄い星空だった」

 

 友里さんや藤尭さんの言葉でティキが凄く嬉しそうな顔を見せていた。で、こちらへ振り向いて笑みを見せてくれたので、俺も小さく頷いておく。約束、果たせたようで何よりだ。

 ただ、響達がいればもっとリアクションが大きかっただろうな。よし、きっと今日もここへ顔を出すはずだ。なら、その時にもう一度ティキのアレを見せてもらおう。

 

「それにしても、立花響達はいないのか?」

「ああ、響達学生は学院で、マリアとセレナは揃って買い物。ツヴァイウイングは次のライブに向けて軽くレッスン」

「そうなのね。じゃ、タイミング悪かったかしら?」

「そうでもないわ。まさかとは思うけど、今日このまま帰るつもりじゃないでしょ? ディナー、食べていきなさいな。マリアとセレナの買い物は、そのための買い出しなのよん」

 

 了子の言葉にアンジェ達三人が驚くも、残る二人はそうでもないようで……

 

「お言葉に甘えようか、遠慮なく」

「わーいっ! ティキ、今の体になってから食べるの大好きっ! ねっ! ねっ! どんな食事?」

 

 と、このようにすっかり腰を落ち着けたのでした。ちなみにティキの質問にはミカが応じた事を記す。気質が似てるためか、すぐに意気投合していたのも追記。

 

 ……さて、これは俺も荷物持ちとしてイヴ姉妹に合流するべきだな。多分だけど、意外と食うぞ、ティキとアダム。

 

 

 

 その夜、シャトーは今までで最大の来客数を迎えていた。アダム達五人に加え弦十郎達三人と響達も晩餐に参加していたためである。

 当然テーブルには所狭しと料理が並べられ、スコア達が給仕や配膳にと忙しく動き回る中、響と切歌はティキと一緒になって運ばれてくる食べ物に舌鼓を打ち、それを見て笑みを浮かべるアダムと弦十郎がいた。

 サンジェルマン達三人へは、奏と了子がいつかの未来を見据えた話を振って驚かせ、あおいと朔也は夢子と触れ合って微笑むナスターシャとキャロルやエルの姿に、より家庭を持つ事への想いを募らせる。

 翼はマリアとライブの事について意見を交わし、未来と調は相方とも言える二人を見て苦笑しながらもその輪へ混ざり、セレナはクリスから卒業後の事を聞いて若干羨ましがっていた。

 

「……賑やかだなぁ」

 

 一人シキはそんな様子を離れた場所から眺めていた。どこを見ても笑顔があり、平和や幸せといった表現が浮かぶ程である。

 それを作り出した立役者の一人である彼だったが、生憎とその自覚は希薄と言えた。何故ならば、彼はこれまで自分自身が強く変化を促したという自覚を持つ事がなかったからである。ただし、今回のパヴァリアとの一件はその限りではなかったが。

 

(クリスに始まり、了子とフィーネ、マリア達にキャロル達、そしてアンジェ達か。もしかしたら、その中の何人かは、ここにこうしていなかったのかもしれない……)

 

 最初は敵対した者達。それを響が中心となって手を伸ばし続けた結果、シキの目の前に広がる光景へと繋がった。そうシキは思っている。その裏に、自身の能力や関与が必要不可欠であると思わずに。

 

「シキ」

 

 感慨に耽っていたシキへ、サンジェルマンが紙皿を片手に近付いてきた。その上には誰かに盛られたのであろう多めの食べ物がある。断り切れなかったのだろうと思い、シキはそれも含めて笑みを零した。

 

「アンジェか。楽しんでもらえてる?」

「ああ、こんな賑やかで楽しい晩餐は初めてだ。過去にもこういう大勢での晩餐を経験したが、ここまで幸福感を感じる事はなかったから」

「そっか。いつか、これを君の日常にしたいんだけど、どう?」

「……それはとても嬉しい。私としても、こんな温かい居場所に身を置きたいと思う。でも、まだ無理だ」

 

 そう返してサンジェルマンはシキへ視線を向ける。その眼差しはどこか悲しみを宿していた。

 

「私には、やるべき事がある。それを終えるいや、一区切りつけるまではパヴァリアの一員でなければならない」

「うん、分かってる。俺はいつまでも待ってるから。みんなも、アンジェ達ならって言ってくれるだろうし」

「ふふっ、そうか。ああ、そうだ。カリオストロとプレラーティも私と同じ気持ちだ。それと、今夜は自室として用意してくれるという部屋を使わせてもらう。いつか、そこを本当に自室としたいものだ」

「何ならそうしてみるかい? ここから毎日出勤するって感じで」

「えっ?」

 

 シキの提案に無意識な反応を示すサンジェルマン。その表情はどこかあどけなく、また愛らしさを持っていた。だからだろうか、シキも笑みを深めて彼女を見つめた。

 

「ここを住まいにしたってパヴァリアの幹部ではいられるだろ? 今日だって転送してきたんだ。なら、逆をするだけさ」

「……そう言われればそうだが」

「住まいって表現に引っかかりを覚えるなら、体験居住って事でどう? あるいは居候でもいい。リオやレティにも相談してくれるか? ここなら、毎日誰かがいて、送り迎えをするよ」

 

 その最後の言葉にサンジェルマンは小さく驚き、やがて嬉しそうに笑みを浮かべて噛み締めるように頷いた。幼い頃、まだ彼女の母が存命だった時の事を思い出したのだ。

 おかえりとただいま。たったその二言だけでも人は安らぎや温もりを覚える。それをサンジェルマンも知っていた。故に彼女はどこか上機嫌でシキから離れ、カリオストロやプレラーティへ話をするべく動き出す。

 

 その背を見つめ、シキは微笑む。何故なら、その背は途中で響に呼び止められ、笑みを見せて話し始めていたからだ。

 

「……アンジェ達もここで暮らすってなったら、俺の体持つかな?」

 

 かつてであれば欲望だらけの独り言も、今の彼には冗談の類となる。勿論シキもサンジェルマン達と今後も交わっていきたいと思っている。だが、それよりも彼女達を幸せにしたいと思っていたのだ。

 響達が望む願い。それと同じものを三人も抱いてくれていると察して。それは、子を持つ事。自らの腹を痛めて産み落とす、最愛の人の血を継ぐ存在。

 

「野球チーム、本当に出来るなこれ」

 

 いつか話した夢物語。その夢が、また一段と現実味を帯びる。しかも、その夢には新しい登場人物達が加わって。

 上と下で分かれて戦う子供達と、チアをする装者達に売り子をするスコア達。それぞれ分かれて応援を送る義父義母達に、主審としている了子ことフィーネ。そして、塁審として参加する錬金術師の三人だ。

 

「どうした、そんな顔をして」

 

 来るかもしれない未来を想像して微笑むシキを、フィーネが不思議そうに見つめていた。

 

「ん? ああ、ちょっと先の事を考えてた。子供達での野球対決」

「……そうか。やはりアナタは変わっているな。近く恐ろしい相手と事を構えると言うのに」

 

 シキとは対照的にフィーネはどこか浮かない顔をしている。それもそうだろう。何せ相手はカストディアン。彼女からすれば神そのものだ。恋い焦がれた相手ではないが、それでも畏怖の念を持つには相応しい相手と言えるのだから。

 

「フィーネは、未来が暗いと思う?」

「思いたくはないが、思ってしまう事もある。創造主というのを間近で見た事のある私にとっては、な」

「そっか。じゃあ……」

「えっ? あっ……」

 

 優しく抱き寄せられるフィーネ。その温もりと頼もしさに、彼女は自分を抱き締める最愛の相手を見つめた。

 

「シキ……」

「不安が和らぐように、こうする。君だって俺の大事な人なんだ。だから、出来れば笑っていて欲しい」

「……まったく、本当にアナタと言う人は。こうやって女の心をくすぐっていく」

 

 呆れつつも嬉しそうに告げ、フィーネはその体をシキへと預けた。誰かにもたれる。それをシキと結ばれるまで知らずにきたフィーネ。故に、今の彼女は分かっていた。もう自分に転生したいという欲求はないと。

 

(あの方は、シキと私の事を喜んでくださった。そこにあったのは、愛だと、思いたい。愛する相手が幸せになってくれた事。それを喜ぶ気持ちを、今の私は知っているのだから……)

 

 遥かな昔に愛した存在。それが伝えてくれた言葉は、フィーネの望むものではなかった。だけど、感謝を抱くものではあった。先史の巫女の初恋は破れたが、その恋は間違っていなかったと思えるような、そんな言葉をもらえたのだ。

 

「シキ」

「ん?」

「櫻井了子は一人産んだが、私は産んでいない」

「……分かった。了子もそこは分かってくれるよ。入院や通院する時だけ、フィーネでいてくれ」

「ああ、分かっている。……ありがとう、アナタ」

 

 統一言語がなくても想いを告げられ、例え全てを言わなくても通じ合える。それにフィーネは笑みを浮かべた。そう、彼女は今はこう思っていた。想いを告げるのに必要なのは、統一言語ではなくほんの少しの勇気なのだと。

 

―――思えばあの方も私もそれがなかった。踏み出す勇気。それこそが、本当の統一言語の第一歩なのかもしれない……。

 

 

 

「……そうか。申し出を断るとな」

 

 静かな武家屋敷の一室で、八紘はある相手と対面していた。年齢だけで言えば老人も老人と呼べるであろう、そんな相手と。

 

「はい。翼の想いを汲み、自分などを風鳴へ受け入れてくれるという事は非常に感謝していましたが、特定の家と親しくなるを良しとしない考え方を持つ男ですから」

「そういえば、その者は複数の女子と関係しているのだったか。ふむ……」

 

 八紘の言葉でシキの情報の一部を思い出したのか、老人―――風鳴訃堂は腕を組んだ。彼としては、正直シキの持つ神の力の器たる能力さえ継いでくれる存在さえいれば良かった。

 例えそれが風鳴の血を持たずとも、ならばその器を扱う風鳴の者がいればいいと考えて。そうなった時、訃堂はしたり顔を浮かべた。

 

「よかろう。ならば、その者を入り婿とするのは止めておく」

「そうですか」

 

 意外だ。そうどこかで八紘は感じていた。彼は自分の父がどういう男かを知っている。その在り方は、護国の鬼であり、そのためならば手段は択ばない存在だと。

 だからこそ、シキが見せた神の力へ注目し、それを手にするべくこれまで歯牙にもかけなかったシキへ意識を向けたのだから。

 

「代わりに、翼との間に早く子を成せと伝えよ。それも一人ではない。多ければ多い程いい」

「……既にご存じかと思いますが、彼はその能力故妊娠させ難い体質で」

「故に早くと言うておる。翼も、歌を歌う暇があるのなら惚れた男と子作りに励めと言っておけ。今のお前に出来る護国への献身はそれのみと」

 

 告げられたのは、翼の夢や誇りを無視する発言。更にシキと翼の気持ちなども考えない内容である。八紘はそれに怒りを覚える事もなく、ただただらしいと思うのみだった。

 怒ったところで目の前の鬼が考えを変えるはずもなく、下手をすればより一層酷い事を言い出しかねないと分かっていたからである。

 

「……分かりました。伝えましょう」

「伝えるでは足りん。分からせよ」

「可能な限り善処いたします。が、あまり彼を、シキ君を怒らせない方がいいかとも存じます」

「ほう?」

「神の力を宿した彼が、もし風鳴へ敵対心を抱けば翼は確実に風鳴を捨てます。そうなれば神の器は永遠に風鳴から遠ざかるでしょう」

「ふん、そんな事か。例え神の器だろうと、この国を護る大義の前には道具同然。その怒りなど飲み干してくれる」

 

 聞く耳持たず。そう思って八紘は目を閉じた。そして、同時にこうも思うのだ。

 

―――この鬼を変えられるとすれば、やはり彼自身が会うしかないかもしれん……。

 

 風鳴八紘。彼もまた、シキと出会い、娘との関係を変えてもらった経験を持つ者。更に、翼の出生を聞いて尚も自身を翼の父と断言したシキの心に触れ、完全に認める事が出来たのだ。

 彼になら翼を預けられる。父として、嫁に出しても構わないと。風鳴という呪われた家。そこから飛び立つ翼を、見送る事になってもいいのだと、そう強く思えるように。

 

 同じ頃、遠く南極の地で静かに蠢く胎動があった。今は分厚い氷に閉ざされて、その鼓動は知られる事はない。だが、それは確実に響き始め、鳴り渡る時を待っていた。

 

 物言わぬ神を、その奥に隠して……。




遂に姿を現す神の棺。その力を我が物とせんとする錬金術師達と、それを止めようとするアダム達。
世界中にアルカ・ノイズという絶望が示される中、遂にキャロルの仕掛けた仕組みが絶望を食い破り希望を生す。
遂に手を取り合った九人の装者と四人の錬金術師。それでも、神の棺は堅牢であり強靭であった。
そんな中、シキは本部内で拳を握り歯を食いしばってモニタを見つめる。その身に宿した力を、振るえずに……。
次回、淫姫絶頂しないフォギア「AXZ(Alive X-factor Zenith)」

死を灯して、(とこしえ)に輝け。
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