※この作品はR-18です。

淫姫絶頂したいフォギア   作:拙作製造機

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立花響

ガングニールの装者にして神殺しの力を持つ少女。
ツヴァイウイングのライブを観に行った事でその人生を変える事になったが、それは後に多くの者達の運命を良い方向へ変える力ともなった。
現在は最上級生となるべく学院の課題を全て片付ける事へ最速で、最短で、まっすぐに、一直線に邁進中。
夢子と八紘の邂逅を見て、成人前に子供が欲しいと思い出している今日この頃である。


小日向未来

神獣鏡の装者であり響から陽だまりと呼ばれている少女。
少々響へ重たい愛を向けていた彼女だが、それ故にシキのハーレムへ加わった後はそれを隠す事なく響へぶつけ、その重たさを払拭する事に成功している。
現在は共に最上級生となるべく響を支え、その学院生活にとってなくてはならない存在となっている。
八紘と夢子の触れ合いから、シキによる両家の説得失敗時には初孫を抱かせるという手段しかないと思い出している。


雪音クリス

イチイバルの装者であり要家の隠れた母的存在の少女。
幼い頃のトラウマから孤独になる事を恐れており、またファザコンとマザコンの気も秘めている。
それを埋めてくれたシキとフィーネに感謝しつつも、表面上はまだ素直になり切れず密かに頭を抱えて悩んでいる時がある。
現在は卒業を控え、要家への引っ越し作業をいつ終わらせるかを計画中。
ママになりたいというのが、今の彼女のもっとも早く叶えたい夢である。


Penny Dreadful?

「みんな揃ってるから聞いて欲しいんだけど、実はアンジェ達と出会う前から我が家全員で伊豆へ旅行に行こうって計画があるんだ」

 

 八紘さんを迎えた翌朝の事、俺は朝食を食べるべく集まったみんなへそう切り出した。そのため、全員の手が見事に止まった。

 奏達は勿論アンジェ達やヴァネッサさん達でさえも食事を食べる手を止めてこちらを見ている。

 

「それで、もし良かったらアンジェ達も参加して欲しい。あ、ヴァネッサさん達は勿論参加だよ。留守番はいらないからね」

「ほ、ホントでありますか?」

「ウチらはここの住み込み家政婦なんだろ?」

 

 エルザちゃんとミラアルクちゃんが軽い驚きを浮かべたまま俺を見てくる。そうだろうなとは思う。だけど、ここへはセールスも来なければ来客だって無断では来ないからなぁ。

 

「そうだけど、それと同時に家族みたいなものなんだよ。だから、三人も来て欲しいんだ」

「そうよん。それとも、三人は私達と旅行行くの、嫌かしら?」

「そんな事ないであります!」

「そうだぜ! むしろ置いていかれる方が嫌ってもんだ!」

「うふふ、そういう訳なので私達としては喜んで参加させてもらいます」

 

 エルザちゃんの声はとっても気持ちの分かるものだった。ミラアルクちゃんも大分素直な物言いで助かる。で、ヴァネッサさんは二人の姉を自称するだけあってその気持ちを綺麗にまとめてくれた。

 

 なら後はアンジェ達だな。そう思って視線を向ければアンジェ達は笑みを浮かべていた。

 

「私達としても拒否する理由はないわ」

「むしろ楽しみにしちゃうくらいよ。仕事抜きの旅行なんて、初めてじゃない?」

「初めても何も、これまで仕事抜きでの行動など皆無なワケダ」

「思い出した。そういえば昔からアダムにこき使われたっけ」

 

 キャロルの言葉にアンジェ達が深く頷いた事で何とも言えない空気となる。同情するべきか、あるいは茶化すべきかと。

 

「ちょっとマスタぁ。どうすんですか、この空気」

「わ、私のせい?!」

「以外にないゾ」

 

 ガリィとミカに指摘され、キャロルが困った表情でこちらを見てきた。はいはい、なら父親らしく場の空気を変えるか。

 

「じゃ、全員の参加も決まったところで食事にしようか。みんな、手を合わせて」

 

 俺がそう言った瞬間、どこからともなくクスクスとした笑いが起きる。ま、誰もが分かってるんだ。俺がキャロルの眼差しに負ける形で食事を開始しようとしてるのを。

 

 それでもみんなは手を合わせてくれた。キャロルも少し恥ずかしそうにしながら手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 俺の声を合図に全員の声が重なる。見ればお義母さんさえも笑っていた。それにしても、こうなってくるともう一つテーブルが必要だな。

 このままじゃ子供が生まれてくると確実に椅子なんかも足りない。昨夜のみんなを思い出せば、最低でも十二人子供を作る事になる計算だし。

 

 と、そこでふと思い出す事がある。十二人の淫姫達へそれぞれ一発ずつ中出し(神の力仕様)を決めた後、ちょっと喉が渇いたので水を飲もうと部屋の外へ出た時の事だ。

 

 ドアを開けると足元が軽く滑ったんだよ、ヌルって感じで。何だと思って見てみたら、確実に油とかではない液体がそこにあった。

 で、恐る恐る触ってみれば、何の事はない。俺がそれまで触れたり舐めたりしていたものだと分かった。

 

 ただ、誰の愛液か、なんだよなぁ。確実に了子やエルにキャロルは除外されるし、ファラ達スコアも同様。

 

 となると残るはヴァネッサさん達なんだけど、エルザちゃんなら隠し事下手そうだから朝普通に挨拶出来た事でセーフ。

 ミラアルクちゃんは隠せそうだけど、ああ見えて意外と鋭いから愛液を残したまま逃げるって事もないだろうし、何よりもしあれを見たのなら俺への当たりが強くなりそうなのでセーフと見てる。

 

 まぁ、ヴァネッサさんが今朝俺を見るなり少し目を逸らしたので、十中八九彼女だろうと踏んでいるんだけどね。

 

「あ、そうだ。旅行に関連してなんだけど、アンジェ、アダムとティキにも声をかけてもらえるかな?」

「局長とティキも誘うのか?」

「最初こそ家族旅行って感覚だったけど、こうなってくると慰安旅行にしようかなって。家族旅行は、また別に機会にするよ。その旅行、ツヴァイウイングとマリアの慰労も兼ねるんだ」

 

 納得するように頷いてくれるアンジェだけど、どうも納得いかない部分が他の二人はあるようで……

 

「それはいいけど、折角の旅行に局長を呼ぶのぉ?」

「ティキはともかく局長は正直気が乗らないワケダ」

「散々だよな、お前らのアダム評。ま、分かるけどよ」

 

 リオとレティが露骨に嫌そうな表情を見せ、クリスが呆れた表情で突っ込む。それにヴァネッサさん達以外が苦笑した。

 これも結構見慣れてきたやり取りだしなぁ。で、それに見慣れていないヴァネッサさん達はむしろ驚きの表情を浮かべている。

 

「ま、まさか統制局長とまで親しいなんて……」

「ホント、シキが分からないぜ」

「凄いのであります……」

「そうか、ヴァネッサさん達は知らないですもんね。アダムさんが組織の改革をする切っ掛けは父さん達と戦ったからなんです」

「「「え?」」」

 

 エルの言葉に三人の声と表情が揃う。うん、中々見れない光景だな、これ。

 

「ああ、そうだった。今更だけど三人を元に戻した力に関して誰にも言わないように。それと、その事に関して話していい場所は基本ここだけだって覚えておいてね」

 

 神の力に関しての口止めをしておこう。思えばまだそういうのちゃんと言ってなかった。まぁ、現状三人がここを出るのは買い物の時ぐらいだろうけど、念のためってやつだ。

 

「あ、はい。それは分かっています」

「だぜ。何せとんでもな力だしな」

「それに話すような相手もいないであります」

 

 その三人の言葉でリオが呆れた表情をこちらに向けてきた。言いたい事は何となく分かる。

 

「呆れた。シキ、神の力の事口止めしてなかったの?」

「「「神の力?」」」

「今、シキ以上の失態をカリオストロが犯したワケダが?」

「ふふっ、そう言ってやるなプレラーティ。カリオストロもここでは気を抜いていられるの。貴方も私もそうであるように、ね」

 

 しまったとばかりに表情を変えるリオをほくそ笑みながら横目で見るレティ。そんな彼女に苦笑しながらアンジェが告げた言葉。それに俺だけでなく誰もが微笑む。

 特に笑みが深いのは響だろうか。アンジェ達と一番ぶつかり合い、その手を繋ぎたいと願い続けていた響だからこそ、今のアンジェの言葉は胸に響くんだろう。

 

「まぁ、ここまできたら説明しようか。ただ、要点だけ。俺は、ある事を切っ掛けに神の力って呼ばれるものを得た。でも、それは表向きなくなった事になってる。だからここ以外の場所では話題にしないで欲しい。以上」

「クスッ、はい、分かりました」

「そのある事ってのが気になるけど、今は時間もないしまた今度聞かせてくれるんだよな? ……ならいいぜ」

「他ならぬシキさんのお願いであります。絶対守るであります」

「ありがとうヴァネッサさん、ミラアルクちゃん、エルザちゃん」

 

 これで全員での会話は終了。そこからはそれぞれが会話などをしながら食事を進めた。

 今日学生組は休みなので食事を終えたら五人で遊びに行くそうだ。クリスが引率役となってワイワイと賑やかな時間を過ごす事だろう。

 マリアはボイトレの後で本部内にてトレーニングらしい。翼と奏もそれに付き合うそうで、ドライディーヴァは仲良しである。

 セレナは自宅へ帰って掃除や洗濯をするとの事。お義母さんも勤務後は自宅で過ごすらしく、F.I.S組は今夜勢揃いで過ごすようだ。

 アンジェ達はどうなるか分からないが可能な限りここへ戻ってくるらしい。こうなると夕食はカレーにでもした方がいいかもしれない。あっためるだけで食べられるからな。

 

 そして賑やかな朝食も終わりを迎え、後片付けをファラが中心となってエルザちゃんとミラアルクちゃんが行う中、ガリィとヴァネッサさんが掃除へと向かう。ミカは洗い終わっているだろう洗濯物を干すために動き出し、レイアはテーブルを拭き始める。

 キャロルとエルは若干慌てて本部へ向かうも、ちゃんと夢子へ行ってきますと言う辺りが非常に可愛い。了子はそんな二人に苦笑しつつ夢子へ行ってきますと告げてお義母さんと揃って本部へ。

 で、アンジェ達も夢子へ挨拶して協会本部へと出かけて行く。響達はそれぞれの部屋へと向かい、お出かけの準備をしてから揃って出て行くらしい。

 

「それにしても、家は華やかだなぁ」

「そうだね。ただ、もう少し男がいてもいいとあたしは思うよ?」

「そうね。元気な男の子、とかかしら?」

「シキさん似の男の子、欲しくありません?」

「この家の跡継ぎとしても、一人ぐらい男児がいた方がいいですよ?」

 

 年長組四人が昨夜の余韻を見せるように言い寄ってくる。うん、だが今の俺は父親モード。なのでそんな誘惑には負けないのだ。

 

 少し負けたくはあるけどね。

 

「はいはい、気持ちは嬉しいし同意するけど、今は朝でそっちにも予定があるんだろ? 男の子云々はまた今度だ。それに、ちゃんと言っただろ? 二人きりの機会を作るって。可能な限り、早く作るから。特に君達はね。正直、昨日の夜で俺もその気になってるんだ。旦那として、奥さんの望みは叶えてあげたいんだよ」

「シキ……嬉しいわ」

「それでこそだ。うん、さっすがあたしの見込んだ男!」

「あ、あの、出来ればドレスだけでも着させて欲しいです!」

「それなら私もです。白無垢姿をお父様に見せてあげたいので」

「ちょっ、言いながら体をすり寄せないの。セレナ、手を胸に這わせるの止めなさい。翼もだ。上目遣いもなし。奏とマリアは胸を押し当てない。ああ、もうっ! 夢子が見てるんだぞ!」

「う~?」

「「「「っ?!」」」」

 

 夢子が若干不思議そうな声を出した瞬間、四人が一斉に背筋を伸ばした。やれやれ、どうやら神の力の威力が凄いらしい。いつもなら一番自制心を働かせる年長組が、揃いも揃って発情状態なのだ。

 今も夢子によって若干気を削がれたようだが、それでもまだどこか色気というかフェロモンというかを漂わせて、未練がましくこちらを見ているのだ。

 

「その、俺も嬉しいし出来る事ならそうしたいけど、時と場所を考えないか? いくら何でもここはないだろ」

「そう、だね。ごめん。ちょっとどうかしてたよ」

「ごめんなさい。今のシキだと、前以上に甘えてしまいたくなるの」

「うん、今のシキさん、とても頼もしく思えるから。その、ごめんなさい」

「ごめんなさい。でも、私達は決してエッチをしたくて寄り掛かった訳ではない事を分かってくれると嬉しいです」

 

 揃ってシュンとしょげる四人が愛しくて、俺は小さく苦笑するとその体を優しく抱き寄せた。すると四人がそっと俺の服を掴んでくる。何と可愛い奥さん達でしょう。

 

「そっちの気持ちは十分分かってるよ。エッチが目的じゃない事だってね。だから、今はこれで我慢して欲しい」

「「「「うん(はい)(ええ)」」」」

 

 俺の腕の中で嬉しそうに微笑む四人の女神。その温もりと香りに包まれ、俺は幸せを噛み締める。あー、学生組とは違ったハーレムでいいな、これも。

 そう思いながらも決して手を動かすつもりはない。正直おっぱいや尻を触りたいけど、今それをやったら色々台無しなので我慢我慢。

 

「シキさ~んっ!」

 

 と、そこへ響達五人が姿を見せた。どうも出かける前に挨拶へ来てくれたようだ。でも、当然その表情が一瞬にして曇る、というか拗ねる。

 

「何してんだよ、先輩達」

「セレナとマリアもデス」

「いいでしょ、別に」

「わ、私達だって甘えたい時ぐらいあるんだから」

「それはそうかもですけど……」

「ズルいですっ!」

「響さん、はっきり言う辺りさすがです」

「はいはい。なら、あんた達もくっつきな」

「ああ、今のシキさんなら全員を抱き止める事など造作もないはずだ」

「ちょ、ちょっと翼?」

 

 翼が少しだけ悪戯っぽく笑ってそう告げた瞬間、響達がならばとばかりに俺へ抱き着いてくる。さすがにこれは不味いと思って全力で踏ん張る。

 同時に淡く輝く俺の体。うん、きっと世界で一番無駄な神の力の使い方だな、これ。そう思うも、こうしないとさすがに九人の奥さん(予定も含む)を支える事は今の俺には無理というもの。

 

 にしても、これじゃあ抱き締めるというよりは抱き着かれるだな。テーマパークのマスコットにでもなった気分だよ。

 

 でも、うん、幸せだ。思えば、この九人が俺の馬鹿げた夢の出発点なんだ。

 あの引っ越し祝いの日。あの時の光景を、時間を、日常にしたいと思った事から始まった、今の状況。気付けばもっと奥さんが増えて、子供まで持って、家族が出来た。

 

「みんな、今、幸せ?」

 

 だから問いかけた。俺は幸せだけど、みんなは、装者の九人はどうなんだろうって。不安はあったけど、もし否定されたら頑張らないといけないし、肯定されたらそれを維持しないといけない。

 どちらにせよ俺の指針となり励みになる。そう思えるからこそ敢えて尋ねた。すると、俺の気持ちを知ってか知らずか、九人の女性達はまるで示し合わせたかのように同じような表情を浮かべたのだ。

 

―――どっちだと思う(デス)?

 

 これには降参するしかない。要は、俺が自信を持って幸せに出来ていると思えるようになれって事だ。本当に俺を良い意味で甘やかしてくれない奥さん達だこと。

 なので俺は天井を見上げて息を吐くと、両腕で抱き締められるだけ抱き締める。そう出来ない奥さん達は、後で抱き締めよう。

 

「俺は何があってもみんながいれば幸せだ。だから、可能な限りみんなも幸せにしていくよ。その笑顔を、ずっと見ていたいから」

 

 言い終わって俺はそっと腕を放して体を動かそうとする。その目的が分かったのか、みんなが少しだけ離れて向きを変えられるようにしてくれた。

 で、さっき抱き締められなかった背中側を抱き締めて、俺は最後の一言を彼女達へ届ける。

 

―――みんなが、俺の出発点なんだからさ。

 

 そう言った瞬間、無言で密着度が上がった。そしてそのまま、俺達は洗濯物を干し終えたミカに声をかけられるまでそうしていたのだった。

 ちなみに、ヴァネッサさん達は空気を読んでキッチンで見ない振りと聞かぬ振りをしていてくれたらしい。そんな事を忘れる程、俺達は自分達の世界にいたようだと恥ずかしく思いつつ反省した事を記す。

 

 

 

 ファラが作ってくれたお昼ご飯を食べながら、私は昨夜の事を思い出す。シキさん達の深夜の交わり。むせ返るような男女の淫臭。そして、幸せそうな表情を。

 

「はぁ~……」

「ヴァネッサ、どうかしたでありますか?」

「っ?!」

 

 大きくため息を吐いたところをエルザちゃんに見られたみたい。思わず驚いて背筋が伸びる。そんなところをミラアルクちゃんにも見られたみたいで目が合った。

 

「何やってんだ? そんなに驚く事はないぜ」

「そうであります。ファラさんの作ってくれた玉子丼、美味しいであります」

「ありがとう。残り物の野菜を使うにはこういう食べ方が一番楽なので」

「鍋をやるとどうしても野菜が中途半端に余っちゃうゾ」

「仕方ないでしょ。人数が人数なんだもの。夢子の弟や妹が出来たらもっとなんだから」

「現状最低で十三人。夢子を入れて十四人。派手な数だわ」

 

 今この家にいるのは私達三人とファラ達スコア四人だけ。これでも多いはずなのに、少し静かに感じてしまうのはどうしてかしらね?

 夢子ちゃんもいるにはいるけれど、今はすやすやとお昼寝中。リビングの隅に置いてあるソファをベッド代わりにしている。本当に可愛いのよね、夢子ちゃん。私も、赤ちゃんが欲しいって思うぐらいに。

 

「十四? シキの妻になるのは全部で十三人だろ? 何で一人子供が増えてるんだぜ?」

「フィーネもシキさんの子を産みたいとの事です」

「そ。ま、夢子と触れ合ってると生身の女はみ~んな母親になりたがるみたいだしぃ?」

「先史の巫女も例外ではなかった。地味だけど、彼女も女なのよ」

「そうだナ。フィーネもお母さんだゾ」

 

 ミカちゃんの言葉で私も納得。そう、あの先史の巫女でさえもこの家ではただの女なのだ。まさか夢子ちゃんからフィーネお母さんって呼ばれて笑顔を浮かべるなんて。

 

 さすがにここで暮らすようになってそれなりの時間が経った事もあり、了子さんがフィーネへ変化するのも慣れた。

 それと、サンジェルマン達がいるのも。あの鍋を初めて食べた日から、ゆっくりとだけど私達三人とサンジェルマン達三人との距離は縮まっている。まだ仲良く談笑する事は出来なくても、同じ話題で笑みを浮かべる事は出来るようになったぐらいに。

 

「それにしても、まだ信じられないであります。シキさんがキャロルとエルの本当のお父さんじゃないなんて……」

「ま、そうだよな。見てる感じは実の親子って感じだぜ」

「マスターとエルにとってはその認識で間違いないです」

「シキも二人を実の娘として思っている。派手なやり取りはないけれど、地味に親子として仲良く暮らしているわ」

「お母さんも夢子と同じぐらいか、下手をすればそれ以上にマスター達を可愛がってるものねぇ」

 

 ガリィの言葉に私も同感。そしてあの二人も了子さんを本当の母親のように慕っているように見える。でも、私には分かる。きっとあれは呼び方に秘密があるんだって。

 私もエルザちゃんとミラアルクちゃんのお姉ちゃんと自称するようになって、二人との距離感や接し方が変わっていったのを覚えているから。

 

「あ、そうだゾ。エルザ、食べ終わったら買い物に行くゾ。ミラアルクも一緒にナ!」

「私とミカで荷物を持つが、最近は地味に買う量も増えているの。だからね」

「あの、私は?」

 

 エルザちゃんとミラアルクちゃんは予定が決まったけど、私はこの後の予定がない。また掃除を手伝えばいいのかしら? あと、荷物持ちなら私の方がいいような?

 

「ヴァネッサは私達と一緒に掃除です。とはいえ、ガリィは一人で大広間の掃除をしますので、ヴァネッサは私と二人で朝の続きですね」

「朝の続き、ですか。分かりました」

 

 今の私を両親が見たら何て言うだろう。オートスコアラーに対して丁寧な言葉遣いをしてと、そう馬鹿にするだろうか? あるいは、そんな使用人の真似事なんて止めて組織へ戻ってこいと言うのかしら?

 あの事故で瀕死の重傷を負った私が藁をも縋る想いで行った延命行為。それを知って、娘の私を実験動物に等しい扱いへ変えた張本人だものね。きっと聞くに堪えない事を言うに決まってるわ。

 

 それに比べて、ここの人達は何てあったかくて優しいのだろう。オートスコアラーなんて言いたくない程ファラ達は感情豊かで人間味に溢れるし、了子さんやキャロルちゃんにエルちゃんは優しく気遣いもしてくれるし、夢子ちゃんは無邪気に可愛く私達を受け入れてくれた。

 

 何より、シキさんだ。あの人は、まったく見も知らない私達の事を聞いて、その身に宿す力を惜しげもなく使ってくれた。神の力なんて大それたものを、何の見返りも求めずに。

 

 ……そんな人だから、彼女達はあんな関係性を受け入れているのかもしれない。下心もなく、困っている者を自分に出来る範囲で助けるような、そんなシキさんだから。

 

「では、食べ終わったらそれぞれで行動開始です。洗い物はレイア達にお願いしても?」

「了解。地味に終わらせておく」

 

 私が考え事をしている間にも話は進んでいた。いけないいけない。早く食べちゃわないと。それにしても、日本食が美味しくて健康的なのは聞いていたけど、ここまでなんてね。

 みそしる、だったかしら。スープの一種だけど、具材を変えて飽きさせないのは感心するわ。つけものも嫌いじゃないし、ごはんがあればそれだけで十分だもの。

 

 ただ、良く食べるようになったせいか少し太ってきたのよね。良い事なのかもしれないけど、ちょっとお姉ちゃん複雑。仕事の運動量だけじゃ足りないのかしら? 何か、他に運動を始めるべき?

 

 そんな風に思いながらもスプーンを動かす手は止まらない。ああ、美味しい。お出汁の味が優しくて、汁が染みたご飯が甘くてたまらない。

 そうそう、ファラ達は器用に箸を使って食べているけど、まだ私達はそれが出来ないのよね。あのサンジェルマン達も同じで、食事の際はスプーンとフォークを用意してもらっていたし。

 

 頑張って箸、使えるようになろうかしら?

 

「「「ごちそうさまでした」」」

「お粗末様です」

 

 エルザちゃんとミラアルクちゃんと揃って手を合わせる。この日本式の習慣にもすっかり慣れたわ。キリスト教徒が食事前に十字を切るのと意味合いは似ているけど、犠牲になった生命への感謝を忘れない辺りは仏教の教えなんでしょうね。

 

 思い出してみれば、この国は世界有数の宗教混在地だったわ。

 

 後片付けを二人に任せ、私はファラと一緒に掃除へと戻る。それにしても、大広間の掃除、か。ガリィだけでやるのは間違いなく昨夜の出来事が関係してるのね。

 

「ファラ、少し聞いてもいい?」

「何でしょう?」

「えっと、シキさんって了子さん以外の女性と」

「関係を持っていますよ。今でこそ必要ないですが、以前までは私達もシキさんから思い出代わりに精液をもらっていました」

「っ?!」

 

 あっさりと返された言葉に思わず足を止める。そんな私を見てファラはどこか妖艶に微笑む。待って。まさか、私が覗いた事を知ってる?

 

「ヴァネッサ、きっと貴女は男を知らないのですね」

「そ、それが?」

「ふふっ、自分のいた証拠を残したままで立ち去るとは、貴女らしくない失態ですよ」

「ぁ……」

 

 思い出した。あの時は初めての強い快感に頭がぼうっとなってて、とりあえずシャワーを浴びる事と服をどうにかする事しか頭になかったんだ。

 あまりの事に愕然となる私へ、ファラは妖艶な笑みを浮かべたまま近付いてくる。そして身動き出来ない私の耳元へ顔を寄せてきた。

 

―――シキさんのチンポは、とてもいいものですよ?

―――っ!?

 

 思わずファラへ顔を向ける。そこにはとてもイイ笑顔をしたファラがいた。

 

「私はオートスコアラーですのでセックスは出来ませんが、それでもフェラは経験があります。シキさんのチンポは立派で硬く太い美味しいもの。ヴァネッサも、それを知ってしまったのでしょう?」

「わ、私は……」

 

 脳裏に甦る昨夜の光景。誰もが喘ぎ、悶え、よがっていた。一人の例外もなく、幸せそうにシキさんへ股を開いて媚びていた。

 

「貴女は私達と違って生身の体です。きっと、この世のものとは思えない快感を得られるでしょう」

「この世の……ものとは……」

 

 ごくりと喉が鳴る。ああ、どうしてかしら? 胸が高鳴っておへその辺りが疼く。そして思い出すの。あの匂いを、あの少しだけ見た雄々しくもグロテスクな男性器を。

 ぼんやりとした思考の私の背中からファラがそっと腕を回してくる。何故だろう? 冷たいはずなのに、温かいような気がするのは。

 

「ええ、それにシキさんもヴァネッサが覗いていた事はご存じです」

「シキさんが……知ってる……?」

「そうです。貴女の覗いた証、誰が気付いたと思います?」

 

 そう言われた瞬間、今朝の事を思い出した。シキさんの顔を見た瞬間、私は昨夜の事があって顔を背けてしまったけど、言われてみればあの時のシキさんは私を見て苦笑いを浮かべていた気がする。

 

「もしヴァネッサさえその気なら、今夜シキさんの部屋へ行くといいですよ。もう知っているでしょうが、シキさんは自分をさらったアン達さえも関係した以上は自分の妻と言い切る人なのです」

「…………考えておきます」

 

 そう返して私は歩き出すのが精一杯だった。もう頭の中は今夜の事で埋め尽くされていたのに。

 シキさんに抱かれる? 私も、あの時見た彼女達のように、力強く、激しく、愛される? そう思うと嫌悪感ではなく期待感が込み上げる。

 

「私、どうしたのかしら?」

 

 こんな女ではなかったはずだ。私も多少いやらしい事に興味はあったし、セックスも経験してみたいと思わなかった訳じゃない。でも、ここまで簡単な女ではないはずよ。

 

「……その、はずなんだけど」

 

 そっと胸へ手を当てる。脈打つ鼓動はとても早い。シキさんを好きか嫌いかで言えば好きと言える。でも、セックスをしたいかと聞かれたら…………しても、いいかもという感じであって、どうしてもしたい訳じゃない。

 なのに、どうして私は拒絶も拒否もしなかったのか。そこに答えは出ている。体はあの光景を見た時からシキさんとのセックスを求めていて、心だけが弱々しく抵抗しているだけなんだと。

 

「ふふっ、考えてみれば、してもいいかもってところでもう十分だったわね」

 

 今までそんな風に思う相手はいなかった。なら、きっとその気持ちは、今までで一番強く異性へ抱いた好意だ。

 

 いっそ、シキさんへ相談してみようかしら? 私、セックスに興味があるんですけどって。どんな顔するのか楽しみだわ。驚くでしょうね。意外と平然と受け止める? うふふ、本当に楽しみになってきちゃったかも。

 

「ヴァネッサ、どこへ行くんですか? 掃除するのはここからですよ?」

「あ、すみません。つい考え事してて」

 

 いけないわ。つい目的の場所を通り過ぎちゃったみたい。そういう意味ではエルザちゃんとミラアルクちゃんがいなくて良かったかも。こんなところを見られたら、お姉ちゃんとしての威厳なくなっちゃうものね。

 

 

 

「僕とティキを旅行に?」

「旅行!? ねっ! ねっ! どこ行くの!」

 

 局長室。別名、面倒事発生場(トラブルメーカー)。そこにサンジェルマン達の姿があった。いつものスーツ姿のアダムと、淡いピンクのスーツに身を包んだティキの定位置でもあるそこは、協会本部内でも可能な限り近付くなと陰で囁かれている場所なのだ。

 

「行先はいず、という観光地だそうだ」

「何でも温泉があるらしいわよ」

「海も近いので食事は美味しい魚介類が期待出来る場所なワケダ」

「食事が期待出来るの? じゃ、行くしかないわ! ね、アダム!」

 

 すっかり食道楽になったティキだが、それも無理はない。神の力によって人に近しくなってからと言う物、ティキの一番の楽しみは食べる事になってしまったのだ。

 更に、アダムはこれまでの償いとばかりにティキへ甘く接しているため、味覚が備わって一か月もしないのに既に世界三大珍味を食べていると言えばその甘やかし振りが分かるだろう。

 

 それでも、アダムも勤務中は多少厳しくすると決めているため、思考が仕事中から日常へと戻っているティキへやや呆れた眼差しを向けた。

 

「ティキ、判断するのは早いよ、日程も聞かない内に。それに、知らない事が多すぎるじゃないか、行先について」

「あっ、それもそうね。じゃあ……すちゃっ! サンジェルマン、シキからその辺りの事、詳しく聞いておいてくれる?」

 

 スーツの胸ポケットから伊達眼鏡を取り出して装着するティキ。彼女なりの出来る秘書らしいアイテムなのだ。ちなみにアドバイザーは了子である。

 見た目だけなら間違いなく敏腕秘書となったティキは、言い終わるや眼鏡を少しだけ持ち上げるような仕草をした。それも了子から教わった出来る女らしいアクションであった。

 

「分かったわ。それで局長、せめて参加の意思だけでも示していただけますか?」

「是非とも参加したいさ、予定さえ合えば。だから、聞きたいな、いつなのかを」

「ティキが動いてもいいけど、そうするとアダムの事を誰も見ていられなくなっちゃうし、ごめんね?」

「いいのよん。ティキはちゃ~んと局長を見張ってて」

「ああ。その方が我々も安心出来るワケダ」

 

 申し訳なさそうにするティキへカリオストロとプレラーティが優しい声をかける。信じられるだろうか? これがほんの二か月前ならば有り得なかった光景だと。この五人が会して笑顔を見せ合うなど、決してなかったのだと。

 

「やれやれ、ここまでないとはね、信頼が。かなり懸命にやってるんだよ、以前よりも」

「それは分かっているワケダが……」

「それまでが酷過ぎたのよねぇ」

「二人共、いくら事実とはいえ言い過ぎだ」

「サンジェルマンが一番酷いと思うよ?」

「まったくだ。が、甘んじて受け入れるさ、今の僕は」

 

 そこで大小の笑いが起きる。和やかな空気が室内を包む。だが、それも長くは続かなかった。

 

「そうそう、聞いてなかったね、あの腕輪関連の追加報告を」

 

 アダムがそう切り出した瞬間、サンジェルマン達から笑みが消える。ティキはそんな三人に反応して笑顔を消した。

 

「……あれが神の力と思わしきものを秘めていたのは以前報告したと思います」

「聞いたね、たしかに」

「で、あーし達が調べた腕輪のデータをあの家でも調べてもらっていたの。ここまでは、報告済みだけど……」

「その結果が出たので報告書としてまとめてきたワケダが、一応口頭で伝えておくべき点を報告しておくワケダ」

「聞こうか、しっかりと」

「あの腕輪からは、何らかの音のようなものが発信されていたそうです。アウフヴァッヘン波形に似ている事から、歌の可能性もあったと」

「歌?」

 

 思わぬ言葉にアダムが不思議そうな表情を見せる。ティキも同様だ。何故神の力を有した腕輪から歌が流れるのかと。

 

「……シキの協力であちらは神の力そのものを調べる事が出来たそうです。それで判明したのが、神の力はフォニックゲインに似た性質を持っている事」

「フォニックゲインに……」

「あっちの見解じゃ、錬金術もフォニックゲインも人が神の力の一端を発揮したものじゃないかって」

「私としてもその意見には異論はないワケダ。そう考えれば、腕輪が歌らしきものを発信していても不思議はないワケダな」

「ねぇ、その歌ってどんなの?」

 

 ティキの素朴な疑問は、サンジェルマン達に苦い顔を浮かべさせる事となる。何せ不明なのだ。了子達も歌らしきものが発信されていた可能性を指摘するだけに留まったために。

 詳しく調べようにも腕輪は響によって砕かれ、もうこの世にはない。やはり破壊は早計だったのではと、そう思う気持ちがサンジェルマン達にない訳ではないが、それを超えるぐらいに破壊するべきだと思ったのも事実なのだ。

 

 シキが神の力を宿して使った事で分かった、その強力さと恐ろしさ。それを実感しているからこそ、彼女達は腕輪を調べた時でも冷静でいられたのだ。

 膨大な神の力を有した腕輪。きっと神の力をよく知らずにいたのなら、そこから恐ろしい力を引き出そうとしただろうと。

 

「ティキ、どうやらないようだ、答えは。それにしても、するね、嫌な予感が」

「と言うと?」

 

 深刻そうな表情でテーブルに肘をつくアダム。その雰囲気にただならぬものを感じてサンジェルマンは思わず問いかけた。一体何が不安なのかと。

 

「……あの遺体、消滅したそうじゃないか、精密検査中に」

「え、ええ。そう報告では聞いていますが」

「僕はこう思うんだよ。なかったんじゃないかってね、遺体なんてものは、最初から」

「っ……まさか、本体は腕輪だったと?」

「そうは言わないさ、さすがに。ただ、担ったはずさ、重要な役割を」

 

 そう言ってアダムは目を閉じた。彼は案じていたのだ。あの腕輪の持ち主であるカストディアンが、本当に死んでいるのかと。

 遺体と思わしきミイラが跡形もなく消失した事。それがアダムにはどうにも引っかかっていたのだ。仮に腕輪の持ち主が復活を目論むのなら、その体を確実に残そうとするはずだと。

 

(……良かったと言う事だね、自身の体を失っても。何故なんだろうか、それは……)

 

 いくら創造主とは言え肉体を失っては再生も復活もない。と、そこまできてアダムはある事を思い出した。

 

「サンジェルマン、教えてくれないか、確認したいんだが」

「何を、ですか?」

「要シキは、どう言っていたかな、バラルの呪詛に関して」

「……あれは、神の力を持っていた存在と敵対した存在対策だと」

 

 訝しむようにしながらサンジェルマンがそう告げた瞬間、アダムは目を開いて息を吐く。分かったのだ。あの腕輪の持ち主がどうして遺体を消失させてもいいと出来たのか。

 

「そうか。なら、厄介だね、本当に。あのカストディアンは、採っていたのさ、フィーネと同じ手段を」

「フィーネと同じ?」

「いきなりどういうワケよ?」

「……まさかっ!?」

 

 疑問符を浮かべるサンジェルマンとカリオストロだが、プレラーティだけはアダムの言わんとしている事に気付いて驚愕する。

 

「そう。あのカストディアンは、今も生きているのさ、人類の中に。きっと、それを阻止する守護なんだよ、バラルの呪詛は」

 

 

 

「もう終わりですよ。お疲れ様でした」

 

 私がそう声をかけると、シキさんは目を開けて大きく伸びをした。その様子を他の医療スタッフが見て苦笑している。まぁ、無理もないでしょう。

 とてもではないですが、成分献血の後で800ccもの血液を抜かれたとは思えないですからね。神の力もあってか、今のシキさんは血液中の成分がすぐに戻ってしまうおかげでこちらとしては助かっていますが、これもあまり良い事とは思えません。

 

「あ~、やっぱり意外と早いもんですね。それに、血を多めに抜かれたとは思えないぐらい体が軽いですよ」

「だとしてもきちんと食事や水分補給をしてください。今の貴方の体は、もう貴方だけのものではないのですよ?」

「分かってます。じゃ、食堂で昼飯を食べて、少し休んでから帰ります」

「そうしてください。あ、そうです。了子さんに会う事があれば伝えてください。今日は一緒に帰らないので呼びに行きませんと」

「あー、分かりました」

 

 私の言葉で普段の私と了子さんの関係性を把握したのだろう。シキさんは苦笑しながら返事をし、そのまま医務室を出て行った。

 残される形となった私は、先程採取が終わったばかりのシキさんの血液データへ意識を向ける。

 神の力を宿した後は、元々あった生命に良い影響を与える成分が強くなっていて、それを使った医薬品の開発が一気に加速していた。これなら本当にシキさんの願いどおり、S.O.N.Gからの給料以外での収入が見込めますね。

 

 ただ、これは本来であれば私ではなく了子さんの仕事なんですが。

 

「ナスターシャ教授、片付けは終わりましたので私もこれで」

「ええ、ご苦労さまです」

「失礼します」

 

 医療スタッフの彼女も、よくやってくれています。それにしても、シキさんも不思議な人です。彼女も中々綺麗で魅力的な女性だと思うのですが、シキさんは一度としていやらしい視線も言動も見せていない。

 いえ、彼女どころか本部にいる女性全員に対して同じ態度を貫いている。本当に、了子さん達以外へは男としてのそういうものを見せていないようですね。

 

「失礼します」

「あら、了子さん。シキさんに何か用事でも?」

 

 データを眺めているとドアが開いて了子さんが姿を見せた。その視線が一瞬ベッドへと向いたので、おそらくシキさん目当てと察した。

 ですが、どうやら違ったようです。了子さんは私の言葉に笑みを浮かべて否定するように手を振ったのだ。

 

「違いますよ。マム、お昼まだじゃありません? もしそうならご一緒にどうです? キャロルとエルが先に行って席を確保してくれてますよ?」

「……そういえばそんな時間でしたね」

 

 言われて時計へ目をやる。たしかに普段であれば昼食をと、そう考える時間ですね。と、そこで先程シキさんが昼食を食べに行くと言っていたのを思い出し、私は自分の迂闊さに苦笑した。

 それにしても、了子さんがそれに気付くとは残念ながら思えないので、これはキャロルかエルが呼びに来たのでしょうね。

 すると私の表情や視線でそれに気付いたのだろう。了子さんは小さく苦笑して頷いた。

 

「実は私もエル達に言われて気付いたんです」

「やはりそうでしたか」

 

 そこで二人で苦笑する。いけませんね。一番年少のエルに、いい歳をした大人が揃いも揃ってその迂闊さを指摘されるとは。

 こうして私は了子さんと共に食堂へと向かう。おそらくですが、今頃二人はシキさんと出会って一緒に席を確保しているでしょう。

 

「それで、どうです? あの人の能力を活かした医薬品の方は」

「順調ですよ。化粧品の方も上手くいきそうです。需要は両方共高いものが見込めそうですね」

「まぁ、そうでしょうね。何せ原材料はある意味タダですもの」

「ふふっ、本当に。それを既存の薬や化粧品へ混ぜるだけで効果が跳ねあがるのですから」

「ボロいものですよねぇ。価格はどうするんです?」

「その辺りの交渉は私ではなく司令が手を回してくれるそうです。ただ、あまり高くはしないでくださいとシキさんは言っているようですが」

 

 何でも、本当に儲けたいのなら薄利多売が一番だそう。シキさんとしては、特に何かしている訳でもないので、楽して少しでも儲かるのならそれでいいと考えているみたいですね。

 欲があるようでないような、何ともシキさんらしい考え方だと思ったものです。どうやら了子さんも私の言葉で似た事を思ったようです。小さく苦笑して頷いていました。

 

「あの人らしいですわ。だけど、その方が収入源としては安定しそうです」

「そうですね。高収入も大事ですが、一番は安定性です」

 

 そんな話をしている間に食堂の入口が見えてくる。中からは当然ながら大勢の人の声と活気が伝わり、混雑している事を予感させる。

 中へ入れば、大勢の職員達が食事をとり、あるいは語らいと、それぞれの時間の過ごし方で活気を生み出していた。

 

「マム、あそこです」

 

 了子さんの声に顔を向ければ、彼女が指さす方にあるテーブルの一角でエルが大きく手を振っている。ふふっ、可愛いものですね。

 

「行きましょうか」

「ええ」

 

 私達は揃って同じ方向へと歩き出す。こちらへ向かって大きく手を振るエルとシキさん、そして恥ずかしそうに小さく手を振るキャロルのいるテーブル目指して……。

 

 

 

 昼下がりの街は、とてもじゃねーが穏やかとは程遠いぐらい人で賑わってやがる。そんな中を、あたしは後輩達を引き連れて歩いてた。

 

「いやぁ、美味しかったねぇ。さっきのお店のハンバーグ」

「デスデス。デミグラスが絶品だったデスよぉ」

 

 食いしん坊二人が満足そうにさっきの洋食屋の話をしてやがる。ま、たしかに美味かった。あたしはハンバーグじゃなくてミックスフライにしたけど、どれも美味くて特にメンチカツが最高だった。

 肉汁が中から溢れてきやがって、あたしの口の中を火傷させる気満々だったし。ああ、エビフライも凶悪だった。あのプリッとした歯ごたえと身の甘さはたまんねぇよなぁ。

 

「クリス、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ?」

「っ!? お、おう。分かってるって」

 

 やべぇやべぇ。あの食いしん坊二人め。あたしの頭ん中まで食べ物で領空侵犯してきやがった。

 にしても、何で未来があたしの横にいるんだ? いつも定位置は響の横だろ? て、気付けば調もあたしの横にいる。どういうこった?

 

「クリス先輩、次なんですけど、行きたいお店あるんです」

「行きたい店? どこだよ?」

「今から案内します。ついて来てください」

「なら頼む。てか、一体何の店だ?」

「まぁまぁ、ついてからのお楽しみって事でいいじゃない。ね?」

 

 あたしの両肩へ手を置いて未来がそう微笑みかけてくる。何だろうな、この感じ。何だか悪だくみをしてる時のシキみたいな感じがする。

 

「調、どこ行くデスか?」

「切ちゃんに教えると喋っちゃうからダメ」

「はうっ! 調が冷たいデス……」

「調ちゃん調ちゃん、私は?」

「響さんもポロっと言いそうなので」

「うっ! ……否定出来ない」

「お前ら、ちったぁ反論しろよ。情けないな、おい」

 

 揃ってしょぼくれる賑やかし担当。ったく、いくら調の奴が事実を言ってたって、それに少しぐらいは食い下がれよ。いきなり全肯定で撤退とかどんだけだ。せめて一発ぐらい反撃しやがれ。

 

 そんな風に思いながらあたしは調の案内の下、街中を進む。あの二人もすぐに立ち直り、また賑やかしくお喋りを始める。

 それに突っ込んだり、あるいは注意したりとしている内にいくつかの店やビルを通り過ぎ、調が足を止めたのはいくつもの女性向けの店が入居してるビルだった。

 

「ここです。ここの一番奥のお店です」

「ん。じゃあ、行くか」

「そうだね。ワクワクするなぁ」

「オシャレな感じがするデスよ」

「切ちゃん、あまり騒がないようにね」

「響もだよ。出来るだけ静かにね」

 

 しっかりと相方へ注意喚起する辺りはさすがに慣れてるよな。でも、思えばこのメンバーでこういうとこに来るのは初めてだ。大抵は食べ物関係で、あるとしても精々が小物やらアクセサリーやらだし。

 服の好みは正直バラバラで、大体があたし以外は二人一組で行動してる。まぁ、あたしは最近だと学院の、その、友達と行動する事も増えてるけどな。

 

 卒業が近くなって、進路がそれぞれ違うって事もあるから、せめて学院に通ってる間はって、そう言われたんだ。正直、あたしも同じ気持ちだった。

 

 たしかに響達がいたからあたしは一人じゃなかった。でも、あいつらは初めて出来た普通の友達だったんだ。クラスメイトって場所からあたしへ少しだけ踏み込んでくれて、あの三人は友達になってくれた。

 あの三人と今みたいになれたのは、シキ達のおかげでもある。特にみんなを名前で呼ぶようになってから、あの三人も名前で呼ぶ事が出来るようになったし。

 

「おおっ、大人っぽい感じのお店が多いデスね~」

「だね。あっ、あれなんかクリスちゃん似合そう」

「……背丈が足りねーっての」

 

 響の指さした服は、いつかのシキとのデートを思い出させるやつだった。だから懐かしく思ってつい似た答えを返しちまった。

 あれから身長が大きく伸びるなんて事はなく、あたしは未だに小さいまま。だけど、着てやってもいいかもしれない。あたしも今年で学生じゃなくなる。歳はまだだけど、扱い的には大人だ。

 

 奥を目指しながら歩いて行くと、正面に見えてきたのは……は?

 

「おい、ここって」

「ランジェリーショップですけど?」

「いや、そんな当たり前の事を聞かないでくださいみたいな顔すんな。何でこんなとこに」

 

 どう見てもひらひらとした布が置いてある店内を見て、あたしは頭を抱えたくなった。いや、これが今日じゃなけりゃあたしも何も思う事はない。

 でも、昨夜の事があると、なぁ。何せあたし以外はまだ可愛げのある下着だったし。これ、絶対エロい奴を買おうとか考えてるよな。

 

「お~っ、見て切歌ちゃん。これなんて大人っぽいよ」

「おお~、たしかにそうデスね。エッチデス」

「お前らは行動がはえーんだよ」

 

 あたしが少し目を離した隙に、お気楽コンビが店の中へ入って下着を物色し始めてやがった。しかも、手にしてるのは生地が透けてるように加工されてる奴だ。

 で、視線を動かせば残った二人も既に店内。あっちはあっちで下着を見てる。本音を言うと帰りたい。あたしは、あのガーターベルトでさえ、清水どころかチョモランマから飛び降りるつもりで買ったんだ。

 なのに、両翼とセレナにアンの奴は軽々とそれを越えていった。さすがにあんな破廉恥な奴はあたしには無理だ。

 

 ……ま、シキがどうしてもって言って渡してきたら着てやんなくもないけどな。

 

「にしても……」

 

 改めて店内を見てみる。よくもまぁ、下着でこれだけのデザインがあるもんだと思う。きっと男じゃこんな事はしないだろうし考える事しないだろうな。

 女は着飾るのが好きだって言うけど、あたしはそこまで好きじゃない。嫌いって訳じゃないが、一々服を見てあれがいいこれがいいとかはやらない。

 てか、若干面倒だと思う時だってある。男はいいよなって、そう思って街行く奴らを眺める事だってない訳じゃない。

 

「……ま、でも、これは女の立ち位置も関係してんのかもな」

 

 男の下着を見て興奮する女は……いないとまではいわねーが大多数ではねーだろ。逆に女の下着を見て興奮する男は、きっと大多数だ。

 それに、男と違って女は着る物でテンションが変わる。だから下着にもこだわるんだろうな。見せる事もあるし、何より自分がいいと思ったもんを身に着けたいんだ。

 

「ランジェリーショップってもん自体が男子禁制みたいなとこも、そんなもんか」

 

 まぁ、たまに彼氏らしき奴と一緒にいる奴を見るけど、よく出来るよな、あれ。あたしは絶対無理だ。シキは……やれそうだな。

 

「ん?」

 

 そんな事を考えながら店内を見ていると、セール品らしい物が並んでる場所を見つけた。それでも値段がそれなりな辺り、ここ、あのお気楽二人は買えないんじゃねーか?

 

「へぇ……割といいのあるじゃねーか」

 

 大人っぽい奴ばかりかと思ったら、意外と可愛いのもある。あっ、これなんかいいな。ただサイズは……ぐっ、あたしじゃ無理だ。

 おっ、こっちのなんかも良さそうじゃねーか。こっちは……おっ! あたしでもいけそうだな。しかもこれって……う、うし、ちょっと試着をしてみっか。

 

「すみませーん」

「はい、何か御用でしょうか?」

 

 手を上げて声を出すとすぐに一人の店員がやってきた。で、あたしの手元にある物を見てその笑顔が少しだけ深くなる。

 

「これ、試着したいんだけど大丈夫か?」

「はい、こちらへどうぞ」

 

 多分大丈夫だと思うけど、メーカーとかで違うからな。もしダメだったら諦めるか。そう思いながらあたしは店員の後をついて試着室へと向かう。響達は、そんなあたしに気付かずにまだ下着とにらめっこをしてた。

 

―――もしサイズ合ったら、今夜これ着て部屋に行ってやるか……。

 

 

 

 その日の夜、要家に弦十郎とアダムの姿があった。話しておきたい事があると、サンジェルマン経由でシキへ連絡があり、アダム直々ともあって弦十郎がやってきていたのだ。

 アダムは要家の人間にもあまり聞かれたくないと言ったため、シキは自分用の風呂場前にある脱衣所を会談場所に設定した。自室ではいかにも大事な話をしていると言わんばかりなためである。

 

「それで、話と言うのは?」

「単刀直入に言おう。まだ生きているんだ、あの腕輪のカストディアンは」

「「っ!?」」

 

 思わずシキと弦十郎が息を呑む。あの神の棺から発見されたカストディアンの遺体はアメリカ主導で調査が行われ、精密検査へかけたところでそれが一瞬にして灰のようになってしまうという結果に終わっていたのだ。

 

「どういう事だ?」

「その前に、聞きたいんだ、要シキに」

「俺に?」

「そう。バラルの呪詛の真実の一端を」

「ああ、あれが神様と戦った相手対策ってやつ?」

 

 そうシキが告げた瞬間、弦十郎はすぐにアダムの言いたい事に気付いた。何故なら、彼が一度痛手を負った相手の事を思い出したために。

 

「まさか、あのカストディアンはフィーネと同じ手段で、女性ではなく人類全体に因子を潜ませているのか?」

「……驚いたよ、素直に。辿り着くなんてね、これだけで」

 

 目を細めて弦十郎を見るアダムだが、シキは一人納得するように頷いていた。これはたしかに聞かせられないと思ったためである。

 

(了子とフィーネだけじゃない。これはキャロルやエルさえも例外じゃない事だ。きっと、これが関係ないのは俺とアダム、そしてスコアのみんなぐらいだろう)

 

 装者達でさえ例外ではない。人類である限り、謎のカストディアンを復活させる可能性を秘めているのだ。そう思ってシキは何故アダムが三人だけでと言ったのか理解していた。

 

「統一言語。きっと鍵だね、これが」

「要、お前は一体どこまでその力にまつわる謎に迫っている? 分かっている事を全て教えてくれ」

「えっと、正直俺も分からない事ばかりなんですが……」

 

 シキは語る。神の力を得た後で、一人意識を集中して知った事を。

 フィーネの想い人は腕輪をした存在と戦い、何とか勝利した事。だが、その相手が復活する事を阻止するためバラルの呪詛を施した事。

 大きく言えばその二つである。だが、それだけ聞けばおぼろげに見えてくるものが弦十郎とアダムにはあった。

 

「バラルの呪詛が阻んでいるのは人の相互理解。いや、統一言語と呼ばれるものだ」

「そうだね。阻止出来るんだ、統一言語の使用不可で、腕輪のカストディアンの復活を」

「であれば、統一言語とは言葉であって言葉にあらず、か。こうやって言われてみれば、おかしなところはあった。何故唯一の言語を失っただけで相互理解が封じられたと表現されるのか。これが、コミュニケーションを超えた繋がりだとすれば、理解は出来る」

「……言葉によるやり取りを超えた繋がり。そういう事だね、つまり」

「えっと……?」

 

 弦十郎とアダムだけ理解したまま話が進んでいる。そう感じ取ったシキは若干戸惑いながら何とか話についていこうとしていた。

 ただ、悲しいかな。さしもの神の力も、彼の身体能力は大きく向上させてもその思考能力までは向上させる事が叶わなかったようだ。

 

「おそらくだが、統一言語というのはあくまでも例えなのだろう。本質は、人類全てが繋がりを持つ状態を意味しているはずだ」

「人類全てが繋がりを?」

「今だと、分かり易い例があるね、ネットワークという。人類一人一人を、見立ててごらん、コンピュータに」

「…………じゃ、さしずめ腕輪のカストディアンはウイルス?」

「そうなるだろうな。あくまで推論だが、呪詛を無くしただけでは復活出来ないはずだ」

「そっか。もしそうなら俺がとっくに……」

「まぁ、僕に似た存在かもしれないからね、君については。とにかく、復活条件を判明させなければ、早急に」

 

 そこでアダムと弦十郎は頷き合う。事が事だけに、公にする事は出来ないと二人は分かっているのだ。

 手がかりは少ない。だが、今の話で見えてきた事もあってか、二人に不安はない。何せバラルの呪詛が存在する限り、カストディアンの復活はないのだから。

 

「要、お前は今後も可能な限り神の力関係の情報を探ってくれ」

「はい」

「何か分かれば、情報をくれないかな、こちらにも」

「分かった」

 

 そして何より、本来であれば知り得ない情報を得られるかもしれない可能性があるのが大きいと言えた。

 神の力を宿したシキは、人類を影で守る存在となりつつあったのだ。

 神の力を得た事で、物理的だけでなく情報面でもシキは防人足り得る人物になっていたのである。ただし、彼は国ではなく星を、人を護る防人であったが。

 

 そこで話し合いは終わり、弦十郎とアダムは要家を後にする。二人を見送ったシキは、一人その場で息を吐いた。

 

(南極で終わったと、そう思ったんだけどなぁ……)

 

 シンフォギアやファウストローブを使って行う戦い。その最後が南極での激戦だと、そうシキは思っていたのだが、それがもしかすると変わってしまうかもしれない。

 そう思ってシキは辛そうな顔をする。何故なら、彼はもう共に戦えないからだ。世界中に神の力は失われた事にするために、シキは以前同様の無力な存在を装わねばならないのだから。

 

 その事を思い拳を握り締めるシキ。あのアダムとの戦いでなまじか戦ってしまった事。それが彼の中で焦燥感にも似た感覚を与える事に繋がっていた。

 それでも、今の彼はそれに囚われ続ける事無くいられる。目指すべき二人の男の背中がその脳裏には浮かんでいるからだ。

 

「……まだみんなが戦うとは限らない。なら、俺に出来る事は沢山あるはずだ」

 

 握った拳を開き、シキは自分へ言い聞かせるようにそう呟いて、その場から踵を返してリビングへと向かう。

 

 その頃、リビングでは夕食の支度が終わりを迎えようとしていた。

 

「はい、これをお願いします」

「了解であります!」

「皿持ってきたぜ。盛り付けちまっていいか?」

「お願い。地味に助かるわ」

「スプーンやその他諸々配置完了だゾ」

「他に何かお手伝いする事あります?」

「特にないわよ。後は座って待ってなさい」

 

 家事担当全員での配膳作業。それを眺めるのは了子と夢子、そしてエルにキャロルともう一人。

 

「何か、改めて見ても増えたよな」

 

 クリスは、そう言ってから隣に座っているエルの頬を軽くつついた。

 

「そ、そうでふね」

「まぁ、賑やかなのはいいこった。な、エル」

「ふぁい」

「ちょっとクリス、エルの頬っぺたつつくの止めて。夢子がそれ見てして欲しそうな顔してる」

「あら、じゃあキャロルがやってあげたら?」

「母さん……」

「きゃろるねーさんっ!」

 

 了子の言葉に呆れ顔を返すキャロルだったが、そんな彼女へ夢子が笑って手を伸ばす。まるで”やってやって”と言わんばかりのそれに、キャロルは一瞬戸惑うも、仕方ないとばかりに人差し指で夢子の頬を優しく突いた。

 

「えへ~」

「……何が楽しいのか分からない」

「クスッ、この場合はキャロルに、お姉ちゃんに相手してもらえてるのが嬉しいのよ。ね、夢子」

「あいっ」

「もうっ、夢子にそう言われたら何も言えなくなるよ」

 

 そう言いつつも笑みを浮かべてしまう辺り、キャロルもすっかり”姉バカ”だろう。プニプニと夢子の頬を軽く突いて微笑む姿は、本当に幸せそうに了子には見えた。

 エルとクリスもそんなキャロルに笑みを浮かべ、そんな彼女達をヴァネッサ達が見つめて微笑んでいた。その笑顔の連鎖する中へシキが姿を見せる。

 

 姿を見せた彼は、リビング全体に流れる微笑ましい空気に気付き、すぐに愛する娘達へ視線を向けた。

 

「あれ? 随分ご機嫌だな、夢子」

「とーさんっ!」

「アナタ、二人は帰ったの?」

「うん。で、どうしてエルはクリスにほっぺをつつかれるんだ? キャロルが夢子に似た事してるのは関係ある?」

 

 シキの問いかけに答えたのは了子だった。まずクリスがエルへ始めた小さなちょっかいを切っ掛けに、夢子がキャロルへ構って欲しいとばかりに視線を送った事などを話したのだ。

 その話をシキが聞き終える頃には、テーブルの上にエルザとミラアルクが作ったポテトサラダとファラ製作のポークカレーが並んでいた。カレーの匂いに誰もが意識を食事へと向けると、ヴァネッサ達も席に座って現状での要家全員が揃った。

 

「じゃ、手を合わせて……」

「「「「「「「「「「「「いただきます(であります)」」」」」」」」」」」」

 

 すっかり要家の一員になってしまっているクリスではあるが、これでも週に二度は借りている部屋を掃除するために帰っている。逆にいえば、週に二度しか帰らないのだが。

 何しろ両親のために購入した仏壇は既にシャトーへと運び込まれており、彼女が部屋へ戻る理由のほとんどを失ってしまっているために。

 

(やっぱ、もうあたしはダメだな。このあったけぇ場所と時間を知ったら、あの一人だけの部屋には戻れない……)

 

 大勢で食べる食事の楽しさと賑やかさ。誰かと同じ事で話せる幸せと喜び。それらは寂しがり屋なクリスには、あったかい毒であり枷も同様だった。

 更に、今や夢子がいるのも大きい。純真無垢な幼子との触れ合いは、元々母性が強いクリスへ母親になりたいという欲求を強めるに十分過ぎる程効果を発揮していたのだから。

 

「クリスさん、どうかしましたか? 手が止まってますよ?」

「え……? あ、ああ、悪い。ちょっと考え事しててな」

「それなら良かったです。もしや今日のカレーが気に入らなかったのかと」

「んな事あるかよ。てか、ファラ達もすげぇよな。すっかり料理上手くなりやがって」

 

 クリスの言葉通り、ファラ達の家事スキルはこの半年以上の時間ですっかり上達していた。特に料理は彼女達自身の稼働にも関わるためか、一番の成長率を見せていたのである。

 

「クリスからも地味に教わった事がある。おかげで派手な味を出せるようになった」

「特に私達は舌が優秀なので、一度食べた味を忘れないのが大きいですね」

「だから食べ比べも楽勝なのよ」

「でも、おかげで少しでも美味しくないと分かっちゃうのが困りものだゾ~」

 

 ミカの締めにみんなが苦笑した。いつも笑顔が絶えない食卓。その中心はやはりシキである。だが、彼だけでは笑顔は続かない。

 家族と呼べる者達がいて、初めてこのあったかい場所は完成するのだ。今はまだ男女比率が極端だけども、いつかそれが是正される日が来るかもしれない。そうなった時、きっとここはもっとあったかい場所となっている事だろう。

 

「にしても、これウマいぜ。辛さが丁度いいんだぜ」

「ううっ、私めには少し辛いであります」

「エルザ、チーズを入れて混ぜると若干マシになるから」

「もしくはソースをかけてください」

「チーズとソース……やってみるであります」

 

 言われてエルザはキャロルとエルのカレーを見た。二人のカレーにはそれぞれ勧められた物が掛かっていたのだ。

 そうしてエルザがやったのは両方使用するというもの。そのおかげもあってか、辛さも棘を丸くしエルザが笑顔で食べられるようになった。

 

「ん~っ、いい匂いねぇ」

 

 そこへ聞こえてくる声がある。誰もがそれだけで誰か判断出来る、特徴的な声だ。食事をしている者達全員が声のする方へ目をやれば、そこにはカリオストロ達の姿があった。

 

「食欲をそそるワケダ」

「本当ね」

「おかえり、アンジェ、リオ、レティ」

「「「「「「「おかえりなさい(だゾ)」」」」」」」

「「「おかえりなさい(であります)」」」

「おかえりっ!」

「「「ただいま」」」

 

 即座に出迎えるのはシキと了子達。それに少し遅れてヴァネッサ達が声をかけて、最後に夢子が大きな声で出迎えればサンジェルマン達にも笑顔が浮かぶ。

 長きに渡り家庭の温かさとは縁遠い生活をしていた彼女達も、ここで暮らし始めてすぐにクリスと似た心境となりつつあった。

 疲れて帰ってきても、要家にはファラ達スコアがいるので必ず出迎えがあるし、今回のような時間なら夢子までも出迎えてくれる。それだけで疲れが飛んでいくのだと、今の彼女達は知っている。

 

「すぐに用意しますね」

「いや、これぐらいは自分達でやれる」

「そうそう。ファラ達は座って食べてなさいな」

「皿にご飯を盛ってカレーをかければいいだけなワケダからな。我々でもそれぐらいは出来るワケダ」

 

 言いながら三人がまず向かうのは了子の胸の中で笑う夢子の傍である。嬉しそうに笑って手を伸ばすその幼い命へ、三人は軽く微笑みかけてその頬を優しく撫でてキッチンへと向かう。

 

「……ホント、不思議なもんだ」

 

 その様子を眺めてシキは噛み締めるようにそう呟いた。キッチンで手を洗いながら談笑しているだろうサンジェルマン達を視界に入れながら、別の場所でカレーに入れるとしたら何が一番かで盛り上がりつつあるファラ達に笑みを浮かべ、シキは視線をヴァネッサ達へと向ける。

 彼女達はファラ達の話を聞きながら、時に疑問を投げかけたりあるいは賛同したりとしながら会話へ参加していた。その様子は、ここへ来た当初には考えられない程明るい。

 

(分かり合う事は出来ないでも、分かり合おうとする気持ちがあればこうやって笑い合う事は出来る、か。アンジェ達とヴァネッサさん達のように……)

 

 そこでシキに笑みが浮かぶ。その視線の先では、カレーライスを皿へ盛り付けた三人がヴァネッサ達の傍へと座り、何の話をしているのかと尋ねて会話へ参加しようとしていたのだ。

 厚い壁や深い溝があったはずの関係は、今やそれらをなくそうとしている。

 その事にシキは笑みを深くした。人と人の繋がり方や関係。それは決して変えられない訳ではないのだと、そう思う事で。

 

―――これを守るためにも、絶対にあのカストディアンの事を何とかしないとな……。

 

 

 

 汗も流し娘達や了子へおやすみも告げて後は寝るだけ。そう思って俺は自室のベッドへと寝転がる。が、そんな時に控えめなノックの音が聞こえた。

 

「はい?」

「あの、シキさん? ちょっといいでしょうか?」

 

 聞こえてきたのは何とヴァネッサさんの声。一体何の用だろう? そう思ってベッドから起き上がってドアを開けに行く。

 

「どうしたの?」

「その、相談したい事があるんです」

「相談? あ、とりあえず中へどうぞ」

「失礼します」

 

 ドア付近での立ち話も何だからと思って部屋の中へ招き入れる。何気にここへ関係を持ってない女性入れるの初めてだな。あ、勿論娘達は例外だけど。ガリィ達は、気分的には奥さん達みたいなとこだし。

 

「とりあえずベッドに座ってくれるかな。椅子は一つしかないからさ」

「はい」

 

 ヴァネッサさんをベッドへ座らせて、俺は以前の部屋から運び込んだキャスター付きの椅子をその前へ持って来て座る。

 

「それで、一体相談って?」

「えっと、その、ですね?」

「うん」

「何と切り出せばいいのかちょっと分からなくて……」

 

 何というかヴァネッサさんの様子がおかしい。これは、あれか? 俺達の行為を覗いてた事が俺にバレてる事を聞いたのか?

 

「ヴァネッサさん、もし昨夜の事なら気にしないで。その、こっちが迂闊だったのが悪いんだしさ」

 

 誰も覗く事などないと思い込んで鍵をかけ忘れた俺が一番ダメなのだ。ヴァネッサさんはむしろ被害者と言える。

 

「……そう言ってくれるんですね。なら、その気持ちに甘えて一つだけいいでしょうか?」

「何かな?」

 

 妙だな。ヴァネッサさんから決意めいたものを感じる。まぁ、自慰をしてた事を好きでもない男に知られたんだ。その心中が複雑だろう事は確実だと思う。

 

「私、あれから体が変なんです。ずっとお腹の下辺りが、子宮辺りが疼いているみたいで」

「えっ?」

「それと、忘れられないんです。チラリと見たシキさんの男性器が」

「ええっ!?」

 

 驚く俺へヴァネッサさんはどこか妖艶に笑ってベッドから立ち上がった。そしてそのままこちらへ近寄ってきた。えっと、これはそういう事、なんだろうな。

 

「ヴァネッサさん? 分かってるの? 今自分が何を言って、何をしようとしてるのか」

「はい。さすがに私も子供じゃないんですよ? それに、経験もないですし」

「それなら余計落ち着かないと。こんな事で大事なものを無くす事は」

「いいじゃないですか。大事なヴァージンだからこそ、シキさんがいいと思ったんですよ? それとも私が勢いでそういう事、するように見えます?」

 

 そう言われてしまうとこちらとしても反論出来ない。どう答えても失礼になるし、俺もヴァネッサさんがそういう女性には見えないからだ。

 

 俺が戸惑っていると、ヴァネッサさんが抱き着いてきた。ふわりと良い匂いがする。これはシャンプーの匂いなんだろうか? それとも、ヴァネッサさんの匂いなんだろうか?

 どちらにせよ、良い匂いである事には変わりない。でも、以前までならともかく、今はそれに興奮してエロへ行く事はない。というか出来ない。

 

「ヴァネッサさん、気持ちは嬉しい。君のような美人に迫られて、しかも初めての相手にと望まれるなんてね。でも」

「了子さん達を妻と扱えるのなら、私はどうしてダメなんですか? 人じゃない体だったからですか?」

「いや、そういう事じゃないんだ。その、俺は知っての通り普通の男じゃない。みんなも、普通じゃない事情を色々抱えてる。でも、ヴァネッサさんはもう普通の人じゃないか。君だけを見つめて、愛してくれる人と出会えるチャンスがいくらでも」

「ないですよ。いえ、あっても無理です。だって、私の過去、話せません」

 

 ガツンと、頭をハンマーで殴られた感じがした。そう告げたヴァネッサさんは柔らかく微笑みながらも、どこか悲しそうだったのだ。

 そう、彼女はパヴァリアの構成員だった。しかも、どうもエルザちゃんやミラアルクちゃんと違い、自らの意思で組織へと参入しそれなりの地位まで上り詰めていたらしい。

 

 だけど、研究中の事故で瀕死の重傷を負い、そのために体をサイボーグにせざるを得なかったと聞いてる。その結果、パヴァリアの闇というか影を知る事になったそうだけど、たしかにそんな事を話すのは勇気がいる。

 

「それに、シキさんは私の体を本来の姿へ戻してくれました。しかもそれだけじゃなく、こんな温かい場所と温もりを与えてくれた。エルザちゃんもミラアルクちゃんも感謝してるんです。勿論私も。今まで組織の中で実験動物扱いされて世界から取り残されたような私達に、住む場所と着る物や食事に仕事をくれましたし」

「それは……」

「私達に恩を売ろうとしてない事は分かってます。だからこそ余計に嬉しいんです。シキさんは、エルザちゃんを元に戻した時にこう言ってくれました。これはこれまで頑張ったご褒美だって。自分がした事なのに、その結果はエルザちゃんやミラアルクちゃんが我慢して生きてきた結果だって、そう言い切った時、私は貴方が神様に見えました」

 

 神様。その言葉に俺は複雑な心境になった。神の力を宿している俺は、捉えようによってはそう言えなくもないからだ。

 だけど、俺は神になんてなるつもりもなければなったつもりもない。あの力は、使いたくても安易には使えないんだ。ヴァネッサさん達はこの家の中だったから使えただけで、場所が違えば俺は何があっても使う事はなかっただろう。

 

 ……もし使う事があるとすれば、それは大事な家族達を守るため、ぐらいだろうな。

 

「ヴァネッサさん、それは違う。俺は、神様なんかじゃないよ」

 

 自分でも思った以上に低い声が出た。聞いたヴァネッサさんが一瞬で気まずい顔になるぐらいに。

 

「俺の事をそんな風に思ってくれた事は有難いよ。嬉しくも思う。でも、俺は人間なんだ。いや、人間でいたいんだよ。例え神に等しい力を持ったとしても、俺は、人で、人間でいたいと思ってるんだ」

「シキさん……。そう、ですよね。ごめんなさい。少し前の自分がそうだったのに、シキさんの気持ちを考えない発言をしてしまって」

「あ、いや、いいんだ。現人神(あらひとがみ)って言葉もあるんだよ。この世に生まれた神って意味なんだけどね」

「あらひとがみ……」

 

 ヴァネッサさんが初めて見るぐらい落ち込みそうだったので、咄嗟にフォローを入れる。ただ、この言葉は色々と使い辛いものだったりする。

 とりあえず、表向き一般人の俺なんかが自称していいものじゃない。実質そうだとしても、本来この言葉を使われるべき人はこの国に居る訳だし。

 

 とりあえず今はヴァネッサさんをどうにかしよう。正直褐色美人であるヴァネッサさんを抱けるのは嬉しいが、多分彼女は俺のスープの匂いにやられているだけでこちらへ強い愛情はないはずだから。

 

「ヴァネッサさん、とにかく今夜のところは」

 

 一旦部屋へ帰った方がいい。そう言おうとした時、部屋のドアをノックする音が響いた。

 

「お、おいシキ。まだ起きてるか?」

「……クリス?」

 

 何故クリスが? そう思うも、時間と声から俺はある事を察した。これは、夜のお誘いじゃないかと。

 昨夜クリス自身が俺へ言っていたのだが、俺と関係を持つ中で一番子を産み易いのは自分なのだそう。考えてみれば、アンジェ達は協会幹部としての責務があるし、セレナは男の影もない中で突然妊娠となる訳だ。

 だが、クリスだけはそれらのしがらみが一切ない。学院は卒業する上、仕事はS.O.N.G職員だ。それも装者である以上、今後呼び出しを受ける事はほとんどないと言っても良い。

 

―――シキぃ♡ あたしならいくらでも産んでやれるからな♡

 

 昨夜、交わっている最中にそう囁かれた時、俺は嬉しさと興奮でクリスの子宮へと精を放ったのだから。

 

「起きてるんだな? えっと、部屋の中に入れてくれよ。その、話があるんだ」

 

 うん、間違いない。クリスの声に甘えのような媚びが混じってる。これは確実そっち方面だ。となるとヴァネッサさんをどうするかだが……あっ。

 

「ヴァネッサさん、本当に俺に抱かれてもいいと思ってる?」

「え……? は、はい」

「じゃ、ベッドの下に隠れて俺とクリスの行為を聞いてみて。それでも俺なんかがいいと思うなら俺は君を一生大切にすると誓う」

 

 こんな事を言い出す時点でまずどうかと思うだろうし、仮に受け入れて下に隠れても、俺がクリス相手にドエロな事をすれば処女の女性ならドン引きするだろ。

 そんな久々のエロクズモードでの提案にヴァネッサさんは驚きを見せた。ただ、彼女はそれをすぐに消すと意を決した顔をしてベッドの下へと移動した。

 

 嘘だろ、と、そう思った。でも、こうなったらもう引き返せない。俺はクリスを部屋の中へと入れた。

 

「よ、よう」

「どうしたの、こんな時間にさ」

 

 分かっているけど、一応確認しておかないといけない。クリスは無理矢理が嫌いな子だ。優しく強く愛してあげないといけない。

 

「わ、分かってんだろ? 女に言わすな」

「そっか。要は、子作りしたいんだね?」

「っ……そうだよっ! 昨日のエッチじゃ足りないんだってのぉ! あたしだけ、あたしだけいっぱいチンポでズンズンして欲しいっ! 夢子みたいな可愛い赤ちゃん作ってママにしてっ!」

 

 うおっ! な、何か知らないけどクリスのギアがいきなりトップだ。これ、多分だけど溜め込んでた色々が一気に噴き出してるんだろうな。

 クリスはみんなの中で一番寂しがり屋だし加えて母性も強い。昨夜の俺とのエッチで完全に気持ちがそういう方へなってるんだ。

 

「クリス、気持ちは嬉しいよ。でも、いいのか? 昨日で分かったと思うけど、今の俺、エッチとなったら歯止め利かないぞ?」

「うん、それでいい。ううん、それがいいっ! あたしの全部、シキで満たしてくれっ!」

 

 切なそうな顔でそう言い切られたら、こっちもそれに相応しい対応をするだけだ。

 

「分かった。クリス、おいで」

「シキぃ」

 

 両腕を広げてクリスを迎え入れる体勢を取ると、小柄で優しい女の子はそれに嬉しそうに微笑んで抱き着いてくれた。

 そのまま少しだけ抱き締め合う。するとクリスが顔を胸から少しだけ話して上を向いた。

 

「シキ、昨日の下着、どう思った?」

「え? えっと、とてもエロくて興奮したし嬉しかったけど?」

 

 何故いきなりそんな事を? そう思っていると、クリスは少しだけ恥ずかしそうに表情を変えて俯いた。何かあったのだろうか?

 

「え、えっとな? 実は、今日響達とランジェリーショップに行ったんだ」

「そうなんだ」

「で、でな? 昨日のとは違うやつ、買ったんだけど」

「ホント? もしかして今着けてくれてるのか? もしそうなら見せて欲しい」

 

 クリスから出たのは、中々嬉しく興奮する内容だった。どうやら新しい下着を、しかも俺に見せるために買ってくれたらしい。

 多分だけどクリスの性格上、こう言い出したからには今身に着けているはず。そう思って俺はウキウキとした気持ちでお願いする事に。

 

「し、仕方ねーな。ちょっと待ってろ」

 

 言葉の割に若干嬉しそうな辺りが本当に可愛い。程なくして着ていたパジャマを脱ぎ、目の前に下着姿のクリスが現れる。

 

「ど、どうだ?」

 

 それは、昨日の下着に比べればエロさはないだろう物だった。何せ昨夜はガーターベルトだったのだ。それは、当然だと思う。だけど、違う意味でエロく見える。

 色は、クリスらしからぬ淡いピンク。デザインも特にエロスを感じさせるものなどない。ただ、俺には分かったのだ。

 

「クリス、ブラだけは俺が脱がせていいか?」

「……ああ、好きにしてくれ」

 

 俺の言葉でクリスは少しだけ苦笑しながらも、どこか嬉しそうな声を返してくれた。どうやら予想は間違っていないらしい。

 俺はクリスのブラへ手を伸ばし、その豊満な部分を閉じ込めている部分に指をかける。そして、ホックを外した瞬間……

 

「おおっ……」

 

 ぷるんっと、クリスっぱいが大きく揺れたのだ。フロントホックブラ。巨乳ならではの選択と言える。マリアやアンジェにも今度させよう。

 

「ど、どうだ? シキはこういうの好きじゃねーかなって」

「大好きだっ!」

「お、おう……ったく、二人きりだと前のスケベ野郎になっちまうのか。ちょっと残念だぜ」

 

 即答した俺にクリスが小さく不満を述べてるけど、それ聞こえてるからなクリス。そう思って俺はクリスを後ろから抱き締めると同時におっぱいを揉む。

 

「うひゃあっ!? な、何しやがるっ!」

「クリス、嬉しいよ。今夜は、いっぱいラブラブ子作りエッチしような?」

「…………うん」

 

 小さく頷いたクリスは、久々に見るデレクリスでした。と、そこで俺はチラリとベッドへと視線を向ける。

 

―――ヴァネッサさん、今どんな心境なんだろうか?

 

 そんな事を思いつつも、俺はこの後のクリスとの子作りっクスの事ばかり考えていたのだった……。




クリスとの愛を確かめ合うセックス。その熱気と愛が隠れているヴァネッサを飲み込んでいく。
ベッドの上から聞こえる声と音が、彼女の中でうねりとなって荒れ狂う。
そして、その時は来るのだ。褐色が白濁に染まる時が……
淫姫絶頂したいフォギア「散る花の名は、アマルガム」

「何かヴァネッサの奴、急にシキへベタベタしだしたな?」

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